カードゲームで回復するたびに、バディー精霊が耳元で囁いてくる 作:銀層
カードパックは、カード会社が刷ってるものじゃない。
あれは、精霊たちの力が結晶化した“贈りもの”だ。
カードゲーマーたちは、精霊の力を使い、小さな“パワーストーン”を差し出す。
そのとき、心にどんな属性の力が欲しいかを願う。
すると、石はひとりでに浮かび、淡く光り出す。
そして、ぽん、と手元にパックが現れる。
属性は光、闇、火、水、風、地──ときには混合属性も出る。
内容は完全にランダム。
でも、不思議と願った属性のカードが出ることが多い。
精霊の力で得られたカードは、
カードショップや市場を通して一般にも流通するようになっている。
そうして、全国のプレイヤーの手元へと届いていく。
学園に来てからというもの、パワーストーンを手に入れる機会が増えた。
理由は単純だ。強い相手と、濃密なバトルを繰り返しているからだ。
パワーストーンは、ただバトルをするだけじゃ手に入らない。
“本気”のぶつかり合いの中で、精霊がその熱意に応えるように、時折ポロリと生まれる。
勝っても負けても、心が震えるような対戦をすると、
バトルフィールドの中央あたりに小さな光の粒が浮かぶことがある。
それが――パワーストーン。
そんな中、何となく――本当に何となく、気が向いたタイミングで、パックを引いた。
いつものように、精霊に手をかざし、浮かび上がるパワーストーンに願いを込める。
「火と光で……まあ、何か強いの来てくれれば」
あまり深く考えていたわけじゃない。ただ、流れで。
石が溶けるように光を放ち、カードの形を成していく。
結果は――ぱっとしない。
しかし、意外なカードが出てきた。
《アルテメット・ネゴシイト・ドラゴン》。
8コスト、3/3。召喚時に山札を5枚めくり、ドラゴンがいればそのまま召喚できる。
弱くはない。いや、むしろカードパワーはある。
だが、自分の構築には噛み合わない。
「……リュウに渡せば、喜ぶだろうな」
思わず、口に出ていた。
あいつの【連ドラ】デッキには、まさに理想のピース。
ただ、これを渡したら、今後の対戦では勝てなくなる気がする。
トレードするか悩む。
ただ、リュウならいいカードをもっているだろうし、トレードするか
~~
「ご主人さま~、なんか悩んでる顔してるけど~、どうしたの?」
声をかけてきたのはルミナ。いつもと変わらない調子だけど、観察力は鋭い。
俺は少し迷ってから、デッキケースの中から1枚のカードを取り出して見せた。
「こいつをリュウとトレードするか悩んでる」
「どれどれ~?」
ルミナが覗き込んだ瞬間、その表情が一瞬で変わった。
「……強!! え、なにこのカード、召喚でドラゴン連打できちゃうやつじゃん!」
「そうなんだよな。コストは重いけど、リュウの【連ドラ】にはピッタリだ」
ルミナは口を尖らせて俺をじっと見た。
「やめなよ!! ご主人様がリュウに勝てなくなっちゃうよ~!」
「……でもさ、お前と相性がいいカードって、いまの俺の手持ちじゃ限界あるしな。
リュウなら、あいつの火力系カードと光のシナジー系、きっと持ってると思う」
正直、迷っていた。
このまま保持しても腐るカード。でも、渡せば確実に脅威になる。
一方で、ルミナとのコンボに可能性を見出せるカードと交換できるかもしれない。
ルミナはむくれてぷいっと顔を背けた。
ルミナを怒らせてしまった。
「……そっか。そういうことするんだね、ご主人様」
そう言って、彼女は俺から目を逸らした。
声のトーンは変わらない。いつもの甘えた調子だった。
でも、わかった。怒ってる。いや、拗ねてるというより――傷ついてた。
俺はため息をついた。
確かに、強さのためなら何でもする――それが俺のスタンスだった。
でも、ルミナと組んでからは、少しずつ変わってきた。
彼女の声で支えられて。
彼女のカードで逆転して。
彼女の存在があったから、今の俺がある。
「……悪かった」
小さく呟いて、カードをしまう。
「やっぱ、トレードはしない」
ルミナが、ちらっと俺を見た。
その表情はまだ拗ねているけれど、ほんの少しだけ、口元がゆるんでいた。
「えへへ、ご主人様だいすき♡♡」
次の瞬間には、いつもの調子に戻っていた。
けど、その「好き」は、さっきよりずっと深く、俺の胸に刺さった気がした。
~~
放課後。学園の中庭でひと息ついていると、リュウがやってきた。
「よぉ、お前に使えそうなカード引いたから渡す」
ぶっきらぼうに言いながら、カードを一枚差し出してくる。
見ると、それは7コスト、2/2の回復モンスターだった。
《回復天使副隊長 カリエル》
召喚時:ライフを1回復することを5回行う。
攻撃時:ライフを1回復する。
高コストながら、ただの5回復ではなく、“5回に分けて回復”というのが肝だ。
つまり、ルミナのバディスキルを5連続で誘発できる。
これは、俺とルミナのコンボにぴったりのカードだ。
「……本当に、これ俺にくれるのか?」
「お前が持ってたら、面白そうじゃん。ほら、こないだのバトルもギリギリだったろ?」
リュウはいつものように飄々としている。
けど、その言葉の裏にあるのは明らかだった。
もっと強くなったお前と戦いたい――そんな純粋な対戦欲。
その気持ちに、俺は胸を打たれた。
同時に、自分がさっきまでアルテメット・ネゴシイト・ドラゴンを惜しんでいたことが情けなく思えた。
だから、俺は差し出した。
「だったら、トレードしよう。これが、俺の返事だ」
リュウの目が少しだけ見開かれる。
「……いいのか? こんな強いカードをトレードしても」
「お前は、ただでくれようとしたじゃないか。それじゃ、俺の方が負い目になる」
「それもそうだな……でも、少し不平等な感じがするな。じゃあ、ファイヤーボーイと――10パックでどうだ?」
俺は思わず笑ってしまった。
ファイヤーボーイは2枚しか持っておらず、デッキ調整用に欲しいと思っていた。
その“10パック”に、リュウなりの律儀さが滲んでいる。
「あとさ……ついでに、お願いがある」
「ん?」
「ダンジョンに行くメンバーになってくれないか?」
リュウはダンジョンチケットを出している。
ダンジョン。
ごく低確率でパックの中に封入されている“ダンジョンチケット”が必要で、
手に入れた者は4人のチームを組み、その中で勝ち抜き式のカードバトルに挑む。
負ければ即終了。
だが、10連勝すればレアカードが手に入るという噂もある。
詳細は不明だが、カードバトルの本質を詰め込んだような、伝説的なフィールドだ。
「マジか!?行く!!」
「残りの2人は、決まってるの?」
俺がそう聞くと、リュウは軽く顎を指でさすりながら答えた。
「ミコトとクロでいいと思う。お前に勝ったの、あいつらくらいだしな。勝率も5割超えてるし」
確かに、そう言われると納得しかない。
あの2人は、学園内でも安定して勝ち続けている。
……ただ、リュウはそのさらに上だ。
あいつの勝率は9割。
唯一、時々クロに負ける程度。
あの冷静でミスの少ない立ち回りに、隙があるとすれば、運か心理戦だけ。
つまり――
強さの序列でいえば、リュウ >>> クロ > 俺=ミコト
昨日、俺がリュウに勝てたのは――
奇跡でも、事故でもない。
けど、“たまたま”だったことは、否定できない。
その分、余計に思う。
このダンジョン戦に、俺が名を連ねていることの意味を。
リュウが選んだのは、実力だけじゃない。
“期待”だ。
~~
「ご主人様、ごめん……」
その声音に、どこか気落ちしたものを感じて、俺は顔を向ける。
「……急にどうしたんだ?」
ルミナは少しだけ視線を伏せたまま、口を開いた。
「人間として……小さい気がしてさ。あの人、無料でカードをくれようとしてくれたでしょう?」
あの人。つまりリュウのことだ。
俺は、何も言えずに黙った。
ルミナの表情には、ほんのわずかだが悔しさと自責の色が滲んでいた。
「私、ただ“勝てなくなる”って思っただけで、止めちゃって……それって、ご主人様のこと信じてなかったってことかもしれないのに」
そう言いながら、ルミナは自分の手をきゅっと握った。
「ごめんね、ご主人様。もっと……あなたの力、信じるべきだった」
俺は少しだけ笑ってしまった。
ルミナのこういうところ――素直で、真っ直ぐで、ちょっとだけ不器用なところが、俺は嫌いじゃない。
「気にするな。お前が心配してくれたのは、ちゃんとわかってるから」
ルミナは、ほっとしたように微笑んだ。
ルミナは時々、少しだけエッチなささやきをしてくる。
耳元で「ご主人様のこと、もっと気持ちよくしてあげたいな」なんて囁かれると、思わずドキッとしてしまう。精霊らしからぬ色気があるというか――そういう距離の詰め方をしてくるのが、ずるい。
けれど、それでいて、俺が別の誰かと親しげに話すと不機嫌になったり、リュウの気遣いに対して不安そうにしたり……
そういう感情の揺れが、彼女にはある。
ただのサポート精霊、なんて言葉では片付けられない。
ルミナは、年相応の女の子なのかもしれない――そんなふうに思う瞬間が、最近は増えてきた。
彼女の温もり。言葉の一つひとつ。表情の揺れ。
全部が、ただのゲームの一部じゃなくなっていく気がして――それが少し、怖くもあり、嬉しくもある。