とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》 作:サマーオイル悟
第6話:「どんな女がタイプだ?」
「────今頃、虎杖達は交流会かな。いーなー、俺も参加したかった〜」
特級呪霊・漏瑚と春夏の邂逅から、僅か数日後。姉妹校である京都校との交流会が、遂に始まった。
交流会は、3年生までが参加対象。特別措置での編入生とはいえ、やはり、4年生である春夏に参加権限は無いのである。
まるで店を開くように超大量の呪具を教室全体に広げて、無表情ながらも、鼻歌交じりに、1つ1つ丁寧に手入れを施していく。
「……あーあ、クッソ……」
あの日──彼が自分の呪具を虎杖達に貸し与え、任務に向かわせた日。
春夏が術式について伏せていたせいもあってか、虎杖と伏黒はそれぞれの呪具を「欲しい」と感じ、そして、春夏の術式の対象外になってしまった。
それが戦闘中に起きたものだから、受けなくても良かったハズの攻撃を受けてしまい、3人は怪我をしてしまったらしい。
軽傷だから気にしないでください、でも大事な事ですし事前に共有しておいてほしかったですね──というのは、伏黒恵の言である。
狗巻棘の「呪言」と違い、他人に直接的に危害を加えるような危険はあまり無い。けれど、よくよく考えてみれば、今回のように
春夏は、術式について伏せた事を酷く後悔した。
後輩に怪我をさせてしまった事実もそうだし──何よりも「跡は残らなかったとはいえ、乙女の肌に傷をつけた代償」という名目で、彼の有する五寸釘シリーズを全て釘崎に無料で譲渡させられたから。
春夏の所有物であった時に比べて威力などは多少落ちるものの、それを差し引いても便利であると、釘崎は彼の呪具の便利さを買ってくれたのだ。
そして虎杖。虎杖は例の「反転術式アウトプットメリケンサック」の新品を購入。込める呪力の量に応じて、その半分の量の反転術式を、叩き込める。春夏の「強化」の恩恵を受けていればビーム放出も簡単だ。──逆に言えば、虎杖がそれだけの呪力を拳に込めれば、春夏の「強化」の恩恵を受けずとも反転術式ビームを放つ事が可能である。
釘崎の事もあるので虎杖にも無料で提供しようとしていたが「俺はちゃんと払うから!」と、かなり強情なので、半額で販売する事にした。
最後に伏黒。彼に貸していた外套は焼けるように破損していた。春夏の「強化」を受けていた時には無類の防御力を誇ったそうだが、それが無くなった直後、1級呪霊の呪力放出にやられたらしい。
商品でしょうし弁償します──と真面目な伏黒は春夏に申し出たが、術式を伏せていたせいでもあるという事で、彼は伏黒の申し出を却下。
しかし伏黒も伏黒で、虎杖のように強情だった。
術式について言わなくていいという方向に会話を持っていったのは自分でもあるので、確かに説明は欲しかったが責任は自分にもある──と言うので、春夏も伏黒も両方が悪かったかもね、という事で、最終的に話はまとまった。
「京都連中ボコして汚名返上したいンゴ〜、っと。あーあ、あと1年だけ若けりゃなぁ」
例の件を「やらかし」と感じているのは春夏だけだった。だから、本当の所は汚名返上もクソもないというのが実情だったが、春夏にとってはやらかし同然なので、汚名返上したいと密かに感じていた。
「にしてもアレだな。残穢ってどう防げるんだろ? 六眼、怖ぇなぁ……」
漏瑚との戦闘により、春夏は軽い火傷を負った。それ自体は、呪具を利用した
だというのにその日の夜、五条悟は、春夏を一目見るなり「頭富士山のこと祓えた〜?」と、平然と尋ねたのだ。
まさか「なんか呪具友達みたいになったぞ」とは流石に言えなかったので「軽くバトルになったので呪具を駆使して逃げてきた」と誤魔化しておいた。それで五条悟を誤魔化せているかは、疑問である。
どうして漏瑚との邂逅がバレたのか疑問に思った春夏は、五条悟との付き合いが長いであろう伏黒に事の次第を軽く相談した所「残穢だと思います」と軽く返されてしまった。
成程確かにそうかもしれないな──と思いつつ、春夏は、それを誤魔化せる手段を思案するように。
結局、その日からずっと考え続けているものの、答えは未だ浮かばず。
辛うじて思いついたのが「呪力を遮断する外套を着用しておけばいいのか」だ。春夏自身その考えを鼻で笑い飛ばした。全く、単純な脳ミソであることこの上ない。
◆
「何飲もうかな〜っと。校内の自販機、安いわぁ。東京とは思えないね。サイコーやな、ヘッヘッヘ。屁が3つですョ」
東京は物価が高め。自販機だって例外ではない。地方であれば100円や110円、高くても150円程度で買えそうな飲み物が、東京では190円だの200円だの倍近くの値段になる事なんかザラにある。
それが、学校内の自販機は例外らしく、見慣れた金額がズラリと並んでいた。これは助かる。学生の財布には優しい。
「……ん? うおっ……」
エグいゴリマッチョ。一目見てそんな印象を抱く大男が1人、何故か上裸で校内を練り歩いている。補助監督や事務員には、見えない。
身に纏う呪力も練り上げられているし、どこか、鋭さを感じなくもない。恐らくは、呪術師だろう。今日は交流会なので、京都校の生徒かもしれない。お手洗いにでも行っていたのだろうか。
なんで上裸なんだよ、変態がよォ──と微炭酸のジュースを一気に喉奥に流し込みながら、横目で、その筋肉の塊のような大男を見送る。
春夏のその視線に気付いたのか、大男がグリンと振り返り、バチッと視線がカチ合う。
「…………お前、呪術師だな?」
「!」
ニタリと悪魔のように口を歪め、ノッシノッシと擬音が聞こえそうな足取りで春夏に向かって歩みを進める。
ドレッドヘアが特徴的で、左頬から額に掛けて、大きな傷跡がある本業のヤクザのように強面の男。思わず後退する春夏だが、その男の圧倒的な覇気と呼べるような何かが、彼の足を止めてしまう。
「初めて見る顔だな。お前も交流会に出るのか?」
「え……ぁ……?」
「答えろ。俺は退屈しているんだ」
知るかボケが。育ちも口も悪い春夏は、心の中でそのように筋肉の男に悪態をつく。
「……俺は4年生だから、交流会には出られない」
「4年? 去年も一昨年もお前なんか見なかった。呪力に無駄も多い……1年かと思ったぞ」
「ワケありだ。つい先週あたりに、編入したばっかなんだよ」
「……そうか。まぁ……人には事情があるだろう」
「うん。んじゃ、俺はこれで」
気に食わねえなコイツ、嫌いなタイプだ──と、春夏は即座に踵を返す。交流会に出るのであれば、コイツは1〜3年生のどれかなのだろう。しかし、春夏は4年だと自らの学年を明かした。それなのに目の前の筋肉ダルマは春夏に敬語を使う気配が全く見られない。
敬われたいとは考えていない春夏だが、敬語とは人としての最低限の礼儀ではなかろうか?
なお、そう考えつつも春夏は五条悟のことは尊敬していないし、何なら、自分の事情をどこまで把握されているのかが未知数過ぎて警戒している。故に五条悟には敢えて敬語など使っていないのである。なお、伊地知には基本的に敬語を使っている。
虎杖はとっつきやすく、可愛がりたい後輩だし、釘崎はそもそも春夏を敬う気など無いだろうから、それはそれとして。
というより虎杖も釘崎も春夏から見れば東京校、そして呪術師として先輩だ。新参者の春夏に彼らが気を使う必要など無いだろう。
しかし目の前のこの男はどうだろうか。
勿論、学年問わず呪術師としては先輩であろうが所属する学校が違う。所属が違うというのに、この横柄な態度──人としてどうなのだろう?
────そう面倒臭い方向に考えてしまうのは、一度は「学生」を卒業して社会に出た春夏だから、なのかもしれない。
しかし、敬語を使わないから、なんてそんなのは詭弁だった。兎にも角にも、この謎の筋肉ダルマの大男がどこかいけ好かないと感じる春夏だった。
「待て」
「…………なんだよ」
苛立ちを態度で表現するように、空になった缶をゴミ箱に投げ入れながら、背後から声を飛ばした、その大男に向き直る。
「──お前、どんな女がタイプだ?」
「……あ゙?」
話の流れというものをまるで無視している、全く意図が読めない質問を繰り出す。春夏は眉間に深く皺を刻み、地雷でも踏まれたかのような勢いで男を睨め付ける。
聞き間違いであってほしいと願った。しかし男の次の言葉が、彼の眉間の皺を更に深く刻んだ。
「伏黒恵の返答は退屈極まるものだった。それこそ泣ける程にな。京都校の連中は元より──東京校の連中も所詮はその程度だろうと俺は諦めているが、お前とは初めましてだからな。会ったついでだ──念の為に聞いておこうか。どんな女がタイプだ?」
「何が念の為だよ……意味わかんねぇ……」
「ではこちらから自己紹介させてもらおう。京都校3年、東堂葵。自己紹介終了。これでお友達だな」
「感覚バグってんのか?」
「因みに俺は、
妙に力を込めた声で、凶悪さがよく現れた満面の笑みで、好みのタイプを言う。こっちの話など全く聞いてくれない。頭がイカれているとしか思えないこの男に、これ以上、付き合う必要は無い。春夏は呪具の手入れ中──その仕事に戻ることにした。
「んなの知るかよ、アホくさ……」
あの手の手合いは、まともに付き合うだけ無駄。春夏は溜め息混じりに再度、踵を返そうとするが。
「フン、つまらん男だ」
「……あぁ?」
つまらん、そう一蹴された春夏は再び眉間に皺を深く刻み、不良のようにガンを飛ばす。
春夏は道具屋。己の手が届く限りあらゆる呪具を使いこなす、ある意味で芸達者な男だ。面白い、と思われたいワケではない。しかし「つまらない」と評されるのは、そんな春夏にとって、ちょっとした地雷に近い評価なのだった。
そんな春夏を見た大男──東堂葵は、ニタリと、やはり悪魔にしか見えない凶悪な笑みを作ると。
「早く答えろ、男でもいいぞ」
と、謎の寛容さを見せる。
「え……」
「?」
「お前……イイ奴なのか?」
春夏はチョロい男であった。
「何がだ?」
「いや、性癖の話だろ? なのに男でもいいとか」
「現代社会は多様性社会と言うしな。まさかお前、その
「あぁいや俺は違う……と思うけど」
「……」
春夏はチョロい男だ。東堂の放ったその一言で、ほんの少し警戒心が薄れ、自らの性癖を開示しても構わないだろうと一歩、いや二歩も三歩も、東堂と心の距離が近付いていく。
「やっぱり、俺も男だからね。王道を征く巨乳と、それとケツとタッパのデカイお姉さん系──」
「ッッッッッ!!!!」
瞬間、東堂の脳内に溢れ出した
「あと、全く逆だが──童顔、低身長、丸顔、胸は虚無の虚乳、お尻は小ぶりな感じの子も悪くない」
「……」
東堂、存在しない記憶キャンセル。
「艶めく長い黒髪、且つ前髪はパッツンがベスト。低身長に虚無の虚乳が良いのは、そっちの方が常に背負っていられるからで、決してこの俺がロリコンというワケではないから、そこは注意しろ。そして妹属性だと尚良しで……」
それから5分ほど、殆ど息継ぎもせず勢い任せに語り続けた春夏。その間、東堂は黙って変態を見るような目で春夏を見ていたが。
春夏が性癖を開示し終えると、東堂は、何故だか満足そうな笑顔を見せ、大きく頷いた。
「────つまらん男と呼んだこと、訂正しよう。済まなかったな。今回の交流会、お前のような男が相手なら、ほんの少しも退屈せずに済むんだが」
「!」
「4年となると、もう1年足らずで卒業か。いや、呪術師を続けるのならば、学び舎から羽ばたこうとどこかしらで必ず、関わりを持つ事になるだろう。今後とも、よろしく頼む」
「お……おう……」
爽やかに差し出された手を取り、キュ、と優しく握手。その時、ふわりと、女子のような良い匂いが筋肉ダルマの東堂から香ってきて、困惑した春夏は思わず顔を上げるが。
当の本人は、春夏の困惑など露知らず。
「おっと──名を聞いていなかったな。お前の名を教えてくれるか?
「渡辺
「春夏──良い名だ。改めて、よろしく頼むぞ」
「おうっ!」
葵、春夏。奇しくも、男でありながら女のような名を持つ、2人の呪術師であった……。
◆
『……巨乳でケツとタッパのデカイお姉さん系って、もしかしなくとも私のことよね?』
「うっせ」
◆謎の声の正体とは────?
感想とか色々お待ちしてます。
ちなみに、既に完結まで書き終えてるので矛盾とかあっても多分、大きな変更はできないです。
ごめんちゃい♡