とある青年呪具屋の呪術記録《カースレコード》   作:サマーオイル悟

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第9話:「元カノです」『今カノでーす♡』

 

 真人にまんまと出し抜かれた春夏は、トボトボと徒歩で帰路につく。いつの間にやら、交流会に出場していた生徒を閉じ込めていた帳は上がっていて、時間的にも、交流会は終わりを告げているようだ。

 そして高専の門が見えてくると、そこには神妙な表情──というより、いつもよりも妙に落ち着いた雰囲気の五条悟が、腕を組み門に背を預けていた。

 

「話は伊地知から聞いたよ。呪物を盗んだ呪霊を、追い掛けてくれたらしいね。ありがとうね、春夏」

 

「五条悟……」

 

「ここでの僕は『五条先生』だよん。旧友とはいえそろそろ慣れようね」

 

「……ウス」

 

「ところで……隣の呪霊(ひと)は?」

 

「ウチで契約してる呪霊『特級叛霊・茨木童子』。間違っても祓うなよ」

 

「あぁ! その呪力、少し覚えがある。親父さんとソイツの契約を、春夏が継いだワケね」

 

『正確には「渡辺家当主が代々受け継ぐ契約」よ。この子で何代目かしら──ねぇ、春夏?』

 

「知るか」

 

『……♪』

 

 スルリと腕を組み、ピト、と春夏に頬を寄せる。そんな様子を見て五条はポカンと口を開けている。

 

「……もしかして付き合ってんの?」

 

「バカか!? バカなのか!?」

 

『付き合ってるわよ〜♡』

 

 目隠しをズラし、水色の六眼で直接、春夏の隣に立つ茨木童子を見やる。すると彼女から「何か」を感じ取ると、口元を引き攣らせる。

 

「恋愛の形は様々だけど……ブッ飛んでるねぇ」

 

「真に受けんな!!」

 

「まァ、その、うん。なんて言えばいいんだろう。これから大変だと思うけど、頑張るんだよ、春夏」

 

「だから真に受けんなってば!! 殴るぞ!?」

 

「あっはは〜、殴れるものなら掛かっておいで☆」

 

「クッソ、できないの分かってて……!!」

 

「それより春夏。何か言う事、あるんじゃない?」

 

「!」

 

 目隠しを元に戻し、門前で春夏を待っていた時のような真面目な顔に。

 茨木童子について黙っていたこと、そして高専の敷地内で完全顕現させたことについてだろう──と察した春夏は、少々バツが悪そうに顔を背けると、声のトーンを落として、言った。

 

「……黙ってて、悪かった」

 

「何について?」

 

「羅……茨木童子について」

 

「まぁ、それについてもそうだね。現に、未登録の呪力が高専の中で顕現したもんだから、交流会でのゴタゴタと合わせて、てんやわんやだったよ。でもそれじゃない。……どうして帳の方に来なかった?」

 

「どうして、って……」

 

「見えていたハズだ。帳が降りているのが」

 

「そりゃまぁ……」

 

「中で特級呪霊が暴れてるのも、呪詛師が居るのも分かってたハズだ。春夏の呪力探知能力があれば。そうだろう?」

 

「……」

 

「確かに盗まれた呪物を追うのも大事だね。それは間違いない。でも、まずは仲間のカバーに行くのが先決じゃないかな──と、僕は思うんだ。呪術師はチームプレイだ。春夏は、そうじゃないのかな?」

 

「…………」

 

「春夏の考えが間違ってる、とまでは言わないさ。だけど、その辺の優先順位の付け方が、少し普通の人とは違うのかもしれないね。帳の方に行くか一瞬迷うこともなく、真っ直ぐ向かったんでしょ?」

 

「…………ああ」

 

「今まではそれで良かったかもしれないけど、今の春夏は呪術高専の生徒なんだ。違う環境ってこと、忘れないようにね。春夏はもう、1人じゃないよ。──わかったかい?」

 

 理屈の上では、わかる。もう春夏は1人ではなく呪術高専東京校に所属する呪術師なのだ。専門的な訓練を受けているとか、受けていないとか、そんな事情はどうでもいい。

 大事なのはそこではない。意識の問題だ。

 春夏とて頭ではそれを理解している。それでも、そう簡単に意識を切り替えられるものではない。

 とはいえ、ここで答えるべき言葉は、一つだけ。

 

「……わかったよ」

 

「『わかりました』、ね?」

 

「わ、わかりました……」

 

「うん、よろしい! 反省文は、原稿用紙10枚分にオマケしてあげよう──」

 

「ハァ!?」

 

「──と思ったんだけどそもそも春夏に『高専内で未登録の呪霊を出さないように』とか教えてないし後出しで罰を与えるとか有り得ないからなんて謎の力が働いて帳消しにされたし、ていうか夜蛾センに監督責任を問われて何故か僕が反省文を書くことになってるから実質的に春夏は無罪放免なワケで」

 

「ふぅ……」

 

「てか呪霊操術でもないんだからイチ個人が呪霊を所有してるとか思わないし、呪霊と契約してるとか伏黒甚爾しか見た事ないくらい超レアケースだし、つーか僕だけが罰を受けるのは嫌なので、春夏にも罰ゲームやってもらいまーーーすッ!!」

 

 夜蛾正道にこってり絞られたのだろう。凄まじい怨嗟を超早口でブツブツと零し続け、その最後には無罪放免となった春夏のことも巻き込もうとする。

 わざとらしい大声と笑顔が、それはもう鬱陶しいものである。

 

「はぁっ!? ふざけんなよ、なんだそりゃ!?」

 

「教わってなかった規則について謎に怒られたり、無駄に反省文10枚も書かされるよりはマシだろ?」

 

 そう言われると春夏も黙るしかなくなる。これに関しては五条悟の言葉の方が正論だった。しかし、そもそもの話になるが、五条が春夏に規則について教えていない事が原因でもあるので、元凶の五条が言うと正論でも正論のような気がしなくなるから、不思議なものだ。

 

「……内容によるだろ、それ。もし、盗まれた呪物を取り戻せ、なんて言うなら無理ゲーだろうし……」

 

「あっははは、大丈夫だよ! 呪物が盗まれたのは春夏の責任じゃない。僕たち『高専』の責任だよ。取り戻せなんて、春夏に責任を負わせるような事はしないから、それは安心するといいよ」

 

「……それじゃあ、罰ゲームの内容は?」

 

「ふっふっふ……それはね────!!」

 

 ◆

 

 交流会翌日──高専から呪物が盗まれた翌々日。

 春夏の罰ゲームは、2年生3人と1年生3人──そして2年担任の日下部篤也、1年担任の五条悟の合計8人の前で行われる事になった。

 内容を知っている五条悟はニヤニヤと、本人たる春夏はゲンナリとしている。

 全員が揃った事を確認し、五条が司会のように、話を進行することに。

 

「えー、皆々様〜! 編入生である渡辺春夏くんのお披露目会に出席頂き、ありがとーございまァす! これから一緒に任務する事もあるだろうから、情報共有って建前で早いうちにお披露目しとこうとね! そういう話になりました!」

 

「お披露目って何だよ? 自己紹介ならしただろ、お互いに」

 

「術式じゃないか? 確かこの前やった自己紹介に術式の紹介は含まれてなかったよな」

 

「しゃけしゃけ」

 

「はい、みんな気になってるようです! それでは春夏くん、お願いしまァす!!」

 

「はぁ……」

 

 五条悟はノリノリで春夏に「罰ゲーム」を促す。生徒6人と日下部は、頭上にクエスチョンマークを浮かべ、怪訝な顔をしている。

 春夏は大きな大きな、それはもう大きな溜め息を一発、体内の空気を全て排出する勢いで吐き出し、腹を決めた。

 

「──おいで、羅喜」

 

『はぁ〜い♡』

 

「「「「「「「ッッッ!!??!?」」」」」」」

 

 春夏の背後から音も無く現れると同時に、妖艶な笑みと共に彼に抱きついた、女性の姿をした一体の呪霊──茨木童子。ただし女性とは言っても人には生えていないツノが一対、頭にはある。

 そして茨木童子を見た者の反応は、お察しの通りだった。

 真希はナイフのような小刀のような呪具を構え。

 パンダは拳を握り、呪力を漲らせ。

 狗巻はジッパーを握り、口元を覗かせ。

 虎杖もパンダのように拳を握り、呪力を漲らせ。

 伏黒は鵺の影絵を作り、召喚し。

 釘崎は金槌と釘を取り出し、いつでも発射できる用意を整えて。

 日下部は刀に手を掛けて。

 ──五条悟以外の7人全員が戦闘態勢に入った。

 

「はいはい皆、落ち着いて。大丈夫、敵じゃない。呪力も一昨日のうちに登録済みだよん。ほら春夏、紹介したげて。ハリー! ハリー!」

 

「え、と。ウチで契約している『茨木童子』です。間違っても祓ったりしないでください。今後とも、というか、俺共々よろしくどうぞ……」

 

『よろしく〜♡』

 

「契約だと!? そんなレアケースがまさか……」

 

「そんな術師、リアルで初めて見たぞ。噂話でしか聞かないくらいだ……」

 

「しゃけ……」

 

「……しかも、特級……じゃないですか?」

 

(東堂が好きそうなタイプだな。いや流石に呪霊は守備範囲外か。俺もだけど)

 

「ザ・鬼! って感じの呪霊ね……」

 

「おいおいおいおい待て待て!! どう見ても特級でしょうが!? そんなのと契約だと!?」

 

『そ。春夏の家の家長と結び続ける契約、というか縛り。昔は私もヤンチャでねぇ? こっちに不利な縛りだってのに気付くまで時間が掛かっちゃって。でも結果的に幸せになれちゃったからぁ、不利でも何でもどうでもいいかなぁって♡ うふふっ♡』

 

「どうして憂太といい春夏といい──少しナヨッとしているヤツには特級の怪物が憑いてるんだ?」

 

「案外、春夏も憂太と同じで、呪霊じゃなくて人の方がヤバいのかもしれないぞ」

 

「しゃけ……」

 

 などなどの言葉を浴びせられ、羅喜は頬の緩みが抑えられない様子だった。その上で更に、生徒達を驚かせようと、満面の笑みで──春夏が墓場にまで持っていこうとしていた秘密を暴露してしまう。

 

『因みに春夏の恋人でーす♡』

 

「「「「「「はぁあああああッッ!?」」」」」」

 

「ざけんな、アホ言うな! 皆も真に受けるなよ、呪霊の戯言だからな!?」

 

『春夏ったら、やぁねぇ〜。あ〜んなに熱ゥい夜を過ごして将来を誓い合ったというのに……ねェ?』

 

「わーっ! わぁぁーっ! わぁぁぁぁっ!!」

 

「その反応……」

 

「もしかしてマジなの……?」

 

「ちっ違う! 羅喜、余計なこと言うな!!」

 

『そんなに否定されると悲しいわぁ。「お前を俺の物にする!」って言ってくれたじゃなぁい……』

 

「いつのこと言ってんだお前はァ!! 小学生とか中学生くらいの頃だろーが!?」

 

『あらやだ、去年でしょ?』

 

「「「「「去年ンンンッッッ!?」」」」」

 

『子供の頃から、愛を育んで♡ 春夏のアレコレ、どれだけ私に注いだのかしら? 注げなかった頃もあったわねぇ? きゃっ♡』

 

「春夏……先輩……?」

 

「呪霊とナニしてんの、この人……!?」

 

「流石に引くよ、春夏先輩……?」

 

「……つまり、精通前から……ってコト!?」

 

「うああああああああああああああッッッ!!!」

 

『うふふふっ♡』

 

 頭を抱えて蹲る春夏と、そんな彼を、一歩引いて汚物を見るような目で見る生徒。茨木童子はそんな春夏の様子を無視し、覆い被さるように抱く。彼は顔を更に赤くさせて、唸り声を漏らす。

 するとそんな様子を見かねたか、新たに爪楊枝を咥えながら日下部が言う。

 

「下世話な話で無駄に盛り上がるな。どっからどう考えても春夏から(・・・・)じゃなくコイツから(・・・・・)でしょうが。言わば逆……だよ、逆! 言わすな!」

 

「……ま、そりゃそうか」

 

「まぁ普通に考えて、もし本当にそうなったなら、そうだよなぁ」

 

「ってか、呪霊と人間って交尾とかできんの?」

 

「できるんじゃねぇの? どう見ても人型だし」

 

 日下部サン、春夏を擁護するにしたって方向性がちょっと違うんじゃない? 

 ──思っても口には出さず、ニヤけた顔で見守る五条悟であった。




渋谷事変に入るの、2月下旬ですよ。
死滅回游は6月上旬。
うーん、まだ遠いなぁ……。
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