とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第10話:春夏の過去

 

 羅喜(ラキ)のお披露目会が済み、簡単な質問コーナーが設けられる。それらを全て捌き終える頃には春夏は既に疲弊しまくっていた。

 でも──と、春夏は初心を思い出す。

 はやる心を落ち着かせる為に静かに深呼吸して。羅喜のお披露目と同時に皆に言おうとしていた事を吐き出す。

 

「一昨日は、ごめんなさい。帳の中に居た皆の事、助けにも行かないで……盗まれた呪物の方ばっかり、追い掛けてた。今後は協調性とか身に付けていけるように頑張るので、許し──」

 

「あ、待って春夏、それオフレコ……」

 

「……え?」

 

「いやほら、盗まれたとか聞いたらセキュリティが怪しまれるでしょ? ……って、もう遅いか」

 

「さ〜〜と〜〜る〜〜〜〜〜ッッ!?」

 

 2年生をはじめ、呪物が盗まれたなどという話を聞いていなかった生徒達は、五条に掴みかかった。日下部はゲンナリした様子で溜め息をついている。

 

 ◆

 

「──とまぁそういう事で、皆がお花の特級呪霊と戦ってる間、春夏は、忌庫から呪物を盗んだ呪霊を追い掛けててくれたんだよ。何気にファインプレーだよねぇ」

 

「帳に入れなかったせいで到着も遅れたってのに、他人事みたいに言うよな、悟ってば」

 

「しゃけしゃけ」

 

「パンダ! 棘! そういう事は言わないのっ!」

 

「そもそも、戦うのに集中しなくちゃだったし──春夏先輩が来ないとか何とかは思ってなかったよ。祓えはしなかったけど、あの木の呪霊にも先輩から買ったメリケンサック、めっちゃ効いてたしさ!」

 

「俺なんか逃げ回ってばかりでしたし、反撃も殆ど無意味で、しかもすぐ撤退してしまったんで先輩の単独行動とか責められる立場に無いですし。なのでそれを謝られても、困るというか……何というか」

 

「右に同じ。てか参戦できなかったし」

 

 あまり褒められたものではない単独行動も、皆はなんとも思っていないようだった。呪術師はチームプレイ──呪霊を倒す方と逃げるのを追いかける方という形で、実際は、チームプレイができていたのではないだろうか、と春夏はそんな事を思い始めた。

 

「で、盗まれた呪物ってのは取り返せたのか?」

 

「あ、それなんだけど……」

 

「いやー、流石に逃げられたっぽいけど──」

 

「取り返したよ」

 

「……え?」

 

 壊れたロボットのようなぎこちない動きで春夏を見る五条。どうしてお前が知らなかったんだよ、と言わんばかりの冷たい視線を五条に向ける真希。

 

「とはいっても、囮に引っ掛かっちゃって少ししか取り返せなかったけどね……」

 

「待って春夏。それ、僕に言ってなくない?」

 

「聞かれてないし……」

 

「何を取り返したの?? いや、取り返した呪物は何処にある?」

 

「伊地知さんに渡したよ。クッソビビってたけど。夜蛾学長に渡しに行くって言ってた」

 

「……ゑ?」

 

「勝手に虎杖に食わすのもどうかと思ったからさ。それなら伊地知さんに渡そうかなって」

 

「そもそも僕に報告しない事の方をどうかと思ってほしいなぁ……」

 

「諦めろ悟、お前の信用の無さが招いたことだろ」

 

「そうだそうだー、もっと言ってやれ真希〜」

 

「しゃけ」

 

「報告しないのは少しまずいと思いますけど、まぁ伊地知さんならちゃんと学長に渡してるでしょうし大丈夫じゃないですか」

 

「五条先生、色々とテキトーなトコあるもんな」

 

「報告したくなくなるのも、分かる気はするわね。黙って私のスカート履くような腐った人間だもの」

 

「待ってみんな、僕にだけ当たり強くない???」

 

 春夏も、五条に問い詰められて一瞬だけドキリとしたものの、五条の普段の素行のお陰で、何故だか春夏が問い詰められるような雰囲気は霧散した。

 

「てか、俺に食わそうとしたって事は宿儺の指?」

 

「うん。俺が取り返したのは3本だけだね」

 

「盗まれた宿儺の指は6本だった。3本ってことは半分──まぁ、全部盗まれるよりかはマシだわな」

 

 黙って話を聞いていた日下部が、ポロリと呟く。生徒達はというと、まさか高専に6本もあったとは夢にも思わず、驚きで目を見開く。

 

『この子ったら、2体に分身した特級呪霊の片方を消し飛ばして取り返したのよ? 凄いでしょう?』

 

 何故か、茨木童子が誇らしげにしている。

 

「マジ!? 春夏先輩、強ッ!?」

 

「羅喜、誇張すんのやめろ。虎杖も真に受けるな。倒したのは中身スカスカのデコイみたいなモンで、俺にそんな五条先生みたいな強さは無いから……」

 

 春夏は、宿儺の指1本分とはいえ、五条悟が特級呪霊を目の前で消し飛ばした場面を見ている。故に羅喜の話しぶりが無駄に大袈裟で、後輩達から変な目で見られるのが嫌でそう言ってのける。

 

「そういや、春夏先輩の等級ってどれくらいなの? 伏黒は2級だったよな? 確か単独で任務行けるの2級からとか聞いたような気がするけど……」

 

「あぁ。……春夏先輩なら2級はあるんじゃないか。低くとも準2級だと思うが……」

 

「というか、編入したてだし、等級とか教えられてないんじゃないの? 編入してソッコーで交流会、そしてその交流会中にもドタバタが起きて今に至るワケでしょ? そんなの測る暇があったの?」

 

「「あ……」」

 

 釘崎の言葉に、伏黒と虎杖はハッとする。そう、春夏はまだ編入して数日。学生証もまだ受け取っていないし、制服もまだ高校生時代の物を着ている。

 真人が春夏を見て瞬時に呪術高専の生徒だと判断できなかった原因が、まさに、制服の違いにある。

 ──だから、釘崎の考えも間違いではなかった。

 しかし彼は呪術界とそれなりに繋がりがある家の出身である。普通の社会人が唐突に呪術高専に来たというパターンとは、まるで違うのだ。

 

「俺は『特別2級』だよ」

 

「何それスゲェ!? 伏黒の2級とは違うの!?」

 

「ん、んー。なんて言えばいいのかな、基本的には変わらないと思っていいけど……」

 

「けど特別なんしょ?」

 

「いや、同じハズだ。高専関係者じゃなかったから特別って言葉が付くだけで、高専術師で換算すると2級に等しい等級だ。……そうだろ?」

 

「う、うん、そう。詳しいね、真希さん」

 

「実家に何人か居るからな。特別1級って連中が」

 

「流石は禪院の本家だね……」

 

「因みに俺は準2級で、棘は準1級だぞ!」

 

「しゃけ!」

 

「マジか。狗巻くんスゴイな……」

 

 生徒達がそうして等級について話している傍で、日下部は何か思い出したように五条の袖を引いて、ヒソヒソと耳打ちする。

 

「おい、五条。等級の話で思い出したんだが」

 

「ん?」

 

「昨日、伊地知から預かってなかったか?」

 

「え? 何を?」

 

「渡辺春夏の学生証だよ。聞いてりゃ分かるだろ、話の流れ的に……」

 

「あっ。……やっべ。忌庫とか呪霊とかのゴタゴタで普通に忘れてた」

 

「お前なぁ。頼むぞ? 渡辺については主にお前が担当してるんだろ? 学生証ってのは学生にとって数少ない身分証だってのに、それを渡し忘れるとか酷すぎるだろ。そんなんだから、大事なことなのに報告されなくなるんじゃないのか?」

 

「やだなぁ、それとこれとは関係ないっしょ〜」

 

「信用の問題だっつってんのよ、俺は!」

 

「わかった、わかったよ。とりあえず春夏の学生証持ってくるから、場、繋いでてくんない?」

 

「めんどっちぃからイヤだ──って、もう居ねえ」

 

 数分後。生徒達が五条悟の行方不明に気付く頃、彼は1枚のカードを持って彼らの元に戻ってきた。話題に挙がっていた、春夏の学生証である。

 

「じゃーん、お待たせ! 春夏の学生証だよん!」

 

 あまりに良すぎるタイミングに、生徒達の視線は極めて冷たく、鋭いモノに変わった。話題になったお陰で、忘れてたのを思い出しただけだろ──と、日下部以外の全員が察していた。

 実際、日下部が指摘するまで、五条の頭の中から春夏の学生証についての話は消え去っていたので、生徒達の考えは全くの間違いでもなかった。

 

「はいよん、春夏♪」

 

「ありが…………は……?」

 

「なぁ先輩、何級なの、何級なのっ!?」

 

「呆然としてないで見せなさいよっ!」

 

「いや……これはおかしいだろ。五条さ……先生」

 

「何かあった? 渡辺が渡邉(口の方)とか渡邊(方角の方)になってた? それなら伊地知のことマジビンタしなきゃだな」

 

「そうじゃなくてッ! どうして推薦も任務も何も受けてない俺が、1級術師になってんの……!?」

 

 学生証を目隠しの目の前に突きつける春夏。その声は、焦りと困惑で自然と怒鳴るような声になり、近くに居た虎杖などはビクリと身体を震わせる。

 1級の日下部は、ピクリと眉を動かす。

 1級術師──それは一般呪術師の中での最高位。

 準1級やら2級やら、それ未満の術師達を率いる立場になる事もある。

 そんな立場なのだと──他ならぬ春夏の学生証が示しているのだ。

 春夏の学生証を見て真希は驚きに顔を歪め、伏黒だったりパンダ、棘などは声にも出せない様子で、目を見張っている。純粋に驚いているのは、恐らく虎杖や釘崎くらいのものだろう。

 

「うぇぇっ!? 1級って!? 確か、ナナミンも1級だったと思うけど──春夏先輩ってナナミンと同格だったの!?」

 

「1級──京都校で言うと、東堂葵と同じ……!」

 

「てか、特級の憂太を除けば東京校の生徒の中では最高ランクじゃないか……」

 

「ツナ……」

 

 全員が驚きの声を上げ──そして、春夏を見る。まさか、目の前のこの男が、例え同じ1級の中では下位であろうと、1級術師とは思えなかったから。

 真希はまさに、他者と春夏を比較しやすかった。実家には「特別1級術師」が何人も居るのだから。

 しかしそんな真希から見ても、春夏はその等級に似合わないと感じていた。

 が、それは、春夏本人が誰よりそう思っていた。何しろ、任務も何もこなしていないのだから。

 

「……まさか無いだろうとは思うが、アンタのコネで1級になったワケじゃないだろうな?」

 

「あのねぇ、春夏ってば僕をなんだと思ってんの。あ。それとも、それほど特別扱いされてるって?」

 

「そんなの思ってねえし言ってねえ。答えてくれ。アンタなら知ってるだろ?」

 

「『教えてください』、でしょ?」

 

「……教えてください、五条先生」

 

「んーとね。端的に言うと、僕が頼んだの」

 

「やっぱコネじゃないか!!」

 

「あっはは、まぁまぁ、話は最後まで聞きなさい。1級術師になる為の条件は──恵、答えてごらん」

 

「──2名以上の1級術師から推薦された人間が、また別の1級術師に同行して、幾つか任務を遂行。適性有りと判断された場合、まずは準1級として、単独で1級任務を遂行し、その結果や出来によって本格的に昇格させるかどうか決定される──です」

 

「まぁ、そんな感じ〜」

 

「だ・か・らッ! そもそも推薦を受けてたなんて知らないし、任務なんか行ってないっつってるの! 俺がいつ任務なんて行ったのさ!? 高専に来て、まだ間も無い俺が!」

 

「──お前を推薦したのは、俺だ」

 

「爪楊枝おじさん!?」

 

「……自己紹介がまだだったか。日下部篤也だ」

 

「日下部サンと、五条家の特別1級術師の2人で、春夏を推薦したんだ。ちなみに、春夏は、冥さんの任務に同行してたんだよ」

 

「ッ!? 黒鳥操術とかいう烏を操る術式を持つ、超絶守銭奴で有名な、冥冥……!?」

 

「うん、少しはオブラートに包もっか……?」

 

「だからさ────!」

 

「待て、春夏。──悟。幾ら何でも、流れや説明を適当に端折り過ぎだろ。誰が春夏を推薦したとか、そんなのは別にどうでもいいんじゃないのか」

 

「うんうん。話の主題はあくまで『どうして本人の知らぬ間に推薦されていたか』より『1級の条件をいつ・どのように満たしたのか』じゃないか?」

 

 春夏の言いたかった事を真希とパンダがまるっと代弁してくれた事によって、聞きたかった事に全く答えない悟への苛立ちが幾分か収まった春夏。

 

「1級術師になれば──いや準1級の時点で、既に一般的な術師が味わう任務の難易度を遥かに超えるでしょう。それこそまさに特級案件だってあるかもしれない。本人が無自覚の内に、なんて、そんなのあるんですか? 条件からしてもおかしすぎます」

 

 恵まで言葉を添えたことで、五条は、これ以上は説明から逃れられないかな──と頭を搔く。推薦を五条から頼まれた日下部はと言うと、そろ〜りと、その場から離れた。

 

「分かった、観念するよ。いつかは、知らせなきゃいけない事だろうしね」

 

「ったく、どうせ折れるなら最初からそうしろよ。私らの中でも信頼、落ちかねないぞ」

 

「ハハッ、そいつは困るね」

 

 ふぅ、と五条は短く息を吐き、とうとう観念したように口を開く。

 

「事の発端は去年──呪詛師・夏油傑が起こした、未曾有の呪術テロ『百鬼夜行』にまで遡る」

 

「!」

 

「春夏。その時、春夏はどうしたか覚えてるね?」

 

「どうした、って──そりゃ、近所に呪霊が出たら祓うでしょ、普通に考えて……」

 

「「「え?」」」

 

「え?」

 

 恵、真希、パンダは、揃って疑問符を浮かべる。春夏は、その3人が何故疑問符を浮かべているのか理解できずに、カウンター的に疑問符を浮かべた。

 

「ほら、分かってない。あのね、春夏。普通はね、ご近所で呪霊が出たからって祓いに行かないんだ。まぁ、春夏の家は呪具を扱ってるからね、専門的な訓練を経ていないにせよ最低限の『戦う為の力』は持ってる。だから春夏も祓いに行ったんでしょ?」

 

「まぁ、そう」

 

「百歩譲って『戦う力を持ってるから祓いに行く』という行動は理解できる。でもあの場には呪術界の人間が沢山居たはずだ。京都校の人間も居たよね」

 

「……あぁ、多分」

 

「術式が使えて、呪術を悪用などしておらず呪詛師認定はされていないとはいえ、組織に属していない人間が呪霊をバッタバッタ倒して──そんな人間、イヤでも目立つと思わないかい?」

 

「思う、かも……?」

 

「いや目立ちすぎだろ! パンダくらい目立つ!」

 

「俺くらい……? でも確かにそれくらいかもなぁ」

 

「親父さんは店を守る程度に抑えていたのに、君は親父さんの言いつけを守らず自分から呪霊を狩りに行っていた。そして特級相当の呪霊が現れた──」

 

「ッ!!」

 

「親父さん、確か、特別1級術師だったよね。で、春夏と同じ術式を持ってる。でもその時に持ってた呪具が悪かったのか、それとも相性が悪かったか、もしくは何らかの(・・・・)事故に巻き込まれたか(・・・・・・・・・・)親父さんは運悪く……」

 

「……ッ」

 

「その呪霊を、君は倒した。茨木童子との契約を、正式に受け継いでいないにも関わらず、だ」

 

「特級を倒したから、俺に目を付けてた……と?」

 

「それもあると言えばある。で、後日改めて様子を見に行ってみれば、しっかり契約を更新して呪霊を手元に収めてるわ、ご近所に湧いた呪霊達を勝手に祓ってるわ、もし1級や準1級が出たら茨木童子を顕現させて祓ってるわ──なんつーかもう、春夏のやりたい放題だったよねぇ」

 

 ケラケラと笑う五条とは反対に、生徒達は、少し引き気味に春夏を見ている。しかし春夏は、やはりその視線を疑問に思い、さも当然かのように言う。

 

「部屋の中に虫が出たら、殺すか逃がすだろ。俺が呪霊を祓うのもそれと同じで、何もおかしくない」

 

「その感覚が既にバグ(・・)りつつあるんだけど、まぁ、それはいいや。──親父さんの仇討ちのつもりでもあったのか、春夏の『呪霊狩り』は、次第に危険な熱を帯びるようになった。祓うのが上手くいってて自信を持っちゃったんだろうね──君は、弟くんにお願いされたとはいえ、危険な呪霊狩りに弟くんを連れ歩くようになった」

 

「……弟じゃない、妹だ」

 

「あれ? 性別は男って聞いたけど……まぁいいや。それで、ある時、妹ちゃんを巻き込んでしまった」

 

「ッッッ」

 

「幸い、命は取り留めたけれど──その後の事は、もう……言わなくてもいいね。そんなこんなで、君は八つ当たりするように今度も茨木童子を使い呪霊を相手に暴れ始めたんだよね。────あぁ、いや、もう回りくどいのやめよう。この際だ、ハッキリと言っちゃおうか」

 

「……やめろ」

 

「ぶっちゃけ春夏、危険分子なんだよねぇ。怯えて里香を出すまいと抑えていた憂太とは全く大違い。力に溺れて、呑まれ、大小強弱を問わず、その辺の呪霊に当たり散らしてさ。その矛先がいつか人に、一般社会に向かうのではないか──と、危惧されたワケだよ。要は、呪詛師堕ちを心配されて、監視のついでに呪術高専に置いとこうって話になったの」

 

「……そういう、ことかよ……」

 

「その様子じゃあ、老人共の『心配』も、あながち間違ってはいなかったのかもしれないね」

 

「…………」

 

 奥歯が砕けるのではないかという力で、ギリッと歯を食いしばる春夏。

 何も言い返せない、反論のはの字も無いような、沈黙してしまった春夏に代わり、真希が口を開く。

 

「春夏が高専に来た『経緯』は分かった。にしてもわざわざ1級にする意味は無いと思うけどな」

 

「それはそうなんだけどね。でも、なんやかんやで春夏が強いのは間違いないし、それなら強い術師に難しい任務に行ってもらった方が安全だし、単に、世のため人のためになるというかさ?」

 

「それは……まぁ……」

 

「それにさ、歯ごたえのある任務なら春夏の鬱憤も晴らせそうだしね。一石二鳥どころじゃないよね」

 

「でも、腑に落ちないよなぁ。監視の名目で春夏を迎える為だからってさ、本人に無断で──しかも、本人には分からない形で他の1級術師を同行させ、1級レベルの任務をやらせるのか?」

 

「仕方がなかったんだ、と言ってしまえばそれまでなんだけどさ。当時は(・・・)表立って『呪術高専』として春夏を迎えに行けなかった。そうすれば、春夏は、本当に呪詛師に堕ちてしまっていたかもしれない。呪術師を──そして自分を憎んでた当時の春夏は、そういう危険を孕んでた。ぶっちゃけ、呪霊にだけ八つ当たりしてたのが奇跡なくらいだと聞いてる」

 

「「!」」

 

「そんな危うい春夏を、ギリギリで『呪術師側』に引き止めていたのが────君だろ? 茨木童子」

 

『……さぁ。何のことかしら、フフフ……♡』

 

「ちょっと待て悟、話が全く見えないぞ。なんならそいつのお陰で春夏が闇堕ちしかけたんじゃ、とか思えてくるくらい──」

 

「もういい」

 

「「「!!」」」

 

 怒りを抑えきれない──そう言わんばかりの黒い声が、春夏から発せられた。負の感情が──呪力が陽炎のように揺らめく。

 

「俺の過去共有がしたいんなら勝手にやればいい。俺の居ないところでやればいい……!」

 

「……そうやって、死ぬまで目を背け続けるの?」

 

「──もう、限界まで直視した。皆に共有されて、黙っていられるほど、俺の精神は成熟していない。それだけだよ」

 

 春夏のその言葉を合図に、茨木童子は春夏を抱き上げ、残像を残すほどの速度で、バシュッッと風を残してその場から飛び立ってしまった。

 

「あちゃー……流石にやり過ぎたかな?」

 

「やり過ぎだ。地雷原でタップダンス踊ってんなと傍から見ても分かるくらいだった」

 

「デリカシーが無いわね。確かに、アイツの過去はそれなりには気になるけどさ」

 

「だって彼──ワガママだからね。少しくらいは、現実ってのを教えて、精神的に鍛えないと。春夏のことは、春夏の親父さんにも任されてるからさ」

 

「そのせいで呪詛師堕ちしそうに見えるけどな?」

 

 真希のその言葉に、五条以外の全員が同意した。




オリジナルキャラプロフィール④
現代の渡辺家は、呪術界的には禪院家の分家の分家くらいの位置付けになっている。
しかしそれはあくまで後天的なものである。
春夏から見て4代前の当主(高祖父)が、禪院家の女性を嫁にした事によって禪院家の血筋が渡辺家に合流した──というのが正しい。

当然ながら、本家筋の真希や恵と比べて、禪院家の血は薄い。

春夏本人としては、自分を禪院家の血筋とは微塵も思っておらず、あくまでも「渡辺家当主である」と受け止めている。
分家筋とはいえ禪院家としての格も加わり、更には禪院家の人間がよく通うようになったので、お店も5代前の頃よりかは繁盛するようになったらしい、という話を先代から聞いているので、あまり実感は無いが禪院家に一応感謝はしているようだ。

また、中古の呪具を提供されることもあった。
禪院家としては「在庫処分」程度に思っていたが、春夏からすれば「良いオモチャ」だった。

尚、先代当主は禪院家との距離を近づけようと少し必死になっており、先代の辺りから禪院家と交流が活発になりつつあった。
春夏と真希(&真依)も、互いに成長してるせいで気付かないだけで、幼少期に会った事ならある。
しかしやはり男同士だからなのか、直哉などの方が春夏と関わりがある。
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