カードゲームで回復するたびに、バディー精霊が耳元で囁いてくる 作:銀層
1週間が経ち、とうとうクロとの再戦の日がやってきた。
教室の一角にギャラリーが集まっている。
クラスメイトたちが、いつになく真剣な顔でこちらを見ていた。
俺とクロがただの遊びじゃない雰囲気を出していたからだろう。
「さっそくだけど、始めよう」
「そうだな。先行は俺がもらう。前はクロだったから」
「いいよ」
俺のターン。まずはコストチャージ。
クロの最初のプレイは、やはり《暴走する自爆霊》。
コスト1、2/1、攻撃後に自壊するアタッカー。
前回と同じ流れだ。様子見か、それとも別の布石か──。
【俺のターン 2ターン目】
俺は2コスト溜めて、ターンエンド。
(くそ、自傷系が来てねぇ──)
【クロのターン 2ターン目】
「君が2ターン目に動けないなんて珍しいね」
クロは構わず進める。
「俺は動くよ」
設置呪文《成長する墓場》を場に置く。
コスト2、効果は“闇属性が破壊されるたびに1ドロー”。
「前回と同じで回ってるな」
続いて、《暴走する自爆霊》がプレイヤーに2点を与え、そのまま自壊。
設置の効果でクロは1ドロー。
──その瞬間、バディースキルが発動。
クロのサイコロが回り、出目は【2】。
手札からカードが捨てられ、《原初の脈動獣》が墓地へ。
自然属性、マッドネス持ち。すかさず場に登場。
《原初の脈動獣》
9コスト/3/3/マッドネス
登場時効果:2コストチャージ(山札・手札を消費せずに、コストゾーンに自然に2コスト増える)。
「なんだ!!その強いマッドネスは!?」
クロが驚いた顔をするのは珍しい。
「うそ、今の自然カードってあんなのいるの!?」
「9コスが2ターン目に出るのは反則でしょ!」
ギャラリーもざわめき始める。
「これが――俺の一週間の成果だよ」
相手の動揺も伝わってくる。
今の俺のコストは4。十分すぎるほど攻めの準備はできている。
【俺のターン 3ターン目】
コストチャージして、5
《光の輪廻律》光、4コストの設置魔法。
回復するたびに、回復系カードをランダムに生成して手札へ加える。
「攻めたいけど、まだ早い」
テンポは取った。今こそリソースを確保すべき時。
下手に焦って攻めたら、クロのハンデスにじり貧になる。見えてる未来だ。
ギャラリーがざわつく。
「おい、あのカード……普通にやばくないか?」
あのリュウでさえ固まっていた。
「ダンジョンの時よりも格段に強くなってる。さすがのクロも、一泡吹きそうね」
ミコトも少し興奮している。
原初の脈動獣が相手プレイヤーに攻撃――!
クロの体力:20 → 17
「ターンエンド」
【クロのターン 3ターン目】
チャージで3コスト。
出されたのは――《爆弾幽霊》
コスト:3/パワー:1/1
効果:登場時、自分と相手はそれぞれ1体のモンスターを破壊する。
「……さすがだな。最小コストで最大効率かよ」
クロは自分の爆弾幽霊を破壊。
俺は《原初の脈動獣》を選ばざるを得ない。
強制的な相打ち。
脈動獣が沈む。チャージは残ったが、テンポは消えた。
バディースキルのサイコロが振られる――が、今回はハズレ。
「ふう……」
俺は息をついた。
【俺のターン 4ターン目】
チャージでコストは6。
リソースの差は――やや俺が有利。
「3コスト、《光の玉手箱》を発動」
1枚ドロー、1回復。カードはコストゾーンへ。
クロのライフ:17 → 16(バディースキルにより自動ダメージ)
《光の輪廻律》が反応。
新たな回復系カードが、ふわりと手札に加わる。
「リソースが切れていない……連続で回復カードが飛んでくるぞ」
ギャラリーがざわめいた。
次はライフチャージ。
2コストを使い、ライフ+1、そしてカードはチャージゾーンへ。
クロのライフ:16 → 15(バディースキルにより自動ダメージ)
コスト計算:
6(もともとのコスト)
−3(光の玉手箱)
−2(ライフチャージ)
+2(それぞれのチャージャー効果)=実質3コスト
ここで――
「3コスト、《燃え尽きる決意》を発動」
火属性。自分に3ダメージ、その代償に3枚ドロー!
俺のライフ:20 → 17
「……なるほどな」。
「回復しすぎてライフが満タンになったから、わざと自傷して手札を増やしたのか」
リュウがぽつりとつぶやく。
「手札8枚って……むしろリソース増えてるじゃない。クロ、負けるかもね」
クロは静かだった。
しかし、その手がわずかに震えているのを俺は見逃さなかった。
【クロのターン 4ターン目】
「君がここまで強くなったことは認めるよ。ただね――僕を超えるには、まだ届かない」
コストチャージ。4コスト。
「《幽霊の舞踏会》、発動」
山札から幽霊モンスター3体を墓地へ送り、そのままマナゾーンへ。
送られたのは――その中の一枚に《幽霊ドッグトレーナー》。
悪魔スライムのバディースキルの恐ろしさは、フィールド・手札・山札を問わず墓地に送られたら、発動してしまうところだ
「墓地に送られた瞬間、バディースキル発動。君の手札をもらうよ」
効果で3回サイコロを振った結果、2枚の手札が破壊された。
成長する墓場が3枚ドローされてしまう。
「《幽霊ドッグトレーナー》の効果で、さらに展開させてもらうよ」
クロのフィールドに、《幽霊犬》が2体。不気味な咆哮が響く。
残り2コストで――
「《墓荒らし幽霊》召喚」
墓荒らし幽霊 2コスト 1/1:召喚時相手の設置魔法を破壊できる。その効果を発動した時、自壊する。
設置魔法が砕け散る。
同時に、幽霊は自壊。クロのフィールドには犬2体だけが残った。
そして、光の輪廻律の効果が切れたことで、回復の連鎖も断たれ、手札も1枚消えた。
「一気に3枚削って、盤面も整えた……まさか、ここまで返してくるとは」
ギャラリーが息をのむ。
【俺のターン 5ターン目】
コストチャージで合計9。手札は5枚
「光の玉手箱、3コスト」
ドローして、回復。
「ライフチャージ、2コスト」
さらに回復。
「ファイヤーボーイ、2コスト」
2コスト 2/2 召喚時自傷ダメージ1
俺のライフ:17→19
クロのライフ:15→12
「2コスト、《神々の召喚術》」
デッキをサーチ。光、7コスト以上。
俺の目が、一枚のカードで止まった。
「コスト的にこれが限界だ。エンド」
【クロのターン 5ターン目】
手札は3枚に。
手に加えたカードが、じわりと温度を持って手の中にある。
チャージでコストは6。
手札は多い。8枚。
成長する墓が、しっかりリソースを支えている。
「《幽霊の舞踏会》をもう一度」
墓地に送られるのは、幽霊ドックトレーナー1体、幽霊コック2体。
コックの効果で、2回回復。
クロのライフ:12→14
ドックトレーナーが吠えるように指示を出し──幽霊犬が2体、影のように湧き上がる。
成長する墓地が動く。カードが3枚、手元に引き寄せられた。
サイコロが振られる。バディースキルで3回。
──1ヒット。俺の手札が1枚削られる。残り2枚。
「4コスト、《ゾンビネクロマンス》」
幽霊犬2体を墓地へ。
それに代わって現れるのは、どろどろに濁った双子──《ヘドロゾンビ》が2体。
その姿はフィールドを侵食するように広がり、俺のライフを削る。
──ライフ:19 → 17
そして、バディースキル。
幽霊犬2体が墓地に送られた──サイコロが転がり、1ヒット。
1枚、俺の手札がまた消える。
クロが笑った。だが、その笑みはすぐに凍る。
「……なんだそのカードは」
「《光の墓の守り手》──」
光がフィールドに差し込むように降り立つ。
10コスト、3/3。マッドネス持ち。
効果はシンプル。闇属性カードは墓地に送られず、すべて除外される。
「お前の対策カードだよ」
カードを見て、クロがほんの一瞬言葉を失う。
「え、あれ……やばくない?」
「闇属性封殺……」
「これ、完全にクロメタじゃん」
ギャラリーがざわめき出す。
俺は分かっていた。遅すぎたことに。
後、1ターン早く出ていれば、こんなに無茶苦茶にならなかった。
店長に申し訳ないと気持ちでいっぱいだった。
「おいおい、がんばったのは分かるが……遅い」
それを聞いたリュウが頭を抱える。
「ほんとよ……あと2ターン早く来てたら、こんなにハンデスされなかったのに」
ミコトが苦笑交じりに呟いた。
盤面が一気に緊張する。
状況はひっくり返っていない。だが、空気は変わった。
少なくとも、クロが余裕を崩されたのは確かだった。
2体の幽霊犬は攻撃可能であったため、攻撃する。
俺はライフで食らった。光の墓の守り手の体力を減らしくなかった。
俺のライフ:17→15
【俺のターン 6ターン目】
ボロボロだった。
盤面は更地。手札も薄い。
リソース差も、プレッシャーも、完全に押されている。
――もう、勝てない。
手を伸ばしかけた。
サレンダー。それが頭に浮かんでいた。
「ご主人様!! だめだめ!!」
ルミナの声が飛んできた。強い、はっきりした声。
「私が納得できないよ! あれだけ頑張ってたのに!」
「まだ、ゲームは終わってないじゃん!」
「そうそう、男の子でしょう? 前を向いて!」
──いつの間にか、ミコトの声まで。
沈み込んだ思考が、ぐっと引き戻される。
負けを認めるのは、まだ早い。
ルミナは、この試合、煽ってこなかった。
それだけ、この勝負が大切だと分かっているんだ。
彼女は、勝ち負けだけを見ていない。
多分――俺の「生きざま」に期待しているんだろう。
だからこそ、背中を押された。
だからこそ、足掻きたいと思った。
勝てるかどうかは分からない。
でも、このまま終わるのは、違う気がした。
【俺のターン 6ターン目】
コストチャージはせず、そのまま10。
「1コスト、回復のナイフ!1枚手札を捨てて、1回復」
手札を1枚捨てる。《深海の観察者》――
水属性/コスト8/3/3/マッドネス
召喚時効果:2枚ドロー。
クロのライフ:14 → 12
バディースキルで、さらに2点直撃。
「よっし!!」
無理やりでも前を向くんだ。2点ガチャに成功――
観察者の効果で2枚ドロー。
「自分からマッドネスを捨てるか。……まだやるみたいだな」
リュウは腕を組み、黙って見ている。
「光の玉手箱、発動!」
1枚ドロー、1点回復。
バディースキル発動――クロ:12 → 10
次。
「《火炎地獄》、発動!」
俺のライフ:17 → 14/クロ:10 → 6
もう一発!!
俺のライフ:14 → 11/クロ:6→2
「これでどうだ!!」
クロはフィールドに幽霊犬2体とヘドロゾンビ2体。
1点×2、2点×2=6点分の攻撃力。
しかもブロッカーが2体いる。
でも――もし次を凌げば、俺の勝ちだ。
【クロのターン 6ターン目】
「――ファイナルターン。」
コストは6、墓地も5枚以上。
召喚条件、整ってる。
「《幽霊将軍 マギア》――降臨!」
6コスト/2/2
※墓地が5枚以上で召喚可能。
効果:墓地を5枚除外――
・速攻持ちの《暴走する自爆霊》 2/1を3体召喚。
・味方全体(暴走する自爆霊も含まれる)、攻撃力+2。
ギャラリーがどよめく。
「やっぱり持ってたか……」
「これがクロの、フィニッシュパターン……!」
3体の自爆霊が並ぶ。
そして、フィールドの全モンスターが牙を剥く。
ヘドロゾンビの攻撃はブロックしたが。残りの攻撃は防ぎきれなかった。
俺のライフ:11点
暴走する自爆霊4×3=12点ダメージを受けてしまい、負けた。
「やっぱり、つよいな。ヒカルは……」
クロは、勝者らしくない表情で、俺に手を差し出した。
「残りライフ2点だったし……あのカードを使わなかったら、リーサルできなかったんだ」
「ヒカル。君は僕に“あのカード”を使わせたライバルだ」
「悔しいけど、そこが目標だったんだ」
俺は悔しい思いをかみ殺して、言葉を探す
「……今度は、もっと強くなるよ。絶対に」
クロの瞳は悔しさと誓いでぎらついていた。
きっとまた、すぐに戦場で再会する。そんな予感がした。
ミコトはギャラリーの喧騒から少し外れたところで、ぽつりとリュウに語りかけていた。
「私さ……クロの気持ち、分かっちゃった」
「前は、一緒くらいだったのに。気がついたら、どこか遠くに行っちゃってて……」
「それ見てたらさ……自分って、これでいいのかなって。変な不安が急に襲ってきてさ」
リュウは、何も言えなかった。
いつも冷静で気丈なミコトが、こんな顔をするなんて――
その沈黙が、彼女の本音の重さを物語っていた。
ただ、そっと、隣に立って寄り添うことしかできなかった。
実力不足なのは、努力と運でしか解決できないことをリュウはできており、送るべき言葉が出なかった。
~~
家に帰ると、どっと疲れが押し寄せた。
玄関で靴を脱いだまま、ソファに倒れ込む。
こんなに集中力を使うとは――たった1回の勝負だったのに、全身の神経がまだピリついていた。
ダンジョン戦の時もキツかったが、今回はまた別の疲労があった。
たぶん、1週間ずっとその一戦のために神経をすり減らしていたからだろう。
「ご主人様、今日は一段とかっこよかったよ~!」
ルミナがふわりと肩に乗ってきた。
その声は、優しくもどこか誇らしげだった。
「本当に、あと一歩のところまで追い込んでいたね。勝ち負けより、価値があったよ」
「……折れない心って、大事なんだな。負けたけど、クラスメイトの目が明らかに変わってた」
「お前が居なかったら、多分……納得できなかったと思う」
「うん。クロの握手がなかったら、あいつのこと……ちょっと誤解してたかもね」
少し沈黙が落ちた。
……そして。
「そうそう、たまった性欲は私に出しなさい~」
「その話の流れはおかしいだろ」
「だって~、たまってるでしょう? 男の子って、バトルで熱くなると男性ホルモン出すんでしょ?」
「……いや、それは否定できないけども」
「明日から、いっぱい――い・じ・め・て・あ・げ・る・ね♡」
ルミナがにやりと笑って、耳元で囁いた。
俺は枕に顔を埋めて、うめき声を漏らす。
俺のクロとの戦いは終わってしまった。
この戦いでいろんなものをもらえた気がする。