とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
『ぬぉおおっ!? か、火礫蟲ッ!!』
京都結界に突入すると同時に空中に投げ出された漏瑚。一瞬は戸惑うも、火礫蟲を召喚し自身の背を持たせて、どうにか空中に留まる事に成功。
まさかバラバラに転送されるとは──と、思わぬ事態に困惑するが。
『春夏はそう遠くないか。これなら合流も容易い』
春夏は戦闘中らしい。彼らしくない程に、呪力を放っている。そこから距離を算出するに距離にして1キロも離れていなさそうだ。
「うぉっ!? なんだ!? 火山みてぇな頭!」
「マイク・ワゾ〇スキーじゃね? ほらそっくり」
「一つ目小僧だろ。ほら見てろよ見てろよ〜。俺の術式であんなの瞬殺してやんよ♪」
『……ガキが』
「「「ぎゃああああああああああああ!!!」」」
『15点が追加されました』
『フン、他愛もないな。──いや、待て。今の3人全員が術師なのか? 渋谷で戦った高専の術師より手応えが無いな……こんな事ではつまらんぞ』
やれやれ──と肩を落としながら、背中を丸めて春夏の気配がする方へ向かう。するとそんな漏瑚の方へ、ズシンズシンと地を揺らしながら、凄まじく重い足音が迫る。
『おぉ……!』
彼の前に現れたのは、彼の数倍の背丈の、全身が光沢を放つような金属の如き筋肉に包まれ、太くて曲がった角が左右の側頭部から2本生え、下半身は武者のような甲冑を纏った鬼呪霊だった。
見るからに強い。1級──いや、恐らくは特級。この京都結界に入って初めて感じた巨大な気配に、漏瑚は生唾を飲む。
『呪霊……お前も、
『そうだ……と言ったら?』
『我が名は、大江山四天王が1人、虎熊童子ッ!! 力のある呪霊と見受けた! 尋常に勝負せよ!!』
『お前──特級だな? いいだろう。ここは1つ、春夏への手土産にしてやる。簡単に焼け死ぬなよ』
地面を煮え滾る溶岩に変化させ。虎熊童子は地に沈むように下半身を溶岩に突っ込んでしまう。
『ぬがああぁあっ!! なんだっこれは! まるで活きる火山の如き熱! ぐぬぁあああああッ!!』
『……よもや、これで終わりではあるまい?』
『当然である! 我は四天王ッ! この程度の熱で祓除されるほど軟弱ではないわァッ!!』
凄まじい呪力出力だった。出力だけで言うなら、恐らく漏瑚と大差無い。未だ無事な地面に手を付き飛沫を撒き散らしながら、溶岩から上がる。見事な甲冑は焼け焦げ、見るも無惨な姿になってしまい。
それを見た虎熊童子は、怒りに髪を逆立てた。
『
あんなもの、掠れば一溜りもない。
『我が愛武器、
真上に振り上げ、垂直に振り下ろす。漏瑚は横に飛び退くことで回避したが、もしバカ正直に後ろに逃げていたら、クレバスのような巨大な割れ目に、落ちてしまっていたかもしれない。
『中々の膂力だな。花御にも陀艮にも、真人にも、これ程の威力の攻撃は無理だったろう。──だが、武器に頼って尚、その程度では……な』
『ぬぁにぃ!?』
『貴様如き、春夏に喰わせるまでもない。──が、儂では判断が付かん。小物すら大事にする春夏だ、貴様のような雑魚も取り込むかもしれん』
『誰が雑魚だ矮小な火山風情がぁぁああああッ!! 真っ二つにしてくれるわァーッ!!!』
彼の薙刀に凄まじい呪力が集う。きっと、得物の射程範囲外もその斬撃の影響を受けると思われる、それ程の凄まじい呪力の密度。
『用心の欠如』
『!? ごぁっ、おぉあぁああああーーーっ!!』
しかし漏瑚はその手から放つ熱線にて虎熊童子の腹に大穴を開け。まるでレーザーカッターのように彼の胴体を切断してしまった。
『1点が追加されました』
『1点が追加されました』
『誰か2人、射程範囲内に居たか。まぁよい。さて虎熊童子よ──どうする? 死ぬか?』
『誰が……こんな所で死ぬか……ッ!』
『だがやはり、胴体切断はそう簡単に再生不可能のようだな。では、行くとするか』
『うおっ……何だこの蟲は!? 気持ち悪い!』
『喚くな。うるさいぞ』
──こうして、戦いを申し込んできた虎熊童子を呆気なく返り討ちにした漏瑚は、火礫蟲に運ばせて春夏の元へ向かう。
呪霊が呪霊を倒して運搬しているからか、道中、更に絡まれる漏瑚だったが、あの自然呪霊サークル最強格は伊達ではなく、人も呪霊も関係なく適当に焼き払ってしまった。
『む。この気配──茨木童子と春夏は合流済みか。儂だけ遅れておるな。急がねば……』
◆
「ねぇねぇお姉さーん、この後って暇〜?」
「俺らと遊ぼーぜー♪」
『……』
「おいおい無視すんなよ、お姉ちゃーん♡」
『あ、私に言ってたの? 目に入ってなかったわ』
「鬼娘ってイイよなー♡ 呪霊? だかなんだか、よく分かんねーけど、鬼娘と現実でヤレるとかマジサイコーじゃね? 性癖ドンピシャ! ってワケでホテル行こーぜ♡」
『ホテルなんてこの辺にあったかしら?』
「商業地帯にゃ大抵、裏通りがある。俺らその辺を根城にしてンのさ」
「『殺す』って脅せば、大抵の女は股を開くんだ。もしそれをただの『脅し』なんて言いやがるなら、近くの人間や呪霊をテキトーにブッ殺して見せる。そうするとな? 初めは拒否ってたクソ女も素直に股を開くようになるのさ♪」
「「参加して良かった、死滅回游! 最高!!」」
『あらあら。中々欲望に忠実なのねぇ。あなた達、点はどれくらい取ってるの?』
「コガネ、俺って何点なん?」
『4点です』
「俺はー?」
『3点です』
『ふふっ、非術師の雑魚狩り専門じゃないの。よくそんなザマで私に声を掛けられたわねぇ』
「あ? 呪霊だからってナメてんのかコラァ!?」
「俺ら術式はねェけど、呪具? とかいうヤツなら持ってんだぜ! 道具店の店主ってのが無料で配布してんだ!」
「レンタル品っぽいけどな」
『呪具を配布? 道具店の店主……レンタル?』
聞き覚え、身に覚えのある符号に眉をひそめる。春夏──いや違う。春夏がこんな殺し合いの最中に己の武器や防具と言える呪具を販売やレンタルなどするワケが無い。
それの意味するところ────。
「さぁどーするよ、鬼っ子のおねぇちゃん?」
「素直にヤラせてくれりゃ、俺ら2人で優し〜く、気持ち良〜く犯してやんぜ?」
『生憎だけど、おちんちんはもう足りてるのよね。可愛くもないしね。ってことで、殺っておしまい、マイ・ダーリン♡』
その時。神が雷を投げたかのように熱線が2人を焼き殺してしまった。死体すらも残さぬ徹底ぶり。2人が持っていた青龍刀のような呪具、槍のような呪具がカランと地面に転がる。
『2点が追加されました』
『ふふ、ありがと、春夏♡』
「ったく、呪霊にナンパとか、頭イカれてんのか? コイツら……。おかげで人殺しになっちまったよ」
『あなたも大概イカれてないかしら? 殺人童貞をこんな形で捨てるだなんて、レイプで童貞卒業するくらい歪んでるわよ』
「誰がだ。あんな、女を犯すことしか頭に無い猿と一緒にすんな。てかそんな事より、この呪具……」
『やっぱり、そうよね?』
「ああ……
繰り返しになるが、渡辺道具店は京都一の大店。所有する呪具や呪物の在庫数も、呪術高専京都校や御三家を除けば、当然のように京都一である。
なんなら京都校よりも多いかもしれない。
それならば、当然、ある。倉庫──忌庫がある。
渡辺道具店が呪霊に襲われて破壊されたあの時、大抵の呪具は持ち出している。──ただしそれは、火事場泥棒に遭わないようにという意味で、店先に並べていた商品を持ち出すという意味に過ぎない。
それはつまり。店舗が破壊されたあの時、店先に並べていなかった「在庫」の呪具は、あの時のまま渡辺道具店の忌庫に眠ったままということだ。
しかし、それにしてはおかしな点がある。
「……確か、
『そうよ。正確に言うなら「霊装呪法」の術者しか入れないのよ。高専の忌庫みたいに複雑に隠すのは手間が掛かるから、手っ取り早く「霊装呪法の術者だけが扉を開き通行できる。それ以外は死ぬ」って感じの呪いを、忌庫及び忌庫の扉に掛けているの』
「そーだそーだ。だから秋冬は親父が死んでからも一度も忌庫に入れた事が無かったんだったな」
『解呪しない限り、入れないからね。でも、解呪の方法も分からないし放置するしかないはずだけど。強制的に解除できる方法なんて、あの天逆鉾以外にあるかしら……?』
「その天逆鉾だって、欠片は俺が持ってるしなぁ。モグラみたいに地下を掘り進めて壁を壊したとか? それなら扉を開けた判定にならないかもしれない」
『一休さんのトンチ問題???』
「……トンチで忌庫には入れねえよなぁ……」
そんな話をしている所に、ズリズリと大きな物を引き摺りながら、漏瑚がやってくる。上半身だけの虎熊童子である。殺さないよう加減されているので未だに存命中だ。
「お〜漏瑚! 無事だったんだな!」
『白々しいぞ。この儂の無事など、貴様の感覚なら手に取るように分かっていただろうが』
「単なる再会の挨拶さ。……ところで、ソレは?」
『今は気絶しているが、確か此奴は「虎熊童子」と名乗っていたぞ。四天王が云々と言っていたな』
『コレが生まれ変わった虎熊童子、ねェ。なんだかパッとしないわぁ……顔がダメね、顔が』
「なぁ漏瑚、コイツ強かった?」
『無論、雑魚だったが。なんだ、不要か?』
「うーん。熊童子はゲットしてきたし、どうせなら虎熊童子もゲットしとこうか。四天王コンプして、そのまま酒呑童子の討伐もしちゃおっか。鬼退治の英雄・渡辺綱の子孫──渡辺春夏による、鬼退治のお時間です……ってね」
ニヤリと笑いながら呪霊操術を発動する。漏瑚の手により弱った虎熊童子は、領域によって力を強制シャットアウトするまでもなく、強制的に取り込むことができた。
藍色の呪霊玉を、吐き出さぬよう手で抑えながらググッと飲み下す……。
「うえぇ……ホントにマズイ、吐きそう……」
『大丈夫? おっぱい揉む?』
「それで味覚は楽にならねぇよ……」
『とか言いつつ揉むあたり、男の子よねぇ。そんな欲望に忠実なトコが好きなんだけど♡』
『何をやっとるんだお前達は……』
春夏の大きな手ですら、揉んで余りあるサイズの茨木童子の胸は、ズッシリと重厚感がある。まるで母乳が詰まっているかのような……。
「羅喜、また胸デカくなった?」
『そう? 前からこんなものだと思うけど』
「ふーん……」
『そうそう。この近くにホテルがあるらしいわよ。当面の拠点はそこにしましょ?』
「へ? ホテルなんてあったっけ?」
『裏通りにあるんですって。さっきの人間はそこを根城にしてたらしいわよ。人間の女を連れ込んで、犯して遊んでたって』
「死滅回游という殺し合いの場で女を脅してでしかヤレねーんだろう。悲しい人生だったんだな。俺の点に転生するべきだな」
口の中の吐瀉物の味が無くなるまで一通り彼女の胸を揉み、ストレスを軽減させる。ハグとは違うがこれでもオキシトシンが分泌されているような──そんな気がした春夏は。
「あっ。点と言えばさ、羅喜と漏瑚は何点あるの? 俺はさっきの2点だけ」
『私は5点ね。泳者の雑魚呪霊を祓ってきたわ』
『儂は──27点だったか』
「1人だけ桁すらも違っててヤバ。え、虎熊童子はノーカンだろ? どんな内訳よソレ?」
『取るに足らん雑魚術師が5人分と、虎熊童子との戦闘に巻き込まれたらしい非術師が2人で、これで合計27点だな。寧ろ春夏の点数は低過ぎんか?』
「いやいや、しゃーないよ。だってさ、羅喜と合流するまでに熊童子と宇治の橋姫としかエンカウントしてないんだ。どっちも呪霊操術でゲットしたから点は増えないし。────コガネ、点が増えるのは現時点ではあくまで泳者を殺した時なんだよな?」
『そうです』
「術式で『取り込む』のは殺した判定にならない。その認識で合ってるよな?」
『その通りです。生きていますので』
「なら、酒呑童子がルールを追加して『泳者間での点の移動』を可能にさせたら、熊童子と橋姫、虎熊童子の点を俺に移動させるかな」
『私と漏瑚の点も移動させましょ』
『おい、勝手に決めるな』
「漏瑚は何か追加したいルールあるの?」
『いや、まだそれは特に無いが……』
「じゃあとりあえず、酒呑童子が点移動のルールを追加したら、羅喜と漏瑚も俺に点をくれ。俺も1つルールを追加したい。その後は好きにしていいよ。その後でなら、俺も点をあげるからさ」
『分かったわ。可能な限り集めておきましょう』
『春夏……どんなルールを追加するつもりだ?』
「俺にとって──いや、俺らにとって有利になる、そんなルールさ。とりあえず、生活基盤を整えに、そのホテルにでも行こうぜ? もうそろそろ朝日が昇る頃だろ」
『この時間帯は、少し冷えるわ。日がある程度昇るまで、ホテルで大人しくしておきましょう』
『──思ったのだが、呪霊を相手にしたいなら夜に動くべきではないか? 人間は逆に、呪霊を避けて昼間に動くだろう』
「それはそうなんだけど、とりあえず俺は、もっと武器を充実させておきたい。面白そうな術式を持つ人間が居れば、テキトーに呪具にするよ。どこぞの呪具製作者と違って、殺さずとも呪具を作れるのが俺の術式の魅力なのさ」
『ふむ……。だが儂は、夜まで待機するぞ?』
「漏瑚って、昼間でも動けるタイプの呪霊じゃん。何かあったのか?」
『なに、覚醒タイプの術師の相手をするのは無駄に疲れる、ただそれだけの事だ。受肉タイプが居れば戦ってみたいものだがな』
「テキトーに探してみるか」
春夏────2点
茨木童子──5点
漏瑚────27点
こうして春夏達は合流を果たして、彼らにとっての死滅回游が幕を上げた。
虎熊童子の手印を伊舎那天印にしたのはただの連想ゲームみたいなもので、大した意味はありません。
虎熊童子→虎→
安直ですね。
「GOOD COMIC CITY 32 大阪」に応募しました。
8月23日です。給料日前で草