消滅したらネオだった件   作:ライノア

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第十一話前編:暗・黒・料・理

KIA SIDE

紅丸達が仲間になってから数日が過ぎた。

俺は黄爛、緑羽、橙矢の三人と共に朱菜が機折り機で(きぬ)を作る様子を見学していた。

ガルムさん達もその器用さに驚愕(きょうがく)する。

 

ガルム「ふへぇ〜。綺麗(きれい)なもんだなぁ〜!」

ドルド「おうおう...」

ミルド「これが絹糸で()った反物ってやつかい?朱菜ちゃん」

朱菜「はい。原料のヘルモスの繭には魔素がたっぷり含まれているので、とても丈夫なのですよ」

 

朱菜の博識さに、ガルムさんは納得する。

 

ガルム「()る程。防御力も期待出来るって事かい」

キーア「朱菜の奴、薬草や香草だけじゃなく、魔物の事まで詳しかったのか...」

緑羽「ええ。姫様は頭領様と婦人様に色々と教わられていましたので、博識なのも当然です」

リムル「凄いな!もう絹織物も出来たのか?」

 

襖がガラリと開く音が俺達の耳に伝う。

其処には様子を見ていたであろう紫苑に抱えられているリムルだった。

 

朱菜「リムル様!」

ガルム「ども」

ミルド「こんにちは」

ドルド「うん」

リムル「やっぱ喋らねぇッ!!「それはいい加減ええわ」ぺぶしっ!?」

 

まだドルドが喋らない事をまだ引き()っていた為、俺が軽く手刀を入れてやった。

 

朱菜「見ていらして下さったんですね。リムル様!」

リムル「う、うむ...どんな具合だ?」

朱菜「はい。カイジン様が作って下さった織機はとても使い易いです」

リムル「そうか、良かったな。皆の衣類の制作、頼んだぞ」

 

駆け寄る朱菜がリムルの体に(ほお)を擦って会話している様子に、紫苑が密かに嫉妬の表情を浮かべていた。

 

朱菜「はい!お任せ下さい!」

紫苑「...ではリムル様、参りましょう。お昼が冷めてしまいます」

「「「!!?」」」

 

ガルムさん達の所を後にしようとした紫苑とリムルを、朱菜は若干警戒の声色で呼び止める。

同時に黄爛達の顔が一気に青ざめた。

 

朱菜「紫苑...秘書のお仕事はちゃんと出来ているのですか?」

紫苑「勿論です。朱菜様」

 

二人の遣り取りについてだが、突然紫苑がリムルの秘書を名乗り出た。

リムルは「見た目がそれっぽいから」という理由で簡潔に承諾したそうな。

その為、今の紫苑はリムルの秘書且つボディガードだ。

俺の方に秘書は居ないが、黄爛か緑羽が候補に上がっている。

自分の意識を現実に戻すと、朱菜がリムルの体を両手で触れながら笑みを浮かべる。

その笑みは顔という名の仮面に隠された何かが炎の様に宿っていた。

 

朱菜「わたくしがリムル様のお世話をしても良いのですよ?」

紫苑「いいえ、姫様。それには及びません...私がきちんとお世話致します」

 

青と紫の気力が全身に(まと)わせた朱菜と紫苑の手がリムルの体を引っ張り始めた。

ガルムさん達は冷や汗を()きながら(あご)に触れて(ひげ)を整える。

 

朱菜「やはり、リムル様はわたくしがお世話致します」

紫苑「いいえ。秘書である私が..,」

 

二人の笑みがまるで笑ってない様にも見え、その様子を見ていた黄爛と緑羽は苦笑している。

朱菜は引っ張り出されているリムルにどっちに世話してもらった方が良いのかを尋ねる。

 

朱菜「リムル様は、わたくしと紫苑。どちらがお(そば)(つか)われた方が(よろ)しいですか?」

リムル「そ、そうだな。朱菜は絹織という仕事があるだろ?手の開いた日にでも頼もうかなぁ...?」

朱菜「...分かりました!わたくしを頼られているのですね?」

リムル「そ、その通りだ!頼むぞ!」

紫苑「...それではリムル様の事、お任せ下さい」

 

リムルの最善の対応で手を緩めた朱菜。

紫苑は朱菜の手が緩んだところを(しぼ)られた雑巾(ぞうきん)の様になっていたリムルを巻き上げて回収し、昼飯の支度に入るべく朱菜達の方を後にした。

俺達も紫苑達の後を付いて行き、食堂且つ会議室のテーブルには紅丸、白老、蒼影が座っていた。

どうやら三人はお茶を飲もうとしている様だ。

 

紅丸「あ、これはリムル様」

白老「キーア様も、お食事ですかな?」

キーア「ああ。何やら紫苑がリムルに手料理を食わせてやるんだとか...」

「「「「「!!?」」」」」

 

俺の言葉を聞いた五人は一瞬にして肩を(すく)める。

 

リムル「お前達もどうだ?」

紅丸「いや!俺は今、腹が減ってなくて...!」

黄爛「あ、あたしも若様と同じくお茶だけで十分だよ!」

白老「(わし)も黄爛殿と同様、お茶だけで...!」

蒼影「私は...!」

 

少しだけ声を裏返した紅丸と無理そうな笑顔を作る白老と黄爛は遠慮がちになり、座席から立ち上がった蒼影は五人に分身する。

 

「『『『『村の周囲の、偵察に行って参ります!』』』』」

緑羽「...私も、村の周囲を流離(さすら)ってきます」

 

周囲に溶ける様に姿を消した蒼影は、嘘を()いてその場を後にした。

緑羽も食卓からそそくさな足取りで食卓から避難する。

紅丸は外方(そっぼ)を向き、白老はお茶を飲みながら完全に気配を絶っている。

 

紫苑「では、お持ちしますね」

リムル「お、おう...?」

橙矢「?」

 

紫苑が室内を後にするのを確認したリムルが人間の姿に擬態。

視線を向けられた紅丸は滝の様な汗を流していた。

橙矢は首を傾げているが、実の姉が恐縮している理由が刹那(せつな)に理解してしまった。

 

紫苑「お待たせしました。さ、召し上がれ。キーア様も良ければどうぞ」

リムル(駄目だった...!!!!)

キーア(いや、何で俺まで!!!?)

 

勿論俺も同様であり、左右のドアが開くと同時に淀んだ空気が部屋中に漂い始め、紫苑が満面の笑みでリムルのテーブルに自身の手料理を置く。

お椀に入っているどす黒い紫と水色の液体。漏れ出た分が少しだけテーブルに飛び散っており、禍々しいオーラが立ち昇っている。

青ざめた表情で料理に視線を移す一方で、紅丸が小腹を空かす音を鳴らしていた。

橙矢以外の大鬼族は紫苑が飯マズだと理解した上で俺達を盾にしやがった。

 

紫苑「ささっ。リムル様、キーア様」

紅丸(済まない...リムル様、キーア様!)

黄爛(今はどうする事も出来ないあたし達を許して...!)

白老(これも修行ですじゃ...!)

 

許せと言わんばかりに紅丸達は瞑目して湯()みを口にし、お茶を少しずつ飲んでいる。

そんな中、丁度ゴブタがシズさんや彩月と共に食堂に来ていた。

 

ゴブタ「ああ〜!腹減ったっス〜!」

彩月「私もお腹ペコペコ!」

シズ「そうだね」

紫苑「ささ、冷めない内に...」

 

紫苑が俺達に感想を聞かせるべく、手料理を食う様に急き立てる。

 

「「い、いただきます...」」

紫苑「はいっ!」

「「っ!?」」

 

俺達は苦悶の表情でスプーンを手に取り、紫苑の手料理を警戒しつつ一口分を掬う。

恐る恐る口に運ぼうとした瞬間に声を上げ、それが更に俺達を恐怖のどん底へ駆り立てた。

何とスプーンで掬っていた紫苑の手料理が顔に似た様なものが不気味な笑みを浮かべてきたのだ。

これはあれか?前に冬美が言ってた『シミュラクラ現象』って奴だな。ってか、一体何をしたらあんなクソ不味(まず)そうな飯になるんだよ!?

怨念の様な声を上げる屁泥の生物擬きに、俺は放浪者の知恵を頼らずに打開策を()る。

リムルは今でも泣きそうなくらいに目を(うる)ませる一方で、紫苑は目を輝かせて主の期待を膨らませている。

俺がリムルの背中を合わせる様にしてテーブルを動かすと、リムルが思念伝達で俺に打開策を伝える。

 

リムル(キーア!大賢者から視覚を閉ざして右斜めにスプーンを突き出せば助かるって!)

キーア(よし!そうと決まればやるぞ!)

((せーのっ!!))「むぐっ!?」

 

突然の声に俺とリムルは目を開けると、其処にはゴブタがスプーンを口に咥えていた。

体色が緑から紫に変色したゴブタは首を抑えて(もだ)え始め、俺達は唖然とする。

時計回りに苦しむ様を紅丸達は目を(つむ)り口を抑える、口から泡を吹きながらも最後の力を振り絞って伸ばしたゴブタの手は力無く床に倒れた。

 

C『...何てこった!ゴブタが死んじゃった!』

D『この鬼でなし!!』

紫苑「...あれ?」

 

恐怖と戦慄は食堂全体を支配し、目を()らした紫苑は頬を上下に指でなぞる。

 

B『...紫苑』

紫苑「は、はいっ!」

B『お前はこの状況を見ても、自分の料理が壊滅的なのをまだ自覚しないか...!?』

紫苑「ひぃぃっ!?」

 

俺達はこの状況を見て二度目は絶対に騙されない。Bは敢えて睨みを利かせて紫苑を恐縮させる。

それにBは今回確実にキレてるからな。紫苑に食物関連は今後一切禁止にしよう。

 

リムル「今後人に出す飲食物を作る時は、紅丸の許可を得てからする様に!」

キーア「Bも精神的に追い込まない程度に、紫苑の料理を改善させてやってくれ。リムルがさっき言った様だが紅丸。味見係は任せた」

 

Bの放つオーラに怯える紫苑にリムルが敢えて釘を刺す。

 

紅丸(あんまりですキーア様、リムル様!?)

リムル(知らん!味見係(監督)はお前に任せた!)

 

そうリムルは『巻き込まれるのは御免だ』と、表情で舌を出して紅丸に思念伝達で語りかける。

今後、二度とゴブタの様な犠牲を出さない為に...。

 

C『皆、何勝手に人殺しちゃってるの!?ゴブタ生きてるよ!?』

シズ「何でだろう。初めて命の危険を感じた気がする...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

順調に近隣のゴブリンの村々から、協力を取り付けていたガビル。

自らの力を誇示(こじ)するまでも無く、ゴブリン共は次々とガビル達に従っていく。

首領の警告の言葉は、既にガビルの頭に無い。

各村の戦士を掻き集め、倉庫からありったけの食糧を持参させる。そして己の為の軍隊を七千匹も組織していったのだ。

頭巾の蜥蜴人族は木の板に協力を取り付けたゴブリン村の結果を先端が(とが)った木の棒に刻み込む。

 

頭巾の蜥蜴人族「うむ。これで、総勢7000人になりましたな...」

水色服の蜥蜴人族「流石ガビル様!交渉も上手!」

ガビル「いやいや。精一杯やって、偶々(たまたま)結果が出ているだけの事...」

 

三人の蜥蜴人族との目線が合い、ガビルは一時硬直してしまう。

 

茶色い軽装甲の蜥蜴人族「謙遜(けんそん)すんなよ。実力だよ!」

水色服の蜥蜴人族「そうですよ。もっと自信を持って下さいよ!」

頭巾の蜥蜴人族「(しか)り。次期蜥蜴人族の首領なのだからな」

ガビル「そ、そうか...?(やっぱり吾輩(わがはい)、イケてるのかもしれんッ!!)」

 

部下達に鼓舞され、ガビルは背中を沿って腰を張る。

 

ガビル「さぁ!次は何処へ向かうのだ?この辺りに村はあるのか?」

水色服の蜥蜴人族「もう一つ集落があるって話ですよ」

 

頭巾の蜥蜴人族「しかし、先程の村の者がおかしな事を言っておった...」

ガビル「おかしな事...?」

頭巾の蜥蜴人族「何でも、牙狼族を操るゴブリンの集落だとか」

 

頭巾の蜥蜴人族の疑問に、ガビルは興味を持ち出す。

 

ガビル「はぁ?ゴブリンが牙狼を?そんな訳ないだろう...」

頭巾の蜥蜴人族「ご最も。更に言えば、そのゴブリン達の親玉がスライムと人間だという...」

ガビル「はぁっ!?」

 

歯切れが悪いその言い方が(しゃく)(さわ)る。

牙狼を駆るゴブリンの集団がいるらしいが、その意味が全く理解出来ない。

牙狼族は、かなり強い魔物で集団で活動する事で真価を発揮する。

平原の支配者とも言われ、蜥蜴人族でさえ、平原では一歩及ばない戦闘力を有するのだ。

そんな牙狼が下等なゴブリンに従うなど、有り得る話ではない。

 

ガビル「...状況はよく分からんが、ならば!そのスライムと人間を支配下に置けば、牙狼族をも支配出来るという事だな!」

 

ガビルは顎に手を置きながら決断する。

そのゴブリンを従えているのがスライムと人間など、我々一族を小馬鹿にしている様なもの。

スライムはゴブリンや人間にも及ばない最下等の魔物。そんな奴にゴブリンならいざ知らず、牙狼族が従うなど本来あってはならない。

だからこそ自分の目で確認する必要があったのだ。

 

水色服の軽蜥蜴人族「おおっ!」

頭巾の蜥蜴人族「一石二鳥!」

茶色い軽装甲の蜥蜴人族「何て奥深い考えだ!やはりあんたに付いて来て良かったぜ!!」

ガビル「ふっ。吾輩に...任せておくがいいッ!!」

水色服の蜥蜴人族「いよっ!ガビル様!あそーれ!」

 

ガビルを讃えるべく、三人は手拍子をする。

勿論、ガビルの乗っていた走蜥蜴(ホバーリザード)も彼らと同じく手拍子をしていた。

 

「「「ガッビール!ガッビール!ガッビール!ガッビール!」」」

ガビル「ふふふ、ふふふふふふ...ぬぁーっはっはっは〜!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KIA SIDE

 

カイジン「へぇ〜...焼き入れの温度は勘なのかい?」

黒兵衛「んだ!火の色を見れば大体分かるだよ」

カイジン「俺は測るなぁ...!」

黒兵衛「オラはものしの時はきちっと測るだよ」

カイジン「ああ。外が寒いと粘りが出ねぇからな」

 

俺達は鍛冶屋で黒兵衛とカイジンさんが二時間も話に没頭している。

同じ鍛冶(かじ)職人である為か、意外と早く意気投合した。

 

黒兵衛「焼き入れの時の土の温量を測るだか?」

カイジン「ああ。この様な器に仕入れた容量は、土が大事なんだよなぁ...」

黒兵衛「それだったら、オラが良い土を教えてやるだ!」

カイジン「そりゃあ有難ぇ!土が火焼けて艶が全く変わってる...」

黒兵衛「な?鍛造って面白いべ?」

 

二人は俺達にサムズアップをしながら視線を向ける。

 

黒兵衛「あ。焼き入れん時の水加減なんだけんど...」

カイジン「そいつは苦労するなぁ...」

彩月「リムル様、キーア様。失礼します」

 

カイジンさん達が再度話に没頭する中、リグルドと彩月が入ってきた。

どうやらこの様子だと、蜥蜴人族達が既にこっちに来ていたqみたいだな。

 

リムル「何だ?リグルド、彩月」

リグルド「リムル様、キーア様。蜥蜴人族の使者が訪ねて来ました」

キーア「予想通りだな。早速案内してくれ」

リグルド「はっ!」

 

俺達はカイジンさんの家を後にし、蜥蜴人族達が待ち合わせている場所へと赴く中で紅丸達が呼び止める。

 

黄爛「リムル様!キーア様!」

紅丸「俺達も同席して構わないか?蜥蜴人族の思惑が知りたい」

リムル「勿論(もちろん)だ」

 

リムルが(うなず)く様に体を上下に振動させる。

さて、果たして敵か味方か...?

キーアの秘書は...

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