魔王外伝: あの男が帰ってきた   作:nocomimi

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第十一話: 勇者、いつぞやの強敵に出会う

「実は....」

 

リンクは思い切って顔を上げ、言った。

 

「実は魔王は生きてるんだ」

 

そう言った後、二人は凍り付いたようにリンクを見た。

 

「じょ...冗談だろリンク」やっとのことでシャッドが沈黙を破った。「無論冗談だよね?」

 

「いや、本当だ」リンクは言うと続けた。

 

「奴は復活したらしいんだ。最近奴を見たんだ」

 

シャッドは眼鏡の奥の目を丸くしてまた凍り付いてしまった。アッシュが口を開いた。

 

「リンク殿、奴と再び戦ったのか?」

 

リンクは首を振った。

 

「結局戦いにはならなかった。だけど奴が生きているのは間違いない。言葉も交わしたからね」

 

「なんということだ」アッシュは真剣な面持ちで呟いた。「こんなところで冒険している場合ではないな」

 

彼女は顔を上げ、リンクとシャッドを見ると言った。

 

「ご両人、次の帰還ポイントで地上に出て城に取って返そう。ラフレル殿に話せばすぐに軍を動員できるはずだ」

 

彼女は頭をフル回転させはじめたようだ。片手を顎にあてて来たるべき戦争の算段を始めた。

 

「防備を整え、食料を備蓄し、跳ね橋を上げれば数か月は籠城できる。リンク殿、その間に私と貴殿できゃつの居所を突き止め、その首を.....」

 

「いや、その必要はないよ、たぶん」リンクはそう言った。「たぶん必要ないと思う」

 

「何ゆえ?」アッシュが怪訝な顔をする。リンクは説明した。

 

「奴が言うには、もうハイラル城に興味を失ったっていうんだ」

 

「興味を失った?」アッシュはますます混乱したようだ。

 

「では、奴は他の地域を征服するつもりなのか、リンク殿?」

 

リンクはまた首を振った。

 

「あいつ、そもそも野心自体を失ったみたいなことを言ってた」

 

そう言うと、彼は自分の剣を抜いて、刀身を見つめた。

 

「ミドナが言うには、僕の剣には不思議な力があるらしいんだ」(注*)

 

アッシュとシャッドは聞いている。

 

「あいつ、僕に止めを刺されたとき魂の一部を抜き取られたって言ってたよ。僕の剣に本当に魔を払う力があるっていうんなら、もしかするとそのせいかも知れない」

 

そこまで話すと、リンクは剣を納めて顔を伏せた。

 

「本当にそれを信用できるかどうかはわからないけど.....。だけど、この洞窟を魔物から取り戻すには奴に頼るしかないんだ。大妖精が言ったように」

 

沈黙が続いた。アッシュもシャッドも、この状況をどう整理していいかわからないらしい。

 

「一つ言えることがある」アッシュが顔を上げた。

 

「我々がこの洞窟を掃討するのを諦めた上で、奴に依頼するというのはいかにも具合が悪い。奴が愛に溢れた慈善家に生まれ変わったのでもない限り、弱みにつけ込まれ、その後戦さをするにせよ和平するにせよこちらに不利な条件を押し付けられる可能性が高いだろう」

 

「僕も全く同じことを考えていたんだ」リンクが答える。

 

「僕もまずは自分たちの力でこの洞窟の魔物を打ち払いたい。一時的にでもね」

 

「賛成だよ」シャッドも言った。

 

「でもリンク、ちょっと気になるんだけどさ」青年は続けた。

 

「なんだいシャッド」

 

「その復活した魔王って...まさか城下町でラーメン屋やってたり...しないよね?」

 

シャッドは軽い気持ちで尋ねてきているようだ。だがリンクは溜め息をついた。とうとう本当のことを話さねばならない。しばらく間を置くと、彼は呟くように言った。

 

「いや、そのまさか、なんだ」

 

今度こそはアッシュもシャッドも心底からたまげたようだった。二人がしばらく黙りこくっている間、リンクは自分が唾を飲み込む音が聞こえるような気がした。

 

「なんたることだ」アッシュが再び腕を組む。シャッドに至っては口もきけないほどの驚きようのようだった。

 

「リンク殿、お人が悪いにも程があるぞ」アッシュは言った。

 

「謝るよ、本当に」リンクはアッシュに頭を下げた。「だけど、奴が戻ってきて最初に言葉を交わしたとき、半々の気持ちがしたんだ。信用できないかも知れないけど、もしかすると改心したかもってね」

 

「それで人物を見定めるように、と言われたのか?」

 

アッシュに尋ねられリンクは頷いた。

 

「なるほど。それで素性を告げずに我々に面談させたわけだな」

 

「ごめん。それと知らずに奴の料理も食べさせることになっちゃって」

 

リンクは謝罪の言葉も尽きてきてしまっているような気がした。もしこれで魔王が改心していなければ自分はどうすればいいのだろう。

 

「いや、その点は私はあまり案じてはいない」アッシュは腕組みしたままリンクを見た。

 

「ある意味、あのように面談させた貴殿の選択は賢いと言える。先入観なく相手を評価できるからな」

 

アッシュは続けた。

 

「私とラフレル殿の評価はお聞かせした通りだ。改心が本物だと言うのは過大評価としよう。だがあの男、あの場で見た限り本物の飲食店店主をやりたがっているとしか思えん」

 

「そうか...」リンクは呟いた。

 

「やはり誓いを立てさせてよかった。貴殿が隠し事をしなくなったからな」アッシュは微笑むとリンクの肩に手を置いた。リンクは力なく微笑んだ。

 

「リンク、だけどもしもだよ」

 

シャッドがやおら口を開いた。

 

「もしも奴が本当に改心したんだとしたら、これほど力強い味方はいないんじゃあないか?」期待を込めるように青年は続ける。

 

「あいつの力は計り知れない。一つの国に対抗できるくらいなんだから。凄くないか?」

 

「それは楽天的に過ぎるのではないか、シャッド殿」アッシュが否定した。

 

「古来、悪人がそれほど劇的な改心をするのは稀だ。貴殿も歴史家なら知っていよう」

 

「それはそうさ」シャッドはやや憮然とした。「だけど、少しは期待してみたっていいだろ?」

 

「ともかく、この冒険を完遂したら一度奴と話をしてみよう」リンクは提案した。

 

「ふむ。言うだけ言ってみる価値はあるかも知れぬ」アッシュは応じた。「だがあまり高望みはできぬと私は考えるが」

 

「よし、もう一仕事だね」シャッドは気合いを入れて袋を背負い直した。

 

出口を通り抜けて次のフロアを見下ろす。熱線を放つ警備装置が五台設置されそれぞれ回転している。そこここに蝙蝠が飛んでいた。

 

リンクは弓矢で警備装置のレンズを全て破壊すると、パチンコを持って飛び降りた。蝙蝠どもを全て撃ち落とす。だが、出口には柵がかかっていた。魔物どもがいなくなり、出口扉がスライドして開いたが柵が邪魔だ。だが、出口の左右に、天空文字の回収の冒険に行ったとき見た梟のような石像が一台づつ据えてあった。何かの役に立つかもと思って持ってきていた天空の杖をシャッドの袋から取り出すと、リンクはスイッチを入れ石像に向けて振ってみた。やはりだ。石像の中心部分の穴に光がともり、リンクの動きに追随して動く。二台の石像を移動させると、金網が開いて通れるようになった。

 

次のフロアは、天井に火炎ナメクジが六匹、そして床には火吹き大蜥蜴が二匹いて、炎に包まれた蝙蝠や同種の羽つき頭蓋骨も飛び回っていた。リンクは安全を期して爆弾矢で大蜥蜴二匹を片付け、それから通常の矢で天井に貼りついた化け物を撃ち落とした。そうしているうちに、羽つき頭蓋骨の化け物がこちらを見咎めて寄ってくる。それをアッシュが剣ではたき落した。

 

あらかた下処理が済むと、リンクとアッシュは飛び降りて残りを片付けた。シャッドも降りて続く。出口を出て次の部屋を見下ろすと、ギプドが四体立っている真ん中に、幽霊のカンテラの明りが浮かび上がっていた。

 

「厄介だな」見下ろしてリンクが言った。「幽霊は通常の武器では無理だ。それにあの中に飛び込んだら叫び声で麻痺させられる」

 

「どうされる?」アッシュが尋ねる。

 

やむなく爆弾矢を使うことにした。シャッドに八つ爆弾を出させると、矢に取り付けて爆弾矢とし、ギプドを次々射撃した。きっかり八発で全員を黙らせ、次にリンクは下に飛び降りて服を脱ぎ、狼に変身した。幽霊も危なげなく始末すると、また足場の真下に入って人間に戻った。

 

三人で次のフロアに向かう。だが、次のフロアを見下ろすと、何一つ生き物の姿が見えないのに鼠の鳴き声だけが響く。

 

「また幽霊だよ」リンクはうんざりした声で言った。「済まない。今回も君たちはここで待っててくれ」

 

リンクは足場から降りると再び狼に変身した。神経を研ぎ澄ますとそこらじゅうに幽霊鼠がいるのが見える。片端から噛み砕き、飛び付いてくる奴を跳ね飛ばす。

 

だが部屋の中央あたりにくると、いきなり天井から大量のチュチュが落ちてきた。

 

「リンク殿!」アッシュの声が聞こえる。だがリンクは一瞬目線を送り、問題ないと合図した。何匹かの幽霊鼠が飛び付いてきて身体が重くなった。だが構わずチュチュに片端から噛みつき、噛み千切る。人間の時と違って動きが早い。ひと暴れしていると、やがてチュチュも幽霊鼠もいなくなった。

 

人間に戻って身支度しているとアッシュが降りてきた。続いてシャッドも来る。

 

「狼姿では身体能力が大幅に増す。これも極めて有効な武器ではないか?」

 

アッシュが感心して言った。

 

「そうだね。ザントのお陰だよ。僕に呪いをかけたつもりが、新たな能力を付与しちゃったようなもんだからね」

 

例の呪具を仕舞いながらリンクも笑う。

 

「それ、僕もやってみていいかい?」シャッドが横から口を出してきた。

 

「ちょっとお勧めしないなあ」リンクは答えた。「最初はとても不愉快なんだ。それにもし戻れなくなっても困るしね。ちょっと貸すのは難しいな」

 

「なんだ、つまらないな」シャッドは口を尖らせた。「せっかく今の僕は何でもやってみようって気なのに」

 

「シャッド殿、次骸骨頭どもがいたらお頼み申すぞ」アッシュが青年の肩に手を置いた。「もはや貴殿はチェーンハンマー使いだ。堂々と名乗って良いのではないか?」

 

「本当かいアッシュ?」シャッドは心底から嬉しそうな声を出した。青年は自信に満ちた顔で袋を背負い、フロアの出口に向かった。

 

だが、次のフロアを見渡したときリンクは舌打ちした。床の中央に巨大な柱のような氷塊が立っている。赤い小さな目がいくつもついており、荒く彫刻したような牙の生えた口もある。その周囲には白い霧を纏った蝙蝠が数匹舞っていた。

 

「一番厄介な奴のひとつだ」

 

「フリザドだな」アッシュも傍らで言う。

 

「奴にはチェーンハンマーしか効かないんだ」

 

リンクはそう言うとシャッドの背中の袋に手を伸ばした。

 

「アッシュ、僕が行くよ。君は援護を頼む」

 

「いや、僕に行かせてくれ」シャッドが声を上げた。リンクは思わず驚いてその顔を見た。

 

「シャッド、奴の危険性は今までの魔物とはけた違いだぜ。あの吐息をかけられたら...」

 

「知ってるよ。アッシュから教わった。数秒間全く動けなくなるからその間無防備になる上、低体温症になるかも知れないってね」

 

シャッドはそう言ったあと、リンクを見つめた。その目の力にリンクは思わず圧倒されてしまいそうになった。

 

「知った上で言ってるんだ。僕はもう机の上の学問だけに強い男からは卒業したい。それには危険を冒して成長していかなきゃならないんだ」

 

リンクは絶句してしまった。アッシュの方を見ると、彼女は構わないというニュアンスで軽く頭を傾ける。結局リンクは二人に任せることにした。

 

「シャッド殿。私が奴の攻撃を引きつけながら蝙蝠どもを落とす。その間に鉄球を当てられよ」

 

そう言うとアッシュは剣を抜きながら念押しした。

 

「二度だ。二度当てぬと奴は崩れぬ。その後奴は分裂する。全員叩き潰すまで鉄球を振り回すのを止めてはいかぬ。よろしいな?」

 

「了解だ。任せてくれ」シャッドも言う。

 

まずシャッドが荷物を先に下ろしてチェーンハンマーを投げ落とし、ロープを垂らして床に降りた。アッシュは剣を抜いて素早く飛び降りる。

 

フリザドが二人を感知したらしく動き始めた。アッシュは素早くそいつに走り寄ると、相手が自分の方を向いて口を開けた瞬間に横っ飛びした。途端にフリザドの口から冷気が噴き出す。アッシュはそのギリギリ前を走る。上空にいる蝙蝠どもが反応するが早いが、彼女は走りながら剣を振って叩き落していった。

 

シャッドがチェーンハンマーの鎖を引っ張って振り回すと、鉄球をフリザドに投げつける。だが、距離があり過ぎて届かなかった。慌てたシャッドは鎖を手繰って鉄球を回収し、それを抱えて必死にフリザドに近づいていった。

 

一方、フリザドは冷気を吹きかけながら半周もすると、素早いアッシュを捉えるのを諦めてしまったのか、一旦冷気を止めた。そして近づいてきたシャッドに気づいたかのように急にぐるりと向きを変え、彼に向けて口を開けた。

 

「シャッド!」リンクは叫んだ。シャッドが鉄球を振り回して放つのと、フリザドが冷気を吹きかけたのはほぼ同時だった。鉄球がフリザドにぶち当たり、ヒビが入る。同時にシャッドが化け物の吐く冷気に包まれ、凍り付いたように動きを止めた。

 

まずい。リンクは飛び降りた。その時、化け物の裏手で蝙蝠を叩き落し終えたアッシュが剣を納めるとフリザドにわざと近づいていった。フリザドは再びぐるりと向こうに向きを変える。

 

その瞬間、リンクはシャッドのもとにダッシュした。彼がとり落とした鎖を取り上げ、巻き添えにしないよう横っ飛びすると、鎖を引っ張り上げて鉄球を回し敵に叩きつけた。フリザドが崩壊し、小さな氷塊四つほどになった。それらすべてに鉄球を叩きつけて壊すと、リンクは鎖を放り出してシャッドの傍らに駆け寄った。囮になっていたアッシュも駆けつける。

 

シャッドは凍り付いたように動かない。リンクは焦った。だがアッシュは冷静にシャッドを横たえると、腰のポーチから気付けの蒸留酒を取り出して少しシャッドの口に含ませた。数秒すると、シャッドは激しく咳き込みながら身じろぎし始めた。

 

「死ぬかと思ったよ」シャッドは呟いたが、二人にウインクして見せた。「ちょっとドジ踏んじゃったかな。次からは鎖の長さと敵との距離を考えなきゃね」

 

リンクはやや安堵したがシャッドの状態が心配だった。だが、彼はすぐに立ち上がり、リンクが荷物を持つと提案しても自分でやると言い張った。二人が言い合いながら出口を抜けると、先に行っていたアッシュが声をかけてきた。

 

「見られよ。ご両人」

 

彼女の傍らに立って階下を見下ろすと、槍を持った氷柱戦士が四体散開している。

 

「私の得意分野だな」アッシュが言う。「何度となく戦った魔物だ」

 

「アッシュ、奴らは手練れだよ。爆弾矢で数を減らそう」リンクは提案した。

 

「僕のチェーンハンマーの出番はないのかい?」シャッドが生き生きとした顔で言う。まるで、さっき一度魔物の打撃を喰らったことでかえって免疫ができたかのようだった。

 

「奴らは槍を投げてくる。二匹以上相手にするときは素早く動かないと危険なんだ」リンクが説明する。

 

結局相談のうえ、まず爆弾矢で半分に減らしてからアッシュが奇襲することになった。爆弾矢を四つ拵えたリンクが、フロアの向こう側にいる個体から狙いをつける。放って命中させると、今度は横移動して逃げる。そいつが地面から氷を引き出し再武装しようとして止まった瞬間、二発目を放った。そうして二体を倒した後、アッシュが飛び降りていった。硬い氷が砕ける音が何度か響くと、降りてくるようにと彼女の声がした。

 

「あと三階層で泉だ」降りてきた二人に振り向くと、アッシュは言った。「矢と爆弾の残りはいかがな具合だ?」

 

「矢は三十本ほどある。だが問題は爆弾だ」リンクは言った。「半袋分くらいかな」

 

「いよいよ倹約が必要だ」アッシュは言う。「あるいは、次の泉で一度冒険を中断するか、だな」

 

「それでもいいけど、そうしたら次は僕は自前の爆弾袋と自前のチェーンハンマーを買うことにするよ。君たちと再挑戦したい」

 

シャッドは意気込んで言った。

 

「大した変わりようだ、シャッド殿」アッシュは賞賛を込めて言った。「だが、そうなるともちろん剣の稽古は今までより積極的にされるのであろうな?」

 

そう言われるとシャッドは途端に項垂れた。「剣の稽古は苦手なんだ。地味だし筋肉痛がするしね....」

 

リンクは青年の肩を叩いて励ます。三人で出口をくぐって次のフロアを見下ろした。今度は羽つき頭蓋骨の化け物が八匹も飛び回っている。

 

「早速僕の出番かな」シャッドは言った。「あれくらいなら振り回しているうちに叩き落せそうだ」

 

「おいおい、すごい自信だなぁ」リンクは苦笑いして言った。

 

「シャッド殿、あの頭骸骨をよく見られよ」アッシュが指さす。

 

「白い霧を纏った個体は厄介だ。攻撃を受けるとまたしばらく動けなくなる。あまり立て続けにあの状態になると命の危険が生じるかも知れぬ」

 

それを聞いたシャッドは一瞬だが息を詰まらせた。

 

「わ...わかった。悔しいけど君らに任せるよ」

 

リンクはもう一度シャッドの肩を叩いた。アッシュと二人で飛び降り、フロアの中央に近づく。羽つき頭蓋骨どもがこちらに近寄ってくる。その時だった。アッシュの周囲に、以前見た棘付き野菜のような生き物が一ダースほども地面を破って姿を現した。

 

「アッシュ、任せたぞ!」リンクは叫ぶと、羽つき頭蓋骨どもを引き寄せるため大声を出した。盾を上げると、たちまち数匹が体当たりをかましてくる。自分の横の空中にも攻撃態勢に入った個体がいるのが視界に入った。

 

バックフリップして横からの攻撃を躱すと、回転斬りを放って数匹を叩き潰した。一方、野菜の化け物に囲まれたアッシュはまだ動いていない。頭蓋骨の化け物が再びリンクを包囲しようとする。リンクは咄嗟に横っ飛びし、次いで前転して敵群と場所を入れ替えると、跳躍しつつ剣を振ってまた数匹を撃墜した。

 

その時、気合と共にアッシュが回転斬りを放った。野菜の化け物どもが全て真っ二つになって果てる。頭蓋骨どもをあらかた叩き落したところで、リンクはシャッドを呼んだ。化け物どもにまた羽が生えないうちに、青年にチェーンハンマーの練習をさせた。

 

シャッドが敵の残党を全て処分したところで、一行は小休止を取った。彼の疲労が濃いように見えたからだ。

 

「思ったより疲れたかもね。冒険者って体力がいるなあ」

 

シャッドが地面に足を投げ出して言う。そこへアッシュが諭した。

 

「だからこそ普段の鍛錬が肝心なのですぞ、シャッド殿」

 

「アッシュもラフレルみたいな言い方しないでくれよ。もうちょと軽いノリっていうか、気軽にできないものなのかなぁ」

 

シャッドがぼやくのを聞いてリンクは笑った。だが、冒険の失敗は死を意味することを考えると、冗談ばかりも言っていられない。

 

「さあ、あと少しだ」二人の状態を確かめるとリンクは立ち上がった。「まずあと二階層を突破する。それから先のことはその後考えよう」

 

三人は出口を抜けて次のフロアを偵察した。だがそこでリンクもアッシュも腕組みして黙ってしまった。

 

床の二か所に、あの巨大な氷柱の化け物、フリザドがそれぞれ鎮座している。さらに、槍で武装した氷柱兵士が四体。加えて、白い霧を纏った羽つき頭蓋骨が三体と、同種の蝙蝠も三体飛んでいる。

 

「こいつは難儀になりそうだね」リンクは眉をひそめて呟いた。

 

「貴殿の申されたとおりであったな。これぞ冒険者冥利というものだ」アッシュは答える。

 

「楽しんでる場合じゃあないよ。どうやって切り抜けるか考えなきゃ」リンクは言った。

 

「あの場所とあの場所に立っていればあの化け物の吐息は届かなさそうだね」身を乗り出してシャッドが指を指した。

 

「あの場所とあの場所っていったいどこだい?」リンクは尋ねる。するとシャッドは床に座り込むと図形を書き始めた。正八角形だ。

 

「いいかい、ここに今立ってる場所がある」シャッドは一辺を指さした。彼はそこと、その対角線上にある辺に×印をつけた。

 

「この二か所は化け物の位置から一番遠い。そこから近づけば、もし息を吹きかけられそうになっても予備動作で逃げられるかも知れない」そう言ったところで彼は付け加えた。

 

「君たち...ならね。僕は無理だけど」

 

「シャッド、君は凄いよ」リンクは感心した。「君みたいに頭のいい人はミドナ以来だな」

 

「それはほめ過ぎだよ」シャッドは照れた。「僕はただの学問オタクさ」

 

「上々だ。作戦を決めよう、リンク殿」

 

話し合いの上、爆弾を消費してしまうが、最初に出来るだけ氷柱兵士と羽つき頭蓋骨を爆弾矢で排除してしまうことになった。リンクはシャッドの袋から爆弾をありったけ取り出し爆弾矢をいくつも拵えた。

 

足場から身を乗り出して氷柱兵士を狙っていく。第一撃を喰らった個体がフリザドの陰に隠れてしまい仕損じてしまうこともあったが、どうにか爆弾を使い果たす前に全個体を粉砕した。さらに、こちらを見咎めて近寄ってきた羽つき頭蓋骨をアッシュが叩き落していく。

 

残りは蝙蝠とフリザド二体だけだ。リンクとアッシュは余計な装備を外して身支度しながら突入の手順を打合せた。

 

「僕はチェーンハンマーを下に投げおろすんだね」

 

シャッドが自分の役目を確認する。

 

「僕自身は行かなくていいのかい?」シャッドは尋ねた。

 

「ああ。君は待機していてくれ。一度負傷したから温存しておきたいんだ」リンクは言ったあと付け加えた。

 

「だが、もし僕がやられたら降りてきてくれ。そのための要員さ」

 

それを聞くと、シャッドの顔が誇りでみるみる輝いてきた。

 

「まかしといてくれ、リンク」青年は右手で拳を作って親指を突き出した。

 

「貴殿は人を乗せるのも上手い」傍らに立ったアッシュが微笑む。「やはり指揮官に向いているな」

 

「どうかな」リンクは笑った。二人は合図すると同時に飛び降りた。着地すると、足場の真下に避難する。次に、アッシュを先頭に立て、タイミングをずらして左側のフリザドのほうに向かう。アッシュの接近に気づいたフリザドが大きく口を開けた。その瞬間アッシュはダッシュして裏手のほうに走り込んで行った。

 

「シャッド!」リンクが叫ぶ。シャッドが投げた鉄球が鎖もろともリンクとフリザドの中間あたりに落ちてきた。リンクは走り寄って鎖を拾い上げると、それを振り回して鉄球を化け物に投げた。アッシュを追い詰めんとして身体を回転させながら冷気を吐き散らしていた化け物は、衝撃を受けて一瞬だが冷気を吐くのをやめた。リンクは素早く鎖を引き寄せ、もう一度振り回して鉄球を投げつけた。二度目の打撃を喰らった化け物が砕け散り四体の小さな氷塊になった。さらに鉄球を振り回して全てを叩き潰す。顔を上げると、アッシュが蝙蝠どもを叩き落しながらこちらにやってくるところだった。

 

ようやく一息をついて合流するとアッシュが言った。

 

「リンク殿、あと数秒遅れていたら私が凍り付くところであったぞ」

 

やや微笑んでいる。だがリンクは丁重に謝っておいた。

 

「ごめんアッシュ。今度は役割を変えようか?」

 

「よかろう」彼女は同意した。

 

リンクは呼吸を整えた。そして、チェーンハンマーの鎖を持って鉄球を振り回し、目標のフリザドのほうまで投げると、自分が先頭に立ってそいつに近づいていった。こちら側の壁際の近くを通って接近し、敵の注意を引くと、相手が口を開けた途端に反対側に向かって半円を描くようにダッシュする。背後に凄まじい冷気を感じながら走り抜けると、やがて冷気が止まった。振り向くと、アッシュがチェーンハンマーを振るって化け物に第二打を加えているところだった。彼女はそのまま鎖を振り回し、分裂して出てきた氷塊も打ち砕いた。

 

「君は何をやらせても要領がいいなぁ」リンクは感心した。

 

「私はこの武器は好きではない」アッシュは鎖を放り出すと言った。「持つことにより素早い動きが封じられるからな」

 

「おおい、僕を置いてけぼりにしないでくれよ」シャッドがロープを垂らして降りてきた。

 

「あと一階層だね」チェーンハンマーを仕舞うと彼は顔を上気させて言った。「さあ、何が出てくるかな?」

 

「期待しててくれって言いたいとこだけど、もう十分だろ?二人とも」リンクはアッシュを見た。「僕はこの階層が終わったら帰還しようかなって思ってる。補充が必要だね」

 

「私は実のある冒険だったと思っている」アッシュは言った。「あと一階層で終わっても構わない」

 

三人は装備をまとめると、話し合いながら出口を潜った。だが、その先の足場から次の階層を見下ろした瞬間リンクはしばらく沈黙してしまった。

 

そこにいたのは、兜と面甲を被って全身を重い装甲で覆い、巨大な盾と戦棍を携えた、異様に背の高い武者だった。

 

あいつだ。時の神殿とハイラル城で戦った鎧武者。

 

それが二体もだ。

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