とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
人外魔境新宿決戦に合わせたかったのですが残念。
「ということでっ! 皆には言ってなかったけど、今日から4年生に編入する事になった元・呪具屋の渡辺
「「「「「「
(おかか……?)
2年生3人、1年生3人の計6人は、五条悟から唐突に告げられた編入生──春夏を見て困惑の声を上げる。その春夏はと言うと、唐突に聞こえてきたおにぎりの具材らしきワードに困惑している。
「さ、春夏、自己紹介してー」
「京都から来ました、渡辺春夏19歳です。五条悟に拾われました。家は呪具屋をやってました。呪術の知識はそんなにありません。先輩とか思わず同級生みたいに気軽に接してくれて構わないんで……」
「拾っただなんて捨て犬みたいに言わないでよー。家を失った旧友を助けるくらい、当然でしょ?」
「だから誰が五条悟と旧友だってば」
「ほらほら、皆も自己紹介したげてー。皆に呪具を提供してくれたり、呪具の扱い方を伝授してくれるありがた〜い先輩だから、仲良くしとこうね」
ぱんぱん、と軽く手を鳴らすと、眼鏡のポニテの少女から自己紹介を始めてくれた。
「禪院真希。苗字では呼ぶな、名前で呼べ」
「しゃけ」
「呪言師、狗巻棘。周囲への影響を考慮して語彙をおにぎりの具に絞ってる。因みに今の『しゃけ』は
『やぁ、よろしく!』って意味だと思っていいぞ。そして俺はパンダだ、よろしくな。それから、今は海外に行っているが、乙骨憂太っていうスゴイ奴も居るぞ。憂太さんを怒らせると怖いぞ〜」
フワフワの見た目に見合わぬ妙に低く野太い声がパンダから聞こえる。着ぐるみかと疑い首と胴体の間に手を突き刺す春夏だったが、くすぐったいなと笑われて終わってしまう。ちなみに、パンダの首と胴体の間に繋ぎ目などは無かった。
「1年、伏黒恵です。よろしくお願いします」
「虎杖悠仁っす! 目下、呪術に関するアレコレを特訓中でっす! あと、えと……まぁよろしく!」
「釘崎野薔薇。冴えない男は好みじゃないから妙な勘違いはしないことね」
「……はは……キャラ濃いな……みんな……」
パンダに触れ抱きつきたい衝動に駆られつつも、歳下達に見られている前なので、どうにか我慢する春夏。それでなくとも眼鏡の少女──真希から妙に睨まれていて、針のムシロだった。
俺を睨んで何を考えてるんだろ、怖いなぁ──と身構えていると、真希は唐突に声を上げた。
「! 京都──呪具屋──まさか『渡辺道具店』の人間かッ!?」
「そ、そう……ですけど……」
「…………チッ」
「??」
眼鏡の少女、禪院真希に睨まれ舌打ちまでされた春夏は、困惑と、何故か怒らせてしまったという、妙な罪悪感に襲われる。それを見た五条は、嫌味な程にニッと笑うと……。
「大丈夫だよ真希。春夏は禪院家から送られてきた監視役とか、そういうのじゃないからさ。さっきも言った通り、僕が拾っ……スカウトしたんだ」
「監視役? スパイ的な? そう思われてたの?」
「さぁ? 御三家の子だから、そういうしがらみも全く無いワケじゃないだろうから〜っていう、僕の勝手な想像。けど、全くの見当違いでもなかったんじゃない?」
禪院真希──禪院。その名を聞いた時点で春夏はそれについて察しがついていたが、改めて言われ、それが確信に至る。
そして悟の「御三家の子だから」という一言が、更に真希の眉間のシワを深くさせる。
「うっせーよバカ目隠し。──渡辺道具店と言えば禪院家の人間がよく行く老舗の呪具取り扱い店だ。修繕から製作まで、何でもござれ。術式を持つ者も持たない者も、等しく世話になってた。そんな家の人間が唐突に目の前に現れりゃあ『禪院家から何か言われて来たんだろうな』と疑うのは当然だろ」
「そりゃそーだ……」
御三家の中では、禪院家との繋がりが強めの渡辺道具店。真希の懸念は尤もだったと、疑われた事も忘れて彼女を肯定する。悟もまた首肯している。
「なぁお前。高専に来るにしても、どうして京都校じゃなくて東京校に来たんだ? 京都からわざわざこっち来る必要あるか?」
「それは五条悟に聞いてください……です」
「おい悟」
「うーん。端的に言えば『家庭の事情』ってヤツ? 真希なら、それで納得してくれるんじゃない?」
「……フンッ」
真希本人も、ある意味「家庭の事情」で高専に、しかも東京校に来ている。深く追求してほしくないという事を隠さない真希だからこそ、自分と同じく
「家庭の事情」で東京校に来たらしい春夏の事情をこれ以上は追求できないか、と諦める事にした。
(渡辺道具店──確か、禪院家の分家の分家だか、とにかく、
◆
2年生は座学、または任務に向かった。五条悟もまた任務に。1年生は次の任務まで間があるという話だったので、折角だから休憩がてら雑談でも──ということに。
追加で自己紹介を互いにする事により、虎杖悠仁という少年はかなり取っ付きやすくて、話しやすい性格っぽい事が判明。春夏は瞬時に絆され、気安いノリで話し掛けられるように。
「いや〜、まさか君が『宿儺の指』を食べたとは。初対面で言うのはどうかと思うけど、なんていうか君、かなりどうかしてるよ……?」
「えっへへ、食わなきゃ俺も伏黒も死ぬかも、って状況だったし、無我夢中で。そしたら五条先生から死刑になるなんて言われてビビったよ」
「そりゃそうなるよ。俺が五条悟に渡した『宿儺の指』も食べたの?」
「あーそれね! 今朝食べたよ」
「朝食にパン食べました、ってなノリで言うなよ。指だよ指。俺、あれ見た時マジで『キッショ』って言っちゃったもんね」
「ハハッ、分かる〜!」
「けど、その指は先輩の家にあったのでは?」
「うん。呪い避けとして、神棚で祀ってたんだよ。細長い木箱に入れて。けど、それの中身については知らなかったんだ」
「実家の店を継ぐ時に、先代から教わらなかったんですか? そんな大事な事は尚更、引き継ぎが無いとは思えないんですが」
「引き継がれる前に、死んじゃったからさ。だから呪具屋をやってたってのも殆どモグリで。なんなら知らない事の方が多い。寧ろ俺が教わりたいくらいなんだけどね。君らに教えるなんて以ての外だよ」
「……すみません、不躾でした」
「気にしなくていいよ。言ってなかったしね」
先代店主が急死したから、息子の春夏が自動的に店を継ぐ事になった。ただそれだけの事。そして、そんな成り行きで店を継いだだけなので、彼は己の店のことでも分からない事の方が多いのだ。
先代店主──もとい春夏の父親は、まだ40代とかその辺りの年齢であった。まだまだ若い。店を子に継がせる事を視野に入れて、しっかりと引き継ぎをしようなどと考え始めるような年齢でもなかった。
それが裏目に出て、何も知らぬ彼が店を継ぐ事になってしまったのだ。
「……ていうかさ、アンタ、いい加減にその重そうなバッグ、降ろしたら? 見てる方が疲れるわよ」
ゴルフバッグに近い形状と大きさの、妙に縦長の黒い背負いバッグ。春夏は、
釘崎が呆れながらそう言うのも無理もなかった。
「……見てる方が疲れる、か。初めて言われたな」
「釘崎って思った事を言っちまうタイプだかんね。俺はそういう所も釘崎のイイトコだとは思うけど、人によって好き嫌いはガッツリ別れる所だろうね」
「虎杖……アンタも割と似たタイプじゃないの?」
「それは無い。てか先輩、それ何が入ってんの?」
「何でも」
「何でも??」
「そう、何でも。俺が必要だと思った物が、ここに入ってる。呪具も、呪物も。呪具や呪物ではない、日用品とかもね」
「ほぇー、まぁ確かにかなりデカイもんな。ゴルフバッグよりもデカイんじゃね?」
「そのバッグも、呪具ですか? 少し強めの呪いの気配を、そのバッグそのものから感じます」
「よく分かるね。中に入れてる呪具・呪物の気配と混同されて、バッグの気配は隠れがちなんだけど」
「俺、全然分からんかった。普通のバッグかと……」
「普通に売ってそうなデザインだし……」
「……。虎杖達よりかは、長く呪術の世界に浸かって生きてきましたから……それくらいは」
「そっかぁ」
伏黒の慧眼を褒め称えるように、柔らかな笑みを浮かべる。ずっと背負っていたそのバッグの肩紐に手を掛けると、サイズに似合わぬ重量感でヒョイと持ち上げ、お姫様抱っこをするように横に抱える。
「特級呪具『奈落ノ革袋』。このバッグのサイズに収まる物ならどんな物でも、幾らでも入れられる。狙った物を取り出せるし、入れている物の重さ等も無視できる。バッグだけ背負ってるような重さしか感じないね」
「特級!?」
「すご! ドラ〇もんの四次元ポケットじゃん!」
「あっちは確か、ポケットの入口より大きな物でも入れられるだろ。このバッグは、それはできない。縦横を問わずあくまでも『バッグに入るサイズ』が限界なのさ。横──バッグの口より大きければ当然入らない。縦がはみ出る程度なら、普通のバッグと変わらず、入りはするものの重さは無視されない」
「でも結構色んな物を入れられそうね、伏黒が影に格納してる呪具とかも、入れられるんじゃない?」
「なんだ、伏黒も似たような芸当ができるのか」
「影に格納する事で、俺本人を手ぶらにする事ならできます。けど重さは据え置きなので、春夏先輩のそのバッグの下位互換ですね」
「俺達の間に上位も下位も無いだろ。コレは『構築術式』の術者が作った呪具でね。ジャンル違いは、そう簡単に比べられないと思うよ」
「スッゲ〜! 構築術式って、特級呪具もポンポン作れちまうの!?」
「ポンポンは無理だろ。それができれば、呪術界の金持ちランキング上位は構築術式の術者や、それを擁する組織が占める事になるだろうさ」
「そんなに儲かるん?」
「特級呪具1つ、ウン億円が普通だ。御三家とか、上層部クラスの金持ちじゃねぇと、正規ルートではゲットできないだろう」
「「ウン億円ンンンッッッ!?」」
虎杖と釘崎の声が重なる。この2人は、年相応の反応を示してくれるから、見てるだけでも面白いと春夏は頬を緩める。それに比べてこのウニ頭くん、伏黒恵のなんという冷静なことやら。この虎杖達と同級生とはまるで思えない。
「──なら、春夏先輩のそのバッグもそれくらいの値になるんですよね。しかも、聞く限りでは性能もズバ抜けてる。どうして、そんなモノを常に持ち歩いているんです? 危険では?」
「呪詛師に襲われたりして奪われたら──って?」
「……率直に言ってしまえば、そうです」
「コレが呪具であると──ましてや、特級クラスの呪具だと知っているのは俺と家族、五条悟。そしてお前ら3人だけ。夜蛾学長とやらも知らん。まぁ、なんつーか。これ……どう見ても市販品だろ?」
「メーカー名とかが無いだけで……市販品にしか」
「けど銀座とか渋谷とか、そういうとこには絶対に売っちゃいないわ。黒無地の地味すぎるデザイン、こんなん店に出したところで売れそうにないもの」
「特級呪具らしい呪いの気配は?」
「ぶっちゃけ感じません」
「だろうな。呪具の作り方も知らんガキンチョが、見様見真似、しかも思い付きで作った
(
「纏う気配は1級、いや2級もいいところさ。でも性能だけは妙に御立派だから、特級だと言われても納得自体はできるんじゃないかな?」
「まぁ、はい。サイズに制限はあるにせよ、無限に物を収納でき、重さも無視だなんて。仮に格付けをするなら、俺も1級か特級と格付けするでしょう」
「そっ、か。あの五条悟が手塩にかけて育てている伏黒にそう言われると……どうも嬉しくなるね」
「手塩にかけて育てられた覚えはありません」
「ハハッ、辛辣だね。草葉の陰で泣いてんぞ?」
「春夏先輩も十分に辛辣ですよ」
そう言って、伏黒もほんのりと頬を緩め、口角を上げる。初めて笑ってくれた──年相応な如何にも子供らしい笑顔ではないが、ほんの少しでも笑ってくれたなら、何よりだと春夏もつられて笑う。
すると、しばらく黙っていた虎杖が、口元に手を当てて、何やら考え込みながら呟く。
「……んん? もしかしてそのバッグさ、春夏先輩が作ったの?」
「……どうしてそう思う、虎杖?」
「何となく。『作り方も知らないガキンチョ』ってかつての自分の事を指してんのかなって思ったり。あと、伏黒にそのバッグが『特級』と認められて、なんか嬉しそうにしてたしさ。春夏先輩の術式──もしかして、その『構築術式』ってヤツなの?」
伏黒と釘崎、そして虎杖の視線が共に注がれる。六つもの目でそう見られては、春夏としても、少々居心地が悪い。
もし彼が肯定したら、何か作ってくれとか何とか言われそうだ。それくらいは構わないとは思いつつ軽く嘆息する。残念ながら、春夏の術式は構築術式ではないのだ。
「──残念だったね、迷探偵虎杖。俺の術式は構築術式じゃあない。製作者は、俺の妹さ」
「妹いるんだ!」
「……まぁな」
「そっちか〜! やっぱそうだろうと思ったのよ! ほら、かつての自分を貶す言い方っていうよりは、どちらかというと身内sageっぽい言い方だった!」
「釘崎、せめてそこは謙遜って言えよ」
「じゃあ先輩の術式は何なん!?」
「ヒミツ。まだバラすにゃ早いだろ、色々とさ」
「早くない、早くないっ! 先生や先輩、同級生の術式なんかももう知ってるワケだし、伏黒も釘崎も気になるだろ!?」
「そりゃあまぁ、理解できるかは置いておいても、気になる事は気になるが……」
「気にならないって言ったら嘘ね。でも……」
虎杖とは違って術式を持つ2人は、「気になる」という素直な気持ちを吐露するものの、どうも少々煮え切らない口振りだった。
「言いたくない人は割と居る。多かれ少なかれな。なんつーか、その、アレだ。簡単に言うと個人情報みたいなものだから、とでも言えばいいのか……」
「虎杖。アンタのそういう軽いノリね、基本的には長所だとは思うけど、そうヅカヅカと相手の領域に踏み込むのって人によっては嫌悪の対象だからね? そういう距離感バグ、まさに田舎モンあるあるね」
「えっ、あっ……あれ、でもパンダ先輩は狗巻先輩の術式についてフツーに教えるじゃん??」
「狗巻先輩についてはどう考えても例外寄り、いや例外そのものだろ」
「なんたって狗巻先輩、日常会話すらままならないレベルよ? アレは単なる紹介じゃなくて、味方に危険を周知させるって意味の情報伝達、注意喚起に過ぎないわ」
「あー……そういうモン、なのか?」
「「そういうモンなんだよ」」
術式持ち2人は声を揃えながら頷く。
「それをしないという事は──春夏先輩の術式は、少なくとも外部、つまり俺らに危害を加えかねない危険な術式ではない……って事だ」
「今すぐ任務で共闘するんなら確かに教えてほしいけど、そういうワケでもないっぽいしね。要するに
『プライベートな事はあまり詮索するな』って話。分かった??」
「わ、分かったよ……。先輩、ごめん」
ようやく会話の矛先が春夏に戻ったらしい。少し遠くから眺めるかのような気分で聞いていた春夏は虎杖に呼ばれて意識を目の前の後輩に戻す。
深い意味があって隠そうとしたワケでもないのに妙に擁護されてしまった──という負い目が、逆に申し訳なさを拡張していた。
「いや謝らなくていい。俺の方こそごめん。その、なんだ。深い意味があって隠したいワケじゃない。内容的には、術式を開示したっていいんだけどさ。なんつーかその、五条悟──五条先生みたいにさ、戦闘でバリバリ活躍できるような術式じゃなくて」
「どゆこと?」
「期待されるようなスゲー術式じゃないってコト。伏黒や釘崎の術式は、五条さ……五条先生から軽くは聞いてるけどさ。羨ましいよ。俺もそういう術式が欲しいなと思ってる」
「なによ、いい歳して捻くれてるわね」
「おい釘崎っ……」
しかし同時に、ちょっとした誇りも抱いていた。何故ならば、この術式でなければ、恐らく彼は家を継げなかったから。
正確に言い表すなら、この術式でなければ、彼が家を継いだ所で他者から認められなかっただろう。
なお、この「他者」とは、禪院家(本家)及び、渡辺道具店を贔屓にしている術師連中の事である。彼らが店に来てくれなくなれば、呪具を取り扱う店としては死んだも同然。呪術界を離れ、一般社会に溶け込むしかなくなる。時代遅れの道具屋として。
春夏と同じ術式を持っていた先代が死ぬと同時に1000年続いた道具店も終わりを告げていたハズだ。
そう、渡辺家
「お、お取り込み中すみません……」
オドオドした様子で現れた細身──いや、もはやガリガリとすら表現できる程に痩せた男性。伊地知潔高。五条悟の後輩にして、極めて苦労人気質──そしてメチャクチャに有能な補助監督である。
「あ、伊地知さん」
「交流会目前にも関わらず、申し訳ないのですが、緊急で対応して頂きたい任務が来てしまいました。伏黒くん、虎杖くん、釘崎さん1年生3人揃っての任務となっています。準1級〜1級呪霊が2体──詳細は車内で補助監督から説明を受けてください。行けそうですか……?」
「もち! いつでも行けるぜ、伊地知さん!」
「少年院の時みたいにならないといいけどね」
「あぁ、何級だろうと油断は禁物だ」
頑張ってな、とエールを送りたい春夏だったが、口だけでは何か足りない気がした。道具屋としての血が騒ぐのか、ゴソゴソと適当な、それでいて客に合うような道具を見繕うと。
「良かったらコレ貸そうか? 虎杖には割と合うと思う。オススメだな」
「んぉ? メリケンサック……?」
「等級は恐らく準1級〜1級ってところか。名前は知らん。『やたら呪霊を祓えるメリケンサック』、そんな感じで呼んでる。昔はよく使ったんだけど、あまりにもサクサク祓えるからつまらなくなって、ここしばらくは使ってない。試しに、使ってみな。手に馴染むようなら、新品を用意する」
「おぉーすげぇ! 握った感じは……イイ感じ!」
「伏黒は……要らんでしょ、式神ちゃん居るし」
「いやまぁそうですけど」
「冗談。術式的に手ぶらがいいんだよな。『呪力を遮断する外套』、使ってみるといい。隠密行動にも使えるし、単なる呪力放出を防ぐなら、盾としても使える。上着みたいに適当に羽織ればそれでいい。使ってみるかい?」
「有難く、お借りします」
「私は? 私は!?」
「ごめん、釘崎に似合いそうなのは五寸釘シリーズくらいしか無いな」
「はぁぁぁ!?」
「それじゃ『忠誠の五寸釘』と『貫通の五寸釘』、どっちがいい?」
「どう違うの?」
「『忠誠』は、呪霊に当てても、呪霊が祓われるか使い手が念じるまで絶対抜けない。狙いを外しても手元に返ってくる。『貫通』はその名の通り簡単に貫通する。刺したいだけの時には使えないね」
「手元に返ってくる!? じゃあそれ! 忠誠!! 絶対にそれよ!!」
「お、おう……勢いが凄いな」
「いちいち拾ったり買い足すの面倒なのよ……!」
「釘は消耗品だからね、仕方ないね」
「何よアンタ、分かってるじゃない。そんな悩みを解消してくれるんなら助かるわね。──祓った後は流石に返ってこないわよね?」
「返ってくるハズ。要は、釘が呪霊に刺さってない状態で速度が落ちたら手元に返ってくる、みたいな認識で構わないよ」
「何それ便利〜!!」
「あ、あの、皆さん、そろそろ……」
「「「あ」」」
「おっと。……せっかくだし『貫通』も持ってく?」
「持ってくわ!!」
つい盛りあがってしまった、と春夏達は顔を薄く赤くさせる。伊地知にペコペコと頭を下げて、今度こそ春夏は伊地知と共に3人を見送ることに。
「おっほん。えっと、3人共」
「おん?」
「「?」」
「その呪具は
「大丈夫、分かってるって! また壊さないように大事にすっから!」
「それは……まぁ、別にいいんだが」
「え?」
「……いや、何でもない。無事に帰ってこい。そして返してくれよな」
「はいよ! じゃ、いってきまーす!」
「いってきます」
「……」
虎杖達の任務には、伊地知ではない補助監督が、同行するらしい。伊地知には、高専での事務仕事が山のようにあるようだった。虎杖達を見送り、肩を落として事務室に向かう伊地知の背中を、今度は、春夏が静かに見送った。
◆
その頃、任務に向かう車内では。
「何よ、あの先輩は。自分からオススメとか言って虎杖に渡しておきながら、俺のだ、貸すだけ、ってやたらアピールしてさ?」
「さぁ?
「だとしても、初対面とはいえ後輩相手にそんなに警戒心を露わにする? というか、そんな警戒するくらいだったら自分から貸そうとするのかしらね? レンタル料を取るなら分かるけど、それも無く?」
「……しねぇよなぁ〜……」
春夏に対する疑念、疑問を、高専を出てから補助監督の運転する車内で言い合う虎杖と釘崎。虎杖は主にポジティブな意見を、釘崎はどちらかというとネガティブな、否定的な意見が出がちだった。
伏黒は彼らの会話には混ざらずに、春夏の言葉を脳内で何度も繰り返していた。呪言ではなくとも、何か、あの言葉に裏の意味があるのでは──そう、何かしら
結論から述べると、伏黒のその考えは物の見事に的中していた。ストレート、ド真ん中。点数なら、100点満点中90点はカタいだろう。
しかしその伏黒も、彼の真意までは読み取れず、それに気付いたのは、この任務の最中だった……。
オリジナル呪具紹介①
特級呪具・
春夏の妹が「構築術式」を利用して製作した、特級呪具らしい。見た目はゴルフバッグに近い、縦長のバッグ。その名の通り革のような質感。黒無地で、極めて無骨なデザイン。革袋という名前の割に実はそこまで革袋らしい見た目ではない。
バッグに入り切るサイズであれば、重量やバッグの容量を無視して、無限にモノを収納できる。呪具も呪物も、そうでない日用品も、なんでもござれ。
入り切らないサイズなら、重量や容量を無視できずそのまま背負うしかなくなる。
特級呪具だと春夏は言うが、性能を度外視すると、良くて準1級〜1級程度の「呪い」しか感じない。
収納した呪具(呪物)が発する呪力などは殆ど遮断できない。それ故、このバッグそのものが呪具だと自力で気付ける術師は、そう多くはない。
大抵は、収納されている呪具(呪物)の呪力と誤認してしまう。
1級呪具・
とある呪いが組み込まれたメリケンサック。極めて対呪霊に特化しておりサックサクと祓えてしまう。メリケン
春夏は、よくこれを使用して近所の呪霊を無差別に狩っていた。しかし、あまりにもサクサクと狩れてしまうので、つまらないと感じるように。
等級不明
呪力を遮断する外套(正式名称不明)
着用することで自身から漏出する呪力を完全に遮断できる。逆に、外部から浴びせられる呪力も完全に遮断できる。ただし防げるのは呪力だけで、術式による特殊な攻撃などは防げない。
純愛砲ならば防げるが蒼、赫、茈、うずまきなどは威力の大小を問わず防げない。そんな感じの性能。
(グラニテブラストなんかは、術式を通しても呪力放出でしかないので、威力を問わず余裕で防げる。天津飯にかめはめ波が効かないみたいなアレ)
忠誠の五寸釘
春夏曰く「五寸釘シリーズ」の1つ。
投げたり発射したりなどして手放すと、その速度が落ちれば自動的に手元に返ってくる。
呪霊に刺せば、祓うか使用者が念じるまでは絶対に抜けない(らしい)。
某サンドボックス系ゲームから着想を得たとか。
貫通の五寸釘
春夏曰く「五寸釘シリーズ」の1つ。
投げたり発射すれば、凄まじい威力で目標を貫く。不意討ちやトドメに最適。
某サンドボックス系ゲームから着想を得たとか。
五寸釘シリーズ
忠誠、貫通、追尾、回復などなど様々な効果が付与された五寸釘の呪具。使用者の技量によって効果が増減する。
一番威力がある(呪霊を祓いやすい)のは、貫通。しかし直線軌道なので回避もされやすい。
よって便利なのは貫通以外の忠誠、追尾、回復。
最も高威力な貫通は、牽制などではなくトドメ用にとっておくのが一番良い使い方なのだろう。
どうして五寸釘なのかって?
呪いと言えば五寸釘だもの。byはるか
五寸釘シリーズに派生して、矢シリーズもある。
こちらは弓道有段者の春夏が愛用している。