とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第3章:起首雷同編
第14話:異常な感知範囲


 

「ほほー、明日から任務なのか。交流会が終わってまだ間も無いってのに。忙しいなぁ」

 

「そーなんだよなぁ。俺の中の宿儺なんて、マジでろくに働かねえし。どうせ今回の任務も働かねーんだろうなぁ……」

 

「『中の人』には頼らなくていいと思うよ。虎杖は虎杖で頑張ればいい」

 

「そうだな。伏黒と釘崎とも一緒に行くし、先輩の呪具もあるしさ。あれ、マジで手に馴染むんよね。呪霊もサックサク祓えるし、スゲーよ!」

 

「嬉しいこと言ってくれるねェ〜、このこの〜!」

 

 虎杖悠仁が可愛がられるのは、彼のそういう裏と表の無い性格と持ち前の善性が故なのだろう。虎杖本人は、それを意識しているワケではない。素で、その性格の良さを発揮するからこそ好かれるのだ。

 そして翌日。補助監督・新田の運転する車で次の任務先こと埼玉に向かう1年ズを見送り。

 

「……さて、と。俺も何かしますかぁ」

 

『何かって、何をするの?』

 

「うーん。呪具の調達かなぁ……」

 

『……大丈夫なの?』

 

「大丈夫だろ? 羅喜が居るし」

 

『その時は完全顕現させなさいよね。前は……』

 

「あぁもう分かってるって。秋冬が居なきゃ、俺ぁあの時に死んでた。もう、同じヘマはしねえさ」

 

『それは大袈裟だけどね。私を完全顕現させてくれさえすれば、その場で補助できる程度でしょう?』

 

「……。はぁ。俺の呪力、もう少し多ければなぁ」

 

『秋冬があなたの倍くらいあるだけで、春夏だってかなり多い方よ。少なくとも父親とか、伏黒くん、だっけ。彼の倍はあるわよ、あなた』

 

「つまり秋冬は親父や伏黒の4倍かよ。エグいな」

 

『当時は気付かなかったけど、あの子、何かしらの天与呪縛を持ってたのかもしれないわね』

 

「……かもな」

 

 呪術高専に関わるようになって、春夏も気付いた事があった。

 呪霊による事件が発生してから高専の術師が出動するまで、結構タイムラグがあるのだ。現に、今回虎杖らが出動する任務に関する事件自体は何ヶ月も前から起きていたらしい。

 つまり、被害が起きてから動いているという事。

 呪霊が現れたなら呪術師が来る、そう思っていた春夏の認識がそもそも間違っていた、という事だ。

 だから呪霊が現れるのと同時に祓っていた春夏が呪術師に出会わないのは、ある意味、当たり前の事だったのかもしれない。

 

「……あん? この感じ……」

 

『どうしたの?』

 

「火山頭っぽい気配が……」

 

『火山頭の呪霊──漏瑚ね。もしかして、あなたを誘ってるのかしら?』

 

「呪具や呪物をまた集めたから、俺と呪具や呪物を賭けてバトルしよう──ってか? この短期間で、そんなに集めたってのか……?」

 

『最近まで未登録だった特級呪霊のようだし、それくらいできるんじゃないかしら?』

 

「ふーん……」

 

 前回漏瑚と戦った時、彼が極めて弱体化していた事実を、春夏は知らない。だから今回、実際の所、春夏が感じているよりも遥か彼方に漏瑚は居る。

 

「つーか、最近になって気付いたんだけどさ。俺の呪力探知の範囲、どうなってんの? 五条悟でも、そんな離れると呪具や呪物の気配は分かんないって言ってたけど?」

 

『あなたたち兄妹は、この特級呪霊(わたし)が作った料理を食べて育ったのよ? 呪術的に、色々と成長しないワケないでしょう?』

 

 理屈は、春夏も理解している。

 呪霊が、ましてや特級呪霊が真心と呪いを込めて作った料理を、食べて育ってきた。そして、そんな特級呪霊と毎日毎日、ずっと、そばに居て、強大な呪力に曝され続けている。

 そんな春夏だからこそ、普通の人間、呪術師とは異なる成長ツリーに足を踏み込んでいるのは、至極当然であると言えた。

 

「待て、知らんうちに呪物とか食ってないよな?」

 

『あらヤダ、そんな事するように見える? 春夏は春夏のままでいいのに、わざわざ別の存在を春夏に埋め込んで、あなたという存在を不純物にすると、私がそれをやりかねないと思うの?』

 

「……いや、羅喜だしそれは無いと思うけどさ……」

 

『そうよ? 疑うのは筋違いでしょう?』

 

「だな。悪かったよ」

 

『イチャラブしてくれなきゃ、やーよ?』

 

「いい歳してぶりっ子ムーブしないで……」

 

『ふふっ……。──ところで、本当に行くの?』

 

「行く。呪物の気配はイマイチ感じないが、漏瑚の気配は分かりやすい。ここまであからさまなんだ、行かなきゃ無作法ってものだろ」

 

『でも、自転車でしょう? 今から行くと、到着は夕方……帰ってくるのは夜になるんじゃないかしら』

 

「まぁ……そりゃそうか。明日にするか」

 

『それがいいわ』

 

 翌日もまた、漏瑚の強烈な気配はやはり、かなり感じられた。隠す気がまるで無いらしく、いよいよ本格的に春夏を誘っているのではないかと思えた。これまで未登録だったという話が嘘のようだ。

 

「あれェ? 春夏、朝からおでかけ?」

 

「……五条、先生……居たのか」

 

「何やら楽しそうだね。どこに行くんだい?」

 

「その辺の呪霊を狩りに?」

 

「また何か春夏の呪霊センサーに引っかかったの? 相変わらず感度ビンビンだねぇ。僕でも気付けないくらい遠くなら、別に行かなくてもいいんだよ?」

 

「だろうな。コイツ、昨日から動いてない。多分、無関係な人間に危害を及ぼす気が無いんだろ」

 

「……待って。昨日から(・・・・)……?」

 

「? そうだけど? 具体的には昨日の昼過ぎか。その時から出発すると到着が遅くなるかと思って、今日にしたんだ」

 

 ふむ、と五条悟は考え込む。六眼を曝け出して、春夏の目を真っ直ぐに見つめて、奥底を覗き込む。男から見ても極めてイケメンである五条悟にこうも顔を寄せられると、春夏も気恥ずかしくなり、つい顔を逸らしてしまう。

 そんな反応を見て、軽くクスリと笑った五条は、黒い目隠しを目の上に戻すと真面目な声色(トーン)で言う。

 

「僕さ、今、任務から戻ってきたばっかりなんだ。当然、ここに通じる道路は通って来てるワケだね」

 

「それが?」

 

「春夏ほどではないにしろ、僕の呪力感知能力も、そこそこ優れてる。というか春夏を除けば東京校でトップでしょ。六眼もあるワケだし。それは春夏も知ってるでしょ?」

 

「知ってるけど、それが何だってば」

 

「その僕でさえ……そうだね、半径100キロ以内にはろくな呪霊が居ないと感じてるんだけどさ。居ても蠅頭とか、3〜4級程度の雑魚しか居ないでしょ」

 

「……え?」

 

「春夏。──君は一体、どれだけ遠く離れた呪力を感じ取ったんだ?」

 

 ◆

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」

 

 あれから春夏は、即座に高専を飛び出した。半径100キロ以内には居ないなど……そんなバカな話があってたまるか、と。

 春夏本人としては、己の呪力感知能力についてはそれくらいが限界だと思っていた。しかし五条悟はその範囲内には雑魚しか居ないと言う。それなら、春夏が感じ取った漏瑚──いや、漏瑚らしき気配(・・・・・・・)は一体なんなのだろうか。

 五条悟の呪力感知能力がガバガバなだけで、俺のセンサーはそこまで異常に過敏じゃない、と春夏は五条の言葉を否定する為に、自転車を走らせた。

 まだ昼間だ。そして山間部とはいえ国道に沿って移動しているので、人目も考慮して、羅喜に頼んで空を飛ぶという手段は選ばない。呪力強化を施した全身で自転車を漕ぐ。

 昼食すら食べず、ひたすらに漕ぎまくる。時間はやはり惜しいものだ。

 

「あぁ、居た! 渡辺さーん!!」

 

「んぉ?」

 

 その時、聞き覚えのある気弱そうな声が背後から突き刺さる。補助監督・伊地知潔高──いつも通り黒い車を運転している。春夏が速度を落とすと横に並び、併走する。

 

「伊地知さん、どーしたんです?」

 

「五条さんに、今日は渡辺さんの足になってやれと言われまして」

 

「えぇ……仕事は大丈夫なんですか?」

 

「これが仕事ですから、お気になさらず」

 

「……どうして、俺がここにいると?」

 

「渡辺さんは主に国道やバイパスのような大通りを通るだろうと五条さんから聞いています。確かに、東京の地理には疎いでしょうから、大通りを通る、というのは理解できますが……まさかその通りとは」

 

 しかしこの時点で既に、高専を出て3時間は経過していた。走行距離も100キロを優に超えている。

 よくもまぁピンポイントで見つけられたな──とそこまで考えた所で、春夏は、一つ察した。これが首輪をつけられるという事か……と。

 呪術的な縛りを結んだ覚えは微塵も無い、しかし学生証にGPSが仕込まれているのかもしれない。それなら春夏の位置は筒抜けだし、ピンポイントで彼をピックアップできるのも納得だった。

 それが事実にしろ春夏の被害妄想にしろ、自分の首に掛けられた「首輪」の存在を実感するのには、十分過ぎる出来事だった。

 

 ◆

 

「──それで、どこまで行くんですか?」

 

「しばらく道なりに。近付いてきたら言いますよ」

 

「分かりました。……もうすぐ埼玉県に入ります」

 

「そこまで来たんだ……結構離れたな」

 

 遂に東京を出て、埼玉県へと入った。漏瑚らしき気配もドンドン濃くなり、着々と近付いているのが肌で分かる。

 伊地知もかつては呪術師を目指していた、という話を伝聞ではあるが聞いた事がある。そんな彼でも漏瑚の気配を感じ取っている様子などまるで無く、春夏は改めて、自身の呪力感知能力の異常な強さを密かに思い知らされていた。

 

「おや、この辺りは……」

 

「知ってるところですか?」

 

「あぁいえ。ですが、昨日から虎杖くん達が任務に来ているのも、確かこの辺りなんですよ。八十八橋でしたっけね、この辺りの心霊スポットとしては、そこが凄く有名なのだとか」

 

「へぇ……。じゃあ、その八十八橋ってのも調査とかするんですかね?」

 

「新田さんや伏黒くんも居ることですから、恐らく調査すると思います。今回の騒動を解く手掛かりになるかは、分かりませんが……」

 

「ふむ……」

 

 虎杖たちの埼玉県での任務。その任務地に近しいところにあるであろう、漏瑚らしき、強烈な呪力の気配。点と点が繋がりそうで繋がらないものの──何か、嫌な予感がしていた。

 

「伊地知さん」

 

「はい?」

 

「今回の虎杖の任務……ヤベェかもしんないです」

 

「!? や、ヤバイってどういう──あ、い、一旦失礼しますね」

 

 伊地知のスマホが鳴る。恐らく高専からだろう。会話はよく聞こえないが伊地知のトーンの変化から何か悪いニュースが入ったのであろうことは春夏も察することができた。

 

「……これはっ……伏黒くんに伝えなくては」

 

 やはり虎杖の任務に関する悪い話だったらしく、伊地知は、受けたばかりの電話をそのまま1年生に受け流すように、代表であろう伏黒に電話した。

 曰く、非呪者が想定より多く、任務の等級などを見直す必要があるという事。

 そして、伏黒から伊地知に伝えられた話では──伏黒の姉も、同じ被害に遭っている可能性が極めて高く、護衛してほしいという事だった。

 伊地知はそれを聞いても冷静だった、他の術師にその任務を引き継がせて、伏黒ら1年生3人には、撤退を促していた。立派な大人の対応に、春夏は、普段は気弱に見える伊地知の背中が大きく見えた。

 

「──ね、伊地知さん。虎杖の任務さ、他のヤツに引き継がせるとしたら、そいつの到着は、結構遅くなるんじゃないですか?」

 

「それはッ……しかしそれは仕方ないと……」

 

「俺の等級、お忘れですか?」

 

「ッ!! ──いえ、確かに渡辺さんは1級です。任務に行って頂くとしたら、等級で言えば、足りるでしょう。しかしながら、4年生は基本的に任務に行かせないといいますか、別の仕事が……」

 

「俺は特別待遇で迎えられた4年生ですよ。4年生とかいう肩書きも、無いに等しい。実質1年生だ。なら、アイツらの手助けしたって構わんでしょう」

 

「……しかし……」

 

「それに────何か分からないけど、その任務と俺の目的……なんか、繋がってる気がするんです」

 

「繋がっ、て……?」

 

「ま……俺の勝手な想像ですけどね」

 

 ◆

 

『ねェ、夏油? どーして漏瑚まで行かせたのさ? 別に必要無くない?』

 

「そうだ。弟達だけでも事足りるだろうに。如何に受肉したてとはいえ、俺の弟達の力量が、そんなに信じられないか?』

 

「怒るな脹相。──端的に言えば、監視さ」

 

「監視とは穏やかじゃないな。どういうつもりだ? まさか俺の兄弟がこちらを裏切るとでも?』

 

「そう言いたいワケではないよ。そうだね、もっと柔らかい表現にしよう。要は、漏瑚には見守り役を任せたんだ。あの子達の『はじめてのおつかい』が上手くいくかどうか、危機を排除できるかどうか」

 

「ム……』

 

「いつだって、不測の事態は考慮しておくべきさ。例えば──あの2人は、宿儺の指1本分の呪霊には問題なく勝てるだろう。だが、もし仮に、何らかのアクシデントが発生して、3本分程度の強さに進化していたとしたら。その場合は恐らく、あの2人は殺されるだろう」

 

「!!』

 

「だが、漏瑚が控えていれば、さして問題は無い。再生を終えてしばらく経った。呪力も満ちている。五条悟に敗北を喫する前と同等の強さに戻っている今の漏瑚だったら──見張り役には、最適だろう」

 

「……ウム……』

 

「君とて、あの2人には死んでほしくないだろう? なら、用心に越したことはないさ」

 

「そう、だな……』




次回「お前が呪具になるんだよッ!!」
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