とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
その想定で書いてたから、良かった……。
第36話:死刑宣告
「本当にすみませんでした……!!」
「ホントだよ伏黒よぉ〜。魔虚羅を使って自爆テロなんてすんじゃないよ、全く。俺だけならいいが、他の味方を何人も巻き込みかけたんだからな?」
「面目ありません……その人達にも謝罪に行きたいんですが……」
「ヤダよ、教えてやんねー。そいつら、別に伏黒に
『巻き込まれた』なんて思ってないみたいだし?」
「しかし……」
「寧ろ心配してたよ。そんだけ追い詰められてた、大変な目に遭ってたんだ──ってよ」
「ッ……」
渋谷事変から数日後、呪術高専東京校某所にて。
土下座しかねない勢いで春夏に頭を下げる伏黒。その内容は、渋谷事変にて魔虚羅を召喚し、周囲の人間を何人も巻き込んだという件について。
律儀な伏黒は、自身の魔虚羅召喚が周囲の人間に多大な迷惑を掛けたと目覚めて間もなく知ることになり、それを鎮圧したのが春夏であると、虎杖から知らされたのである。
そうして伏黒は、魔虚羅騒動を鎮圧した春夏に、真っ先に謝罪に来た次第である。
目が覚めたのが遅かったのは、やはりダメージが深刻だったからだろう。
「けどさぁ。どうせアホ呪詛師を殺すなら、魔虚羅じゃなくて、渡した『無為転変対策呪具』を使えば良かったろ。それだったら、一発限りだけど伏黒も真人の『無為転変』を使えたんだぜ。多分だけど」
「あ……」
「どんな術式なのかは、作戦を共有する時に虎杖と七海さんから聞いたろ?」
「はい……」
「どっかに落としたワケじゃねーんだろ?」
「ええ、まだ持っています……」
「真人と戦う機会が無かったのはラッキーだった。だけど、あんなクソザコ呪詛師を相手に魔虚羅は、流石にオーバーキルじゃんよ?」
「……はい。ヤケになっていて、先輩の呪具のこともすっかり頭から抜けていました……」
「だろーな。ったく……」
「やはり先輩がバグを起こさせたんですね」
「そうしねーと魔虚羅が俺達を全滅させてたから。伏黒、危うく大戦犯になるとこだったな?」
「はい……」
いつも通りウニのようにトゲトゲした彼の髪も、すっかり萎れたように見えてしまう。それくらい、彼なりに申し訳なく思っているようだ。
「怪我の方は大丈夫なのか?」
「はい。俺が目覚める前に──先輩、怪我人を全て巻き込んで領域展開して、家入さんに全員の治療をしてもらったそうですね。お陰様で、刺された傷も切られた傷も残っていませんでした。──重ね重ねありがとうございました……」
「いいってコトよ。俺も霜焼け治したかったしさ。赤血操術、体温調節もできるんだってよ。いやぁ、呪霊操術も良いけど、そっちも欲しかったなぁ……。でも術式って多すぎると脳ミソが弾けそうで……」
「?」
春夏が呪霊操術を手に入れた事を知らない伏黒は首を傾げる。春夏も、それを誰にも言っていない。せいぜい彼が契約している呪霊、従えている式神。その程度だろう。
「ところで、その、バグが起きた魔虚羅──今回はどうなったんですか?」
「やっぱ気になる?」
「まぁ……自分がやらかした結果、ですから……」
「……おいで、マコ」
『はぁ〜い♡』
ニヤニヤと悪どい笑みと共に、魔虚羅ことマコが春夏の影から現れる。白く長い髪は左右でツインに縛り、その結び目の辺りから翼が生えている。多少マコラとは造形が違うらしい。
『パパ、あんなクソザコ呪詛師に追い詰められて♡ アッサリ自爆選べちゃうんだぁ♡ クソザコパパの命の価値はゼロッ♡ ゼ〜ロッ♡ マコに殴られて死んじゃうくらいのザコザコ♡ きゃははっ♡』
煽るだけ煽って、トプンと影に潜ってしまった。その突然の謎ムーブに春夏も伏黒もフリーズ。特に春夏は、気まずそうに目を逸らし──伏黒は、脳が情報を処理しきれていないという様子だった。
「せ、先輩……
「うん……なんか……メスガキになっちゃったの」
「
「俺も分かんなくて困ってるんだよぉ……」
「魔虚羅✕春夏先輩=カオスだな……頭が痛い……」
◆
「──身体の方はどう? ナナミン」
「お陰様で。ありがとうございました、虎杖くん」
「けど、俺がもっと、ナナミンの事を見ていれば。もっとナナミンと向き合っていれば──多分だけど完全に治せたんじゃないかなって思うんだ……」
「向き合う、言ってしまえばそれまでですがそれはそう簡単にはいきません。虎杖くんより付き合いの長い五条さんや家入さん、伊地知くんでも、きっと虎杖くんの想う通りには、私を治せないでしょう」
「……ナナミン……」
「君が気にする必要はありません。再起不能というワケではないのですから。休養ついでに、気長に、リハビリでもしていますよ。ですから君は、自分にできる事を、精一杯やるんです。君はもう、立派な呪術師なんですから」
「……応っ!!」
七海建人は、外見は綺麗に整っており怪我などもしていないように見えるが。不慣れな
左目の視力は衰え弱視に。右目は正常であるが、その左右の目から入る情報の差異により、彼の脳に殆ど常に微弱な痛みの信号を送り続けている。
漏瑚に焼かれた左半身も、綺麗に整っているし、春夏と家入の2人による治療も受けているものの、筋力が失われ、思うように動けないそうだ。ただ、左半身不随という程ではなくて、純粋に、筋肉量が落ち過ぎたという事らしい。
されど、毛根だけは力強く、頭髪は一切抜けず。
起床後に枕元を見た七海は、静かに口元を緩め、今日も強めの頭痛薬を片手に、リハビリと筋トレに勤しむのであった。
◆
「……どうだ、釘崎?」
「ダメっぽいですね。ギリ光を感じられるくらい」
「そうか……渡辺の領域と私の反転でもダメなら……すまないが、お前の目は、もう……」
「目どころか眼孔周りの骨もちょっとだけ歪んでる気がするけど。まぁ、外見上は大丈夫だし。皆には言わないでおいてください。迷惑はかけないんで」
「あぁ。女の約束だ」
真人の「無為転変」へのカウンターとして自分で同じく「無為転変」を発動させた釘崎野薔薇。一応外見上は健康だし、筋肉が衰えた七海に比べれば、彼女は無傷とすら言えた。
しかし眼球というものは非常に繊細なもので──無為転変により弾け飛びそうだった眼球を、強引にカウンター無為転変で抑え込んだおかげで、彼女の左目には深刻なダメージが刻まれていた。
七海は、陀艮の式神によって食い潰された眼球を新たに生やしたからギリギリ弱視で済んだものの。釘崎の場合は、視神経など細かい部分までは修正が効かず、左目はほぼ完全に失明してしまっていた。
今ではもう光を感じ取ることしかできていない。しかし彼女は、目の機能を確認する為に家入の元を訪れそれを確認し──この左目については、秘密にしておいてくれと家入に頼み込んだ。
そして人知れず、片目になってもこれまでと遜色なく戦えるようにと、訓練を始めた……。
◆
「春夏、すまないが時間はあるか?」
「ん? どした? 脹相が改まるなんて珍しいな」
『どしたん? 話聞こか〜♡』
「マコは出てくるな。──で、どしたの?」
「3人で少し、話をしてね。3人揃っての初任務を綺麗に終わらせてくれた春夏に、ちょっとしたものだけど、お礼としてプレゼントがしたかったんだ」
「春夏、呪具とか呪物とか集めてるだろ? だからこれ、あげるぞ!」
「わぁ、人の手の標本だぁ……なぁにこれぇ?」
血塗に差し出された額縁には、変色してしまった人の手が釘でグッサリと固定されていた。しかし、そんな物をプレゼントされて喜ぶ春夏ではないし、そもそもの話として、この物品の出処が不明過ぎて恐怖すら感じていた。
「私達が捕まえた呪詛師が持っていた、呪具だよ。手首の部分には刃を取り付けられるらしい。それは私が噛み砕いてやったよ。私の背中を見たからね。バチ壊しさ」
「えー、壊相すげぇ……。てかコレ剣なの?」
「うむ。本人は目の前に居たがコレを使って俺達の背を切り付けようとしていたようだ。呪具なのに、自立行動が可能らしい」
ツンと指を触ると、逃げ出そうとしているのか、やたらビクビクと動く謎の手。
「へー、そいつは便利だな。てかよく気付けたな」
「壊相の背中のお陰で、攻撃に気付く事ができた。壊相は俺達の命の恩人だ」
「自分だけではなく、兄さんと血塗の命も守れた。コンプレックスでしかなかった私のこの背中が──少しだけ、良いもののように思えた瞬間だったよ」
「そっか……良かったな。なんなら、もっと有効活用できる方向で考えてみたらどうだ?」
「有効活用……後ろを見る以外にあるだろうか……」
「ほら、口が多いと呼吸しやすくなるじゃん。てか壊相って、その身体で身体機能を損なったりは?」
「うーん、特に無いかな。ムレる以外にはね」
「普通の服を着ると背中が蒸れるのさ、後ろの口で口呼吸してるからじゃねぇ? マスクしてる状態で口呼吸すると、嫌でも蒸れるのと同じさ」
「そうは考えたんだけれど、膿がねぇ……」
「あー確かにそういう問題もあるか。膿んでる所は風通しを良くする、なんてのは医療面でも常識だしこれは仕方ないのかもしれないな」
「膿の悪臭がある分、柔軟剤やシャンプー、それとボディソープ等は、拘り抜いているんだけれどね。他に対策は無いものかな……」
「……背中は仕方ないとしてもさ、他の部分の露出を減らすのが先じゃねぇか……?」
「なっ……春夏まで私の服をバカにするのかい?」
「バカにはしてねーよ、もっと常識人らしい服装にしてくれよって話! ほらその、下はズボン系で、上はタンクトップとか色々あるだろう!? 常識人目線で言わせてもらうが、今の壊相は結構な変態に見えちまってるぜ!? それこそ、渋谷ハロウィンみたいなイベントでもないと外に出せねえくらい! 自覚無いのか!?」
「ぬ、ぅ……!!」
「──堪えろ、壊相」
「兄さん!? どうして……」
「服装もまた俺達が『人間』に交わる為の一歩だ。春夏はお前の為を想って指摘してくれているんだ」
「それは分かるけれど……でも!」
「い、意外だな、脹相……お前なら『おのれ春夏ァ! 壊相の服装を貶すか!!』くらい言いそうだが」
「フン。確かに昔の俺ならば、そう言っただろう。だが、違う。全てが自分の思い通りにはならない。自分から歩み寄る事、それが大事なんだ。人の世で暮らす上での、受け止めなくてはならない現実だと俺は認識した」
「兄さん……」
「壊相。背中を完全に隠せ、とまでは言わん。だがお前の服装を改める必要性がある事は、理解しろ。悠仁が弟だと判明したんだ──つまり壊相、俺達に弟が1人増えたんだぞ」
「!!」
「弟が増えた分、今後はより一層『お兄ちゃん』を遂行する必要がある。もっと『兄』としての自覚を持つんだ」
やっぱ大して変わってねーわ、
自分達が人間側に馴染む努力をする必要があると彼ら自身で気付けた事実に、まるで保護者のように安心できた春夏は、まるで家族を見るようなどこか優しい視線で、3人を見ていた。
「ごめん、私がまだ幼かったんだ。願えば叶うと、言えば全てを受け入れてもらえるんだと、無意識にそう思っていたんだろうね。情けない兄ですまない血塗──分かったよ、兄さん……私、頑張るよ!」
「俺もサポートするから頑張ろうな! 兄者!」
「そうだ。俺も、血塗もサポートする。兄弟共に、頑張ろう。──悠仁は、まずは現実を受け止めて、それからだな」
「末弟の力を求める程のことではないよ。大丈夫。私が頑張ればそれでいい。春夏は、私達よりも長く人間として過ごしているよね。どうか、君も私達を手伝ってくれるかい?」
「──ご丁寧にこんな『お礼』まで用意してくれる律儀な九相図兄弟の頼みだしな。手伝ってやるさ、俺で良ければだけどね」
「君だから良いのさ。呪霊との混血である私達を、人間側に引き入れてくれた……そんな君だからね」
◆
「──失礼します。あの、家入さん……」
「なんだ、伊地知か? 珍しいな、お前から保健室などに来るなんて。見舞いか? 七海は筋トレ中で不在だぞ」
「見舞い、と言いますか。その、五条さんは一体、どうなってしまったのでしょうか……?」
伊地知の言葉に、家入は眉をひそめる。タバコを取り出して咥えて着火させ……大量の煙を吐いた。
「軽い説明は、事変の後に渡辺に聞かされたろう? 毒を仕込まれたのさ。──酷い毒だよ。筋弛緩剤、それも医療の現場では絶対に使わない濃度のモノを主成分に、様々な毒劇物が仕込んであるようだね。ダイレクトに効いてるだろう。どうしてこんなんで生きていられるのか不思議だよ。常人なら──いや私くらい反転術式に慣れていても、きっと、渋谷で死んでいただろう」
それでも五条悟が今も生きているのは、脳という繊細な箇所のみならず、反転術式を使う事に極めて慣れているからである。学生時代からの積み重ねと言ってしまえばそれまでだが、実際、それによって五条悟は今も生きている。
「筋弛緩剤……だから人工呼吸器を……?」
「これは念の為。弱めとはいえ、自発呼吸はできていなくもないし。定期的に検査をしているけれど、濃度は目に見えて低くなっているよ。五条め、意識不明のクセに、反転術式は継続しているみたいだ。全く、ふざけてるよね」
「ええっ!? それなら何故……」
「毒と言ったろ。高濃度の筋弛緩剤に加え、様々な毒がブレンドされている。医学的な毒もそうだし、呪術的な毒も含まれている。ここまで来るともはや医療の限界かもしれない。渡辺のあの領域内でさえ治療不可能だった……お手上げとしか言えないよ」
「そん、な……」
「それに加えて、さっきももう何度目かのオペしたばかり。筋弛緩剤はかなり薄れているから、あとは五条のゴキブリ以上の生命力に賭けるしかないな」
「そう、ですか……」
「あ、そうだ。来たついでだからと言っては悪いと思うが、渡辺に伝言を頼めるか?」
「あ、はい、何なりと」
「『この後13時からオペするぞ』、で頼む」
「……え?」
「単に毒物をブチ込まれ過ぎたからかな。有り体に言えば、慢性的な多臓器不全なんだよ。何度血液を入れ替えても臓器ごと抜いてもダメ。その上で毒に侵される。どこに毒が滞在してるのか不明。医学で説明がつかない事象だし、恐らく呪術的な『毒』がそこに関わっているんだろう──と私は見ている」
「そんな……あの五条さんが……?」
「だから定期的に臓器を抜き、反転で生やす必要がある。渡辺には負担をかけるが、仕方がない。臓器総とっかえの手術は3日に1回で足りるかどうか、というレベルだな。五条の無意識反転で、どこまで臓器を生やせるかは未知数だし、試すのもな……」
「……あれ? 先程も手術をしたのでは?」
「あぁ、アレはただの解剖だ」
「はい!?」
「無意識下での反転術式の精度や速度を確認する為だから、単純な解剖とは違う。勘違いはするなよ。皮膚を切ってもすぐに再生しようとするからオペが毎度大変なんだ」
「は、はぁ……」
◆
「──ハァ? 家にも帰らんと山籠りを開始……?」
「左様でございます」
「誰がやねん? いや渋谷に行ったのは確か……」
「直毘人様にございます」
「そのジジイが、渋谷での任務の後、山籠りを?? いやいや、いい歳して何を考えてんねや……」
「なんでも呪霊に不覚を取ったと。鍛え直す必要があるとの事でした。あの渡辺道具店の跡継ぎ殿も、渋谷におられたそうです」
「渡辺道具店? ……あァ、禪院かどうかもイマイチ分からん、半端モンの渡辺家なぁ。あのクソガキ、いや春夏くん、まだ生きとるんか? 確か、去年の親父に次いで今年は弟も死んだんやろ? えっらい長い間店も閉めてて、塞ぎ込んでたらしいやん?」
「……」
三歩後ろに女中を歩かせ、自身は前を歩く男──禪院直哉。この日彼は、山篭りを開始した直毘人の伝言を一族の中の重鎮と聞く為、禪院本家の某所に集合していた。
集合したのは3名。
特別1級術師・禪院扇。
特別1級術師・禪院甚壱。
そしてこの男、特別1級術師・禪院直哉。
「皆さんお揃いで……」
と、そこに、執事のような男が大きな書状を持ち現れた。
「この度、禪院直毘人様は、山篭りを行うと共に、禪院家当主の座を次代へ継承する事をご決断なさいました」
「なんやて? 生前退位みとぉなモンか?」
「それを言うなら生前贈与だろう」
「直毘人様の伝言状は、このフルダテが、お預かりいたしております。──直毘人様のご意志によって禪院扇様、禪院甚壱様、禪院直哉様3名が揃われたときに、私からお伝えする事になっております」
フルダテと名乗るその男は、恭しく伝言状を広げ読み上げる。
曰く、次の当主は直哉であること。
曰く、忌庫に保管されている呪具などは、直哉が相続し、扇、及び甚壱のいずれかの承認を得てから運用すること。
曰く────。
「ただし──何らかの理由によって、五条悟が死亡または意思能力を喪失した場合は──伏黒甚爾との誓約書を履行し伏黒恵を禪院家に迎え入れ、同人を禪院家当主とし、全財産を譲るものとする」
「あ゙?」
「更に、忌庫の呪具を記録した帳簿については渡辺春夏に譲り、伏黒恵と共同管理者に指定するものとする」
「なんであのガキがここで出てくるねん……!」
「更に、禪院直毘人の個人財産の一部は、五条家に代わり渡辺道具店の再建費用に充てるものとして、フルダテが運用するものとする────私ですか」
「あのクソジジイどんだけ渡辺のガキの家に肩入れするつもりやねん……!!」
◆
渋谷事変から間もなく。
呪術界上層部──俗に言う「総監部」は、2つの派閥に分裂した。
1つは、これまで通りの腐ったミカン同様に腐敗してしまった総監部。そしてもう1つは──羂索に同調する「革新派」の連中である。
羂索の介入により総監部は内輪でゴタつくようになったものの、それでも「共通する目標」のようなものだけは、幾つかは存在していて……。
「ご苦労、乙骨」
「──労う気なんか無いんだから、さっさと本題に入りましょう。これで僕がアナタ達の命令に従うと分かったでしょう」
「ヒッヒッ、呪霊をいくら殺したところで、なんの証明にもならんさ」
「じゃあ『縛り』でもなんでも結んだらいい。彼は渋谷で五条先生に毒を打ち込んで意識不明の重体に陥らせたんですよね? 五条先生に助けられた恩を忘れて。虎杖悠仁もそうだ。五条先生の教え子とか関係ないですよ。彼が肉体の主導権を宿儺に渡したせいで、僕の友達と日下部先生が死にかけたんだ」
殺意に満ちた瞳を、壁の向こうの誰かに向ける。
「渡辺春夏と虎杖悠仁は、僕が殺します」
呪術総監部より通達
一、呪詛師・夏油傑の生存を確認、同人へ再度の死刑を宣告する
二、夏油傑の「呪霊操術」を会得した渡辺春夏を特級に認定
三、同人を渋谷事変の共同正犯とし、呪術界から永久追放且つ渡辺道具店の取り潰し及び死刑を宣告
四、虎杖悠仁の死刑執行猶予を取り消し速やかな執行を決定する
五、渡辺春夏、虎杖悠仁両名の死刑執行人として特級術師・乙骨憂太を任命する
◆
「──総監部は、事変前に掌握していたのだろう? 何故、お前……『夏油傑』の死刑を宣告させた?」
「渋谷事変の犯人は『夏油傑』だからね。それならその犯人に死刑宣告をしないのはおかしいだろう。私が総監部を手に入れた事はまだ知られたくない。言わばカモフラージュさ。『呪術総監部は夏油傑と敵対していますよ』という、ね」
「成程。だがあの通達、ちゃんとカモフラージュになっているのか?」
「? どういう意味だい?」
「渡辺春夏の死刑執行人は乙骨憂太と指定してあるというのに、夏油傑の死刑執行人の指定が無いぞ? それとも夏油は有名な特級の呪詛師だし、五条悟の動きが封じられている今、夏油の死刑を執行できる人間が存在しないから敢えて指定していない、とか言うつもりか? しかしこれでは、死刑を宣告したところで『でも夏油傑を殺せる人間が居ないから、実質的に野放し状態です』……じゃないか?」
「……盲点だったね。適当に、九十九由基にでも指定しておくべきだったかもしれないね。あの後、夏油一派の呪詛師と渋谷に来たらしいし。相対しても、まず負けないだろうし。──うん。確かに、これはミスだったかもしれないね」
「バカか貴様……」
「だってイヤだろう!? 尤もらしく五条悟なんか指定したら! 致死量の毒を乗り越えて、五条悟が私を殺しに来たら! どうするんだい!?」
「知るか、その時は黙って死んでおけ」
「つくづく酷いな……君というヤツは……」
「貴様に頼らずとも、宿儺様は復活する。必ずだ。だから貴様のことなど知らん」
「ったく、つれないね。せっかく、君の術式の名に似合う女の身体に受肉させてやったのに」
「フン、恩着せがましい。──ところで通達の中に夜蛾正道の件が無いぞ? 変異呪骸の製造方法──確か、事変の後に聞き出すつもりだったろ?」
「まあ、その辺は追々ね。とりあえず、まずは渡辺春夏を消すのが先だ。どうもね、彼の術式の性能、私が知る頃よりも成長しているらしくてね。私にも読み切れない、本物の不穏分子になりつつある」
「術者の腕の問題じゃないのか? お前が知る霊装呪法の術者より、渡辺春夏の方が上なんだろう」
「それはそうなんだろうけど、そうじゃなくてね。基礎能力からして何か、術式そのものに『縛り』を課して能力を底上げしてるかのような、言い知れぬ違和感があるんだよね……」
「……?」
珍しく、旧友・裏梅の前にも関わらず、真面目な顔で思案に耽る羂索。その「らしくなさ」に彼女も眉を顰める。
自分は渡辺春夏の「霊装呪法」について、何にも知らない。しかし、あの羂索ですら真面目に対策を考えようとするならば、下手をすれば、六眼に次ぐ驚異なのでは──と思い始めた裏梅であった。
渋谷事変後から死刑宣告の間にあったお話です。
メスガキ魔虚羅をわからせたかった話♡
https://syosetu.org/novel/385773/4.html
ちなみに、総監部は知りませんが、別に呪霊操術を手に入れていなくても春夏は国家転覆が可能です。
(色々あって、羂索はそれに気付けるだけの情報を有しているので、推理中です)
詳細は、死滅回游にて。