とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
来年の年末分まで書き溜めてあるので途中でエタる心配は無いです。最後までよろしくどうぞです!
第1話:呪具屋さんでした(過去形)
「ハァッ、ハァッ、ハァッ、ハァッ……!」
────どうしてこうなった。どうして。
そんな困惑や混乱の思いを抱きながら、雨の降る街をひたすらに駆ける。地面に溜まった水を踏み、ズボンの裾が、靴下が、足が濡れるのも厭わずに。
普段は気になる、濡れて足に張り付くズボンすら今はどうでもよく感じられる。
「クソッ、どーしてこんなッ……!」
口をついて出てくるのはそんな混乱の言葉だけ。
俺はただの古道具屋。針やら時計やら、蓑やら、そういったあまり使われなくなった物を売ったり、貸したり、または買い取ったり、直したり。
家が変なバケモノに襲われて全壊するとかいう、オカルト雑誌に載りそうな珍現象とは無縁のハズ。
ってのは、あくまで表向き……一般社会向けで。
本業は呪具屋だ。だから家が吹っ飛ぶ心当たりはあるか無いかで言えば……まぁ、ある方だ。
呪いを祓う事に特化した連中──呪術師を相手に道具を融通するのが仕事。御三家の1つ、禪院家は最も贔屓してくれている。あんまり表には出さない情報だが今の五条家の坊ちゃん──五条悟もうちでテキトーな呪具を買っていったことがあるようで、それがちょっとしたうちの自慢だった。
いやそんな事はどうでもいい。
そんな町外れの
俺は生まれながらの呪具屋。そんな物に囲まれて育ったからか、呪具の扱いには人一倍慣れている。当然ながら応戦しようとしたものの、店が潰された混乱と、襲撃の瞬間まで寝ていたというデバフに、手が届く範囲にあった呪具では、まともに応戦などできなかった。
だからこうして、手近なバッグだけを引っ掴み、逃げ出す事しかできなかった。
「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」
「っ、え……」
帳だ。帳の詠唱……俺じゃない。……誰だ?
妙に通ったイケメンなボイス──イケボに遅れ、ジワジワと帳が下りてきた。ふざけやがって。
ほぼ一般人のような俺まで帳の中に残されては、何があったものか分かったものではない。急いで、防火シャッターのように下りつつある帳から脱出を図る俺だったが。
「おっと、君は行かせないよ〜。間に合わなかったけど、せめて、君には見届けてもらわなくちゃね」
「うぼぁっ……」
唐突に目の前に現れた黒い物体に、真っ正面からぶつかってしまった。黒い目隠しをして、白い髪を逆立てた、妙に手足が長くて──というか全体的にひょろ長い奇妙な男……コイツは。
呪術師でなくとも呪術界に多少なりとも関わりがあれば嫌でも知る事になる、現代最強の術師……。
「五条、悟……!?」
「やっ。久しぶりだねぇ。子供の時以来かな?」
「!?」
「アハハッ、流石に覚えてないか。直接会ったの、君が幼稚園児くらいの頃だもんねぇ〜」
「なっ……ななななっ!?」
会ったことがある? 俺が……五条悟に??
お前なんか、父親からの伝聞とか写真越しでしか知らないぞ。会ったことがあるなんて一度も……。
するとその時、家の跡地の辺りから超巨大化した芋虫のような呪霊が飛び出し──そして、こちらに向かって突進してきた。
「あー、やっぱりかぁ。君んちにあったんだねぇ。特級呪物『両面宿儺の指』」
その速度たるや、まさに新幹線、いやリニアだ。リアルでリニアモーターカーを拝んだ事は無いが、もしも実際にあったらこんな感じの超スピードでの移動が可能になるんだろう──など、呑気なことを考えながら、死を予感したのか自然と目を瞑ると。
「十数年ぶりの再会なんだ。邪魔するなよ」
そんな声と共に凄まじい呪力をすぐそばに感じ、目を開けると。手を鉄砲のような形にして、今にも突進してきそうな芋虫呪霊に向けている、五条悟が目の前に居た。
目隠しを外し、水色に輝く「六眼」を曝け出し。一撃必殺とも言える攻撃を放つ。
「術式反転──『赫』」
赤い球体? のようなものを発射すると、触れた箇所がそのまま削り取られたかのように消え失せ、それに遅れて、呪霊そのものも塵のように消えた。
そして呪霊のお腹があった辺りから、棒のような物体だけ、消えずにポロリと落ちてくると五条悟はそれを手に取り。
「よし、回収完了っと」
「な…………あの……えっ……?」
「どしたの? 混乱してる? おーい」
目を丸くしていた俺に、ぺちっとデコピン1発。それで正気に戻った俺はヘラヘラしている五条悟の目の前に立ち、混乱と苛立ちをぶつける。
「混乱もするだろ! それ、うちの御神体だろ!? 神棚に飾ってたヤツ! 似たような気配するから、多分間違いないだろーけど……何だよ、それ?」
「何って……特級呪物『両面宿儺の指』だよ」
「ゆ、び……キッショ!? なんでそんなのがうちにあんだよ! まさか、それのせいで呪霊が……!?」
「うーん、どう説明したものかな。掻い摘んで説明すると────」
五条悟の話を要約すると。
これまではコイツが内包する「呪い」があまりに強過ぎるが故に呪霊避けとして機能していた。
しかし両面宿儺が受肉し、封印が解けたが故に、今度は呪霊を誘き寄せるように性質が変異した。
──俺の足りない頭ではよく分からないが、大体こんな説明だった。そんな気がする。多分。いや、知らんけど。Maybe。
何にせよ、家が急に呪霊の大群に襲われたのも、その中の1匹が妙に巨大化したのも、その「指」で超絶強化されてしまったせい、らしい。
それだけは間違いなく理解できた。
「宿儺の指とか関係なく、そもそも君んちは呪具を扱う店であるが故に、呪いが集まりやすい。規模も大きいしね。だから、店には呪い避けのまじないが掛けられてた。そのお陰で、指の封印が解けつつもこれまで呪霊に見付からず過ごせてたんだろうね」
「それならどうして急に……」
「キャパオーバーしたのさ。封印が本格的に解けたせいで、君んちに掛けられたまじないで隠しきれるキャパをオーバーしてしまい、遂に『宿儺の指』の気配が外に漏れ出し、今に至る……って感じかな」
「……」
「遅れてごめんね。思い出したの、最近なんだ」
「思い出した?」
「中学生くらいの頃かな。僕、それくらいの頃に、君んちに買い物に来たんだ。その時、店の中から、強力な呪いの気配を感じてさ。そん時は、歴史ある呪具の取り扱い店だからかな──くらいに思ってたけど、割と最近になって思い出したんだよ。『あの気配って、宿儺の指じゃーん☆』ってさ!」
「はぁ……」
「それで来てみたら、店は吹っ飛びたてほやほや、君は逃げてるしで……色々、ビックリしたよねぇ」
「し、しゃーないだろ。爆弾がマジで急に爆発したみたいなモンだし、五体満足で逃げられてるだけで奇跡だと思ってるよ。瓦礫に潰されてロクな呪具も持ち出せなかったしさ。戦う為に訓練してるお前ら呪術師とは違うんよ、やっぱりさ」
「……ま……確かにね。君は呪具屋だ、呪具とそれを扱う知識さえあれば生きていける。店のまじないも相まって、戦う訓練とは多分、無縁だったハズだ」
ふむ、と五条悟は何やら考え込む。
宿儺の指の回収がギリギリ間に合わなかった事を悔いている様子は、まるで無い。あっても困るが。これは俺の家の問題。五条悟がそれをどう思おうが別に俺に関係は無い。
そんな、何やら考え込む五条悟の横をすり抜け、愚痴と共に唾を吐く。
「チッ。再建するまでホテル暮らしか。ダリィ……」
口座にどんなもん残ってたか……500万も無かったような気がする。歴史ある店ではあったが、繁盛はしていなかった。その日その日を食いつなぐだけで精一杯、という程でもなかったけれども……。
「あっ、そーだ! ねぇ! 君って確かまだ18とか19歳くらいだよね!?」
「え……こ、今年19歳になったけど……?」
「じゃあ丁度いいね。君さ、店が再建できるまで、呪術高専に来なよ! 4年生として、編入しよう! 寮があるから宿泊費なんて掛からない! 名案だと思わない?」
何言ってんだ、コイツは。
「バッ、バカ言わないでくれよ。勉強が嫌いだから大学にも進学しねぇであの家業を継いでたんだぞ? どうして高専なんか行かなきゃならないんだ……」
「それについては大丈夫! 君は事情が事情だから普通の生徒とは扱いを変えるさ」
「んなウマい話があってたまるかよ。というか俺の質問に答えてくれ、なんで高専なんかに行かなきゃならない?」
「僕の生徒に、呪具の扱いを教えてあげてほしい。教えるのは難しいだろうけど、君なら手頃な呪具も提供してくれそうだ。アイテム屋みたいな感じで、色々と彼らの役に立ってくれそうだしね」
「バカ言うな。店だって継ぎたてホヤホヤで、右も左も分からない状態なんだぞ。俺だって勉強中だ。バカなことばっかり言いやがって。アンタが天下の五条悟じゃなきゃ、とっくに斬って捨ててる所だ」
「もちろん旧友の君だからって住まわせる代わりにタダで教えろとは言わない。給料もしっかり払う」
「誰が五条悟と旧友だよ。俺なんてアンタと会った記憶すらない、実質ハジメマシテだよ。……で?」
「うん?」
「給料……お幾ら?」
「ははっ、さっすが商人。お金の話には敏感だね」
「茶化すな。店も守れなかった俺なんか商人として失格だ。憂さ晴らしに、生徒指導でも呪霊狩りでも何でもやってやる。……お金は払ってもらうけど」
「じゃ……可能な限り言い値で」
「言い値だと? ウン億円とか請求するぞ……?」
「お、強気だねェ。いいよ?」
「は? おま……正気か……?」
「大丈夫でしょ。君、そんな非常識なことを本気で言うほど、バカじゃないでしょ?」
「ぐっ……」
「それで、答えは?」
「……」
「来てくれるなら、再建の費用も僕が出すよ。僕、というより『五条家』がね。商品の呪具も、幾つか融通したげる。発見と到着が遅れたからせめてものお詫びとしてね」
「……それは『縛り』か?」
「口約束が不安なら『縛り』にしとくかい?」
「……いや、いい。御三家当主様が、そんな嘘なんかついたところでな。お家の名声が落ちるだけだろ」
「ま、僕そんなの気にしないケドね」
「!?」
「あっははは、冗談冗談、マイケル・ジョーダン! じゃ、普通くらいの給料に、教育費や呪具代として少しだけ上乗せするくらいね。それでいいかい?」
「本当にいいのか? 再建に……給料までなんて」
「もちろん。じゃあ、もう今日から高専暮らしって事でOKね?」
「ああ……って、今日から!?」
「そりゃそうでしょ。もうすぐ夕方だよ? 今から宿探して、明日のんびり移動するのも、アリっちゃアリだけど。でも迎えももう呼んでるんだよね〜」
「……俺が断ってたらどうしてたんだよ。迎えの人、無駄足じゃねーか……」
「君は断らないさ」
「……ッ!」
水色の目に覗き込まれ、思わず後退る。敵意とかそういう負の感情を感じたワケじゃない、だけど、こんな真っ直ぐに見られるとどうも居心地が悪い。
「ってことで。ようこそ、呪術高専東京校へ!」
どうやら、俺こと
「……って、待て。なんで東京校……??」
「なんでって?」
「
「だって君ィ……
「────ッ!!」
「大丈夫。安心してくれていい。君はただ、後輩となる生徒に君の持てる知識と技術を広めてくれればそれでいいんだ。気負うことは何も無いよ」
「……チェッ。分かったよ……」
「そう? なら良かった〜」
目隠しを戻して、また髪を逆立たせる。サラサラヘアーが、目隠しを戻したくらいであんなにも酷くツンツンになるものだろうか? それともそういう呪具なのだろうか?
「あ、伊地知? OKもらったから拾いに来てよ。まだ近くに居るんだろ? ──え、高速乗るとこ? いいから早くしろ、UターンUターン。10分以内。遅れたらマジビンタな」
電話口から、気弱そうな男性の叫び声が聞こえた気がした。五条悟に向かって何か早口で捲し立てているが、彼はそんな電話口の彼を無視してプツンと電話を切ってしまった。酷いヤツだ、コイツは。
「そんなに急がせる事ないだろ。20分くれ。無事な呪具を持ち出したい。手伝ってくれない?」
「いいけど、20分で足りるのかい?」
「伊地知さんとやらを待たせたくない。この近くのインター前からなら、25分くらいで着くハズだし」
「慣れたんだね……京都に」
「フンッ……もう、離れるけどな」
雑魚とはいえ、呪霊が一斉に襲い掛かってきたら木造平屋など、ひとたまりもない。店──俺の家があった場所は、局所的な大地震でも起きたように、ペシャンコに潰れてしまっていた。
20分なんて言ってしまったが、この瓦礫をどかすだけで1時間近くは掛かってしまいそうだ……。
「術式順転『蒼』」
「……は?」
五条悟が何か唱えると、瓦礫がふわりと浮かび、全方位から圧縮されるように、潰されてしまった。小さな破片のようなものこそ残っているものの──大きな瓦礫はあらかた綺麗に消えてしまった。
よく分からんが、これが五条悟の術式──無下限呪術というものらしい。話には聞いていたものの、なんてムチャクチャな……。
かつて店の商品であった呪具を、避難する時から背負っていたカバンに、無造作に突っ込んでいく。刃物も、そうでないものも、とにかく突っ込む。
もう、しばらくは、ここには帰ってこない。上京するのだ、必要な物なら、呪具も呪具でないものも呪物も呪物でないものも何でも詰め込まなくては。
「つーか……迎え、呼んでなかったんじゃん」
「家も壊されて傷心中だろうから、考える猶予をと思ったんだ。思ったより立ち直り早かったけどね」
「……薄情だと思うか?」
「いいや、ちっとも」
それから迎えの黒い車が来るまで、五条悟と家の跡地の片付けをしていた。雨も帳も、いつの間にか上がっていて、久しぶりの太陽に目を細めた。
──なお、伊地知さんとやらはあの電話から18分程度で到着。かなりトバしてきたらしい。それでも五条悟に強めにデコピンされ、涙目になっていた。道路交通法を無視するレベルでのムチャを言われた挙句、大の大人でさえ尻もちをつくくらいの強さでデコピンされるなんて……不憫な人だ。
時間的な問題から、今回持ち出せたのは、店先に並んでいた商品だけだった。地下の忌庫の中に格納されているモノは、今度、持ち出すことにしよう。
「……じゃ……ちょっくら東京、行ってくるよ」
どこか後ろ髪を引かれる思いを隠しきれぬまま、伊地知さんが運転する黒い車に乗り込んだ。
オリジナルキャラプロフィール①
氏名:
性別:男
年齢:満19歳
術式:有り
本業:呪具屋店長(継ぎたて)→呪術高専4年生
家族:無し
恋人:有り
育ち:良くはない
性格:良くはない
口調:荒い(弱い自分を強く見せようと幼い頃から演技をしているうちに荒い口調が定着してしまった)