カードゲームで回復するたびに、バディー精霊が耳元で囁いてくる 作:銀層
クロに完敗したあと、俺はデッキファイルを引っ張り出していた。
探しているのは、《マッドネス》――
手札を捨てられたとき、自動で場に出せるカードだ。
「……あった。やっぱりこの辺にあったか」
見つけたのは、
《緑の咆哮者》:7コスト/4/4/マッドネス持ち
――ただし、効果はマッドネスのみ。性能は実質バニラ(効果を持たないカード)。
「……くそ、マッドネス付きってだけか」
隣でカードを覗き込んでいたルミナが、嬉しそうに言った。
「ご主人様、こんな雑魚カードも、ちゃんとファイルしてるんだね♡」
「クロのせいでな。手札破壊対策、必要になると思って集めた」
クロ以外にも、ハンデスを行ってくるプレイヤーが多い。
上級者と今後戦っていく際、当然な構えだ。
「ふーん? しかも10枚も。意外と多いね~♡」
「つまり、ご主人様の深層心理では……勝ちたいって思ってるんだね?♡♡」
くすくす笑いながら、ルミナはカードをつまんで見せてくる。
「……お前な、からかってんだろ」
「ううん?♡♡」
「ちゃんと悔しがってる顔、見てたよ?」
「私、そういう顔……好き♡」
こいつは本当に自由すぎる。
けど、不思議と嫌じゃなかった。
「あのカードショップに行くか」
ふいに立ち上がった俺に、ソファで寝転がっていたルミナが反応する。
「カードショップ? なにか欲しいカードでも見つけたの?」
「あぁ。ネットで調べてて、マッドネス系で使えそうなのが一枚……パックだけじゃ間に合わない。メタカードが弱すぎる」
「ふーん。つまり、課金の時間ってことだね♡」
「……金は3万。あと、バニラカードを3000枚売ってくる」
「さ、3000枚!?」
ルミナが半分起き上がり、目を見開いた。
「そんなに溜め込んでたの!? エッチだねぇ~♡♡」
「なんでやねん。どこに色気感じてんだよ」
「エッチ♡♡」
「意味が分からないぞ」
その時の私は、ご主人様が強い理由を知らない。
ただ、すこしだけ片鱗はみせていた。
クロに対して強いメタカードの入手方法を知っていること。
クロのメタカードを丁寧に保管、さらには回復系・自傷系のカードはしっかりとファイルに保管。ファイルは何冊もあり、ほかのメタ関係のファイルも持っている。
このことは、自分の欲しいカードを明確にイメージするための材料の一つ。
それが強さにつながっているとは、この時は思っていなかった。
~~~
カードショップに入った瞬間、俺が両手で抱えていた段ボールに、店員たちがざわつく。
「え……なにそれ……ガチ勢……?」
店の奥から、筋肉でTシャツが引きちぎれそうなマッチョ店長が登場した。頭はつるっと光っているが、目は鋭い。
「ほう……こんなに大量のカード持って来たってことは……」
店長の目が俺を値踏みするように光る。
「精霊使いかい?」
「ええ、まぁ。でも全部、バニラです」
段ボールの蓋を開けて見せる。中には光と火のバニラカードがびっしりと詰まっている。
「とりあえず属性ごとには分けてありますけど……8割くらい光と火ですね」
「2色使いか……最近じゃ珍しいな」
店長が感心したように頷く。
「丁寧に整理してるけど、正直、バニラは全部同じにみえるかい?」
俺はそう思っているが、多分普通の人は違う感覚を持っているのだろう。
「ははっ。アンタ、バニラカードを“雑魚”って思ってるタイプか。そこまで突き詰めてるってことは、なかなかの玄人だな」
「この年でここまでやるってことは、さては――」
「アストラルカード学園です」
ポケットから学生証を取り出して差し出す。
「おおぉ!? あのカードエリート校か! こりゃやるねぇ!!」
店長が豪快に笑う。
「で、今日はカードを売るだけかい? それとも、何かお目当てが?」
「カード買いに来ました。ほしいカードがあって。とりあえず、ざっと査定額、お願いできますか? そこから逆算して買い物したいです」
「なるほどな。目的のカードがあって、こんな辺境のショップに来たってわけか」
店長が腕を組み、にやりと笑う。
「このカードゲームはな、人が作るんじゃねぇ。精霊と一緒に"引き寄せる"もんだ。だからこういう隠れた店にも、お宝は眠ってる」
「で? 何を探してんだ?」
「《光の墓の守り手》……光、10コスト、マッドネス持ち」
店長の目が鋭くなった。
コスト10、光、パワー4/4、マッドネス
闇属性を墓地に送れなくする。送ったらそのまま除外……
「なるほどね」
店長が腕を組み、ふっと笑う。
「お兄ちゃん……誰かに勝ちたいってわけか。闇のハンデス使いに」
「すごいですね、店長……!」
ルミナがぽんと手を叩く。彼女の関心は俺にしか見えていない。
「青春だねぇ。カード一枚に、想いを乗せるなんてさ」
店長は静かに机に手を置き、現実を告げた。
「――結論から言おう。悪いけど、そのカードは買えない」
「……え?」
「ざっと見て3万程度だな」
バニラのノーマルで1枚10円つくなんて、ふつうのカードゲームなら20枚で1円だ。
かなり良心的に価格設定。
「だが、その《光の墓の守り手》……低めに見積もっても10万はくだらない。レートで言えばトップレア中のトップ、今じゃ闇メタの象徴だ」
ぐっと拳を握りしめる。俺は一歩、前に出た。
「――だったら、バイトさせてください」
「……バイト?」
「ここで、4万分働かせてください。手元に3万はある。それで、買いたい。オリパとか、整理とか、なんでもやります!」
俺は、必死にやらないとクロに勝てない。
「ご主人様!!本気だね!!」
「私は感動だよ~! 成長してる! ちゃんと熱くなってる~!」
ルミナの瞳がきらきらと輝いている。
彼女はまるで、自分のことのように喜んでいた。
「バイトは歓迎だよ。だけどな――そんなの、兄ちゃんに求めねぇよ」
「……?」
「兄ちゃん、強いんだろ。地方大会、優勝。全国でもベスト16」
学生証の名前をちらりと見たかと思えば、店長はスマホで検索していたらしい。
「初日は……バトルで客寄せしてくれや」
「――え?」
「明日、この時間にもう一度来てくれ」
俺は一瞬ためらったが、すぐに気持ちは決まっていた。
「来れます!! 絶対に来ます!!」
「よし。査定額のことは、明日でいいだろ? 確認しておくからよ」
「はい、大丈夫です!」
「兄ちゃん、SNSやっとけよ」
「プロになりたいんだろ?」
俺は少し驚いた顔で店長を見る。
すると彼は、面倒くさそうに、けれどどこか本気の目で続けた。
「強いだけじゃ、ファンはつかねぇよ。
カードバトルってのは、見せ物でもあるんだ。客寄せだって、数字がなきゃ始まらねぇ」
「……でも、SNSって得意じゃなくて」
「毎日やれとは言わねぇ。1週間に1回、一行でもいい。
“今日はカード磨いた”とか、“初めての敗北が悔しい”とか、それでいい。
大事なのは――続けることだ」
言葉に、重みがあった。
「数字があればな、営業もできるし、イベントのゲストにも呼ばれやすくなる。
うちみたいな個人店にだって、アピールが通る」
言われて、俺はすぐにスマホを取り出し、《ツブヤイッター》のアカウントを作った。
名前はハンドルネーム、アイコンはルミナのラフイラスト。
「よし、作ったぞ……と」
「OK。うちの店アカでも紹介しとくよ!」
店長はにやっと笑い、タブレットを叩く。
「明日来るときまでに、初投稿しとけよ。カードゲームは戦いだけど、見せるものでもある。
“言葉で残す勇気”も、プロには必要だぜ」
俺は画面を見つめながら、小さくうなずいた。
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甲斐 ヒカル@RUMINA
はじめまして。
カードショップアクセル店長さんからアカウントを作ることも
プロになる一歩とアドバイスをいただきました。
確かにそうだなと感心しました。
カードショップアクセルに5日ほど滞在していると思いますので。
バトルしましょう!!
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「おい、君……店長のツブヤイッター見たよ」
声をかけてきたのは、スーツ姿の男だった。ネクタイをゆるめたまま、カードケースを小脇に抱えている。年齢はたぶん三十代半ば――会社帰りって感じだ。
「君、アストラルカード学園の生徒なんだろう?」
「はい、そうです!」
俺がはっきり返すと、男は少し照れくさそうに笑った。
「だったらさ……一戦、お願いできないか?」
「俺、ちょっと弱いんだけど……このカードゲーム自体は好きでさ。
平日はろくに時間も取れないけど、週末になるとこうして店に来てるんだよ」
意外だった。
学生ばかりだと思っていたけど、大人もこうやってカードを楽しんでいるんだ。
「僕もこのゲームが好きです。だからこそ、日々練習してます」
「――よろしくお願いします」
やはり、バディーがパックから出たばかりのカードだと、俺の相手にはならなかった。
だが、彼のデッキにはしっかりとしたコンセプトがあった。自然単の獣使い――速攻主体で、初心者でも扱いやすい構成だ。
「あっさり負けちゃうね」
「やっぱり、あそこの学生さんは強い」
「強いですよ」
俺は笑いながらうなずいた。
「もしよかったら、デッキ見せてもらってもいいですか?」
「いいけど……」
デッキを渡し、ざっと目を通す。マナカーブは整っていて、プレイングも悪くない。ただ、カードパワーが足りない。精霊カードを持っていないのだろう。
――気づけば、学園での生活に慣れすぎて、俺の感覚はちょっとズレていたのかもしれない。
「2色でもよさそうですね。バディーの効果は“自然が20枚以上”なら、コストチャージができる……それを活かして、火・自然の速攻にしても面白いかもしれません」
「火のカードは、どれくらい持ってますか?」
「そこまでないかな……」
「でしたら、あそこのストレージで使えそうな火のバニラカードを探してみてください」
「できれば、“獣”を持ってる火属性があればベストですね」
俺のストレージを漁ると、ちょうど条件に合う火の獣バニラが数枚出てきた。
「店長! 査定、ちょっと早めてほしいカードがあるんですけど」
俺が声をかけると、店長が数枚のカードを手に戻ってきた。
「兄ちゃんの火属性で“獣”を持ってるのは、これだけだった」
店長が4枚のカードを手にして差し出す。
「まだ兄ちゃんの持ち物だから――200円で買ってくれや」
「えっ、店長……いいんですか?」
驚いて聞き返すと、店長はニカッと笑って肩をすくめた。
「査定に時間をかけてしまっているからな。ほんの気持ちだ」
それだけで、心が温かくなる。
「混合のカードは、あそこのストレージにあるから。時間あるなら、ゆっくり見ていってくれや」
そのやりとりを見ていたおじさんが、カードを一組選び、こちらにやってきた。
「これ、もらうよ。500円で」
「ありがとうございます。今、おつり出しますね」
「いいよ。気持ちだから、受け取ってくれ」
「ストレージの中で、よさそうなカードがあったら兄ちゃんに聞くから――そのときは、よろしくな」
「はい。喜んで!」
この店の空気は、どこか懐かしくて、心地いい。
プレイしながら、そっと相手のカード構築を助ける――
ただの対戦じゃなく、交流が楽しく思えるのは久しぶりだった。
(少しは、店の売り上げに貢献できてるだろうか……)
そんな風に思いながら、ふと視線を上げると、レジ前でおじさんがカードを手に笑っていた。
さっき勧めた1枚を、大事そうにケースへしまっている。
ほんの少しだけ、自分が誰かの“カードの思い出”に関われたような気がした。
「兄ちゃんのおかげで、今日の売り上げはいいよ」
「それにしても、全勝するってさすがだな」
その言葉に、少しだけ肩がこそばゆくなる。
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自宅に帰ると、ルミナがすぐに飛びついてきた。
「ご主人様~偉い~」
「本当に頑張ったねぇ~」
いつもより声がふわふわしていて、妙に甘やかしモードだった。
「……そうでもないよ。リュウのマネをしただけだよ」
カードをくれようとしたリュウの、あの自然な立ち振る舞い。
もしあれを見ていなければ、あのカードショップでうまく立ち回れなかったかもしれない。
「ふふふ、それでも今日のご主人様は素敵だったよ」
ルミナはやけに機嫌がいい。俺の肩にぽすっと頭を預けて、言葉を続ける。
「ご褒美に一緒にお風呂に入ってあげるよ~」
「ほらほら、遠慮しなくていいから」
「ご主人様~」
腕を引っぱってくるルミナは、完全に甘やかしに入っていた。
「……なんでそうなるんだよ」
苦笑しながらも、どこか心がほぐれるのを感じていた。
ルミナのこういうところは、時に鬱陶しくて、でも……少しだけ救われる。
今日、俺は少しだけ誰かの役に立てた。
ルミナはそれを、ちゃんと見ていた。