とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第24話:反転術式も万能じゃないんですよ。

 

「伏黒〜」

 

「春夏先輩……どうしたんです?」

 

「片付けも終わって一息ついたろ? 家入さんとこ行こーぜ〜」

 

「あぁ……確かそんな話もしてましたね」

 

「色々あってすっかり忘れちまってたよな、へへ」

 

(この人、妙にスッキリした顔してんな。やっぱりさっきのアレ(・・)か……)

 

 魔虚羅をマグマの海に落とした時、マグマに適応済みの魔虚羅は、バシャバシャとマグマの海の中を泳いだ。しかしその際に、春夏も伏黒も、マグマの飛沫を受けてしまった事で全身のあちこちを点々と火傷していた。

 一つ一つの火傷は小さいものの、皮膚が突っ張るような感覚や、そもそも、全身に小さな点のような火傷があるのは見苦しい。故に春夏ら2人は校医を務めている家入硝子に治療をしてもらおうと、外が明るい内に保健室に向かう……が。

 

「火傷は治せないよ」

 

「「えっ」」

 

「火傷とは熱による皮膚、要はタンパク質の変性。基本的に不可逆なんだよ。料理で言うと、ゆで卵を生卵に戻すようなものかな。血とか細胞とか失った部位を呪力で補完するとかそういう問題じゃない。だから、すまないが、ジャンル的な問題で、火傷は反転術式で治療できる範囲を超えているんだ」

 

「マジすか……まぁ……それなら仕方ないですね」

 

「いやいや待って、待ってくださいよっ! 皮膚が突っ張る感覚、気持ち悪くて無理なんですけど!? 言わなかったけど、歩く度にそんなんだから、実は割と本当に辛くて──てか、斑点みたいにまばらに火傷したから、服を脱ぐ度に見臭(みぐさ)くて溜め息が出て仕方ないんです……」

 

「どうしてもと言うなら、治療することは可能だ。皮膚移植という手段になるが、良いか?」

 

「うっ……!?」

 

「皮膚の色が違えば、ブラック・ジャッ〇よろしくあちこちがツギハギに見えてしまうが。でもそれは斑点のようなその火傷と大差ないんじゃないか?」

 

「……それは無理……です……見栄えも悪いし……」

 

「なら、潔く諦める事だな」

 

「うぅ、マジかー……」

 

 春夏はその場にへたり込んでしまった。春夏には反転術式が使えない。普段は反転メリケンサックやその他幾つかの呪具を駆使して、回復させている。そしてそもそもそんな手間を負う事が無いように、防御に全振りするのが春夏の戦闘スタイルだった。

 

 しかし今回、魔虚羅にいつもの「耐呪ノ仮面」が通じず、通じないなら視界を覆うだけ無駄だな、と仮面を外し、その結果、マグマの飛沫を浴びた事で火傷してしまった。

 あのマグマは漏瑚の術式に由来するマグマなので仮面の防御の対象であった。自業自得だ、と言ってしまえばそれまでだが、仮面を外したせいで余計な火傷を負ってしまったのだ。

 

 なんなら仮面を装備した状態で伏黒の前に立てば春夏が伏黒の盾になる事もできた。伏黒のことは、守ることができたハズだった。

 そういう「たられば」が尽きないからこそ、彼はどうにか火傷を治癒させて、余計な「たられば」を考えてしまう自分をリセットしたがっていた。

 

「……家入さん、1つだけ質問いいですか?」

 

「なんだ?」

 

「他人から反転術式の治療を受けたことないから、よく分かんないんですが、反転術式による治療って人によって効率が違ったりするモノなんですか?」

 

「そうだな。呪力量と出力の問題もあるし。あぁ、それと練度は外せないな。練度が高いと、やはり、それだけ治療のクオリティも必然的に高くなる」

 

「校医をやってるくらいですし、家入さんは……」

 

「2年の乙骨も他人に反転を使えるが──私の方が彼より『練度』に関しては上だと自負しているよ」

 

「じゃあやっぱり、家入さんに治療をお願いしたいです。領域展開しますのでよろしくお願いします」

 

「は???」

 

(呪力の無駄遣い過ぎんだろ……)

 

 保健室内にて、春夏の領域が展開される。春夏の領域の結界には春夏、家入、伏黒の3人が、一気に閉じ込められてしまった。

 

「な……どうして領域を展開した!?」

 

 春夏の領域について何も知らない家入は、焦りを露わにする。伏黒が春夏の領域に入るのは二度目、それも数時間ぶりなので、焦る事は殆ど無かった。

 呪力切れを起こしかけて鼻血を出している春夏、しかし治療を受けるまで倒れる事はできん──と、家入の問いをも無視して領域に集中していた。

 そんな様子を見て、伏黒が春夏の代わりに家入に説明をしてくれた。

 

「簡単に言うと、春夏先輩の領域は、味方にとって絶大なバフになるんです。大型犬サイズの玉犬が、教室に収まらないようなサイズになったりします」

 

「それがどうして、今ここで領域を展開する理由になるん──いや、まさか……?」

 

「ええ。先輩の領域内なら、家入さんの反転術式も超強化されている。呪力効率にも、凄まじいバフが掛かりますから。なら、普通は治療できない火傷も治療できるハズ──と、そう踏んだのでしょう」

 

「だからって、そんな点々とした小さな火傷の為にわざわざ領域を展開するか……??」

 

「できるだけ、早めに治したいんじゃないですか? 先輩、彼女持ちだから」

 

「…………あー。裸を見られる(・・・・・・)機会がある(・・・・・)、と?」

 

「まぁ……簡単に言えば」

 

「ははッ。本気でそう考えてるなら笑っちゃうね」

 

 流石にそこまではあんまり考えてねェよ──と、息も絶え絶えな様子で心の中でツッコミを入れる。領域を安定させるのに春夏の意識のリソースの9割以上を割いているので、聞くことはできても返事をするのは極めて苦痛であった。

 

 深夜、魔虚羅相手に領域展開──そして極ノ番の使用。更には今回の領域展開。呪力が枯渇するのも仕方ないような呪力の運用の仕方だった。

 しかもあの極ノ番、普段は瞬時に終了するのに、魔虚羅の「適応」のせいで無駄に時間が掛かった。結果としては失敗、というより中断したというのに呪力の消費は普段よりも激しかったのだ。本当に、春夏にとっては不都合窮まる酷い話である。

 

「おっと。時間が無さそうだね」

 

 ────と、呪力が枯渇しかけて鼻血を出して、目の焦点すら危うくなってきた春夏を見て、家入は反転術式を使用する。

 

「す、げ……」

 

「……驚いたな。呪力効率や出力が上がっただけで、こんなにも変わるものなのか? いや、こんなにも結果が変わる程、効率や出力が段違いに上がったと見るべきか……」

 

 冷静な2人でも驚きが隠せない程に、目に見えて反転術式の効き具合が段違いに変わった。もちろん良い方向に、である。

 火傷によって白っぽく変色し、ツルツルの質感になってしまった皮膚は、カラースプレーなどで塗装したように瞬時に元通りの皮膚の色に戻り、組織が変化させられたことでツルツルの質感も消え失せ、元通りのハリのある皮膚に戻った。

 不可逆と思われた変化が、リセットされたのだ。

 

「治ったよ、渡辺。まさか治せると思わなかった。もう、領域を解除していいよ」

 

「……ウッス……」

 

 領域が解除されて、風景は保健室に戻ってくる。息が詰まりそうな空間だっただけに、家入と伏黒は揃って大きく息を吸い、吐く。

 

「ホントだ、治ってる……ありがとうございます」

 

「礼を言うのはこっちだよ。治せないと思っていたジャンルの怪我も、本当は治せる可能性があった。そう気付かせてくれた。私もまだまだ、自己研鑽が足りなかったな」

 

「そんな事は──だって俺の領域、ポテンシャルを実力以上に引き出せるってモンなので……」

 

「実力以上に……」

 

 確かにそうだ、と伏黒は深夜の魔虚羅との戦いを思い出す。教室より大きいように見えるあの巨大な玉犬は、伏黒の実力を大きく超越していた。

 いつも通り「大型犬サイズ」を出す感覚で、あの巨大な玉犬が出現した。普段通りの玉犬を出すにはそれこそ小型犬を出すように、使用する呪力を少々絞り、その上でやっといつも通りのサイズだった。

 

「それでも、現状が実力不足な事には変わりない。だが、もし私だけで治療不可能な患者が来た時──その時は、手が空いていたらで構わない。渡辺にも手伝ってもらえると助かる、かな」

 

「!」

 

「今の感じからすると──そうだな、瀕死状態からすぐに立って歩ける程度には回復できると思うぞ。戦える状態にまで回復できるかは分からないが」

 

「「そんなに!?」」

 

「あぁ。1つ1つの火傷が小さかったからなのかは分からないが──例えるなら、紙で指を切ったのを治すくらいの感覚で治癒できたぞ。本来は治せないハズの火傷が、だ」

 

「「……ッ!?」」

 

「だからもし、渡辺の領域で、瀕死の人間を助けるような感覚で反転術式を使えば、瀕死状態からすぐ立って歩ける程度には回復できるだろう、といった見込みだ。あくまで見込みだからアテにはするな」

 

 確かに春夏の領域にはそれ程までのバフを掛ける効果がある。しかしまさか、そこまで凄まじく治癒できてしまう程なのか──と、春夏本人ですら頭にハンマーを食らったような衝撃を覚えていた。

 

「──手ェ空いてない時でも、いいですよ。なんかあったら言ってください。ソッコーで終わらせて、家入さんの補助に行きます。そしたら少しくらいは助けられる人も増えるんでしょうし」

 

「いいのかな? 校医と言っても暇じゃあないよ。下手な事を言うとコキ使われるかもしれないよ?」

 

「忙しいのは見りゃ分かります。だって家入さん、目の下にエグい隈があるから」

 

「! ……確かにそうだが、女性に対して失礼だとは思わないのかな?」

 

「あッ。……すみません、彼女……茨木童子に接する感覚で、つい……」

 

「ふふ、冗談だ。だがそのデリカシーの無さは少し治す努力をした方がいいね。あの五条と同レベルに見られても仕方ないよ?」

 

「それは勘弁です。アレと同レベルとか、死んでもごめんだ。強さって意味でなら同レベルになりたいけど、デリカシー部門でソレはもはや死刑宣告だ」

 

「ハハッ。中々面白いヤツじゃないか、渡辺春夏。呪具屋の出身だと五条からは聞いていたが、案外、呪術師に向いているんじゃない?」

 

「これほど嬉しくね〜褒め言葉も無いッスね……」

 

 こうして、校医・家入硝子との顔合わせを無事に済ませた春夏は、火傷もキレイに治療してもらい、何かあったら彼女を手伝うという話も取り付けた。

 そう遠くない未来、本当にそうなるとはまだ誰も予想していなかった。




漏瑚のカッコイイ挿絵が欲しくて、依頼できそうな絵師さん探してるんですけどもね、中々、良い人が見つからんですね。
漏瑚の活躍ポイントで挿絵を使いたいんだ……。

漏瑚好きなんですよ。どれくらい好きかって?
魔虚羅と同じくらい好き〜。

オラッ、活躍しろ!
特級の中でも上澄みだって事を猿共にわからせろ!
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