勇者なのだが、いつもの仲間がいないのだが? 作:むーんしゃいん
国王陛下による即位の儀が、厳かに行われていた。
まず、世界大教皇の幼女様が、勇者の頭に、聖油を注ぎ、神への奉仕を誓わせる。
そして、国王陛下と勇者となる選ばれた冒険者は、政治家や官僚、貴族たちが彼らを見守る中、宣誓を行う。
「強きをくじき、弱きを助ける。気高き勇者になる事をここに誓い。国王陛下と世界大教皇の世が続くことを祈ります」
「よろしい…。では、今この時より勇者の称号を与える。貴公に真実の剣を授け、これが貴公を導く指針となるであろう」
真実の剣が授与される。
トルマリンがきらりと光る。
横で大臣が「象徴として実に分かりやすい」とうなずいていた。
謁見の儀式が終わった。
これで晴れて第5389代勇者となったのだ。
三日三晩の宴が続いた。
派閥ごとに乾杯があり、
派閥ごとに激励があり、
派閥ごとに「今後ともよろしく」があった。
勇者はだんだん、誰によろしくすればいいのか分からなくなった。
執事のセバスチャンともすっかり打ち解けたころ、勇者は旅立ちを告げられた。
「勇者様、仲間をご紹介いたします」
セバスチャンは宮廷の一室へと勇者を案内する。
かつては勇者には、侍。僧侶。戦士の3人がいる。
――そのことを、勇者は完全に失念していた。
案内された会議室の一室にいた、4人の女性が勇者に深々と頭を下げる。
「こちらが新たな仲間でございます。勇者様」
勇者の瞳孔が少し広がり、セバスチャンを一瞥する。
「お初にお目にかかります。皇族騎士です。よろしくお願い致します」
深紅のサーコートを金髪のいかにも名家出の騎士が声をかける。
「あたしは白銀騎兵だ。よろしくな」
槍を手に持った褐色娘の兵士が勇者に握手した。
「貴方との旅。素晴らしい知見を至ることを期待したい」
魔導書を持った大魔導士が会議室を魔法で彩る。
「…聖女です…。あの…その…よろしく…します…。怪我がないようにお祈りを…」
小声の聖女が、祈りのポーズで祝詞をあげる。その祝詞で勇者のストレスは消え去った。
「さあ、勇者さま。魔王退治の始まりです」
「まて。俺の仲間どうした?」
あるものは田舎に帰り、
あるものはお金を渡され、
あるものは幽閉された。
――それは別のお話である。
「皆様。職務を放棄されました。そして今いるのが現時点で最高峰のメンバーです」
これでも何かご不満か、とセバスチャンのどや顔が勇者に無言の圧力をかける。
「え、いや、まあ…、うん。行ってきます」
こうして、勇者の長く苦しい戦いは始まった。