とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
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『だよね、ご主人っ!』
そう言って、天使のような幼児と化した魔虚羅は伏黒が投擲した業龍剡月刀を、持ち主である春夏に返却する。しかし、当の春夏はというと、目の前の出来事が現実のものと思えず、処理落ちしたPCやスマホのようにフリーズしてしまっていた。
地に尻もちをついたまま、子供のような魔虚羅を見上げている。
まず正気に戻ったのは、伏黒であった。
「何だ、お前は……ッ!?」
『マコラだよ、パパ』
「パ…………誰がパパだよ!?」
『マコラを召喚したの、パパでしょ……?』
「んなっ……!?」
目は髪に隠されて見えない。けれども潤んだ瞳の上目遣いで伏黒を見ているというのが、雰囲気から読み取れてしまった。
調伏してもいない魔虚羅が、女児のような姿形へ変貌を遂げ、そして伏黒を「パパ」と呼び慕う──伏黒の頭は、既にパンクしそうであった。
が、そんな「パパ」を差し置いて、幼児と化した魔虚羅は未だに尻もちをついたままの春夏へとその小さな手を伸ばし、よいしょっ、と可愛らしい声と共に引っ張り起こしてしまう。
『これからよろしくね、ご主人っ!』
そして、にぱっ、と輝くような笑顔を、真っ直ぐ春夏に向けるのだった……。
◆
それからはもう、大変な騒ぎだった。
2人は、戦闘中だった事もあってすっかり頭から抜け落ちていたが、春夏の「隕」は凄まじい地震を引き起こしていた。その揺れにより、寮で寝ていた生徒、教員、補助監督などなど──要するに高専に居た人間が、続々と震源地である野球場に集まってきてしまったのだ。
するとどうだろう、野球場の大半が巨大な大穴になっており、所々、マグマの余韻で熱を放ちながら赤黒く輝いていて。しかも、その中央には、巨大な隕石が鎮座しているではないか。
その上、その隕石の傍では、純白の幼女に絡まれ呆然としている渡辺春夏と伏黒恵が居て────。
「え……なに? どういう状況だよ? コレ……」
「全く分かんないわ……。ただ分かるのは……伏黒が謎の幼女の父親で……春夏先輩が、ご主人……って、呼ばれているってことくらいかしら……」
「いやそれは見ればわかるんよ! でもそれ自体がまず意味わかんねーんだって!」
「私に言われても分かんないわよバカ虎杖!」
虎杖と釘崎は困惑を互いにぶつけ合い、2年生の生徒達も同様に混乱を隠せないという様子で2人、そしてすっかり荒れ果てた野球場──だった場所を唖然とした様子で見ていた。
そして、1年の担任であり春夏の実質的な担任の五条悟はと言うと……。
「アッハハハハハハハハハハハハハハハッッ!!! どんなイレギュラーが起きたらそんな事になんの? ワッケ分かんね〜! あははははははっ!!」
涙を流しながら、ゲラゲラと全力で笑っていた。実に抱腹絶倒。文字通り抱腹絶倒。冷えて固まったマグマの上で、ゴロゴロと大の大人が転げ回って、ゲラゲラゲラゲラ、朝日が顔を覗かせつつある中で涙を流しながら笑っている。
「え、と……マコラ……?」
『うん?』
「君と俺と伏黒がどういう状況なのか、もう一度、説明してくれるかな……?」
『はーいっ!』
まるでバグのような連続での「適応」を済ませた魔虚羅は、自分の状況について一度は伏黒と春夏に説明をしていた。けれどもその時、2人はまだ冷静ではなく──というより、脳内で事態の整理が全くできておらず話が右から左へ流れてしまっていた。
そこで「六眼」を有する五条悟を交えて、再度、魔虚羅の身に起きた事態について、それから現状について、再三、説明を求める。
『パパが、マコラを調伏する為の儀式を始めたの。でも、ご主人も居たから、マコラを倒せても調伏はできないのね。だからね、マコラを倒せたらそこでおしまいっ! に、なるトコだったんだけど……』
「俺の領域に『適応』したのか?」
『うんっ! 儀式中のマコラはね、パパの術式から生まれた式神でも、まだ、パパの式神じゃないの。だから、マコラはご主人の式神になったんだよ!』
「はっ、春夏先輩の式神にだと!?」
「え……いや……俺の式神って……調伏してないぞ?」
『してなくてもイイんだよ! パパの式神じゃないマコラが、ご主人の領域に入ったからっ!』
「────ッ!!」
春夏は、自分の領域の性質について思い出した。
呪力を帯びたあらゆるモノは春夏の所有物判定になり、モノによっては操作ができる──そう、全て春夏の所有物という判定になる。
ましてや、調伏中の式神は「完全に術者の手から離れて自立行動中」になっているという面もある。
要するに、主人が居ないフリー状態の式神が彼の領域に巻き込まれた事によって、強制的に、式神の設定が「主人は領域の主である渡辺春夏」といった方向で書き換えられてしまったのだ。
それに気付き愕然とする伏黒──しかし、同時にある事に気が付いた春夏は、2つの疑問が浮かぶ。
「いや、待て。やっぱちょっとおかしいぞ……」
『へ?』
「確かに──俺の領域に入れた全ての呪力を帯びたモノは、俺の所有物判定になる。だけど、それは、あくまで『領域を展開している間』だけなんだよ。だから領域を解除した今では、当然だが伏黒は俺の所有物じゃないし、伏黒の術式も強化されてない。つまり『魔虚羅の主人は渡辺春夏』という設定は、俺が領域を解除した瞬間、白紙に戻ってるハズだ。だから、魔虚羅の主人は『居ない』ハズだ……!」
『ううん、違うよっ! マコラのご主人は、ご主人だけなの! マコラ、頑張って「適応」したもん! だから、マコラのご主人はご主人なのっ!』
「…………??」
伏黒は、その端正な顔に深々と皺を刻み、事態を理解しようと努めていた。しかし理解できるはずもなく……。
「それともう1つ。今になって気付いたけど、俺と魔虚羅の間には相当な力の差があるハズだ。呪霊や人間と同じ判定なら確かに動きを封じられるけど、思うに、式神は呪物寄りの判定じゃなかったのか? どうしてかなり力の差がある魔虚羅に、俺の領域の必中効果が発動した?」
『えっとね、マコラって、パパの術式から生まれた式神だったから。パパが、必中効果の対象だから、そうなったの。「式神の主人」と「由来」は多分、違う判定なんだと思うの……』
「???」
『んーと、んーと……あうぅ……主人は居なくても、パパの術式から生まれたから、マコラも対象でっ! だからマコラは、ご主人の「敵」として、動けなくされちゃったのね。でもマコラ、それ嫌だったから頑張って「適応」したら、パパじゃなく、ご主人の式神になったの!』
「あー……」
「分かったような、分からないような……」
魔虚羅の説明がよく分からず春夏も伏黒も揃って首を傾げる。すると、笑い疲れたらしい五条悟は、涙を拭って、魔虚羅の代わりに言葉を続ける。
「つまりさ、簡単に言うと、魔虚羅に組み込まれたプログラムがバグっちゃったんだ。仮にフリー状態だろうと、魔虚羅は結局、恵の術式の産物でしょ? だから、どう足掻いても、結局は恵の式神なんだ。そういうプログラムが組まれてるんだ。──そこに春夏の領域というイレギュラーが加わったんだね」
「俺の領域……?」
「春夏の領域は端的に言えば『呪力を帯びたモノを強制的に己の所有物にする』んだよね。魔虚羅は、その対象になった。──するとどうなると思う?」
「……んー……伏黒、分かる???」
「『伏黒恵の
「ピンポーン、そのとーりィ! だけどその場合、命令系統がより上位のハズの『術者の式神』が優先されるハズなんだけど──多分これは、恵と春夏の呪術師としての力量の差が現れた結果、なのかな? フツーなら覆らないハズの命令系統が、春夏の領域バフもあってなのか、恵ではなく、春夏に傾いた。そして最悪な事に、魔虚羅は『適応』能力を持つ。もう……言わなくても分かるよね?」
「命令系統がぶつかり合い、矛盾が発生。通常なら術者が優先されるハズが、バフやら何やらの要因で春夏先輩に傾き、魔虚羅はそれに『適応』した──それによって命令系統が春夏先輩に書き換わった。そしてその『適応』の結果、領域が解除されても、春夏先輩が主人である設定はそのまま……と?」
「うん。僕はそうだと思ってるよ。けど、並大抵の
『適応』じゃあ、命令系統がぶつかり合うレベルの大きな矛盾を打ち消し、しかも根本から書き換えるなんて大事件は起こらないと思うんだけどな……」
「「ッッ!!」」
春夏と伏黒は、同時に思い出していた。魔虚羅が幼女魔虚羅に変身する前、どんな激しい「適応」をしたのか……。
法陣が断続的に回転するのが通常の適応。しかしあの時の適応は、ガコガコとバグを起こしたような凄まじい挙動を見せていた。
そう、アレがまさに「発生した矛盾を打ち消し、根本から設定を書き換える為の適応」だったのだ。
バグのように見えた法陣の謎の挙動は、文字通りバグによる産物だった──というワケだ。
「命令系統が俺に書き換わった理由は、分かった。けど、おかしい点は他にもあるんだ。五条先生なら分かるかな……」
「ん? なんだい?」
「『伏黒の式神』と『春夏の式神』といった2つの状態が1つの式神に付与されるのは、有り得ない。だから魔虚羅はバグを起こし、バグを解消する為に適応した。それはギリギリ理解した。でも、それを言うなら玉犬もバグらないとおかしいと思うんだ。伏黒は俺の領域内で玉犬も出したけど、バグってる様子は微塵も無かった」
「……ふむ。確かに、それを聞くと妙だね。魔虚羅、原因は分かるかい?」
『マコラがガンバったからだよっ!』
「「…………」」
「ハハッ、確かに頑張ったんだろうね。──あと、僕が思うに、玉犬と魔虚羅にはシチュエーションの違いもある。それも、『バグ』が起きた要因として有り得るんじゃないかな?」
「シチュエーション、ですか……?」
「調伏しているか否かか? いや、魔虚羅の適応の仕方を見るに『敵対関係にあるかどうか』かな?」
「多分ソレだ。春夏も恵も、玉犬は味方、魔虚羅は倒すべき敵──そう認識していた。だから、所有に関する命令系統に同じ矛盾は起きていても、式神の稼動そのものには、特に影響が起きないんだよね。でも魔虚羅は、2人の所有物にして敵でもあった。春夏の領域の必中効果で、式神の稼動そのものに、多大な影響があったんじゃない?」
「「!!!」」
「そのせいで、本来は表に出ない『所有者バグ』が表に出た。結果として、魔虚羅は、そのバグを解消する為に『適応』せざるを得なくなったんだよ」
「つまり、厳密に言えば玉犬もバグっていたと?」
「そーそー。例えば、ゲームでもよくあるでしょ?
『特定の状況になると発生するバグ』ってヤツさ。本質的には全てのゲームがそのバグを有している。でも特定の手順を踏まない限り表に出ないバグだ。身に覚え、あるんじゃない?」
「「あぁ〜〜〜……」」
「いや、あくまでも僕の仮説だよ? 今の魔虚羅はそのバグを解消しちゃってるから、六眼でも状態が見抜けない。だけど、この状況証拠から察するに、そうなんじゃないかな──ってね。最低限の辻褄は合ってるんじゃない?」
「合ってるように思えますが……腑に落ちません」
「てか五条先生の仮説が合っていようがいまいが、もはや考える気力が無いや。てか、謎がまだある。俺の極ノ番、当たれば勝ち確みたいなモンなのに、どーして瞬時に勝ち確にならなかったんだろ……」
『それもね、マコラがガンバったからだよっ!』
「「………………」」
えっへん、と胸を張る魔虚羅を見て、もう全てがどうでもよくなってしまった春夏と伏黒は、大きな大きな、それはもう大きな溜め息をつき荒れ果てた野球場の片付けを始める事にした。
◆
「──五条先生」
「おっ。片付けお疲れ〜、恵ィ。どうしたの?」
「俺の魔虚羅、どうなってしまったんでしょうか? もう、召喚すらできないんでしょうか……?」
「うーん。どうだろうね?」
「どうだろうねって、アンタ、視えてるだろっ!? 六眼で、子供になった魔虚羅をジッと見ていた!」
「あははっ、まぁ落ち着きなよ。──ま、これは、考えても分からないだろうしね。六眼で視た結果を教えてあげよう」
魔虚羅は、伏黒にとって切り札だった。命懸けで倒したい敵が現れた時、いつだって伏黒は魔虚羅を召喚しようと
それなのに、その魔虚羅が、春夏の元に行った。要は、伏黒は「切り札」を失ってしまった。普段は冷静な伏黒が取り乱すのも仕方がない。寧ろ春夏や魔虚羅に当たらないだけ、マシとも言えた。
それが分かっていたからこそ、五条悟は直接的に自分の六眼で見抜いた「真実」を教える事にした。
「魔虚羅の『適応能力』って、本当に凄まじいね。もしアレが戦闘に活かされたらと思うと、僕でさえゾッとする。六眼持ちの無下限呪術使いを倒した、なんて話も、本当の本当なんだろうねェ」
「何を言って……」
「結論から言う。魔虚羅は『己の存在そのもの』を根本から書き換えてしまったんだ。『十種影法術の式神の1つ』ではなく、『八握剣異戒神将魔虚羅の能力を持つただの式神』へと……ね……」
「な……ッ!?」
「春夏の領域がそれだけ超強力で、練度が高いってコトだろうね。極ノ番は、適応したんだかイマイチよく分からない説明だったけど。つまり、あの子供みたいな魔虚羅は、魔虚羅であり魔虚羅ではない。魔虚羅の能力を持つ『何か』でしかない。そして、既に、十種影法術の産物ではなくなっていたよ」
「……完全に、俺の手から離れたんですね」
「多分ね。『根本から存在を書き換える』ってのはそういう事だからね。──逆に言えば、破壊されたワケでもなければ、調伏した・してないの問題すら排除されたワケだからさ。恵の『十種影法術による魔虚羅』は、これからも召喚できると思うよ?」
「……!」
「ところで、なんで野球場で魔虚羅を召喚したの? 僕、そっちの方がずっと気になってたんだよね」
「うッ。……じ、実は……魔虚羅調伏の予行練習を、春夏先輩にお願いして……」
◆
「────ったく、魔虚羅ってば、な〜んでロリ化しちゃったんだか……」
『ろ、り……? って、なに?』
「女児……あー、つまり、小さい女の子ってこと」
『マコラ、女の子なのかな?』
「そうじゃん? 声とかも普通に幼い女の子だろ」
『でも、マコラ、
ピラッと恥ずかしげも無く捲り上げられる、白いワンピース。しかしパンツは履いておらず、しかも小さいながらも確かに「男の象徴」が付いていた。
「ファッ!?」
『あ、でも、女の子のも
「見た目は普通に女児なんだよなぁ……なんでこんな妙ちくりんな『適応』しちまったんだ……」
『だ、だって……ご主人が、マコラに痛いの、全然、やめてくれないから……』
「へ??」
『「ご主人が攻撃を嫌がる姿」に適応しようって、マコラ、思ったの。途中でやめてくれたけどね!』
「あ……」
声が枯れた男児のような声の時には、刀から手を離さなかった。しかし女児のような声になった時、まるで妹を虐めているような錯覚に陥って、つい、春夏は攻撃を中断してしまった。
あの「声の移り変わり」は、彼が攻撃を中断するであろう適応先を模索していた、という事らしい。
そして春夏は、まんまと女児ボイスの時に攻撃を中断した。それにより魔虚羅はその形で適応を終えそれに合う姿を形成し──
「なんか、ごめんな。痛かったろ?」
『痛かった! でもすぐ治るし、ヘーキだよっ!』
「……そか……」
『マコラね、これからずっと、ず〜っと、ご主人のためにガンバるから! だから、よろしくねっ!』
「ん……よろしくな」
白くて長い前髪の隙間から、金色の目が覗いた。その幼くも柔らかな視線にドキリと胸が高鳴る春夏だったが、それを押し殺し、満面の笑みを浮かべる彼女の頭を優しく撫でた。
そしてこの日から、小学生の娘を連れ歩く父親、または兄のように、魔虚羅を連れて歩く春夏の姿が高専内で目撃されるようになった────。
オリジナルキャラ(?)プロフィール⑥
氏名:マコラ
性別:なし(両性具有)
種族:式神(自律型呪具)
CV:長縄まりあ(あくまでイメージ)
十種影法術最強の式神・八握剣異戒神将魔虚羅が、バグのような数の適応を経て、自分自身の存在をも根本から書き換える形で「適応」した姿である。
もう、魔虚羅であって魔虚羅ではなくなっている。
もはや「魔虚羅の能力を持つ何か」と言える。
「攻撃を防ぐ為の適応」をしている最中に、春夏が攻撃をやめる適応パターンを偶然発見する。それが女児のような声を発する事だった。
それにより適応後の姿は女児寄りになるよう自分を再定義し再構築。そうして生まれ変わった魔虚羅は元の姿からは大きく掛け離れた「マコラ」に変身。
聞こえる言葉が同じだから混同されているものの、彼女は自分を「マコラ」とカタカナ表記で自称し、伏黒などの第三者は「魔虚羅」と漢字表記で呼ぶ。
語尾に「マコ」は付けないマコ。
繰り返しになるが、両性具有である。
退魔の剣も性器も、任意で引っ込めたりできる。
つまり、ロリもショタもふたなりも可能。
あらゆる性癖への適応!!
最強の後出し虫拳!!
来週に更新する予定でしたが、今週でええでしょ!
と思ったので1週間だけ繰り上げました。
上のプロフ見てからR-18版に進んでくださいませ。
https://syosetu.org/novel/385773/2.html