とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

32 / 37
第32話:渋谷事変⑦ 友垣

 

(──分かっていた。分かっていた事だ……!)

 

 呪いの王・両面宿儺の、殺戮、暴力を心の底から楽しむ、下卑た笑いが、夜の渋谷に響き渡る。彼の暴力の標的となっているのは、大地への畏怖が形を得た呪霊──特級呪霊、漏瑚。

 

(だが、ここまで……!!)

 

 指の礼。10本もの指を宿儺に差し出した漏瑚は、その名目で宿儺と戦う機会を得た。

 漏瑚が宿儺相手に一撃でも入れられれば、宿儺は呪霊達の「下」に付く。宿儺自らが漏瑚に提案し、漏瑚も受け入れた縛り。

 

「月明かりが通っているなァ。お前の痴態も、よく見える」

 

『あふがっ……がぁっ……!』

 

「ほら、頑張れ頑張れ。俺が飽きるまで付き合ってやるぞ?」

 

『ぐっ……!!』

 

 数々のビルを破壊し、街並みを破壊しながら戦う2人。東京には高層ビルが多く立ち並んでいるが、漏瑚などはそれすらも武器にして宿儺を襲う──。

 しかし宿儺はそれら全てを己の術式にて粉砕し、たったの一撃すら、決して入れさせてはくれない。

 腕を輪切りにされ、顎を砕かれ、四肢を斬り飛ばされようと、それでも漏瑚は諦めない。

 マグマの波をぶつけようと無駄。音速を越えようという程に凄まじい速度を持つ熱線でさえ宿儺には掠りすらしない。

 

「極ノ番『隕』ッ────!!」

 

 破壊されたビルの残骸に、己の術式で生み出したマグマなどを全て混ぜ込み、宿儺へと落下させる。攻撃範囲は無類、しかしそれに集中し過ぎたからか落下速度は春夏にぶつけた「隕」より遅く……。

 恐らくは、準2級程度の術者でもその気になれば脱出はできたであろう。

 残酷な現実だが当然と言うべきか──幾ら火力が高くとも、そのような一撃がかの両面宿儺に当たるハズも無く……。

 

『宿儺もタダでは済むまい……!!』

 

「当たればな」

 

『ッ!!』

 

 宿儺は、回避した「隕」の上に鎮座していた。

 

「何故、領域を使わない?」

 

『押し合いで勝てない事は分かっている……』

 

「『五条悟』が、そうだったからか? 負け犬根性極まれりだな」

 

 宿儺は、漏瑚と五条悟の戦いを、()である虎杖の中から見ている。領域の押し合いに負けて、一瞬で領域を塗り潰されたあの刹那。彼はそれを、一瞬も見逃すことなく、全てを見ていた。

 五条は、虎杖への見学学習と言っていた。しかし皮肉にも、宿儺にとっても見学学習になっていた。

 その事に気付いた漏瑚は、五条というトラウマを思い出させられたことで、苛立ちと嫌悪、手の内が戦う前からバレていたのだという現実への焦燥──全ての負の感情を練り上げ、煽りに乗るかのように領域を展開した。

 

『────領域展開ッッッ!!!!』

 

「……ホウ?」

 

『「蓋棺鉄囲山」……ッ!!』

 

 押し合いの相性、そんなもの知るか。そう言わんばかりに、宿儺の言葉に触発された漏瑚は、領域を展開した。火山の内部のような生得領域が具現化、地面はヒビ割れ、溶岩が暴れ出す。

 

『極……』

 

「領域展開────『伏魔御廚子』」

 

 必中が付与された隕。しかし呪力の「起こり」を見抜いた宿儺は領域を展開する。ある者への影響を考慮し領域の範囲を地上、半径を100mに抑え、ただし結界で囲わない、まさに神業の領域。

 漏瑚の「蓋棺鉄囲山」は破壊され、彼自身もまた粉微塵にされようという、まさにその時。漏瑚は、宿儺が領域を展開する為に手印を結ぼうとしたその瞬間に、反射的に、一つの策を用意した。

 

『「火礫蟲(かれきちゅう)」ッッ!!』

 

 火礫蟲もまた、漏瑚の術式の産物。漏瑚は、己の領域が宿儺の領域に破壊される前に、領域の効果によって全ステータスが上がっている状態の火礫蟲を召喚。

 そして伏魔御廚子が蓋棺鉄囲山の外殻を破壊した瞬間、彼は、切り刻まれる前の火礫蟲による速度を慣性で保ったまま、斬撃の嵐の中に飛び込み……。

 

『ぐがっ、がぁっ、があ゙あ゙あ゙あ゙っっ!!!』

 

 半径が狭かった事が幸いしたのだろうか。あわや全身を切り刻まれる寸前で、頭と傷だらけの左半身だけが残った状態で、伏魔御廚子を脱した。

 宿儺の伏魔御廚子は、結界を使用せずに逃げ場を与える事によって効果を底上げしている──しかし今回は、それにより漏瑚を取り逃したのだ。

 

「ほう……?」

 

 範囲を狭めていたとはいえ……と、宿儺は笑う。

 言うまでもなく、呪力でその身体を強化していただろう。だが当然それだけで防げる代物ではない。通常ならば確殺であろうその領域を、生きたままに脱出した。有り得ない光景に、宿儺は目を見開く。

 

「オマエ……何かしたな?」

 

『……』

 

 領域展延──それは否。領域が破壊された直後に領域展延できる程の技量は無い。また、彼の移動を補助する火礫蟲も彼の領域が破壊されるのと同時に切り刻まれてしまっている。

 しかし漏瑚は掴んだ。伏魔御廚子に切り刻まれ、死に至りそうになる中で、呪力の核心を掴んだ。

 術式ではなく、呪力の操作にて伏魔御廚子によるダメージを無効化──までいかずとも、ある程度、それこそ最低限の命を繋ぎ止めておける程度にまで緩和させていたのだ。

 

 呪力を鎧のように纏い、漂わせて、必中の術式が命中する瞬間に呪力を放出して身を守る、ある種、カウンターとも言えるであろう技術。

 漏瑚は、術式が使用困難な中、その繊細な呪力の操作を死に物狂いで行う事で、半身を消し飛ばされながらも、どうにかその命を繋ぐ事ができていた。

 御三家の秘伝「落花の情」──それを土壇場で、自己流ながらも手にしていたのだ。簡易領域とも、当然ながら領域展延とも違うその「対策」は宿儺にとっては初見の技術であった。

 興味深い事をする──と、更に笑みを深めるが。

 

「! ……チッ。興が乗ってきたところだが……」

 

『?』

 

「命拾いしたな、呪霊。──急用ができた。機会があればまた()ろう。一時休戦(・・・・)だ」

 

 渋谷のどこかで呪力が弾けた。それを感じ取り、宿儺は名残惜しそうに漏瑚を見やり、一時休戦だと告げ、まるで瞬間移動にも見紛う超速で彼の前から姿を消した。

 命拾いした(・・・・・)。宿儺のその言葉に、ずっと忙しなく脈打っていた漏瑚の心臓は、久方振りに落ち着きを取り戻した……。

 

 ◆

 

「────布瑠部由良由良(ふるべゆらゆら)

 

 オガミ婆の降霊術により降霊された伏黒甚爾との戦闘、次いで呪詛師・重面春太に絡まれ、瀕死とも言えるほどにボロボロになってしまった伏黒恵は。

 上記の詠唱と共に、渡辺春夏の式神へと変質して空席となっていたハズの最強の式神を召喚する。

 

「八握剣異戒神将魔虚羅……!!」

 

「……!?」

 

「おいクソ野郎。……先に逝く。せいぜい頑張れ」

 

 重面を調伏の儀に巻き込んだ伏黒は、敵対状態の魔虚羅の拳にて吹っ飛ばされて、絶命──否、仮死状態に陥る。次いで魔虚羅は重面を襲おうとするも間一髪のところで宿儺が救助に入り、伏黒恵に反転術式を施し、彼は仮死状態から脱する。

 宿儺vs魔虚羅の、文字通りに渋谷を更地にせんばかりの激しい戦闘が幕を上げたかに思われたが。

 

「悠仁ーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

「兄さんッ、今はダメだ! 呪力で分かるだろう! 宿儺だよアレは!」

 

「待ってくれよ兄者、死んじまうよぉっ!!」

 

「関係ないッ!! よくも悠仁のッ! 弟の肉体を奪ったな! 宿儺ァァァッ!!」

 

「……?」

 

 精神が錯乱してしまったとしか思えない九相図の長男・脹相の言葉に、宿儺は眉を顰める。

 脹相といえば、高専においても虎杖悠仁、そして同級生の釘崎野薔薇の両名に対し、決して冗談では済まされない殺気をぶつけていた。それを、宿儺も虎杖の体内で見ていたからこそ、脹相がその虎杖を弟などと呼んでいる事に対し、困惑しかなかった。

 

「悠仁ィィ!! お兄ちゃんが! お兄ちゃん達が来たぞッ!! だから戻ってこい!! 宿儺などに負けるなァァ!!!」

 

「〜〜〜ッ、そうだね、その通りだ。こうなったら私も殉ずるよ、兄さん。──悠仁ッ! これ以上のオイタは、兄さんも私も許さないよ!!」

 

「そ、そうだぞっ! メッ、だからな!!」

 

「──何を言っているのだ、貴様らは。不愉快だ」

 

 誰から見ても分かる程に不快感を示した宿儺は、三兄弟の頭を斬り飛ばさんと「解」を放つが。

 

「ぐぁッ!?」

 

「くっっっ……!!」

 

「ひぎゃあっ!? いでェよォっ!!」

 

「!?」

 

 三兄弟の頭が吹き飛ぶどころか、深めの切り傷を与えただけに留まってしまった。

 

「……小僧ッ……!!」

 

「返せよ、宿儺……俺の身体だぞ……ッ!!」

 

 虎杖の必死の抵抗によって、呪力の出力が極めて抑え込まれていたのである。加えて、人格まで表に出てきた事により、虎杖は一人二役のように器用に声すら切り換えて宿儺と会話を試みる。

 

「──返してやってもいいが、死ぬぞ?」

 

「あの白いヤツに殺される、ってか? 上等だよ、俺は死ぬ覚悟もあるってお前も知ってんだろうが」

 

 少年院での戦いにて、虎杖は「宿儺により心臓を抜かれた状態」で人格を交代し、死ぬ事を選んだ。そこで一度、死亡している。

 故に宿儺も既に知っている。虎杖には「死」すら脅しにならないという事を。

 しかし、今回は違う。最悪な事に今回は、人質にできてしまう人間が虎杖本人だけではなかった。

 

「やはり考えが足りんな、小僧。貴様が死ぬ分には構わんが──俺がヤツを殺さねば伏黒恵も、貴様を弟と呼ぶ奴ら(・・)までも死ぬ事になるぞ?」

 

「……ッ!!」

 

「──そんな事は関係ない。『穿血』!」

 

 常に自身の周囲に浮かせていた「百歛」の一つを手に取り、穿血を放つ。魔虚羅はそれを右手の剣で容易く弾き飛ばし、近くのビルに穴を開ける。

 

「なっ」

 

「兄さんの『穿血』が……」

 

「あんな簡単に……!?」

 

「ケヒッ。とんだバケモノだなァ?」

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」

 

 魔虚羅のそれを見た虎杖は、少し前に、伏黒から聞いていた「魔虚羅のヤバさ」を思い出していた。

 伏黒、そして1級術師の春夏も死を覚悟する程の圧倒的強さ。何故だか幼女のような姿になったのは術式の相性によるバグで、本来は有り得ない挙動。本当なら伏黒も春夏も既に死んでいた────と、伏黒は虎杖に語っていた。

 少し、しかも本気ではないとはいえ春夏の戦闘を見た事がある虎杖だから、伏黒の語る「ヤバさ」が誇張ではないのだと改めて思い知らされていた。

 ──そして、同時に、ある事を思い出していた。死に際に走馬灯を見ることで、どうにか起死回生の一手を見つけたように感じていた。

 

「……返せよ、身体」

 

「そこまで周囲の人間達を殺したいのか?」

 

「バカか、テメェは。俺はお前達とは違うんだよ。一緒にすんじゃねぇ。全員助ける。俺だって、また死にたくねえから──今回だけ、間接的にだけど、お前も助けてやるよ、宿儺」

 

「舐めるなよ、小僧が」

 

 その言葉を最後にとうとう宿儺は身体の主導権を失い、虎杖に戻る。そして魔虚羅が宿儺に──否、虎杖に襲い掛かろうと拳を振り上げるが。

 虎杖は脹相達とは別方向に回避する事で、彼らに逃走する猶予を与える。

 

「脹相達、早く逃げろ! 俺が引きつける!!」

 

「バカを言うな! 弟を助けるのはお兄ちゃん達の役目なんだぞ!!」

 

 虎杖を追い掛ける魔虚羅を追い抜き虎杖に並ぶ。三兄弟の中では三男の血塗が一番速いらしく、彼が前に立ち脹相、壊相の手を引いている。

 

「それ何なん!? ワケ分かんなさ過ぎてさぁ!? ツッコミした過ぎて表に戻れたわ!」

 

「弟を想う兄の勝利、だね」

 

「そーだなぁ!」

 

「3人共ワケ分かんねぇよ!! 特に脹相さぁっ、俺と釘崎んこと殺しそうなくらい嫌ってたよな!? 会う度にバチボコに殺意向けてきてたじゃんか!」

 

「──済まない。単なる兄弟喧嘩だったというのに俺は壊相と血塗だけに肩入れしてしまっていた──兄として恥ずべき行為だった。許してくれるなら、もう一度、俺を『お兄ちゃん』と呼んでくれ」

 

「一度たりとも呼んだことねえよッッ!!!」

 

「────2人共、お喋りはその辺にしておこう。まずはこの白い怪物から逃げる事に集中しようか」

 

「そうだな」

 

「……なんかもうツッコむ気力もねえけど、確かに、それはそうだ。──なぁ脹相」

 

「お兄ちゃんだ」

 

「……。1つ、俺の作戦にノッてくんない?」

 

「ダメだ。お前は優しい子だから、また身代わりになるつもりだろう?」

 

「そーじゃねーよ。──呪力で誰かを呼ぶんだよ。こんだけ大荒れしてりゃ、多分、元の作戦通りには進んでない。誰かしらは近くに居るハズだしきっと助けが来る……と思うんだ」

 

「! そうか、明治神宮で春夏を呼んだ時みたいに呪力で合図を送るのか……!!」

 

「成程。試してみよう」

 

「春夏ならまた来てくれるよなっ! 俺達の呪力、もう知ってるし!」

 

「ああ。──よし、いくぞ、九相図兄弟ッ!!」

 

「「「おーッ!!」」」

 

(って、どーして俺まで返事してんだよ……。完全に雰囲気に流されたな……まぁいいけど)

 

 苦笑する虎杖と、やる気に満ち溢れる三兄弟は。魔虚羅との追いかけっこの最中に、脚部の強化の為以外に、狼煙を上げるが如く、呪力を立ち登らせ。近くに居るであろう「誰か」への合図にする。

 そして、彼らの思い描いた絵図は、見事に……。

 

 ◆

 

「……漏瑚……?」

 

『……また貴様か……渡辺春夏……』

 

「お前……なんでそんなズタボロなんだよ……」

 

『フン。──貴様も感じただろう。宿儺だ……』

 

「宿儺と戦ってたの、やっぱお前だったのか……」

 

 やれやれ、と言わんばかりに溜め息をつく漏瑚。まさか、死に際(・・・)に見る顔が呪物泥棒の春夏(コイツ)とは、と呆れるような思いもゼロではなかった。

 漏瑚の身体は全く再生できていなかった。特殊な呪具で切られただとか、宿儺の斬撃に特殊な効果が乗っていただとか、そんな事は一切無い。

 

 ただひたすらに呪力が尽きていたのである。あの伏魔御廚子へのカウンターとして呪力を放出した。それはもう、死に物狂いで。

 それが幸いして伏魔御廚子から生きて出られた。しかしそれが災いして呪力が底を突いてしまった。極ノ番、領域、再度の極ノ番という、呪力を大きく消費する形での戦闘の末に、慣れぬ形で呪力を行使してしまった、言わばその代償だった。

 

『出せる限りを出し尽くした。極ノ番も、領域も、その上での極ノ番も、縛りも──。それでも、儂は宿儺に手も足も出せなんだ……』

 

「まさか絶命の……!?」

 

『違う。我が生命を守る為に──伏魔御廚子からの脱出を果たす為に、どんなダメージも受け入れると己自身で縛りを結んだのだ。結果、領域からは脱出できたものの──この有様だ』

 

「……そんなに強いのかよ、宿儺は……」

 

『貴様も瞬殺だ。貴様と刃を交えた儂だからこそ、断言してやる……』

 

「ッ……」

 

『遠く、及ばなかった。だが、分かっていた事だ。負けても当然だろうと、儂は納得している。宿儺の領域から生きて脱せたあの時──酷く、心地よい、そんな気がした……。何故、だろうなぁ……』

 

 漏瑚の呪力が、消えていく。死ぬ──祓われる。

 呪具を賭けて戦いを繰り広げた、漏瑚が。どこかおじいちゃんのようで、あまり他人に心を開けない春夏ですら、気安く話し掛けられる漏瑚が。今度、また勝負しようとすら話していた漏瑚が。

 特級呪霊が祓われるのだ、どんなに納得できない形だろうと喜ぶべき事だというのに、春夏は、歯を食いしばっていた。

 

「……勝手に納得してんじゃねーよ……!」

 

『……?』

 

「羅喜。……漏瑚に、再生できる程度の呪力を」

 

『助けるの? コイツを? 見たところ呪具も何も持ってないみたいだし、呪霊操術で取り込めば?』

 

「どうでもいい。──今のコイツなら、呪霊操術で取り込める。俺にも分かる。だけど、それは嫌だ。俺が呪霊操術で取り込んじまったら、漏瑚だけど、漏瑚じゃなくなる……そんな気がする……」

 

『……お人好しねェ……。で、何をくれるの?』

 

「羅喜が望むもの」

 

『後払いの縛りなんて、ホントは受け付けない主義なんだけど。ううん、今日だけは、許してあげる。自分への罰としてね』

 

「……そうか」

 

『……?』

 

『春夏に感謝なさい、漏瑚。助けてあげる』

 

『要らぬ世話だぞ。人間などに依らずとも、我らの魂は巡るのだ。いつかまた──呪いとして、新たな人間として、我らは生まれるのだからな。死など、元より怖くはないのだ』

 

「バカ言ってんなよ。もう一度生まれたオメーが、また『呪具や呪物を集めたがる漏瑚』になるなんて限らねえだろう……!」

 

『そうだ。その時に生まれる儂は、儂であって、儂ではない──。そんな事は、分かっているのだ』

 

「俺の呪具や呪物が欲しいんじゃなかったのかよ? そんな簡単に諦められるのかよ……!」

 

『もう、よい。満足したのだ』

 

「────!!」

 

 はらはらと、漏瑚の身体が崩れていく。刻まれた左半身から徐々に、徐々に、崩壊が進んでいく。

 

「俺は満足してねえんだよ、アホ火山が……!」

 

『……?』

 

「宿儺をブッ飛ばせるくらいにクソ強くしてやる! だから俺と契約しろ、漏瑚! 術式の使い方を──もっと手本を俺に見せてくれ! 呪具を賭けてまたバトルするって約束したろーがッ!!」

 

『宿儺をブッ飛ばせるくらい──か。片腹痛いな。相変わらず、モノを知らん小童だ……渡辺春夏……。それが……手本を求めるのが、本音か……』

 

「どっちもだよ! 俺は基本的に裏表が無い素直な人間なものでなっ! 良くも悪くも素直で、それが原因でバカを見た事もある。でもいいんだ、これが俺の良い所って羅喜も褒めてくれるし直毘人さんも笑ってくれた。──お前が呪霊とか、特級呪霊とかそんなん、関係ねーんだよ……。知り合いが死ぬのが辛いって、人として、当たり前じゃねーの……?」

 

『……人として……か』

 

『そういえばアナタ、さっき「呪いとして、新たな人間として」とか言ったわね。人間になりたいなら人間の心の機微とか、そういうのを学んでおくのも悪くないんじゃない?』

 

『アレはそういう意味では……』

 

『えぇ分かってる。人間そのものになりたいとか、そんなんじゃないんでしょ。──でも、そんなのはどうでもいいのよ。アナタ、蒐集家なトコロからも分かるけど、結構、欲が強めなんじゃない?』

 

『……さてな。そんな事、考えた事も無いが……』

 

『平安から生きてる私だから言えるわ。人間と共に生きてみるのも、有り寄りの有り(・・・・・・・)……よ?』

 

『……??』

 

 茨木童子の発する謎の言葉に頭しか残っていない状態で首を傾げる漏瑚。

 もう満足したからこのまま死ぬだけ──と、そう思っていたが。去り際の宿儺の言葉が、去来した。

 ──「一時休戦だ」。

 それを思い出した漏瑚は、閉じ掛けていた瞼を、カッと見開く。

 

『何を言ってるのかは分からんが──仕方がない。儂は、押しに弱いのだ。渡辺春夏──契約とやらにノッてやる。術式に関しては、儂が手ずから手本を示そう。代わりに儂を強くしてくれ。宿儺に、一泡吹かせてやりたいと……そう、思ったのだ』

 

「漏瑚……!」

 

『だが、五条悟にはどう説明するのだ?』

 

「少しは話すよ。術式の手本を見せてくれるって、そう言うから命は助けた、ってな。ダメそうなら、呪霊操術で取り込んでるから制御可能だぜ、とでも言ってみるさ。あ、俺の言うこと、聞いてくれよ? 俺以外の誰かから祓われちゃうから……」

 

『分かっている。貴様──春夏に従うとも。儂とて宿儺と再戦する前には死ねん。そう思い直した』

 

「へぇ。でも、急だな? 何か思い出したのか?」

 

『そうだ。今は「休戦中」なのだとな』

 

「よく分からんが……よかったよ。羅喜、頼む」

 

『OK。さぁ、私の呪力を受け入れなさい、漏瑚』

 

 頭だけとなってしまった漏瑚に手をかざし、彼の受け入れ態勢が整うと同時に、呪力を流し込む──変質可能な茨木童子の呪力は、消え掛けた漏瑚の、その肉体を補うのには十分過ぎた。

 

『ぬおおぁあああっ!? なんだッこれは──滝に打たれるような、この感覚はッ……!』

 

『ふふ、これくらいあげれば再生くらい余裕よね。寧ろ、軽くパワーアップさせちゃったかしら?』

 

『……茨木童子だったな。礼を言う』

 

『春夏に、ね?』

 

『………………春夏。感謝する』

 

「いいって。今後世話になんの、主に俺の方だし」

 

『誰かに祓われそうになったら、春夏が儂を術式で取り込め。詳しいことはよく分からんが──先程の会話から察するに、呪霊操術を宿した呪具なんかを製作したのだろう? あの夏油と交戦したのか?』

 

「あー……それなんだけどさ」

 

『?』

 

「俺がそれを得たんだよね……呪霊操術を……」

 

『……は? 奴の術式をか?』

 

「うん。ザックリ言うと夏油の正体は羂索とかいう呪詛師で────」

 

 呪霊操術を得た経緯について話そうとしたまさにその時、春夏の影から魔虚羅が飛び出す。その顔はどこか焦りに満ちており……。

 

『ご主人! 大変だよ大変! パパが、パパが!』

 

(何だ、この小娘は……?)

 

「伏黒に何かあったのか?」

 

『魔虚羅、召喚しちゃった! 自爆テロだよ!』

 

「まっ、魔虚羅を!? あのウニ頭、何を!!」

 

 その時、魔虚羅の発する呪力を春夏も感じ取る。この幼い魔虚羅は、今でこそ自分の存在そのものを根本から書き換えているものの、元はと言えば彼の十種影法術の魔虚羅。

 それ故に、呪力の「起こり」から、彼が魔虚羅を召喚してしまった事を、呪力を感じるより前に感知したのだ。

 

「あっちか──って、脹相の気配するじゃねーか! 壊相、血塗!? つーか、虎杖も居やがるしッ!! 何がどうなってんだよ、渋谷は!?」

 

『ご主人っ、このままだとパパも、パパのお友達も死んじゃうっ……!』

 

「分かってる! ──とりあえず行くぞ! 羅喜、背負ってくれ! 俺の足じゃ空経由しても遅え!」

 

『前も言ったけど、私の飛行速度は遅いわよ』

 

『空を飛ぶのか? なら、儂の術式を使えばいい』

 

「ッ!? 漏瑚の術式って空も飛べたのかよ!?」

 

『「火礫蟲」。羽の生えた小型の呪霊だ。敵に放ち着弾と共に大音量の声を発し敵を怯ませ、大爆発を起こさせる使い方が主だ。人1人を吊り下げて空を飛ぶなど造作もない。先程の宿儺との戦いでは儂もそうしていた』

 

 キィキィ喚く小型呪霊を、頭頂部の火山部分から出現させる漏瑚。1匹でさえ春夏を持ち上げるには十分で、2匹も出現させてしまえば……。

 

『あの呪力を目指せ、火礫蟲』

 

「────ッ!?」

 

 漏瑚の一声で、呪力で強化していなければ全身の骨が砕け散りそうな程の初速で飛び始める。漏瑚と茨木童子は、契約者である春夏の中へ溶けるように消えていき、マコラは彼の影の中にトプンと潜る。

 そして虎杖、脹相、壊相、血塗を追い掛けている魔虚羅の脳天にまるで隕石のような凄まじい勢いで着地を果たしたのであった……。




次回────春夏vs魔虚羅、再び?

ちなみに宿儺の領域の範囲(半径100m)には、民間人は居ません。
狗巻&九相図三兄弟が既に民間人を避難させた区域だったことで、漏瑚しか刻まれていません。

良かったね虎杖、大量虐殺しなくて済んだよ。
でも大量破壊はしてるから、死滅回游ではその罪で一旦裁かれてね。

今、本作とは別作品としてモジュロ編を書いています。「本編が終わったら、オマケを挟んでモジュロ編に」と思っていたのですが、オマケの話数が思ったより増えちゃった(18話もある)ので、アンケートに投票頂けますと幸いです。

  • 本編→オマケ→モジュロ編の流れ
  • 本編→オマケとモジュロ編は並行で
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。