とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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今日から4月末まで渋谷事変となります。
作者としては、やっと本番が始まった感あります。
気長にお付き合いくださいな。



第4章:渋谷事変
第26話:渋谷事変① 開戦


 

「渋谷ハロウィンを自粛なんかするかァ!!」

 

「俺にとっちゃ年一のストレス発散の場なんだ!」

 

「「俺が! 俺達が! 渋谷ハロウィンだ!!」」

 

「いやどーゆー意味やねん」

 

 10月31日、ハロウィン当日────。

 当初の予定では「上」が、つまり呪術界の総監部という連中が、日本政府に働きかける事によって、渋谷ハロウィンを中止させる手筈だった。しかし、やはり中止は無理らしく、政府は「自粛」を発表。

 そして現地には、自粛ムードなんぞクソ喰らえと言わんばかりに、寧ろ逆張り精神を発揮させたのか例年よりも多い参加者が渋谷中にひしめいていた。

 呪術高専の関係者は3人1班という形で、各地に点在している補助監督とやりとりをしつつ、現在は待機している。

 そしてそんな渋谷に、春夏もまた到着していた。

 

「……相変わらずスゲェ人数……」

 

『ご主人、来たことあるの?』

 

「いや、テレビ越しに見た事あるだけだよ。京都に住んでたからな。バカ騒ぎする為だけに、わざわざ東京までは来ないさ。時間と金の無駄でしかない」

 

『そっか、そーだよね!』

 

 などと、尤もらしい答えを返す春夏。マコラも、主人がサラリと答えた言葉に納得するが、ニュッと顔を出した茨木童子が発したその言葉に、頭の翼をバサバサと揺らして困惑する。

 

『ハロウィンにかこつけて、私と、コスプレエッチしてたからでしょう♡』

 

『ふぇっ!?』

 

「子供に変なこと吹き込むなよ……」

 

『じゅ、呪霊とエッチなんてホントはダメだよっ! りんり? 的に? 確かに昨日もシて──むぐっ』

 

「それはいいから、マコラは俺が呼び出すまで影で待機してなさい……」

 

『はぁ〜い……』

 

 少々頬を膨らませ不貞腐れた様子で、ズズ──と地面に映る春夏の影の中へ沈んでいく。既に彼女は十種影法術の式神ではないというのに、性質だけはあの魔虚羅を受け継いでいるから、奇妙なものだ。

 そして、マコラと同じように、茨木童子のことも自身の中に沈ませ待機命令を出す。春夏はというとコンビニで適当なモノを購入して、簡単に腹拵えをしようとするが……。

 

「おぉ、渡辺の!」

 

「? ……あっ!? ななっな、直毘人(なおびと)さん!?」

 

 白髪、こよりのように細く尖った口髭が特徴的な和服の老人──禪院家の26代目当主、禪院直毘人。血縁的にはかなり離れてはいるが、春夏の親戚筋の1人である。

 禪院家に応援を頼んでいる、という話は五条悟に聞かされていた。それがまさか禪院家ご当主御自ら渋谷に来るとは思わないだろ──と、春夏は内心、冷や汗をかきまくっていた。

 

「ご無沙汰しております!!」

 

「息災であったか」

 

「お陰様で……」

 

「時に、春夏よ。呪霊に襲われ、店舗が破壊されたそうだな? しかも、五条悟に勧誘され、東京校に来たと聞いたぞ??」

 

「め……面目ございません」

 

「全くだ。禪院に援助を求めるならばいざ知らず、よりによって五条に縋るなど……!」

 

 分家の分家くらいの立ち位置の渡辺家(ウチ)が、本家に援助なんて求められるワケねーだろ!! ──と、春夏は内心キレている。

 

「縋る……というか、半ば強制でしたけども……」

 

「ほう?」

 

「店舗の修繕に、当面の生活基盤──私が東京校に出向く事で、ある程度、五条の方で融通を利かせてくれるという話で。情けない話ですが、それに目が眩んでしまいました。……申し訳ございません」

 

「全く、気に入らん。宿儺の指1本を取り込んだ、その程度の呪霊に負けたのも気に食わん。貴様──道具屋だからと、鍛えていないワケではあるまい? いや違うな、お前の力量を俺が知らないワケがないだろう? 何故、その程度の呪霊に不覚をとった? 指1本分の呪霊など、お前なら欠伸ついでに勝てる相手だと思うが?」

 

「買い被りです、私にそんな大それた強さは……」

 

「ならば弱くなったのか? 親父殿が居なくなり、自動的に家を継いだからと、手を抜いているのか? 幼少の頃とはいえ、厳しめに鍛えただろうに」

 

「…………………………昼寝を、少々……」

 

「……ん?」

 

「あの雨の日──商品や私物の手入れの最中、店を閉めているのをいい事に惰眠を貪っておりまして」

 

「だみ、ん……??」

 

「しかしこれも、私の修練が及ばぬが故──渡辺の名を継ぐ者として、情けない限りでございます」

 

「──ブワッハッハッハッハッハッハッハッッ!! 寝ていた、寝ていたと!? せめて『厄介な術式を持っていた』だの言い訳をするならばいざ知らず、馬鹿正直に『寝ていた』と言ってのけるとはッ!! 相変わらず裏表の無い子供だ!」

 

「あ、あの……その……」

 

「あぁ、親父殿や弟の事は残念に思うが──春夏、お前は昔のままで安心したぞ。禪院ではなく五条を頼った件については、そうさな──このコンビニでビールを奢れ。不義理を働いたその件については、ビール数本で、手打ちにしようではないか」

 

「あッ……ありがとうございますっ!!」

 

「これからは、禪院を頼る事も視野に入れなさい。お前は少し、他人を頼らなさすぎるきらいがある。親父殿の躾、いや、扱い(・・)のせいかも分からんが──ともかく今のお前は、孤児に等しい。戦災孤児だ。そんな子供は、他人を頼ることも、立派な選択だ。その辺のことを、よく、覚えておきなさい」

 

「…………ありがとうございます。肝に銘じます」

 

「ウム。ところでそのビールについてだが、銘柄はやはり……」

 

「あ、ハイ……」

 

 唐突に訪れた試練のようなモノを無事乗り越え、そのままの流れで禪院家当主にビールを奢らされた春夏。妹──秋冬の事情だって知っているだろうに頑なに「弟」と呼ぶあたり、やはり禪院は禪院かと冷めた気持ちに襲われつつ、それでも、頼るという新たな選択肢を授けられた事に関しては、直毘人に心から感謝していた────。

 

「渡辺家相伝の『霊装呪法』──使い方によっては特級にも届きうるだろう。俺は、いや、禪院家は、そう見ているが?」

 

「そんな事は無いですよ。呪具を、呪物を生成する為の、しがない術式です……」

 

「フンッ。そんなしがない術式で特別1級術師まで上り詰められては困る」

 

「えぇ……」

 

「禪院家と渡辺家は、一応の繋がりはあるものの、代を重ねる毎にやはり関わりは希薄になっている。そんな中で審査を受けようと、御三家を見る目では見られまい。一重に、お前と親父殿は実力で1級を掴み取ったと言える。よく頑張ったな、春夏」

 

「……ありがとうございます」

 

「そのままの勢いで特級になってしまえ! お前が特級になれば、禪院家関係者から初の特級術師だ! ハッハッハッハッ!!」

 

「お戯れを……。直毘人さんには手も足も出ないし、直哉さんにも負ける私ですから、特級などとは……。そもそも特級の条件も知りませんし」

 

「いつの話をしている。直哉が18、春夏が10の頃の話だろう。いやぁ懐かしい、親父殿がウチに挨拶に来る度に『戦って』いたなぁ?」

 

 否──春夏が一方的に絡まれていただけである。そしてその理由は、勿論「術式について」である。当時の春夏は、まだ幼く「戦いの役に立たない術式だから」と認識していた。しかし、実の所──。

 

「他の連中のやっかみになど耳を貸すな! お前はお前の道を歩け! 欲のまま勢いのままに進んで、さっさと特級になってしまえッ!」

 

「直毘人さん……」

 

「その上で、禪院に婿に来てくれれば助かるがな? 互いの家に箔が付くだろう?」

 

「あ、私、許嫁が居るんでお断りします」

 

「何ッ!?」

 

 ◆

 

 ────その後、19時丁度、渋谷に帳が降りた。どうやら敵は、呪胎九相図の寝返りによって作戦が人間側に筒抜けになっても尚、予定通りに、作戦を決行したらしい。

 まだまだ序盤であるが故に、判断を下すには早計かもしれないが、大枠は脹相から聞いていた通りに進行しているらしかった。

 五条悟の密命によって遊撃隊を任された春夏は、禪院直毘人と別れてから、この騒動のメイン舞台になりそうな渋谷駅の近くにて、コンビニで購入したパン類を口に運びつつ、帳を眺め、のんびりと待機していた。

 

 19:15──五条悟、現着。

 やはり敵の出方を事前に知っていたからだろう。仮称:渋谷事変当日だというのに、直前まで緊急の任務が入っていたようだったが、それでも五条悟の行動は極めて迅速だった。

 

「あれっ。春夏、渋谷駅に居たの?」

 

「俺の呪力センサーが鳴ってる。ここに居るぞ──特級呪霊が、少なくとも2体だな。あと1級とか、準1級くらいが数匹かな……」

 

「へえ。因みに個体識別できたりするワケ?」

 

「火山頭と──俺は直接的に見てないが、この少し優しくてトゲが無い丸い感じは──交流会で暴れた特級呪霊だと思う」

 

「あー、あの雑草か。やっぱりアイツ精霊みたいなものなのかな。呪霊って感じはあまりしないよね。気配を隠すのも妙に上手かった。この僕からすらもアッサリ逃げおおせたからね」

 

「六眼からアッサリ逃げるは草超えて花が咲くわ。とんだバケモンじゃねーか」

 

「そいつ、文字通り花を咲かすからウケるよね〜。火山頭を尋問中だったのに急に花が咲くからさぁ、思わず僕も悠仁も見惚れたし」

 

「……マジ?」

 

「本気と書いて大マジさ」

 

 ──などなど、少々の雑談を交わして、五条悟は渋谷駅構内へと入っていく。敵も、ここまで五条の行動が早いとは思わんだろ──と安心していた春夏だったが。

 それからあまり時間が経たないうちに、渋谷に、今以上の「異常」が起きたことによって、眠気すら覚えていた彼の目は、パッチリ開かれる事になる。

 

 ◆

 

「……呪霊……じゃねぇな……」

 

 殆ど人型、または動物のように四足歩行の何かが非術師を襲っている。呪力をより深く感じ取ろうと目の前の「何か」を見据えた春夏は、ああ──と、天を仰いだ。

 この目の前の「異形」は、人間だ。人間だった。姿形が明らかに人間のそれではないが、それでも、纏う気配から何となく伝わる。

 ──これが、真人の作り出す「改造人間」だと。

 自身と同じ人間だとは思えぬ異形、一瞬だけ怯む春夏だったが。

 

 そう数は多くない。非術師と改造人間の比率は、せいぜい10:1程度。近くに真人が居るような、そんな気配はしない。恐らく偵察用か何かとして、もしくは、単なる捨て駒として放たれたのだろう。逃げ惑う人間を見て楽しんでいそうな真人の顔が、春夏の脳裏に過ぎる。

 

「……よし、殺すか」

 

 助けられないのが確定している。反転術式では、どう足掻いても肉体しか治せない。魂は治せない。それは春夏の領域に家入硝子を引き入れたところで変えられない現実。

 治療する術が無いのなら、楽にしてやるべきだと考えるのが人の情というもの。

 まだ子供の虎杖悠仁でさえ乗り越えた壁。大事な妹すら失っている今の春夏には「人殺し」でさえ、指で障子に穴をあけるが如く、容易に突破が可能な壁だった。

 

「人間と改造人間が入り交じってるのがな。しかも改造人間、人間にも見えてるっぽいな。まぁ、形は違えど人間らしいしな……」

 

 溜め息をつきながら、アーチェリーの弓と、矢を取り出す。春夏の量産型呪具「矢」シリーズの中でトップクラスの使用率を誇る「追尾」はただでさえ高い春夏の命中率を更に高めてくれる。

 改造人間だけがこの場にいれば「貫通」を使って一撃必殺を狙えるのだが。

 

「チマチマ狩るの面倒過ぎるな。やっぱ狗巻くんの術式も呪具化させてもらえば良かったかもな……」

 

 狗巻家の相伝の術式、呪言。恐らくは春夏の術式ならば呪具化すらできるだろう。しかし、狗巻家の呪言には「反動」がある。

 恐らくは、彼の術式を呪具化したところで、すぐ壊れてしまうかもしれない。そうなると、わざわざ領域1回分の呪力を消費する意味も薄い。だから、準備期間のうちに狗巻に頼み、術式を呪具化したりしなかったのだ。

 しかし、いざ現地に来てみれば、この有様。多少呪力を無駄にしようと、即座に壊れるのを織り込み済みで、呪具を製作しておけば良かった──春夏は久しぶりに後悔した。

 

「アソ、ボォ……アソ……」

 

「ひ、ひぃっ!?」

 

「はい、ビビるのもわかるけどとりあえず今は避難してくださーい。駅に入らなきゃそれでいいんで」

 

「ばっ、バカ言うなよ! 俺は電車で帰るんだよ! 駅に行かないでどこに逃げろってんだ!」

 

「そ、そうだ! 駅だ、駅に行かないと!!」

 

「けど、駅に人間が吸い込まれたって聞いたぞ!? だから俺らはここで見えない壁の前に居んだろ!? バカか!?」

 

「知るかよ! 人間が吸い込まれるとか、麻薬でもヤッてるヤツの戯言だろどう考えても! 俺は駅に行くぞ!!」

 

「あっ待てよ! 俺も駅に行く!!」

 

「俺もっ……」

 

「私も!!」

 

「あーあ……死んでも知らねーぞ……」

 

 春夏が「追尾」の矢で改造人間の動きを封じて、または鈍らせ、襲われている非術師を避難させる。それが現在の春夏の考えだった。

 しかし、非術師達のなんと愚かなことか。駅から離れろと伝える春夏の話をまるで無視し、我先にと渋谷駅へと向かい始めてしまった。

 

 都会人は、電車頼りの生活を送っている。確かに車が必須な田舎人より「歩く」だろうが、都会人の言う「歩く」とはそれこそ乗り換えの事だったり、駅の近くの建物に向かう時ばかり。それが大半だ。少しでも離れればやはりタクシーやバスなどに乗る人間が多い。

 だから、そういう文明の利器に頼り切った生活をしているせいで、こういう非常時ですら、己の足で避難する──そういう発想には至らないらしい。

 文明の利器に頼るのは悪くない。それにしたって通常時と非常時の区別くらいは付けろよな──と、停電時も支払いができる現金派の春夏は、思った。

 

「さて、と。邪魔な一般人は駅に消えたし──」

 

「センザイィィ……スポンジィ……」

 

「ワケワカメェェ……」

 

「デスシ……オスシィ……ゼクシィ」

 

「ハンバァァァァァグ!!」

 

「ヤーーーーーーー!! パワーーー!!!」

 

「ヌルポ」

 

「ガッ」

 

「チクワダイミョージン」

 

「キモォッ! キモッキモッキモォォォ!!」

 

「まずは改造人間(オマエら)から殺し(はらっ)ていくか」

 

 渋谷駅前にて、春夏の改造人間狩りが始まった。

 そしてそれとほぼ同時刻──渋谷駅地下5階にて事態は大きく進行していた。




直毘人のあのビールは春夏が買ったようです(笑)

時系列的に、原作よりも展開が早いです。
しかも、改造人間が各地で、早期に放たれてます。
各班の動向は改造人間との戦闘が追加された程度で原作と大差無い為、描写は省きますが。

因みに、あちこちに改造人間が湧いているせいで、真人が何処にいるのか分かりにくくなっています。

明治神宮前駅にて
虎杖「居るんだな? このすぐ下に、アイツが」
冥冥「改造人間がいるということは、そういうことなんだろう」
補助監督「それから、既に渋谷の方にも改造人間が湧いているという情報が……」
虎杖「え???」
↑こうなってます

今、本作とは別作品としてモジュロ編を書いています。「本編が終わったら、オマケを挟んでモジュロ編に」と思っていたのですが、オマケの話数が思ったより増えちゃった(18話もある)ので、アンケートに投票頂けますと幸いです。

  • 本編→オマケ→モジュロ編の流れ
  • 本編→オマケとモジュロ編は並行で
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