とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

34 / 37
第34話:渋谷事変⑨ 救助

 

『……え、何? 傀儡操術って死後も操れんの?』

 

『さぁナ。もっと鍛え上げたり、雁字搦めに縛りを結べば、それすら可能になるかもしれなイ。尤も、俺は生きているがナ』

 

『は? バカ言うなよ、あん時しっかり殺したろ? 亡霊は亡霊らしく、大人しく成仏しときなよ』

 

『──簡易領域での身体破壊、領域の使用、術式の焼き切れなどが重なった結果として、呪力の探知も荒くなったんだろウ。死に至るその瞬間まで、俺は呪力を極限まで抑えて息を潜めていたんダ。お前と夏油、いや、羂索は、それを見落としていたんダ』

 

『……!?』

 

『俺は今、安全な所にいル。この上なくナ。そしてそこから各地に監視用の小型メカ丸を派遣する事で各班に現状を伝達済みダ。連絡役である補助監督が殺られる事は知っていた(・・・・・)からな。勿論、この作戦が失敗し死んだ時の為、または準備が遅れた時の為の保険も用意しておいたんダ。ギリギリだったがナ』

 

『な、に……!?』

 

 現在、虎杖の手元にある「メカ丸の保険」は既に機能を喪失している。あの漏瑚との戦闘で壊れたのではなく、メカ丸の用意が整った事で保険としての存在意義を失ったのである。

 

『どうすル? 俺を殺しに来るカ?』

 

『どこに居るかも分かんねーヤツをどう殺すんだ、アホくさ。もうお前には構わないから、お前ももう俺達に構うなよ。互いに不可侵、それでいいだろ? 一瞬でもマトモな肉体になれたんだ、感謝しろよ』

 

『一瞬? 違う、死ぬまでダ。これに関してのみ、お前に感謝しているヨ』

 

『──意味分かんねー。あの絶体絶命な状況下で、どうやって生き残ったワケ? 俺の無為転変って、ほぼ確殺だろ? 肉体が壊れた瞬間も見たのにな』

 

 暫く黙り込むメカ丸。その緑の目にはヘラヘラと口元を緩めている真人しか映っていない。

 

『──そうだナ。1つだけ、教えておいてやろウ。俺が生き残ったワケをナ』

 

『もったいぶるなよ、見かける度に壊すぞ?』

 

『渡辺春夏ダ』

 

『……は?』

 

『虎杖悠仁の心を追い込む為のつもりカ、お前は、やたら改造人間を放っていタ。しかしそれらは殆ど高専に回収されていル。知っているだろウ?』

 

『知っているさ。死んだ改造人間は一般社会で処理できるような死体じゃない。そりゃ高専で処理するだろうさ。でも、それが何だと言うんだい?』

 

『無闇矢鱈に改造人間を放ったのが裏目に出たナ。渡辺春夏は狂っているゾ、あれらの死体を利用してお前の「無為転変」への対策を編み出していル!! もう高専の術師は誰も改造できないゾ、真人!!』

 

『……よく分からないけど、無為転変が効かないならそれ以外の方法で殺せばいい。俺の殺しの手段は、別に、無為転変だけじゃないんだから』

 

『──そう思うんなら、そうなんだろうナ。お前の中ではナ』

 

『は?』

 

『こっちの話ダ。後は自分の目で見てみるといイ。ネタバレし過ぎるのも、良くないからナ……!!』

 

 ニヤけたような、真人をバカにするような声が、メカ丸のスピーカーから聞こえる。それに不快感を示した真人は、手をモーニングスターのような形に変形させ、ガシャンとメカ丸を殴り壊すが。

 

『バカが……八つ当たりとは、子供みたいだナ』

 

 その声の後に、メカ丸の残骸は爆発四散。欠片が爆風と共に真人を襲うが、魂に響かない攻撃では、あまり大したダメージは与えられない。

 

『俺の術式が通じないって、どういう事だろ。改造人間の死体なんか使って、対策なんてできるのか? 渡辺春夏──お前は一体、何を考えているんだ?』

 

 ◆

 

『緊急事態だ、渡辺春夏!!』

 

「うわぁっ急に耳に現れるな! 物理法則もクソも無いのかよお前! 前みたいにドローンで来い!」

 

『お前も大概だろウ。それより緊急だ、話を聞ケ。渋谷駅で七海1級術師、禪院特別1級術師が焼けて死にかけていル!!』

 

「七海って、虎杖が言ってた『ナナミン』だよな。てか、禪院って……まさか直毘人さんが!?」

 

『そして禪院真希もそこに居ル! 悪いが、早急に対応を頼ム。冥冥は羂索と交戦直前に飛んだ、今はどこに居るのかよく分からなイ。パンダと日下部もそこに向かっていル、だが回復させられるのはお前だけダ。井之頭線、渋谷駅アベニュー口だ、そこに向かってくレ!』

 

「クッソ、急いで家入さんのとこに連れていくしか無さそうだな……! おい漏瑚、オメーだろ!?」

 

『ぬぅ……謝らんぞ、陀艮の仇討ちだったのだ!』

 

「ぬぁにほざいてやがんだアホ! 宿儺と再戦とかさせないで取り込んでやるぞ!?」

 

『貴様ッ縛りを破る気か!?』

 

「再戦させるなんて縛りは結んでねーよ!!」

 

 半身だけ顕現させた漏瑚を見たメカ丸は、ハッと息を呑む。漏瑚は溜め息をつきながら火礫蟲を出現させて、春夏の背中を持ち上げ、飛行を開始した。

 

『オイオイオイオイ、どういう状況だコレハッ!? どうしてその呪霊がお前の中から出てくル!?』

 

「? あー、コイツと契約したから。宿儺に負けてボロボロだったからな。見捨てるのもしのびねぇしどうせなら利用してやる、ってよ」

 

『ボロボロだったら祓えヨ……呪術師失格だナ』

 

「はっ、裏切り者のメカ丸くんがそれを言うか?」

 

『……』

 

 呪術師失格、裏切り者の彼にはその言葉が手痛いブーメランになってしまったのだろう。それっきりメカ丸は黙り込んでしまった。

 そして、メカ丸に指定された場所に行くと。既に日下部とパンダが到着していて真希を運び出そうとしていた瞬間だった。

 

「日下部さん、パンダ! 来てたのか!」

 

「春夏! 無事だったか!」

 

「俺ぁヨユーのよっちゃんイカよ、羅喜もマコラも居るからな!」

 

「おい渡辺、五条が封印されたってマジなのか?」

 

「マジッスよ。でももう解放したから大丈夫。今はもう、家入さんトコに運んで休ませてるんで」

 

「休ませ……オイオイ待て待て、この状況をどうにか出来んの、五条だけでしょーが!?」

 

「封印前に毒でやられたみたいで、解放したあとも会話できそうになかった。つーか、意識があるかも分からない。結構、ヤバい状態です。とりあえず、できる事は俺達でやっておきましょ。日下部さんも手伝ってください」

 

「つってもな……怪我人の運搬しかできんぞ俺は」

 

「十分。──直毘人さんは念入りに焼かれてるな。強いからって、ふざけやがって……バカ火山!」

 

(どいつが宿儺の地雷か分からなかったのだ。地雷ではないと確証があるヤツなら、確実に殺す為にもよく焼くに決まっとるだろうが……)

 

「全く、どうなってるんだ、渋谷は? 特級同士がやり合ってたし、夏油の遺志を継ぐとか言っている呪詛師連中も湧いてきたし! ──まぁアイツらは逃げ遅れてペシャンコだろうが……」

 

「ペシャンコ? 何か落ちてきたんすか?」

 

 真希より火傷の度合いが酷い直毘人に、マコラとマコに反転術式を使用させつつ、近くの担架入れを壊して担架を持ってくる春夏。*1

 

「五条と虎杖の言っていた、火山頭の特級だろう。そいつが宿儺に攻撃を仕掛けたんだがな、パンダと俺、それから何人かの呪詛師連中は巻き込まれた。色々あったとはいえ、俺とパンダでも回避でやっとだったんだ。アイツらなら死ぬだろう」

 

「ふーん……」

 

「……というかその、渡辺──1つ、聞きたい」

 

「なんです?」

 

白いの(・・・)……なんか2人に増えてないか……??」

 

「増えてるな。俺にも2人に見えるぞ」

 

「お小言は伏黒に言ってください。アイツが式神を使った自爆テロを実行したからこうなったんで」

 

「??」

 

「……言わんとする事は分かった。だが1年の担当は俺じゃなく五条だ。アイツに説教させるさ」

 

「ッスね。──ところで、七海って人は?」

 

「「そういえば……」」

 

 そこには、直毘人と真希の2人しか居なかった。

 

 ◆

 

「ハァッ……ハァッ……アアァァアァッ!!」

 

 目を覚ました七海建人はその頃、別の場所で改造人間を殺していた。渋谷駅は──いや渋谷は、今も改造人間で溢れ返っている。術師が、補助監督が、逃げ遅れた一般人が1人も余計に傷つかぬように。

 ──いや。そんな想いすらも、もはや彼の中には無いのかもしれない。

 

 どこか遠くの島で、ゆっくりと。

 この戦いが終わったなら休みたいと、積み上げた本を読んで過ごしたいと、大型連休を目前に控えた社会人特有の、希望的な願望を──ただひたすらに連ねているのかもしれない。

 目の前の戦いすらもまるで物語の一部のような、自分ではない、他人の事のように思えるような。

 そんな平和な妄想の世界へと、七海建人の思考を導いていたが。

 

「……居たんですか」

 

『居たよ、ずっとね。……あ、ずっとではないかな。君が立ち上がったあたりから、見ていたよ』

 

 ──彼、真人の手が、残酷な現実の中へ、七海の平和な思考を引きずり下ろしてしまう。

 そして二言三言、言葉を交わすが。そこに高専の術師──虎杖悠仁が、駆け付ける。

 

「ナナミン……!」

 

「……虎杖くん」

 

 真人の口角が、厭らしく吊り上がる。

 

「……あとは頼みます」

 

 真人、七海建人に「無為転変」を使用。

 七海の肉体は風船のように膨れ上がり──そして弾けることなく萎むと。そこには、火傷も何も無い無傷の七海建人が居た。

 

「『……は……?』」

 

『無為転変』──だよな、真人ォ……!!」

 

「はぁ……!?」

 

 虎杖悠仁、真人の「無為転変」を使用することで七海に掛けられた真人の「無為転変」を中和、否、それどころか、遅れて発動させ(・・・・・・・)上書き(・・・)する事により陀艮戦、漏瑚戦による怪我すらも反転術式のように治癒させてしまっていた。

 その有り得ない光景に真人はフリーズ、そして、命を救われた七海もまた、同様に。

 

「虎杖く──」

 

「ごめん、ナナミン。楽に、なりたかったんだな。でも、ナナミンが……誰かが死ぬのはイヤなんだ」

 

「……!」

 

「勝手に生かしてごめん。これは俺のワガママだ。だから、一緒に戦ってくれとは言わないよ。もう、俺に任せて──ナナミンは、休んでいてくれ」

 

「ッ。……!」

 

 突如、七海の大腿に激痛が走る。そこには1つの小刀が深々と突き刺さっていた。纏う呪力は虎杖のモノだと感じる。しかし、込められている術式は。

 

「虎杖くんッ!!」

 

 その小刀を抜くと、未だに呆然としている真人を突き飛ばし、虎杖の元へと駆ける。その動きはつい先程まで死に掛けていたとは思えないほど快活で、まるで元気だった頃の七海そのもの。

 虎杖を呼ぶその声すら、今の彼にとって何よりの褒美とも思える程に、虎杖悠仁の涙腺を刺激した。

 

「ナナミン……!」

 

「申し訳ないッ。呪術師とはいえ、まだ子供である君を、戦場に置いていこうとしてしまった……!」

 

「いいんだ。休んでて、ナナミン。身体は戻っても呪力も、スタミナも、まださっき(・・・)のままだろ?」

 

「っ、しかし……」

 

「大丈夫。俺はもう──負けないから」

 

「……」

 

「近くに家入さんが来てるんだって。だからまずは治療、受けてきてよ。多分、中身(・・)は傷付いてるままだと思うから……」

 

「…………では、これを」

 

「!」

 

小刀の呪具(コレ)ですよね。私を救ってくれたのは」

 

「……あぁ。ありがとう、ナナミン」

 

「それは、私が言うべき言葉です。……すみません。一時離脱します。すぐに戻ります」

 

「戻んなくていいって、休んでてってば!」

 

「いえ、戻ります」

 

「ナナミンのわからず屋ぁ!」

 

 自分の血に濡れた小刀を軽く手で拭き取るなり、七海はそれを虎杖に渡し、家入が待機していそうな場所を探して向かい始めた。

 もちろん、途中、置いてけぼりにした直毘人と、真希の元へ向かうのは忘れずに……。

 

 ◆

 

『そろそろ起きなよ、ザコザコおじいちゃ〜ん♡』

 

『そ、そういうことは言っちゃダメだよ、マコっ! おじいちゃんだって頑張ったんだからっ!』

 

『焼かれた程度で死にかけるのが悪いんじゃん♡』

 

『そうかもしれないけどっ! 頭で思ったからって口にしちゃダメって事もあるんだよっ!』

 

「頭が痛いなコリャ。渡辺、お前、人外でハーレム作る気か?」

 

「しかも子供を2人も囲うってのはちょっとなぁ。パンダならまだ分かるのに」

 

「俺の意思じゃないってば……」

 

 と、その時。

 

「……皆さん、お揃いですか」

 

「うおっ!? 七海さん、なんで上裸!?」

 

 少々日本人離れした彫りが深めの造形の金髪男、七海がその場に現れた。この人がナナミンか──と春夏は、遠巻きに七海を見ていた。作戦説明の時にちらりと見ただけだが、今も、取っ付きにくそうな重い雰囲気を纏っている。

 虎杖は極めて根明なので誰にでも懐けてしまうのだろうな──と、羨ましいような想いも抱きつつ、何故その七海が自分の方へ真っ直ぐに向かってくるのかと軽く困惑もしていた。

 

「あなたが渡辺春夏さんですね」

 

「そう、ですけど……」

 

「ありがとうございます。あなたの呪具のおかげで命を拾いました。真人という呪霊の術式が、無効化されたのです。──あなたの呪具ですね?」

 

 七海は優しい視線を向ける。取っ付きにくそうな雰囲気、それを倍増させるようなドスの効いた声、カタブツと言われても仕方ない雰囲気──それらを全て打ち消すような優しい目を、彼に向けていた。

 彼が前に立ったことで、らしくない程に一瞬だけビクリと身体を震わせた春夏だが、七海のその目にほんの少しだけ警戒を緩めた。

 

「……ちゃんと効果、発揮したんだ。良かったです」

 

「良かった、とは……?」

 

「実は、家入さんの協力もあって真人対策の呪具を量産できたはいいものの。その効果、全く以て検証できなかったんです」

 

 というのも。真人の術式「無為転変」を防ぐには魂を知覚している事が前提のような所があるのと、魂を知覚している・していないを問わず、そもそも元の魂の形を把握していなければカウンターとして発動させても不発に終わる可能性があるからだ。

 メカ丸は一度「無為転変」を受け健康体に成った経験があるので、健康体になった後の己の魂の形を把握しているものと推測される。

 虎杖は、魂を宿儺と同居させている影響だろう。

 下手をすれば死んでいた、半ば賭けのような方法だったのだが、虎杖はそれを知らない。製作者たる春夏も、そこまで知らないからである。

 

「成程。だから、外見上は修復できていても、私の疲労や消費した呪力、体力は変わらないのですね」

 

「多分、そゆことですね。すみません、流石に完全無効化まではできないっぽいですね……」

 

「いえ。確かに発動した『無為転変』が無効化した感覚はありました。健康な時に巻き戻す感覚とでも言いますか。失った左眼も、外見上だけでなく機能しています。何にせよ、助かりました。ありがとうございます」

 

「いえいえ、それが俺の役目ですので……」

 

 深々と頭を下げる七海に合わせるように、春夏も同様に深々と頭を下げる。春夏の「無為転変無効化呪具」を使用したのは、メカ丸、そして七海だけ。春夏にしてみれば、被験体の七海の存在そのものがデータ集めに寄与してくれているようなもの。

 そして何より、製作者たる春夏もうっすらとしか認識していないが、「無為転変」の原理からするとこの呪具を使用した治癒は、何度も行わない方が、本人の為になるだろう。

 何故なら、真人の無為転変により傷付いた魂は、形だけを捏ねくり回して外見だけを整えていても、本質的に傷だらけの状態なのは変わらないからだ。

 傷付いた魂の形は、完全には、元に戻せない。

 

「七海さん、でしたね。──とりあえず、お疲れ様でした。まずは家入さんの治療を受けて、ゆっくり休んでください」

 

「いえ。軽く治療を受けたらすぐ戻ります。まだ、虎杖くんが真人と戦っている……。今の私は、彼に、逃がされてきたのです。……情けない限りです」

 

「虎杖が……。怪我人を運んだら、俺が行きますよ。俺、まだ元気ピンピンですし──真人を利用して、試したい事もあるんで。丁度いいです」

 

「しかし……」

 

「大丈夫です。俺も1級ですから。いざとなれば、奥の手でも使いますよ」

 

 それからしばらく春夏と七海は押し問答のようなものを繰り返し、とうとう七海が折れた。怪我人の運搬をすると共に休め──と日下部からも同じ事を言われるようになったからだ。

 直毘人は右腕が欠損し、全身が焼け焦げ。真希は髪が焼け焦げ顔にも大火傷を負ってしまっている。マコラとマコのダブルでの反転術式により、欠損は治らないものの、それらの火傷は緩和されている。直毘人も、漏瑚が原因で死ぬ事は無いだろう。

 

「申し訳ない。渡辺さん、虎杖くんを頼みます」

 

「任せてください」

 

 ガッチリと固い握手を交わして、七海は日下部とパンダ、彼らの背負う真希と直毘人と共にこの場を離れた。

 場に1人取り残された春夏は、真人と戦う虎杖のサポートをすべく、その場から走り出す────。

 

 ◆

 

『────ハハッ、モロじゃん!』

 

 無為転変が使えない分身と戦闘していた釘崎は。本体と分身が入れ替わった事に気付かず、呆気なく本体の手に顔を触られ、術式を発動された。

 

(あの七三術師は無意識で魂を守ってたようだけどコッチはどうかな?)

 

「虎杖。…………悪くなかった!」

 

「釘崎ィィィィィッッ!!!」

 

「──なんて言うワケ無いでしょうが! 遺言とかガラじゃないっつーの!!」

 

「『!?』」

 

 一瞬、釘崎の左眼辺りの皮膚がズッとズリ落ち、弾けるように見えたが。釘崎がとある部位に呪力を込めると、それが巻き戻されたかのように、瞬時に修復してしまう。

 

「チッ、やっぱ一発で壊れちゃったわね……」

 

 腕を振ると、袖から、パラパラと小さな金属片が落ちる。それを見た真人と虎杖の声は重なる。

 

「『画鋲……?』」

 

「春夏先輩特製『無為転変無効化呪具』らしいわ。コレを常に身体に仕込んでおいて、ソイツが術式を使うと同時に私自身もコレに呪力を流して、術式を発動させる。すると、無為転変同士が打ち消し合い無効化される──ってな説明だったかしらね?」

 

『ハァ??? 意味分かんねぇよ、何だよそれ!? そんなご都合主義が通ると思ってんのか!?』

 

「ご都合主義も何も、テメーがバカスカ改造人間を放ったから『対策』された、っつーだけだろーが。完全に自分で自分の首を絞めてんの理解してない? やっぱバカだな、お前。それともさっきブチ込んだ共鳴り、まだ効いてんのか?」

 

『ッッ……!!』

 

「けど釘崎、一発で壊れちゃった、って……」

 

「呪具の『器』が画鋲だからね。相殺できる程度の呪力を流したら敢えて壊れるようにしたらしいわ。敵に盗まれないように、使い捨てだって」

 

(! じゃあ、無為転変を何度も無効化できるのは俺が渡されたこのナイフだけって事か。いや待て。つまり、今の釘崎は──)

 

『なんだ、メカ丸のヤツ! 高専術師には効かないとか言っておいて! 1回だけでもその呪具というカードを切らせておけば──! その妙な呪具さえ壊してしまえば、普通に効くってコトじゃんか!』

 

「「!!」」

 

 真人は下卑た笑いを浮かべ、釘崎の方へと走る。

 そう、真人の言う通り春夏の呪具さえ破壊すればもうその人間には「無為転変」を防ぐ手段は無い。しかも敵の呪霊や呪詛師などに盗まれて悪用される可能性を考慮し、春夏は1人につき1つ──しかも学生にしかそれを配布していないのだ。

 釘崎は既にそれを使用した。もう彼女の身を守る呪具は存在しない。虎杖は慌てて、釘崎を殺そうと迫る真人を追う。

 

「させるか! 『無為転変』ッッ!!!」

 

『ぐっ……!?』

 

「ナイスアシスト、虎杖! 『簪』ッッ!!!」

 

 真希から借り受けたワイヤー射出機を無為転変が込められた小刀に結び付け、数回頭上で回転させて勢いを付けてから、投擲。彼の命中精度は凄まじく小刀は見事に真人の右のふくらはぎを切り裂くと、虎杖は同時に無為転変を使用。

 走っている中でグニャリと足が変形し折れ曲がる事によって、真人はバランスを崩しそのまま釘崎の前で転んでしまう。

 転倒する最中、釘崎への攻撃ではなく自分の足の修復に無為転変を使用してバランスを保とうとしたお陰で隙が生まれ、釘崎の攻撃が、そして「簪」が同時に何本分もヒットしてしまう。

 

『ぐげぁぁっ……!?』

 

「真人ォオオッッ!! ──『黒閃』ッッ!!!」

 

 床に転げ回る真人に、渾身の蹴りを入れる。その刹那、空間は歪み、呪力は黒く光る。

 

「一瞬でもクソみたいな激痛を味わわせてくれた、そのお礼よッ!!」

 

 呪力で最大限強化した金槌を真人の頭にブチ込む釘崎。こちらもまた空間は歪み、呪力は黒く光る。真人は息も絶え絶えな様子で細かく分裂し、逃走を図るが。

 

「なんか──サイッコーに、気分がノッてる♡」

 

 バララッと何本もの釘を浮かべるとそれを一度に射出。小人のように小さくなった何人もの真人に、それらの全てがヒット。真人1人につき1本の釘が刺さり、釘崎は同時に呪力を流し。

 

「明らかに『当たり』なのが1匹、いるな。けど、どうせ呪力で釣ってんだろ? 『簪』ッ!」

 

『待っ』

 

 釘崎野薔薇の芻霊呪法は、魂へと響く。よって、釘崎もまた真人の天敵である。真人は分身を通してそれを感知していたが、自分が直接的に、そして、何本も同時に「簪」を受けた事によってか、本気で命の危機を察知していた。

 何体もの分身のうちの1体が大きめの呪力を纏うことで「核の部分」と誤認させようとするが釘崎はそれも含めた全ての分身に同時攻撃をする事により撹乱を突破する。脳筋な戦法だが案外これが効く。

 

『ぶげぁぁ……!!』

 

 ボロボロになった分身を1つにまとめ、今度は、己自身が鳥に変形して地上に飛び出そうとするが。

 

「行かせるかよ、真人ォッ!!」

 

『だからっ……カウボーイかよお前はぁぁっ!!』

 

 翼を広げて空に飛び上がった刹那──ワイヤーが付けられたナイフが再び、真人の脳天を貫く。彼の無為転変は虎杖により無効化され、そればかりか、虎杖の思い描く形へと真人を作り替えてしまう。

 間違っても人型には見えない、言語を介さぬ呪霊らしい、灰色の体色をしたバケモノに。

 

「ブッ殺してやる……真人……!」

 

『あ……あぁあっ……』

 

 その時、空飛ぶマンタのような影が地面に移り、それと同時に1人、空から軽快に飛び降りてきた。

 

「──助けてあげようか? 真人」

 

『げとぉ!!』

 

 最悪の呪術師──羂索が、現れた。

*1
春夏個人に適応している為、春夏以外への反転術式の効率は極めて低い。来栖の件からして、乙骨くんと家入の2人でも腕は生やせない事から、マコラとマコでも直毘人の腕は生やせないということで。




七海が春夏を「渡辺くん」ではなく「渡辺さん」とさん付けで呼ぶのは、春夏は社会人として独立した経験があるからです。
学生としてではなく対等な社会人として見てます。
それ故のさん付けです。



東堂「俺の出番は無いのかい?」
(強すぎるから)ないです。
メカ丸が東京に行かせようとしなかったようです。

メカ丸は、表向きには死んでいます。なので一応、裏切りについては不問という形になっていました。
しかし罪を被る事になっても皆と一緒に過ごしたいという思いから、メカ丸は己の生存を京都校の皆に打ち明けました。歌姫も含めて。
裏切りの経緯などを話せば──と思っていましたがメカ丸のその思惑通りに行き、歌姫は聞かなかった事にしてくれ、生徒達もメカ丸を庇ってくれる事になりました。
とりあえず、時間は少し掛かるでしょうがメカ丸は社会的にも(呪術界的にも?)復帰はできそう。
三輪ちゃんとくっつく日も、遠くないと思われる。

楽巌寺学長はメカ丸の生存について知りません。
歌姫はメカ丸の話を「聞いていなかった」し、皆はメカ丸を庇う気満々なので口裏を合わせてくれてるようです。

ちなみにメカ丸は、京都校の忌庫に潜伏中です。
罪人本人が、拠点の重要な区域に居るワケがない。
そういう心理を突いたようです。
灯台もと暗しやね。

今、本作とは別作品としてモジュロ編を書いています。「本編が終わったら、オマケを挟んでモジュロ編に」と思っていたのですが、オマケの話数が思ったより増えちゃった(18話もある)ので、アンケートに投票頂けますと幸いです。

  • 本編→オマケ→モジュロ編の流れ
  • 本編→オマケとモジュロ編は並行で
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。