とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第8話:嫉妬、それはやたら身近な負の感情

 

「奪い返すぞ、羅喜(ラキ)ッ!!」

 

 血のように赤黒い色が主な着物、現代の萌え絵に描いたような豊満な胸は、溢れんばかりの包容力を無言で語り、大和撫子特有だとも言える着物乙女の清純な美しさを、全てその色気で封殺している。

 隙間から覗く丸太のような太ももは、もし掴めばどこまでも指が沈むような柔らかさを感じさせる。

 願えば踏み付けてくれそうな綺麗なその素足は、穢らわしい大地に触れないよう、空中を陣取って。

 淡い光を反射する瑞々しいピンクの唇は、厚く、ハリウッドの大女優のように、妖艶に微笑み。

 艷めく長い黒髪を風に預けつつ、春夏を背後から抱くように──その呪霊は、現れた。

 

『フフッ……久しぶりの出番ねェ、春夏?』

 

「熱い視線を俺に向けんな! 行くぞ!」

 

『は〜い♪ さぁ、昔のように私に乗って♡』

 

「いちいち語尾にハート付くような喋り方すんな、相変わらずエロさ振り撒きやがって……」

 

『あら嬉しい。春夏も、お姉ちゃんの魅力、素直に認めるようになったのねぇ?』

 

「俺に呪霊の姉ちゃんは居ねえ!!」

 

『きゃうっ』

 

 呪力を纏った手刀を、頭頂部に喰らわせる春夏。

 コイツ──茨木童子は、昔からこうだった。時と場所を選ばずに春夏を誘うのだ。いや、正確に表現するなら「気に入った渡辺家当主を」だろうか。

 よく「猫は家に憑く」と言う。茨木童子の場合は渡辺家の始祖、渡辺綱との「縛り」により「渡辺家当主に憑く」ことになっている。

 

「あーもー。お前がグダグダしてるせいで、余計に距離を離されたじゃねーか……!」

 

『あらヤダ、責任転嫁? 私を召喚()び出しておいてさっさと乗らずに喋ってるからでしょうに。全く、失礼しちゃうわ?』

 

「お、おお俺だってもうそろそろ成人なんだよッ! 少しは今の自分達を客観視する努力をしてみろ!! 大人のお姉さんにおんぶして(・・・・・)もらってんだぞッ(・・・・・・・・)!? ヒデェ絵面だろ、フツーに考えて!!」

 

 春夏は、今でこそ高専生をやっているが、一度は店長として店先に立った人間。要は社会人経験済み高専生という事だ。

 そして、そんな元社会人が、呪霊とはいえ女性におんぶしてもらっているというこの構図。確実に、傍から見ればかなり「ヤバイ」絵面だろう。

 

『そんな恥じらい(モノ)のせいでアイツに逃げられちゃ、それこそ世話ないけどねぇ?』

 

「……追い付けんだろ? 羅喜」

 

『愚問ね。──さぁ……合言葉は? ご主人様』

 

「……またやるの? あれ」

 

『そうよ? だってそうじゃないと力が出ないの。言霊ってヤツはホントに厄介だわ〜』

 

「…………」

 

 ぜってーウソだろ。──という言葉を飲み込み、春夏は、召喚された彼女が春夏にそうしたように、後ろから彼女に抱きつくと。

 

「『始めるよ。愛の共同作業』」

 

 と、彼女の頬にキスをした。

 その刹那、ダムが決壊したように、彼女の呪力が溢れ出す。腕を翼に変えた真人を追う速度が上がり小さくなっていた真人が段々と大きくなってくる。

 

『んんんんんんっ♡♡ ヤル気アガるわぁっ♡♡』

 

「ったく……変なドラマに影響されやがって……」

 

『ドラマに限らず、人間って、業が深いわよねェ。伴侶があっても別の人間に手を出すのは当たり前、でもその方が余計に熱く燃え上がる。罪深いわぁ。地獄の鬼も泣いて笑うでしょうね』

 

「当たり前じゃねーってツッコミ入れられたい?」

 

『やーねぇ、挿れられたいのはアナタの──』

 

「年齢制限に引っ掛かるようなことは言うなよ!? 神聖な学び舎だぞ!」

 

『……神聖、ねぇ……』

 

「?」

 

『呪いにまみれた高専(ここ)の、どこが神聖なのかしら』

 

「……」

 

 そんな話をしながらも、茨木童子と2人で真人を追う。どうも真人も真人で必死になっているらしくより空気抵抗を抑えられる形をアレコレ思案して、次々に試しているらしい。グネグネと形が変わり、最終的に、鷹のような形状に落ち着いた。

 

「いけるよな、羅喜?」

 

『……思ったよりマズイかも』

 

「は!?」

 

『ほら、私って、空を飛べはするけど速く(・・)飛ぶのは向いてないの。それに寧ろ、今から食われる恐怖をじっくりと味わわせる為に遅く(・・)飛ぶのが私だし』

 

「ざっけんな、羅喜が顕現した事で何故か高専内の警報まで鳴らしちまったんだぞ!? 絶対にアレを取り返さねえと、申し開きもできねーよ!」

 

 警報が鳴ったのは、未登録の呪力が出現したからである。春夏は知る由もないが、かつて呪霊操術を有していた夏油傑が、未登録の呪霊を高専内で使役してしまい警報が発令──担任の夜蛾正道から注意されてしまった、という歴史もある。

 それと同じような事が起きたのだ。

 

『それは私のせいじゃないもの、私に言われても。それこそ高専を出てから私を顕現させれば良かったでしょう?』

 

「あぐっ……」

 

『あ。それとも春夏ってば皆に「俺のお姉ちゃんを見ろ!」って私のこと披露したかったのかしら♡』

 

「違うわい!!」

 

『んふふっ、冗談よ、冗談。でもね春夏、私に速く飛んでほしいのなら……わかるわね?』

 

「……全部終わってからじゃダメか?」

 

『ダ〜メ♡ 後払いの縛りは受け付けないわよ♡』

 

「はぁ……」

 

 大きな溜め息をつき、再び彼女に抱きつくと。

 少し厚めの桃色の唇をほんのり開き、今か今かと彼の到着を待ち受ける彼女の熱い吐息を自らもまた口で受け止める。

 

「っ……」

 

 くちゅ、ぬりゅ、ちゅるっ──ほんのちょっとの水っぽい音を立てると、照れ隠しをするように少し乱暴に唇を離す。

 

「ほらっ……満足したろ?」

 

『あぁ……春夏の人としての尊厳がまた死んだ♡』

 

「うっせぇわ。お前が思うより尊厳は保ててるわ」

 

『あ、そう。じゃあ──飛翔()くわよ? せいぜい、振り落とされないでね?』

 

「ッ!?」

 

 凄まじいGが、春夏を襲う。舌を絡めている間に真人は更に遠くに逃げつつあった、けれどもそんな大きな差を無に帰すような凄まじい速度だった。

 

「──もう少しで俺の射程内に入る。そしたら少し速度を緩めてくれ。絶対に取り返してやる……!」

 

『領域、使うの?』

 

「使わない」

 

『あら、どうして? 使えば確実に取り返せるし、祓えるでしょう?』

 

「高専に戻って、お前ん時の警報を問い詰められて戦闘にでもなったら……誰がお前を守るんだよ」

 

『やーねぇ。私を守ってくれるのは嬉しいけれど、あなたに守られるほど、弱くないわよ?』

 

「分かってる。羅喜は俺より強いよ。けど高専では弱いフリしててくれ。俺の契約呪霊なんだからさ。主人より呪霊が強いだなんて、俺は構わないけど、高専側は認めてくれないかもしれないだろ?」

 

『そうね。手綱を握れない、なんて認識されたら、それこそ面倒だものね』

 

「あぁ」

 

 そうこう話しているうちに、春夏の「射程」内に真人を捉えた。背中のバッグから、矢の呪具と弓を手に取り、真人に狙いを定める。

 

『おいおい、まだ追ってくるのかよしつこいな!』

 

「生憎、執念深いタチなのでね!」

 

 弓道有段者──特に、高校生としては非常に稀な四段を有する春夏は、本当であれば、得意の和弓で真人を狙いたかった。しかし弓の長さからして例のバッグに収納できないので、持ち歩いてはいない。

 そこで、アーチェリーの弓だ。こちらは、和弓に比べてサイズが小さくバッグに収納が可能。和弓とアーチェリーには大きな違いがあるが、それでも、高校生レベルを超える程の技術を有する春夏には、小さな差と言えた。

 

「────堕ちろ!!」

 

『ぐっ……!』

 

 釘崎野薔薇に譲渡した「五寸釘シリーズ」には、1本1本様々な効果が付与されている。矢ではあるものの、製作者が同じらしく、「矢シリーズ」にも五寸釘シリーズと同じ効果を持つ矢があった。

 今回、彼が放ったのは「追尾」の矢。ただでさえ命中率が高い春夏が使えば、真人がどう動こうと、最短距離で追尾して、奴の頭を貫いた。

 

『あっ、春夏……』

 

「嘘だろ……?」

 

 しかし真人は、頭に矢を受けるのと同時に、縦に2つに割れた。鷹のような形だった真人は、今度は鷹と鷲の2種に分かれ左右それぞれに逃走を開始。

 しかも、そのどちらも呪物を入れているであろう風呂敷を背負っていた。

 

「ふざけろ……!」

 

『どっちを追う? 鷲の方が強い呪力を感じるわ。多分、アレが宿儺の指を持ってるわね』

 

「問題は無い。アイツの分身は、多分、術式による擬似的な分身。なら、術式を解除してやればいい。解除してやれば分身は消え、呪物はフリーになる」

 

『私に当てないでよ? 地面に落ちちゃう』

 

「おんぶされながらカウボーイごっこするのは骨が折れるけどね。ま、当てないように気をつけるよ」

 

 特級呪具・万里ノ鎖。一方を観測されない限り、際限なく伸び続ける。春夏は、もう一方をバッグに入れたままにすることでその条件を満たしていた。

 ただし、あまりにも伸ばし過ぎると鎖の操作性が落ちかねないので、春夏はそこまで伸ばした状態で使うことはない。

 盤星教の施設近辺にて破損した万里ノ鎖を拾った高専生時代の五条悟が、渡辺道具店に持ち込んだ。特級の名を冠する程の呪具になると、修復するのは名だたる呪具屋でも骨が折れるらしい。が、先代がそれを修復して今に至る──と春夏は聞いている。

 特級呪物・天逆鉾の欠片。天逆鉾は本来、三又の呪具だった。しかしそれが何故だか欠けてしまい、その欠片は呪具ではなく呪物として存在している。しかし天逆鉾本体は禪院家の本家が所有しており、後に、五条悟の手で破壊、または封印されている。

 春夏はそれらを組み合わせる事により、奇しくも天与の暴君・伏黒甚爾と同様の使い方をしていた。

 

「一体、何本の指を持ってやがるんだ……よッ!」

 

『ハハッ、んなもん当たらねーよ!』

 

「んなっ!?」

 

『春夏、下手過ぎ。貸しなさいな』

 

「すげ……」

 

 クッと茨木童子が鎖を引っ張ると、急速に角度を変えた天逆鉾の欠片が鷲と化した真人の翼をゾッと切り落としてしまう。鷲真人は声を上げる事もなく消え、風呂敷に包まれた呪物は目論見通りに落下。

 万里ノ鎖でそれを絡め取りキャッチ。まだほんの一部ではあるが、呪物を取り返すのに成功した。

 

『あなたが下手なだけよ。弓より、こっちの練習をしたらどう? こっちの方が実用的よ?』

 

「か、考えておきます……。さて、鷹の方を……」

 

『……あらま……』

 

 しかし、既に鷹と化した真人は姿を消しており、春夏の呪力探知の網からも既に逃げおおせていた。

 気配を隠すのが上手いヤツだ、仕方ないから今は諦めるしかない──少しでも取り返せたからなのか心に少しの余裕ができた春夏は、取り返した呪物を確認することに。

 

「……指……3本だけ……?」

 

『やられたわね。あの、気配が弱い方が本命だったなんて……』

 

 真人は、呪力の気配を隠すのが上手い。囮の方は敢えて気配を隠さず、さも「沢山または強い呪物を持ってるよ」とカモフラージュしていたのだろう。

 完全にやられた──春夏は歯を食いしばった。




オリジナルキャラプロフィール③
春夏の契約呪霊:特級叛霊・茨木童子(羅喜)
渡辺家の始祖「渡辺綱」を襲おうとした特級叛霊の茨木童子は、右腕を渡辺綱に斬られ持ち去られる。
特殊な呪具で斬られており、再生はできなかった。

奪い返そうと、綱の縁者に化けたりするも、綱には茨木童子であると見抜かれ腕を奪い返せずにいた。
そこで綱は「どうしても腕を返してほしいならば、俺の子や孫──末代まで仕える事を誓え」と提案。綱の言いなりになる形で「縛り」を結び、奪われた腕は彼女に返された。
それ以降、渡辺家本家の家長の間で代々、渡辺綱と茨木童子との縛りを連綿と受け継がれ続けている。

茨木童子の「らき」から抜粋し、春夏が「羅喜」と名付け、可愛がっている。
しかし、そうやって新たに名を与えたせいで「茨木童子」としての能力が制限されてしまっている。
(ある程度は、春夏の術式でカバーできている)

制限された能力を解放する為、逐一、何かを代償に茨木童子に有利な条件で何かしら縛りを結ばないといけなくなっている。
春夏は「自分が名前を付けたせいで今の茨木童子が弱体化している」とは知らず、能力を解放する為に彼女が何かを要求するのは「いつものおふざけ」と思っている。

・名付けられたせいで能力が制限されていること
・その都度「縛り」を結ぶ事で解放可能なこと
などを春夏に言わないのは、春夏の性格だと自分を酷く責めてしまうのが分かっているから。

静脈血のような赤黒い色の着物を着て、隙間からはムッチムチの脚を惜しげも無く晒した、セクシーなお姉さん呪霊。
結構な巨乳。お尻まで届く、黒のロングヘアー。
ケツがデカイ。タッパもそこそこ。
「現代はこういうのがウケるんだろう」と学習し、それに適応するようにして、ここ20年近くずっとその姿を維持している。

かなり可愛い。世界観に似合わないような顔付き。
具体的には「芥見先生が描く主要キャラ数人の中にアシさんが描く可愛い女の子が混ざってる」ような感じかもしれない。
「1人だけなんか作画違くね?」となる感じの。

翼は無いが「綱の髪を掴んで、空を飛んで愛宕山に連れ帰ろうとした」という逸話を持つ通り、彼女は空を飛べる。

綱を連れ去ろうとしたのは、一目惚れしたから。
綱が茨木童子の腕を奪って、彼女を「自分の家」に縛り付けたのもまた、彼女に一目惚れしたから。
呪霊であることをいい事に、「縛り」を利用して、自分の代のみならず、子々孫々まで彼女を縛ろうと考えたらしい。

春夏の名誉や世間体の為にも詳細は伏せておくが、春夏の様々な「初めて」の相手は羅喜である。
なお、ソレを奪われた当時の春夏は小学生であり、春夏との契約前──つまり先代との契約中だった。
先代からすれば「NTRやんけ〜!?」である。
(先代は茨木童子と寝ていないが)
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