とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第39話:変態vsドブカス

 

「おえぇ……酸っぱ苦い……」

 

『呪霊ってそんな味なのねぇ』

 

 乙骨と別れ、呪霊狩り&呪具の量産を再開させた春夏は、次々と戦力を拡充させていた。今の東京は呪霊が多いらしく、術式を呪物化させるのも術式を呪具化させるのも、単に呪霊を取り込むのも色々と好きにできた。

 もはや今の彼には、呪霊=戦力拡充要員である。弱い呪霊であろうと、羂索のように、撹乱などには利用できる。その観点から、ザコ、弱い、と感じた低級呪霊も等しく取り込んでいた……。

 

「あ。春夏くん、見っけ」

 

「……ッ!?」

 

 橋の欄干に立つ、和装の男──。金髪に幾つかのピアス、そして典型的な禪院顔のその男は、軽薄な態度を隠そうともせずに、ヘラヘラと口を緩めて、春夏を見下ろしている。

 

「……禪院直哉……さん!?」

 

「なんや、えっらい他人行儀やね。あんだけ遊んだ(・・・)仲やないの」

 

「ッッ」

 

 遊んだ──簡単に言えば、イジメと同義である。

 先代が禪院家に挨拶に行く際、次期当主とされた春夏も、よく連れて行かれていた。直毘人への挨拶だったり、ちょっとした手合わせを済ませると後は大人だけの時間。先代と直毘人が会合を開いている間は、春夏は、禪院家の誰かと過ごす事になるが。

 そういう時、よく春夏の「面倒」を見ていたのがこの男、禪院直哉である。

 春夏と年齢が近いのは真希、真依だというのに。

 

 しかし「面倒を見る」というのは口だけのもの。実際は、まだ幼い春夏を足蹴にしていたのである。

 当時、春夏は小学生や中学生。直哉は高校生やら大学生程度の年齢。呪力強化したところで無意味に終わる程の、圧倒的な差。直哉はそれを振りかざし春夏をコケにしていた。

 

 親達は疑問に思わなかったのか──恐らく直哉の言う「稽古をつけたったんや」を信じていたワケは無いだろう。特に直毘人は。

 では先代はというと、恐らくこちらも気付いてはいただろう。それでも、禪院の本家に逆らう真似はしたくなかったんだろうと、春夏は諦めていた。

 先代は、秋冬の扱いとか関係なく元からそんな人だった。だから春夏は、百鬼夜行で彼が死んだ時も特に悲しむ事も無かったのかもしれない。

 本当は茨木童子が彼を殺していたのだとしても、変わらぬ愛情を、茨木童子に向け続けただろう。

 

「女の顔させた呪霊に隣歩かせて恋人ごっこかい、アホくさ。死ぬほど惨めやね」

 

「……どうして……ここに」

 

どうして(・・・・)? ──せやなぁ〜、特級に認定されたお祝い……なんちて♡」

 

「……」

 

「ま、春夏くんも、もうガキやないからな。素直に言ったるわ。ウザイねんお前、存在そのものがな。禪院かも分からん、分家の分家──みとォな遠縁のクセに、下手な分家よりも本家に来よって御当主の顔色を伺って胡麻擂り。情けないとは思わへんの? 親の臑齧ってのうのうと生きとるニートってヤツと春夏くんら渡辺家、なーんも変わらんで?」

 

「……」

 

「一端の呪術師家系なら、そうするのも分かるわ。ウチは御三家、そらウチ相手に胡麻擂りも必要や。せやけど春夏くんら渡辺家は呪術師家系とちゃう。呪具屋──呪具使いの家やもんなぁ?」

 

「……」

 

「何とか言えや、カスが。長年の胡麻擂りの結果、生前贈与だかなんだかで、禪院家が所有する呪具の管理権限を得たんやで? 誇らしくないん?」

 

「いや全然……」

 

「あ?」

 

「禪院家に構ってられるほど暇じゃないんで……」

 

「えっらい上からな発言が聞こえた気ィしたけど。気の所為か?」

 

「──敬語使うのダリィわ。なんで年上ってだけで尊敬してもないドブカスに敬語使う必要あんだよ。五条悟の方がまだ尊敬できるよ」

 

「!?」

 

「アンタに構ってる暇無いから、消えてくんない? アンタ、相当俺を下に見てるんだな。構わないけどウザイよ、そういうとこ」

 

「──ハッ。脳ミソまでカスなんか? 見下すとか見下さんとか、そういう話ちゃうねん。俺とお前は立場も何もかも違う。呪術師と、呪術師にもなれん呪具使い。どーしてコレが対等な立場になれるとか思てんの?」

 

「知らんわ……アホくさ……」

 

「はァ? なんやて?」

 

「呪術師になれない呪具使い? ──バカなのか? そもそも俺、五条悟にスカウトされたってだけで、呪術師になりたいと思ったこと、全くねぇんだわ。うちの歴代当主の中で優秀であれば、それでいい。それが俺の思う『強さ』だから」

 

「負け犬の遠吠えやね。吠えれば吠えるほど惨めに響くもんや。ワォーンって月に吠えとっても、月に声は届かん。なんの意味もないで?」

 

「目指してもねぇのに『〜になれない』ってさぁ。よっぽど『呪術師』ってのに誇りがあると見える。特権意識っていうか、なんていうか……アホくさ」

 

「呪具使いには無いん? 誇り。あっ、無いわな? 己の力で立たれへんから、呪具に頼るんやもんな。ダッサイ眼鏡に頼らんと呪霊も見えん真希ちゃんと何も変わらへんわ。そんな連中には、誇りもクソも無いやんな。すまんな? 変なこと言うて」

 

「アンタの発言の99%は『変なこと』だから今更気にしてないよ」

 

「……偽モンのクセに、ようペラペラと喋るなぁ」

 

「偽モン?」

 

「偽モンやろがい。特級? 呪術師でもないヤツが特級て、総監部はアホか。お前は偽モンの特級や」

 

「知らないって。総監部に文句言えばいいじゃん」

 

「呪霊操術を悪用すれば夏油傑と同じ事ができる。せやから春夏くんは特級になったんや。分かるか? 春夏くんは、夏油傑の後釜。夏油傑が特級の呪詛師やったから、同じ術式を持った君も特級にされた。どーゆー理屈かは知らんけど、後天的に呪霊操術が刻まれたんやろ?」

 

「どーやろね? 夏油傑に聞いてみよかー?」

 

「なんやねんその態度、舐めるのも大概にせぇよ。夏油傑のおこぼれで特級に認定されたんがそんなに嬉しいんか? まァ己の力で戦えん呪具使いやし、功績も何もかも、こんな風に、コバンザメのように他人のおこぼれに預かってナンボなんやろ?」

 

「そんな『偽モン』に、あっさりと『特級』に昇格されたのが悔しいん? 禪院直哉特別1級術師?」

 

「あんま無駄に調子ン乗るなや。また、昔みたいに可愛がったろか? 俺はあの頃よりも強なったで。あの頃の力加減で遊んだら、殺してまうかもなぁ♡ ま、春夏くん死刑囚やから俺が殺してもええやろ」

 

「やれるもんならやってみろよ」

 

「隣の──あァ、茨木童子、やっけ? 呪具の次は呪霊に頼るん? どこまでも他人に頼ってばかりで恥ずかしいと思わんの? 呪霊操術もそうやろな。所詮、春夏くんは死ぬまで自分の力で立てんのや。悲しい人生やね。まァそれももう終わるけどな」

 

『……』

 

「……」

 

「にしても、呪霊の分際で人間みたいな顔すなや。いっちょ前に丸い乳しおって。祓ったるで、お?」

 

「殺す」

 

「……あ? なんやて? 誰が? 誰を?」

 

「そこまで言うなら、しゃーないわ。呪霊も呪具も使わねー。ガキの頃からの恨みで潰す。禪院直哉」

 

 茨木童子の顕現を解き身一つで直哉と向き直る。その手には呪具も何も無く、呪力に満ちた拳のみを握り締めている。

 

「死刑囚がよぉ言うで。トロトロしとる乙骨憂太(死刑執行人)が殺しにくる前に……俺が春夏くん殺したる」

 

 禪院直哉の姿が消える。欄干から飛び降りたかと思えば、次の瞬間には春夏の目の前に居て。

 春夏が拳を繰り出せば、直哉の姿はまた消える。背後に回り込まれたと感じた瞬間には春夏の身体はセメントで固定されたようにフリーズしてしまう。

 

「おっそ。昔より遅ない?」

 

「ッッ!!」

 

 頭を殴り潰すような勢いで殴られ、春夏は橋桁に身体を打ち付ける。コンクリートのハズの橋桁にもビキビキとヒビが走り、破片がパラパラと散る。

 ──投射呪法。加速、いや速度に特化した術式で禪院家の相伝の術式の1つ。親である禪院直毘人と同じ術式を持つ彼は、親ほどではないものの極めて凄まじい速度を誇る。

 

「げはっ……!」

 

「くっくっ。口では散々イキッておいてこの程度? ダッサ。ダッサイわぁ。女の前だからって、勝てん相手にイキるのよくないで? まぁ、アレ(・・)は造形を女の顔っぽくしとるだけで、ただの呪霊やけどね」

 

「……殺す……ッ!」

 

「やってみぃや、ハリボテ特級の春夏くん」

 

 よく目を凝らす春夏。直哉の動き出しを捉えて、そして術式を発動させる。

 

「極ノ番『求』……!!」

 

「極ノ番なんて使えんの? おもろい、やってみ? 所有物を強化することしかできひんカスが、呪具も持たんで何ができんねん、ボケが」

 

 春夏をフリーズさせようとする直哉の手が迫る。背後に回り込んだ直哉は肩に触れて、またフリーズさせて春夏を殴り飛ばす──ことは叶わなかった。

 

「効かないねぇ」

 

「ッ!? 止まってな──」

 

 直哉の速度を利用して、春夏は彼を殴り飛ばす。

 フリーズを回避する方法は、あるにはある。投射呪法の術者のように、1秒24回、尚且つ物理的に無理が無い動きを作り、それをトレースするのだ。

 しかし今の春夏にそんな芸当はできない。それは直哉もよく分かっていた。春夏は、足一本たりとも動かしていないから。

 

(コイツの肩に触れたハズやけどなんやこの感じ? というよりも、触れた途端に俺の方が減速した気がするが……まぁええ、もっかいや)

 

 触れる。フリーズせずカウンターを受ける。

 触れる。フリーズせずカウンターを受ける。

 触れる。フリーズせずカウンターを受ける。

 

「──なんッで動けんねんッ!!」

 

 普段はカウンター前提で動きを作っている直哉。しかしそれは、あくまでも、その相手に投射呪法が通じる事を前提に置いての動き作りである部分が、少なからずある。

 つまり。

 直哉がカウンター前提で動きを作ったとしても、そもそも、春夏にはもう投射呪法によるフリーズが通じないので、直哉にも春夏の攻撃が当たるようになってしまった。

 

「だから……効かないって。フリーズさせるヤツ」

 

「はぁ!? なワケないやろが、デマカセばっかり言いよって!!」

 

 加速。フリーズ無しでのシンプルな攻撃。しかしその動きが春夏に読まれていると感じて、更に加速しながら、今度はフリーズさせての攻撃を企むが。

 

「……芸がないんだよ。直毘人さんに比べて」

 

「──ってか!! なんで動き読めんねんッ!!」

 

「だって遅いじゃん、直毘人さんに比べて」

 

「ジジイと比べんなや、カスが!!」

 

 どんな速い攻撃も軌道が読めれば対処は可能だ。弾丸を斬りたいなら弾丸の軌道に刃を置いておけば弾丸の速度によって勝手に斬れてくれる。理屈は、それと変わらない。

 力とは重さと速さ。春夏が速く動かずとも直哉が素早く動いてくれるので、春夏はその速度を利用し拳を差し出している。

 

 更に春夏は、術式で視力のみを強化することで、直哉の動きを素で見切ろうとしていた。

 普段は呪力と術式で二重に身体強化を施している彼だが、術式対象を視力のみに限定する事によって、視力強化の効果を普段以上に高めている。これもまた一種の「縛り」である。

 

 直哉は次第に、春夏のそんな動きも組み込みつつ動きを作るようになる。特別1級術師の肩書きは、決して伊達ではないのである。

 春夏は絶妙にミートのタイミングをズラしたり、またはダメージを受けても戦闘に支障が無い程度の部位を更に呪力強化して受け止めたりする。

 それでも、速度のある直哉の攻撃は重く、腕にて受け止めると、ミシミシと嫌な音を立てる。もしも顔などで受けてしまえば、頭蓋骨骨折は免れない。そう思わせるような、圧倒的な「重さ」だった。

 

「ハッ……ハッ……コイツ……ゴミカスの分際で、俺の攻撃を見切っとんか……!?」

 

「カスカスうっさいな。それさ、アンタが言われて嫌な言葉を、他人にぶつけてるだけじゃないの?」

 

「あぁ……?」

 

「心理学の本で見た記憶ある。人は、他人に暴言を吐く時、無意識に自分が言われて嫌な事を言いがちなんだって。自分が言われたら嫌だと感じるから、相手にもその悪口が効く(・・)と考えるから」

 

「ニワカ知識で知ったかぶんなや、てかそんなモン誰にでも当てはまる事ちゃうやろが!」

 

「そりゃあそう。全ての人間が全く同じ挙動になるワケじゃないし。けどアンタの場合は──割かし、当てはまってそうだけどな?」

 

「ほざけ!!」

 

 ────春夏の極ノ番は、未だ継続中(・・・)である。

 直哉は春夏に触れる、その度に春夏が今着ている服は「投射呪法が込められた呪具」となる。何度も上書き保存されるようなもの。この場合は、春夏が意図して極ノ番を解除しない限り、継続中である。

 

 どうして継続するのか。

 継続して発動させて、服に直哉の「投射呪法」を込め続けなければ、フリーズしてしまうからだ。

 単なる殴り、蹴りのダメージは通ってしまうが、術式を利用したフリーズ攻撃ならば無効化できる。彼の霊装呪法の極ノ番が無法である理由の一つが、まるで天逆鉾のような「術式無効化能力」である。

 

 ──しかしそれも、春夏の呪力が保てばの話。

 霊装呪法の極ノ番とは、霊装呪法を付与した領域展開と同等の呪力を消費する。術式の副次的効果で燃費が極めて良いとはいえ。

 直哉に自発的に攻撃を入れられず、数回に1回のカウンターしか打ち込めない春夏には、そろそろ、手が尽きそうになりつつあった。

 その数回に1回のカウンターですら、もう直哉に読まれつつあるというのに。

 

「ええ加減に死んどけやッ、クソガキが!!」

 

「────ッ!!」

 

 次に春夏が橋桁に叩き付けられ。立ち上がらずに血を吐き出していると。ニヤリと口角を上げつつ、投射呪法による加速を解除し、トドメを刺そうと、歩み寄るが。

 

「待った。待った、待った。……ゲホッ」

 

「あ? 待ったって何やねん将棋か」

 

「将棋に『待った』有り派かよ……死ねよ……」

 

「無し派かいな、器のちっさい男やね。──んで、なんやねん。春夏くんの攻撃ももう当たらんようになってきたし、死ぬ覚悟ができたから辞世の句でも詠むんか? 風流やね」

 

もういいよ。投射呪法は、腹いっぱい。ははっ、字余りだし季語も無いね。風流もクソも無い」

 

「は……? 何を言うとるん?」

 

「お前のその術式で呪具を作ってやったよ──って言ってるんだよ。名付けて『みかわしの服』かな。流石にまんま(・・・)過ぎるかな?」

 

「!? どーゆー……」

 

「いちいち説明するのも、面倒だ。テメーで勝手に想像しろ。……へへっ、ベジ〇タ語録」

 

「舐め腐っとんちゃうぞ、ドブカスが!!」

 

「ワンパターン。速度上げたところで、もう俺には触れないよ」

 

「どこまで付け上がっとんねん! ええやろ、俺の最高速度でその舐め腐った口、ブチ抜いたる!!」

 

 目の前の春夏を直接、攻撃せずに。敢えて距離を取り、投射呪法を幾重にも重ねがけする。亜音速、音速手前のその速度に至りつつも、直哉はそれでも更に加速を続け音速の壁も越えようとしていたが。

 

「確かに、もう目では追えないけど──最高速度、直毘人さんよりも遅いじゃんね」

 

じゃかぁしぃ!! こっからや!!」

 

「ドップラー効果ウケる」

 

偽モンの特級! 呪術師になりきれん偽モン!! 顔面に風穴ァあけたる!!」

 

「偽モン、ね。──使うつもり全く無かったけど、お前への当てつけに使ってやるよ。領域展開

 

「な」

 

「────月下霧消之理」

 

 投射呪法。術式を己に掛けることで加速できる。これは明らかにメリットと言えるだろうが、同時にデメリットも抱えている。

 物理的に無理な動きを作ると自分自身がフリーズしてしまう、というデメリットだ。

 

 今、春夏の領域において、禪院直哉は、会話する為の口以外、全ての動きを封じられていた。握った拳を開く事もできなければ、鼻の穴に入ろうとする羽虫を振り払う事もできない。辛うじて鼻息などで遠ざけるのが精一杯。それだけが、直哉に許された抵抗だった。

 

「俺の領域にさえ入れてしまえば──術式を使えば自爆でフリーズする上に、術式を使わなくたって、そもそも動きは封じられている。あとは言わずとも分かるだろ。詰みだ」

 

 乙骨憂太は春夏の領域内においても動けていた。呪力の操作がガタガタにさせられても動けていた。呪術師としての格や力量が春夏を大きく上回るから可能な芸当だ。しかし、禪院直哉は……。

 

「……へっ。へへ。ツメが甘いんじゃボケが……!」

 

「?」

 

「中途半端なんや、春夏くんは。半端モンや。口の動きを封じずにどうすんねん。動かずとも、呪詞の詠唱による攻撃はできるやろが……!!」

 

「? アンタ、そういうのできないだろ」

 

「!?」

 

「呪詞、ね。確かにそうだよ。けど、浅いんだよ。アンタはそういうのできないって知ってるし、口は敢えて封じてねーんだよ。アンタ、口が達者だし。そんなアンタの口を封じた状態でブチのめすのも、悪くはないだろうけど。どこか釈然としない」

 

「……!?」

 

「そんでもって──幼い頃からの、積もり積もった恨みで焼かれた脳で思い付いた。アンタは俺より、女に殺されたり苦しめられる方がお似合いだって。男尊女卑思考、昔から凄かったもんな。今思えば、あの時イジメられてた子、真希さんだったのかな。俺より年下に見えたし」

 

「あ? 今更、何の話やねん……?」

 

「お前は女に背中を刺されるのがお似合いって話」

 

「──くっくっくっ。呪霊は使わんのとちゃうの? 前言撤回すんの? ええけどダッサイのォ。領域は使えても術者がそのザマじゃ、領域が可哀想やわ」

 

「アンタ本当にバカなんだな。想像力、無さすぎ。呪具とか呪霊は使わないとは言ったけど──式神を使わないなんて、一言も言ってねぇよ」

 

『ざ〜こ♡』

 

 春夏の影から現れた魔虚羅、いやマコ。いつもの生意気な笑みと共に、右手から生やした剣で直哉の背中を串刺しにする。

 

「ぐがぁっ!? ……し、式ッ、が、みィ……!?」

 

「まさか、式神は『他人頼り』なんて言ってバカにできねぇよな? 呪術において式神の存在は歴史が長い──あぁ、アンタがバカにできるワケねぇか。禪院家の相伝の術式の中で最も格式が高い術式が、式神を召喚する十種影法術だもんな?」

 

「知ったような口ばっかりききおって……!」

 

「知ってるさ。伏黒とは友達だし、ていうかコイツ十種影法術の魔虚羅なんだから」

 

「…………あ゙ぁ!? まっ……」

 

「俺の霊装呪法との合わせ技でね。バグったのさ。こんな子供みたいな姿になっちゃってね」

 

「はあぁ?? 意味が……」

 

「分かんないよな。これは俺も意味が分からない。だけど五条悟がそう言うんだから、そうなんだよ。という事で……マコ。やっちまえ」

 

『は〜い♡』

 

「待っ」

 

「待たねえ。俺は器がちっさい『待った』無し派の男なのでな」

 

 刺突。反転術式で再生。刺突。反転術式で再生。

 刺突。反転術式で再生。殴打。反転術式で再生。

 斬撃。反転術式で再生。骨折。反転術式で再生。

 金的。反転術式で再生。切断。反転術式で再生。

 目潰し。反転術式で再生。

 臓器破壊。反転術式で再生。

 全身を串刺しに。反転術式で再生。

 シンプルな丸刈り。反転術式で再生。

 以下、繰り返し。

 

 新鮮な痛みが直哉を襲うが、次の瞬間には治り、傷を癒している。その直後には、別の新鮮な痛みが直哉を襲い、しかしやはりすぐに痛みは失せる。

 一瞬または数秒しかその痛みを感じないものの、今に胃の中のモノを吐き戻しそうな痛みと苦しみが数秒に1回、彼を襲っていた。

 痛みと癒し、その激しいギャップに、直哉は頭がどうにかなりそうだった。直哉が血を撒き散らし、血反吐を吐きながらそんな事になっている中で──春夏は、無表情でそれを見下ろしていた。

 

『ね〜ご主人、疲れたし飽きた〜』

 

「お疲れ様、戻っていいよ。──女児にボロクソにされて惨めやね、直哉くん? 領域の必中でもない式神の攻撃でここまでボロックソにされて、どんな気持ち? 恥ずかしくないん?」

 

 式神召喚は春夏の術式ではないので、必中効果に設定する事はできない。だからマコラやマコなどの召喚は、領域の必中効果にはなり得ない。

 彼の領域で身動きを封じられているので、直哉にとっては実質的に必中になっているというだけだ。

 

「殺す……絶対にブッ殺したる……クソガキ……!」

 

「秋風に 揺れるドブカス 哀れなり 呪い呪われ 滅びゆくのみ──うん、俺は俳句の才能ないな」

 

 地面に転がった直哉の顔面を蹴り飛ばし、中指を立てて見せ付け、今に怒鳴り散らかしそうな直哉の額にトントンと指を打ち付けて、領域を解除した。

 

「どれどれ、俺はそろそろ行くか。乙骨憂太からも逃げないとダメだしね。こんな、人間かも分からんドブカスに構ってる暇無いわ」

 

「殺して行かんのか? 所詮、口では何と言おうと手を汚すのは嫌な小物なんや、オマエは……!」

 

「ほな自分の手でイジメたら大物や言いたいんか? 弱いものイジメに自分の手も他人の手もあらへん」

 

「!?」

 

「今の直哉くんは弱者。領域も極ノ番も使えんで、ちっちゃい女の子に全身グッサグサやられて地面に転がるしかできひん弱者。致命傷を回避する程度に回復してへんかったら、とっくの昔に虫共のエサになっとったで、君?」

 

「……俺の真似すなや、クソが……!!」

 

「俺に反論したいんなら、領域くらい使えるようになってからにしてくれはりますかー? 『吠えれば吠えるほど惨めに響くもんやな。ワォーンって月に吠えとっても、月に声は届かん』──これオマエのセリフやで。自分を月と勘違いしたスッポンやね。ホンマに……惨めなもんや」

 

「今も昔も、俺に追い付けん、分際で……!!」

 

「昔は、今よりアンタの速度に対応できてたけど、動体視力に身体の動きがついてこなかったんだよ。直毘人さんに稽古つけてもらってたから、今よりは投射呪法の動きにも追い付けてたからさ」

 

「!?」

 

「今は逆。身体は動体視力に追いついたけど、でもしばらく投射呪法の速さを見てなかったから、対応できなかった。カウンターしかできなかったしね。アンタにはもっと自分から攻撃を入れたかったよ。どうでもいいけど」

 

 こうして、幼少の頃からの恨み辛みを吐き出した春夏は、瀕死の直哉を放置して、その場を離れた。失血死するかは五分と五分と言ったところだろう。見る限り反転術式も使えなさそうなので、春夏は、あとは運を天に任せることにした。

 しかしどうせなら、直哉には生き残ってほしいと思っていた。「偽モン」と「女」に瀕死状態にまでボコられたのを胸に刻んだまま、惨めにのうのうと生きていてほしいと、そう思ったから────。

 

『……てゆーかー、マコって女なの〜?♡』

 

「……黙秘権行使します……」

 

『あはっ♡ ザ〜コ♡』




乙骨戦、ドブカス戦を経て、春夏は何処へ……?
感想お待ちしてます!
ここから、地味に術式をエロに使い始めます。
死滅回游参加までの春夏のチン道中その①!
https://syosetu.org/novel/385773/5.html







マコじゃなくて茨木童子に任せても良かったけど、それだと「呪霊を使わない」に反する。
呪術廻戦は「呪術師は嘘ついてナンボよね」という格言があるので、それも良いかな?とは思ったが、春夏の自認は「呪術師ではない」ので、宣言通りに呪具も呪霊も使わずに決着まで持っていきました。

そして芥見先生!「ドップラー効果で話す直哉」がやっと生まれました……!(原作22巻参照)

直哉の口調に違和感があったらごめんなさい。
あと別に直哉は死んでません。この世界線でも原作みたいに真希の覚醒パーツになってもらおうねぇ。

ちなみに、直哉は春夏に負けた後で、呪霊から身を隠そうと芋虫のように這いつくばって逃げてる所を虎杖捜索中の乙骨くんに見付かって、そこで一度、回復させてもらっています。
アキレス腱など歩く・走る上で大事な所を重点的に破壊されたので立てなかったようです。投射呪法があるのに歩く事すらもできないなんて、まさに宝の持ち腐れやね。

──にも関わらず「執行人のお前がトロいから渡辺春夏に殺されかけたんやろが!!」と、謎に因縁を吹っ掛けており、乙骨くんは困惑しています。
その後は虎杖vs乙骨くん、直哉vs脹相という、原作通りの対戦カードが実現しています。

もちろん、直哉は原作通り脹相に負けています。
脹相はその際に「春夏もお兄ちゃんだから強い」と彼のお兄ちゃん理論に春夏を巻き込んだようです。
直哉からすれば「知らんがな」でしょうね。

それから、作者は直哉推しです。禪院家では。
性格ドブカスだけど甚爾くんの強さを認めることはできる。甚爾くんバカにしようとして見に行って、一瞬で「わからせ」られた直哉、好き過ぎる。
強さに対しては真摯なの、いいですよね。
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乙骨の年代の同級生を一人増やしてみたら。そいつが東北では名の通った呪術師一家の嫡男だったら。真希、真依の恩人だったら。そんな呪術師の名は青崎蒼也。術式を使って呪霊も呪詛師も邪魔する奴は撃ち殺す▼中、遠距離用術式を持つキャラが少ないので思いつき描いてみました。モチーフは魔法使いの夜の蒼崎青子です。キャラなどが出るわけではなくモチーフとしてクロスオーバーさせてい…


総合評価:3821/評価:7.4/連載:36話/更新日時:2026年02月25日(水) 23:58 小説情報


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