とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
「えーと。
「始祖の渡辺
『その2人の父親である
うーん、と
「もはや俺ら渡辺家によるお家騒動じゃねぇかッ! 何の話を見せられてるんだ、俺達は!?」
『これも全て、羂索ってヤツが悪いのよ』
「健や倭おじさんが受肉体になったのがマジなら、マジでネタ抜きに羂索のせいだから始末悪い……」
「おにーちゃんの呪力感知能力で探せないの?」
「それはもう……昨日の時点で試した」
「え、昨日? なんで?」
「けど、もっかいやってみるか……」
因みに春夏は、死滅回游が始まってから、普段の異常な呪力の感知をオフにしている。呪霊の泳者が思ったより多く、何かを探知しようとしても呪霊がノイズにしかならないからだ。
それが、酒呑童子戦では酔っていた勢いのまま、勝手にオンになってしまった。それにより、秋冬の呪力の気配を感じ取り、その有り得ない事象に対し吐き気を催していた──という流れである。
呪霊の泳者がほぼ居なくなった今、変なノイズは殆ど無くなっていた。それなら、見知った呪力なら探せるハズ──と考え、呪力感知の感度を全開まで上げても、それっぽい気配は感じられなかった。
「──うん、やっぱりダメだ」
『逆に考えるのよ。ただ呪力を隠した所で、春夏の前には殆ど無駄。つまり結界の中に居るって事よ。秋冬の呪力ですら、この結界の中に居るとちょっと呪力を感じづらくなる。もっと少なくて微弱な呪力だったら結界によって探知を阻害されるでしょう』
「ん……そう、か。それなら有り得るか……」
うーん、とこれまた春夏は考え込む。半径5キロ程度とはいえど、春夏に従う人間を使って虱潰しに探すのは容易ではない。しかし面倒だがそのようにローラー作戦で行くのが現実的かもしれない。
「──おいで、マコラ」
『はーいっ! マコラ、ただいま帰還したよぉ!』
「わっ、何!? 誰!?」
『ご主人の妹さんだよね、よろしく! マコラは、マコラって言うんだよ!』
「マコラ、ちゃん……? どこから出てきたの?」
『ご主人の影! 影を使って移動できるんだよっ! 影と影で影ワープも!』
「そ、そーなんだ……へー……。子供みたいな呪霊、初めて見た……」
『じゅ、呪霊っ!?』
「呪霊じゃなくて式神な。あと、もう1人居る」
『マコで〜す。ザコザコご主人に仕えてまーす♡』
「おにーちゃんは雑魚じゃないよっ!」
『マコからすればザコザコでーす♡』
そう言い捨てるなり、マコはトプンと影に戻る。秋冬は、マコのその物言いに酷くご立腹のようだ。相変わらずのそのブラコンさに春夏は頬が緩むのを感じつつも……。
「マコラ。どこかに変な結界とか無かったか?」
『結界ならあったよ! ここから北の方の、結界の縁とかその辺り! 呪詛師の結界かって思ったけど念の為に壊さないでおいたよ!』
「北──確か、分家っつーか分店は
「そだね。風水的には悪い土地らしいって、忌庫も作ってないんだよね。だから、よく本店から在庫を譲ってくれないかって言ってきてたっけ……」
『霊装呪法の術者も0のクセに、その辺の呪具屋を買収したりしてるから、分店は長続きしないのよ。本店が1000年も続いてるのは霊装呪法ありき。他所を買収したり、直した呪具を売る程度では必ず早々に限界が来るわ』
「──奇しくも、4代前当主の大和が危惧していた通りの未来が、分店に訪れてるってワケだ」
『そういう事になるわね』
だから、どちらにせよ、総監部がお家取り潰しに指定などしなくとも、この渡辺道具店は春夏の代で終わっていたのだ。
真の意味で直系の血を引く秋冬は既に死亡済み。
養子の春夏が跡を継いだものの、数年後の未来、茨木童子との間に正常な子を残せるか分からない。術式の事も考慮すれば、養子にできるのは本家からそう遠くない血筋の親戚だけ。春夏達の世代には、もう本家から遠くない位置には誰も居ない。春夏と一番近い親戚が、再従兄弟の健、命なのである。
だから養子も絶望的だ。
それを考えると、渡辺道具店は春夏と秋冬こそが末代なのかもしれない。
「じゃ、分店の方に行ってみるとするか。忌庫から持ち出された呪具は、分店にあるのかもしれない」
「えっ!? 呪具、持ち出されてるの!?」
「なんだ忌庫に入ってなかったのか? 霊装呪法を会得したんだから、もう入ってるのかと思ってた」
「確かに! 思い付かなかった……」
おっちょこちょいめ──と春夏は妹の頭を撫で、同じ術式を持つ3人は揃って外に出る。外で待機を強いられていた漏瑚は、結界に寄りかかりながら、プカプカとパイプを吹かしていた。
「おにーちゃん。私、この呪霊が戦ってるとこ見たけど、凄く大暴れしてたよ。こんな近くに置いてて大丈夫?」
「大丈夫さ。暴れたら兄ちゃんが止めてやるから」
『フンッ……』
「というか兄ちゃんと契約してるから大丈夫だよ。そんなに怖がるな。漏瑚については安心していい」
「え……渋谷を燃やすように指示したの……?」
「いや、契約したのその後な」
「だ、だよねっ? そうだよね! 焦った〜……」
「兄ちゃんがそんな事するように見えるか?」
「羅喜にちょっかい出されたりしたら、多分だけど周囲一帯を燃やすとか、普通にやりそうだし……」
「俺ってそんなに傍若無人だっけ???」
「そうなりそうな危うさがあるんだってば。全く、おにーちゃん本人は無自覚ってのが怖いな〜」
「……」
五条悟は、春夏を危険分子と見なして監視という意味で呪術高専に招いた。総監部は、新たな術式を会得した春夏を特級に認定し、死刑を宣言した。
春夏自身が無自覚なだけで、そういった危険を、傍から見て分かる程に孕んでいるのかもしれない。
それならば、呪詛師に身を
秋冬の言葉からそう思い立った春夏は、今一度、五条悟への評価を改めようとしていた。
『──ふと思ったのだけど、降霊した秋冬ちゃんが
「霊装呪法を宿した呪物」を食べたら、命ちゃんはどうなるのかしら? 術式は?』
「うん──厳密には、命おねーちゃんに霊装呪法が刻まれたの。今の私、魂だけの存在だから。だから構築術式も使えないの。あっても使わないけどね、燃費が悪いもん」
「そっか。そりゃあ、良かったよ。安心した」
「へ?」
「もし構築術式を持っていたら、お前の事だから、また絶命の縛りで何かやらかしそうだからよ」
「……えへへっ。バレた?」
「バレバレだっつーの、バーカ」
「ふふふっ。だっておにーちゃん、命と引き換えに作ったその呪具、ずぅ〜っと背負ってるんだもん♡ おにーちゃんの為なら、また死ねるんだよ……?」
「気持ちだけ受け取っておく。その降霊術が切れるまでは、ずっと一緒に居ような」
「……うんっ♪」
どこか陰のような、黒いものが見え隠れしつつ、秋冬は春夏の腕に抱きつく。中身はともかく、器は中学2年生女子である。それなりに女性的な成長を始めており、その柔らかな部分を惜しみなく春夏に押し付けてくる。
心臓がドクンと跳ねるのを感じながらも、彼は、平静を装ってそのまま歩く。
「……再従兄妹の身体に降霊しただけで、実質、血も繋がっていないし……
「バカ言うな。その身体は、秋冬のものじゃない。あくまで、
「ッ、そう、だよね……ごめんなさい……」
「もし誰かと戦いになっても、秋冬は絶対に前には出るな。羅喜と漏瑚に守ってもらってろ」
「大丈夫だよっ!! 命おねーちゃんの身体だからなのか、前より結界術のレベルが上がってるんだ! 絶対におにーちゃんの足でまといにならないから! 私にも一緒に戦わせて!」
「命の身体だからだ。厳しく聞こえるだろうけど、その身体はお前の身体じゃない。命の身体なんだ。傷でも付けてみろ、命の心をも傷付ける事になる」
「あっ……う……」
「それが分からない秋冬じゃないハズだぞ。お前の足が吹っ飛ばされて、俺がどんな想いをしたのか。お前は、誰よりそばで、それを見ていたハズだろ。どうして分からない?」
お前なら分かるだろう────これは、もはや、魔法の言葉だ。この言葉を拒否してしまえば相手の期待を裏切る事になるので、強制的に頷かせる事ができてしまう。
相手に嫌われたくない、期待を裏切りたくない。そう考える者はこの言葉を嫌でも受け入れなくてはならないのだ。
春夏は、秋冬のそんな心理を逆手にとった。
非常に厭らしく、非常に汚い話術だ。言っている本人も心苦しく思っているが、秋冬を、命の身体を再び傷付けない為には、こうするしかなかった。
──もはや「魔法」ではなく「呪い」の言葉だ。
「……ごめんなさい……」
「謝らなくていい。分かればいいんだ」
「ん……」
秋冬は今にも泣きそうな顔で、唇を噛み締める。生前は「女の子のような顔」だったが、今は女子の肉体に乗り移っているので「女の子の顔」だ。
女の子を泣かせてしまったようでバツが悪い──そう感じた春夏は、端的に、フォローを入れる。
「前に出なければ、サポートくらいだったらしても良いけどな。あの頃みたいにさ」
「え……」
「ま……兄ちゃんも、あの頃より強くなったけどさ。サポートが全く要らないってワケじゃないんだよ。後方支援って事で、後ろから支援してくれるなら、一緒に戦ってもいいかな、とは思うんだ、うん」
「!」
「つーか、命の身体じゃなくとも、前に来られると守り切れるか分からん。だからどちらにせよ秋冬は後ろに居てくれた方が兄ちゃん安心して戦えるからそうしてほしいんだよな、うん……」
などなど、後追いでの詠唱のように付け加える。すると目元の涙を指で拭い、秋冬はクスッと笑う。
「──分かった! おにーちゃんのこと、後ろからサポートするからねっ!」
「……ああ。それで頼むよ」
嗚呼──と春夏は天を仰ぐ。
これではまるで、自分が大嫌いな禪院直哉と同じではないか、と酔いが覚めた時より遥かに凄まじい自己嫌悪に陥る。「女は男の3歩後ろを歩けや」と言う禪院直哉と春夏の今の発言──何が違うのか。
直哉は男尊女卑思想が由来の発言であり、春夏は守りたいが為の発言。そんな違いはあるが、直哉を心底嫌っている春夏にとって、大した違いは無いと思えていた。
どこかの誰かが、言った。
──結局、人は時として「自分の憎んだもの」になるのさ。
「……へっ。その通りじゃねーか、バカが……」
「? おにーちゃん……?」
「──いや、何でもないよ。先を急ごうか」
「うん!」
深呼吸をした春夏は、パチンと両の頬を叩いて、先を急ぐよう、思考を切り替えた。
それからしばらくして一行は、結界の北端辺りに位置する渡辺道具店の分店に辿り着いた────。
「結局人は時として『自分の憎んだもの』になる」
これはとある漫画からの引用です。少年期の私に、鋭く深く刺さった言葉ですね。
当時は「なんかカッコイイな」くらいにしか思っていませんでしたが、大人になってから、この言葉は案外真理だったのかも……と思い知らされました。
何の漫画からの引用か分かった方は居ますか?
ヒントは佐木飛朗斗さんが原作をやってらっしゃる漫画です。