とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
Q.春夏が領域展開すれば、処理落ちしてる獄門疆も持ち運びというか、移動も可能なの?
A.可能です。
「ははっ、ザマァないね。獄門疆に五条悟を入れた結果、獄門疆は処理落ちして。それはもう自分でもどうにもできないんだから、俺程度の奴にどうにかできるとは思いもしなかったんだろ?」
「まさか迷う素振りも無く獄門疆をメタれる道具を出すなんて思わないだろう。いや、持ってるとすら思わないよ、常識的に考えてさ」
「そーだよな。分かるよ。だからそうしたんだよ、敢えて。持ち運べそうにないなら、その場で封印を解くしかないからね」
(マグマを己の身を守る防壁としても利用しながら降りてきた所を見るに、やっぱり、メカ丸のせいでこちらの情報は術師側に筒抜けかな。いや、真人がメカ丸を破壊してたった2〜3分でコイツは来た。地面を溶かし崩した所で、そんなに早くは来れないだろう。それなら、
解放された五条悟を己の背面に置くと、夏油傑を目の前に据える。通してくれないなら殺す──と、そんな無言の圧力を春夏から感じ取る夏油。
「五条悟を持っていかれるワケにはいかないんだ。悪いが君にはここで死んでもらう。君を呪術高専に引き入れた五条悟を恨むといい」
「お前、呪霊操術を使うらしいな」
「……少しくらい人の話を聞けよ……」
「呪霊操術──やっぱ、歴史のある術式だからね。ただの呪具屋に過ぎない俺でも、少しは知ってる。その名の通り呪霊を操る術式で、確か、ある程度の力の差があれば、問答無用で支配下に置けるし──しかも、自分の呪力で強化もできるんだってな?」
「そうさ。しかし残念な事にね、取り込んだ時点でその呪霊は、成長を止めてしまうんだよ。だから、より成熟させた状態で取り込みたい呪霊も居てね」
「くっ。くふっ、ふっ……はははは……!!」
それを聞いた春夏は、クックッと肩を揺らして、嗤う。その口は三日月のように細く、その両端は、天井に突き刺さるのではと思う程に吊り上がり──漫画やアニメでなら、悪役にも思えるような下卑た笑いをその細い隙間からとめどなく溢れ出させた。
「やっぱりだ。やっぱりだッ! 呪霊操術──俺の術式と、最高クラスに相性ピッタリじゃんっ♡」
「────ッ!!」
「興奮してきた……!! 極ノ番『求』ッ!!」
業龍剡月刀を背中のバッグに仕舞うと同時に空の薙刀──呪いも何も込められていない、完全に空の薙刀を手に取り、それを構え夏油に肉薄する。
けれども、武術を修めているワケではない春夏のその動きは単調で、しかも体術にも優れる夏油傑の肉体であるが故に、回避するまでもなく……。
「霊装呪法・極ノ番『求』──。呪物または呪具に込めたい
「!?」
「呪いが全く込められていないフツーの薙刀で私を攻撃したってことは、私の術式を利用して、呪具を作ろうとしたんだろうね。いやぁ、危ない危ない。もし、呪霊操術で取り込んだ呪霊で君のこの攻撃を受けていれば──『呪霊操術を持った呪具』が誕生するところだったね?」
「なんで……知ってやがる……!」
「だって君ィ、渡辺道具店の後継者だろう? 実は私も、君の店には世話になっていた事があるんだ。何代も前のご当主
「────!!」
相伝の術式には、メリットとデメリットがある。
術式についての情報が残っている分、その術式を有する術者は、0から手探りで術式について理解を深める必要が無く、スタートラインが少々ゴールに近い状態でスタートできる。これがメリット。
そしてデメリットは──情報が残っている分だけ外部にも情報が漏れている、もしくは、漏れやすい状態になっているという事。
春夏は、相伝の術式であるメリットのおかげで、若くして術式への理解を深めることができ、そして極ノ番を習得できた。しかし同時に、デメリットのおかげで、夏油傑に対策されてしまっていた。
春夏は以前、虎杖悠仁に、真人の戦い方について話を聞いていた事があった。曰く「改造人間を盾にする」と。
成程、道理に適っている。人間を改造し、手駒にできるのなら、それを利用して攻撃を受ける方が、自分にとっては楽になる。わざわざその部位を呪力強化して受けるという手間が省けるからだ。
──だから、呪霊を使役する呪霊操術使いなら、それと同じように、自分が使役する呪霊にて攻撃を受け止めるだろう──。
この「夏油傑」が呪霊操術を有していることは、五条悟や脹相などから聞いて知っていた。ならば、呪霊の操作権限をダブらせる為にも、そして、敵の手段を少しでも奪う為にも、ここで「呪霊操術」と融合させた新たな呪具を製作しておきたかった。
しかし年の功と言うべきか、ここで「夏油傑」の本領が発揮された。渡辺家の相伝の「霊装呪法」について情報を有していた彼は、呪霊操術を使わず、ただの呪力強化した手で、春夏の斬撃を事も無げに受け止めてしまった。
結果──春夏の極ノ番は不発に終わり、領域展開1回分程度の呪力を、ドブに捨てた事になる。
「クックックッ……」
「く、そ……笑ってんじゃねぇぞ……ッ!」
「えぇ? だって君の術式、極ノ番を使うのにも、領域1回分くらいの呪力を消費するんだろう?」
「だったらどーした……!」
「私が術式を使用して受ける確信も無いってのに、よくそんな無謀な賭けに出られたなぁ──ってね。若さ故の過ちってヤツかな? 完全に考え無しってワケでもなさそうだけど、やっぱり考えが浅いよ。足湯で例えるなら、足首にもお湯が触れない程度の浅さじゃないかな? 浅瀬もいいところだよ」
「…………ふ。くふっ、はははっ……!」
「……? ツボに入ったのかな?」
「ツボだと? 自惚れんなよ。オメーの考えの方が浅すぎて、ついつい笑っちまったんだよ!」
「何……?」
「
「まさか────」
「拡張術式『
──春夏の極ノ番は確かに不発だった。しかし、未だに終了していない。深夜の野球場で、魔虚羅に極ノ番を使用したあの時と同様、触媒となるモノに呪力を注ぎ続ける限り、
呪力の消費量は増えるが、そうする事によって、術式に触れた瞬間に極ノ番は再び発動する。しかしそれと同時に拡張術式を使用する事により、更なる効果を生み出す。
────即ち、術式の強制抽出・融合である。
そういった術の性質からして「拡張術式」というよりは「極ノ番の拡張」に近いのかもしれない。
春夏は意識していないものの「通常時は使えず、極ノ番が不発に終わった時のみに使用可能」という使用可能な状況自体がある種の「縛り」として機能しており、術式を強制的に触媒と融合可能という、無法な強さを発揮しているのである。
当然、極ノ番の使用が前提であるため、この術の消費呪力は自然と領域1回分+αになってしまう。
「くッ!!」
顔を歪め春夏の薙刀を手放し、彼を蹴り飛ばす。しかしもう遅い。極ノ番と同様、拡張術式「奪」も効果を発動するまでのタイムラグは「0」である。
発動すると春夏が決意した瞬間に、もう、全ては終わっていたのだ。
「あっはははッ! 残念だなぁ! どーせ俺の術式なんか、当時の当主に話を聞いてたからこれ以上の対策は不要──とか、そんな事を思ってたんだろ? 五条悟対策に全振りしすぎだ! そんなザマだと、俺みたいな
「黙って聞いていれば──好きに言ってくれるね。だが、やはり甘い。私の呪霊操術を強制的に呪具と融合させたところで、呪霊を持たない今の君では、手数からして雲泥の差。五条悟が毒で動けない今、君がどう足掻こうとも、私の有利は動かないんだ。術式をコピーできたからと言っても、そうやって、調子に乗らない方が身の為だよ?」
「それは『お前が俺を倒せるなら』の話だろうよ? お前が呪霊を使ったとこで、今度は俺の呪霊操術でどうにかしちまえるんだから、手数の差なんて殆ど気にする必要は無いね」
「同じ言葉を返そうか。君が有利になるとしたら、
『君が私を倒せるなら』の話でしかないんだ。君が呪霊操術で私の呪霊をどうにかできる保証も無い。そもそもの話になるけどね。だから虚勢を張るのもそこそこにしておいた方がいいよ」
両者、一歩も退くつもりは無い。
春夏としては「五条悟を奪われたら終わり」で、それ以上に「呪霊を奪いたい」──そして、対する夏油傑としては「長年の計画を成就させる瞬間」が今しかない以上、両者は、絶対に退けなかった。
体術では分が悪い──体格差もあるし、何よりも経験値が違う。その事から、春夏は、術式の勝負に出るしかないだろうと腹を括った。
しかしやはり春夏の術式は戦闘には不向き。どの呪具なら対応できるだろうか──と考えて、春夏は頭を振ってその考えを振り払う。
「そっちが来ないなら、こっちから行くよ」
「!」
春夏は、呪霊操術を呪具に宿している。夏油は、それを知った上で等級の低いムカデの呪霊の大軍を春夏に差し向ける。
この程度は腐るほど居る、くれてやる──など、そのように言葉にされているワケではないが、彼のこの行為は暗にそう示しているようなものである。等級の低い呪霊は無条件で取り込める、それすらも知った上でのこの暴挙なのだから。
ナメやがって、と春夏は怒りを露わにして、逆にこれらの呪霊を焼き祓ってやろうとするも。
夏油の呪力にて強化されたムカデ呪霊は、雑魚の割に案外素早く、そして強力で、武器の入れ替えを彼に許してはくれなかった。
「クソッ、こんな雑魚ばっか寄越すなよ!」
「なぁに、雑魚は雑魚なりに使いようがあるんだ。例えば消失反応で目眩しをしたり…………ッ!?」
武器の入れ替えが間に合わないと悟った春夏は、呪霊操術を宿した呪具にてムカデ呪霊を切り刻む。
呪具の呪力を使い、術式を発動した状態で呪霊を切り刻めば、自然と取り込む事ができるからだ。
だから、雑魚は雑魚だが無いよりは、と諦めにも近い思いで彼の放つ呪霊を切り刻む春夏だったが。
────その時、不思議な現象が起きた。春夏が呪霊操術を発動した状態で切り刻んだ呪霊の群れが何故だか
「…………やられたね」
「この感じ────もしかしてお前って、呪霊操術じゃない術式も持ってんのか……?」
「……」
「マジかッ……そんな事があるのか……!?」
渡辺春夏の術式「霊装呪法」の極ノ番「求」──そして、拡張術式「奪」は、対象の術式を強制的に抽出し何がしかの触媒と「融合」させるもの。
その際──極ノ番であれ拡張術式であれ、1つの触媒につき1つの術式しか奪えないという、春夏も認識が薄れつつある特性を持つ。
それというのも、基本的に術師は1つの術式しか持たず、複数の術式を持つケースなど、少なくとも春夏は1つたりとも知らなかったからである。
故に、わざわざ「どの術式を頂こうか」などと、攻撃前に考慮する必要性が皆無だったのである。
だから春夏は、夏油の有する「呪霊操術」を頂くつもりで武器を振るい、極ノ番を、拡張術式を発動させていた。
しかしそのどちらも「どの術式を奪うか」を選択できるような性能は持たない。というより、そんな性能を持たせるような場面が、皆無だった。
その結果──偶然にも、呪霊操術ではない術式を呪具としてしまっていたらしい。
「呪霊操術しか持ってないとばかり思っていたよ。なのにまさか、俺が強制融合させた術式がまさか! 呪霊操術
(彼の霊装呪法の極ノ番も拡張術式も、術者が認識している術式を強奪するものではないのか──!! 私の認識が甘かったッ! 渡辺春夏は、呪霊操術を持っている事しか知らないから、虎杖香織の反重力機構を強奪される心配は無いだろう、と──ッ!! 術式の複数持ちの私と彼の極ノ番の衝突は、まさにブラックボックス……それがまさかこんな結果を産むなんて、誰が予想できただろうか……ッ!!)
春夏の胸は、これまでに無いほど高鳴っていた。術式の複数持ち──そんなの、噂で聞いた事すらも無かったから。そして、敵と同じ術式を手に入れて同じ土俵に立てたと思いきやこれまで一度たりとも見せなかった、影も形も噂も無かった、謎の術式を手に入れていたから。
夏油もまた、唐突に訪れた窮地に、焦りによって心拍が上がる。しかしその焦りをおくびにも出さず如何にも平静を装った様子で、彼に言葉を投げる。
「だからどうしたと言うんだ? ──手札が割れたところで、意味は無いよ。それを外部に伝える君はここで死ぬし、私の術式と融合した呪具も、ここで破壊させてもらうから」
「させるかよ! 来い、マコラッ!!」
『はいっ!』
「ッ!? 式神か……?」
春夏の影が、ドプンッと水のような挙動を見せ、そこから、白いワンピースを纏った幼い姿の天使のような魔虚羅が出現。夏油は予想外の存在の登場に目を剥いた。
その隙をついて、春夏は早口言葉のような速度で矢継ぎ早に指示を出す。
「五条を連れてここから逃げろ! そんで伝えろ、今ここで見たこと、聞いたこと、感じたこと全て! 俺と感覚を共有してたマコラなら、できるな!?」
『ご主人、マコラ居なくて大丈夫……だよね?』
「誰に言ってやがるのさ、俺はお前のご主人だぞ。ほら行け、『はじめてのおつかい』だ!」
『うん! 終わったら、それとなく戻るからねっ! マコラ、おつかい行ってきますっ!』
「行かせると思うかい?」
「『!!』」
ムカデ呪霊が先程よりも大量に、そして素早く、滝のような勢いで放たれた。武器を振るうも、その範囲だけで対処できる呪霊の数ではなく、かなりの数を撃ち漏らし、尚も寝込む五条悟を奪わんとその魔の手を伸ばすが。
『たぁぁっ!!』
「「!!」」
マコラの右手に
「……何だって? 今のは……」
「さ、すが、マコラ……すげー……」
『じゃ! 気を付けてね、ご主人っ!』
「あ、あぁ……マコラも……」
────マコラも気を付けて。今の無様な様子を晒しておいてそんな事を言える立場ではないな、と春夏は思い直し、無言のままに、手足が無駄に長い五条悟をズリズリと引きずって走り出したマコラを見送った。
夏油傑の顔は、親の仇を見るような、春夏ですら視線で射殺されると感じるような鋭い視線で、彼を見下ろしていた。
「一体何なんだ、君は……どこまで邪魔をするんだ? 鬱陶しいことこの上ないね……!」
「ただただひたすら、自分の欲望に真っ直ぐな──そう、ただそれだけの、フツーの呪具屋さ」
五条悟爆誕後、恐らく初めてと言える「五条悟が足でまとい」となった戦いが、ここに開幕。しかし攻勢に出ようとした春夏の手が、すぐに夏油の命に届く事は無く──意外な人物が反応を見せた。
術式を使って防御しても、受け止めてもダメ。
どちらにせよ術式を頂けちゃうから。
春夏の術式をよく知らない人にとっては初見殺し。
ちゃんと知ってる人には回避を強制するクソゲー。
防具など、術式関係ない形でワンクッション挟めばそれで解決しますけどもね。
でも羂索、実力があるからね……。
素手で止められると思ってしまったのです。
三輪ちゃんの刀を素手で受け止めたアレ。
ちなみに春夏の使う「反重力機構が宿った呪具」の出力は、羂索が普通に術式を使うよりも上です。
春夏の場合は「呪具」にしてるので、それによって彼の術式の対象になっています。
よって、自然と性能が底上げされている状態です。
呪具化させることで、領域に入れずとも術式すらも強化できるという事ですね。
ちなみに「強制的に呪具化・呪物化できる」という性能なので、相手から術式を剥奪はしてません。
強制コピーみたいな。
今、本作とは別作品としてモジュロ編を書いています。「本編が終わったら、オマケを挟んでモジュロ編に」と思っていたのですが、オマケの話数が思ったより増えちゃった(18話もある)ので、アンケートに投票頂けますと幸いです。
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本編→オマケ→モジュロ編の流れ
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本編→オマケとモジュロ編は並行で