「危ない!」
リンクは咄嗟の判断でアッシュの襟首を掴んで引き戻した。その頭の上を矢が通過する。
「リンク殿!私は...」
アッシュは身を低くしつつも抗議した。
「分かってる!喧嘩は後だ!」
リンクはシャッドにも身振りで伏せるように指示した。矢が空気を切り裂く音が次々聞こえる。リンクは背中から弓を下ろし矢立てから数本矢を抜いて床に置いた。
階下からの矢の乱れ撃ちが止んだのでリンクはそっと踊り場の床の縁から顔を出し、様子を伺った。だが気づかれてたちまち矢が射掛けられる。リンクはすぐに顔を引っ込めた。
「シャッド、爆弾をくれ!」
リンクが叫ぶ。また矢が飛んできた。だが狙いは高く、リンクたちのいる場所の天井に突き刺さった。シャッドが首をすくめながらも装備袋を開けて爆弾を何個かリンクのほうに転がしてくれた。
リンクは爆弾矢をひとつ拵えると、弓につがえて点火した。素早く踊り場の縁から身を乗り出す。三匹のブルブリン弓兵が散開しているのが見えた。瞬時の判断で真ん中の一匹を狙って放ち、すぐに身体を引っ込める。また矢が射掛けられ、踊り場の縁をかすめて天井に刺さる。
爆発音と鬼の悲鳴がした。リンクはすぐに次の爆弾矢を拵え、弓につがえて点火した。敵の射撃が止んだ一瞬を突いて身を乗り出し、生き残りの片方を狙い撃ちし、また退避する。二匹目が倒れると、リンクはもう一匹は通常の矢で狙うことにした。陽動のため一瞬だけ身を乗り出してまた引っ込む。すると次々に矢を射掛けてきた。そのサイクルを縫ってリンクは弓をつがえながら身を乗り出して敵を狙い、一発で射殺した。
やがて数秒たつと、フロアが静まりかえった。
「リンク殿。獲物の独り占めはしないと言ったばかりではないか」
アッシュは立ち上がりながら抗議した。リンクに強制退避させられたことに少し気を悪くした様子だったが、どうやら安全第一の方針を思い出したようだ。だが別のことで文句を言ってきた。
「そうだったね。君にも弓を持ってきてくれるよう頼むべきだったよ」
リンクはバツの悪い顔をしながら、使わなかった矢と爆弾を片付けた。
「あんな連中がこれからも出てくるのかい?」
言いながらシャッドが恐る恐るフロアを覗き込む。
「たぶんね」
弓を背負い、支度を終えるとリンクは答えた。
「前回の記憶だと九階層目でもう一度弓兵どもが出てくるんだ。その先はわからないけど」
「リンク殿、帰還ポイントは十階層目にあったのだな?」
アッシュは確認した。
「ああ。そこに大妖精がいたんだ。僕を表に出してくれたよ」
「ということは九階層目まで突破しなければ引き返せないということか」
アッシュは腕を組んで、やや真面目な口調で言った。
「シャッド殿、貴殿には申し訳ないがそれまでは前進しかないようだ」
「怖いならお前だけ帰れ...ってわけに行かないんだね。わかってる。覚悟は決めてるよ。何にせよアッシュのお仕置きよりはだいぶマシだからね」
シャッドはそう言うと、リンクの渡した装備品を袋に入れて担いだ。だが、その顔を見ると眼鏡の奥の目が笑っていない。
「その通りなんだ」
リンクは引き取った。このダンジョンの恐ろしさがようやくアッシュにもシャッドにも身に染みたらしい。リンクもまた、単独で踏破しようとした前回の自分の無謀さが思い出され、寒いものが一瞬背に触れた気がした。
「アッシュ、安全優先のためだ。面倒な敵がいる場合、フロアに降りる前に僕が爆弾矢でできるだけ排除して、それから降りるようにしたい」
「獲物は山分け、に反するが、安全のためやむなし...か」
腕を組んだままアッシュが呟く。
「了解した。剣を過信し弓矢を持参しなかった私の落ち度でもあるからな」
アッシュが素直に同意してくれたのでリンクも安心した。三人はフロアに降りると出口から次の階層に向かった。
出口を潜り、用心深く踊り場の上を前進して見渡すと、天井に多数の火炎ナメクジが貼りついているのと、床に数匹同種の連中がいるだけで他の敵はいないようだ。リンクが弓に矢をつがえて次々と魔物を撃ち落としたあと、三人はフロアに降りた。リンクとアッシュが剣を抜いて床にいる敵の残党を片付け、皆で出口から次の階層に進んだ。
踊り場から下を観察すると、火炎蝙蝠がヒラヒラと飛び、火吹き大蜥蜴が二匹うろついている。リンクは爆弾矢で火吹き大蜥蜴たちを先に片付けると、剣を抜いてアッシュとともに飛び降りた。
盾を構え、アッシュと背中合わせで掃討していく。だが蝙蝠どもの数は五匹ほどで、ほどなく全て剣で叩き落すことができた。
シャッドも合流し、開いた扉から三人で先に進む。踊り場から見下ろしたフロアには巨大アメンボが六匹ほど群生しているのが見えた。
「リンク殿。あの手の虫に爆弾を使うのは浪費に過ぎるのではないか?」アッシュが言う。リンクも同意した。
「そうだね。剣で行こう」
「二人とも頑張ってくれ。僕はここで待ってるよ」
シャッドがそう言って、飛び降りるリンクとアッシュを見送った。
フロアに降りると、魔力の影響を受けた虫たちはすぐに二人を見咎め、向かってきた。
「高く飛ばれると面倒だ。その前に仕留めよう!」
リンクが言った。二人は剣を抜き放った。リンクは敵の群れに突進すると回転斬りを放つ。二匹ほどが直撃を受けて崩れ落ちる。アッシュは、近づいてきた一匹に深い突きを三度放って仕留めた。だがそのとき、もう一匹が高く跳躍して彼女に襲い掛かった。
「アッシュ!」
リンクがさらに手近の一匹に走り寄って縦斬りを叩きつけたあと、肩越しに振り向きながら警告する。
「心配ご無用!」
アッシュは軽い身のこなしでバックホップした。先ほどまで彼女がいた場所に棘だらけの魔物の脚が食い込む。女剣士は気合を発して回転斬りを繰り出した。化け物虫は真っ二つになるほどの深手を負って絶命した。
リンクが自分の割り当ての最後の一匹を仕留めた。アッシュも横斬り、縦斬り、袈裟斬りを続けざまに繰り出してもう一匹を仕留める。
「終わったみたいだね。二人ともカッコ良かったよ」
二人が剣を納めると、シャッドがロープを垂らして降りてきた。その時だった。シャッドの足元に転がっていた一匹の虫が死に損なっていたのか、カチカチと顎を鳴らし始めた。
「うわっ....」シャッドは思わず尻餅をついて腰を抜かしてしまった。巨大アメンボは体中の傷から体液を垂れ流しながらもシャッドににじり寄る。
「シャッド!」リンクは思わず剣を構え直して走り寄ろうとした。だがアッシュは手を伸ばしてそれを止めた。
「シャッド殿、チェーンハンマーを使われてはどうか」
平静な声でアッシュが呼びかける。シャッドは慌てて立ち上がったが、初めて間近で見る魔物に圧倒されておよび腰だ。だが巨大虫は最後の生命力で辛うじて動いているだけらしい。震えながら這ってはいるが、跳躍することも噛み付くこともできないようだ。
「チェーンハンマー....?ああ、チェーンハンマーか...えっと、えっと...」
シャッドが後退りしながら袋を肩から下ろし中を探る。鎖と鉄球を握り引っ張り出すと、青年は袋を脇に捨てた。鎖を手に巻き付けて握り、シャッドは鉄球を振り回し始めた。
「今だ、投げろ!」リンクが声をかける。シャッドが鉄球を放ると、それは巨大アメンボに直撃し、甲羅を粉砕された魔物は体液を撒き散らして動かなくなった。
「シャッド殿。初手柄ではないか」アッシュは拍手した。リンクも苦笑しながら手を叩く。
「ふうう」シャッドは溜め息をついた。「虫は嫌いじゃないけどこんな大きい奴は例外だね」
「みんな、次のフロアにも弓兵がいるはずなんだ」リンクは言った。「今度は慎重に行こう」
「心得た」アッシュも言う。「矢の一本や二本躱せないと貴殿に思われるのは癪だが、安全第一だからな」
「ぼ....僕はどうしたらいいのかな?」シャッドがチェーンハンマーを仕舞って袋を担ぎ直しながら言った。
「もちろん君も来てくれ」リンクは笑った。「道具が手元になければ困るじゃないか」
「シャッド殿。私は貴殿も仲間だと申したはずだぞ」アッシュは彼の肩に手をかけた。
「了解」シャッドはまた溜め息をついた。
三人は既に空いていたフロアの出口を静かに通り抜けた。踊り場に入った時点で三人は姿勢を低くし床に這いつくばった。リンクは両耳に神経を集中した。フロア入り口扉が開いたことでこちらの存在は既に気取られており、彼らは武器を構えて待ち受けているはずだ。
耳を澄ますと、数匹の鬼どもの呼吸音や足音、身に着けた装備品が触れ合う金属音が聞こえる。グフッ、グフッという唸り声が時折フロアに響く。それを聞いたリンクは、ごく小さな声で言った。
「蜥蜴男だ」
「何人だ?」アッシュが尋ねる。
「前回はそれほど多くなかった。確かそれぞれが二、三匹だ」リンクが囁き返す。
「シャッド、爆弾を出してくれ」リンクが指示すると、頷いたシャッドは袋から爆弾を数個取り出してリンクの横に置いた。リンクは弓を背中から下ろし、矢立てから矢を抜いて爆弾矢を拵えていった。
「作戦は?」アッシュが再び問うた。
「シャッド、僕が合図したら爆弾一個を点火して下に落としてくれ」リンクは二人に顔を近づけて言った。
「踊り場の縁からそうっと落とすんだ。そうしたら僕が爆弾矢で弓兵を片付ける」
「なるほど」アッシュが呟く。「弓兵がこの踊り場に矢を射掛けてきている間、真下で蜥蜴どもが控えているのだな。そして飛び降りて来た者の背後から襲い掛かる」
「ビンゴだ」リンクは右手で拳を作り親指を突き出した。「アッシュ、最初の爆弾が爆発したら君は飛び降りて真下にいる奴らに奇襲をかけてくれ」
「あいわかった」アッシュは答える。
三人は頷きあうと、まずシャッドが手元の爆弾を一つ取り上げた。その指先が軽く震えている。だが青年はリンクを見て準備ができたと目線を送った。
「今だ」リンクが言うと、シャッドは爆弾の導火線キャップを捻って点火させた。それを持ったまま踊り場の先端まで匍匐前進し、そうっと下に落とした。
三秒ほど経つと爆発音が響き渡り、魔物の断末魔の悲鳴が聞こえた。リンクは自分の爆弾矢の一つを点火して弓につがえると、踊り場から身を乗り出して構えた。フロアの左右にそれぞれ一匹づつ、計二匹の弓兵がいる。だが爆発に気を取られ一瞬リンクに気づくのが遅れた。リンクは右の一匹に狙いを合わせ素早く放った。飛んで行った爆弾矢が炸裂して鬼が吹き飛ぶのが見えた。
アッシュがシャッドを乗り越えるようにして前に飛び出し、階下に飛び降りる。もう一つの爆弾矢を拾い上げ点火すると、リンクはそれを弓につがえた。衝撃から立ち直った生き残りの弓兵が踊り場の上に立ったリンクに矢を射掛けてくる。火矢が真っすぐ飛んで来たが、リンクは上体を反らしてそれを躱すと、今度はその鬼に狙いを定めて爆弾矢を放った。爆発音と断末魔の悲鳴が聞こえる。
数秒するとフロアに静寂が戻った。動く者の音は聞こえない。リンクは念のため剣を抜き放つと下に飛び降りた。
「残りは一匹だけだった」
下にいたアッシュが剣を拭いながら言った。足元には首筋を深く斬られた蜥蜴男が転がっている。少し離れたところに顔面の吹き飛んだ蜥蜴男がもう一匹倒れていた。
「ごめん、また君の割り当てが少なくなっちゃったね」
リンクは剣を納めながら謝った。
「いや、三人全てに役割を振る貴殿の作戦は悪くない。指揮官の資質がおありなのではないか?」アッシュも剣を納めながらリンクを見る。リンクは照れて頭を掻いた。
「いやぁ、スリル満点だったよ」ロープを伝って降りてきたシャッドが顔面を紅潮させながら言った。
「いちおう僕も貢献したってことでいいのかな?」
「もちろんだよシャッド」リンクが青年の肩を叩いて言った。
「次が帰還ポイントか」アッシュが呟く。「リンク殿、私は解せぬことがある。なぜ大妖精がこのような魔物の巣に?」
「言われてみればそうだね」問われてリンクは答えた。「前回は詳しく聞く余裕がなかった。聞いてみる価値はあるかもね」
「大妖精ってさ、その...どんなお方なのかい?」
シャッドが期待を込めてリンクに聞いてきた。
「どんなって...」リンクは言葉に詰まった。
「姿は女性だよ」彼は説明した。「歳は二十代くらいかなぁ」
「その...美人なのかい?どんなタイプなんだい?」前のめりになったシャッドが重ねて問うた。
「シャッド殿。それは考古学的興味からの質問なのか?」アッシュが口を挟んだ。
「えっ...いやっ....」シャッドは赤面して口ごもった。
「呆れて物も言えぬな」アッシュが首を振った。「美しい女と見れば目の色を変える。貴殿の好きになれぬところだ」
「行こうよ」リンクが執り成すように割って入った。「休憩もしたいしね。下に泉があるんだ」
三人は出口を潜り抜け、その先の踊り場から下に降りた。そのフロアには中心に円形の泉が設えてあった。リンクは装備ベルトを解いて武器を下ろし、土が盛られた泉の縁に近づくと膝を屈め水を掬って飲んだ。
「誰もいないじゃないか」シャッドが周囲を見回す。「どこかに出かけてるのかな?」
「そのうち出てくるよ」リンクは水で顔を洗い、シャツの襟を開いて首筋を濡れた手で冷やしながら請け合った。
数十秒ほど経っただろうか。泉の中央の上の中空に白い光の塊が浮かび上がった。三人が見ていると、その光の塊は次第に大きくなり、やがて形を取り始めた。
さらにしばらく経つとその光の塊がはっきりとした人の形となった。
スラリとした女の姿だ。薄絹一枚を纏っている。水色の髪が身体に絡みつくほど長い。背中からは半透明に近い羽が四枚生えていた。
「勇敢な方々、ようこそ来られました」
その女は言った。その顔は信じられないほどの美しさだった。肌は雪のように白く、頬は幼い少女のように赤らんでおり、豊かな唇は化粧もしてないのに鮮やかなピンク色だった。耳は高く尖っている。シャッドは眼鏡の奥の目を見開き、ほとんど口を開けたままその顔に見入っていた。
アッシュは片膝をつくと頭を下げた。それを見たシャッドも我に返って続いた。
「大妖精様。お目にかかれて光栄に存ずる」
彼女は挨拶を述べ始めた。
「私は剣士アッシュと申します。冒険を求め、この勇者リンクと学者シャッドとともにまかり越しました」
リンクははたと気づいて、慌てて自分もひざまづいた。前回は立ったまま大妖精と話してしまったのだ。この二人に比べ、自分がいかに田舎者で教養がないのかを思い知らされ、少し恥ずかしくなった。
「あなたがたのご活躍は聞き及んでおりました」
大妖精が微笑む。その微笑みは、自らの赤子を眺める母の微笑みと思えるほど純粋な微笑みだった。
「魔物を倒しこのハイラルを清めるあなたがたの奮闘に感謝しております」
彼女はそう言うと続けた。
「とはいえ奥には更なる試練が待っています」
リンクは顔を上げた。前回もそう言われたので、一旦冒険を中断したのだ。
「あなたがたが望むなら地上に戻して差し上げますが、いかがなさいますか?」
大妖精のその言葉を聞いて、リンクはアッシュを顧みた。
「私は進みたい。危険はあれど道は切り開けると見た」そう言うと彼女はシャッドに問うた。「シャッド殿は?」
「ぼ...僕は...」彼は言いかけて唾を飲み込んだが、息を吸って決心したように続けた。
「僕も一緒に行くよ。なんて言うか............」
彼は笑顔を浮かべて二人を見た。
「さっきの巨大アメンボで吹っ切れた気がしたんだ。以前よりは魔物が怖いって気持ちが薄れたよ」
「シャッド殿、ご立派だ」アッシュは褒めた。
「ハハ...何て言うんだろう。童貞を失った..って感じかな」
シャッドが頭を掻く。それを聞いたアッシュはたちまち機嫌の悪い顔になった。
「婦人が二人もいる前でそのような下卑た冗談を言われるか」
吐き捨てるような調子で言うと彼女はシャッドを睨みつけた。
「やはり貴殿とはもう二度と口を利かぬほうがよいようだ」
「ちょっと待ってくれ二人とも」リンクは手を上げて制すると、大妖精に向き直った。肝心のことを聞いていない。
「大妖精様、一つ質問があります」リンクは顔を上げて言った。
「僕らは不思議に思ってたんです。なぜ大妖精様はこんなダンジョンの中で一人お住まいなんですか?」
大妖精はしばらく沈黙していたが、やや目を伏せて話し始めた。
「この洞窟は我ら妖精一族の遊び場だったのです」
そういうと大妖精はまた少し口をつぐんだ。三人が待っていると、彼女は再び言った。
「しかし100年前、魔王がこの地に呪いをかけました。その呪いによりここは絶え間なく魔物の湧き出る魔窟になってしまったのです」(注*)
「お気の毒に存じます」アッシュが相槌を打つ。やや間を置くと大妖精はさらに言葉を継いだ。
「それでも、この聖なる水の泉だけは彼らに奪われませんでした。それ以来私はこの泉を守るためここに一人留まることにしたのです」
「ええっ...じゃあ...」シャッドが顔を上げた。「大妖精様、あなたはそんなに長く...」
「私は人間ではありません。ですから人とは寿命が違うのです」
大妖精はまた少し微笑んでシャッドを見た。
「我々妖精一族は精霊に次ぐもの。役割を終えるまではいつまでも生き続けます」
「そうだったんですか....」シャッドは信じがたい思いで呟くと項垂れた。「し...知らなかった.....」
「男は年齢を重ねるほど尊敬を受ける。なのに女が年を重ねることは歓迎されぬ」アッシュは軽く溜め息をつくと誰にともなく呟いた。「そのような不公平をいつまで堪えねばならぬのだ」
「ありがとうございました、大妖精様」リンクは話題を変えるように声を上げた。「僕たちはここにいるできるだけ多くの魔物たちを打ち払います。一時的なことにしかならないかも知れないけど」
「感謝します、勇者よ」
大妖精はリンクを慈しむような表情で答えた。
「大妖精様、いまひとつお尋ねしたき儀が」アッシュが言った。
「魔王にかけられたその呪いを解き、この洞窟を妖精一族の手に戻す方法はないのでしょうか」
尋ねられた大妖精は、また少し表情を曇らせたがやがて答えた。
「それができるのは魔王だけです」
「魔王だけ...」リンクは呟いた。
「強力な呪いを解くには、その者よりも力の強い者が現れない限り、呪いをかけた本人の意志が必要です」
大妖精は言葉を継ぐ。しばらくの間三人が沈黙していると、彼女は両手を広げて促した。
「気を付けてお行きなさい。あと十階層下がった場所に泉があります。そこでお会いしましょう」
そう言ったあと、彼女はまた微笑みを浮かべた。
「全ての試練を成し遂げたならば、あなたがたは報いを受けられるでしょう」
リンク、アッシュ、シャッドは顔を見合わせた。途端にフロアの出口扉がガタガタと音を立て始め、やがて下にスライドして開いた。大妖精の姿が徐々に消えていく。
「行こう」リンクはそう言って立ち上がった。「まだ倒すべき魔物は大勢いるんだ」
「一時的...かぁ」荷物袋を背負い直したシャッドが、武装を拾い上げ出口に向かって歩き始めたリンクを追いながらぼやき気味の声で呟いた。
「意気を挫かれたか、シャッド殿?」泉に向かって深々と礼をしてから立ち上がり、追いついてきたアッシュが尋ねた。その声はまだ少し硬い。
「私はこの冒険が無意味とは思わぬ。魔物を打ち払い、たとえ束の間でも平和を取り戻す。それが剣士の役目と心得ておるからな」
「わ......わかってる。僕はただ、その....たった一人でいる彼女が可哀そうだと思ってさ」シャッドが言った。
「僕には考えがある」リンクは武装を背負いストラップを留めながら言った。
「考え?」二人が尋ねる。
「ああ。冒険が終わったら話すよ」リンクは続けた。
「もったいつけるんだなぁ君も。話してくれよ」シャッドが言う。だがリンクは笑って取り合わなかった。
リンクは思った。もしかすると、この洞窟を元に戻せるかも知れない。確信はなかったがリンクは考えた。
あの男がリンクの頼みを素直に聞くとは思えない。だが、きっと全てはあの男次第だ。
しかし、何にせよまずは自分たちの力で魔物を打ち払わなければ。リンクは決心すると、自分の装備ベルトを引っ張って確認し、フロアの出口に向かった。