あらすじ通り、ノーマルエンド後の追跡者のお話です。
そのため、ナイトレイン原作のネタバレ注意です。
あと筆者ジャーナルとかをすべて網羅できていないので、原作との矛盾点などがあった場合は基本本作限りの独自設定として扱います。
ご了承ください。
最後の夜の王を倒して、為すべきことを為す。
そのつもりだった。
でも。
ふと、見えたんだ。
見えてしまったんだ。
妹の顔が。
怒りと。
失望と。
悲しみと。
憎しみと。
そして、■が込められたその顔が。
「……俺は」
ただの幻覚だ。
その筈だ。
だけど、考えなかったわけではない。
俺が夜の王になれば……。
妹はきっと救われる。
彼女を捕らえていた円卓は、新たな夜の王の出現に呼応して再構成され、その余波で彼女を解放するだろう。
だが。
救われた後、彼女はどうするのだろうか……。
「俺は……」
結局、俺は夜を終わらせることを選んだ。
選んでしまった。
あの顔をさせてしまう未来から、逃げてしまった。
救う筈、だったのに。
◆
「ここは……?」
目を開けると、そこは円卓ではなかった。
夜の砂漠でもない。
民家だ。
手入れが行き届いている、どこにでもある家の部屋だ。
鍛冶屋の家なのだろう。
いくらかそれらしい道具があった。
木造特有の暖かい匂いと、鉄の香りが入り混じっていた。
「あ」
「……む?」
その家には、一人の娘がいた。
"彼女"を思い起こさせる、綺麗な髪の娘だ。
この娘が、俺を介抱してくれたようだ。
俺は既に死にかけていた。
円卓の加護があってはじめて延命できるといった有り様で、最後の夜の王を倒して円卓が失われれば、そのまま死ぬしかなかった。
復讐を果たせるなら、"夜"を明かせるのなら、それでいいとも思っていた。
そこを、助けられた。
「お体は大丈夫ですか?」
「ああ。礼を言う。……」
「あ、失礼しました。私はブレンタといいます。この"辺境の村"で暮らしています」
「……"追跡者"と呼んでくれ。名を思い出せなくてな。仲間からはそう呼ばれていた」
「追跡者……?」
娘は"ブレンタ"と名乗った。
家に彼女の親はいない。
兄がいたそうだが、去年亡くなったという。
だがその代わり、叔父が時折様子を見に来てくれるのだという。
叔父は、この村の長らしい。
「叔父さんからお話があるそうです。目覚めたばかりでお辛いでしょうが……」
「問題ない。すぐに行こう」
◆
この辺境の村は、どこにでもある牧歌的な村だ。
主に農業で生計を立てているようで、人の営みが正常にある。
人々は行き交い、酒場で休息を取り、畑の向こうから行商人がやってくる。
こんな平和な景色、リムベルドで見ることはなかった。
「ブレンタ。奇妙なことを聞くようだが、今の季節は?」
「春です。いつもでしたら、そろそろ種をまくところなのですが……」
「……春にしては寒すぎる」
だが問題がないわけではない。
まるで冬があけていないかのように、寒い。
行き交う人々の殆どは服を着こんでいて、道端にはまだ雪が残っている。
俺にはわかる。
これは、普通の寒さではない。
体感の上では、まだ違和感程度に留まるかもしれない。
だが、この寒さはあまりにも"馴染み深すぎる"。
「まだ"夜"が終わっていないというのか……? 最後の夜の王を倒したというのに」
村は、酒場や教会のある広場を中心としている。
そこから平原のような畑が地平線まで続いていて、ぽつりぽつりと小さな道がいくつか伸びているだけ。
この村は二つの川に挟まれるようにあるため、その川を境に村の中と外を区別している……とブレンタが教えてくれた。
村長である叔父は、今その川の近くにいるという。
「……英雄サマ。お目覚めになられたのですね!」
その場には、懐かしい顔がいた。
「お前は、円卓の……」
「召使人形です。ああ……本当によかった!」
円卓の召使人形。
彼は円卓で、俺達の戦いを支援してくれた人形だ。
夜の王を倒し、円卓から解放されてなおまた会えるとは思ってもみなかった。
「なぜ、ここに?」
「恥ずかしながら、貴方を見つけ出したところまではよかったのですが……落ち着ける場所を確保することができず、近くにあったこの村と交渉しました」
それどころか、彼は俺の命の恩人だそうだ。
だから、円卓の加護を失ってなお生きることができたのだろう。
「今は、貴方の保護と引き換えに村の警備や雑用をさせていただいています」
「そうか。感謝する」
「いえいえ。……ですが。英雄サマ、どうやらまだ戦いは終わっていないようです」
◆
ブレンタの叔父である村長も、川の近くで作業をしていた。
どうやら、村を護るための警備をしていたようだ。
「お武家様。どうか、村を救って頂けないでしょうか。あの"夜の残党"から」
夜の残党。
俺が仲間達と共に屠った"夜"の、文字通りの残党。
その怪物が、この村の近くにいるというのだ。
「この"夜の残党"は、冷気を齎しています。何人もの男手が魔的な凍傷を患い、そして作物にも悪影響を及ぼす……」
「冷気……竜の姿をしていたか?」
「いいえ。その姿を見た彼らが言うには、"白い衣"を身に纏う人であったと」
「白い衣……?」
"夜"は明けた。
そのことは人々に知られているようだが、しかしまだ完全に明けたわけではない。
故に、この村に冷気が襲い掛かっているのだという。
冷気と聞いて、夜の霧"カリゴ"を思い出した。
霧と冷気を操る巨大な竜で、他の怪物と負けず劣らずの強敵であったことを覚えている。
あの時は、地変"山嶺"の加護の力を借りて倒したのだったか。
それが復活したのかと思ったが、どうやらそういうことでもないらしい。
完全に未知の怪物のようだ。
「我々には、時間が残されていません。お医者様の見立てでは、凍傷を患った患者は直ちに命を落とすものではない。しかし、この冷気が続くなら……」
「……いずれ命を落とす。それに、種をまく時期を遅らせていいことはないだろう」
「おっしゃる通りです。種をまかなければ、作物は育たない。作物が育たなければ、飢え死にする。しかしこの冷気で育つ作物は、村にはありません」
あと一月。
一月後になれば、冷気の悪影響を承知で種をまかなければならない。
それほどまでに、食料の余裕がない。
故に、一月までに"夜の残党"を倒してこの冷気を退く必要がある。
否やはない。
この村には助けられた。
復讐は終わったが、しかし残党がいるというのなら、戦いを続けるのも道理だ。
快く、村長の依頼を請け負った。
「英雄サマ、村長サマ。……現れました」
次の刹那、川の向こうから"夜"が訪れた。
最後の夜の王を屠った影響か、雨はない。
だが、まぎれもなく奴らと同じ気配が漂ってくる。
「俺が出る」
「お待ちください英雄サマ。病み上がりでは思うようには動けない筈です。ここには私がいます。それに、まだ村の男衆も残っています」
「……それは確かに頼もしいが、"あれ"は無理だろう」
俺の眼前には、冷気を纏う鎧と大槌の怪物がいる。
冷たい谷のボルド。
円卓の書物に記されていた、異世界の怪物だ。
大槌と鎧を持つ騎士でありながら、獣へと落ちた冷気の番犬。
それが、奴らの尖兵だった。
「武具はどうするのです。私では、英雄サマの武具の手入れは……」
「それなら、ブレンタがやってくれた」
「……え?」
最初の、ブレンタの家を出る前のことだ。
ブレンタに俺の武具のことを尋ねると、彼女はすぐ出してくれた。
手入れが行き届いている。
どうやらブレンタが、村の仕事に追われる召使人形の代わりに手入れしてくれていたらしい。
鍛冶屋の娘の仕事ということもあり、今すぐにでも使える状態だ。
使い慣れた大剣も、小盾も。
クローショットや鉄杭も、全て揃っている。
「周りにいる雑魚は任せる。その間に、俺が奴を討つ」
「……わかりました。ご武運を」
◆
冷たい谷のボルド。
この村で戦う、最初の"類稀な強者"。
リムベルドで戦うことはついになかった相手だが、遅れをとることはない。
戦いの記憶は、まだこの身に残っている。
「っ」
機先を制してクローショットを放つ。
クローショットはボルドの肉体に突き刺さり、そのままこちらの肉体を引き込む。
その力を逆利用して肉薄し、大剣で奇襲する。
『ッ?』
ボルドが怯む。
その隙を突き、左手に仕込んだ鉄杭を構えて、大きく爆発させる。
リムベルドで何度も世話になった"襲撃の楔"だ。
爆発を伴う鉄杭の一撃は、多くの強敵を屠る威力を持つ。
俺の頼れる相棒だ。
鉄杭をまともに食らったボルドは、さらに大きく姿勢を崩す。
そこへ容赦なく大剣の一撃を叩きこみ、致命の一撃とする。
大抵の敵は、これで沈む。
「何?!」
だがボルドは、生命力に満ちた怪物だった。
あれだけの攻撃を喰らってなお、冷気を伴う突撃を繰り出す程の力を残していた。
「っ!」
最初の突撃は、小盾で無理やり凌いだ。
大きくスタミナを削られたが、命は護れた。
「また来るか!」
二回目の突撃は、横へ転がるようにして避けた。
鍛錬を重ねたローリングだ。
回避にも自信はある。
三回目のボルドの突撃も、同じように回避した。
『オォォオオ!』
「今度はブレスか……!」
突撃がすべて失敗に終わったボルドは、冷気を纏う霧を吐きだした。
かなりの範囲だ。
これはローリングでは避けきれない。
そう判断して、近くの物陰へ駆けこんで身を隠した。
「っ……大槌か!」
だがボルドの大槌が、すべてを砕いてしまう。
恐ろしい威力だ。
まともに喰らえば、それで終わる。
「ならば、これを喰らえ!」
このままでは後手に回る。
ならば、ここで無理やり攻勢に出るだけだ。
大剣に宿る戦技"踏み込み"ならば、強靭な体勢で敵の攻撃を耐え、そして強烈な"斬り上げ"でカウンターできる。
その一撃を、ボルドの急所へ叩きこむ!
『ッ?!』
俺の一撃は、ボルドに届いた。
ボルドはその大槌を手放し、地面に沈んだ。
俺の勝ちだ。
「……今回も強敵だな」
ボルドが落とした大槌を拾い上げる。
冷気の力が宿る、重くも優れた逸品だ。
付帯効果である"冷気耐性上昇"が実に頼もしい。
冷気を伴う"夜の残党"との戦いに役立つ、よい武器となるだろう。
「だがちょうどいい。せめてもの、罪滅ぼしだ」
後ろを振り返ると、召使人形や村人たちの無事な姿が見えた。
どうやらボルドが引き連れていた者達の掃討も、無事に済んだようだ。
だが、だからこそ。
気を引き締めなければならない。
"夜の残党"との戦いは、はじまったばかりなのだから。
追跡者
原作主人公の一人にして、本作の主人公。ここの彼は、ノーマルエンドを選んでしまったちょっと弱いお兄ちゃん。
"彼女"を救うために自己犠牲へ走るつもりだったが、それで"彼女"が喜ぶか否かを考えてしまい、なし崩し的に当初の目的を果たす道を選んでしまった。
それこそが"彼女"に対する最後のトドメでもあったというのに……。
色々あって、最後の夜の王を倒してノーマルエンドを迎えると、命を落とす運命にあった。
だが召使人形によって命を救われ、そのまま辺境の村に運ばれる。
村で目覚めるや否や、恩返しと贖罪のため、村を襲う"夜の残党"を打ち倒すと誓う。
ブレンタ
本作オリジナルキャラ。辺境の村に住む村娘。
鍛冶屋の生まれであり、武具の手入れは追跡者が唸るほどの腕。
親と兄がいたが、全員亡くなった。現在は村長でもある叔父に、色々と面倒を見てもらいながら村の仕事を手伝っている。
追跡者を家で保護していたのも、叔父からの仕事であるため。
召使人形
円卓にいた人形。円卓では英雄達の身の回りの世話や家事などを担っていた。
今作の彼は"彼女"からの頼みで、死にかけた追跡者を死に物狂いで助けている。
その結果として"辺境の村"と交渉し、追跡者の保護と引き換えに村の警備や雑用を担う。
村長
本作オリジナルキャラ。ブレンタの叔父。名前はティルソ。
追跡者に、村を護る剣となることを依頼する。
冷たい谷のボルド
ダークソウル3のボス。本作では"夜の残党"の尖兵として登場。追跡者と戦闘し、敗北する。
巨大な大槌を構えて、鎧を身に纏うが、獣のように振舞う怪物。冷気を纏うことを特徴とする。
ナイトレインで例えるなら、一日目ボス枠。ちなみにこの枠には、王者の墓守&墓守の大狼などもあり得た。こちらはダクソ3の絵画世界のボス。
余談だが、筆者の把握する限りボルドが落とした武器の付帯効果"冷気耐性上昇"は原作に存在しない、本作限りの効果。
※6/25追記 原作にて"冷気耐性上昇"の武器を確認しました。
夜の残党
今回の大ボス。冷気を操る"夜"であるらしい。曰く"白い衣"を身に纏うそうだが……。