とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第47話:死滅回游⑦ 酔酒覚醒(酔っ払いの夜明け)

 

『春夏……』

 

 茨木童子は、頭から血を流す春夏の頭を撫でる。空気感染のようなものとはいえ春夏は酔っている。心拍は上がり、体温も上昇している。そんな状態でこういったそこそこ大きな外傷を作ってしまえば、圧迫による止血は、少々難しい。

 

「ら……羅、喜……」

 

『なぁに、春夏?』

 

「……呪力……欲しいな……」

 

『まだ酒呑童子と戦う気なの? 安心なさい、私と漏瑚がセコンドに控えているから、休んでなさい』

 

「勝てるから、大丈夫大丈夫……えへへ……」

 

『……分かったわ』

 

『おい茨木童子!? 呪力なんぞ渡して──よもやその状態の春夏に戦わせる気ではあるまいな!?』

 

『春夏はとうとう「酔いの第2期」に突入したわ』

 

『……は?』

 

『春夏は酒癖が悪い。第1期──メスガキムーブ。これはもう知ってるわね。そして今回の第2期──とてつもなく気が大きくなる!』

 

『ただの酔っ払いだろうが!!!』

 

『そうよ。だけど春夏のソレは少し違う! 自分の発言を実行しない事には何をしても満足いかない、病的なまでの有言実行男になるのよ。この第2期に突入した彼は、死ぬか気絶するか酔いが覚めるか、第3期に進むまでは、決して止まらない……!!』

 

『まだ先があるのか、コイツの「酔い」は……』

 

『まだ幼かった頃に、たった一度だけ、虐めてきた禪院直哉を殴れた事があった。それこそが、この、第2期の春夏よ』

 

『!? 禪院直哉……アイツを、幼い春夏がか?』

 

 初めて、禪院直哉と顔を合わせた時の事である。当時は直哉も彼を虐める気は無く、ほんのりとしたささやかな悪戯心だけがあった。

 そんな直哉の茨木童子をバカにする旨の発言は、幼心ながらに春夏の逆鱗に触れた。呪具も持たない素手の春夏と直哉は庭先に立ち、春夏はフラフラの千鳥足のままで直哉に殴り掛かるが、それをわざと受けてやる精神性の直哉ではない。

 暫くそうやって、フラフラの春夏を見下ろして、バカにしていた直哉だったが。

 春夏の病的なまでの執念が一瞬、直哉に届いた。

 それ以降、直哉は春夏を、積極的に虐めるようになった。真希を虐めている最中だろうとも、春夏が本家を訪れたと知るや否や、春夏の方に出向いてはいつも通り「稽古つけたるで」などと連れ出して、真希と同等に──いや性別が同じである分、余計に酷く虐めるようになった……。

 

『……そんな春夏なら、酒呑童子にだって……』

 

『フンッ、笑わせるな。気が大きくなっただけの、身の程を弁えぬ童が我を倒せると? 我を侮るのも大概にせよ。この童を殺した暁には──貴様とて、ただでは済まさぬ。覚えておくがいいぞ』

 

『ふふ、忘れちゃうかも♡』

 

『……。さて、童よ。貴様──どう死にたい?』

 

「どう……」

 

 アルコールにやられた朧気な頭で、理想を求め、考えを廻らせる。死にたくない、しかしどうせなら理想の死に方を追求するのもいいのかもしれない。にへら……と、口元を緩めた春夏は。

 

「だぁい好きな人と……一緒に死にたいなぁ……」

 

『ならば貴様諸共、あの女も、その隣の一つ目も! 木っ端微塵に、消し飛ばしてくれるわァッッ!!! 神・通・力ィィィ!!!』

 

 屋敷を基礎そのものから破壊するように、地面が部分的にタワーのように盛り上がると、そのままの勢いで屋根を突き破り、春夏を屋敷から追い出し、真っ直ぐに空へと弾き飛ばす。

 地水火風空の「地」を操る力によるものだろう。

 春夏は緩めた口元を正すと紅蓮氷牙を取り出す。これにより、右手に業龍剡月刀、左手に紅蓮氷牙の二刀流になった。薙刀と大太刀という、あまりにも異色の組み合わせに、酒呑童子は付け焼き刃だなと鼻で笑う。

 

『何のつもりだ、それは?』

 

「これぞ、男のロマン……ってヤツよ。へっ……」

 

『? ワケの分からぬ事を……』

 

「ロマンが分からん男は、タマ無しやで。男として生きとる価値は無い。首括って死んだらええねん。直哉なら言いそ〜、言わねぇか! だはははっ!」

 

『……酔っ払いの妄言か』

 

「まぁ……お前にはもう、括る首も無くなるけど」

 

『ッ!?』

 

「これぞロマン技……『業炎氷轟』ッッ!!!」

 

 業龍剡月刀、紅蓮氷牙にそれぞれ呪力を流し込み炎と氷、両属性を宿した呪力を、斬撃として放つ。十字に組み合わさったその斬撃は、ドリルのようにグルグル回転しながら酒呑童子の首に突き刺さり、ビシャビシャと血を撒き散らす。

 

『オオオオォオオオオオ……!!』

 

「──あぇ? 斬れんかった? んふはは、まぁ、治すのに呪力、使ってるもんネ。待ったるでよ」

 

『バカな! 貴様如きの呪力の出力で、何故こんな芸当が……!』

 

「知りたい? それはねェ……愛だよ。あ・い♡」

 

『……はあぁ???』

 

「だぁい好きな羅喜から呪力なんて貰ったらさぁ? テンション爆アゲ不可避じゃん。今の春くんは無敵そのもの、五条悟にも勝てそうな気ィするくらいに無敵感あるねぇ。逆鉾の欠片で首でも斬っちゃる、これなら五条悟も昇天不可避っしょ、アハハッ!」

 

『コイツ、ペラペラと……。ハイになっているな……やはり酔いが回っているか』

 

「……へへっ。春くんは無敵ィ〜……羅喜姉ちゃん、見てて……♪ ふふんのふん……ふんっ♪」

 

 両の手に持つ呪具をユラユラと揺らし、身体を、左右に揺らしてリズムをとる。ふんふんと、鼻歌を歌い始める。不気味な予感がした酒呑童子は即座に叩き潰さんと金棒を振り上げるが。

 

『────まずい!』

 

『どうした茨木童子!?』

 

『春夏の口数が減った!! これは──「酔い」の最終ステージ……「第3期」に入るわ!!』

 

『第3期に入るとどうなるのだ!?』

 

『動きが緩慢になる……戦闘どころじゃない!!』

 

『何ィィッ!? ならば、春夏のあの揺れは!!』

 

『身体のバランスを保つのが難しいってだけッ!! 単に倒れそうになっているだけよ!!』

 

『ただの酔っぱらいではないかッッッ!!!!!』

 

 春夏の補助に入ろうと彼の元に駆け寄る漏瑚と、茨木童子。しかしそれより早く、酒呑童子が動く。

 

『寄るな女、一つ目』

 

『あぐっ!?』

 

『ぬぅっ……!?』

 

 ドガガガッ、と轟音を上げて彼らの足元が炸裂。まるで燃えたようにその部分は焦げ、高温の何かがここに落ちたのだと嫌でも察せた。

 

『雷……!』

 

『そうだ。地水火風空の「空」──雨に霰に雹──我が最も好むは、この「雷」だ。雷神の如き雷に、我ながら惚れ惚れする。さぁ──もっと酔わせて、夢見心地のまま、我が最強の「雷」にて骨の髄まで焼き殺してくれようぞ……童……!!』

 

 今度は長く大きく息を吸う。胸が膨らんで見えるくらいに大きく──とてつもなく大きく息を吸う。そしてその空気全てに超高濃度のアルコールを含み春夏に集中的に浴びせた──! 

 

「……ひっく……うぃ〜……」

 

『フン……他愛もない』

 

「…………? まだ生きてたんだぁ♡ 雑魚鬼♡」

 

『なッ!? 貴様ッ……』

 

「羅喜姉ちゃんのこと、もぉ心配させたくないし? 雑魚戦に時間掛けてらんないからぁ、終わらすね? 文句言わんといてね? ザ・コ・オ・ニ・さん♪」

 

『何だと貴様ぁぁぁぁっっ!!!』

 

 メスガキ春夏、再降臨。ケラケラと笑いながら、酒呑童子の全身を燃やし凍らせ、切り刻んでいく。術式を発動させようものなら、空の状態の武器をも瞬時に用意して、極ノ番にて吸収してしまった。

 

『これは……何が起こっておるのだ?』

 

『酒呑童子は……勘違いしてしまったのよ』

 

『勘違いだと?』

 

『春夏の「酔い」は、進む毎に彼の様子が変わる。酔いたてホヤホヤの第1期はメスガキ春夏。中盤の第2期は気が大きくなり、だけど第1期に比べたら比較的冷静。終盤の第3期は……酔いの終わり(・・・・・・)!』

 

『それの何処に、どう勘違いする要素がある?』

 

『分からない? 第3期というのは終盤を指すの。この「酔い」が終わる。──どうなるか分かる?』

 

『眠り、正気に戻る……だろう?』

 

『違うわ。「酔いが覚める」のよ……!!』

 

『早くないか!?』

 

『春夏は「酔いやすく覚めやすい」体質! なのに酒呑童子は彼の「酔い」を更に進ませようとして、また春夏にアルコールブレスを浴びせた……!!』

 

『ではつまり、春夏は……!!』

 

『ええ! 「第3期(酔いの覚醒)」に入り切る前に「第1期(メスガキモード)」に入り直した! 酒呑童子の追加アルコールブレスで酔い直した(・・・・・)!! そんな状態なのよ!』

 

『はっ……はは! 墓穴を掘ったな、酒呑童子!』

 

『ぐっ、ぬぉっ、うおおおおおおおおっっ……!』

 

 ピョコピョコ、チョロチョロと酒呑童子の周囲を駆け巡り、燃える斬撃、凍る斬撃を放ち全方位から酒呑童子を圧倒する。

 地面から棘が生えてこようと斬り飛ばし、またはそれすら足場にして、生える勢いを利用して空中を優雅に舞い。

 水が顕現しようものなら凍らせて蹴り砕き、冬に見られるダイヤモンドダストのようにしたり。

 炎が現れようものなら、業龍剡月刀の炎にて全て相殺してしまい。

 風が吹き荒れようものなら強化しまくった斬撃の風圧で打ち消してしまい。

 雷を落とされようものなら、呪具を避雷針にして地面に逃がす、即席のアースを作ったり。

 地水火風空、ありとあらゆるモノを攻略された、酒呑童子は。

 

『オオオオオォォオオオオオオオオッッッ!!!』

 

 地を揺るがす咆哮と共に金棒を振り下ろして彼をペシャンコに潰そうとするが。

 

「……♪」

 

 それすらも足場にして酒呑童子に最接近を試みた春夏は、遂に。

 

「『断頭死(だんとうダイ)』────!!」

 

『がッ……がぁあっ……ああ゙ぁああ゙あっ!!!』

 

 叩き付けられた金棒から彼の腕へ渡ると、肩から酒呑童子の後ろに飛び降りる──ように見せ掛け、すれ違いざまに酒呑童子の首を切断してしまった。

 

「だぁから言ったろー。今の春くんは強ぇのよん。羅喜姉ちゃんのご加護があるんだから。……ねっ」

 

『……そうね、春…………春夏、後ろ!!』

 

「ん?」

 

『舐めるなよ、童がぁ! この我が、首を斬られた程度で死ぬと思うてかァ……!?』

 

「!!」

 

 額に、ズズズ──と紋様のようなものが浮かぶ。手印を結べない代わりの、領域展開の合図だった。しかし春夏はそれを、呪力の「起こり」から、既に見抜いていて。

 手に持っていた二振りの呪具を宙に放ると同時に智拳印の手印を結ぶと。

 

『……領域展』

 

「領域展開」

 

 ほぼ同時、否、春夏の方が僅かに早く領域を展開してしまった事により酒呑童子の呪力出力は極めて強力に、強制的に押さえ付けられ、領域は不発に。しかし、頭だけで領域を展開しようという、そんな彼へ敬意を表し。

 祓わず取り込んでやろう──と考えると、春夏はニタリと、気味の悪くイヤらしい笑みを酒呑童子に向けて、呪霊操術を発動させた。

 

『なっ! き、貴様!? 術式が2つ……うあああああああああああああああああああああ……!!』

 

「春くんの勝ち〜。ピースピース」

 

 空のように澄んだ青色の球体となった酒呑童子を春夏は酔った勢いのまま、丸呑みにしてしまった。

 こうして、京都結界の主力呪霊は春夏の術式にてペロリと平らげられてしまい。

 呪霊操術にて酒呑童子を操作し、点を受け取った春夏は、死滅回游の全泳者で最多点となる、脅威の750点超えを記録したのであった……。




春夏、茨木童子、マコラ、マコ、漏瑚、この5人のイメージソングがあります。
特命戦隊ゴーバスターズの後期OP「モーフィン!ムービン!バスターズシップ!」です。

レッド:漏瑚(炎属性、スピード系)
ブルー:茨木童子(パワー系)
イエロー:マコ(可愛い枠)
ビートル:春夏(技術者枠)
スタッグ:マコラ(技術者の心強い相棒)

ビートル枠が春夏なのは、彼が技術者枠ということ以外にも意味があります。
ゴーバスターズの視聴者は分かるかもしれません。
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