カードゲームで回復するたびに、バディー精霊が耳元で囁いてくる 作:銀層
入学して日がたち、悩んだり、迷ったりと学生生活を楽しんでいる。
それでも──俺は今、カードゲームを楽しんでいる。
「バトルスタート!」
《LIFE:20》
《ENEMY LIFE:20》
目の前に立つのは、クラスメイトのリュウ。
炎属性の猛攻特化型プレイヤーで、ドラゴン使い。
終盤に巨大なドラゴンをバンバンだしてくる
「コストチャージ(手札にあるカードコストゾーンに置く)、エンド」
初手は慎重な立ち回り。
お互いに1ターンはチャージしてエンド
「リュウもエンドか。ドラゴンはコスト重いもんな」
「ふふっ、ご主人様のターンだよ♡」
ルミナの声が耳に届く。
以前と違って、その声はどこか“後ろから支える”ようになっていた。
あざとくて、甘ったるい。だけど、少しだけ……優しい。
【俺のターン 2ターン目】
「コストチャージ!!」
カードをマナゾーンに送り、コストを増やす。
そのまま、2コストを支払って──
「ファイヤ―ボーイ、召喚!」
《2/2》
召喚時効果:自分と相手に1ダメージ
《LIFE:20 → 19》
《ENEMY LIFE:20 → 19》
「くっ、またそのカードかよ……!」
リュウが苦笑する。
ファイヤ―ボーイ。小型だけど、召喚時に両者に火傷を負わせるリスク持ち。
でも、こっちは回復デッキ。
少しのライフ差なら、すぐに取り戻せる。
「はい♡ ライフチャージの準備、できてるよぉ♡」
「やだもん♡ 私、ご主人がダメージ受けると、ゾクゾクするもん♡」
ルミナの声に、顔が熱くなる。
カードゲームに集中しようとしても、無駄だ。
でも──それも、今では悪くない。
【リュウのターン 2ターン目】
「行くぞ!」
リュウが声を上げ、カードを場に叩きつける。
「2コスト、呪文《ドラゴンエッグ》を発動!」
――山札の上を1枚、めくる。
そのカードが“ドラゴン”なら、手札に加えることができる。
「……よし。『バディ・ドラゴン』だ。加えさせてもらうぜ」
リュウの顔が不敵に笑う。
その手には、鋭い爪と大きな翼を持つ一枚のカードが握られていた。
「さらに、《ドラゴンエッグ》は発動後にマナゾーンへ送る!」
《マナ:+1》
《呪文発動数:1》
こいつ……やっぱり厄介だ。
《ドラゴンエッグ》は、手札補充とマナ加速を同時に行える。
それだけじゃない。
「そして、バディスキルの準備も進めさせてもらう」
リュウの背後で、バディのドラゴンが咆哮を上げるように輝く。
重々しい存在感。ただのカードの“枠”に収まりきらない、猛き精霊。
「バディスキル、《竜気蓄積》──5枚の呪文を発動すれば、次の《ドラゴン》召喚コストを5軽減」
「ははっ……準備は、整いつつあるぜ。お前の回復が間に合うか、試してやるよ」
「……やっぱチートすぎだろ、そのエッグ」
思わず、俺はぼやいてしまう。
《ドラゴンエッグ》一枚でマナ加速、手札補充、バディスキル準備。
3つの役割を果たすキーカードだ。
「やばいよぉ、ご主人様ぁ~。このままじゃ、燃やされちゃうよぉ♡」
ルミナが、焦ったフリをしながら体を寄せてくる。
その声はどこか楽しそうで、俺の耳元に甘く囁いた。
「でも……大丈夫。ご主人様が回復すれば、何度だって立て直せるもん♡」
「わかってるよ。回復コンボ、決めてやる」
ドラゴンエッグの分のコストを触っていた。
「残った1コストで……呪文《リトルフラワー》を発動!」
俺が場に差し出したカードは、小さな花の精霊が描かれたものだった。
《効果:対象のモンスター1体に2ダメージ》
《呪文発動数:2》
「狙うは──《ファイヤ―ボーイ》!」
可愛らしい見た目に反して、戦場に咲いた一輪の花が猛然と光を放ち、
燃え盛る小型のモンスター《ファイアボーイ》を包み込む。
ファイアボーイ:2/2。
リトルフラワーのダメージで、ちょうど倒せる。
《ファイアボーイ》破壊
その瞬間、モンスターの断末魔とともに、再び熱風が吹き荒れた。
「破壊時効果発動! ファイヤ―ボーイは……自分と相手に1ダメージを与える!」
「うぉっ、またかよっ」
《LIFE:19→18》
《ENEMY LIFE:19→18》
「ふふっ、ご主人様……痛かったぁ?♡」
ルミナが俺の耳元にぴとっと張りついてきて、囁いてくる。
「ダメージ……ちゃんと回復して、取り返してね♡♡」
「お前、さっきからテンション高いな……」
「だって、バトル中のご主人様……すっごくかっこいいんだもん♡」
その甘い声に、ちょっとだけ意識がブレそうになる。
でも──
「戦闘に集中しろよ。相手はリュウだ。まだ油断できねぇ」
《呪文発動数:2》
──《竜気蓄積》、あと3枚。
【俺のターン 3ターン目】
「俺のターンだ。──コストチャージ」
デッキからカードを1枚引き、裏向きでマナゾーンへ。
これで、現在のコストは3。
「いくぞ──《光の玉手箱》、発動!」
キラリと光を放ちながら、幻想的な宝箱がフィールドに出現する。
《効果:1ライフ回復+1ドロー。発動後、光の玉手箱はマナゾーンに置かれる》
「回復とドロー、完了」
《LIFE:18 → 19》
その瞬間──
「きゃはっ♡♡ ライフ、回復しちゃったねぇ~♡♡」
ルミナの声が、耳元でびりびりと震える。
甘ったるい声が、こめかみに直接突き刺さるような錯覚。
「ほらほら、ご主人♡♡ ビンビンになっちゃえっ!」
「ビンビンてなんだよ……っ!」
思わず赤面してしまい、カードを持つ手が震える。
「この効果、いつまでやるんだ……」
「ご主人様が回復するたび♡ あたしのテンションも回復するんだもん♡♡」
相手に1ダメージを与える。
《ENEMY LIFE:18→17》
「でも、ありがとな……ルミナ」
「えへへ♡♡ もっともっと回復して、いっぱい一緒に気持ちよくなろ♡♡」
「おい、やめろ、ややこしい言い回しするな!」
これで4コストか
エンドだ。
【リュウのターン 3ターン目】
「コストチャージ!!」
カードを一枚マナゾーンへ置く。
そして、いつものように彼は叫ぶ。
「《ドラゴンエッグ》、発動!!」
──再び、あの呪文だ。
山札の上をめくると、そこには──
「よっしゃ!!《雄たけびドラゴン》、ゲットォ!!」
手札に加え、使用済みのドラゴンエッグをマナに送り込む。
《呪文発動数:3》
《現在マナ:6》
「もういっちょ!──《ドラゴンエッグ》、発動!!」
またもや山札の上をめくる。
今回はドラゴンではなかったようだが、それでも構わずマナゾーンへ送った。
「ちっ……厄介すぎる。あいつの《バディースキル》が発動準備に入ってる……!」
リュウのバディは、“咆哮竜グランバーン”
呪文を5回唱えれば、その召喚コストを5も下げられる。
すでに呪文は2回発動されており、しかもマナは7に届こうとしている。
──このまま次のターンを許せば、あの大型ドラゴンが暴れ出す。
「気づけば、やばい流れだな……っ」
《呪文発動数:4》
《リュウの現在マナ:7》
「大丈夫だよ、ご主人♡♡ 回復して、落ち着こ? ビクビクしちゃっても……いいんだよ♡♡」
「だから! その言い方やめろって!」
──ただ、彼女の存在だけは、俺の内側を確かにあたためていた。
「俺のターン。コストチャージ……っと」
手札とマナゾーンを見比べながら、思わずうなった。
使えるコストは5。
リュウの《グランバーン》が来ることは、ほぼ確定。
(下手にモンスター並べても焼かれる……それなら──)
「4コストで──《傷だらけ修道女 ミラ》、召喚!」
フィールドに、ボロボロの服をまとった白髪の少女が現れる。
ステータスは、《0/4》。
攻撃力はないが、その体力は現環境でもかなり高め。
「エンドだ」
俺はカードを伏せ、ターンを渡した。
「え、攻撃ゼロのモンスターだけで大丈夫なの?」
ルミナが、不安そうに耳元で囁いてくる。
「……ああ。だけど、意味はある」
「私も、がんばるね♡♡」
ルミナの声が、すっと優しくなる。
【リュウのターン 4ターン目】
「俺のターン。コストチャージ」
リュウの手が躊躇なく動く。
「《ドラゴンダッシュ》発動。3コスト消費!」
──手札から叩きつけられた呪文カードに、場が一瞬ざわつく。
「次に出すドラゴンはコスト+3だが……速攻を得る」
さらに、《呪文発動数:5》を満たし、
バディの──《咆哮竜グランバーン》のスキルが起動する。
「……来るぞ」
俺は、無意識にミラの前に手を出していた。
「バディスキル発動! ドラゴン召喚コストを-5!!」
「行け!《バディードラゴン》召喚!!」
フィールドに、紅蓮の翼を広げた巨躯が降臨する。
その体躯は《5/5》。咆哮とともに、場の空気が灼熱に包まれる。
召喚時の計算:
通常コスト7 + ドラゴンダッシュ3 − グランバーンの5 = 実質5コスト
「速攻持ち──そして攻撃時効果発動!!」
「デッキの一番上を公開。……ドラゴンだったらそのまま場に!」
めくれたカードは──《スカイドラゴン》。
「ドラゴン、キター!! そのまま召喚だァ!」
「スカイドラゴンの効果、発動!」
【スカイドラゴン:5コスト/3/3】
リュウの声が会場に響く。
「手札から──《雄たけびドラゴン》召喚ッ!」
【雄たけびドラゴン:3コスト/2/2】
「そして、雄たけびドラゴンの召喚時効果!」
リュウの視線がまっすぐ俺を貫いた。
「味方のドラゴン1体の攻撃力を+1。もちろん──バディ・ドラゴンだ」
《バディ・ドラゴン:5→6の攻撃力に強化》
「……くっ」
「行くぞ──バディ・ドラゴンで、ダイレクトアタック!!」
炎の咆哮が、俺を焼き尽くすかのように突き刺さる。
《LIFE:19 → 13》
「……っ!!」
衝撃は確かに身体へ返ってくる。
カードの精霊と繋がることで、この世界のダメージは“実感”できる。
「だ、大丈夫……?」
耳元から聞こえる、ルミナのかすれた声。
「私が……もっと、癒してあげる……♡♡」
「っ……お、お前、こんなときに……!」
──でも、それが少しだけ、救いだった
【俺のターン 5ターン目】
「ご主人様~~、ドラゴンがたくさん並んじゃったよ~!どうしよう~っ」
ルミナの声は心配げ。でも、その裏にあるのは――信頼だ。
「大丈夫だ。問題ない」
「……コストチャージ。
そして──《ライフチャージ》を2枚、連続発動!」
《2コスト消費/ライフ+1/カードはマナゾーンへ》
《LIFE:13 → 15》
「ご主人様、やったぁ♡♡ 元気になっていくの見てると……ゾクゾクしちゃう♡♡」
「元気ビンビンね」
「バディースキル、発動♡♡」
ルミナの魔法陣が光り、敵陣に炎の柱が立つ。
「──2点バーンダメージ!」
《ENEMY LIFE:17 → 15》
「そして……まだある」
ミラのカードが淡く光る。
【傷だらけ修道女 ミラ】
《効果:回復時、ランダムな相手モンスターに3ダメージ》
「っ!?」
「うそだろ……?」
炎の光が戦場を包み、スカイドラゴンと雄たけびドラゴンがその場で焼き尽くされる。
「スカイと雄たけびが……!? お前、光属性だけじゃなかったのか……!」
「そう。ミラは光と炎のハイブリッドだ」
「ご主人様♡♡パワーストーン溜めまくって、パックをシコ♡♡シコ♡♡引きまくった価値はあったね」
「変な言い方はやめろ!!」
「でも、まだ……バディードラゴンがいる。6/5だ。突破できるか?」
「──できる!」
俺は迷いなく、手札を場に叩きつける。
「《ライフファイヤー》、発動!!」
【ライフファイヤー】
《2コスト消費/敵モンスター1体に2ダメージ/ライフ+1》
「これも光属性と火属性の呪文で、強い呪文だ」
《LIFE:15 → 16》
《バディードラゴン:6/5 → 6/3》
「バディースキルを発動!!1点ダメージをくらえ!!」
《ENEMY LIFE:15 → 14》
そして、ミラの効果でバディードラゴンに3ダメージだ!!
――バディードラゴンに、さらに炎の一撃。
「っ……まだ倒れねえか……!」
それでも、焦る必要はない。
ここからが本命だ。
「そして……」
ミラの瞳が静かに閉じる。
優しげな光の中から、怒れる神の裁きが降る。
「回復があったから……ミラの効果、再び発動だ」
《効果:回復時、ランダムな相手モンスターに3ダメージ》
「ターゲットは……バディードラゴン!」
《バディードラゴン:6/3 → 撃破》
「っ……!! おい、マジかよ……!」
リュウのデッキの中核、バディードラゴンが、まさかの完全焼却。
ルミナが、少し得意げに笑う。
「私たちの“癒し”は、ただ優しいだけじゃないよ?♡
ご主人様のために、焼き尽くしちゃうんだから♡♡」
バトルフィールドが静かになる。
あれだけ並んでいたドラゴンたちはすべて──消えた。
周囲が――歓声に包まれた。
「すげぇ……!」
「ドラゴンの軍勢を、たった数枚のカードで……!」
「リュウが、押し込まれてる……!?」
信じられない光景がそこにあった。
さっきまで盤面を制圧していたリュウの連ドラコンボは、今は見る影もない。
残った手札はゼロ。
あれだけ咆哮していたドラゴンたちは、光と火の癒しの力で全滅した。
「……っ、くそ……」
リュウが歯を食いしばる。
悔しさをにじませながら、それでも彼の目はどこか晴れやかだった。
「最後まで、全力で来いよ……」
「ああ、行くぞ」
俺は、ルミナと目を合わせる。
彼女はにこっと笑って、指をそっと鳴らした。
「じゃあ……とどめ、いこうか♡」
──回復するたび、ルミナのバディースキルが発動し、
──ミラの追加ダメージが追い打ちをかける。
「回復、1点……そして1点、そしてまた1点──」
《ENEMY LIFE:6 → 5 → 4 → 0》
バトル、終了。
~~
逆転勝利――それは、まさに脳汁が止まらない瞬間だった。
あれだけ不利だった盤面を、じわじわとひっくり返し、
最後はバディとの連携コンボでとどめを刺す。
歓声。熱狂。高揚感。
(今日はぐっすり寝れそうだ……)
そんなことを考えていた矢先、ルミナが俺に飛びついてきた。
「ご主人様っ♡ やったね~! 一緒に寝よう!!」
「いやいやいや……」
慌てて言葉を濁そうとする俺を無視して、
ルミナはぴったりと腕に絡みつく。
「勝ったときは、ご褒美タイムなんでしょ? ご・ほ・う・び♡」
「勝ったけど……それは俺だけじゃなくて、お前も――」
「だから一緒に寝るの♡ ご主人様の隣、空いてるでしょ?」
「……まったく」
ルミナの瞳が、どこかうるんで見えた。
照れてんのか、計算なのか――どっちにしても、抗えなかった。
「……少しだけ、な?」
「やった~~っ♡」
抱きついてくるそのぬくもりは――
たしかに前よりも、ほんの少しだけあたたかかった気がした。
実際は何もないんだが……
息を呑む。カードを握る指に、微かに力が入った。
カードゲームというものは運の要素が強く、後日のリュウのバトルは20連敗くらいしてしまっている。
相変わらず、世知辛い。