ダンブルドアは三日は寝ていなかった。
世界ではグリンデルバルドが魔法界を混乱と反旗を起こし、その対応に追われているし、魔法省や闇祓いが助言を求めに昼夜やってくる。本職は教師であるからそっちの仕事を疎かにするわけにはいかない。
その上、下のゆるゆるなあの男について調べなければならないなんて!
無理やり元気爆発薬を飲みアドレナリンを体に巡らせながら日々をなんとか過ごしてたのだ。
そうしてあの男、トム・リドル──いや、トム・アースキンを探し始めて数週間。色々なツテを使い、ゴシップや下世話な噂が大好きな輩を使い、ようやく足取りを掴むことができたのだ。いっそ死んでくれていたら、と思ったが、あの男は普通に生きているらしい。色々な処女の間を練り歩きながら。渡り鳥のような生活をしているのだろう。
普通の狭いアパートの一室。
勿論そう見えるのはマグル向きの虚像あり、中は魔法使いの家らしく広々としている事だろう。
ダンブルドアは休日になんとか時間をつくり、そのアパートの一室の前にやってきていた。
シンプルなドアノッカーを乱暴にどんどんと叩いてしまったのは、致し方ないことだろう。
しばらくしてかちゃかちゃという小さな音が響き、なんの躊躇いもなく扉は開かれた。
「誰かな?──なんだ、男か」
淑やかな笑みで扉を開けた男は、目の前にいるのが女性ではなく男だと気付くと一瞬で嫌そうな顔をし舌打ちをした。
久しぶりに見たトム・アースキンは見事にハンサムに成長していた。余裕たっぷりの大人の表情と重ねた年齢の色気が溢れていても、上品だった。
年相応の落ち着いた雰囲気があったが──残念ながらそれは可憐な乙女を落とすためだけの張りぼての雰囲気で、実際はまあまあ粗暴らしい。
「勧誘なら間に合ってる」
「勧誘ならどれだけ良かっただろうな」
アースキンが閉めようとしていた扉に、ダンブルドアは足を差し込み無理やり止めた。アースキンは怪訝な顔をし直ぐにポケットから杖を抜き軽く振ってその足を追い出そうとしたが、それよりもダンブルドアが杖を振り無理やり扉を開け放った方が早かった。
「なんだ?」
「私を忘れたのか」
「んー?………アルバス?アルバス・ダンブルドアか?!ああ、久しぶりだな!貴方の名はよく聞くが……どうしたんだ?貴方の女に手を出した事はない筈だが?」
「……とりあえず、入れてくれないか」
ダンブルドアは相変わらずな男の様子に隠す事なく大きくため息を吐き、額を押さえながら唸るように呟く。
アースキンは少年のようにニコっと人の良い笑みを浮かべると「勿論だ!男がこの家に入るのは初めてだよ」とあっけらかんと言いながら家の中にダンブルドアを通した。
部屋の中は洗練された家具がきちんと並んでいた。壁には小洒落た風景画が飾られていて、花が飾られているからかふわりと甘い香りがしている。
重厚な造りの暖炉には暖かな炎が燃えていて、その前には漆のようなつるりとした綺麗なローテーブルが一台。その近くには革張りのシングルソファが二脚あり、近くのサイドチェストにはおしゃれなランプが飾られている。勿論カーペットは落ち着いた紅色をしていて毛並みが完璧に整えられていた。
女性受けばっちりな上品な部屋に、ダンブルドアはいっそ感心した程だ。
「アルバス、本当に久しぶりだ。私が卒業してからだから十五年……二十年……いや、もっとかな?」
アースキンは杖を振りワインセラーからワインを、食器棚から細いワイングラスを取り出しローテーブルに並べた。シングルソファに座りながら反対側へ座るよう促せば、ダンブルドアは言われたままにシングルソファに座る。安物ではない、どっしりとした座り心地に、このソファで何人の女性が座ったのか、と一瞬考えたが──すぐにその考えを取り払った。
「トム。率直に言おう。君の息子かもしれない子が見つかった」
「は……」
アースキンはワインを注ぐポーズのまま固まった。細いグラスは直ぐに満たされ机の上に溢れた赤いワインがぼとぼとと溢れていく。ダンブルドアは軽蔑にも似た表情で眉間に皺を刻んだまま杖を一振りし、瓶をアースキンの手から奪い机の上に起き、ワインの中身を巻き戻し値段の高そうなカーペットにシミがつくのを防いだ。
「私の息子?……あり得ないな」
「ロンドンのマグルの孤児院にいる。歳は十一歳。新年度からホグワーツに通う。名前はトム・リドル。母はおそらくマグルで身元不明。それ故に孤児院でトム・リドルを産んですぐに死亡し、父親の名前はトム・リドルだと言い残していた。数週間前会いに行ったが君の面影が無くもない、美しい少年だった」
「ちょ──ちょっと待て!」
「なんだ」
アースキンは勢いよく立ち上がり、「待て」ともう一度言うと両手を前に突き出した。
「待て、私に息子?あり得ない。私は避妊魔法が何よりも得意なんだ!」
「そうか。アースキン。君の噂は集めようと思えばすぐに集まった。君は酒に酔うと記憶を失いがちらしいな」
「は……それはそうだが。女性と会う時に深酒はしない。それは私のポリシーだ」
「本当に?全く?一度も?バーやパブでその気がなく気分よく飲んでいる時に、たまたまトム好みの初心な女性が誘ってきた事は?」
「……」
「トム、君は学生時代から性に奔放だったが、自分の蒔いた種がどこにあるのかしっかりと覚えているのか?」
冷静なダンブルドアの言葉に、アースキンは前に出した手を、自分の口元に持っていき視線を彷徨わせた。
狼狽える美しい中年の残念な姿に、ダンブルドアは呆れやら軽蔑やらの感情を抱く。その姿はどう見ても「心当たりがあるような」と言っているもので、ダンブルドアの中であの少年の父はこの男だと確信し、哀れなマグルの女に心底同情した。
「なぜ、私の息子だと思うんだ?」
「君に確かに似ている。それと、名前だ。トム・リドルだなんて名前そうそういないだろう」
「……まあ……」
確かに、そんな謎謎のような名前、聞いたことが無かったしいるわけもない。そうトム・アースキンは思い戯れでリドルを名乗っていた。勿論、夜のお相手にも。家名だなんて夜の呼び名には必要のないものだし、それが何かの痕跡を残すだなんて、アースキンは思いもしなかった。
「その少年は、もし君が自分を子どもだと認めるのならば、共に暮らす事を望んでいる。住んでいるところがマグルの孤児院だから、窮屈な思いをしているのだろう」
「……わかった、私の息子にしろ、違うにしろ、とりあえず会ってみよう」
アースキンは降参というように両手を上げ、ソファに深く腰掛けた。
正直なところ、全く身に覚えはない。記憶として避妊魔法をせず抱く事はない。だがダンブルドアがいうように深酒をして自身の記憶を失っている可能性は否定できないが。
とりあえず、その子ども候補に会うしかないか、と思う。めんどくさい事になってしまったと嘆きたかったが、ダンブルドアの目があるため思うだけにした。