とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

17 / 37
第17話:お兄ちゃんvsお兄ちゃん

 

「──あ、もしもし伊地知さん? 良いニュースをゲットしましたよ。えぇ、そうです。ソイツから、敵の黒幕、聞き出してやりました。五条先生に軽く恩売れますかね、へへっ。────夏油傑。呪霊を率いるその呪詛師は夏油傑と名乗ってるようです。去年、百鬼夜行を起こした夏油傑に肖ってるのか、それとも本当は生きてたのか。何なんでしょうね。どちらにせよ……五条先生に連絡、お願いします」

 

 虎杖ら1年生は補助監督・新田の運転する車で。春夏は補助監督・伊地知の運転する車で、それぞれ高専へと帰還。

 春夏は自身をピックアップしてもらう為、ずっと待たせていた伊地知に連絡すると同時に、漏瑚から聞き出した情報を渡して情報共有を図る。

 その後、呪力が枯渇し疲労困憊となった春夏は、伊地知の運転する車の中で大きなイビキをかいて、高専に着くまでの間、ずっと爆睡していた。

 

 ◆

 

 呪胎九相図1番・脹相。弟達の帰還を待たず始動する──と思われたが、おつかいの結果はどうあれまずは弟達が無事に戻った事と、そしておつかいに行ったという事実を労う為、脹相は弟達を待った。

 すまない兄さん──ごめんよ兄者──と、口々に謝罪の言葉を口にする壊相と血塗。しかし脹相は、任務に失敗した2人を責める事は無く。

 

「よく無事に戻ったな……弟達よ』

 

 そう言って力強く2人を抱き締めた。

 夏油傑と名乗る者──そして真人は、彼らなりに気を使ったらしくその場を離れて、その場を三兄弟だけにしてやった。

 壊相はその機を逃さず、脹相に伝える。

 

「兄さん──1つ、提案があるんだけど』

 

 ◆

 

「にしても、春夏先輩。ホントにアイツらんこと、あのまま帰して良かったんかなぁ……」

 

「良くはないだろうね、間違いなく。ゲームとかで言うなら、アイツら、敵幹部みたいなもんだろう。単なる雑魚A、雑魚Bの格じゃないハズだし」

 

「どぇええっ!? そんなヤツを見逃したの!?」

 

「見逃したんじゃないさ。泳がせたんだ。そんで、三兄弟の長男を引きずり出し、あの三兄弟丸ごと、こっちに引き入れる。それでやっと宿儺の指以外の盗まれた呪物が高専に戻ってくる……」

 

「交流会の時だよな? 呪霊に侵入されて盗まれたなんて、未だに信じらんねぇ。それを五条先生達も俺達に対して隠してたっぽいのもなー。春夏先輩がうっかり暴露するまで知らなかったよ」

 

「上には上の考えがあるんだろ」

 

「伏黒もそんな事言ってたなぁ……」

 

 それから数日後の夜。

 壊相との打ち合わせ通り、明治神宮にて、3つの似たような呪力が立ち上った。特級だと言われても違和感が無いその濃密な呪力は敢えて探知せずとも春夏のセンサーを発動させるには十分で……。

 

「──よし、行くか」

 

 迎えの車を明治神宮に2台呼ぶ。話が通じやすい度合いからして伊地知と新田がいいだろうと春夏は推測。伊地知は春夏が今回の件に巻き込んだから。新田は、八十八橋の任務で虎杖らの補助監督を担当していたから──という判断でもある。

 深夜の明治神宮には、当然ながら、誰もいない。

 春夏は「お参りする時は呪力を発するのが呪術を持つ者のマナーらしいよ──って伝えときな」と、事前に壊相を介して脹相に伝えていた。勿論これは春夏の呪力感知に引っ掛かりやすくする為の手段(ウソ)。呪術師だろうとそんなマナーは無い。

 しかし、壊相は言った。「お人好しで天然っぽい兄さんだったら、信じるかもしれない」──と。

 

「はっ。マジでド天然かよ……お兄ちゃん」

 

 三兄弟の呪力は、成程確かによく似ていた。

 

「闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え」

 

 明治神宮に到着した春夏は、忘れず帳を下ろす。結局、先日の漏瑚との戦いでは帳を忘れてしまい、色々とお叱りを受ける事になった。領域勝負になり被害は最低限で済ませられたから良かったものの、まさか自分が五条悟と同じようなミスをするとはと溜め息をついた春夏であった。

 だからこそ今回は間違いなく帳を下ろし、そして同時に、それによって九相図兄弟を誘き寄せた。

 

「よぅ血塗、壊相」

 

「春夏〜! 元気してたかー?』

 

「おうよ。血塗も相変わらず元気で何より」

 

「あぁ、居た居た。兄さん、彼だよ。彼が、私達が人間側に付くのを手引きしてくれる渡辺春夏だ』

 

「フン。──お前か。俺の弟達のおつかいの邪魔をしたのはッ!!』

 

 チアガールが持つポンポンのような形で髪の毛を2つに纏めた、ある意味、ツインテールのような、どこか珍妙な髪型をしている。

 鼻筋に黒っぽい濃い痣のようなものがあり、血が滲んでるように見える。目の周りはアイシャドウを塗ったように赤っぽく、それさえ無ければ、確かに脹相は人間にしか見えない。彼を見るなり、春夏の中で、仮説がほぼ確信に至った。

 

「そう怒るなよ。お前の弟達な、高専の術師連中に殺されそうになってたんだぜ。確かに邪魔したかもしれないけど、それを助けたの。分かる?」

 

「ならその高専の術師を連れてこい! おつかいの邪魔をした罰を与えてやる!』

 

「とりあえず落ち着け。その『おつかい』からしてそもそもアレなんだよ。お前、利用されてんだよ。流石に気付いてんだろ?」

 

「だったらどうした。ならばこちらも、奴らを利用してやるのみだ!』

 

「呪霊の思い描く未来の方が好都合だから?」

 

「そうだ!』

 

「弟達を守る為……じゃなくてかよ?」

 

「ッ!! ……な、ぜ……』

 

「分かるんだよ。お前さ、結構なお人好しだろう。お参りの時には呪力を発するとかいう謎なルールをアッサリ信じるし、色々と、天然っぽいんだよな」

 

「なっ……壊相!?』

 

「すまない、兄さん。彼への合図だったんだ』

 

「!?』

 

「お前みたいなヤツは騙され、利用されやすいって相場が決まってんだよ」

 

「……貴様が俺達を騙して、利用しない保証は無い。現に、貴様は既に俺を騙しただろう……!』

 

「それはそう。だが、俺は高専の術師ではあるが、呪霊や呪霊の血を引くお前らへの『理解』はある。だから、俺にならできるんだよ。お前達と人間の、橋渡し役が。いや、俺にしかできないんじゃない? 流石にそれは自惚れかもしれないけれどね」

 

「何を言うかと思えば。「理解」だと? 人の身で何を知った風な口を……!!』

 

「人の身で?? お前らが呪霊の血を引いていて、純粋な人間じゃないから、ってか?」

 

「そうだ! その血の影響で俺達は曲がりなりにも人間とは言えない混ざり物だ! 異形の肉体を持つ俺達を、お前達人間は受け入れられな……』

 

「言うより見せた方が早いか。──おいで、羅喜」

 

「「「ッッ!?!?』』』

 

「特級叛霊・茨木童子。俺が個人的に契約してる、特級に分類される呪霊だ」

 

『よろしくゥ〜♡』

 

「ッ……け、契約してるからなんだと言うんだ!』

 

「俺、コイツと付き合ってんだよ。いつかは子作りするかもな。そうなりゃお前ら九相図兄弟みたいに人間と呪霊のハーフの子供ができるだろうな」

 

『まぁ♡』

 

「「!?』』

 

「お前は……何を、言っている……??』

 

「何をもクソも無いよ。いいか、脹相お兄ちゃん。よく聞きやがれ。俺ぁ、呪霊であるコイツと子供を作ろうとしてます。そうなりゃ産まれてくる子供は当然ながら人間と呪霊の混血になる。そんな子供を作ろうとしている俺が、どーして、オメーら九相図兄弟に対して『理解』を示せないと思うよ?」

 

「ッ……!!』

 

「知ってるか? 高専──特に東京校の術師はな、受肉体にも寛容なんだぜ? なんたって既に受肉体呪術師が居るんだからな」

 

「……虎杖悠仁か』

 

「流石に知ってるか。そう、虎杖だよ。パッと見は人間だけど、その実、特級の呪物を幾つも摂取した立派な受肉体だ。だけど、そんな虎杖にも友達が、先輩が、先生が居る。たまに、手とか顔に口とかがピョコッと出てくるのにな。──ぶっちゃけさァ、脹相、オメーよりも人外じみてると思うぜ?」

 

「…………』

 

「そんな東京校なら、お前らを受け入れてくれる。だから戻ってこい──呪胎九相図三兄弟。お前らが戻ってくるのなら、殆ど何のリスクも無く、残りの6人の弟達と一緒に居られるんだぜ?」

 

「────ッ!! 膿爛相(のうらんそう)……青瘀相(しょうおそう)……噉相(たんそう)……散相(さんそう)……骨相(こつそう)……焼相(しょうそう)……あぁああっ……!!』

 

「弟想いのお前の事だ。東京校の忌庫に侵入して、弟達を回収しようとしてるだろ?」

 

「!!』

 

「けど、無駄だぞ。お前らが盗まれた事件のせいで警戒度が最高レベルになってる。しかも最強である五条悟の任務が減って、最近は割と東京校に居る。そんな状態で、どうやって弟を回収に行くんだ?」

 

 警戒度が上がっているのは本当だが、五条が割と東京校に居るというのは嘘だ。彼の任務は、大して減ってはいない。寧ろ調査などで学校を留守にする頻度が増えたまであるかもしれない。

 しかし彼は知っている。効果的な嘘のつき方を。嘘を話す中に真実をある程度織り交ぜる──そしてこれは当たり前だが、話す嘘も「有り得る範囲」で話すのが肝要だ。

 春夏の話を聞かされた脹相は、ギリッと歯を強く食いしばると。

 

「五条悟を封印し、それから悠々と行けばいいッ! 受け入れてくれるかどうかも分からないお前達側にわざわざ付く必要など無い!!』

 

「封印だと? あのバカを封印できる方法なんて、この世に存在するのか……? 最強って概念を具現化したようなあの男を?」

 

『獄門疆じゃないかしら? 生きた結界──源信の成れの果てとされている呪物よ。特級呪物特集で、前に教えたでしょう?』

 

「あー、アレかぁ。アレなら有り得る。五条悟なら自殺とかしないだろうし、封印後に自然と獄門疆が開門する事も無さそうだ」

 

「獄門疆を……知っているのか……?』

 

「1000年以上続く呪具屋の当主なものでね。呪具や呪物の知識は、勉強中だが、それなりにはあるよ」

 

「……ッ……!!』

 

 自分達の切り札を敵に漏らしてしまった。それに気付いた脹相は顔を青く……そして、赤くさせた。

 

「目論見が露見しようとも、俺達は呪霊側につくと決めたんだ。わざわざ、人間側から理解を得ようと足掻く必要も無い。する必要の無い苦労をわざわざすることなど、これっぽっちも無いんだ……!』

 

「なんだよ、それ。楽な道を選んでるだけじゃん。苦労は買ってでもしろ、とは言わねえよ。そんな、昭和みてーな考え方をする必要は無い。──でも、その選択をした事によってどんな悲劇が起きるか、そこまで考えた事あんのかよ?」

 

「何だと……?』

 

「利用され、捨てられる。まぁそれはそれでいいと割り切るのは勝手だ。けどな、捨てられる(・・・・・)だけならまだマシなんだ。──いいか、脹相──呪術師は、呪霊も呪詛師も、割と普通に殺すぞ?」

 

「……!』

 

「さっき言ったよな。血塗と壊相は高専の術師達に殺されそうになったって。その術師、入学したての1年生だぞ? そんな子供に負けたんだよ、お前の弟達は。なら、もっと鍛えてるヤツらと戦ったら? きっと、助ける余裕すら無く、殺されるだろうよ。脹相──お前が(・・・)呪霊側に付く(・・・・・・)事を選んだせいだ(・・・・・・・・)

 

「っあ……ぅ……? うあ……あ゙あ゙あ゙っ……!!』

 

 ワナワナと口元を震わせ、頭を抱え蹲る。春夏に促されたことで、想像してしまったのだろう。今、自分達が歩んでいる道の果てに待ち受ける結末を。

 脹相の反応を見るに、それは決して、幸せな結末ではなさそうだ。

 

「俺は、それでも! 兄だから、弟の前を歩くッ! 俺が歩む道を間違えたのなら、それでもいいんだ! 壊相、血塗──弟が、俺と違う道を歩むなら!』

 

「馬鹿野郎がァッ!!」

 

「ごぁっ……!!』

 

「兄者ぁっ! は、春夏、イキナリ何をす……っ』

 

 呪力で強化した拳で、脹相の顎を殴り抜く春夏。グラリと脹相の見る景色は揺れ、壊相と血塗の手で優しく受け止められる。血塗は、春夏に何か苦言を呈しようとするも、壊相がそれを手で制する。

 

「テメー、もしかしてアレかよ? 『もし俺が道を間違えても、弟達はそんな自分を手本に正しい道に進んでくれればそれでいい』と思ってるクチか!? 今のセリフはそういう意味だろう、脹相ッ!?」

 

「そうだ、兄は弟の手本であるべきなんだ! 俺が正道を歩めば弟達はそれに続けばいい! 俺が道を誤れば、弟達は別の道を歩めばいいッ!!』

 

「それが甘ェ考えだッつってんだよバカ兄貴ッ!」

 

「!?』

 

「立派だよオメーは! 自分を犠牲にしてでも弟を立派に、正しい道に導こうとしてる! だがなァ、オメーが自分を犠牲にしたその道の果てに、一体、何が待ち受けてると思う? 考えた事あるか!?」

 

「っ……!』

 

「『兄貴を失った弟』が残るんだよ! 兄は弟を、弟は兄を支えて、兄弟持ちつ持たれつで支え合って生きていくモンだ! 分かんだろーがッ!?」

 

「分かるに決まっ……』

 

「なのにテメーがテメー自身を犠牲にしちまったら弟だけが残される事になるんだよッ! 弟が正しい道を歩めたとしても、それを見届けるお前はそこに居ねえんだよ! 弟にそんな寂しい人生を送らせるつもりかよッ!?」

 

「ッッッ』

 

「テメーの身勝手で残された方の気持ちを、ほんの少しでも考えてみやがれ!! 壊相も血塗も泣いて悲しむだろうよ、兄がそんな捨て身じゃあよォ!」

 

「ぐっ……く……!』

 

 脹相の胸倉を掴み、鼻の頭同士が触れそうな程に距離を詰める。

 

「テメーを手本に『間違わない』ように導くのは、そりゃあ大層ご立派だよ。けどなぁ、覚えとけよ。どんなに一直線に見えた道でも、必ず、どこかには分岐点があるモンなんだよ」

 

「分岐、点……』

 

「弟弟ばかりのその脳ミソを少しでも使って考えを巡らしてみろや。お前を反面教師にした弟くんは、道を間違えたお前には辿り着けなかった分岐点に、やがて到達する。でもな、お前という手本を唐突に失って、そして失敗した時──弟は、どうやって、その失敗から立ち直りゃあいいんだ!?」

 

「────っ!!』

 

「こう言えば分かるかよ、脹相!? お前はなァ、

『弟に間違わせない事』ばかりに執着するあまり、

『失敗からの立ち直り方を学ぶ機会』を他でもない大事な弟から奪っちまってるんだよッッ!!」

 

「……なん、だ、と……』

 

「正誤を問わず全部呑み込め! 貪欲に受け入れてそれら全てを糧にするんだ!! 互いに間違って、互いにそれを支え合うんだ! それが兄弟ってモンじゃねーのかよッ!? けど、片方が死んじまえばそれすらできねえ! 死にかねない選択肢だけは、絶対に選んじゃダメだろーが! 脹相よォッ!!」

 

 壊相に向かって脹相を軽く突き飛ばすようにして手を離す。

 

「………………』

 

「兄さん……』

 

「兄者……』

 

 しなびた野菜のようになってしまった脹相を見てこれ以上は言葉は不要だと思った春夏は、小さめの溜め息をつき、柄にもなく声を荒らげてしまったとほんのり反省する。

 自分も道を間違えたクセに何を言っているのか。いや違う。自分が道を間違えたからこそ、今に道を間違えそうになっている脹相のことを、どうにか、自分が嫌われてでも助けてやりたかった。

 弟には向けてやれなかった兄としての気持ちを、脹相に、向けているだけなのかもしれない。

 

「──兄さん。私達が間違えないようにと、全力で手本を見せてくれる兄さんが大好きだよ』

 

「壊相……!』

 

「でも、だからこそ私は、兄さん1人にだけ、道を間違えてほしくはないんだ』

 

「────!!』

 

「私達兄弟は3人で1つ。正しくても間違えても、一緒に生きていたいよ。そこに兄さんだけが居ない人生なんて、そんなの──寂しすぎるじゃないか』

 

「そうだぞ兄者! 上手く言えないけど、やっぱり俺達は3人で1つ! どんな道も一緒に行こう!』

 

「血塗……! すまない……俺は……俺はぁぁっ……!! すまない……すまないっ……!!』

 

「大丈夫だよ、兄さん……私達は大丈夫だから……』

 

「兄者、泣かないでくれよぉ……』

 

 遂には、3人揃って抱き合いながら泣き始めた。本当によく泣く兄弟だな──と春夏は彼らから目を逸らして、曇りがかった星空を見上げる。

 空でも見上げていなければ、春夏もまた、彼らのようになってしまいそうだったから。

 

「……渡辺春夏』

 

「……なんだよ」

 

「お前は言ったな。俺は、自分を犠牲にしてでも、弟達を導こうとしている……と』

 

「あぁ」

 

「それは正しい。まさしく俺の本心、目標だった。でも、もっと大きな本音もあった。──人間として苦しむ2人を、俺が見たくなかったんだ。2人は、俺の弟達は……そんなに、弱くないのに……』

 

「……」

 

「兄さん……』

 

「兄者ぁ……』

 

「愛する弟達をも誤った道に導いてしまった。俺は兄として失……』

 

「まだ間違えてねえよ。まだ(・・)、な」

 

「え……?』

 

「3人まとめて間違えそうになっていたから、俺が助けに来たんだ。崖っぷちだが、ギリセーフだよ」

 

「……渡辺春夏……』

 

「理解したらテメー、二度と『兄として失格』とかほざくんじゃねーぞ。よりによって弟達の前でよ。何を言おうとしてんだお前。確かにさ、兄としての責任感は大事だけどさ。──でもお前、ちょっと、自分を責め過ぎだわ。自覚してねーだろーけどさ」

 

「……!』

 

「お前は、いやお前らは『人』だ。俺が、人間側にお前らを受け入れてもらえるよう橋渡ししてやる。だから脹相、壊相、血塗。────俺達と来いよ(・・・・・・)

 

 はにかむような、どこか、照れくさそうな笑顔と共に差し出されたその手を、脹相は、更に涙を頬に落としながら、しかし力強く握った。それに続いて壊相、血塗もまた、兄と手を重ねるようにして彼の手を握り、人間側に寝返る事を決意した────。

 

 ◆

 

「クックック……いやはや本当に親不孝者の兄弟だ。おつかいにも失敗した挙句、まさか裏切るとはね。失敗作はどこまで行っても失敗作と言うべきかな。まぁ、ハナから期待なんかしていなかったけどね。でも、ここまでとはな……」

 

『親不孝者? せっかく高専の忌庫から持ち出して受肉させてやったのに──的な意味?』

 

「まぁ……そんな所かな」

 

『脹相らの問題ではなく、単に渡辺春夏があちらに居る限り、受肉体を使うのは難しい──というだけではないか? 呪物が元になった受肉体が、ヤツに勝てるとは……到底思えんぞ』

 

「フム。中々どうして、厄介なもんだね。まさか、五条悟より行動が読めない人間が現れるとは──。しかも真っ当な術者じゃないだろ、アレは。何度も漏瑚を見逃すか? 明らかに普通じゃあない」

 

『……』

 

「漏瑚。何か知らないかい? 何故、自分がこうも祓われずに見逃されているのか」

 

『そんなもの儂が知るか。というより儂が知りたいくらいだ』

 

「フン……ま、それもそうか」

 

『領域の押し合いにもほぼ確実に勝てるとなれば、いつでも勝てるに等しいでしょ? つまり漏瑚は、単純に舐められてんだよ』

 

『うるさいぞ真人! 貴様に何が分かるッ!!』

 

『べ〜』

 

 ◆

 

「────あ、伊地知さん? お待たせしました。これからそっち行きますね。──あっ、帳ですか? もし戦闘になったら──ね? あぁいえ、結果的に説得だけで済みました。思っていたより利口です。ええ──じゃ、これからそっち連れていきますね」

 

「……連れていくのか』

 

「おう。別に拘束とかはしねぇから、気ィ楽にしていいからな」

 

「拘束しない、だと?』

 

「なんだ? 暴れる気でもあんのかよ?」

 

「いやっ、それは全く無いが……その……』

 

「ほら、私達は仮にも敵側だろう? なにかこう、拘束とかあって然るべきではないかなと思うんだ。自分で言うのは変だと思うが……』

 

「お前らが今から暴れるとは思ってねー。ウダウダ言ってんなよ。人間扱いするって言ったろ。黙って呪術高専まで着いてきなさいや。──まぁ、軽〜い聞き取り調査くらいはするだろーけど? それさえ乗り越えれば、人間側として、晴れて自由の身だ。だからさ、肩の力抜いて、大人しくしてろよな?」

 

「……すまない。恩に着る』

 

「ありがとう、春夏』

 

「ありがとなぁ!』

 

「はいはい、お話はおしまい! 迎え来てるから、さっさと駐車場に行きますよ。呪胎九相図三兄弟、呪術高専東京校に、ご案内〜♪ ってな!」

 

 ────こうして、伊地知の車には春夏と血塗、新田の車には脹相と壊相がそれぞれ乗る事になり、無事、呪術高専へ向かう事に。

 曇りがかった空も、そんな彼らを祝福するように星空が顔を覗かせていた。

 そして、脹相は、思っていたよりも敵側の作戦の中枢まで知っていたようで、「聞き取り調査」にはそれなりに時間が掛かったものの。数日後、それを終えた彼らの顔はとても晴れやかだった。




あと1ヶ月ほどで魔虚羅の登場回です。やっと。
私の最推し式神の魔虚羅……。

首を由良由良させながら待っていてください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。