とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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虎杖や伏黒など普通の呪術師たちの呪力の色は水色ですが、乙骨くんはピンクでしたね。
春夏は紫です。


第15話:お前が呪具になるんだよッ!!

 

「伊地知さん、コーヒー飲みます?」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

「……結局、夜になっちゃいましたねぇ」

 

「ですね……」

 

 漏瑚らしき気配を感じ取り、埼玉県某所まで遠路はるばるやってきた春夏と運転手の伊地知。結局、夜まで目的を達する事はできず、2人はコンビニの駐車場にて軽く夕飯を済ませていた。

 

「ところで、渡辺さんは何を探していたんです?」

 

「特級呪霊です」

 

「とっ!? とととととっ……ッ!?」

 

「あ、大丈夫ですよ、伊地知さん巻き込むつもりは微塵も無いので。足で行ける範囲になったらそこで下ろしてもらうつもりですから」

 

「あは、ははは……」

 

「……だけど、何かおかしいんですよね。近付いてるハズなのに、近付いてる気がしない。東京にいた頃よりかは気配も強まってるので、近付けているのはまず間違いないんですけど。正直、迷路で堂々巡りしているような感覚に陥ってまして。なんかその、余計な事に付き合わせてすみませんでした」

 

 例えば、車のナビで「目的地周辺に到着した」と言われ、そこでナビを終了されたような感覚に近いかもしれない。近付きはしている、しかしそれ以上絞り込めない──という意味で。

 虎杖の任務に特級呪霊(漏瑚)が行っていないだろうか。それだけが春夏にとって気掛かりだった。

 

「いえいえ。たまにはそんな日だってありますよ。私も私で、こう見えて楽しんでいますから。だから渡辺さんは何も気にしないでください」

 

「……ありがとうございます」

 

 補助監督は、任務において術師を補佐する立場にある。しかし任務以外でも、こうして、精神的にも春夏を支えてくれている。補助監督とは春夏自身が思っていたより大事で、まさに、縁の下の力持ちを体現するような役職なのだろうと、春夏は伊地知の晴れやかな横顔を見て、ふと思った。

 

「…………あ。虎杖だ」

 

「えっ? 何処ですか?」

 

「あいや、虎杖っぽい呪力の気配がしたんで。多分近くに居るんじゃないですかね」

 

「あぁ、なるほど」

 

 漏瑚のような気配はビンビンに感じられる、だがその中に虎杖らしき気配がほんのり──それから、感じた事があるような無いような、そんな、奇妙な気配を感じ取っていた。宿儺の指と同等、または、それより少し劣るかどうかくらいの強い「呪物」のような気配。

 

「……伊地知さん、ここで別れましょう」

 

「えっ? ……まさか……」

 

「まさかです。俺が探してた特級、多分、いよいよ近くに来つつあるかもしれません」

 

「ッッ……! 周囲の人々にも避難を!!」

 

「大丈夫です。ド派手な戦闘にはしませんし被害は最小限に抑えます。もし仮に、一般人に怪我なんてさせたら、そん時は腹ァ切って詫びますよ」

 

「で、ではせめて、帳だけは……」

 

「それはもちろん。俺は、五条悟とは違うのでね。自分で用意できますんで、気にしないでください」

 

「……ご武運を」

 

「ありがとうございます」

 

 にこやかに一言だけ返すと、ゴミを捨てるなり、コンビニの裏手に周り。伊地知の手前、ずっと姿を隠させていた茨木童子を、部分的に顕現させる。

 

「俺の呪力探知の範囲がイカレた理由、わかった」

 

『あら、なぁに?』

 

「ただでさえ普通より探知可能な範囲が広いのに、探知する対象を何一つ、絞ってない。呪霊も呪具も呪物も、その全てを探知するように設定してた」

 

『あぁ──つまり、要らない情報がノイズのように混ざるのと引き換えに、探知範囲を拡張──って、そんな感じ?』

 

「多分だけど。縛りの一種なのかな、これも……」

 

『根拠は?』

 

「伊地知さんと話しててさ、虎杖達の任務が話題に上がったろ? その時からなんだ。虎杖──の中の宿儺の指の気配を、感じ取れるようになった……」

 

『!』

 

「多分、無意識のうちに検索対象を絞り込んだって事だろう。ネットと同じだ。『可愛い女の子』って検索すりゃあ、二次元の女の子も三次元の女の子もヒットしちまう。だけど『二次元 可愛い女の子』みたいに検索すりゃ、多少は絞れる」

 

『じゃあ、漏瑚らしき気配を感じていたのは……』

 

「アイツとバトりたかったから、かもな。無意識に漏瑚の呪力を検索してたのかもしれない」

 

『仲良し、なのかしらねぇ。妬けちゃうわ?』

 

「いやどーしてだよ。お前以上に仲良い呪霊なんて金輪際できるワケねーだろ」

 

『ふふふふっ♪』

 

 春夏は目を瞑り、今一度、呪力を「検索」する。しかし今度は、呪霊の呪力ではなく呪物の呪力だ。こうすれば、検索結果に引っ掛かるのは、受肉体の虎杖、漏瑚が持っているであろう呪具や呪物だけに限定できるのだ。

 意図した対象の絞り込みは、やった試しがあまり無いので、脂汗を滲ませつつ、必死に対象を絞る。すると、呪物らしき気配は3つ──いや、3ヶ所に分布していると判明した。

 が、どういうワケか、初対面の時に漏瑚の気配を探知した時のような、まるでサラダのように複数の呪物が一箇所に集まっている感覚は全く無かった。

 

「1つは虎杖の気配──あと2ヶ所は、何なんだ? 覚えがあるんだけど……高専内の呪具で遊びまくったお陰でイマイチ覚えてねぇ! クソもどかしい!」

 

『あら。この気配、呪胎九相図じゃないの?』

 

「……あぁっ!?」

 

 真人に盗まれた特級呪物、呪胎九相図1〜3番。その内の2つが、この近くにある。──茨木童子はそう言い、春夏はこの禍々しい気配を思い出した。

 

『特級呪物の呪力を忘れるなんて事、ある???』

 

「すぐ側に特級呪霊が居るから感覚が鈍るんだろ。俺、あくまで有るか無いかの探知しかできないし。個別に気配を覚えるのは難しいよ……」

 

『漏瑚の気配は覚えてたじゃないの』

 

「アイツは例外。アイツ、間違いなく特級の中でも上澄みだろ。宿儺の指、何本分だよ。3、4本分はあるんじゃねーの? 強さも呪力もさ」

 

『ふーん。……で、どうするの?』

 

「呪物の方は、後回しだ。一度覚えりゃすぐに探知できるだろうし。問題は、虎杖達からそう遠くない所に居る──漏瑚っぽい呪霊だ。まずコレを確認、有害そうなら、その場で祓う。九相図を取り返しに行くのはそれからでいい」

 

『じゃ、飛び(・・)ましょう』

 

「頼む」

 

 ────でも、と春夏は疑問に思う。先程より、漏瑚っぽい(・・・)気配というアヤフヤな表現になっているのは、彼の知る漏瑚の気配とまるで違うからだ。

 この短期間で倍以上の強さになっているような、そんな、成長した(・・・・)にしては奇妙過ぎる感覚。

 質感としては漏瑚だ、しかし呪力の大きさが全く異なっている。ただでさえ呪霊として見れば上澄みだった漏瑚が、更に上澄みになったような。

 

「そういやこの前──『今度は領域勝負だ』とか、そんな事言ってなかったっけ」

 

『言ってたわね』

 

「あー。もしかして俺、死ぬ? このレベルの奴と領域勝負なんてしたことねェんだけど」

 

『あなた、バカァ? 手加減はしていたとはいえ、領域を会得した頃から、この私と領域の押し合いをしてたのよ? 負けるハズ無いでしょ?』

 

「けど今の漏瑚、前の倍は強い気がする……」

 

『漏瑚が前の倍強い──だから何なの? 私、人に飼われてたとはいえ平安から生き続けてるけど?』

 

「年齢マウントがスゲ〜……」

 

『そういう事言うんじゃないわよ、落とすわよ?』

 

「ははっ、そいつは勘弁」

 

 程なくして、高台──しかも、崖際に立つ漏瑚を発見する春夏。頭の火山からは、ユラユラと狼煙のように白い湯気が出ている。

 

「よォ。数日ぶり」

 

『渡辺春夏──! 貴様、何故ここに!』

 

「え、お前の気配を感じたからだけど」

 

『ッ!? 呪物も呪具も持ってきておらんぞ!』

 

「え、マジ? この前、真人とかいう呪霊が盗んだ呪胎九相図、2つ持って来てんじゃねぇの?」

 

『……あぁ、そういう事か。春夏、貴様の感じ取った呪胎九相図の呪力は──呪物そのものとしての呪力ではない。受肉した受胎(・・・・・・)九相図の呪力だ(・・・・・・・)

 

「んなっ……受肉させたのか!?」

 

『計画に必要なのでな。つい最近の事だ。3番まで全て、それぞれ受肉させた。故に、貴様ら高専は、九相図を取り返す事はもう叶わんぞ』

 

 1つしかない目をアーチ状に歪めて、ニタリと、真っ黒の歯を見せつけるようにして笑う。受肉済みということは、もう、呪物としては取り返せない。人の肉体に宿っている。それを聞き、春夏は笑う。

 

「──なら、連れ戻さねえとな(・・・・・・・・)?」

 

『行かせん! 奴らには役目があるのだ! 誰にも邪魔はさせんッ!!』

 

「ほぉ、そうかよ? じゃあ漏瑚、勝負だ」

 

『一度勝ったからと甘く見ているな? 今日の儂は全開だ。前に言った通り、領域勝負だ。貴様を儂の領域に引き込み殺してやる。ついでに貴様の呪具や呪物を全て蒐集に加えてやるッ!!』

 

「なら俺が勝ったら幾つかお願い聞いてもらおう。お前は俺のこと殺すつもりなんだ、お前は負けても祓われないだけ感謝しろ……五体投地でなぁ!」

 

『フンッ、相変わらず生意気な小童だ。その言葉、後悔するでないぞ』

 

「……来いよ、漏瑚」

 

『領域展開──「蓋棺鉄囲山(がいかんてっちせん)」ッ!!』

 

 2人の今回の戦いは、少々穏やかではない言葉のやり取りに始まり、漏瑚の領域展開で幕を上げた。

 春夏は全身を呪力にて強化し、その火山の内部のような漏瑚の領域に耐える。ジュワリと靴から白い湯気が上がり、ゴムが焼け付く匂いが広がる。

 

『やはり、領域に入れた程度では殺せんか。だが、そうではなくては! あの状態(・・・・)であろうと、貴様は儂を倒したのだ。この程度で死なれては困る!!』

 

「あの状態? ──もしかしてお前、あん時、俺と会う前に領域展開したとかで、呪力スッカラカンの状態だったりしたワケ?」

 

『理由はともあれ、呪力が枯渇していた状態だったという事は認めよう』

 

「……マジかよ、コイツ……」

 

 つまり、春夏が漏瑚と戦ったあの時、彼は極めて弱体化していた。その事実を知らされ、春夏の顔は暑さによる汗か冷や汗か脂汗か分からないモノが、ダラダラと流れ落ちていた。

 

『潰れろッ! 極ノ番「(いん)」ッッ!!』

 

「ッざけんな、このッ!!」

 

 愛用している「耐呪ノ仮面」では対応できないと悟り、最高に強化した小刀タイプの呪具にて対応。しかし、流石は領域に付与された術式なだけあり、呪具は一撃で破壊されてしまう。

 

「クソッ、幾ら強化しても3級は3級ってのか!? 幾ら敵の領域内だからって、一発で壊れるなんて、そんな……そんなの……しかも極ノ番まで会得してるなんて……ッ!!」

 

『フハハハハハッ! 死ねェ、渡辺春夏ァッ!!』

 

「────益々欲しいね」

 

『ッ!?』

 

「領域展開『月下霧消之理(げっかむしょうのことわり)』」

 

 同時に領域が展開された時、より洗練された術がその場を統べる。相性や呪力量にもよるものの──その大原則が変わる事は、基本的には、無い。

 そしてこの場において、まず領域を展開し、場を支配していたのは漏瑚。春夏は後出しで領域を展開したものの、彼の呪力量は本来の強さを取り戻した今の漏瑚には、遠く及ばない。

 

『──だというのに、何故だッ! 何故、呪力量にこうも差があるというのに押し負けたのだッ!!』

 

「だってお前、1人じゃん。俺、1人じゃねェし。おいで、羅喜」

 

『!?』

 

 漏瑚の領域は、既に塗り潰された。春夏の領域に巻き込まれた漏瑚は、抵抗する術を失い、戦意をも喪失してしまっていた。

 必殺必中の領域と、必中のみ、しかも必中効果が無害な彼の領域。それだけで後者に分があるのに、春夏にはダメ押しの切り札が存在していた。

 

『はぁ〜い、火山頭。初めまして……♪』

 

『ッッ!? 何だ貴様ッ、どこから現れた!?』

 

『春夏のナカから♡♡』

 

『何ィ……?』

 

「コイツは俺が契約している呪霊。特級叛霊・茨木童子。呪術全盛の平安の世に、今で言う京都で幅を利かせた鬼呪霊連中の副首領だ。その強さは無類。俺の先祖に負けたとされているけど、実際は違う。不利な縛りを結ばされて飼われてたのさ。まともな戦闘だったら、コイツは負けねェ」

 

『そうねぇ。渡辺綱(カレ)ってば、武術の腕はともかく、呪術師として見れば春夏……秋冬より弱いもの』

 

「──ってワケで。俺にとって外付けの呪力(・・・・・・)である茨木童子に呪力を譲渡され、呪力量でゴリ押しして漏瑚──お前の領域を俺の領域で塗り潰したワケ。他に質問はあるか?」

 

『如何に呪力量でダメ押ししようと、貴様のような小僧が、儂の技術に勝てるとは思えん……』

 

「まさにそこが、お前ら呪霊と俺ら人間の違いさ。俺らはね、受け継ぐのさ。技術も、知恵も、力も。そして、それを受け継ぐ様を、茨木童子(コイツ)はずっと、常に見続けていた。要は……生き字引ってワケさ」

 

 茨木童子は、見続けていた。渡辺家の人間達が、己、子を鍛え上げる所を。技術を伝え続ける所を。領域の使い方を試行錯誤する所を。

 彼女は1000年見続けたそれを、幼少の頃より彼に叩き込んできた。その甲斐あって春夏は、初期値が高い状態で呪術高専に足を踏み入れる事ができた。

 

『……。貴様とは兎に角、相性が悪いようだな……』

 

「なぁに、漏瑚だけじゃない。呪霊、呪物全般さ。気にすんなよ」

 

『この子には、アンタには無い「欲」があるのよ。理想を掴み取る「飢え」、アンタにはそれが無い。けど、春夏はこう見えて誰より貪欲なのよ』

 

『……そう、かもしれんな……』

 

「欲ねぇ。でも、俺にある欲なんて、性欲、食欲、睡眠欲に加えて蒐集欲くらいだけどな」

 

『春夏のソレは三大欲求と同レベルなのよ、自覚は無いでしょうけどね』

 

「俺だけ四大欲求になっててウケる」

 

 茨木童子と春夏のやり取りを、漏瑚は「儂は何を見せられているのだ」という思いで見ていた。無論春夏に茨木童子とのやり取りを見せつけるつもりは微塵も無いが、図らずもそうなっていたらしい。

 

『春夏。今回は何を望む。儂は今日、呪物や呪具を持ってきてはおらんぞ』

 

「んじゃまず1つ目。呪胎九相図の受肉体を使って何を企んでやがる?」

 

『なに、くだらん事だ。ただの「取ってこい」だ。お前も知る特級呪物──宿儺の指の回収。それが、奴ら2人を向かわせた理由だ。儂は、それの監視に過ぎん』

 

「保護者かよ、ウケるね。じゃ、2つ目。お前ら、呪霊だけじゃねぇよな。呪詛師とも組んでるよな。黒幕は誰だ? 祓わないから、サクッと答えなよ」

 

『……それを答える前に、確認したい』

 

「ん?」

 

『お前は確か、呪術高専に入って日が浅かったな? 初めて会った時に、そんな事を言っていたろう』

 

「そうだけど?」

 

 漏瑚は1つの目を閉じて考えた。呪術高専に入り日が浅い春夏には、答えても構わないだろうかと。

 五条悟には「誰が答えるか」と反発した漏瑚が、何故こうも春夏には反発せずに居られるのか──。それは、春夏のこの領域に原因があった。

 春夏の領域「月下霧消之理」は、領域内の呪力を帯びるありとあらゆるものを、己の支配下に置けるという効果を持つ。その副次効果として、思考にもある程度の影響を与えるというものがある。春夏はそれについて認識してはいないが……。

 

『──夏油傑。奴はそう名乗っている。剥き出しの縫い目が額にあり、五条袈裟を身に纏うどこまでも胡散臭い男だ』

 

「夏油傑──って、それ、去年百鬼夜行を起こした呪詛師じゃ? 五条悟が殺したって聞いたけど?」

 

『儂に言われても知らん。キレ長の目、変な前髪、今にも裏切りそうな胡散臭さに加え妙な周到さ──敵に回すなら気を付ける事だな。タチが悪いぞ』

 

「胡散臭いのに、そんな奴について行くのか?」

 

『……』

 

「ま、いいや。今夜は、俺の勝ちだ。俺は九相図を連れ戻しに行くけど、邪魔すんなよ」

 

『ッ……よもや、今の儂が負けるとは思わなんだ……好きにするがいい』

 

「そんじゃ、最後のお願い」

 

『なんだ、まだあるのか。貴様は欲深い男だな』

 

 背中のバッグから新品の青龍偃月刀を取り出す。三国志において、関羽雲長が使用していたとされる武具だ。

 呪いは込められていない。つまり呪具ではない。そんな場違いな物を見た漏瑚は、眉をひそめる。

 

『……何をするつもりだ? それで何ができる?』

 

「──今から俺に、さっきの極ノ番を撃ってくれ」

 

『なっ!?』

 

「殺す気で来い。俺が死んだらそれまでだ、お前の勝ちって事で呪具も何もかもくれてやる。だが俺が勝てば──祓いやしねえけど、九相図を放置して、この場からは撤退してもらう。OK?」

 

『勝ちを捨てる気か? 渡辺春夏……!!』

 

「お、一度は燃え尽きた戦意が再燃した。いいぜ、その意気で来なよ。もう術式の焼き切れも治った頃でしょ?」

 

『死んでも後悔するなよ』

 

「しねえさ。俺にはまだまだ、やる事がある」

 

(どういうつもりだ? 春夏の領域内だから、隕を放とうとも必中ではないとはいえ……)

 

 春夏がニヤリと口を歪める。それと同時に、虫のような羽のついた物体が漏瑚の頭から飛び出して、漏瑚の背中を引っ張り上げ、彼は天高く舞う。

 

『極ノ番──「隕」ッ!!』

 

「──霊装呪法・極ノ番──『(きゅう)』ッ!!」

 

 呪いが込められていない青龍偃月刀を、極ノ番の発動と共に、漏瑚が落とした「隕」へとぶつける。すると漏瑚が放った「隕」がまるで刀に吸収されるように煙を上げながら消えてしまい……。

 そこまで終えて、春夏は領域を解除する。

 

『な、に……ッ!?』

 

「にひひっ♡ サンキュー漏瑚、これでやっと俺の強化イベが終わった♡」

 

『貴様ッ何をした!?』

 

「俺の術式の、極ノ番を使ったのさ。その効果は、触れた呪術の強制呪具化、または呪物化だ。呪具にする場合は、予め空っぽ(・・・)の武具などを用意しておく必要があるんだけどね」

 

 何の効果も無く、呪いも込められていない武具を呪術戦で使用するのは大きなリスクになる。それが縛りとして機能しているのかは不明であるものの、春夏は、霊装呪法の極ノ番を漏瑚に──ではなく、漏瑚の呪術に向けた事で、彼の術式の強制呪具化に成功した。

 

「高専の武器庫にあったコイツを、実家の売り物と交換してもらったんだ。前に言ったと思うけどさ、俺ん家、呪具屋なんだ。平安時代から続く、マジで由緒ある家だよん」

 

『……まさか、貴様の家で売っている呪具は……』

 

「そ。基本的には、この術式を持った術師による、自作の呪具なのさ」

 

 この術式を脈々と受け継いできたからこそ春夏の家も長く続いている、と言える。

 

「こうして作るには何かしら触媒が必要なんだよ。俺の術式の場合、触媒となるのは、その『空っぽの武具』と相手の術式。それを、極めた自分の術式、つまり極ノ番で受けて──『融合』させるのさ」

 

『……つまり、儂の極ノ番と融合したその刀は、儂の極ノ番を……再現できるというのか……?』

 

「極ノ番どころか、漏瑚ができそうな事なら何でもできる。例えば擬似的に火山を作り噴火させたり、マグマビームを発射したり。あと何ができるかな。そういやさっき、虫みたいなの召喚して引っ張ってもらって空飛んでたよな。それも再現できるよ」

 

『な、に……ッ』

 

「1000年続く呪具屋の当主たるもの──これくらいできずにどうするよ?」

 

 無論、デメリットはある。

 呪具に融合させた術式は、領域に付与できない。そして、如何に強力な術式を融合させたところで、使用する時は、使用者の呪力量、及び出力に応じた強さに変動してしまう。

 ────今回の漏瑚で例えてみると。

 呪力量は、漏瑚の方が春夏よりも多い。よって、春夏が本気で「隕」を使おうとも、漏瑚の「隕」に比べると小さくなってしまう。

 そして、もし仮に五条悟の無下限呪術を融合させ無下限呪術の使用を試みたとしても、六眼を持たぬ彼には制御ができず、恐らくそのまま死ぬだろう。

 そして何より、春夏の「極ノ番」は、融合ついでとはいえ相手の術式を強制解除可能な側面もある。消費する呪力は無類。領域展開と近しいレベルの、凄まじい代物だ。

 

「漏瑚の術式と融合したこの呪具にも、名前くらい付けてやらないとな。素体が青龍偃月刀だしなぁ、それっぽい名前にしようか。業龍剡月刀(ごうりゅうえんげつとう)──うん、いいな。我ながらイイ響きだ」

 

『儂の術式をコピーしおって……腹の立つガキだ』

 

「コピーとか言うなよな、しょぼく聞こえるだろ。お前の呪術から術式を抽出して、融合させたのさ。あくまで『融合』だかんな。勘違いすんなよ」

 

『どちらでもよい、そんなもの』

 

「けッ。──おい漏瑚。五条悟には見付かるなよ。俺とは違ってアイツに見つかりゃ祓われちまうぞ」

 

『フン……その時はその時だ』

 

「あ、そ」

 

 漏瑚の呪術を込めて製作したての青龍偃月刀──改め、業龍剡月刀をいつものバッグにしまい込み、大きく一息をつく。春夏は、近接武器をあまり多く持たない。そろそろ近接武器が欲しい、そう考えて漏瑚の術式を取り込もうとしていた。

 ──ひょっとしたら、先日から漏瑚の気配ばかり感じていたのは、春夏の持つそんな「欲」が、彼にそうさせていたのかもしれない……。

 

「それにしても、クッソ暑いな。漏瑚のせいだぜ? 汗ふきシート、乾いてないといいけど──あ〜っ、キモチイイ……生き返るゥ……♡」

 

『腹を出すなァッ! 夜とはいえ野外だぞ!!』

 

「……お前、変なところで常識的なのな」

 

 こうして新たな呪具を手に入れた春夏は、悠々と汗の始末をして漏瑚と解散。受肉した呪胎九相図を連れ戻す為、茨木童子に呪力を注いでもらいつつ、再び空を飛んで、九相図の元へ急行した────。




Q、どうして、マグマの手で春夏を握り潰したり、マグマの津波を浴びせたりしないの?
回復しているなら、漏瑚は手を抜き過ぎでは?

A、あまり広範囲や高威力系の攻撃をすると春夏が所有している呪具がダメになってしまう事を漏瑚も理解しているから。
よって漏瑚は自然と使える技が制限されている。
(呪術的な縛りではないのに、)自然と縛りプレイみたいになっている漏瑚さん。

その無駄な縛りプレイのせいで勝てないだけ。
原作の宿儺の言う通り、手当たり次第に焼き尽くす勢いで攻撃すれば、春夏に勝てないワケがない。
「領域展開!死ねッ!(全方位からの即死攻撃)」
「ギャッ」
春夏がもう少し漏瑚を舐め腐ってたり、領域展開や極ノ番を習得していなければコレで瞬殺可能です。
だって漏瑚だもの。
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