あぁ^~シュテるん可愛いんじゃ^~
「今日は、ありがとうございました」
夜の海鳴臨海公園に少女の声が響く。その主はシュテル・スタークス。
「とても、楽しかったですよ」
彼女は傍らを歩く青年―
「俺こそ、とても楽しかった」
明も、シュテルに向かって優しい笑顔を浮かべながら言う。
今は12月後半の寒い日、日本では愛する人と共に過ごす日であり、世界的には聖人の生誕を祝う日でもある。そんな日に二人は共に出かけていた。
二人の共通項にブレイブデュエルがあり、その為いつもならば二人の話題はブレイブデュエルに関することが主であった。
しかし、今日はシュテルの言い分でブレイブデュエルの事を忘れて遊ぶ事になったため、二人は普通に待ち合わせをし、普通に寄り添って歩き、普通に昼食をとり、普通に映画を見て、普通にショッピングをして、普通にカラオケで歌って、普通にディナーを共にし、そして待ち合わせ場所であった海鳴臨海公園を普通に歩いていた。
しかし、そんな端から見れば恋人同士にしか見えない二人は未だ恋人ではない。恋する人、と言う意味ではそうなのかもしれないが、しかし付き合っているかと言われれば、NOと言うだろう。二人とも、悪い顔はせずに。
二人はまだどちらも告白をせず、どちらも付き合う打診をせず、そしてどちらも想いを口に出してはいなかった。言うなれば友人以上恋人未満。
そんな二人は、シュテルが寒いからと言う理由で繋がれた手を固く握り、周りに居るカップルに負けない熱さを放っていた。
そうして二人は海鳴臨海公園の名の通り、海が臨める展望台までやってきた。いつもならばカップルであふれるこの場所だが、夜で海は見えず海風が強く吹き込み強烈な寒さを放つ今の時期はあまり人は寄り付かない。
シュテルのその予想通り、展望台には今二人しかいなかった。
「スタークスさん、やっぱここは寒くない?」
そんなカップルすら寄り付かない寒さに身を縮こまらせ、明は言う。
「いえ、私は暖かいですよ」
明のその言葉を無視し、明に抱きつきながらシュテルはそう言う。
「こうすれば、明の温かさを感じれますから」
シュテルの身長は日本人女性にしては高めの160後半ある(外人だが)。しかし明は高校1年生とはいえ男子。その身長は170後半になろうと言う程ある。故に、シュテルが明に抱きつくとその首元に顔をうずめることになってしまう。
突然抱きついてきたシュテルに焦る明。確かにシュテルの言う通り抱きつかれてから妙に暑い。寒くない程の衣類に阻まれているはずなのに、二人が触れ合う部分はまるで自らが発熱しているかの如く熱い。
「あ、えっと、スタークス、さん?」
明のその戸惑った言葉を聞き、シュテルはより深く明に顔を押し付ける。その顔は誰からも見えないが、とても悔しそうな顔をしている。
「……明」
そんな顔を隠さず、シュテルは顔を上げ明を見つめる。見上げた顔は予想以上に近く、明もシュテルも予想以上に近い。本来ならそれに照れ、慌てる筈の明もそのシュテルの表情が悔しそうで、悲しそうで、辛そうな、そんな表情だったせいで照れる事も出来なかった。
「明は、私の事が嫌い、ですか?」
いつもならば動きの少ない表情。勤めて感情を表に出さないようにするシュテルだが、今はまるっきり違う。その顔は不安に彩られ、まるで別人なのではないかと思えるくらいであり、少々女子の機微に疎い明ですらハッキリと分かるほど、その顔にはシュテルの気持ちが溢れていた。
「なぜ、私の事を名前で呼んでくれないのですか?」
答えぬ明に向け、シュテルから放たれた言葉に、明は息をのむ。
「私は嫌です。明に壁を感じます。それが、嫌です。私は、明に、もっと、もっと近よりたいのに……っ」
今までの長くは無い、しかし短くもない付き合いで一度も見せる事の無かったシュテル・スタークスの“弱さ”が露呈した。あふれ出てきた。
「俺、は……」
今まで見た事の無いシュテルを、初めて見て、明は顔を逸らす。自分に弱弱しく抱きつき、悲しみで目を潤わせ、不安を口にする『少女』から。
この瞬間に気付いたのだ。明自身が気づかなかった“壁”が、シュテルを苦しめていたことを。
「俺は、スタークスさんの事を尊敬していた。憧れていたんだ」
そうして、明は語る―――
***
星明にとって、シュテル・スタークスとは何か。
そう聞かれたら、明はこう答える「星そのものである」と。
それは昔も今も変わらず、シュテル・スタークスは、シュテル・ザ・デストラクターは、少年星明を導いた星であり、絶対に手を届かせたい目標であり、そして、絶対に手が届かない物だった。
出会いは5年前、ブレイブデュエルがその人気を轟かせ、話題も沸騰し、ユーザーも増えてきた頃。正式稼働して初めてのソロによる公式大会。LIVE GRAND PRIXでの映像だった。
その当時明はブレイブデュエルに手を出していなかった。学校内でもブレイブデュエルの話題は一日に何度も聞くが、それでも明は手を出していなかった。その理由として、明の生活圏内の近くにブレイブデュエルの機体を設置している店舗が無かったのが大きかった。
そんな中、友人が世界大会が開かれる上、その映像はネットでも配信されるから見るだけ見ろと言われ、まぁ興味がないことは無かったので見た。
そして、心を奪われた。
明が見たのはネットに配信される戦い、つまり本選の映像だった。予選を勝ち抜いた猛者がしのぎを削り合う真剣勝負。その中で最も注目されていた、テストプレイソロランキング1位、つまり限定的な人数しか居ないとはいえ、一度はブレイブデュエルで『最強』の二文字を手に入れた少女の戦い。
シュテル・ザ・デストラクターの本選1試合目の映像だった。
その映像は未だ明は目を閉じるだけで鮮明に思い出せる。それほど強烈で鮮烈だった。
だから明は憧れた。『最強』に、『
それからの明の生活は変わった。自転車を走らせ遠出しブレイブデュエルを始めた。体調やどうしても外せない用事の時以外は毎日欠かさず通った。
家では何度もシュテルの動画を見た。ネット上で残っている物は全て見た。ソロ戦だけでは無く、チーム戦も、特殊ルール戦も、シュテルが負けた試合も。
何度も何度も、自分が憧れた光に届くように、何度も見た。
そうしてブレイブデュエルに触れてから数年の時が立ち、新しいシステム、新しい機体設置店、あらゆるイベント。その中にはグランプリの2回目、3回目もあったがあまりいい成績は残せなかった。精々が予選で2,3回勝つが、決勝へは進めず予選落ち。その程度だった。
しかしそんな明を突き放す勢いでシュテルは強かった。強くなって行った。チーム戦では黒星が何個も付く事があったが、ソロの無差別真剣勝負では無敗。無敵、とは言わずとも『最強』に相応しい戦績であった。
だから明はその光をもっと間近で見たかった。自身の体で触れてみたかった。
そうして明が中学2年生の頃、シュテルに挑み、負けた。
もとより勝てるとは思っても居なかった。ただ、自分がどれだけ『最強』に近づけているのか知りたかった。しかし、間近で感じた『最強』の星は、幾光年も先で光り輝いていた。
本物の星の様に、明が知るシュテルの輝きは、シュテルにとってはすでに過去の物だったのだ。
それでも明はくじけなかった。間近で感じたと思った光が、本当はもっと遠い物だったのだと、そう知れた事が嬉しかった。だから明はより一層ブレイブデュエルに打ち込んだ。
勉学もおろそかになる程だったが、幸い明は要領が良かったのか、遠くの私立高校にはなんとかギリギリ受かっていた。
両親には苦労を掛けると思いながらも、明は自分が公立高校に受かる程の勉強をしていなくてよかったと、今は思っている。
なぜなら、その高校にはシュテルを初めとするダークマテリアルズの面々が居たのだから。
そしてなんと運命的な事か、明とシュテルは同じクラスだった。それに気づいた時は信じてすらいない神に感謝したものだ。
そうして、シュテルも覚えている入学式の日での宣戦布告をし、それからシュテルと仲良くなって行った。
最初はシュテルが強くなるためのアドバイスをくれるくらいだった。しばらくして、対戦相手や訓練相手を積極的にしてくれるようになった。
そうして学校でも話すようになった。
気づけば、隣にシュテルが居て、そうして一緒に遊びに出かけるような距離にすらなっていた。
だけど、明にとってシュテルの印象は初めから変わっていなかった。
遠くで光る星、憧れの有名人、届きそうもない果てなき目標。それに、『師匠』が加わった位だ。
だから、明は自分の気持ちを恋だと思っていなかった。ファンがアイドルに向けるような、弟子が師匠に向けるような、そんな憧れや尊敬だと思っていた。
シュテルは明に対して対等な個人として、『シュテル・スタークス』として接していたつもりだったが、明には『
これが、星明の紛れもない、本心だった。
***
少々長くなった明の独白を、シュテルはだまって聞いていた。明を抱く腕の力は弱めず。まるで自分の弱さを告げるように苦しそうな明の言葉を聞いていた。
「俺は、自信が無かったんだ。スタークスさんは、強くて綺麗で……。俺なんかじゃ絶対に届かない、まさに星のような人で。だから俺はスタークスさんが俺の事を気にしてくれるだけで、かまってくれるだけで、それだけで満足だったんだ」
そう言って、明は俯き黙る。もう、自分から言えることなど何もないと言う様に。
「……明。私は、あなたに甘えていたのかもしれませんね」
「?」
シュテルの言葉の意味がよくわからず、眉をひそめる明。そんな明を無視してシュテルは言う。
「私は、明に甘えていました。あなたが拒まないから。あまりにもいつもと変わらないから。私は『シュテル・スタークス』で居れた気がしていました。そして明もまた、私を『シュテル・スタークス』として見てくれているのだと」
そこまで言うとシュテルは言葉を区切り、明から離れる。
二人が離れたことで、その空間に海風が入り込み途端に冷える。
「明。いえ、星 明さん。私は、シュテル・スタークスは、あなたの事が好きです」
そんな冷たさを押しのけて、シュテルは言う。離れていても自分の熱が、この胸を焦がす焔が届くと信じて。
「あなたの事を愛しています。好きです。大好きです。
「I love you. Ich liebe dich. Je t'aime. Ti Amo.
「……千の言葉でも伝えられない気持ちを、どうしたら伝えられるでしょう。好き。好き。大好き。
「私は、シュテル・スタークスは、星明の事を世界で一番、愛しています」
怒涛、それはまるでダムが決壊したかのようにシュテルの口から飛び出ていた。その気持ちは口だけでは無く、その力強い瞳からもあふれ出る。
「あぁ、あぁっ。もどかしい。私は、私の気持ちを表現できない事がもどかしい。好き。好き。好きなんです。もう、ずっと。ずっとずっとずっと好きなんです。あなたが、明が好きなんです。明に強くなって欲しいから訓練相手になったんじゃないんです。明の側に居たいから訓練相手になったんです。明に強くなって欲しいからアドバイスしたんじゃないんです。明に良い格好を見せたかったからアドバイスしたんです。明に、明に、明に好きになって欲しいから、ずっとなるべく一緒に居るようにしたんですっ」
シュテルはもう自分自身で何を言っているのかわからなくなっていた。涙は止まらず、それと比例するように言葉も止まらない。泣かなければ、何かを言葉にしなければ胸が張り裂けそうだったから。今まで燻っていた火が、出口が唐突に開かれバックファイアを起したように燃え上がり、胸を焼き切りそうだったから。
「まさか、まさか一番のライバルが自分、だったなんて、お笑いですね。明と私の間に居たのが、まさか『
辛かった。苦しかった。自分で自分を苦しめていたなんて、自分の所為で自分の恋心が伝わっていなかったなんて。
邪魔になるのなら、切り捨てる。それは幼い頃から教わり、そして実践してきたシュテルの処世術。感情が邪魔になるなら切り捨てる。何物かが邪魔になるなら切り捨てる。自分の為、王の為に。そう教わり、そう実践してきた。
だから――
「だから、だから明。私は、『シュテル』を殺しましょう」
だから今回もそうするだけなのだ。『
「私は、ブレイブデュエルを引退します。私自身があなたの目を曇らせる光ならば、私はその光を自ら断ちましょう。私が、私の邪魔をする幻影ならば、私はその幻影を自ら掻き消しましょう。私は『シュテル・スタークス』です。ただ一人の男に狂おしいほどの熱情を抱いた、若干16歳の女なのです」
シュテルの言葉に、明は驚いていた。その驚きが激しくて、そしてシュテルの怒涛の言葉が止まらなくて、明は何も言えなかった。
「『最強』なんて要りません。私はあなたが居ればいい。『全国一位』なんて要りません。私はあなたの一位でありたい。ダークマテリアルズの『
そこまで言ってシュテルは明に勢いよく抱きつく。しかし、その両腕は弱弱しく明にしがみつき、震えてすらいた。
「私は、あなたが、好き、です」
そう言って、シュテルは静かに嗚咽を漏らした。
そこまで苦しめていたのか。そこまで自分はおろかだったのか。
明の頭の中には、そんな後悔だけが渦巻いていた。
「スターk……」
名前を呼びそうになり、止める。自分にしがみつくシュテルの腕があまりにも震えていたから。自分の胸に有るシュテルの肩があまりにも小さかったから。
――あぁ、彼女は、こんなにも小さかったのか……。
明は、初めてシュテルを、『シュテル・スタークス』を見た気がした。『最強』も『全国一位』も『
その辺に居る女子高生と、何一つ変わらない、少女だった。
「……シュテル」
そう言って、シュテルを抱きしめる。
「ぁっ」
抱きしめられたことか、それとも名前を呼ばれた事に気付いたのか、シュテルは小さく声を漏らす。そんなシュテルを明は力の限り抱きしめた。
「ごめん、ごめん。俺はシュテルの事を何一つ見てなかった。ずっと、ずっと気づかなかった。俺は『最強』になりたかったんじゃない。俺は、『シュテル』に近づきたかったんだ」
「あ、きら?」
シュテルのか細い声を聞きながら明は言う。
「やっと気づいた。君が泣いてやっと気づけた。俺が馬鹿でごめん。君を泣かすほど、愚かでごめん。だけど、俺も、君の事が好きだ。シュテルの事が好きだ。ずっとずっと、5年前動画で初めて見た時から。ずっと君に近づきたくてブレイブデュエルをしてたんだ。あの時は気づかなかった。憧れかと思ってた。『最強』を目指したかったのだと思ってた。だけど、だけど違うんだ。俺は、俺は『シュテル・スタークス』に近づきたかったんだ」
「あき、ら。あきらぁ」
「俺は、シュテルに泣いてほしくない。シュテルには笑ってて欲しい。微かな、小さな笑みでも、シュテルには笑ってて欲しい。それと同じくらい。シュテルには戦ってて欲しい。俺が惚れた『シュテル・ザ・デストラクター』は『シュテル・スタークス』で、俺を好きになってくれた『シュテル・スタークス』は、『シュテル・ザ・デストラクター』なんだから」
紛れもない本心からの告白。シュテルの事が好きなのだと。ようやく理解した。小学生のままだった星明は、大好きな少女の涙でやっと成長できた。でも、それと同じくらい。星明の憧れたシュテルも大切なのだと思った。
「明、もっとっ。もっと抱きしめてくださいっ」
「あぁっ」
シュテルに言われ力を込める。今までより強く。
「もっと、もっと強く! 私を、“私”を抱きしめてください!」
「あぁっ、あぁっ!」
壊れる程に、強く。
「もっと、私を感じてください!」
「あぁっ!」
「私を、『シュテル・スタークス』を感じてくださいっ!」
「あぁっ! 感じてるよ、シュテルの熱。シュテルの想い。全部、全部教えてくれたから!」
「私を見て! 私を感じて! 私は、『シュテル・スタークス』です! 『
「あぁっ! シュテルはシュテルだ。『シュテル・スタークス』だっ! 俺が好きになったのは、他の誰でもない、『シュテル』なんだっ!」
お互いがお互いを強く、強く抱きしめる。まるで壊れるように、離れないように。このまま溶けて、一つになっても良いと思えるくらいの激情に身を任せ、お互いを抱きしめあう。
「明っ! 愛していますっ」
「シュテル! 愛してるっ」
そして、自然と、二人は重なり合う。視線を合わせ。明は屈み、シュテルは背伸びをして顔の位置を合わせる。0に近い距離を0にする。今まで立ちはだかっていた壁を壊すくらい勢いよく、情熱的に。二人の距離が0になる。
唇が、重なる。
「ちぅっ」
「っはぁ」
興奮と激情で呼吸が持たず、一瞬はなれる。しかしそれすら許さず、シュテルは食いつく様に背を伸ばす。
何度も、何度も
シュテルが離れれば明が
明が離れればシュテルが
お互いがお互いを求め、お互いがお互いを受け入れる。
このまま溶けて一つになってしまえと。
冬の寒さすら忘れ、お互いを求める。
「あぁ、明ぁっ。愛してます」
「シュテルっ、大好きだっ!」
それは、お互いの激情が収まるまで、二人の胸で燃え盛る炎が自然に消えるまで、続いた。
**
****
******
「それじゃぁ、明」
「あぁ」
結局二人の恋心と言う火事が自然沈下するまで、相当の時間を要した。長く重ね合っていた唇は少々痛み、腫れてしまっているのかシュテルの唇はルージュを付けたように赤くなってしまっている。
「明、あぁ、明っ」
「シュテル……」
もう夜も遅い。体温が上がるほどの興奮に身を任せていたとはいえ、寒空の下長時間いると体は冷え切ってしまっていた。もう、帰らなくてはならない。
「明っ、離れたくありません。やっと近づけたのに、やっと明と思いを交わすことができたのにっ。このまま離れるのは嫌です」
「でも、もう夜も遅いし、俺もシュテルもまだ学生だし、帰らない訳には」
「明ぁっ、離れたく、無いです。明のでも、私のでも良いから今晩は一緒に居ましょう?」
「だめだよ、俺は一人暮らしじゃないから今の時間はもう両親が居るし、シュテルの家も下宿先で大勢いるんだろう?」
「私のほうは、多分大丈夫です。ちゃんと話せば、理解してくれます」
「でも、下宿先の人が」
明に抱きつき駄々をこねるシュテルを明がなだめようとする。しかし、シュテルの頭の中では、もうこのまま明と一緒に夜を過ごすことは決まっていた。胸の中で燃え盛る劫火は収まったが、それでもまだ火が消えたわけではない。その燻る焔は言っているのだ、「明を離すな」と。
「大丈夫です。グランツ博士は話の分かる人ですから。そうです、今から連絡しますから。明もご両親に連絡してください! そうです、そうしましょう!」
「え、ちょシュテル?」
妙案得たりと輝かしい顔になったシュテルはさっそく行動を開始する。持っていた携帯を即座に取り出すと下宿先であるフローリアン家に電話する。
『はい。こちらグランツ研究所。フローリアンです』
「あ、ディアーチェですか。私です、シュテルです」
電話に出ていたのは奥方が単身赴任で居ないフローリアン家の家事その他を司っているディアーチェ・K・クローディア。
『む、シュテルか。どうした?』
「これから明と一緒に帰ろうと思います」
『おう、そうかそうか。上手くいったのか?』
「えぇ、万事恙なく」
ちょっとどころではない誇張での報告をしているシュテルだが、現場を見ていないディアーチェはその言葉を信じきって、嬉しそうな声を上げる。
『おぉ、そうかそうか、それは良かった』
「それでですね、王よ」
『む? どうした?』
「明を泊めても良いでしょうか?」
『ん~?』
シュテルにとっての本題はディアーチェにとっては不意打ちであり、なにやら先日聞いた事のあるような変に上ずった声が電話の先から聞こえる。
『えっと、は?』
「だから、明を泊めても良いでしょうか? 部屋や布団の事なら気にすることはありません。私と一緒に寝ますので」
シュテルの放った言葉に電話の先は一瞬固まったかと思うと、大きな声が聞こえる。
『いやいやいや! 待て! 待て待て待て!』
「はい」
『何を言っているんだ貴様は! 告白が成功したその日の内にとかちょっと早すぎるんじゃないかなぁ!? それに家には我だけでなく、ユーリやレヴィも居るのだぞ!』
「はい。ですが、大丈夫です。なにもやましいことはしません」
『信じられるか! だいたいそんなの我だけで決めれる訳が無かろう!』
「でしたら、博士やアミタ達にも聞いてください。無理なようでしたら私が明の家に泊まるので」
『わかった! わかったから早まるな! 良いか! 至急相談して折り返すから、絶対に早まるなよ! 外でなんて我絶対に許さんからな!』
「わかっています。大丈夫ですよ」
慌てるディアーチェはシュテルの返答を聞いたか聞いてないかわからぬタイミングで電話を切る。
それを確認したシュテルは、明の方に向き直り声を掛けた。
「明」
「あ、あぁ」
「そっちはどうでした?」
「あー、うん。外泊は大丈夫だって」
「そうですか。それは良かった」
嬉しそうに微笑み頷くシュテルに対し、明は言い難そうな雰囲気を醸し出す。
「? どうしました?」
「いや、その……」
なんとも歯切れが悪いが、それでも明は両親、特に母親に言われた事をシュテルに告げる。
「えっと、『避妊はちゃんとしなさい』……だって……」
明が恥ずかしそうに言ったその言葉にシュテルは少し呆けるが、少しだけ微笑む。
「ふふっ、そうですか。そしたらちゃんと買わなくちゃいけませんね」
「うぇっ!?」
「コンビニに置いてあるらしいですし、帰りに買って帰りましょうか」
「え!? えっと……。え!?」
多分母の下世話な冗談だと思ったのだが、思いのほかシュテルが乗り気で焦る明。
そんな明を見て、シュテルが笑っていると、携帯が鳴動する。
「すみません、電話です。……はい」
明に許可を得て電話に出ると、当然相手はディアーチェだった。
『シュテルか』
「はい」
『とりあえず、結論を告げる。泊まっても良いが、その前に博士たちが相手の男性に合いたいそうだ』
「あいたい、ですか」
『あぁ、それでどうするか決める、と。とりあえずは連れて来い。との事だ』
「わかりました。それでは今から向かいます」
『あぁ』
そう言って通話を切ろうとすると、ディアーチェが止める。
『あぁ、あと相手の男性にはこう伝えておいてくくれ』
「はい? なんでしょう」
『覚悟しておけ、とな』
「……」
『……』
「わかりました」
シュテルが返事をすると通話が切れる。それを確認すると、シュテルは携帯を鞄にしまい、明に向き直る。
「さぁ、明行きましょうか」
「え? 結局OKなの?」
「はい。とりあえず明の為人を判断して決めたいそうです」
「え!?」
「ですので、『覚悟しておけ』とも言ってました」
「え、そんな! 俺、そんな事言われても、覚悟って!? 何をどう覚悟すんの!?」
「とりあえず行きましょう」
慌てる明の手を握り、明を引っ張るシュテル。
「ちょ、ちょまシュテル」
「あぁ、そうですね。ちゃんと途中でコンビニに寄りましょう」
「買うの!? 本気!?」
「私はいつでも本気ですよ」
輝かしい笑顔を明へ向けるシュテル。そんな笑顔を見て明は諦めたのか、大人しくシュテルの隣を歩きだす。
「俺、今日死ぬかも……」
「明が死んだら、私も死にますから」
「それも、本気?」
「えぇ」
暗い寒空の中に、明の大きな溜息がスッと溶けてゆき、残ったのは二人の燃えるような恋心と、まるで二人を祝福するかのような、明るい星空だけだった。
と、言うわけでシュテるんの燃えるような恋が明くんに燃え移った話でした。
秋イベのシュテるんが嫁力高すぎて興奮したので書きました。
恋愛モノは初な上、私自身の経験がアレなので上手く書けてるかどうかわかりませんが、みなさんの胸にも火の粉程度でも熱さが届けられたら幸いです。