とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
まぁそりゃ同じようなこと考えるよなぁー。
「準1級〜1級を2体祓う任務……なんだよな?」
「雑魚もかなり居るわね、どうなってんの?」
「雑魚呪霊を祓う程度はいつもの事だろ。ぶつくさ言ってないで、いくぞ」
「「あいあいさー」」
現場に到着後は、伏黒の先導で進む。どうも話に聞いていた様子とは思ったより違うようで、強めの2つの気配の他に、強弱大小を問わず様々な呪霊が跋扈している。
が、3人の中に焦りは無い。少年院での凄まじい修羅場を潜り抜け、京都校との交流会を目前に控え厳しい特訓を積んでいるこの3人には、言葉すらも話せない、術式すら持たない雑魚呪霊など、もはや居ても居なくても変わらないのだ。
「ッ、オラァッ!!」
『プギッ』
「────『
『ハギャッ』
「『玉犬・渾』!」
『ギギャァーッ』
雑魚を掃討しつつ、3人は進む。玉犬・渾の呪力探知のお陰で、目標に向かって真っ直ぐ進む。雑魚なんかは、通りすがりに潰せる。それこそ畑で蟻を踏み潰すように、意識せずに倒せる。
「虎杖、釘崎! この先のT字路は右に曲がれっ! そっちにデカいのが居る! 俺は左の方を祓う!」
「おーよ!」
「了解っ!」
3人は二手に別れる。片方はより図体が大きく、大きい気配を発する呪霊。恐らくは1級であろう。伏黒は、より困難と思われるそちらに虎杖と釘崎を向かわせ、しかし殆ど変わらない強い気配を発するより小さい呪霊には、自身1人が向かう。
「うおおぉっ、デケェ……!」
建物で言うと三階程度の高さのずんぐりむっくりしている呪霊を発見。虎杖も釘崎も、そのサイズに思わず息を呑む──が、次の瞬間には、息を整えて攻撃態勢へと移行していた。
「退いてなさい、虎杖。先輩の呪具の威力、ここで一発、試してみるわ」
「待てよ、俺も試してみたいんだけど」
「ハァ? アンタは道中で散々試してたでしょ」
「それはそうなんだけどさ、あれくらいの雑魚なら呪具無しでも倒せてただろうし……」
「はいはい、どちらにせよ一番槍は私が貰うわよ」
「ちぇっ……へいへい」
「さて。デカイ図体して──避けられるもんなら、避けてみなさいッ!! 貫通の五寸釘ィッ!!」
渾身の力で、一撃必殺と言える威力で「貫通」を放つ釘崎。狙いはヤツの腕。倒せれば重畳、もしも倒せなくても切断ならできるだろうし、そうすれば次の「共鳴り」のコンボに繋げる事ができる。この一撃で終わらせるのは勿体無い──そう考えての、敢えての行動だったが。
『ユキタ〜イ〜ヨンヨンヨン〜』
「あぁッ!?」
釘崎の挑発に乗ったのか、巨大な図体に似合わず素早い動きで真っ直ぐに向かってくる五寸釘を回避してしまう。五寸釘は、ドゴォッ、と凄まじい音を上げてコンクリートの壁に大穴をあける。
「うっは、スゲェ威力!」
「嘘でしょ……『簪』だったら大木でもへし折る事はできるけど、これ、コンクリートよ……?」
「……って、ヤベェ釘崎っ、アイツ結構速いぞ!」
「っ! そ、そーね!」
コンクリートの瓦礫に埋もれた五寸釘「貫通」を拾い上げて、虎杖に少々遅れて呪霊を追い掛ける。敵が一歩を踏み出す毎にズシンズシンと地が揺れて地震と錯覚しそうになる。
「行くわよ、『忠誠』ッ!!」
「おひょおっ!? あっぶねーだろ釘崎ぃっ!?」
先程の「貫通」とあまり大差無い凄まじい威力で放たれた五寸釘「忠誠」は、虎杖の頬を掠めて──呪霊の尻尾のような手でも足でもない部位に深々と突き刺さり、紫の血のような液体を撒き散らすが。
『エエエエエエ〜♪』
「あぁっ、自分で尻尾を切りやがった!」
「トカゲかよ、このハゲ!」
濃いピンクのような、くすんだ赤のような気色が悪い肌色をした、巨大な呪霊。尻尾を自切した事で身軽になったからなのか、更に速度を上げて虎杖と釘崎から逃げようとするが。それが悪手だった。
「でも丁度いいわ──『共鳴り』ッ!!」
『ッタイヨォォーッ!? ケケケーンッ!?』
「ナイス! っしゃ、トドメだぁぁぁっ!!」
メリケンサックを握る拳に呪力を込めて、動きを止めたその呪霊に、拳を突き立てると。
弱点の頭を殴ったワケでもないというのに、その呪霊は悲鳴を上げる事すらも無く一瞬で、蒸発したように消え失せてしまった。
それだけでなく手応えも殆ど無く、ただ、殴った瞬間に呪霊の消失反応だけ残して蒸発してしまったかのような、妙な祓われ方だった。
「……祓った……んだよな……?」
「……消失反応はあったし、祓えてる……はず……」
一瞬で呪霊を気配ごと消し飛ばしたかのような、それはそれは奇妙な感覚に襲われた2人であった。
◆
「くそッ、コイツ素早い! 玉犬でも追い付くのがやっとだと……!?」
『キキキキ!』
少年院で出会った特級呪霊に比べれば、圧倒的に弱いと言える。しかし、妙に素早い。まるでそれに特化するように成長パラメーターを操作されたかのような極めてアンバランスな違和感があった。
対峙して、感じた事がある。
1級相当の力を持ちながらも、知能などがまるでそれに追いついていない。まるで、「宿儺の指」を飲み込んだ事で強制的に強化させられた、少年院の特級呪霊のような。
しかも普通は呪術(術式)を使える呪霊が準1級以上に指定される。それなのに、目の前の呪霊は、術式などを持たずに、呪力だけが育ったハリボテのような……。
「……考えても仕方ない。とりあえず祓うッ!」
術式を持たないのなら、好都合。素早い動きさえどうにかしてしまえば、後は、玉犬・渾の一撃にて瞬殺できる見立てであった。
「──お前、泥濘に足を取られた事はあるか?」
『キッ!?』
伏黒はその術式にて、呪霊の足元の影を利用し、呪霊の足を沈ませ足での移動を封じた。もがけど、沈むばかり。
このままでは死ぬ──言語すら発せぬ知能でも、それは察しがつくらしく、ジタバタと暴れ始めては呪力をビームのようにして全方位に放出し始めた。
「こ、コイツ、無駄な足掻きをっ……」
玉犬・渾は頑丈だ。この程度の呪力の放出で破壊されるほど、ヤワではない。しかし念には念をと、春夏から借りた外套を用いて、自身が渾を守る。
成程確かに凄まじい性能だ、コンクリートすらもボコンボコンガコンと破壊する呪力の放出を容易く無効化してしまっている。恐らくコレなら少年院の特級呪霊の呪力放出すらも無効化できるだろう。
──と、その時。
「おーい、伏黒〜」
「応援に来てやったわよー」
もう片方を倒し終えた虎杖と釘崎が合流。伏黒の意識は一瞬、そちらに持っていかれ。
「しまっ──」
「うおっ、なんか地面から飛び出してきたぞ!?」
「コイツが残り1体ってワケね!」
「お前らな……」
影から飛び出した呪霊は背中の皮を剥がし落とし羽のようなものを生やすなり、ブンブンと、空中に陣取ってしまう。その姿はまるで、人型のトンボ。
虎杖達3人の姿を見ると、先程までより一層太い呪力の光線を放つ。
「うおお……っ!」
「バカ虎杖、俺の後ろに隠れ……」
「いや……コレ、多分、大丈夫かも」
「なっ!?」
渾を一旦解除しつつ、伏黒が外套を広げて釘崎と虎杖を守ろうとするも、虎杖は上記のよく分からぬ発言と共に、伏黒の背後から飛び出してしまう。
このままでは真っ向からビームを受けてしまう、そしてそのまま死────。
「ウオォォォッ、ラァァァッッッ!!!」
極太のビームに向かって拳を放つ。すると、白い呪力──のような「力」が虎杖の拳から放たれて、ビーム同士がぶつかり合い。そしてそのまま赤黒く輝く禍々しい呪力ビームを、相殺してしまった。
「うおおおッ、ビーム出た! スッゲェ!!?」
「ちょっ、何よ今のっ!?」
「わかんねぇ! けど、なんかさ、さっきの呪霊と戦った時、
「だからって思い付きでやる!?」
「……今のってまさか……
伏黒は、虎杖が放った「白い呪力のような力」に見覚えがあった。家入硝子が、他者の傷を癒す時に使用する特殊な呪力。負のエネルギーの「呪力」を掛け合わせることで生じる正のエネルギーである。
『キッキキキッ!』
「なんかよく分からんけど、このメリケンサックの能力だよなッ!? これさぁ、春夏先輩に頼んだら売ってくんないかな!?
「虎杖、そんな話は後にしろ! まずは……」
「そーだな! まずはアイツを祓う! 飛び出せ、呪力ビィィィィーーームッッッッ!!!!!」
『ヒッッ!!!』
「あぁークソッ! また虎杖に美味しいとこ持っていかれちゃ…………あん?」
「……あれっ?」
「どうした虎杖!?」
「いや……な、なんか、呪力ビームが出なくって……それっぽいモヤモヤは出てくるんだけどな……」
「!?」
反転術式のような謎の力は、確かに虎杖の右拳を覆っている。さっきも見えた光景だ。しかし今度は呪力が飛び出さない。呪霊のビームを相殺した時のように、白い呪力が何かしらの挙動を見せることがまるで無かった。
「まっ、まさか俺、また壊しちゃった!?」
「落ち着け、どう見ても壊れてはいないだろ」
「じゃどうしてさっきみたいに飛び出さないのよ、意味わからないわ」
「もしかしてアレって、ゲームで言うゲージ技とかなのかなぁ……?」
「ゲームで言うゲージを貯められるほど、こっちに来る前に手間取ってたか?」
「いやそれは全く無いけど……でもコレ……」
「何にせよとりあえず俺の後ろに隠れろ。もうじきあの攻撃が来る。攻撃を受け止め、止んだ直後に、釘崎でも虎杖でも俺の『渾』でも、なんでもいい。アイツにトドメを刺す」
「攻撃する瞬間が一番の隙って言うし、なんなら、またビーム発射した瞬間に──と思ったけど、結構溜めてんじゃない。大したパワーだわ。ビルなんて一瞬で倒壊しそう」
「
「あぁ。単なる呪力放出に対しては殆ど無敵だな。コレも商品かは知らないが、
「──来るわよ伏黒!」
春夏に借り受けた外套は、既に何度か伏黒の身を守っていた。だからこそ彼は、外套を頼りにして、防御に徹していた。
……しかし、それが良くなかった。
唐突に効力を失った外套は、呪霊の放った赤黒い呪力ビームを受け破損。伏黒、釘崎、虎杖の3人を同時に吹っ飛ばし、3人は遥か後方にあった壁へと全身を強打してしまう。
「いてっ!?」
「ガッ!?」
「ン゙ッ…………ど、どういう事よ、伏黒……!?」
「分からない……。唐突に呪力が弱まって……効果が切れたのか? でも、どうして──いや、まさか? 先輩が言っていたのは
トンボのような羽を生やした呪霊は、プンッ、とまるで瞬間移動のような超高速移動にて3人の前に現れて、歯を見せて笑いながら、鋭く尖らせた爪で3人を同時に切り裂こうと攻撃を浴びせてくるが。
「邪魔するんじゃねーよ……!!」
「『貫通』だァッッ!!」
「『玉犬・渾』ッ!!」
『ピーーーギーーー!!!』
3人の同時攻撃で、呪霊は弾けるように消えた。
◆
その頃、呪術高専東京校では。
「〜♪ 〜♫」
「ゼェ、ゼェ、はぁ、ふぅ、はひ…………渡辺さん、まさか
「あ、伊地知さん。どうかしましたか?」
「ええ、編入にあたっての書類が、あと幾つか……。えぇと、自転車のお手入れ中、ですか? そちらが終わってからで大丈夫ですので、書類の方、お願いしてもよろしいでしょうか? 渡辺さんの机の中にこちら書類一式、入れておきますので……後程、私のデスクに提出をお願いします」
「書類一式って、まさか伊地知さんが抱えてるその無駄に分厚くなってるファイルのことですか?」
「そうです、数が多くてご面倒でしょうが、どうかお願いいたします……」
「いえ、今やります」
「えッ、いやしかし今は自転車のお手入れを……」
オイルを落とす薬剤を手に散布し、タオルで軽く擦り落とす。石鹸など使わずとも手を綺麗にする事くらい慣れたものだ。伊達に
「この後、予定が入りました。急ぎの用でして」
「急ぎ……ですか。私、車を出しましょうか?」
「いや、伊地知さん仕事あるでしょ。大丈夫、俺は自転車がありますから気にしないでください。日没までには戻ると思います。──もし戻らなければ、お察しください」
「お、おお、おっ、お察しって……!!」
「いやほら、事故とか、そういう。車も自転車も、事故が付き物でしょ? そういう事ですよ」
「お、驚かさないでください……」
わざとらしく微笑むと、心底ホッとしたような、安堵の表情になる。伊地知潔高──見た目も中身も苦労人の割に、他人を心から思いやれる、呪術界に似つかわしくない程の清純な精神の持ち主らしい。
こういう人間は呪術師に向いていない。何なら、呪術界に関わらない方がいいのかもしれない。仮に関わるにしてもせいぜい今のように補助監督止まりだろう。
それ以上深くは、呪術界に関わってはいけない。きっと、身も心もボロボロに壊れてしまうだろう。
「くれぐれも、お気を付けて。安全運転で、お願いしますね」
「俺を迎えに来る時、道交法ガン無視レベルで車をカッ飛ばしてきた伊地知さんにそれ言われるとは。絶対ブーメランですよ、その発言」
「いやそれはそのッ、だって、五条さんがッ!!」
「クックックッ……」
あぁ、面白いものだ。春夏は伊地知の秘められたドラテクをからかい、ケラケラと笑う。なるほど、五条悟が伊地知さんをイジるワケだ──と、心から納得した瞬間であった。
「ボトル、メット良し。そんじゃ、行ってきます」
「本当に……気を付けてくださいね」
「えぇ、勿論。気ィ付けて行きますよ。せいぜい、何があっても死なないように、ね?」
こうして今度は春夏が、補助監督・伊地知潔高に見送られながら高専を出て、死地へと赴いた。まだ見ぬ呪物、呪具を求めて……。
◆特級、襲来────!?
準1級〜1級呪霊のクセに術式使わないんやね。
まるで等級の低いザコを誰かが強化してるみたいで不自然やね。