「あなたが僕の父さんなのか?」
「……母親の名前は?」
「わからない。名乗らなかったらしい。僕の名前は、トム・リドル。トムは僕の父の名前だと聞いている。あなたもトム・リドル?」
「……そうだ」
アースキンはダンブルドアに言われるまま孤児院を訪れていた。面会室でトム・リドルと向かい合い、目の前の端正な顔立ちの少年を見下ろしながら、額に手を当て唸る。
ダンブルドアから聞いていた以上のなんの情報も得られなかったが、確かにまあ、この少年は若い自分に似てなくも、ない。
同じややウェーブがかった黒髪に、大きな黒い目、高貴な顔立ちに、白い肌。年齢の割に身長が高いのも、幼い頃の自分と似ている。
アースキンは家庭を持つ気はさらさら無かったし、結婚や子どもに興味はなかった。だからこそ避妊魔法だけは欠かさなかった。それはアースキンの家系が吐き気がするほど特殊でこの血を残さず絶やしてしまおうと思ったからだ。
だからこそこの少年は自分の子ではない、そう思ったが──。
緊張しているのか、白い顔をしている。それでも不安を微塵も見せたくないプライドがあるのか強い目で自分を見上げる健気な少年。
下唇を噛み、白い小さな手をぎゅっと握る少年。
お世辞にも十分な食事を与えられず貧相で、服もお下がりしかないだろう見窄らしい、少年。
そんな哀れな少年に、今はその話はせずともいいだろう。
「君が私の息子かどうか、実は明確に、確実に、判断する方法がある」
「何だ?」
アースキンは膝を折り、リドルと視線を合わせる。リドルは緊張した面持ちで無意識のうちにカサついた唇を舐め、ごくりと唾を飲み込んだ。
できれば二度と使いたくなかった手段。
忘れていた方法。
アースキンはじっとリドルの目を見ながら、ゆっくりと口を開いた。
『この言葉がわかるのなら、私の息子だろう』
リドルは瞬きをした。
緊張した表情がみるみる内に怪訝な顔へと変わっていく。
その表情を見て、アースキンは心底安堵した。やはりこの少年はたまたま父親がトム・リドルという珍しい姓をしていただけで、私の息子ではない。アースキン家の血は継いでいない。
ほっと息を吐きながら、アースキンは立ち上がりリドルの肩をぽんぽんと二度叩き慰めるように優しく掴んだ。この少年にとっては残念な事だが、父親は見つからなかったらしい。
「少年、気を落とすな。きっと──」
「この言葉って、どの言葉だ?」
「……何?」
リドルは怪訝な顔の中に焦ったさを滲ませ、肩に乗ったアースキンの手を強く掴んだ。──その手が、わずかに震えているように感じたのは、リドルの緊張の震えだったのか、アースキンの驚愕の震えだったのか、はたまた両方だったのか。
「だから、この言葉がわかるのなら、って、どの言葉?」
「……マーリンの髭!」
アースキンは今度こそ叫び、天を仰ぎ現実から逃れるように顔を手で覆った。