とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第19話:お兄ちゃん2人。ただし自由人。

 

「────という事で、今回の任務は2級、及び、それ未満の等級では厳しいかもと判断されまして、今回、渡辺さんと脹相さんにお話が来ました……」

 

「勿論イイですけど、4年生って、任務に行かないみたいな話だったんじゃ?」

 

「普段は、そうです。ただ、今は狗巻くんも任務に行っており、何より急を要する案件です。ですから自由に動けるお2人にと……」

 

「どう、脹相? 行けそ?」

 

「問題ない。任務の勝手は何も分からんが、春夏も行くのだろう?」

 

「おん。俺もよく分かんねーけど、とりあえず帳を下ろして、該当の呪霊を払えばヨシ! 超ザックリ言ってしまえばそんなモンよ。ね、伊地知さん?」

 

「え、ええ、まぁ……ザックリ言えば、はい……」

 

 今回は、伊地知が2人のサポートをするらしい。やはりよく見知った人だと安心してしまうようで、道中は、ついウトウトしてしまいそうになる春夏。しかし……。

 

「謎の転落死……ですか?」

 

「はい。マンションの前を歩いていた通行人Aは、次の瞬間には、そのマンションの屋上あたりから、何故だか落下していたと。およそこんな感じです」

 

「「……?」」

 

 マンション入口や廊下に設置された監視カメラを見ても、その人が敷地内に侵入した証拠など無く、靴跡の痕跡すらも無い。それなのに、マンションの住人の何人かは、そのマンションに入った事も無い通行人Aが「落下してくる」のを目撃した。

 そして、現にその通行人Aはマンション前で謎の転落死を遂げている。高所から落ちたかのように、全身を強く打って死亡していると。

 ────何より最悪な事に、こんな物騒な事件がほぼ毎日、正確には隔日で起きるから恐ろしい。

 マンションの住人は今すぐに引っ越しをしようとしているし、通行人もこのマンションの前を避けて通ろうとしているし──そんなザマなので、周囲のありとあらゆる店という「店」はもう常に閑古鳥が鳴いている状態である……とのこと。

 

「伊地知さんから聞く話で、何を言ってんのか全く分からないなんて、高専来て初めてですよ」

 

「ご安心ください、全く分からないのは私達も同じですから……。ですので、渡辺さんと脹相さんには、その事件の調査、そして解決をお願いします」

 

「了解ですっ!」

 

「了解した」

 

 そして、夜。件の高層マンションから少々離れた所に車を停め、春夏と脹相、伊地知は車を降りる。

 

「では、帳を下ろします。お気を付けて。『闇より出でて闇より黒くその穢れを禊ぎ祓え』──」

 

 伊地知の下ろした帳に遮断され、中には春夏と、脹相の2人だけ取り残される。周辺住民については今は一時的に避難中らしく、今はとにかく2人だけこの場に居た。

 

「……どこに居るんだ、呪霊」

 

「常に待機してたら世話ないわな。あれだろ多分。何かの条件で自動で作動するタイプの術式じゃね? とりあえず……マンション前、歩いてみようぜ」

 

「分かった」

 

 鼻の上の痣のような部分からピシャッピシャッと幾つか血の玉──のようなものを出すと、それらをファンネルのように自分の周囲に浮かせ、そのままスタスタと歩き出す。

 まるで「私はマンション前を通る通行人です」と言わんばかりのその堂々たる様子に、ついクスッと声が漏れそうになる春夏。

 勿論、呪霊にそう思い込ませるのが目的なので、脹相のように堂々とするのは、必要な事ではある。しかし、ムンッと胸を張って、肩で風を切る必要はあるのだろうか。

 

「ム……」

 

「どした? …………は?」

 

 脹相の小さな唸り声──のような声が聞こえた。目を離していたので、すぐに彼へと目を戻す春夏、しかしそこに既に脹相の姿は無い。まさかと思って彼が居た場所からそのまま目を上に向けると、姿を消した脹相が、そのまま落下してきていた。

 

「うわっ!? なっ、なっな、なんで!?」

 

「案ずるな! 問題ない!」

 

 すぐさま、脹相を受け止めようと真下に移動する春夏だったが、彼は血のファンネルを2つ、両足の下に移動させると。それを薄っぺらく伸ばし、血の足場として柔軟に着地してしまった。

 

「……赤血操術、そんな事もできんの? すご……」

 

「噴射して空を飛ぶ事もできるぞ」

 

「なんやて工藤!?」

 

「脹相だ」

 

「空を飛ぶのって、人類の夢じゃねーか。サラッと何を言ってくれちゃってんだよ。俺なんて、まだ、羅喜からの助けが無いとマトモに飛べないのによ」

 

「……ところで、呪霊だが。屋上あたりの高さにまで飛ばされた時、屋上の(ふち)に立っていたのが見えた」

 

「マジ? 下からじゃ見えなかったな」

 

「血塗よりも小さかった。ダルマのような身体で、目玉があちこち違うところを向いていたな」

 

「何それキモ。さっさと祓っちゃおーぜ。俺の事は気にしなくていいから、祓ってきちゃいなよ」

 

「いいのか?」

 

「1級案件を難なくこなせたとなれば、少なくとも脹相の有用性を『上』に認めさせるコトができる。初陣だし、オイシイとこは、くれてやるさ」

 

「では、有難くそうさせてもらおう」

 

 血で作った足場を利用し、フライボードのように空へ飛び上がった脹相。そんな事までできるのかともう何度目かの感嘆の溜め息を漏らす。

 

「『苅祓(かりばらい)』ッッ!!」

 

 血で、回転する刃を作る。ドラゴンボールで言う気円斬のようなその攻撃で屋上に居るらしい呪霊を攻撃する脹相だったが。

 次の瞬間、彼は再び春夏の目の前に現れていた。彼の血の気円斬──苅祓はマンションの正面玄関をブチ抜くと、脹相が術を解除するまでマンションの中を突っ切っていく。全くどんな貫通力をしているのやら。

 

「なっ!? 俺は確かに屋上の敵に攻撃を……なのに俺はいつの間にか下に居た……!?」

 

「敵さんの術式が分かったよ。対象の座標をイジる術式だな。三次元的に見るならZ軸──要するに、縦方向だけイジる感じだと思う」

 

「……面倒だな」

 

「だな。空を飛べなきゃ上に移動させられた時点で落下ダメージ受けるの確定だしな。呪力強化で防御できる程度の高さだろうが、面倒くせーな」

 

 楽に敵を祓えないか──そう頭を悩ませる2人。しかし程なくして、考える事に嫌気が差した春夏は大きなあくびと共に背伸びをする。

 

「なんかメンドクセー。ウダウダ考えるより屋上に行こうぜ。敵さん、屋上に居るんだろ?」

 

「ああ。土色の体表で、ダルマのような形、4本の太いリボンのようなものが体表から生えていた」

 

「イメージ湧かね〜。まぁそれはいいや。さっさと屋上に行こうか、こういうマンションは非常階段があるのが常だからな」

 

「俺の術式で直に上に行けるぞ」

 

「……おんぶしてもらうつもりは無いぞ」

 

「安心しろ、俺はお兄ちゃんだ。おんぶも抱っこも慣れている」

 

「俺もお兄ちゃんだし何ならおんぶは俺の専売特許だと言っても過言じゃあない。なんせ俺はほぼ常に妹を背負っているんだ。竈門炭治郎もビックリするくらい常に、だ。そんな俺なら、おんぶは俺の専売特許と言っても過言じゃあないだろ? なので俺は羅喜以外の誰にもおんぶはされません」

 

「過言だな」

 

「えぇ、えぇ、どうせ過言ですよ。ケッ。──俺は横の非常階段から行く。脹相はこのまま正面から。挟み撃ちにしよーぜ」

 

「分かった」

 

 そうして、非常階段からと正面からで呪霊を挟撃しようとする2人だったが、そこに呪霊はおらず、呪力の残穢も薄らと残っているだけだった。

 

「……逃げたか?」

 

「それは考えづらいだろう。そうだとすれば、奴はどんなルートで逃げた? 俺は正面から見ていたし非常階段からは春夏が来ていた。逃げ場があるならこの屋上以外には考えられないが」

 

「うーん。もう1回、歩いてみるか。噂で聞いた事しかないが、そういった『手順』を踏む必要がある呪霊の存在自体は、聞いた事がある。特定の手順を踏む必要がある分、呪いには掛かりにくいものの、掛かった時の効力は格別。かなり強力な呪いになるらしい。今回の呪霊が、まさにそのパターンかも。となると、呪霊が姿を現すのもその時だけか……」

 

「成程……もう一度、試してみよう」

 

 脹相と並んで談笑している風を装いながら、そのマンションの前を歩く。事件の発生頻度は隔日だと聞いていたので、今日はもう発動しない可能性も、あるにはあったが……。

 

「来たぞ春夏!」

 

「またお前だけかよ脹相ッ!!」

 

 気付いた時には、やはり脹相だけが遥か上空へと転移させられており、血の足場を作っていなければ落下死しかねない状態であった。

 

「赤血操術──『苅祓』ッ!!」

 

『ズんポ』

 

「ぐっ、また急に地上に戻すとは──だが、これは既に体験済みだ……!!」

 

 五条悟の領域展開「無量空処」のような形で指を組むと、そんな短い詠唱と共に脹相が地上へ帰還。

 放たれた血のチャクラムは、上空から地上へ急に移動させられた事もあって、再びこのマンションのエントランスを切り刻まんと進むも、脹相は軌道を指先一つで制御する。壁を這うような軌道を描き、真上へと飛んでいく。

 その姿はまるで深紅のUFOが高速で舞い上がるようにも見えなくもない。

 

「行け……!」

 

『ズ』

 

 ズパッ、と小気味良い音と共に呪霊は両断され、上半身──と呼ぶべきモノが、ビチャリと地上へと落下して、そして消失した。屋上では下半身の方が消えていることだろう。

 

「任務完了だな」

 

「もうお前1人でいいんじゃないかな」

 

「そんな事は無い。俺1人では何をすればいいのか分からなかった。春夏の誘導のお陰で、俺の初陣を勝利で飾る事ができた。礼を言う。──弟達にも、良い報告ができそうだ」

 

「……そか。なら良かったよ」

 

「次の任務は春夏がトドメを指すといい。見せ場は大事だ」

 

「任務なんてのは全員が無事な状態で解決できればそれでいいの。どこに配慮してんのさ?」

 

「? 春夏にも弟か妹が居るのだろう? ならば、活躍できたと良い報告をしてやった方が安心するに決まっているだろう」

 

「お前ホントそればっかよな。まぁ弟を大切に思う気持ちは俺も分かるけど」

 

「だろう?」

 

「けど、脹相はマジで俺の事は気にしなくていい。アイツは……いつも俺を見守ってくれてるからよ」

 

「……? よく分からんが、そういう術式なのか」

 

「……まぁ……うん……そうね……そんなとこよ……」

 

 その妹はもう死んでいるし、何なら彼女の形見を常に背負っているから──などとは、口が裂けても言えないな、と苦笑する春夏であった。

 

 ◆

 

「あ、そうだ。赤血操術、他人の血は操れんの?」

 

「いや、自分の血だ。他人のは無理だと思うが──どうしてだ?」

 

「脹相の術式も呪具にしときたいな〜って。他人の血を操れるんなら、対呪詛師の時にゃほぼ無敵だ。自分の血だと失血のリスクがある。──そういや、なんで失血しねーの?」

 

「呪力を血に変換しているからな。半呪霊であり、尚且つ赤血操術の使い手だから可能な事だ。これは人間の赤血操術使いにはできない芸当なんだ」

 

「成程、体質の問題なのね。しかも毒効果アリと。近・中・遠距離、どれも可能とか強すぎん?」

 

「遠距離……苅祓のことか?」

 

「そーだよ?」

 

「アレは中距離だろうな。遠距離戦ならもっといい技がある。『百斂(びゃくれん)』で加圧し、放つ──『穿血(せんけつ)』。とにかく速い。奥義と言っても過言ではない」

 

「とにかく速いって。真面目な顔して語彙力が子供過ぎだぞ。まぁそれはいいとして、今度見せてよ」

 

「帰ったら訓練がてら見せてやろう」

 

「サンキュー助かる」

 

 その後、任務終わりの報告を軽く済ませ、早速、屋外にて訓練を始める2人。場合によっては脹相の赤血操術を呪具にしてやろうと企む春夏だったが。

 

「ヒェッ、巻藁が切れた……もはやレーザーだろ」

 

「フッ……」

 

 弓道で使用する巻藁に「穿血」を撃ってもらうがアッサリ穴があき、その状態で手を上下に動かせばバッサリと切れて藁が散らばってしまった。目にも留まらぬ速さ、そう形容するしかない。恐らくは、視覚を限界まで呪力で強化しても、勘で避けるしかまともに回避できなさそうな程だった。

 

「へー、これが『百斂』で圧縮した血……」

 

 ふよふよ脹相の周囲に漂う血の玉。これは先程、マンション前を歩く時にファンネルのように幾つか浮かべていたモノだ。まさかアレが「百斂」だとは思わなかった春夏は、妙にストンと納得がいった。

 ──と、その時。ポツポツと雨が降り出し、急ぎ片付けを始めた2人だったが。

 パシャッ、パシャッ、と「百斂」が弾け、地面を赤く汚してしまった。

 

「何、だ? 普通の雨ではないのか?」

 

「普通の雨だよ」

 

「では何故『百斂』が……」

 

「赤血操術……雨……いや。血、水か……!」

 

「何の事だ?」

 

「赤血操術の弱点だ。水を浴びちまうのはマズイのかもしれん。濡れると『百斂』で加圧したのが解除されちまうらしい。いや、百斂のみならず体外での血液操作全般かもしれないな」

 

「まさか。『血刃』…………これもダメか」

 

 血でナイフのようなものを形作る脹相、けれども一瞬しか形を保てず次の瞬間にはパシャッと弾けるように崩れてしまった。

 

「浸透圧、だっけ? そんな感じでさ、血球が破壊されちゃうんだよ。つまり、血としての機能を失うみたいなもん。血を操る赤血操術にとって致命的な弱点かもな」

 

「……チッ。面倒な仕様だな」

 

「流石にイメトレじゃここまではできないもんな。しゃーないさ。そん代わり、雨ん時とか、水使いが敵だった時の対策とか考えてみよーぜ」

 

「ああ、そうしよう」

 

 春夏と脹相は案外馬が合うようで、まだ任務から戻った直後だというのに、雨天での特訓を始めた。翌日、2人揃って風邪を引いてしまったものの──脹相は術式を利用して体温を限界まで上げて、春夏よりも早く風邪を治癒させてしまったそうな……。




ちなみに春夏は、呪具屋後継者として色んな呪具の使い方を鍛えているだけで、彼自身もそれをかなり楽しんで取り組んでいるものの、呪具使いとしての適正はあまりありません。
ハッキリ言って「下手の横好き」みたいな感じ。
呪具使いに適した術式と呪具屋としての知識だけでどうにかこうにかカバーしている状態です。

以前も後書きで書いた通り、呪具使いとしてならば真希さんの方がフツーに格上です。
春夏は、あくまで「広く浅く使える」だけなので。

彼の適正は結界術、及び開発です。
それを自覚しつつ前に出ようとするのは「結界術で戦ってもつまんねーし……」とのこと。
男の子ですね。
そんなだから守りたい人も守れなかったんですが。







※今回の呪霊について補足(少し閲覧注意)※

今回の呪霊の正体は、自宅の屋上から投身自殺した子供の怨念が集まって生まれた1級呪霊です。
9月1日ってのは1年の中で一番子供の自殺者数が多い日なんです。(自分の誕生日について色々調べてる時に知ってしまった情報……)
夏休みが明けて学校が始まるからでしょうね。
今回のお話は、9月のある日のことです。

血塗より小さい身体:元が子供だから
ダルマみたいな体型:落下の衝撃で圧縮されてる
散眼みたいな目:落下の衝撃で目が飛び出てる
体表が土色:血が通わなくなり土気色になった皮膚
4本の太いリボン:グシャグシャになった両手足
脹相だけが術式対象:マンション前を通り掛かる、子供のような無邪気な気質の人間が対象なだけ
マンション前だけが術式範囲:子供の世界は狭い
学校ではなくマンション前:地縛霊みたいな感じ
Z軸方向に瞬間移動させるだけの単調な術式:投身自殺というシンプルな死因が元になっているから
ズんポ:大鼻の呪霊の「ゾんば」がモチーフ&子供というのは、チンポとか下品な言葉が好きだからね
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