カードゲームで回復するたびに、バディー精霊が耳元で囁いてくる 作:銀層
テスト3日目。
2戦目までは順調だった。
いつも通りのプレイ、いつも通りの勝利。
このままいける――そんな風に思っていた。
だが、3戦目の対戦相手はクロだった。
完全に読まれていた。
全力で勝負したが、ハンデスの前に崩れ落ちた。
俺が組んだデッキには、あえてマッドネスは少なめにしていた。
他の相手には不要だから――でも、それが仇となった。
「……負けるべくして、負けたな」
そう思えたのは、きっと昨夜ルミナに言われたからだろう。
“気軽に勝つ”――そう思えたことで、変に引きずらずに済んだ。
クロは、強かった。ただ、それだけだ。
その後、9戦目までまた連勝。
気持ちも切り替えられていた。
俺はちゃんと成長している――そう信じられた。
……だが。
10戦目の相手は、自然×闇の速攻型。
墓地進化型で、不意を突かれた。
「ダーク・ベジタブル」なんだそのマイナー種族。
完全に想定外だった。
構築を知らず、プレイも読めず――一瞬の隙を突かれて敗北。
今日は8勝2敗。
2日間の全勝が嘘みたいな、ほろ苦い終わり方だった。
でも、変に悔しさはなかった。
いや、嘘だ。
ほんの少し、悔しい。でも、それ以上に――
まだやれる。そんな気持ちが強かった。
~~
「洗礼受けちゃった~リュウに負けた~」
ミコトは笑いながら言った。
それでも、1欠損で俺より順調だ。
のびのびしていて、プレイもぶれていない。たぶん、明日も強い。
「俺も2欠損してしまった。ただ、これでも前回より成績いいんだよ。しかも、まだ20戦残ってる」
「私もだよ~。この段階で50位以内確定ってことで、テンション上がってる~」
欠損したことの傷は――正直、少しある。
だけど、見て見ぬふりをしてないということにしている。
「明日ものびのびプレイしたいね」
それだけは、嘘じゃない。本当の気持ち。
「0欠損は3人か。上位の潰し合いが進んでるな」
「リュウ、クロ、ユカリ。入試のトップ3が、しっかり揃ってるって感じだね」
「1欠損が私だけでしょ?」
「2欠損は、俺含めて3人か……上位争いはハードだな」
ミコトは、ちょっと肩を回しながら言う。
「明日はハードかもだけど、のびのび行く」
その一言に、俺も深く頷いた。
ルミナがいたからこそ、“負けないためのプレイ”から、勝ちにいくプレイ”に変われた。
その心構えを、明日も無駄にしたくない。
明日も、自分のカードを信じて戦う。
たとえ、どんな相手が来ても――。
~~
テスト4日目。
相手のレベルが明らかに違う。
欠損数が1桁のプレイヤーばかりになってきた。
当然、どの試合も気を抜けない。
それでも、俺は6連勝中。
調子はいい。けど、集中しないと一瞬で崩れる。
7戦目。ミコトだった。
軽く手を振って笑う。けど、その目は真剣だった。
欠損数が+2。クロとユカリにやられたらしい。
カードショップに連れて以降、バトっていない。久々のバトルになる。
「上位層とぶつかっても、欠損数減らしてないって……ほんと、強くなったね」
「……お前こそな。負けないな」
互いに冗談は抜き。
本気で勝ちにいく空気が、テーブルの上に漂っている。
こんな空気で、ミコトとバトルできるようになったんだな。
次の瞬間には、カードを構えていた。
~~
1ターン目はお互いコストチャージのみ行い、膠着している。
【ミコトのターン 2ターン目】
まずはコストチャージ。
続けて場に出したのは──
「卵を産むコカトリス!」
2コスト 2/2。
自分に2点ダメージを与えることで、1/1の卵トークンを2体召喚する厄介な奴。
コカトリスが叫び声を上げると、場にちっぽけな卵が2つ、ポンと跳ねた。
【俺のターン 2ターン目】
コストチャージを済ませて、呪文を発動する。
火花チャージャー:2コスト 相手のモンスターに1ダメージを与える。そしてマナゾーンに
卵を1体破壊
【ミコトのターン 3ターン目】
コストチャージ、そして──
「また出すよ。卵を産むコカトリス!」
再び現れる、あの厄介なカード。
2コスト 2/2。
自傷2点で、1/1の卵トークンを2体召喚。
ミコトのライフはすでに16点。
しかし──盤面は真逆。
卵を産むコカトリス ×2(2/2 ×2)
卵トークン ×3(1/1 ×3)
見た目はボロボロでも、フィールドは圧倒的に支配されていた。
しかも、次のターン──
バディースキルを発動してくるだろう
「回復時、自フィールド上の全ユニットに+1/1付与。」
やがて、卵2/2になり、3/3と成長して大型モンスターになってしまう。
2ターン目から、すでに詰ませにかかっていたというのか……。
内心、舌打ちしそうになった。
【俺のターン 3ターン目】
手札を見た瞬間、迷いはなかった。
この場面で出すのは──このカードしかない。
コストチャージを済ませ、4コストが溜まった。
「4コストで──《傷だらけ修道女 ミラ》、召喚!」
傷だらけ修道女 ミラ
4コスト 0/4
効果:回復時、ランダムな相手モンスターに3ダメージ
──そして、ターンエンド。
【ミコトのターン 4ターン目】
手札を見て、ミコトは即座に動いた。
コストチャージを行い、ついに4コストが溜まる。
「《光の玉手箱》──発動」
煌めく光がミコトを包み込む。
3コストを支払い、ライフ+1、手札+1(カードはマナゾーンへ)。
続けざまにもう1枚──
「2コスト 鳥博士 フクロウ」
1/1 山札を3枚見て、鳥獣族なら加える。
3枚とも鳥獣族のため、3枚ドローしてきた
回復量:合計1点。
ミコトのライフは16→17点へ回復。
──そして。
盤面が、変わった。
《卵を産むコカトリス》 ×2 ⇒ 3/3 ×2
《卵トークン》 ×3 ⇒ 2/2 ×3
《鳥博士 フクロウ》×1 ⇒1/1
ミコトのバディースキル、
「回復時、自フィールド上の全モンスターに+1/1付与」
が1回発動し、盤面が一気に膨張する。
攻撃可能なモンスターは5体。
全攻撃すれば、12点ダメージ。
だが──ミコトは、
攻撃しなかった。
俺はその瞬間、息を呑んだ。
ミコトが“攻撃をしない”だと……?
──理由は明白だった。
もし、いま俺にダメージを与えてしまえば──
次のターン、こちらが《回復カード》を使った際、ミラの効果が起動する。
回復系効果は、体力満タンの状態だと空打ちになってしまう。
「《回復時:ランダムな相手モンスターに3ダメージ》」──この一撃が、
育てた卵か、コカトリスか、どれかを確実に吹き飛ばす可能性がある。
特にミラは、《ランダム》とはいえ、
1体でも除去できれば一気に盤面は崩れる。
それを、最も理想的なタイミングで撃たせたくなかった──
ミコトは、それを読んでいた。
いま攻撃すれば、ミラが次のターンに動くきっかけになる。
だからこそ──攻撃を、しなかった。
俺が“能動的に”回復して、効果を叩き込む展開。
それ自体を、未然に防いだ。
「……成長してやがるよ、ホントに」
以前のミコトなら攻撃してきた。
運だけの3欠損じゃない。
【俺のターン 4ターン目】
コストチャージして5コスト。
まず──
《山火事》発動(2コスト):
自分に2ダメージ
相手モンスターに5ダメージ
結果、コカトリスを1体破壊。
続けて──
【ライフチャージ】
2コストを支払い、さらにライフ+1。そしてマナゾーンに
【ライフファイヤー】
2コスト消費/敵モンスター1体に2ダメージ/ライフ+1
──体力は、満タンに回復した。
盤面には次の状態が残る
《鳥博士 フクロウ》×1 ⇒1/1
《卵トークン》 → 2/2
ミラの効果で破壊はできたものの、盤面は依然有利を取られてしまっている。
【ミコトのターン 5ターン目】
コストチャージ。6コスト。
「《子ずれドード》、召喚」
3コスト 1/2。
登場時、1/1の《子ドード》を2体呼び出す。
「ライフチャージ、2回」
2コスト×2でライフ+2、17点へ。
カードはマナゾーンへ。
──そして、バフが走る。
鳥博士 フクロウ ⇒ 3/3
卵トークン ⇒ 4/4
子ずれドード ⇒ 3/4
子ドード×2 ⇒ 3/3 ×2
また、膨れ上がった。
ただでさえ数で押しているのに、全員が育つ。
【俺のターン 5ターン目】
ミラの効果が再び発動。
ランダムな敵モンスターに3ダメージ──
──だが。
倒しきれたのは1体だけ。
盤面には、まだ2体の強化モンスターが残っている。
どいつもスタッツが上がりきっていて、除去は難しい。
まるで、じわじわと首を締められているようだった。
──そして、ミコトのターン。
【ミコトのターン 6ターン目】
「ふふっ……あんた、回復カードのリソース──だいぶなくなったんじゃない?」
淡々と告げながら、コストチャージ。
──10コスト到達。
「じゃあ……出すわよ。私の切り札」
「《忍鳥 アッシュ》──召喚!」
【忍鳥 アッシュ】
7コスト/0/1
特殊能力(※攻撃宣言をしていない限り):
①相手の効果でこの場を離れない
②ステータス変化(効果ダメージも含む)を受けない
③対象指定を無効化
盤面に、静かなる“絶対防壁”が降り立つ。
「なるほどな……最初のバフラッシュで押し切れなきゃ、そこからはアッシュで締めるプランか」
「そう。最初の爆発で押し込んで、詰めはアッシュを育てていく……これが私の構築」
ミコトの声は、どこか誇らしげだった。
「……あのカードショップで、あんたが気づいてたこと。
私の“強さ”って、育てることなんだって──」
そう。
彼女は、日々いろんな客のデッキ相談を受けていた。
一緒に考えて、一緒に強くなって。
その度に、自分自身も成長していた。
気づいてた。
でも──それが、こんな形で出てくるなんて。
「前みたいにさ、ただぶつかって、削り合うのも悪くないけど──
それより今は、一緒に強くなっていきたいの」
ミコトの視線は、まっすぐだった。
育てるために、戦う。
自分も、相手も。
この場にいる“全て”を。
──《忍鳥 アッシュ》。
その存在こそが、今のミコトの戦い方そのものだった。
忍鳥アッシュは、マジで厄介だった。
絶対に除去できない。
対象にならない。ステータスも変えられない。
たまにこっちのランダムダメージすら吸収して、他のモンスターを守ってくる。
“フィールドにいる限り、何もできない”──そんな空気をまとった存在。
でも、こっちにも切り札はある。
《光の輪廻律》。
4コストの設置魔法。
回復するたびに、回復カードをランダム生成し、手札に加える。
おかげで、回復ソースでは完全に上を取っていた。
自傷バーンとライフ回復の繰り返しで、ミコトのライフは着実に削っている。
これまでに与えたダメージ、14点。
確かに──回復レースは俺が制してる。
でも。
鳥獣族のヤバさを、甘く見てた。
ミコトはこれまで、バフカードをほとんど使っていなかった。
回復で盤面を育てつつ、どこか抑えていた節すらある。
……まさか、アッシュに全部かけるつもりだったのか。
気づけば、アッシュは14/15にまで膨れ上がっていた。
あの“0/1”が、まるで別物に見える。
──たぶん、次のターン。
ゴッドバード(鳥獣族の直接攻撃を絶対に通す呪文)と組み合わせてくる。
20点パンチ。回避不能。
……なら。
このターンで終わらせるしかない。
──ここが、俺のラストターン。
全てを詰め込む。
勝つための、唯一の選択。
ミコトのライフ:6
俺のライフ:20
手札:2枚
コスト:10
引けなきゃ終わる。
アッシュが次のターン、20点を叩き込んでくる。
──引け、俺の命綱。
ドロー。
その瞬間、確信した。
「《火炎地獄》──発動。」
3コスト支払い。
自分に3点のダメージ。
相手に、4点の直撃バーン。
ミコトのライフ:6 → 2
俺のライフ:20 → 17
すかさず次のカードを叩きつける。
「《癒しの加護》、発動。
2コスト、ライフ+1」
ライフは18。
だが、狙いはそこじゃない。
回復時──バディースキル発動。
「“回復時、相手に1点バーン”──!」
ミコトのライフ:2 → 1
もう一枚。
「《希望の雫》、発動。
1コスト、ライフ+1」
ライフ:19。
再びバディースキル──1点バーン。
ミコトのライフ:1 → 0
──沈黙。
盤面はそのまま。
でも、俺の勝ちだ。
自傷と回復でつなぎ、
バーンだけで焼き切った。
「最後、勝ったと思ったのになぁ~」
ミコトはカードを手元に戻しながら、少し悔しそうに唇を尖らせた。
けれどその目には、どこか満足げな光が宿っている。
「俺も負けたと思ったよ。
……でも、楽しかった」
カードを片付けながら、俺も笑みを浮かべる。
「たぶん、ミコトとやってきた試合の中で──一番、実のある勝負だったよ。」
「……ふーん、そっか」
ミコトは静かに目を細めた。
その頬には、ほんのわずかに赤みが差していた。
4日目の戦いはその後、火・水速攻にまけてしまい1欠損してしまった。
俺は3欠損の状態で、最終日を迎えてしまう。