とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第48話:死滅回游⑧ 即日嘔気(その日のうちに二日酔い)

 

「羅喜姉ちゃーんっ!!」

 

『お疲れ様、春夏。よく頑張ったわね』

 

「姉ちゃんのお陰だよっ!」

 

『それなら良かったわ。相変わらず有言実行できて偉いわね』

 

「えへへっ……♪」

 

 戦闘を終えた春夏は、血塗れになりつつもそれを全く感じさせない元気さで、茨木童子に駆け寄り、そのまま飛び込むように抱きついた。

 まるで、茨木童子は己がどれだけ血塗れだろうと受け止めてくれると、無条件に信じているように。

 

『よく、あの状態で酒呑童子を単騎討伐できたな』

 

『色々と、都合のいい要因が重なったからね』

 

『要因? 酔ってテンションが上がる事か?』

 

『それもあるでしょうけど、それよりは、金童子と事前にエンカウントできた事よね。金童子の術式を込めた制服(上)に、絶え間なく呪力を流してた。お陰で、さっきの頭部へのダメージ以外は、大したダメージになってない。地面から春夏を突き刺す棘なんかは、投射呪法で1秒フリーズさせていたし。断頭し手印を封じた事によって、領域展開発動まで大きめの隙を作れたしね。だから後出しした春夏の領域が先に発動したのよ』

 

『コイツ、酔っていた方が強いのではないのか?』

 

『どうかしら。第3期に入ると────』

 

「……うぅ〜…………羅喜ぃぃ……」

 

『……なぁに?』

 

「俺、またメスガキムーブ(変なの)やっちゃったぁ〜……」

 

『そうねぇ……』

 

「もうヤらよぉ、あんなのシたくないのにぃ……」

 

『そうねぇ……』

 

「うぅ〜っ、羅喜ぃ……」

 

 ────渡辺春夏の「酔い」の第3期。それは、泣き上戸である。第1〜2期での生意気な物言い、気が大きくなった時のイキリ発言──それら全ての負担が、正気に戻りつつある第3期の春夏の身に、一気に降り注ぐ。

 その恥ずかしさ、痛々しさに耐えきれず、春夏は茨木童子に泣き付く。

 

 第3期に入ったかどうかは春夏が自身をどう呼称するか、茨木童子をどう呼称するかで判別可能だ。

 第1期、第2期は、自分を「春くん」と称する。茨木童子の事は「羅喜姉ちゃん」と呼ぶ。

 第3期は、正気に戻りつつあるからなのか自分はいつも通り「俺」と自称し、茨木童子は「羅喜」と自身で名付けた名前で呼ぶ。

 

 酒呑童子を討伐し、無事取り込んだ今──春夏の懺悔を止める者は居ない。そう思われたが……。

 

『はいはい、反転反転』

 

「マコぉ……」

 

 2人目の魔虚羅ことマコは、春夏の影から現れ、彼に治癒を施す。更に、春夏の肉体を蝕みつつあるアルコールも「毒」である事から、アルコールをも分解し、一番長い第3期を、一気に短縮させた。

 

「……うぇ、全身が酒くせぇ……」

 

『空気感染みたいなものよ、すぐに元に戻るわ』

 

「サンキュな、マコ……少しは気ぃ落ち着いたよ」

 

『別に、ご主人の為じゃないんだからねっ!』

 

「ツンデレか。ツインテはツンデレとかメスガキが多いのが常だものな」

 

『別に、さっきのご主人程じゃありませんけどー? ザーコザーコ、脳ミソザコザコ〜♡』

 

「取って付けたようなメスガキムーブなら、苦手な俺にも特に効かないぞ。もっと頑張れ」

 

『何をだよ、バーカッ!』

 

「痛ッ」

 

 べぇッ、とあっかんべーをしたマコは、べちっと春夏の背中を叩き、影に潜った。全く──と小さく溜め息をつく春夏だったが、彼女のお陰で一番辛い第3期を乗り越える事ができた事もあり、言葉にはしないもののそれなりに感謝しているようだった。

 アルコールが分解され、スッキリ気分────と大きく深呼吸をしようとした春夏だったが。

 

「んぶっ……ゲホッ、ゴホッ…………オェェッ……」

 

『春夏!?』

 

『どうした春夏ッ!? 吐き気、いや吐いたのか! 酔いがまだ残っているのか? 大丈夫か!?』

 

「……そう、かも……しんない、ね……へへっ……」

 

 その手はアルコール中毒者のように震えており、何か、ただならぬ事態が春夏に起きているのだと、嫌でも読み取れた。

 まさか急性アルコール中毒か──と、茨木童子はふと考えつくが、そもそも春夏は、アルコールへの耐性がそこそこ強い方だ。酔いやすく覚めやすい、それが春夏の体質である。

 

 とはいえ急性アルコール中毒は誰でもなりうる、春夏がそうならない保証は無い──と思うものの。

 アルコールも毒なので、高度な反転術式であれば分解は可能だ。そしてその治療は先程、マコにより施された。つまり、彼が急性アルコール中毒になる条件は九分九厘、潰されていると言える。

 

『もう酔いは残ってないでしょう。どうしたの?』

 

「…………」

 

『春夏。何があったの? 何が()えたの?』

 

『茨木童子……?』

 

「……今日は、疲れた。ちょっと休ませてほしい」

 

『春夏っ!!』

 

『よすのだ、茨木童子。確かに春夏は疲れておる。特級であろう呪霊との連戦だ、五条悟でもない限り疲れない方がおかしい。寧ろ、つい最近まで呪術師ですら無かった春夏なら、よくやっとる方だ』

 

『ッ……』

 

 明らかに様子がおかしい。酔う前も酔った後も、酔いから覚めた後も、常に春夏を見続けた茨木童子だから、春夏に起きた異変に気が付いていた。

 彼本人はその異変の正体に気付いていて、それを誤魔化そうとしている。それすら即座に見抜いたが故に、異変の正体を問いただそうとするが。

 あろうことか拒絶されて、視線まで逸らされた。茨木童子は、焦り過ぎてしまった。

 

 ◆

 

 翌日。マコラの活躍もあり、いつの間にか春夏の得点は780点を迎えていた。しかし一晩以上放置していたにしては点の伸びが緩やかだ。恐らくは、既に呪霊の泳者も、まともな倫理観を持たぬ人間の泳者も、狩り尽くしてしまったのだろう。

 春夏に「身を捧げ」ていた人間の泳者達もまた、もはや泳者狩りではなく、他の生存者を探す方へとシフトするようになっていた。

 

「おはよう羅喜、漏瑚。よく眠れた?」

 

『えぇ、とても』

 

『そもそも呪霊(ワシら)は睡眠など必要とせん』

 

 そういう事言っちゃうのかぁ、とジト目で漏瑚を見る春夏だが、ここで余計な事を言っても話がまた拗れるだけである。

 

『……春夏。昨日の件なんだけど』

 

「うん、それも大事だけどもっと大事な事がある。人間の泳者が、渡辺道具店(ウチ)の在庫を持ってた。多分だけど、渡辺道具店(ウチ)忌庫(きこ)が、何者かの手によって荒らされてる可能性がある。結界の半径からして、多分ギリギリ渡辺道具店(ウチ)もこの結界内に入ってる。今日は、この辺の事を詰めていこうと思うんだ」

 

『う、ん……そうよね』

 

『確か渡辺道具店の忌庫は、霊装呪法を持つ者しか入れないようになっているんだったな?』

 

「うん。そういう縛りが機能してるのか、そういう呪いなのかは分かんないけどね。とりあえず、同じ術式を持ってる親父からは、そう聞いたんだ」

 

『それならば、同じ術式を持つ者──恐らく春夏の血縁者だと思うが、其奴がこの結界内に居て、家が無人である事をいい事に、忌庫に出入りしていると考えるのが筋ではないか? 人間の間では、術式は遺伝しやすいのだろう?』

 

「そーなんだけど、その説は考えにくいんだよな。確かに俺の親戚筋は、この結界に居るよ。リストを見る限り、3人も。だけど親戚だからこそ分かる。その中の誰も、霊装呪法を持ってないんだよな」

 

『ふむ──それは謎だな。ならば、呪物を摂取してその術式を得た、などは有り得るか? 儂は呪物も蒐集するから、何となく分かるのだが……』

 

『有り得るわね。だけど、その「霊装呪法を呪物化させた物」は既に、秋冬の死後に私が食べてるわ。だからその親戚筋や赤の他人が霊装呪法を後付けで得た可能性は0と言っていい。──まさかとは思うけれど、忌庫そのものを破壊したのかしら……?』

 

「うん。正攻法で入るのがほぼ不可能である以上、破壊されたと考えるのが一番有力だと思う。けど、それはそれでおかしいんだよなー……」

 

『どうして?』

 

渡辺道具店(ウチ)さ、五条家のお抱えの大工さんとかが再建中じゃんか。東京のゴタゴタも関係ない上に、五条家お抱えの大工さん達が居る中で、堂々と忌庫破壊なんてできるか?」

 

『表向きにはお家取り潰しになってるワケだから、再建工事からは撤退しているんじゃないかしら?』

 

『それに加えて、東京のゴタゴタは関係無くとも、死滅回游が始まっている中で、呑気に再建工事なぞしておるハズが無かろうが……たわけが』

 

「あっ!? そうだ俺が生きてるから忘れてた!? 俺ん家、お家取り潰しになってるんだったッ!?」

 

『『バカね(阿呆が)……』』

 

「うわぁー! マジで破壊されてる説濃厚じゃん! そうだよ、お家取り潰しになった家を再建する必要無いんだから、ましてやこんな儀式が始まったならその場に留まる必要は無いじゃん! 仮に再建工事続けてたとしても避難済みで無人だよ、もし居たら京都結界に居る俺に会いに来ないワケないんだし! どう考えても破壊されてんだろ! 最悪だよッ!! 火事場泥棒が! ブッ殺す!!」

 

『結界内に放たれたマコラちゃんが既にその犯人を殺してる可能性』

 

「それがフツーに有り得るのが笑えねえ……!!」

 

『ふはっ、もしそうだとすれば春夏の怒りの矛先はどこに向ければ良いのだろうな? 既に春夏の家の呪具は結構な範囲の人間に広まっていただろう』

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ、クソッ! ウダウダと考えててもしゃーねー。酒呑童子も倒して暇だし、目標も無いし……行くしかねえな」

 

『そうね』

 

『そうだな』

 

 春夏は、ストックの中から適当に朝食を摂る。

 因みにだが、高専術師は食事や排泄の必要が無いように、任務の際には「蟲」を体内に入れている。春夏は編入して間も無い──いやそれは関係なく、単純に「キモイから結構です」と断っている。

 傍から見れば、如何に造形が人間に似ているからとはいえど、茨木童子という呪霊と愛し合っている春夏の方が遥かに「キモイ」のだが、それは彼とて認知済みであろう。

 

 ────閑話休題(その話は置いといて)

 とりあえず軽く朝食を済ませた春夏は、彼に従う人間の泳者に「生存者の捜索」を委託して、自身は茨木童子と漏瑚と共に渡辺道具店へと向かった。

 しかし昨日の件も関係してなのか、渡辺道具店に近付く毎に春夏の顔色は悪くなり、その全身に時間経過で重くなる重りなんかを装備しているように、足取りは重くなる。

 

『……? この、呪力……? ねぇ、春夏……?』

 

「………………………………」

 

『何だ、この圧倒的な呪力はッ!? 五条悟よりも遥かに……圧倒的に多い(・・・・・・)……!?』

 

 渡辺道具店が見えてきた。見る限りでは殆ど再建工事は完了しており、閉ざされた店の前には何故か注連縄が施されており、少々大きめの立て看板が、一つだけあった。

 

 

渡辺道具店 店主殿

 

周辺の土地一帯が結界により囲まれ

何らかの儀式が始まってしまいました。

工事も未完の為、大変心苦しく思いますが

職人一同、一時的に本家に避難させて頂きます。

 

坊ちゃんのご命令は必ず完遂致します。

儀式終了まで工事の再開はお待ちください。

 

勝手ながら用意させて頂きましたその注連縄には

渡辺道具店の忌庫と同じ呪いが込められており、

何人たりとも足を踏み入れる事が叶わぬよう

ささやかながら、結界を構築しております。

店主殿のご無事を職人一同お祈り申し上げます。

 

五条家専属大工団

 

 

「…………ありがとう、ございます……!」

 

 春夏は久しぶりに、感謝の涙を流した。

 五条悟は、どこまでもふざけた男だ。

 本人の了承も得ず、それどころか伝達すらせずに勝手に渡辺春夏を1級術師に推薦するよう、既存の1級術師に息をかけて。1級や特級呪霊をけしかけその結果として足を失った秋冬にだって、なんらのケアもしない。

 そればかりか、春夏に向かって「危険分子だから監視名目で高専に置く」などと言い放つ始末。

 

 だというのに五条家の他の人間はマトモらしい。

 春夏の家、つまり渡辺道具店は取り潰しになったというのに、再建工事は継続してくれていたのだ。死滅回游の結界が構築された、その時まで。春夏が特級に認定されたあの時だって。春夏が乙骨憂太に殺されたあの時だって。

 それだけでも春夏からすれば十分に有難いのに、アフターケア、というよりかは作業停止措置としてなのか、呪いを込めた注連縄を用意し、結界までも構築して、火事場泥棒を防げるよう対策する始末。

 これを「有難い」と言わずして何と言うべきか。春夏からすれば、もはや、感謝しか無かった。

 

 現実は火事場泥棒、いや死滅回游泥棒が出現して忌庫は荒らされてしまったが、それは置いておいて彼ら大工団のそのケアが、その心が、嬉しかった。

 

「……あれ?」

 

 再び渡辺道具店に目を戻して、春夏はある異変に気が付く。

 渡辺道具店を囲む結界──大工団による結界は、今も尚、健在なのだ。壊れていない(・・・・・・)。つまり、誰も中に入れないようになっている。

 

 厳密には「忌庫と同じ呪いが込められている」と記載があるので「霊装呪法の術者は入れる」という結界の構成要件が設定されているのだろう。

 ────それなら、それが現実ならば、これは、絶対におかしい。

 

 結界が──注連縄という結界の触媒がしっかりと残っているのであれば、五条家専属大工団が張ったこの結界は、恐らく、一度も破られてはいない。

 要するに、この結界が現存するという事は。誰も火事場泥棒として渡辺道具店に、そして忌庫には、一歩も入れていないハズなのである。

 

「……いやいやいや、そりゃおかしいだろう!?」

 

『おかしいわね。結界は残っているのに……』

 

『明らかに、この結界の中に……誰か居るぞ?』

 

 しかもその気配は。圧倒的な呪力が示すであろうその人物は。春夏と茨木童子が知る限り、この世にたった1人しか存在していなかった。

 

「……あっ。やっぱり! おにーちゃん、羅喜!」

 

「………………秋冬……なのか……?」

 

『ウソ……』

 

 入口が開かれ、1人の少女(・・)が顔を出した。春夏や茨木童子にとって、その顔は、既知の少女の顔で。

 だというのに、その少女が放つ呪力の気配は。

 数ヶ月前に失った最愛の家族、渡辺秋冬そのものだったのである。




【ちょっとした報告?】

喉が変だから、夏風邪の影響が残ってるのかな?と思いつつ耳鼻咽喉科に行って1万近く払って色んな検査を受けた結果、なんと声帯に癌がある可能性があるとか言われて、仰天&横転でした。
カラオケが趣味の人間にそれは地獄なんよ。

モジュロ編の第2部まだ完結させてないのに長期の療養をしたり死ぬワケにはいかんので、とりあえず完結を目指して頑張ります。
ちなみに24歳です。直哉より年下。

術師家系ならぬ癌家系なので、癌になることは予想してましたが、あと20年後くらいかと思ってたな。

ま、なるようになりますわよ。オホホのホ。
ケ・セラ・セラ。(呪詞の詠唱)
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