とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
『それにしても春夏……最後、よく耐えたわね』
「何が?」
『秋冬が「兄弟」って言った時──あなた「本当は兄弟じゃない、従兄弟なんだよ」って、教えそうになったでしょう?』
「……よく分かったな」
『家系図を描いた時も、サラッと兄弟にしてたわ。あの時の家系図を正確に書くと……こうなるわね』
「……ああ。俺と秋冬はあくまで従兄弟だからな」
『本当の事を言えば、秋冬は、もっと悔しい思いをすることになる。同性婚がどうなのかはともかく、この国の法律は、イトコは結婚できるものね』
「ああ。それなら、本当の事を教えちまうよりは、
『兄弟だから結ばれるのは無理』って認識のまま、逝かせてやるのがいいって思ったんだ」
『優しい嘘──ってヤツね。それにしたって最後のキスはダメよ、両想いって誤解させちゃうわよ?』
「両想いさ。俺だって、アイツの事は愛してるさ。可愛い妹として、だけどな」
『んもう……ほんと、シスコンね』
「シスコンで結構だよ」
命を愛する健を笑えないな、と春夏は苦笑する。もしかしたら、これも「血は争えない」というヤツなのかもしれない。
渡辺道具店本店に帰還し、座敷に、秋冬が抜けたあとの命を寝かせながら、春夏はそんな事を思い、ふっと笑った。
◆
『──戻ったか、春夏』
『力を奮うのは、なんとも気持ちイイですわ……』
「よっ。漏瑚も橋姫も……皆も無事そうで何より」
『ガッハッハッハ! 蒙昧な人間なぞに遅れをとる我ではないわ!』
『
『漏瑚、貴様ぁ!!』
『酒呑様になんという口をッ!!』
『漏瑚よ、それを言うのは無しだろう!? 春夏は我が主。我が負けるのも当然というものである!』
『負けたのは主になる前であろう』
『『『『『漏瑚ォォォォッッ!!!』』』』』
「はいはい静まれ静まれ。──ったく、なんだってこんなワチャワチャした呪霊サークルになったよ? 全く、意味が分からん……」
漏瑚と茨木童子以外の呪霊を引っ込ませ、春夏は大きな溜め息をつく。軍隊の方の処理は済んだのか辺りは嫌味な程に静まり返っている。
『……見ていたぞ。
「……二度とできる気がしないけどね……もう呪力もスッカラカンだし、色々と縛っちまった」
『まさかッ! 二度と領域を使わないなどと縛りを結んではおらんだろうな!?』
「それは無いよ、無い。でも、必死に必死にと──マジで必死にやったお陰……のような気がするよ」
『それにしても、本当にできるようになるとはね。後は、それをモノにするだけね』
「できればいいけどなー。黒閃のおかげもある──ような気がするけど」
「黒閃を出したのって金童子戦でしょ? 昨日よ? 黒閃は関係ない気がするけどね」
「そっかぁ。24時間経ってないけど効果切れか」
────思えば、ここ2日は色々な事があった。
東京の方で鹿紫雲一が泳者のデータを参照できる総則を追加。次いで日車寛見が点を移動可能とする総則を。それを受けて春夏、漏瑚が総則を追加──それに次いで、酒呑童子が総則を追加。
その後、人間の泳者に呪具を貸し与え、呪霊への対処を任せ、春夏達は酒呑童子の屋敷の門番である金童子との戦闘に至り──春夏は黒閃をキメる。
そして酒呑童子を下し、京都結界の頂点に立つ。
その翌日の11月13日──渡辺道具店の本店に行くと半年と少し前に死んだはずの妹、渡辺秋冬が親族・渡辺命の肉体に降霊している事が判明。
その後、分店に向かい、親戚連中と邂逅、戦闘、果ては討伐するに至る。
──かと思いきや、今度は異国の軍隊が、結界の各所から侵入。分店は北端そばにあったことから、そこから侵入してきた軍隊とはその場で交戦し──戦闘は呪霊に任せ、秋冬のみ本店にて待機させる。
が、そこで呪われに呪われた呪具「飛天」に触れ取り憑かれてしまった秋冬は、春夏を殺す為、再び戦場に舞い戻る。
特級呪具「飛天」を取り戻す為、領域を展開する春夏だったが──「飛天」による移動速度は極めて高速で、茨木童子による飛行では追い付けず。
移動で追い付くのではなく、結界で閉じ込めるのでもなく、結界で領域を閉じないことによる範囲の拡大という荒業によって、飛天持ち秋冬を下す。
そして、飛天を扱った弊害により秋冬の降霊術は終わりを告げ、今度こそ昇天し……現在に至る。
東京の結界で2つの総則が追加されて、京都にて春夏が金童子、酒呑童子を打倒して、まだ丸1日。まだ、それしか経過していなかったのだ。
それに気付いた春夏は、途端に凄まじい疲労感に襲われた。
「っ……」
『春夏っ!』
力が抜けた春夏は、その場に倒れそうになるが。正妻を自称する茨木童子は、誰より早くそんな彼を抱き留める。
「まだ──分店の奴らが持ってった呪具の回収も、しなくちゃ……ならねー、のに……疲れた、な……」
『あなたはもう十分に戦ったわ。後は、私と漏瑚に任せて眠りなさい』
「……けど……」
『大丈夫。在庫は把握しているわ。あなたが人間に貸した呪具と、盗まれた呪具の区別も付く。お金は取っておく?』
「『窃盗に加担したと知られたくなければ』って、軽く脅して……。それで、ゴネるようなら……」
『殺しちゃいましょうか。どうせ殺し合いの儀式の最中ですものね』
「その辺は……任せる、けどね……」
『分かったわ。──聞いたわね、漏瑚。次の任務は呪具の回収よ』
『フン、仕方ない。貴様が死んでは元も子もない。今は休め。呪具は儂と茨木童子に任せるのだ』
「……サンキュ。幾つかはあげるよ……」
『業龍剡月刀を複製しろ。儂はアレが欲しい』
「りょーかい……またあとで、な……」
その言葉を最後に、春夏は意識を手放した。領域展開3回分の呪力を持つ彼が「領域展開3回分」の呪力を対価に、最後の閉じない領域展開に臨んだ。疲労もあるが、もう、完全に呪力が尽きていた。
茨木童子は眠りに落ちた春夏を渡辺道具店本店に運び、
◆◆◆
その後、他の結界では京都結界に1日ほど遅れて各国の軍隊が侵攻を開始し、呪術師狩りを実行。
京都結界には早々に軍隊が来ていたがその殆どが排除された事もあり、結界の向こうでは軍隊の継続投入を断念したらしく、茨木童子をはじめ、春夏に従う者達は呪霊狩りまたは呪具回収に専念できた。
「……んっ……」
何日眠っていただろうか。頭に温かな柔らかさを感じながら、春夏は目を覚ました。この温かさ──この柔らかさ。そして女性特有の良い匂い。恐らく膝枕されている、と目も開けずに判断。
しかし、と違和感を覚える。誰より慣れ親しんだ茨木童子の香りではなかったからだ。
「……誰だ……?」
「『誰だ』と仰るなら、もう少しくらい警戒しては如何です?
「
眠る前によく聞いた愛すべき妹の声──と感じ、春夏は勢いよく身体を起こすが。とうに秋冬は昇天しており、身体の主と心の主は合致していた。
「秋冬ちゃんじゃなくてすみませんね」
「あぁいや……。なんか、悪かったな。色々と面倒な事件に巻き込んじまって」
「いえいえ、それを言うのなら私の方こそですわ。金髪モヒカンの変な男に誘拐されてしまって……」
「!?」
「あ、変な事はされてませんよ? なんか『器』がどうこうって、お婆さんが言ってましたわ。確か、オガミ婆とか名乗ってましたか。──って、これは秋冬ちゃんから聞いてますわね」
「あぁ……そんで秋冬を降霊させられたんだよな」
「ええ。何か、カプセルに入れた白い欠片のようなものを飲まされて。そしたら、意識が沈んで肉体の主導権を奪われてるんですものビックリですわ?」
「秋冬のヤツ、余計なことしちまったよな、色々。すまん。……術式まで刻まれたんだろ?」
「ええ、よく分かりませんが私も霊装呪法を使えるようになったようで。ちなみに、秋冬ちゃんが私の身体を操ってる時は、まるで映画でも見てるような感覚でしたのよ? 中々に楽しめましたわ♪」
「そ、そう……」
「でも撃たれるのは痛いんですのね」
「……ホントごめん……」
「うふふっ、責めてはいませんのよ? 私が自分の身体を操っていたとて、同じ結果でしたから。私が誘拐されたのが全ての原因ですし。秋冬ちゃんも、降霊させられただけ。被害者という意味では、私もあの子も同じですもの」
「……」
「あっ。そんな事より、もっと大事なことをお伝えするの忘れてましたわ!」
今の話を「そんな事」で流すのかよ──と春夏は苦笑するが、命はそんな春夏はお構い無しにススと一歩下がると、美しい土下座を披露して……。
「不束者ですが、末永くよろしくお願いしますね」
「……え?」
「経緯はどうあれ私に霊装呪法が宿ったのは事実。ならば私は、本家に嫁がなくてはなりません」
「ファッ!? なんやその設定初めて聞いたわ!! というか俺には羅喜という女が居てだな……!!」
「お兄さん──いえ、春夏さんは、本家のご当主。本家の『役目』について、お父上から教わってますでしょう?」
「え……店を維持する事じゃねーの……?」
「──あぁ、そういう。そういう大事な引き継ぎが為される前に、お亡くなりになったのですね……」
「待って、何? 何なの? 俺は何を知らない?」
「春夏さんの『本家』は術式と茨木童子──そして我々『分家』は結界術を、渡辺大和の遺言により、子々孫々に継承する事になっていますの。ですからもしも分家の者に霊装呪法、及び他の相伝の術式が発現した場合には、その者は、本家の者との婚姻が義務付けられているのです」
「はああぁぁぁ!? 通るかよ、そんなモンッ!? 無しだよ無し、婚姻は無し!!」
「……私は構いませんけれど……いいのですか?」
「何が!?」
「本家のみで受け継ぐといった『縛り』によって、霊装呪法の機能が保たれている可能性──などは、考慮しませんの?」
「……あッ!?」
死滅回游に参加して間も無い頃に感じた、術式の不調。それがもしや、分家の人間である命の肉体に霊装呪法が刻まれた事で「縛り」が効力を喪失したことが原因だとすれば。
金童子を単独撃破できなかったのも。
呪力と術式により二重に肉体を強化しているにも関わらず、酒呑童子にあっさり吹っ飛ばされて出血してしまったことも。
────全て、辻褄が合う。
「シン・陰流とか有名ですわね。そういった実例が身近にあるんですもの──『機能』を対価にして、
『継承する方法』にも縛りを結ぶのは、何ら矛盾は発生しませんでしょう?」
「あ、う……」
もしかしたら、先代当主が施設に預けられていた春夏を本家に迎え入れたのも、その「縛り」が由来なのかもしれない。そして、秋冬が生まれたのに、春夏を家から追い出さなかったのも……。
本来なら生まれてきたであろう秋冬の子供や──またいつか生まれてくるであろう渡辺の本家の子に発現した霊装呪法の「機能」を、本家の外へと出た春夏のせいで落とさない為に、不遇な扱いにしつつ本家に留めていたのかもしれない。
「恐らくは、これが渡辺大和の狙いです。そうして術式の継承にも縛りを設ける事により、霊装呪法の機能を高めたのでしょう。恐らく
「う、ぐ……ぐぅぅっ……!? でも俺には……!」
「大丈夫です。私が春夏さんの妻であるというのはあくまで表向きの話。子孫さえ残せればそれでいいですもの。正妻は羅喜さん。そういうことで、私は納得しますわ」
「……ホントに良いのかよ? それで……」
「ええ。そもそも私の霊装呪法自体が後付けですしそれで問題はありませんわね。それに、仮に私達が婚姻関係を結ばなかった場合──春夏さんの方は、羅喜さんとお2人で本家を切り盛りできますけど、私は、1人で分家を再興しなくてはなりません」
「あ……」
「父の倭は、先祖の大和の受肉体となり死亡し──兄の健は先祖の綱の受肉体となり死亡。もう私には1人で家を再興するか本家に嫁ぐしかありません」
「……健を殺したのは俺だ。そんな俺に嫁ぐのか?」
「アイツ嫌いでしたし、別にそこは何とも……」
「え?」
「いえね? 私とて女子中学生、恋愛の1つや2つくらいは当然のようにするでしょう? それなのにあのバカな兄は、私の想い人に手を出すのですよ。察する力が異常なのですわ、変な方向にね。恋する乙女はその恋心が顔に出ますものね、幾ら隠せども恋心が露見してしまうのはやはり仕方ないだろうと思いますが。あの愚かな兄のせいで、何度私の恋が実る前に潰えたことか。信じられます? 私と少し話すようになると兄が襲いに来るからと、学校では私を避けるのが当たり前になっているのです、男も女も関係なく。お陰で私はボッチというヤツです。お昼ご飯も、風に吹かれる屋上で食べてますのよ? 級友は皆、お友達同士で食べていますのにっ!」
「あわわ」
命の兄への愚痴は、それはもう止まらなかった。よっぽど兄への鬱憤が溜まっていたらしい──が、そんなでも一応は家督の継承権を持っていたからかあまり大っぴらには逆らえなかったらしい。
「春夏さんの事は嫌いではありません。かと言って恋愛感情もありませんけれど。──あ、だからって浮気などはしませんわよ? 春夏さんって独占欲が強いですものね、そんなあなたを裏切るような事をしてしまえば……秋冬ちゃんに怒られちゃいます」
「……ホントにいいのか? 結婚相手が俺で」
「ええ。お家取り潰しの件については、これから、ゆっくり考えていきましょう。道具店は潰れても、私達の人生はこれからも続きますから……」
「ん……そーだな」
「では私はこれから本家に嫁ぐとして。分店の方は長期休業という事で宜しくて? いずれは、お家の取り潰しをも乗り越えた私達の子々孫々も、本家と分家に別れるのでしょうから……」
「あーうん、なんかもうホントに気が早いな」
「秋冬ちゃんと兄が居なくなった今、本家と分家を合わせても近しい親族は春夏さんと私の2人だけ。言わば私達は、アダムとイブ。新たな始祖として、子孫繁栄の為、邁進しましょうね♪」
「葬式以来会ってないからさ、俺の勘違いだったら悪いけど……お前ってそんなキャラだったっけ?」
「……秋冬ちゃんの影響……かもしれませんね?」
「へぁっ!?」
「ふふっ、冗談ですわ♪」
「あ、いつもの命だ……」
「さてさて、ご飯にしましょうね。春夏さんってば2日半は寝ていたのですよ?」
「そんなに」
「因みに今日は11月16日です。そろそろお昼の時間ですから、お昼ご飯にいたしましょうね」
そう言うなり命は台所へ向かおうとする。春夏も手伝おうとするが、既に調理は済んでいたらしい。春夏に食べさせる気満々の量だ。
もしこのタイミングで彼が目覚めなかったなら、起こすつもりだったんだろうな──と分かる程に。
「台所、勝手に使わせて頂きましたわよ。まぁ私の家にもなるのですけどね」
「アハハ……」
「腕によりを掛けて作りましたからね。あなたにはたっぷり、精をつけて頂かなくてはなりません♡」
「……なんか臭いがすごいな」
「とりあえず精力剤とスッポンとニンニクとマカと高麗人参と乾燥ヤモリと……」
「何でそんなんあんの? 西洋の黒魔術か??」
「渡辺道具店の分店の看板娘たるもの、このくらい用意できなくてどうします?」
「そうだ……そーゆーのも置いてんだったよな……」
「はい、あーん」
「あー……」
そうして昼食を食べていると。コガネが、新たな総則の追加を告げた。
総則14──泳者は、身代わりとして新規泳者を結界外から招き、100点を消費することで、死滅回游から離脱できる。
「伏黒か。あー、離脱か……離脱可能とか、そんなん考えてなかったよ……」
「あら? でも、おかしいですわ。この総則では、明らかに総則7に反してませんこと?」
「多分、ゴネて通したんだろう。俺もそうしたし」
「クレーマー客みたいですわね。はしたないですしやめてくださいな」
「……ごめん」
そんな話をしていると、更に総則が追加される。総則15──泳者は結界を自由に出入りすることができる。
「は? そんなん……は? そんなんアリ??」
「伏黒津美紀……先程の人の、姉か妹でしょうか」
「姉が居るって話は聞いた事ある。多分、姉かな。この点の流れ的に、伏黒姉に点をあげて、そのまま追加って感じかな?」
「しかし、総則を追加したいのであれば、わざわざ100点分お姉さんを経由する必要は無いのでは? 恵さんの方でそのまま追加すればいいでしょうに」
「確かにそうだな。俺が追加した時は、俺と羅喜の点を合わせたら100点を超えるから〜って感じで点を受け取っただけだし。既に100点以上を持つ伏黒が、わざわざ姉を経由する意味は────」
わざわざ自分の点を姉に渡して、姉に総則を追加させる意味は無いだろう──と、恵の行動に対して疑問を浮かべる春夏だったが。
つい先程、
「……ヤバい。東京で何か不測の事態が起きてる」
「と、言いますと?」
「総則14。100点を消費して身代わりを招くと死滅回游から離脱できる──コレだ」
「成程。妹ちゃんは、お姉さんを死滅回游から離脱させたかったから100点を渡したのですね。でもお姉さんには死滅回游を抜ける気が無く、離脱の為ではなく総則追加の為に点を消費した……と」
「……だと思う。ちなみに、恵は男だよ」
「あら、そうなんですのね。なんとも、可愛らしいお名前ですわね。春夏さんみたい」
もう何もツッコミ入れないぞ、と心に決めるが。
「俺の点は、酒呑童子の分と俺に従う人達のお陰で800点を超えてる。だから命はこれで────」
死滅回游を抜けてくれ──と告げようとしたが。
点を見て、春夏はとある違和感に気が付く。彼が呪霊操術にて従えている酒呑童子や四天王、橋姫が殺した分の軍人達の点が、追加されていない。
そういえば、軍人を処理した際に春夏のコガネのアナウンスが無かった事が思い出される。
「点が増えていないって事は、つまり──軍人達は泳者じゃないってことなのか……?」
「それはそれでおかしいですわよ。非術師だって、結界に入れば泳者でしょう。そして泳者なら1点はあるでしょうに」
「だと思うんだけど。呪霊操術で呪霊を従えてるんだが、その分の点数がほぼ増えてねーんだよ」
「……その呪霊は、死滅回游の泳者なのでは?」
「あっ、そうか。忘れてた……」
死滅回游の泳者として指定された呪霊は、春夏の呪霊操術にて直接的な支配下に置かれたとしても、死んではいないので泳者としての判定は外れない。
よって、酒呑童子や橋姫が軍人を殺したとしても彼らを支配する春夏の点にはならず、酒呑童子やら橋姫の点になるだけなのである。
「──軍人の点数については解決したけど、東京で伏黒姉がしたであろう謎ムーブといい、何が何だか分かんねぇのは残るな……」
「そういえば──今にして思えば、あの軍人達って転送されてませんでしたわよね?」
「そういえばそうじゃねぇか!? 普通に地続きで結界の中に入ってきてた! これって、何なんだ? 転送される泳者と軍人で、何が違うんだ……!?」
「秋冬ちゃんと私が観察していた限りでは、車ごと上空に転送されて降ってきてそのまま死んだ泳者も居ましたわ。つまり、装甲車などに乗っているから転送されない──なんてことは無いと思われます。転送の条件は、何か他にあるのでしょうね」
「……軍人、まだ居るかな?」
「どうでしょう。2日以上経っていますし、呪霊や自衛目的の人間に殺されていそうな気もしますが。この京都結界は……特に呪霊が多いようですから」
尤もだった。実際、春夏は軍人=敵という認識で行動していた。呪具回収の役目は茨木童子と漏瑚の2人だけに任せていて鬼呪霊達は出していないのでそこまでの殺戮は行われていないと思われるが──しかしその2人も軍人を見たら殺すかもしれない。
「──命。ちょっと留守頼めるか?」
「いけません。春夏さん、まだお食事中です」
「……」
結婚は人生の墓場──という言葉がある。
まだ結婚を控えていないにも関わらず、本格的な許嫁が出現しただけで、立派な墓石が目の前に在るように思えてしまった春夏であった……。
Q.本家のみで術式を受け継ぐ「縛り」を渡辺大和が設定したのだったら、その大和本人が分家の人間に霊装呪法を刻むのは矛盾しているのでは? 本家の人間以外に霊装呪法を与えたら縛りの影響で術式の性能が落ちると、大和が一番よく知っているのに。
A.死滅回游に参加するにあたって、質より量作戦を実行する事にしたのです。泳者にテキトーな呪具を貸し与え、呪霊を狩りに行かせ、生き残った人間を領域で洗脳して、都合のいい駒にする予定でした。
呪具を貸し与えていたのはどの人間を手駒にするか選別しやすくする為です。
そこそこ点数を稼げるという事は、羂索が選別して泳者に設定した呪霊を倒せるくらい優秀という事。
なので大和は、京都に呪霊を放つなら、
呪霊操術を手に入れる前という事もあり羂索は既に多くの術師・呪霊と契約を結んでいたので。
死滅回游を無事に乗り越えた場合は羂索にリベンジするつもりでしたが、夏油ボディなので「前回」と違って手も足も出なかったと思います。
それくらい、夏油ボディと「大和が知る羂索」には差があります。当時の羂索は1級下位相当、鍛えた様々な技術で足りない強さを補っていました。