勇者なのだが、いつもの仲間がいないのだが?   作:むーんしゃいん

1 / 3
勇者なのだが、いつもの仲間がいないのだが?

 国王陛下による即位の儀が、厳かに行われていた。

まず、世界大教皇の幼女様が、勇者の頭に、聖油を注ぎ、神への奉仕を誓わせる。

 

 そして、国王陛下と勇者となる選ばれた冒険者は、政治家や官僚、貴族たちが彼らを見守る中、宣誓を行う。

 

「強きをくじき、弱きを助ける。気高き勇者になる事をここに誓い。国王陛下と世界大教皇の世が続くことを祈ります」

 

「よろしい…。では、今この時より勇者の称号を与える。貴公に真実の剣を授け、これが貴公を導く指針となるであろう」

 

 真実の剣が授与される。

 トルマリンがきらりと光る。

 横で大臣が「象徴として実に分かりやすい」とうなずいていた。

 

 謁見の儀式が終わった。

 これで晴れて第5389代勇者となったのだ。

 

三日三晩の宴が続いた。

 

派閥ごとに乾杯があり、

派閥ごとに激励があり、

派閥ごとに「今後ともよろしく」があった。

 

 勇者はだんだん、誰によろしくすればいいのか分からなくなった。

 

 執事のセバスチャンともすっかり打ち解けたころ、勇者は旅立ちを告げられた。

 

「勇者様、仲間をご紹介いたします」

 

 セバスチャンは宮廷の一室へと勇者を案内する。

 

かつては勇者には、侍。僧侶。戦士の3人がいる。

――そのことを、勇者は完全に失念していた。

 

 案内された会議室の一室にいた、4人の女性が勇者に深々と頭を下げる。

 

「こちらが新たな仲間でございます。勇者様」

 

 勇者の瞳孔が少し広がり、セバスチャンを一瞥する。

 

「お初にお目にかかります。皇族騎士です。よろしくお願い致します」

 深紅のサーコートを金髪のいかにも名家出の騎士が声をかける。

 

「あたしは白銀騎兵だ。よろしくな」

 槍を手に持った褐色娘の兵士が勇者に握手した。

 

「貴方との旅。素晴らしい知見を至ることを期待したい」

 魔導書を持った大魔導士が会議室を魔法で彩る。

 

「…聖女です…。あの…その…よろしく…します…。怪我がないようにお祈りを…」

 小声の聖女が、祈りのポーズで祝詞をあげる。その祝詞で勇者のストレスは消え去った。

 

「さあ、勇者さま。魔王退治の始まりです」

 

「まて。俺の仲間どうした?」

 

あるものは田舎に帰り、

あるものはお金を渡され、

あるものは幽閉された。

――それは別のお話である。

 

「皆様。職務を放棄されました。そして今いるのが現時点で最高峰のメンバーです」

 

 これでも何かご不満か、とセバスチャンのどや顔が勇者に無言の圧力をかける。

 

「え、いや、まあ…、うん。行ってきます」

 

こうして、勇者の長く苦しい戦いは始まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。