とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第35話:渋谷事変⑩ 終戦

 

『げとぉ!!』

 

「助けてあげようか? 真人」

 

 不敵な笑みと共に真人の前に現れたのは、最悪の呪術師、加茂憲倫──の中の人である羂索。虎杖と釘崎は、ボロボロになってしまった真人が、今にも縋ろうとしているその術師に、近付けないでいた。

 その立ち姿は彼らの知る誰よりも隙が無く、腕を組んで突っ立っている──言ってしまえばそれだけだというのに、どこか、寄せ付けさせない雰囲気を醸し出していた。

 

「なんだよ、お前は……!」

 

「! ほらアレよ、血塗が似顔絵を描いたアレ!」

 

「────! 夏油傑ってヤツか……!」

 

「それも数ある名前のうちの1つだ、好きに呼ぶといいよ」

 

『げとぉ……』

 

「ふふ。思ったより早く追い詰められたようだね。君の成長をもっと見ていたかったけど、渡辺春夏の邪魔が思ったより効いてしまったようだ。残念だ、本当に。……本当に、心から、残念に思うよ」

 

 そう言っている羂索の顔は、ニタニタと厭らしい笑みに満ち溢れていて。

 真人を助けるつもりは無さそうだと、虎杖達にも真人本人にも伝わるが。何か、よからぬ事を企んで実行しようとしている──そう全員が察していた。

 

「オマエ、真人から離れろ……!」

 

「どうしてだい? 私は、君達の敵を『処理』してあげようとしているだけだよ?」

 

「いいや違う。春夏先輩がそいつの術式を利用して呪具を作ったように、アンタもきっと真人(ソイツ)を使って何か企んでるんでしょーがッ!!」

 

「……クックックッ…………鋭いね」

 

『──!!』

 

 真人はガバリと起き上がり、羂索に飛び付く形で触れて無為転変を発動させようとするが。羂索は、彼の飛びつきを事も無げに受け流して……。

 

『知ってたさ。だって俺は、人間(おまえたち)から、生まれたんだから』

 

 呪霊操術を発動させる。虎杖と釘崎の手によって祓われるハズだった真人は変声機で声を変化させたような奇妙な悲鳴を上げながら、羂索の手の中に、紺色に光り輝く球体として収まってしまった。

 

「泥のような色よりは綺麗だよ、真人。仮に今より更に成長できていれば、紺より美しく光り輝いたのかもしれないね。寒色系……そう、水色とかかも」

 

「あっ……!?」

 

「うげっ!? 真人を飲んっ……」

 

 羂索は、真人だったその球体を、大口を開けて、ゴクリと飲み込んでしまった。

 

「────羂索ゥッ!!」

 

「……来たね」

 

 するとそこに七海の代理で虎杖のサポートをしに春夏が現れた。直毘人や真希などの怪我人の搬送を終えた日下部とパンダの他にも、重面を夜蛾正道に引き渡した九相図三兄弟も、その場に集合しては、夏油傑の皮を被った羂索を囲う。

 九相図三兄弟──いや脹相は、羂索を見るや目を酷く血走らせて。怒りに震え、それに呼応するかのように呪力が立ち上る。

 

「気付いたようだね」

 

「──加茂憲倫ぃぃぃぃっ!!!」

 

「えッ!? 兄さん、それは……」

 

「あの父親だろう!? アイツがそうなのか!?」

 

「あの縫い目! そうだ! 既視感があるとずっと思っていたんだ! よく分からないが身体を転々としているんだ、そうして今は夏油傑の肉体に宿って今回の呪術テロを起こした! そうだろうッ!?」

 

「ふふ。君のような出来損ないでも、必要最低限の理解力はあるようだね。加茂憲倫も夏油傑と同様、数ある名の1つに過ぎない。好きに呼びなよ」

 

「弟と! 弟達を! よくも殺し合わせたなァ!! 加茂憲倫ィィィィッッ!!!」

 

 目を血走らせ、羂索にズンズンと歩みを進める。

 脹相の「弟達」、これは壊相と血塗の事だろう。これは周知の事実。ならば、この2人と殺し合いに発展した者──その中で「男」なのは……。

 

「虎杖……一応聞くけど、他人だよな?」

 

「他人どころか、会う度に殺されるかと思うくらい殺気ぶつけられてるよ。けど、さっきから、何故か俺んことまで弟認定してんだよ、アイツら」

 

「──東堂といい、ヤバイフェロモンでも出てるんじゃないのか?」

 

 などと茶化すパンダだったが、虎杖の出自を一切知らない者達からすれば、その茶化しが、茶化しに聞こえないから不思議なものである。

 茨木童子を寝取ろうとした羂索に対し並々ならぬ殺意を抱いている春夏以外は、思わず笑う者、口の端が釣り上がる者、または引き気味に笑う者が大半だった。

 真面目な顔をしているのは、怒りに燃える春夏と三兄弟だけである。

 

「五条悟の封印、茨木童子の確保──。どちらにも失敗してしまった。真人の成長も中途半端。全く、神というものが存在するなら呪いたいよ。だがまぁそれと同時に思わぬ収穫もあった……」

 

(──春夏)

 

(殺るぞ)

 

 脹相は春夏に目配せ。彼はまばたきでそれに頷くように肯定の意を示すと、同時に走り出す。

 すると羂索とそんな春夏、脹相の間に白い着物のおかっぱ頭の女が、横からのスライディングで急に割り込んでくる。

 

「引っ込め三下共。これ以上、私を待たせるな」

 

「どけ!! 俺達はお兄ちゃんだぞ!!」

「どけ!! 俺は旦那だぞ!!」

 

 脹相と春夏は呼吸を合わせたかのようにピッタリ同時にその女に叫び、あわや戦闘が勃発──すると思いきや。

 

「まぁまぁ。余興は楽しもうじゃあないか、裏梅。君は少し、心に余裕を持った方がいいよ」

 

「貴様はどれだけ時を無駄にするつもりだ……!」

 

「はいはい、じゃあサクッとやっちゃうか。──とその前に。何にも分からない君達に向けて軽くだけ解説しておいてあげようか。呪霊操術は……」

 

「「黙れクソ親父(羂索)ッッ!!!」」

 

「黙るのは貴様らの方だ────!」

 

「「!?」」

 

「んなっ……先輩!」

 

「マジか……!」

 

 氷凝呪法「霜凪」──フッと息を吹きかけ春夏と脹相の身体を氷漬けにする。虎杖とパンダ、更には壊相と血塗、遅れて日下部も飛び出すも、回避する猶予も無く同じように氷漬けにされてしまう。

 下手に動けば全身が砕け散る、そう直感する程に凄まじい凍結。まさに文字通り「骨の髄まで」凍るような感覚であった。

 

「この程度の氷……!」

 

 脹相は赤燐躍動にて体温を上げ、裏梅と呼ばれた女の術式による凍結を溶かそうと試みる。すると、それに苛立った様子で、裏梅は脹相の前に立ち。

 

「どの程度だ?」

 

 ピキピキと氷を徐々に伸ばしそのまま脹相の目へ突き刺そうとするが。

 

『隙ありっ!』

 

『足止めして嬲るとか、だっさぁ♡』

 

 白く幼い式神が2人、春夏の背後から出現する。1人は春夏を蹴飛ばし彼の凍結を解除させ、1人は脹相の前に立つ裏梅の背後に回り込み、右手に剣を生やして背中を切り付ける。

 

『パパのお友達も助けなきゃっ……』

 

「ぐっ……! 私の呪力強化を貫通した……!?」

 

『その程度で強化したつもりなの? ざっこ〜♡』

 

「貴様ァッ!!!」

 

「余所見していいのか? ──『穿血』!!」

 

「今日は俺の強化祭りだな! 極ノ番『求』!!」

 

 マコラは虎杖、パンダなどの救助に向かい。

 マコは背後から裏梅に一撃を入れ気を引きつつ、脹相が穿血を撃ち込む隙を作り。

 脹相はマコの攻撃と煽りに反応した裏梅を一撃で殺さんと、顔を目掛けて穿血を放ち。

 春夏はいつも通りの薙刀──ではなく、今回は、日本刀を誇張して太くさせたような妙な形の太刀を取り出し、それを使い裏梅の術式の産物である氷に対して極ノ番を使い、彼女の術式を強奪する。

 

「あ〜あ〜。渡辺春夏に術式パクられちゃったよ? だから前に出るなって言ったんだよ、裏梅?」

 

「そんなこと一言も言っていないだろ貴様ァ!!」

 

 最大限に強化した手掌にて、穿血を受け止める。しかしそれでも手には穴が開いて、回避を余儀なくされる。反転術式でボコボコと傷を癒すも、どうも様子がおかしい。術式を安定させる事ができずに、マコラがパンダ達を助けるまでもなく裏梅の術式は解除されてしまう。

 

「はぁっ、はぁっ……」

 

「どうした?」

 

「これは……毒か……!」

 

「『穿血』で俺の血が混じったんだ。当然だな」

 

 裏梅に「どうした?」などと尋ねる羂索だったがその顔は、ニタニタとわざとらしい程に気味の悪い笑みを貼り付けている。

 知っているクセに黙っているのか──と、脹相はそんな父親に対して更なる憎悪が湧く。

 

「……嫌な予感がするね。また邪魔者が来そうだ」

 

「逃げるつもりか? ならその首を置いていけ!」

 

「はっはっ、奪えるものなら奪ってみなよ」

 

 春夏は感じていた。大きな呪力の気配が1つ──今ここに迫っていると。羂索が逃げようとしているという事はつまり、少なくとも羂索にとっては敵。こちらにとって味方である可能性も無くはないが、断言はできない。

 どちらにせよ、羂索をここで始末するか最低でも足止めをする必要がある。

 

「──イケるな、漏瑚?」

 

『奴には何度も死にかけるほど振り回されてきた。焼き殺してくれるぞ、夏油──いや、羂索ッ!!』

 

「漏瑚……何故、渡辺春夏と共に居るんだい?」

 

『拾われたのだ。宿儺の手により、死に掛けていたところをな。宿儺の領域を受けた際には、死ぬかと思ったがな』

 

「!? 伏魔御廚子を、耐えたのかい? 君が(・・)?」

 

『フンッ。呪いとしての意地を見せてやったのだ。今は一時休戦という事になっている。渡辺春夏との契約も、存外、悪くはないぞ。来世で、貴様も自ら味わうがいいッ!!』

 

「「!!」」

 

 グッと拳を握る漏瑚。すると羂索と裏梅の足元の地面がゴポゴポ煮え滾る溶岩に変化を遂げそのまま2人は溶岩に沈むかと思われたが。

 

「ふふ、危ない危ない」

 

『宙に浮いた、だと……!?』

 

「オイ、首根っこを掴むな! 猫か、私は!」

 

「焼け死ぬ所だったんだよ? 恨み言を言う前に、まず感謝してほしいところなんだけどね」

 

 溶岩からそのままフワリと浮きながら離れると、マンタのような呪霊を出し、それに乗って、空中を飛ぶようになってしまう。

 

「さっき俺が作ったあの呪具といい、今の、空中に浮かび上がる妙なパフォーマンスといい──お前のもう1つの術式、もしかして浮遊──反重力か?」

 

「ご名答。流石は、あの渡辺道具店の跡継ぎだね。発想だけでなく、勘も鋭いようだ」

 

「けど、何だ今のフワフワした風船みてーな動き? もしかして、俺よりも出力が低いんじゃないのか? 羂索さんよぉ?」

 

「寧ろ、君はどうやってあそこまでの出力を得た? 呪具に落とし込んでさえしまえば、術式でさえ君の術式の対象になるとでも言うのかな? そんな話、君の先祖からも聞いた事がないけれどね……」

 

「だァから、さっき教えてやっただろ。いつまでも古い情報でイキってんじゃあねーぞ、ってな!!」

 

 業龍剡月刀を羂索に向け、漏瑚の術式にて音速を超える速度で熱線を放つ。漏瑚もそれに反応して、春夏と共に大小様々な熱線を放つ事で羂索と裏梅をまとめて焼き殺そうとするが。

 

「速度は『穿血』並。だが言ってしまえばそれまでという事かな。しかも、焼き切る事に特化しすぎて微細な調整は少し難しい……ふむ」

 

「おい羂索っ、マンタ呪霊(コイツ)の尻尾が切られたぞ!」

 

「モーマンタ(・・・)イ。気にする事は無いよ」

 

「凍て殺すぞ貴様」

 

「クックック、凍死させる事って『凍て殺す』って言うの? それとも、君の造語かい?」

 

「口が減らない……!」

 

「……もういいかな」

 

 マンタのようなその呪霊は中々に素早く、そして精密動作性に優れているようだ。脹相の穿血、更に春夏と漏瑚の熱線や弾幕の雨を軽々と潜り抜けて、まだ溶岩と化していない地面に着地すると。

 

「じゃ、そろそろお暇させてもらおうかな。最後に2つだけ、良いモノを見せてあげるよ」

 

「飛んだり降りたり忙しいヤツだな……!」

 

「呪霊操術・極ノ番──『うずまき』」

 

「「は?」」

 

 呪霊が溢れ出し、1つに束ねられる。その中には真人らしきツギハギ顔もあって、恨めしそうな目で羂索を見ている……。

 そして目の前で放たれたその呪力の奔流は脹相と春夏の2人には対処ができず。

 

『フン、この程度……』

 

『欠伸に等しいわね』

 

 必殺とすら思えたその攻撃も、漏瑚と茨木童子の手により呆気なく相殺されてしまうが。

 羂索の狙いは「うずまき」にて春夏と脹相を始末することではなかったのだ。

 脹相と春夏の他、その他の術師達が全員それぞれ身を守る事に徹する中、羂索は、したり顔で地面に手を触れると……。

 

「『無為転変』」

 

「な……っ!?」

 

「説明を最後まで聞かないから、こうなるんだよ。本当、君達は……ふぅ」

 

「……何を、しやがった……!?」

 

「『うずまき』はね。準1級以上の呪霊、まぁより正確に言うと、術式持ちの呪霊になるか。そいつを組み込むと『術式の抽出』ができるんだ。それこそ呪霊操術の真髄と言えるだろう。抽出した術式は、呪霊の意に介さず、術者が好きに使える。ただし、一度だけ。使い捨てなんだけどね」

 

「術式の抽出、って……」

 

「霊装呪法──君の術式に似ているね」

 

「……」

 

「ただ、霊装呪法より使い勝手がいい。なんたって消費呪力は大した事ないし。まぁ、呪霊操術にその呪霊を組み込んだ時点で、成長を止めてしまうのがネックではあるんだけどね。だから、真人のことはもっと成長させてから取り込むつもりだったんだ。勿体無いよ、本当に……」

 

「真人の『無為転変』で──何をしやがった!?」

 

「──マーキング済みの2種類の非術師に、遠隔で

『無為転変』を施した。虎杖悠仁のように、呪物を取り込ませた者──吉野順平のように、術式を所持しているが脳の構造が非術師の者──。それぞれの脳を術師の形に整えた。前者は器としての強度を、後者は術式を発揮する仕様を手に入れ……そして」

 

 懐から、結ばれた紐のようなものを取り出すと。それの両端を引っ張り、結び目を解いてしまう。

 

「今その呪物達の封印を解いた。マーキングの際、私の呪力にあてられて寝たきりになった者も居たがじきに目を覚ますだろう。彼らにはこれから呪力の理解を深める為に殺し合いをしてもらう」

 

「力を手に入れたからって、一般人(パンピー)が殺し合いとかするか? 倫理観が死んでる世界じゃんか」

 

「物事には順序があるのさ。その程度の仕込みを、私が怠るワケないだろう。質問と発想が軽くなってきているよ」

 

「脹相。やっぱアイツ、ブッ殺そうぜ」

 

「ウム」

 

「あ、そうそう。渡辺春夏──そして、茨木童子。君達の縁者も、その中に含まれているよ」

 

「な」

 

『!?』

 

「そして。これが──これからの世界だよ」

 

 羂索の周囲から呪霊が唐突に溢れ出し彼の周囲を覆い尽くしてしまう。漏瑚と春夏が熱線で貫くも、羂索本人に当たったような手応えはまるで無く。

 

「じゃあね、虎杖悠仁。君には期待しているよ」

 

 その言葉を最後に羂索──そして裏梅と呼ばれた女の2人は、その場から姿を消してしまった……。




これで一応、渋谷事変は終わりです。
次回は軽い後日談みたいな感じを予定しています。

虎杖、大量虐殺はしてませんね。良かったです。
でも、そういう「罪の重荷」を乗り越えるのが彼の魅力だと思っているので、自分でも解釈違い的なの起こしています。厄介で面倒な性格してますね。
でも虎杖にはいつでも明るく振舞っててほしいので大量虐殺は起こさせませんでした。
許せ、虎杖ファン。

そろそろ死滅回游が始まります。
こちらも渋谷事変編と同様、原作キャラ達には殆ど原作通りの動きをしてもらう予定なので、あんまり原作通りの描写をする予定はありません。

さて。
東堂、両手が無事だけど、最終戦どうなるんやろ。
予想してみてくださいな。

今、本作とは別作品としてモジュロ編を書いています。「本編が終わったら、オマケを挟んでモジュロ編に」と思っていたのですが、オマケの話数が思ったより増えちゃった(18話もある)ので、アンケートに投票頂けますと幸いです。

  • 本編→オマケ→モジュロ編の流れ
  • 本編→オマケとモジュロ編は並行で
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