とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第13話:長話の果てに

 

「────とまぁ、そんな感じだねぇ」

 

「「…………」」

 

 星空を見上げ、兄妹2人で過去を懐かしむように春夏は言う。妹が生み出したあのバッグを、まるでお姫様抱っこするように膝に乗せて。そして本人はアイスを食べながら、世間話でもするような顔で、最後まで話し終えた。

 

「って、アイス食べてないじゃん。溶けちゃうぞ」

 

「そんな話をされちゃ、食う気も失せるだろ……」

 

「少なくとも夕食の後に、ましてや寝る前に聞く話ではなかったのは間違いないですね」

 

「ハハ……」

 

 口では笑う春夏も、目は笑えていない。口だけ。声の調子もやはり沈んでいて、明るく振る舞おうと心掛けているのが傍目から見ても分かった。

 

「ま、2人共、俺の失敗から学んでよ。それから、構築術式を持つ術者には注意だよ。命を懸けた縛りだったら、普段はロクなモンが作れなくても、特級レベルの呪具すら作れちゃう。──そしてそいつがもし、真希さんや伏黒にとって大事な人だったら。変な事を考えさせないよう、気を付けてくれよな」

 

「っ……」

 

 身に覚えしかない人物が、ここに1人居た。禪院真希──その双子の妹、禪院真依が、秋冬と同じく構築術式の持ち主であった。

 春夏と秋冬の父親が禪院家に構築術式についてを問い合わせた時、話題に挙がっていたのが、まさにその禪院真依だった。春夏はそれを知らないものの真希にとって春夏の話は、他人事に思えない部分が含まれていたし、年代的に真依のことだろう──と密かに察していた。

 

「……あ。そういや、単純に疑問なんだけどさ」

 

「「?」」

 

「俺を監視するっていうか、首輪を付ける名目で、俺を1級術師にした……んだよね?」

 

「まぁ、五条先生の話をそのまま受け取るのなら、そうなるのでは?」

 

「だな。立場を与えるってコトは、そんだけ難しい任務に行かされるワケだし、同時に、下っ端術師と違って上層部に振り回されるって事でもあるしな。首輪をつけるって名目も、あながち、建前だけの話でもないんだろうな」

 

 ────面倒な事になったものだ。すっかり溶けジュースのようになったアイスを飲み下しながら、春夏は、これから起きるであろう面倒事に対して、既に憂鬱な気分になっていた。

 けれど、親戚でもあるこの2人に自身の過去を、そして思いの丈をぶちまけてしまった事で、苛立ちなどの負の感情は、その殆どが解消できていた。

 

「こんな無駄話を、最後まで聞いてくれたお礼だ。覚えといてくれ。どうしても勝てないヤツが現れたなら、そん時は俺ん事を呼んでくれ。一度、そう、一度だけ、その窮地から助け出してあげる」

 

「……どうしても勝てないヤツ……ですか」

 

「悟でもいいのか?」

 

 現代最強の術師、五条悟。呪術界にあまり深くは関わっていない春夏でも、それはよく知っていた。しかし真希は、敢えて冗談交じりに「最強」の名を挙げてみた。真希や伏黒でもどうしても勝てないと判断するであろうその相手を、専門的な訓練などを積んでいない春夏がどう相手するつもりなのか──軽いノリで茶化しつつ、それを探りたかったから。

 しかし春夏の答えは、真希の予想を全く裏切る、ある意味、期待ハズレのものだった。

 

「いいんじゃない? どうなるか分かんないけど、試してみたさはある」

 

「は……? どういう事だ?」

 

「ある筋から聞いた事がある。五条悟の領域展開はほぼ確殺に等しいヤバイ領域だ、って。そんなのをどう攻略しようか──ワクワクする」

 

「ワクワクって……ドラゴン〇ールの孫悟空かよ」

 

「あそこまで戦闘狂じゃないけどね」

 

 店が呪霊に襲われたあの時は、応戦できるような準備が全く無かった。

 例えばまず第一に、昼寝していたから呪力感知の網にそもそも引っ掛からず。

 第二に、手元には秋冬のバッグしかなく、戦いに使える呪具が無かったから反撃などができず、避難するしかなく。

 第三に、当時は茨木童子を顕現させていなかったお陰で、呪霊の接近に気付けず、結果として唐突に家が破壊されたように感じられたのだ。

 

「──要するに、俺は、事前に準備さえできりゃあ結構、勝率が高い。当たり前かもしんないけどね。でもその『当たり前』をどれだけ高クオリティに、高精度に突き詰めることができるか……だねぇ」

 

「んじゃ、私らが春夏に助けを求める時ゃ、お前に準備の時間を与えなくちゃだな?」

 

「ははっ、手厳しい。──でも、大丈夫だよ。今の俺は、もう躊躇わない(・・・・・)からさ」

 

 そう言って笑う春夏の目は、どこか、これまでの笑顔とは違って見えた。その言葉もまた、どこか、不穏に思えた。

 まるで、何か大きな代償を払えば無敵にも等しい力を発揮できるが、代償が大きいが故にこれまではそれを躊躇っていた──しかしもう躊躇わないと、そう言っているように聞こえた。

 ましてや春夏の妹の話を聞かされた直後だから、尚更、2人はそれを感じ取った。

 

「まさかとは思いますが──絶命の縛り、じゃないですよね?」

 

「え、違うけど」

 

「「!」」

 

 何言ってんの君──そう言わんばかりの困惑顔でサラリと答える春夏。真希も伏黒と同じような事を考えていただけに、少々の驚きに目を丸くした。

 

「考えてもみてくれ。俺は、真希さんと伏黒2人、つまり『2回分』助けるって言ったんだ。なのに、助けるのに絶命の縛りを結んだなら、もう片方との約束が果たせなくなっちまうだろ」

 

「それは考えましたけど……先輩の言い方が不穏で」

 

「というより単に紛らわしいんだよ、バカ」

 

「はははっ、ごめんごめん。安心してくれよ、俺は自ら命を投げ捨てるような事はしない。そんなの、アイツも望んでねえだろうし──なぁ羅喜、お前も望まないだろ?」

 

『そんな当たり前の事、改めて聞かなくても分かるでしょう?』

 

「ああ……そうだな」

 

 こうして、禪院の血を引く3人の、深夜の密会は終わりを告げた。頭の冷えた春夏も寮に戻り、無事この日を終える事ができた。

 僅か数日後に、また特級案件とぶつかる事になるとも知らずに────。




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