カードゲームで回復するたびに、バディー精霊が耳元で囁いてくる   作:銀層

6 / 24
岩石デッキってむずかしいよね

ダンジョン 10戦目――開始前

 

「ご主人様、闘志ビンビンだねぇ~」

「これだから、男の子ってかわいいんだよね~」

ルミナが、いつものようにふざけた声で囁いてくる。

ぴたりと耳元で言われて、少しだけ肩が震えた。

 

「……がんばって~」

 

相変わらずのマイペース。

だけど、その軽口が不思議と気を抜かせてくれる。

肩に入っていた余計な力が、ふっと抜けたのが分かった。

 

(こいつ……ちゃんとわかってるんだな)

 

普段はエッチなことばかり言って、嫉妬深くて、面倒な精霊――

……だけど、俺がダンジョンの中で仲間たちと過ごしているときは、

距離をとるように、そっとしてくれている。

今みたいに、絶妙なタイミングで声をかけてくるのも、その一環だろう。

 

エッチで、嫉妬深くて、ちょっとおバカで……

でも、

ナイス相棒だと思う。

 

さあ、集中しよう。

ダンジョン10戦目――

俺の全てをぶつけるバトルが、始まる。

 

~~~

 

ゲームが開始された。

 

俺は序盤から攻め手を練る。

まずは自傷ギミックでリソースを稼ぎ、ファイヤーボーイをフィールドに展開。

続けて、ファイヤー・アタックで確実にライフを焼いていく。

 

このデッキの基本は、「回復バーン」。

自分のライフを回復するたびにバーンダメージが発生する構成だ。

そこで俺は、光の玉手箱・ライフチャージを使い、ライフを回復すると同時にマナゾーンを肥やしていく。

このカードは、回復と展開の両立を叶える優良カード。

回復=攻撃という構造を生み出す、回復バーンには欠かせない1枚だ。

 

ファイヤーボーイの攻撃で、相手モンスターを削ったりライフを減らしている。

ジリジリと、確実に削っていく――まるで火がじわじわと薪を焦がすように。

 

現在、相手のライフは12点。

まだ余裕はあるが、削り切れない距離ではない。

 

「悪くない展開だな。手札もまだ余裕あるし、《光の玉手箱》で手札を維持できてるのは大きい」

「うん、今のところは順調だね」

ミコトが頷く。

 

「墓地は5枚か……」

岩石族の墓地を眺めており、先の展開をクロは考えている。

 

「悲観することはないよ。岩石族の攻撃力はゼロだ。だから、ファイヤーボーイが今も生き残ってる」

「そいつが地味に効いてるな。毎ターン確実にリソースを減らしている」

リュウが目を細める。

 

「……もう5ターン目だってのに、コストが8も溜まってる。これ、相当早いぞ」

「うん。あいつの得意な、中~小型モンスターの連続展開がそろそろ始まるかもね」

ミコトがわずかに笑う。

 

「回復しながらバーンする……まるで火の雨だな」

クロがぽつりとつぶやいた。

 

コストはすでに9に達していた。

まずは、《火炎地獄》を発動――コスト3。

 

「っぐ……!」

自分に3点のダメージ。その代わり、相手には4点の直撃。

ライフは12から8へ、そして《ライフチャージ》でさらに追撃――2コスト。ライフを1点回復しつつ、カードをマナゾーンへ送り込む。

 

相手のライフ:8 → 7

自分のライフ:11 → 12

 

そして、余剰分で得た追加1コストもあわせ、5コストで次のカードを発動。

《セレスの清浄》。

ライフを2点回復しつつ、相手の墓地からカードを2枚除外する。

これは……リュウとの戦いを見て、急遽入れた“対策カード”だ。

 

相手のライフ:7→6(バーン効果にて)

相手の墓地は5 → 3に減少。

そして、ライフはさらに14まで回復していた。

 

ファイヤーボーイで攻撃を狙うも――

相手の場には、相変わらず攻撃力0の岩石族たちが立ち並んでいた。

手を出せば、自滅するだけだ。無理はしない。

 

「ターンエンド」

 

「これは勝てる……!」

クロが小さく口にする。

 

「あいつの手札はたった1枚。それが何かヤバいカードじゃなければ、どうってことない」

「墓地も今は3枚。条件達成まで最低4ターンは必要だ」

「ライフも残り6。雀の涙だ。あと2ターン……それだけあれば、削り切れる」

 

リュウが、口元に微かに笑みを浮かべる。

 

「……あいつのデッキって、この岩石デッキのメタになってるよな」

ミコトが頷きながら視線を移す。

 

「確かに。こっちがガンガン攻撃して墓地を肥やすタイプだったら、逆に相手の思うツボだけど……あいつ、自傷とバーン主体だから」

 

「そう。岩石族を攻撃して倒す必要がないんだよな。場に並んでても関係ない。削りたいのは、ライフだけ」

 

リュウが腕を組み、低く笑う。

 

「ご主人様~油断はしないでね」

「正直言って……不気味だよ。フィールドにずらっと並んだ、6体の攻撃力ゼロの岩石族。普通じゃないよ」

「たぶん……ここで勝負を仕掛けてくる」

 

いつもの甘ったるい声だけれど、その響きはどこか固く、耳の奥にピリつくようなものを残した。

ルミナがこんな風に真剣なトーンで話すのは、はじめてかもしれない。

 

確かに、どれも攻撃力はゼロ。

だが、ただの壁にしては配置が整いすぎている。

まるで何かを“待っている”かのように、静かに、不気味だ。

 

相手の手札が、静かに動いた。

 

7コストチャージ――そして、そのうちの4コストが払われる。

 

《大地の神殿》

あの設置呪文が、ふたたび立ちはだかる。

 

「マジか……!」

 

思わず声が漏れた。

確かに怖いカードだが、今は残り3コスト。それだけで墓地を一気に肥やすことなど、できるはずがない――そう思っていた。

 

だが。

 

「フィールドの岩石族6体を破壊――!」

 

ドン、と空気が震えた気がした。岩石族たちがまるで自ら崩れ落ちるようにして散り、同時に、呪文が起動する。

 

《石魂の崩落》

破壊した岩石族の数だけコスト軽減。6体破壊、つまり6コスト軽減。

破壊された岩石族1体につき手札を1枚ドロー

 

つまり、6枚ドローしてきた。

 

墓地の枚数:3枚 → 9枚。

 

時間をかけて削ってきた「墓地を肥やさせない」戦略が、一瞬で覆された。

しかも、場にはまだ岩石族がいる。まるで、次の連鎖の準備ができているかのように。

 

「このタイミングで……それを出してくるのか!」

 

破壊された岩石族たちは、ただの捨て石ではなかった。

そのうちの数体には、「破壊されたとき、デッキから岩石族を場に出す」という効果が宿っていた。

 

破壊と同時に、入れ替わるように現れる岩石族。フィールドに3体出現してしまう。

 

《墓穿ちの儀式》――コスト4:山札を4枚削り呪文。

ただし、岩石族を破壊していれば、たったの1コストで発動できる。

 

フィールドの岩石族が、自壊効果によって崩れ落ちていく。

そして、3枚の《墓穿ちの儀式》が、同時に発動された。

 

山札を、ゴリリと削る。

 

一瞬で、墓地が9枚 → 19枚へと跳ね上がる。

 

そして、ターン終了

 

ほぼ絶望的状況になってしまっており、次の1ターンでとどめを刺さないといけない。

 

「破壊してこない相手だと、自分で破壊してリソースを増やす……か」

 

「メタだと思っていたのに……すごいな。あの相手……」

 

ミコトの表情にも陰りが差す。

さっきまで余裕を見せていた彼女すら、声のトーンを落とすほどに――相手のプレイは鮮やかだった。

 

勝てると思っていた。だからこそ、その希望がひっくり返された時の落差は、大きい。

 

そんな中で、ただ一人、冷静なままの少年がいた。

 

「……まだ、勝負はつづいている」

「あいつの手札はたったの1枚。たぶん2~3コストの軽いやつだろう」

リュウは腕を組み、じっと盤面を見つめる。低く、落ち着いた声が響いた。

 

「私もそう思う。あいつのデッキ、軽量〜中級のカードばっかり。パワーカードで一発逆転って構成じゃない」

 

ミコトが強めの口調で言う。

自分に言い聞かせているのか、それとも不安をかき消そうとしているのか。

彼女の眉間には、いつもより深くシワが寄っていた。

 

「仮に、たった1点を削られたとしても……そこから5点を削れるようなカードなんて、持ってるはずがないでしょ!」

 

言葉を重ねて、思い込みを強化する。

 

だけど――

 

「……それはどうかな」

静かに、リュウが口を開いた。

この言葉はリュウだからこそ、話せる言葉である。

リュウはその逆転するカードを脳内にしっかりとイメージできている。

 

 

 

次の一枚で――俺の運命が決まる。

山札の上に置かれたカードが、まるで鉄板のように重たく感じられた。

 

「ねぇ~ご主人様、緊張してるでしょ?」

いつになく、精霊の声がやさしい。

「やっぱり緊張するよね。このバトル……今後の人生に響いてきそうだもんね」

茶化すでも、甘えるでもない。真剣な声。

胸の奥に染みてくる。

 

「でも、きっとご主人様なら引き当てるよ。納得できる答えを――いつもそうだったでしょ?」

 

……ああ、そうだな。

 

「私、知ってるよ。そのカード……リュウからトレードしてもらったファイヤーボーイだよね?」

「同じカードなのに、わざわざ入れたじゃん」

 

思い出す。

ファイヤーボーイ――

ステータスも効果も同じはずのカードを、俺は入れ替えた。

 

意味なんて、あるのか?

そんなことをする余裕があったのか?

いや、違う。そうじゃない。

 

「ご主人様が願ってたカードはね、あいつの“願い”なんだよ」

「私の効果に合う大型モンスターなんていないじゃん。でも、あいつは引き当てた」

「それはね、ご主人様に強くなってほしいって……心の奥底で思ってたからなんだよ」

 

目を閉じる。

 

 

「ご主人様も、あのとき本当はわかってたんでしょ?」

「自分のために強くなってほしいって思ってた」

「その想いが、カードに宿ってるんだよ」

 

……手が震える。

けれど、迷いはない。

 

「どんな結果でも、その気持ちがあったって、私が認めてあげるよ」

「だから、遠慮なく引いて」

 

静かに、山札に指をかけた。

この1枚が、全てを決める。

だけど今――俺の中に恐れはなかった。

 

俺の相棒なのか。

いや、もう疑う余地なんてない。

甘えたときは、ちゃんと受け止めてくれて。

覚悟したときは、そっと背中を押してくれる。

 

……本当に、いい精霊だ。

 

「お前とリュウの期待に応えたい」

呟くように言った。けれど、それは確かな誓いだった。

 

俺のドローで――答える。

 

手が軽い。驚くほど、すっと山札に伸びていく。

さっきまでの重さが嘘みたいに。

それは、もう「引かされている」としか思えなかった。

 

スッ……

 

1枚のカードが、指先に舞い降りる。

 

「……やっぱり、引いてしまうんだね」

 

静かな、でもとびきりの笑顔を浮かべて、精霊が囁く。

 

『リュウの思いを、ちゃんと受け止めたじゃん』

『さすが、ご主人様』

 

カードを見つめた。

 

「ファイヤーボーイ、召喚!」

 

パチン、と火花が弾ける。

赤き小さな戦士が、情熱を宿した瞳でフィールドに現れる。

召喚と同時にその体から炎が爆ぜ――自分と相手に1ダメージ。

 

相手のライフ:6 → 5

 

「リュウ、やっぱり……お前はすごいよ」

俺は呟いた。

このカードが来た瞬間、そう確信した。

――お前の願いが、俺の手札に宿った。

 

「《回復天使副隊長 カリエル》、召喚!」

 

眩い光が、闘技場を照らす。

戦場に舞い降りたのは、純白の翼を持つ天使。

静かに微笑み、慈しむように光を解き放つ。

 

召喚時効果:ライフを1回復することを5回行う。

《ファイヤーボーイ》の効果で、回復時に1ダメージ。

 

5連続の回復 → 5連続のダメージ → 相手のライフ:5 → 0

 

「このカードって、5回復ってことは連続攻撃ってこと!?」

ミコトの声が震えている。

 

「そうだ。……あいつは引き当ててしまったんだよ」

「さすがだよ、あいつは――俺たちのヒーローだ」

 

静かに勝負が決まる。

歓声も音もなく、ただ、光だけがそこにあった。

 

「ほら、言ったとおりだったでしょう」

耳元に甘えるような、けれど誇らしげな声が響く。

 

「ご主人様、かっこいいよ~」

「世界で一番、かっこいいよ~」

 

――いつもなら、その声に照れてしまう。

でも、今は違う。

 

誇らしい。

 

こんなにも俺を信じてくれる存在がいることが、

そして――その期待に、ちゃんと応えることができたことが。

 

~~

 

俺は――

勝ってしまった。

 

喜びが一気に駆け上がってきて、

でもその反動で、足がふわふわしていた。

周りの景色がぼやける。音が遠い。

現実なのか、夢なのか、まだよくわからなかった。

 

「すげぇ~お前。あそこで引くか~!!」

声が響いた。リュウの声だ。

まっすぐな声。いつもの、あの熱量のこもった声。

 

「すごいね。」

「とうとう、大型モンスター手に入れたんだね。おめでとう」

 

静かに、けれど確かに響くミコトの声。

優しくて、少しだけ寂しそうで、でもとても誇らしげだった。

 

ダンジョンの奥、静まり返った空間に、ひときわ神々しい光を放つ宝箱が現れた。

まるで、勝者を称えるかのように、ゆっくりと自らの蓋を開けていく。

 

中にあったのは――4つの宝石。

赤、青、緑、白。それぞれが淡く、けれど力強く輝いていた。

 

「……これは、パワーストーン?」

 

俺が手を伸ばすより先に――

バディーカードたちが、まるで引き寄せられるように宝石へと浮かび上がった。

 

バディーカードが宝石の光を吸収していく。

ぶわっと、柔らかい風と光が辺りを包み込んだ。

 

「ご主人様~~っ! 私、強くなったよ~~♪」

 

頭の中に、あの甘い声が響く。

いつもの調子で、でも……どこか誇らしげだった。

 

バディースキル進化!

【回復時】に、敵ライフに1~2点(ダメージ量はランダム)。

 

「なにこれ~~!! バディースキルが強化されてるんだけどっ!?」

ミコトの驚きの声が、静まり返ったダンジョンに響く。

 

「こんな事例……聞いたことがないぞ……」

リュウの目は真剣だ。普段なら飄々としている彼も、今回は本気で驚いているらしい。

 

クロは唖然としており、だまりこんでしまった。

 

宝石の光に包まれた俺たちのバディ――

確かに、“進化”していた。

 

俺たちの、初めてのダンジョン攻略は幕を下ろした。

でも、ただの「初めて」じゃない。

きっと、何かが大きく動き出す“はじまり”なのだ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。