カードゲームで回復するたびに、バディー精霊が耳元で囁いてくる 作:銀層
ミコトの試合が始まり、先行は相手からのスタート。
お互いにコストチャージのみを行っていた。
先に動いたのは、ミコト。
ミコトの2ターン目。
いつものように冷静だった。迷いなくカードを場に出す。
「卵を産むコカトリス!」
パッと場に広がる魔力の残滓。
コスト2、パワー2/2の本体とともに、卵トークンが2体、かわいらしくも不気味に産み落とされる。
卵のステータスは1/1。だが、侮れない。
コカトリスの効果で、自分に2点のダメージが入っている。
いつもの流れだった。
自傷と引き換えにモンスターを並べる。
火力や盤面圧に変換するための布石を整えている。
3ターン目。
相手もようやく動いた。
銀色の光沢を放つメカモンスターが場に降り立つ。重厚なフレーム、無機質な冷たさ。
だが、それは一体のみ。
メカデッキらしい重さが、初動の遅さとして現れている。
ミコトは、その遅れを見逃さなかった。
迷いなく、再び手札からカードを差し出す。
「卵を産むコカトリス!」
2体目の召喚。
またも自らに2点のダメージ。
だが、代わりにまた卵トークンが2体、生まれ落ちる。
これで、場にはコカトリスが2体、卵トークンが4体。
盤面はにぎやかだ。
そして、じわじわと形成される圧力。
4ターン目。
相手の手が、ようやく意味を帯び始める。
「マジックスランブルマジック」
メカモンスターが、自ら爆散するように消えていく。
代わりに現れたのは、小型の《スクラップマシーン》。
1コスト、0/1。
圧倒的な数だけが武器の、鉄くずの軍勢。
それだけでは終わらない。
破壊されたメカモンスターたちは、《マシンパーツ》として手札に回収されていく。
バディースキルが静かに機能していた。
5体のメカを破壊すれば、1枚のマシンパーツを手に入れる。
それが1カウント目。
ミコトは目を細める。
これが、相手の狙い——《メカ王》だ。
マシンパーツを手札に加えるたびに、その王の輪郭は濃くなる。
コストを支払わず、合体し、場を支配する切り札。
ここからは時間との勝負。
マシンパーツを集めさせないように。
その準備を完了させる前に、勝負をつける。
~~
「とうとう、動いてしまったな……」
息を呑んだ。
この瞬間を、ずっと警戒していた。
《メカ王》。
コスト5、2/2のスタッツだけなら驚くことはない。
だが、合体した《マシンパーツ》の数で効果が変わる。
合体する数が増えれば、増えるほど効果を獲得していくのだ
それが厄介すぎる。
「5枚で、ターン終了時に5回復……」
「2枚で、戦闘ダメージをターンに1回で無効化される。」
読み上げながら、喉が渇いていくのを感じた。
他にも効果はある。あるが、今の段階でこのふたつが致命傷。
「スクラップマシーンがブロッカーとして残ってる。そこを突破するのは大変だな」
「火の一斉除去でも、あの数は厳しいんじゃないかな~」
火の全体除去は比較的にコストが少なく、低体力のモンスターにかなり有効。
今のスクラップマシーンが5体並ぶ場なら、本当に有効だ
「ただの壁じゃない。破壊されればされるほど、カウントが進むんだ。ブロッカー兼カウント装置……良くできた構築だよ」
「メカって、後半に行くほど押し切られるから、こうして前半で土台を作っておくんだよな」
メカの後半の爆発力はドラゴン並になり、一気に加速してしまうと止められなくなる。
「逆に言えば、今が一番重要なターンってことか」
「ああ。ミコトはこのターンで何かしら動かないと、ズルズルいかれるぞ」
「頼むぞ、ミコト……突破口を見せてくれ」
俺たちはミコトの危機的状況に緊張しているが、負けるイメージはない。
なぜなら、あの中間試験を5位以内に通過した仲間だからだ。
~~
ミコトの4ターン目が始まった。
手札に迷いはなかった。
まずはコストチャージを済ませ、4コストに。
そこから、ライフチャージ。自分のライフを1回復しながら、バディースキルを発動する。
バフがかかる。+1/+2
今回は違った。上振れだ。
体力+2。ダンジョンクリア報酬で確率強化された効果が、ここで発動した。
微笑んだのは運ではない。
そう言わんばかりに、ミコトはカードを静かに伏せた。
「鳥たちの羽ばたきを発動」
鳥たちの羽ばたき
3コスト
鳥獣族がいるとき、相手の1コストモンスターを手札に戻す。
相手のスクラップマシーンたちが、あっけなく盤面から消えていく。
破壊ではない。バウンスだ。墓地にも残らない。
当然、破壊トリガーも発動しない。
カウントも進まない。完全な無効化。
相手の顔色が変わった。
スクラップマシーンたちは「破壊される」ことを前提に構築されていた。
それを根本から崩されたのだ。
一方、ミコトの盤面には、羽ばたく鳥獣族がそのまま残る。
それも、体力を余計底上げされた状態で。
相手は何も処理できない。盤面を整える時間も与えられない。
バフが、次のバフを呼び込む。
連鎖的な強化に耐えきれず、相手はそのまま押し切られてしまった。
ミコトの勝利だった。
静かな展開。だが、その一手で勝負は決していた。
~~
試合が終わり、ミコトはゆっくりと俺たちのところへ戻ってきた。
「おつかれ~! 勝利おめでとう!!」
俺が大きく手を振って声をかける。
「ありがとう」
ミコトは少し照れくさそうに笑った。
「それにしても、鳥たちの羽ばたきが凄かったな」
「雑魚カードをあの場に使うなんて、すごいな」
1コストのモンスターは基本的に軽視しており、そんな限定したカードを採用する意味はない。
「1コストのモンスターを戻すだけなんて、普通はわざわざ使わないよ」
本来なら、手札に戻しても損にしかならない。だが今回は違った。
墓地に送らせない。つまり、マシンパーツのカウントを稼がせないこと。
決定的な試合展開となった。
マシンパーツが1つでも回収されていたら、話は変わっていたかもしれない。
「関連カードは、必死に集めたからね」
「店のお客さんから、見つけたら片っ端からトレードしてもらったの」
それは勝利のためじゃない。
あのカードを最初に手に入れたのは、プレイヤーとしてじゃなく――「指導者」としてだった。
客に有利なトレードをしていたのは、なんとなく察していた。
実際、そんなことをしているとカード資産が少なくなると考えていた。
しかし、そんなことはなかった。
俺たちとバトルしている時よりも、教えている時の方がパワーストーンを作れる。
きっと、「強くさせたい」って気持ちは誰よりも強かったんだ。
「でも、あのメタって、映像見たときには考えてなかったよな?」
俺が疑問を口にすると、ミコトは小さく頷いた。
「うん。あれはね……店のお客さんに相談されたの」
「“風の手札バウンスが厄介だ”って。“せっかくバフした獣が戻って困る”ってね」
「それ聞いて、手札に戻すってことも戦略になるんじゃないかと思ったんだ」
獣使いのサラリーマンのおっさん――
その相談内容は、彼女のノートにも細かく記録されていた。
人の悩みが、ミコトにとっての発想源になっている。
「あの雑魚カードを、ここまで活かすとはな……」
リュウがぽつりと呟く。
「関連カードを集め始めたのって、ヒカルの影響か?」
「うん。そうだよ」
ミコトは、迷いなく答えた。
「ヒカルの、あの必死な姿を見て、私も教えてもらったんだ」
「誰かを強くさせるには、自分も強くならないとって、気づかされたの」
その言葉に、俺はハッとした。
ああ、ミコトは――
ただ強くなってるんじゃない。強くなる「理由」を持ってるんだ。
だからこそ、彼女はこれからもっと伸びる。
そう確信させられる、静かな決意の声だった。