とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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GCC32、お疲れ様でした!
BL(というか女性向け)が多いイベなんやね。
同じく男性向け二次もあると思ってたらしい人達の手に渡って良かったですw



第52話:死滅回游⑫ 親族血戦

 

「──呪霊の分際で、儂に敵うと思うてか?」

 

(おの)が子孫に見捨てられるとは、堕ちたものだな』

 

 ボウッ、と手に炎を纏わせる漏瑚。彼の速度なら即座に渡辺大和を焼く事ができたであろう、しかし大和の手元に留まっている白き燕──それだけが、その存在だけがどうにも不気味に思え、漏瑚は手を出せずにいた。

 金童子の腕をアッサリと切り落とすその切れ味。頭にでも喰らえば、漏瑚でも一撃で死にかねない。

 

『……よもや貴様、術式を2つ持っているのか?』

 

「ホッホッ。なに、誰もが扱える(ただ)の式神術じゃ。術式などではない。安心するといい」

 

 確かに式神は、鍛えさえすれば誰にでも扱える。式神を扱う術式など持たなくとも、結界術のように式神術というのは「術式」とは別のカテゴリーで、別の成長ツリーを持っているのだ。

 しかしだ。金童子は、間違いなく特級呪霊。彼が術式を使用していなかったとしても、ただの式神が彼の腕を切り落とせる程の強さを持つのは絶対──とは断言できないものの、ほぼ有り得ない事だ。

 一体、何をどうしたらあんな芸当が可能なのか。下手をすれば一撃で殺されかねない以上、漏瑚は、そのタネを見抜いた上で攻め立てたいのだった。

 

『……』

 

「──そちらから来ないのならば、儂からゆくぞ。来なさい──『飛燕飛龍(ひえんひりゅう)』」

 

 ピウッと彼の手元の白き燕が、空に飛び上がる。残像しか残さぬその絶対の速度に冷や汗が出るのを漏瑚は感じていた。

 しかし好機。どういうワケか式神が手元を離れた今が、大和を狩る好機であると、漏瑚は喜び勇んで飛び出すが。

 

『ッッ!!』

 

「……勘で避けたか。戦い慣れておるな」

 

 空に飛び上がった燕の式神は急転直下、真下へと方向転換し、そのまま漏瑚の頭を貫く──事は無くギリギリ回避したものの、掠っただけで、御廚子で切られたかのように彼の腕は切り落とされていた。

 

『〜〜〜〜〜〜〜ッッ……!!』

 

 地面に生まれた穴を見るに、こうして地面に墜落して漏瑚に攻撃を仕掛けた式神は2つある。1つは小さい穴に、もう1つはそれよりも一、二回りほど大きい穴になっている。

 今の一撃が、実際は一撃ではなく二撃だった事に後から気付かされ、漏瑚は全身を冷や汗で濡らす。

 漏瑚がそういった情報を脳内で処理している中、大和は、まるでペットを撫でるかのように式神()を撫でている。

 1つは、先程から使役している白い燕。そして、今回唐突に現れたのが──白い龍だった。どちらも紙細工のように白く、薄っぺらい。

 

『ッ……』

 

「おや。考え事はもうよいのかの?」

 

『……本当にただの式神か? それは……』

 

「如何にも。この子らは、和室を美しく飾り立てる障子──その紙から生まれたのじゃ。既存の障子紙ではないぞ。その紙を儂自ら(・・・・・・・)製作したものである(・・・・・・・・・)

 

『!?』

 

「製作の過程で呪力を込めた(おの)が毛髪を編み込み、分身と成す。毛髪とは、呪術において大きな触媒に成りうる。そうして生まれた式神は通常の式神より扱いやすく、強力になるのだよ」

 

『ッ!! 開示か……!』

 

「ホッホッホッ、気付いてももう遅いわ。聞くだけ聞いておけ、呪霊よ」

 

『クッ……』

 

「──ただでさえ強力なこの式神だが、それを更に高みへと押し上げる方法がある。それが我が術式、霊装呪法の利用である……!」

 

『!!』

 

「我が霊装呪法は──所有物の強化のみにあらず。己が製作したモノは強化の倍率が跳ね上がるのだ。思い入れというものが違うからだろうな。極ノ番で生み出した呪具とて、これの例外ではない。当時の儂はまだ極ノ番を扱えなんだ──しかしこの式神で特級呪霊を祓う事など、造作も無かったぞ」

 

『……』

 

「『何故、大元の紙から作ったにも関わらずたったそれだけの式神しか出さないのか。不意討ちにでも使用するつもりか?』とでも言いたげだな?」

 

『今の開示を聞けば誰であろうとそう思うだろう。燕と龍を象ったその2つしか出さぬ理由は──儂を下に見ているからか?』

 

「否。この2つで全てだからだ」

 

『……?』

 

「余った紙はどうしたか、と? 捨てたよ、全て。手数を絞る事により残された個々の力を高める──これも縛りの一種だよ。確か、禪院家の相伝術式、十種影法術も、この縛り込み(・・)で運用される仕様だと聞いておるが……」

 

『!!』

 

「1枚の紙から10の式神を生み出したなら、この式神は十つ子と言えようぞ。その内の8つの兄弟を殺す事で、残された2つの力を、限りなく高めた。敢えて2つ残したのは単なる保険に過ぎん。片方が敗れようとも、残された方を更に強化する為にな」

 

『──話は終わりだな?』

 

「あぁ。開示の範囲以外も話してしまったな。年を取ると話が長くなってかなわん……」

 

 ざわりと。2人の呪力が噴煙のように立ち上る。

 

『「……領域展開!! (領域展開!)」』

 

 同時に、いやほんの僅かに漏瑚の方が早く領域を展開した。漏瑚の呪力の「起こり」を見て、大和も即座に領域を展開した所までは見事であったが。

 

『子孫と同じ領域か。何度味わっても、まるで息が詰まるような、酷い生得領域だ(・・・・・・・)……ッ』

 

「ホッホッ、よもや互角とは凄まじい。必中効果が打ち消し合っておる!」

 

『──春夏は貴様を、自分と同等かそれ以上だ、と言っていた。だが違う。貴様は春夏未満(・・)だ。同等と呼ぶのも烏滸がましい……!』

 

「……なんじゃと? 儂が、あの小童に劣ると?」

 

儂は春夏に領域(・・・・・・・)勝負で押し負けたぞ(・・・・・・・・・)

 

「な」

 

 ────その時。大和の燕と龍の式神が、ボッと煙を上げて瞬時に灰も残さず燃え尽きてしまった。

 

「なッ!? 押し合い中だぞ! 必中効果は無効化されているハズ! これは……ッ!?」

 

『生憎だったな。儂の領域「蓋棺鉄囲山(がいかんてっちせん)」は、必中効果抜きでも、環境効果というものがあるのだ』

 

「…………ッッ!?」

 

『が、貴様はすぐに焼けずに耐えている辺り、大概強者だな。褒めてやろう』

 

「ぐがっ……がぁあああッ……!!」

 

『老体には、この熱さは堪えるだろう。生きたまま火葬してやる』

 

「あああああああッッッ……ぐあぁあぁあぁああああああああああああああ……ッッ!!!」

 

『貴様の敗因は、ただ1つ。開示を囮に使わずに、その脅威のスピードで儂を切り裂かなかった事だ。式神が紙細工であると開示した瞬間、貴様の敗北は決定したのだ。紙が炎に勝てるワケが無かろうに』

 

 ◆

 

 漏瑚と大和が戦っている頃。

 春夏は、健の自我を沈めて表に出てきた渡辺綱と刃を交えていた。動体視力も全身の筋肉の駆動も、呪力で強化してやっとギリギリついていけている。

 呪術師としては春夏や秋冬が上──と茨木童子は言った。けれども、こうして武器を手にした武芸者として見るならば。

 

「太刀に振り回されておるぞ、未熟者め」

 

「っせぇ、チビガキ!」

 

「誰がチビか! はぁぁぁ……!」

 

 何の呪いも込められていないただの日本刀。普段の春夏は極ノ番の触媒としてしか利用していない、ただの刀。扱う者が違えばここまで違う性能を発揮するのかと春夏は苦悶の表情になる。

 チビと煽られた綱は、刀捌きをより加速させて、春夏の紅蓮氷牙を打ち払うと。

 

「渡辺春夏! 討ち取ったりィッ!!」

 

 左肩から右脇腹の袈裟懸けに刀を振り抜かれると直感。金童子の術式が込められて呪具と化した服に呪力を流し込み、術式を発動しつつ、呪力強化して受けようとするが。

 キンッ────と耳障りな音と共に、綱の一撃は簡単に弾き返されてしまう。

 秋冬の結界だ。

 構築術式の燃費が悪かったから、秋冬は生前から結界術を重点的に鍛えていた。が、同じく結界術を鍛えていた命の肉体に乗り移った事によって、更に練り上げられている。

 

「サンキュー秋冬、助かる!!」

 

「っ! うんっ!」

 

 背中で、秋冬の嬉しそうな声を聞く春夏。実際は金童子の術式で受け止めるつもりだったから彼女の援護は不要であった。しかし後ろからのサポートを求めたのは春夏自身である手前、礼は不可欠。

 

「ちっ。堅いな。結界とはちょこざいな……」

 

「『懸氷槍破』ァッ!」

 

「氷の槍……こんなものが通じると思うか!!」

 

「──『咲け』!!」

 

「ッッ!?」

 

 氷柱のように細くて長く、鋭い、氷の槍を何本も飛ばす。しかしそこは生粋の武芸者、それを難なく弾き飛ばす綱だが、春夏の「咲け」の一言で氷柱は氷の礫となり、更に細かく爆散する。

 そう、脹相の「超新星」を参考にした技だ。綱は全身にそれを浴び、血を噴き出させる。

 

「ぐおぉ……ッ……これ、はァ……!!」

 

「やっぱり、持つべきは友達だね。技の見せ合いはお互いに参考になる。まぁ、術式の関係上、脹相はあんまり俺を参考にできなさそうなんだけどな」

 

 今頃──脹相は、壊相は、血塗は何をしているのだろうか? どこかの結界で、泳者を狩っているのだろうか──とほんの少しだけ遠く離れてしまったクラスメイトに思いを馳せる。

 彼らには、暫く会えていない。どこか寂しい気もするが、今はまだ、彼らに会いに行けない。まずはやるべき事を全て終わらせなくては。

 

「そんなガキにしがみついてるからだよ。完全受肉しないのか?」

 

「ッ……子孫を殺してまで、永らえたくはない……」

 

「ご立派なこってすなぁ〜。あんたの子孫──その肉体の父親の方は、とっくに、その肉体の高祖父によって自我を沈められたけどな」

 

「う、ぐッ……目が、見えん……」

 

「あぁ……目にも刺さったのか。完全受肉しないと、失明したままだぞ」

 

「……(たける)に代わる、言いたい事があるようだ」

 

 眼球から血を流しながら、目を瞑る。痛そうだ。春夏は紅蓮氷牙を仕舞い込み、綱が引っ込み、健が表に出るのを待った。

 

「てめっ……よくも俺の目を……っ!」

 

「そこは、生きてるだけ感謝しとけよ」

 

「誰がテメーに、感謝なんかっ……!!」

 

「呪物の力に頼って、それでもダメで。そしたら、己の非力を嘆くでもなく、対戦相手を責め立てる。だからお前はいつまでも3級なんだよ」

 

「は……? それは関係ねーだろーが……!」

 

「術式すら持たない2級呪霊にも負ける分際で──同じ環境で育ってるのに、同じく術式を持たん妹に早々に等級が抜かされてること、恥ずかしいなとは思わないのか? 思わないんだろう。だから堂々と努力を怠るし……成長もできない」

 

「ッッ、るせぇ、よ……春夏のクセに……!!」

 

「大体さ。昇級を妨害されてるとかじゃなく純粋に3級程度の実力しかないお前が、どうして、特級の俺に少しでも敵うと思ってるんだよ。思い上がりも甚だしいとは思わないか?」

 

「は? み、命の1つ上の、と、特別2級じゃ……」

 

「そうだと思ってたんだけど、あの百鬼夜行の後に特別1級になってたらしい。ビックリだよね。で、この前の渋谷の呪術テロを経て特級に認定された。いつの間にか、トントン拍子で等級が上がってた」

 

「あ……あぁあッ……うあぁ……!!」

 

 上擦った声を上げ、チョロチョロと漏らす。男のおもらしなんて、需要は無いだろうに。ましてや、子供でもなく高校生で……と春夏は溜め息をつく。

 

「ただの呪具屋なのにな、俺。でもまぁ特級は割と好き勝手にできるらしいから、甘んじて受け入れることにしてる。──お前の処遇も、俺が決めるよ」

 

「たっ頼む春夏! 命だけは助けてくれ! 忌庫の呪具を盗んだのも、親父──に受肉した先祖に洗脳されてたんだ! 俺は、運ぶのを頼まれただけで!」

 

「それが?」

 

「へ……?」

 

「『俺の役割は、仲間が盗み出した現金を銀行からアジトに運ぶだけだったんだ』と言ったら、警察や裁判官は、この銀行強盗一味の1人を、無罪放免にすると思う?」

 

「っ、け、けど! 殺すのはやりすぎだって!!」

 

「銀行強盗は例え話。呪詛師は死刑だろうさ」

 

「呪詛っ……なんで俺が!?」

 

「ぶっちゃけただの私怨さ。けど、総監部の通達にあるように渡辺道具店は取り潰し。それに従わないという事で、きっとお前らも罰の対象になりうる。それでなくとも死滅回游により殺し合いが起きてるこの渾沌とした状況──きっと、誰もお前の殺害を咎めないだろう」

 

「待っ────」

 

「多少シスコンでもいいから、今度は、多少マシな性格になってこいよ」

 

『5点が追加されました』

 

 無情に、無常に響くコガネの声。ゴトリと落ちた健の首は、血と涙と、漏らした尿に濡れていた。

 

「──終わっ、た?」

 

「? ……あぁ、そういう事か」

 

 震えるような秋冬のその声に、春夏は納得する。茨木童子が目隠ししていたのだ。秋冬にも──器の命にも、この有様は刺激が強い。

 

「ちょっと待ってな。──『熊童子』」

 

『はっ』

 

「片付け頼む」

 

『御意』

 

 呪霊操術は便利だ。死体の片付けすらも容易だ。

 全てが終わって熊童子を戻した時、そこにはもう熊の唾液に濡れた地面しか残されていなかった。

 

『んもう。耳と目を両方塞ぐのって、大変なのよ? 私は手が大きいからギリギリできるけど』

 

「悪ィ悪ィ。……お待たせ、秋冬」

 

「ん……」

 

「サポートありがとな、助かったよ」

 

「うんっ……!」

 

 春夏が秋冬の頭をワシワシ撫でていると。ずっと視界の端にあったドーム状の結界が壊れて、漏瑚が黒焦げとなった老年の男性──大和を、ズリズリと引きずり出してきた。

 

「ヒュー、さっすがァ」

 

『貴様より軟弱であった。──子孫のお前に、何か言いたい事があるようだ。聞いてやれ』

 

「遺言かな」

 

 渋谷事変での直毘人よりも全身を焼かれている。恐らく数分後、早ければ数秒後には死ぬであろう。仕方が無いからと、春夏は秋冬と共に傍らに行き、話を聞くことにした。

 

「我が子孫……春夏や……」

 

「……おう」

 

「本家の……忌庫には、あれから……入ったか?」

 

「いいや」

 

「ならば、よし。──本家の忌庫に、1つだけ──1つだけ、呪具を残してきた。その呪具は、決して忌庫より持ち出すでないぞ……」

 

「……何を置いてきたんだよ」

 

「特級呪具『飛天』。かつて両面宿儺が使用したとされている呪具だ。凄まじい呪いを帯びている──アレだけは決して使うでない。さもなくば己が身を焼くことになる……死にたくなくば、持ち出すな」

 

「……分かったよ」

 

「そしてコレは、御先祖様より脈々と継がれてきた両面宿儺の逸話だ──不意に父親を失ったお前は、まだ、この話を知らないであろう……」

 

「?」

 

両面宿儺の領域は結界を閉じない。種から直接、花が咲くが如く──筆も使わず、空に文字を書くが如く──まさに神業なり……!」

 

「その話は漏瑚から聞いた。理解できねえけどな。コイツ、渋谷で宿儺と戦ってんだぜ。凄いっしょ」

 

「────羂索もまた、領域を閉じない」

 

「……え?」

 

「羂索はな。正確にどの年代の術者なのかは、儂も知らん。少なくとも、平安から生きておったとは、思うのじゃが。天元に次ぐ結界術の使い手、そして宿儺は羂索に次ぐ結界術の使い手と儂は見ておる」

 

「……意味分からん。結界で閉じないで、生得領域を具現化させられるのかよ……」

 

「儂は、羂索に負けた。領域の外殻を、破壊され、焼き切れた中を、素手で押し負けた──反転術式を以てしても、恐らくは無駄であったろう。羂索も、反転術式を使える──術式反転もまた同様に……」

 

 大和は、当時の羂索との戦闘経験があるらしい。どんな肉体でどんな術式を使ったのかは不明だが。恐らくは、加茂憲倫の()あたりか────。

 

「領域は……使えるのだな?」

 

「ああ」

 

「霊装呪法はその術式の仕様から、領域に使用する呪力が極めて少ない。──具現化する生得領域が、純白の雪景色であるが故に──ゲホッゲホッ」

 

『其奴の領域──春夏、お前の領域と同じだった。生得領域とは、言わば心の中であろう? 同じ術式であろうと、術者が違えば、領域の風景は変わると思うのだがな……案外、そうではないらしいぞ』

 

「生得領域……」

 

 伏黒も漏瑚も──春夏の領域に入った者は全員、口を揃えてこう言う。息が詰まりそうな空間、と。

 それは、何も無いから(・・・・・・)である。

 純白の景色。上も下も無く、建物のようなものがあるワケでもなく、ただひたすら白い景色が続く。

 

「我が霊装呪法の領域に、象徴(シンボル)は無し。破壊され、領域が破壊される心配は無い」

 

「?」

 

「分かるか、春夏。結界を閉じさえしなければ──もう何人たりとも、我らの領域を阻害できんのだ。恐らくは天元──日本最高の結界術の使い手以外、どう足掻けど、我らの領域からは逃れられぬ……」

 

「…………そうか。結界が無いから、領域の押し合い自体が発生しないだろう、って事か……」

 

「然り。──儂は、発想あれど、その段階には到達できなかった。呪力も足りなければ発想の柔軟さも足りぬ。これを得るには、何を捨てれば良いか──儂には死んでも理解できなかった。……無念なり」

 

「……」

 

「春夏。春夏や。お前は儂に並ぶ唯一の霊装呪法の使い手。お前ならば必ず、儂には辿り着けなかった絶対の境地に、到達できる……!」

 

「……爺ちゃん……」

 

「この国を掌握しろとは、もう言わん。じゃがな、これだけは覚えておけ。我が霊装呪法は、日本一。国を統べる事も、破壊する事もまた容易なり……」

 

「じゃあ、どうしてアンタが国を支配しなかった? その気になれば国も支配できる──なんて言って、結局そんな事は起こそうともしなかったんだろ?」

 

「時期が、悪かったのだ。呪霊の質も悪ければ──術師の質も悪かった。しかし、今は違う。五条悟の出現により呪霊のレベルは上がり、それに対抗する為に術師のレベルもまた上がった。それらの強さを利用し、食い物にできるのが、霊装呪法の強みだ。周りの強さに助けられている、とも言えるな……」

 

「……それは、俺も実感してるよ」

 

 京都に居た頃、店に掛けられた呪い避けの呪いのお陰なのか、強い呪霊は大して来なかった。だから新たな呪具を作るにはかなり不向きな環境だった。

 しかし東京に行ってからは、五条悟に惹かれてか強い呪霊が、術師が多く存在していて──そして、春夏はそれに引っ張られるように強くなれた。

 漏瑚との出会いだって、京都に居たままでは絶対有り得なかっただろう。伏黒恵との出会いだって。

 今の春夏があるのは、極論、彼を取り巻く環境(・・)のお陰なのだ。

 

「縁を、大切にせよ。どんな縁も(つぶさ)に手繰り寄せ、己のものとするのだ。そうすれば、お前はもっと、遥かに強くなれる…………よいな」

 

「……ああ」

 

「嗚呼────短き、二度目の人生。だが満足だ。強き我が子孫に巡り会えた……幸福よ……」

 

 その言葉を最後に大和は口を閉ざす。結局、死ぬその瞬間まで、春夏の隣に居る秋冬に言及する事は無かった。結局大和は、春夏でもなく「強さ」しか見ていない。

 

『5点が追加されました』

 

『もう要らんわ』

 

「強くなってやる。そうすりゃ好き放題に過ごせるだろうからな。──だけど、アンタの思う通りには生きてやらねえよ……渡辺大和」

 

 すっかり焦げてしまった渡辺大和の死体は、次は虎熊童子に食わせてやり──春夏達は、場に残った呪具を秋冬のバッグに詰め込み、結界内に散った、渡辺道具店に由来する呪具を集める事にした。

 しかしそんな折に、結界内に異変が起きた……。




大和は、春夏と違って反転術式を使えました。
練度はそれなり。黒閃経験者です。

羂索との領域勝負に負けるのと同時に、彌虚葛籠に切り替えて、羂索にステゴロを挑みました。
夏油ボディほど肉体が強くはなかったのもあって、素手の勝負だけなら、呪力強化と霊装呪法で二重に強化できる大和に分があったからです。
しかし彌虚葛籠だけでは限界があるので、結果的に押し負けてボロクソにやられたようです。

その時に、原作で言う九十九vs羂索の時みたいに
「治せよ!」「治さねえよ!」になりました。

大和は縛り大好きな人間ですし、その時は興奮して頭に血が上っていたので「もう二度と、反転術式を使わない。その代わり──」と縛りを結びました。
反転術式に割くリソースを攻撃全振りするどころか縛りという手段で厳格に回復手段を封じることで、リソースを攻撃に全振りするだけでなく、攻撃力をアップさせました。

それでも羂索が勝ちました。年の功ですね。

大和が生前から車椅子を使用していたのは、肉体が老化したせいではなく、その時の後遺症です。

その時の反省から、大和は、分家に結界術の継承を命じました。子供をシン・陰流に入門させたのも、全てはシン陰が有する結界術を盗む為です。
その戦いの時に、羂索から「おもしれーヤツ」認定されており、呪物化を誘われました。

そこそこ若い頃から車椅子を使ってて、それなのにそこそこ長生きしたせいで、大和の人生の大半は、車椅子の上にありました。
中年頃の肉体に受肉したのに完全受肉でアッサリと老年の肉体に塗り替えたのは、作中で彼が言ってる通り「動ける方がなんか気持ち悪いから」です。
肉体の主である倭からすれば、酷い話ですが。



大和のお手製の式神が「10種類」で「あえて破壊する事で残された方の力を高める縛り」を式神術に盛り込んだのは、十種影法術に憧れてのことです。

大和が生きていた時代、十種影法術持ちは禪院家に居ませんでした。
そのせいで十種影法術を呪物化・呪具化することができず、彼は十種影法術を得られませんでした。
大和は、禪院家の血を引く者と子作りすることで、己の子孫に十種影法術が発現する可能性を渡辺家に発生させる方法を選びました。

はじめは「十種影法術を得た子孫に受肉させろ」と羂索と縛りを結ぼうとしたものの、そもそも狙いの術式が発現する事自体が稀なので、羂索は、流石に無理筋だとして断りました。
「せめて十種影法術使いと同じ時代に受肉させろ」という風にゴネましたが、上記と同じ理由で羂索は断りました。

できるか分からない天元の同化阻止、獄門疆発見、それを利用した六眼封印、宿儺の器の作成。
ただでさえ綱渡りなのに、それに加え「十種影法術使いの誕生」などという条件なんて盛り込んだら、いつになったら死滅回游が開催できるか、分かったものじゃないので。
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