とある日の夜、グランツ研究所。
そこは、今世界に新風を巻き起こし社会問題にすら発展しかけている体感シミュレーションゲーム『ブレイブデュエル』の総本山である。
その場にはグランツ研究所に住まうフローリアン一家と、そこに居候している4人の少女の姿があった。
まず初めに家長であり『ブレイブデュエル』の生みの親であるグランツ・フローリアン……は、残念ながらこの場には居ない。別室で今もなんらかの研究・開発を行っている。
次に、その娘たちであるアミティエ・フローリアン。年齢は23歳。彼女は大学を卒業した後父親の手伝いをするためにそのままグランツ研究所へ入社した。
そしてその妹のキリエ・フローリアン。年齢は22歳。今年で大学生活も終わり、将来をどうしたもんかと焦るのが普通であるが、家族思いの彼女は父と姉を手伝うために、卒業したらそのままグランツ研究所で働くつもりである。
フローリアン一家からはこの二人が夜の食堂で座っている。
その他にも4人の人影がその場にはある。
一人目はディアーチェ・K・クローディア。年齢は16歳。高校生である年齢の彼女だが、実は飛び級をしており本来なら高校に通う必要が無いと自分では言っていたのだが、ホームステイ先のグランツ博士の言葉により高校生として青春を送っている。
二人目はシュテル・スタークス。年齢は16歳。彼女もディアーチェと共に飛び級をして、全く同じ理由で高校生として青春を送っている。そして、この会議の開催者でもある。
三人目はレヴィ・ラッセル。同じく16歳。彼女も飛び級(以下同文。
そして最後にユーリ・エーベルヴァイン。16歳。ディアーチェ達と一緒にこの日本に来た。そもそもこの日本に来た理由がグランツ博士の下で学ぶ、と言う事なのでグランツ研究所でグランツ博士の助手として日夜勉学に勤しんでいる。
そんな6人の少女たち(2人ほど少女と言えない年齢が居るが)は家の食卓に集まっている。その理由は夕食を食べた後にシュテルが「話がある」と呼びとめたからである。
「それで~? ボク達になんの話があるの?シュテルん」
そう言うのはレヴィ。彼女はシュテルやディアーチェとは古い付き合いであり、幼馴染ともいえる。その気軽さと天真爛漫ともいえる性格が、この場での最初の一言を紡いだ。
それに答えるのは当然シュテル。
「えぇ、そうですね」
彼女は眼鏡の奥のその瞳を閉じ、少し考える姿勢を取ると、暫くしてから覚悟を決めたのか目を開く。
「実は」
溜められる言葉に固唾を飲む面々。
空気が張り詰め、5人が皆シュテルの次の言葉を待っている。
「私、好きな人ができました」
そうして放たれた言葉。それに反応できる者はいなかった。
「明日、プロポーズしてこようと思っています」
しかし、間髪入れずに放たれた言葉を無視できる者も居なかった。
「なにぃ!? ちょ、ちょっと待て!」
「え? す、すきなひと?」
「わ~。おめでとうございます~」
「あらあら」
「恋、ですか。……青春ですね!!」
各々好き勝手に反応を示す。説明すると、上からディアーチェ、レヴィ、ユーリ、キリエ、アミタ(アミティエ)となっている。
「待て待て待て待て!」
その中でもディアーチェは特に狼狽えており、机を大きく叩き立ち上がっている。
「どうしました、ディアーチェ」
「待て待て! さっきなんと言った!?」
「『どうしました、ディアーチェ』?」
「違う! もっと前だ!」
ディアーチェの言葉に意味が分からないと言いたげに首を傾げるシュテル。しかしそんなシュテルを気にせず、ディアーチェは声を荒げる。
他の面々はディアーチェがあまりに狼狽えているので、口を挟むのも悪いと思い黙っていた。ぶっちゃけディアーチェの狼狽っぷりに若干引いていた。
「『プロポーズしてこようと思っています』?」
「そうだ! それだ! それは何時だ!?」
「明日ですが、なにか?」
本気で何を言ってるのかわからん。と言いたげに首を傾げるシュテル。そのシュテルのありさまにディアーチェは頭痛すら覚えたのか、頭を押さえながら言う。
「いやいやいや、待て待て待て待て。性急すぎやしないか!? プロポーズってアレか? 告白の言い間違いか?」
「いえ、正式に結婚の申し込みをするつもりですが」
すこし男らしい面を見せる時があるシュテルだが、今も、その男らしさが発揮されており、その瞳には決意と覚悟の炎が揺らいでいるのが見える。
そんなシュテルに周りも違和感を覚えたのか
「え、結婚? 早くないですか?」
とアミタが
「えーっと……お姉さんちょっとわけわかんないかも~」
とキリエが言う。
「結婚ですか、素敵ですねシュテル!」
「えっと、シュテルんがケッコン? ケッコンって、なんだ? んん?」
若干2名ほど、違和感を覚えていない者も居るようだ。レヴィなんてケッコン=結婚。と言う公式が頭の中で成り立っていないのか、頭をひねっている。
ディアーチェ以外の4名は役に立たないので、結局ディアーチェがシュテルとの会話を進める事となる。
「いやいや、待て。待つのだシュテルよ。すこし性急すぎやしないか? 我らはシュテルの恋人すら知らんのだぞ?」
とりあえず何とか頭を冷静にさせたのか、ディアーチェは椅子に座り直しシュテルに問う。
「えぇ。そうでしょうとも。私には恋人はいませんから」
「んん~?」
シュテルの平然と放つ言葉が己の常識とかみ合わず、変な声を出してしまうディアーチェ。その額には冷や汗すら浮き出ている。
「シュテルよ、恋人も居ないのにプロポーズをするのか?」
「はい」
「誰にだ」
付き合っている相手にするのがプロポーズ。それはこの世界の常識に近い暗黙の了解ですらある。それに当てはまらない者も確かに居るのだが、ディアーチェはそれが目の前に居る事を受け止められずにいた。
「いえ、ですから。私がお慕いしている殿方にですが」
「お、おぉ」
ここだけ聞くと普通である。
「シュテルんがその人の事を好きだ。って事は、その人は知ってるの?」
そう聞いたのはレヴィ。基本アホの子だが、空気は読めるし洞察力も鋭い実は優秀なレヴィちゃんって良く言われている。
「いえ、公言はしていません。ですが、今までの、その……友人付き合い、と言いましょうか。それであちらもなんとなく、察していると思います。と言うかしてなかったら私ショックです」
クールに、あくまでクールに言うシュテルにディアーチェの頭のなかはこんがらがる。
レヴィなど理解することを諦めたのかアホの子特有の表情でポーッとしているし、他の三人は会話に混ざる事を諦めたのか、リビングのソファに座りゲームを始めている。
――今この場には我しか居らぬ。おらぬのだ!
シュテルの謎を解き明かせるのは、シュテルの勘違いを正せるのは己しかいない。そう自分に言い聞かせ、ディアーチェは活動を停止しようとしている自分の脳に活を入れる。
「とりあえず、シュテルよ順序が違うのではないか?」
「順序、ですか」
シュテルも馬鹿では無い。こちらの言い分を正しく話してやれば理解してくれるはず。現にいまもこちらの話を聞こうと言う姿勢になっている。
「そうだ、まずはプロポーズの前に付き合いを始める事が先だろう。もし結婚できたとしてそりが合わずに破局、なんて事にもなりかねん」
「ふむ……ですが恋人、と言うわけではありませんが、今までの付き合いで私たちの相性はとても良いと」
なにやらシュテルが言い訳を始めているが、ふとディアーチェは思う。
――そう言えば、相手の事を何も知らぬな。
そう、一応この国では女子は16歳、男子は18歳からでないと結婚できない。満たしていたとしても、保護者の許可が必要となる。
なのでディアーチェはまずそれを確認することにした。
「それはそうとシュテルよ」
「はい」
「お主の想い人はどういう男性なのだ? 年齢とか、職業とか」
もしもヤバそうな気配を感じたらすぐさま止めなければならない。側に居るレヴィも、ソファでゲームをしているアミタ達三人もそう思っているのか、静かに耳を澄ませている。
「そう、ですね、彼は……。簡潔に言ってしまえば凡庸な男性、と言ったところでしょうか」
そうしてシュテルは語りだす。
*
*
最初の出会いはブレイブデュエルだったのだとシュテルは言う。
グランツ研究所のショップチーム、ダークマテリアルズの参謀にして全国のソロプレイ大会で未だ1位に輝くシュテル。そんなシュテルに挑んだただの一般人だったらしい。
その時はなんの感慨も抱かなかった。高町なのはのような秘められし才能も、ユーリやディアーチェ、八神はやてのような
ただブレイブデュエルが楽しく、真剣に打ち込んでいる。それ以外の感想は抱かなかった。
その彼と二度目の出会いは今通っている高校だった。正確には高校の入学式の日に教室で出会った。
グランツの強い意志により普通の学校、同年代の少年少女と共に過ごす為に入学した高校。そこで偶然にも同じクラスだったのだ。少し遠くの高校とはいえブレイブデュエルの影響でシュテルの名は巷では有名だ。ブレイブデュエルではリングネームを名乗っているとはいえ、一部に本名をそのまま使用しているし、容姿は本来の容姿そのままである。
そんなシュテルはクラスで一躍の人気者となったらしい。
それは別のクラスのレヴィとディアーチェも味わったので、その時の事を思い出し、感慨深そうに頷いている。
そんな時であった。
「スタークスさん!」
一際大きな声でシュテルに声をかける者が居た。その声とあまりの剣幕にシュテルを囲っていた人垣はまるで彼の聖人の奇跡の如く割れたという。
「はい、なんでしょう」
「俺の事、覚えてないと思うけど。俺とまた戦ってください!」
シュテルの瞳を眼鏡越しに睨みつける強い目力。その時はシュテルは本当に忘れており、誰かわからなかったらしい。しかしその瞳が彼が真に勝利を目指すデュエリストだと言う事が読み取れ、シュテルは少し笑いそれを了承した。
*
*
「なるほど、つまり相手は同い年、ということだな?」
「はい。そうですね」
今の話を聞いたディアーチェの感想は悪くない。と言った物だった。むしろ好印象と言っても良い。
シュテルのブレイブデュエルでの実力はハッキリ言うと相当である。現在この近辺だけでは無く、遠方にも事業拡大しているブレイブデュエルだが、そんなブレイブデュエルの頂点は伊達では無く、シュテルと戦った者はあまりの強さに心折れる者すら居る。
それはシュテルのブレイブデュエルに対する情熱も影響しており、シュテルは“強さ”に対して妥協をしない。それは自分はもちろん、他者にすら要求される。
そんなシュテルに戦いを挑む者は、よほどの強者か、何も知らぬ無知な者であると相場が決まっている。
そうして冷やかし半分に『頂点』に手を伸ばし、そのあまりの高さと厳しさに絶望するのだ。
彼も最初はそうだったのかもしれない。シュテルもそう思ったのだろう。
しかしそれでも、その高さを知ってなお、その高さに挑もうと思える屈強な精神。そしてあくまでも頂点を奪い取る意志、その熱き情熱。それをシュテルは評価したのだろう。それはディアーチェも同じだった。
「ん? 待てよ? と言う事はお主はともかく相手はまだ結婚できぬではないか」
ディアーチェが行き当った考えは当然であり、シュテルもディアーチェも16歳。と言う事は、同い年であるシュテルの想い人も16歳。
そしてこの国では男性の結婚可能年齢は18歳である。
ディアーチェのその言葉を聞き、シュテルは当然とばかりに頷く。
「はい。ですから結婚の申し込みと言いますが、実際は婚約の申し込みでしょうか。彼が法的に結婚できる年齢になったらすぐさま結婚しましょうと言いに行く予定です」
まるで渋々、ベストでは無いベターな案を実行しなければならない事が嫌なのか、シュテルは少し顔をゆがめる。
「いや、それこそ婚約云々より、恋人として男女交際の申し出をした方が良いのではないか?」
ディアーチェの言い分は最もである。であるが、その『当然』はシュテルには通じない。
「ですが、もうすでに婚約指輪も買ってしまいましたし……」
「は、はあああぁぁあぁぁっあっぁぁあぁっ!?」
シュテルの口から放たれた言葉にディアーチェは絶叫で返す。そのあまりの大声にレヴィは耳をふさぎ、耳を澄ませていたユーリ達はその肩を飛びあがらせてしまう。
「ディアーチェ、近所迷惑ですよ」
「いやいや、待て! 指輪を買っただと!? 何を!? どんな!?」
いくら実家がそこそこの名家とは言えシュテルはまだ16歳。そのような物を買える程の個人資産を持っているとは思えなかった。
「少し安物ですが、博士からのお小遣いは使い道も無く余っていましたので、ここは思い切って5万円程の物を……」
「…………」
シュテルの言葉にディアーチェは激しい頭痛を覚え、思わず頭を押さえる。
居候先であるフローリアン家の家長、グランツはディアーチェ達に手伝いの駄賃と称して小遣いを支給してくれているし、その額は多分一般の家庭と比べても多い物であろう。
それに、ブレイブデュエルに人一倍はまり込み、遊びに行くほどの中の良い友達も少ないシュテルがそのお小遣いを使いきれていないと言うのは理解できる。
しかし、それでも高校生が5万円の指輪を婚約指輪として、それも女性から男性へ渡すなど前代未聞であろう。
それを貰う時の相手の戸惑いっぷりが今からでも想像できる。
「とりあえずシュテルよ。明日のプロポーズはやめろ」
「ですが、すでに指輪が……」
「それは後生大事に持っておけ、相手が18になった時まだ付き合っていたら渡せばよかろう」
あまりの頭痛にこれ以上会話を続けるのが億劫になっていまい、ディアーチェはシュテルに言いつける。
「良いか、明日はまず告白だけするのだ。結婚を前提の御付き合い、と言うのも極力避けろ。ただの高校生にその言葉は重いはずだ」
「む、そうですか。わかりました」
ディアーチェの言い分にシュテルは素直に頷く。それを確認し、ディアーチェは椅子から立ち上がった。
「とりあえず明日、出かける前にどこに行ってどの位で帰ってくるか位は伝えてくれ。今日はもう叫び疲れたし、これで解散で良いな」
「わかりました、お手を煩わせ申し訳ありません、王よ」
「よい」
ただそれだけ言うとディアーチェは頭を押さえながら席を後にする。それに続き会議も終了、解散となり各々自室に帰って行った。
****
「それでは行ってまいります」
次の日、寒空の下コートにマフラーを着こんでシュテルは玄関から出る。
「うむ。上手くいくと良いな」
「頑張ってね! シュテルん!」
「いってらっしゃいです~」
「気合! いれて! 頑張ってくださいね!」
「K・I・Gよー。頑張ってね」
これからある意味戦地へと赴くシュテルに家族と言っても過言では無い人達が優しく声をかけてくれる。
その言葉を背に受けながらシュテルはゆっくりと目的地である待ち合わせの場所まで歩きだす。
歩いている途中に手持無沙汰になってしまい、昨日の話をふと思い出す。
それから関連して、思い出すのは今から会う想い人との今までだった。
昨日ディアーチェに語った通り、初めての出会いはシュテルが中学を飛び級で卒業し、今の高校に入るまでの空白の時間。
ブレイブデュエルが進化し、その規模を拡大する中で、シュテルが最もブレイブデュエルに打ち込んでいた時だったといえる。
グランツ博士やその親友のジェイル・スカリエッティと共に行われる新機能のテストはもちろん、高町なのは、八神ヴィータと言った強敵と書いてトモと呼ぶようなプレイヤー達と共に切磋琢磨し、彼女たちには無い有り余る時間というアドバンテージで常にブレイブデュエルの頂点を走っていた時期である。
実はシュテルはその時にあったと言う事は覚えていない。
シュテルにとって初めての出会いとは入学式の日に声をかけられたあの時なのだ。
それが初出会い自体はもっと昔であると知ったのはここ数カ月であり、彼から話を聞いたのだ。
ボーッと考え事をしながら歩いていたら、待ち合わせ場所である海鳴臨海公園についていた。
「まだ、少し早いですね……」
待ち合わせ場所についたので時計を確認すると針が指示していたのは10時15分。待ち合わせは11時であり、少しどころかだいぶ早い。
「ふぅー。今日も少々寒いですね」
手袋をしておらず冷たくなっている手に息を吹きかけ温める。時期としては12月後半。つまりそう言う時期であり、今日はそう言う日であるともいえる。そんな時期に手袋をしていないのだから当然手はかじかみ冷たくなっている。
「手袋は、やはりしてきた方が良かったでしょうか……」
小さな声で独り言を呟きながらも手に暖かい息を吹きかけるのはやめない。
いつもならば自分のお気に入りの手袋をしているし、それは忘れないようにコートの側に置いてある。
しかし今日はしていない。だがそれは決して忘れたわけでは無く、今日はあえて手袋を付けてこなかったのだ。
愚かな考え、醜い下心が生んだ拙い策謀。しかし今あまりの寒さにその判断を後悔しそうになっていた。
「悪い!」
そう言って聞こえてくる良く知った声。その声の方に向けばよく知った姿の、自分が恋焦がれている相手が駆けてくる。
青年と少年の境のような年頃の男性。しかしその身長は高めで170後半なろうかという程度だろう。体感シュミレーションと言えど実際の自分の体に近いアバターを動かすブレイブデュエルでは実際の体を鍛える事も有用だとされている。それゆえか彼の体も引き締まっているのだが、今は少々大き目のコートで隠れ良く見えない。
髪の毛は特にセットされている、と言う事はない。寝癖は無く、髪も短めで見苦しくない程度だ。
顔もハッキリ言ってパッとしない。醜くないと言う事は逆説的に言えばカッコいいはずなのだが、しかし決してカッコいいかと言われれば首を傾げるだろう。
恋は盲目とも言うが、シュテルも彼の容姿だけを評価した場合その点数は50~60点と言うしかない。
そんな彼はシュテルに近づくとすぐさま頭を下げる。
「ごめんスタークスさん。遅くなって」
シュテルの姿を確認できた瞬間から走ってきたのだろうその息は少々荒く、しかしそれを落ち着ける間もなく彼は謝った。
時間を確認するとまだ10時半。待ち合わせ時間の30分前であり、彼が謝るような事は何もない。
「いえ、私が早く来すぎただけです。待ち合わせの時間にはまだ余裕がありますし、謝らないでください」
そうは言っても変なところで頑固な彼は待たせてしまった事を深く反省していた。
「いや、でもそんな寒そうに待ってたんだから」
そう言う彼はシュテルが未だに両手を擦り合わせている姿を見て、申し訳なさそうに言う。
そんな彼を見てシュテルはつい笑いがこみあげてしまう。
自分が考えた愚かな策によって生み出された状況、完全にシュテルの自業自得な現状に対して彼は申し訳なく思ってくれている。そんな彼の優しさがとても嬉しく思えていた。
「大丈夫ですよ。それに」
そう言ってシュテルは両手を離し、目の前に居る想い人の手を握る。
「こうすれば、暖かいですから」
そう言って微笑む。常日頃は意識なんて何もしない自分の表情を、ここ最近最高の微笑みができるように鏡の前で練習し続けた微笑み。
「えっ、あ……」
シュテルが急に手を握ったからか、それともシュテルの笑顔に見とれたのかあからさまに狼狽する。
「さぁ、少し早いですが行きましょう、
「あ、う、うん。わかったよスタークスさん」
明と呼ばれた彼はシュテルの事をさん付けで、しかも苗字で呼ぶ。しかしシュテルは明の事を呼び捨てにする。それはシュテルの性分もあるが、シュテルが彼の、明の名前をとても好いているからだった。
シュテルの想い人、本名は
星の明かり。まるで自分には似つかない、自分には相応しくないと。そんな馬鹿な事も考え、それを明に打ち明けてしまったりもした。
そんな時、明はシュテルに言ってくれたことがあった。
『スタークスさんは知ってるかもしれないけど、俺の名前と苗字を逆にするとね
『……えぇ、そうですね』
『明星って、なにか知ってる?』
『金星の事でしょう? 知っていますが、それがなにか?』
『明け方に見える金星の事を、明けの明星って言ってね。これって悪魔のルシファーの事を指すんだよ』
『……はぁ』
『ははっ、まだわからないか。スタークスさんのデバイスの名前は?』
『ルシフェリオンですが……あ』
『うん、スタークスさんの相棒も名前の元ネタはルシファーでしょ? それで俺の名前も明星。どう? こう考えれば、良いんじゃないかな?』
そんな一幕があった。明星、明けの明星。光をもたらす者、ルシファー。
大げさかもしれないが、その言葉はまるでルシフェリオンのように自分を支え、ルシファーの語源の通りに夜明けに自分を明るく照らしてくれるのかと思ってしまった、思い込んでしまったほどに、シュテルにとって嬉しい解釈だった。
星の明かりではなく、明星。スターライトではなく、ルシフェリオン。
ただそれだけ、何のことは無いこじつけによる解釈の違い。だが、そんなたったそれだけが、シュテルの心を熱く滾らせた。
だからシュテルは明の名前が好きなのだ。自分の愛機の元ネタであり自分だけに光をもたらしてくれる。そんな星明が大好きだった。
「どうしたの?」
気づいたら笑みが浮かんでいたのだろう。口元に手をやるとそこはだらしなく歪み、無意識に笑みを浮かべていた。
「いえ、なんでもないのです」
しかしその笑みを隠さず、シュテルは明の手を強く握る。
「さ、行きましょう明」
そう言ってシュテルは歩きだし明の手を強くひく。
「ちょ、ちょっとスタークスさん!」
それにあわてて付いて行く明。
どこからどう見ても恋人な二人、しかしそれでも未だ恋人では無い二人。
女性は親しげに男性の名前を呼び、しかし男性は遠慮がちに女性の苗字を呼ぶ。そこには物理的ではない壁があるかのように見えた。
――今日は、絶対に名前で呼んでもらいますよ、明。
そう心に決めながらシュテルは明の手を離さぬよう、強く握る。そこから明の体温と共に胸に暖かさが流れ出ているかのように感じながら。
シュテルんが可愛すぎたので書きました。素直クールお茶目ゆかりんヴォイスとかヤバすぎじゃないっすか。
あと、テンション高めツッコミ役の王様が書きやすくて困る。
INNOCENTで20K弱使ってようやく秋空花火になったので、記念に投稿。