消滅したらネオだった件   作:ライノア

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第2日記後編:Eの実り/石田武命の初農業

C SIDE

 

リムル「お前は、其処(そこ)の畑を担当してくれ」

C「それじゃ、担当は俺だから(よろ)しく。精々サボんないでよ?」

ゴブタ「分かってるっスよ。シーア様!オイラ達もいっちょやるっス!」

 

リムルとリーダーが分担を決めてる中、ゴブタ達は畑を(たがや)し始めていた。

 

ゴブト「だりぃよなぁ...」

ゴブタ「...だよなぁ」

ゴブト「はぁ〜、サボりてぇ」

ゴブゾウ「オラは結構面白いだす」

 

因みに俺はゴブタ達の担当を務め、ゴブトとゴブツが気怠そうに愚痴を(こぼ)しながら(くわ)を振り下ろし、後方に少しずつ下がりながら土を耕す。

けど、ゴブゾウは意外と興味本位で土を耕している。能天気な対応にゴブツは不満を飛ばす。

 

ゴブツ「たぁ〜、つまんねぇ事言ってるし!」

ゴブト「おい、ゴブタ聞いてんのか...?」

 

ゴブトがゴブタに話し掛けるべく向き直る。

端に居た(はず)のゴブタは木陰でタオルを両目を覆わせ、両腕を枕に(あし)を組んで寝そべっていた。

 

ゴブツ「って、あぁ!?あいつ、やってるふりしてサボってやがる!!」

ゴブト「ゴブタ!何サボってんだよ!?」

 

駆け付けたゴブトとゴブツに対してゴブタはタオルを摘み、余裕そうな表情で法螺(ほら)を吹く。

 

ゴブタ「違うっすよ...瞑想(めいそう)の修行をしてたんスよ」

ゴブト「瞑想...!」

ゴブツ「そうか!瞑想!」

 

明らかにサボる様子を瞑想と勘違いしたゴブトとゴブツもサボる。

ゴブゾウが一人で畑を耕している中、俺は少しだけオーラを解放して威圧する。

 

C「君達さぁ、本気でやる気ある訳...?」

ゴブタ「ひぃいっ!?ももももも!勿論(もちろん)やるっスよ!?」

 

ゴブトとゴブツは慌てて起き上がり、ゴブタは一瞬だけしどろもどろになりつつ畑作業を再開しようとした途端に黒兵衛さんが声を掛けてやって来た。

 

黒兵衛「お〜い!ゴブタ君!」

ゴブタ「うわっ!黒兵衛さん!?」

 

黒兵衛さんが声を掛けた事に気付いたゴブタは目線を向ける。

 

黒兵衛「リムル様とキーア様から頼まれていた物が出来ただよ!」

ゴブタ「マジっスか!?やったぁ!待ち()びたっスよ!」

 

黒兵衛さんが手に持っている布に包まれた()う物とは、以前ガビルがこの村に俺達を配下に加えようとしに来た際にゴブタがグリドンに変身し、当時黒影に変身したガビルを倒した時のご褒美(ほうび)だ。

 

ゴブタ「あん時のっスね!いやぁ死ぬかと思ったっスよ...」

黒兵衛「ふっ、ゴブタ君。そいつは一振りで大地を砕き切り裂く...オラの会心の業物(わざもの)だべ」

ゴブタ「す、凄ぇっス!これさえあれば、まさに鬼に金棒!金棒...っス?」

 

いかついキメ顔で自信作だと告げられたゴブタは期待を(ふく)らませながら布を下ろす様に取ると、それは金棒ではなく鍬だった。

 

ゴブタ「うおおおおおおおっ!!!!」

 

ゴブタがその鍬を使って畑を耕すと、猛スピードの速さで耕されて行く。

 

ゴブト「凄ぇぞゴブタ!」

ゴブツ「硬い地面があっという間に!」

ゴブト「耕されて、耕されて...!」

「「まるで鍬が体の一部みてえだ!」」

ゴブタ「うぉぉぉんっ!自分には、これがお似合いって事っスかぁ〜〜〜っ!!!?」

 

ゴブトとゴブツはゴブタを褒める中で、期待していた武器ではなく鍬を手に泣きながら落ち込むゴブタは高速で畑を耕す。

 

黒兵衛「なんか、間違ってただか?」

C「御免、黒兵衛さん。悪いけど、今度はちゃんとした武器を作ってくれないかな?後でゴブタに伝えとくからさ」

黒兵衛「それは構わんだべが、今は言わないんだべか?」

C「今は畑仕事に不満をぶつけてるから後にしといて。その分、こっち側の仕事が(はかど)る」

リムル「確かに。ゴブタがあれだけ働く姿は滅多にないしな」

 

大地を砕き切り裂くってフレーズは間違っちゃあいないけど、今度はちゃんとした武器を用意しておきたいしね。

 

C「...よし。俺達もゴブタに続こう!左側をやるよ!」

ゴブト、ゴブツ「「はい!」」

ゴブゾウ「...んだ!」

 

俺とゴブゾウ達は左側を担当し、ゴブタに負けじと鍬を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

A SIDE

 

一方、紫苑と黄爛は木箱に沢山(たくさん)の大豆を興味深そうに一粒(つま)む。

 

紫苑「何ですか?この豆」

黄爛「随分と沢山()くけど...」

武命「それは大豆だよ」

紫苑、黄爛「「へぇ......」」

 

武命の回答に二人は無表情に呟く。

 

キーア「上手くいけば、色んな物に加工出来るさ」

シズ「味噌(みそ)醤油(しょうゆ)、納豆とかも良い感じね!」

武命「そう云えば、シズさんは戦時中の日本からこの世界に来たんでしたっけ?」

シズ「ええ。納豆が嫌いな子は今でも居ると思うけど、私は大好きだよ!」

武命「...俺は、あんま好きじゃないかな」

 

シズさんは戦時中の日本出身だから、納豆は好きなのかもな。

武命も余り美味(うま)いもんを真面(まとも)に食った事がないらしいのだが、余り無理()いはしないでおこう。

 

紫苑「なっとー?」

黄爛「何、それ...?」

リムル「納豆と云うのはな、保存が効いて長く食う事が出来るんだ」

橙矢「おおっ!そりゃ良いや!」

 

橙矢も大分食い付いたが、後からリムルの発言で温まった空気が一瞬で冷えた。

 

リムル「後、簡単に言えば、腐った豆!遠慮するなよー?いつものご馳走のお礼だから〜!俺好きなんだ。ぬるぬるねばねば糸を引く豆がなぁ...!」

黄爛「へ?腐った...?」

橙矢「ぬるぬる、ねばねば...?」

キーア「いや、黄爛、橙矢。腐ったと云うよりは発酵(はっこう)食品でな。俺の元居た世界では好き嫌いはあるが、栄養価が高くて結構美味いぞ」

橙矢「成る程。じゃあ食べてみないと分からないって事か...って、紫苑姉ちゃん!何書いてんの!?」

 

流石の常識人でも間抜けな声を上げていた黄爛と橙矢に、俺は納豆がどう云う物かを小声で伝えた。

(ちな)みにフェリルと橙矢には俺が異世界人だって事を鬼餓蘇芳(きが すおう)討伐後に打ち明けた。

まだ他の皆に打ち明けるのは早いと思ったので、今後起きるであろう人間と魔物の共生に対する非常事態が起きた時に話す予定だ。

聞いた本人達は大分納得していたが、紫苑が木の板にぶつぶつと呟きながら何かを書き始めた。

 

紫苑「リムル様は腐った物が好き…………!リムル様は腐った物が好き…………!」

リムル「訂正する!発酵な、発酵!「いや、もう遅ぇよ!?」」

紫苑「今後のお食事にご期待下さい!腐った物を食卓一杯()ってきますので!」

リムル「止めろ紫苑!メモを取って何を作る気だ!?紫苑〜〜〜ッ!!!?」

 

こうして勘違いしたままリムルの叫びが空に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

B SIDE

 

その後、リムルとリーダーは跪いている頂槍とガビル達に水田(すいでん)を案内していた。

俺を筆頭に(いね)を育ててもらう為だ。

 

リムル「という訳で、ガビル達には稲を植えてもらう」

ガビル「お〜!有難(ありがた)き幸せ!では、歓喜の歌を「それはええねん」」

 

立ち上がりながら歓喜の歌とやらを歌おうとしたガビルを透かさず制止する。

 

キーア「湿地に生息しているお前らにはピッタリだろ?」

ガビル「はっ!此処なら如何(いか)なる戦いでも...負けませんなぁ!」

 

湿地帯出身の血が騒いだのか、ガビルは水渦槍(ボルテックススピア)を取り出して構える。

 

ガビル「何なら、技のキレを水渦槍の演武で!「それも良い」」

 

此処は水田だからな。別に戦う訳じゃないから、念の為に釘を刺しておくとしよう。

 

B「最初に言っておくが、米の改良と栽培は割と本気で取り組んでいる。浮かれたりなんてしていると...」

ガビル「何と失礼しました」

B「なら(よろ)しい」

 

と見せかけて、ガビルは水渦槍を振り回して演舞を披露すると見せかけ...

 

ガビル「我ら一同、その気持ちに応えるべく...!」

頂槍「ええ...いざっ!!」

「「神聖な舞を〜!」」

B「(ざる)どっから持ってきたァッ!?」

 

...笊を何処からか取り出して泥鰌踊りをし始めた。

 

ガビル達「あ、びっちゃばっちゃ!びっちゃばっちゃ!よいよいよいよい!」

B「ええけんとっとと始めれダラ共!此処は島根県なぇんだが!?」

リムル「いや(そもそ)も何でB、出雲(いずも)弁出てんだよ?」

シズ「(にぎ)やかだね...」

キーア「まぁ、ガビル達は大抵こう云う奴等だよな...もう好きにさせようぜ」

 

水田をBに任せ、俺達は次の場所に(おもむ)いた。

 

ゴブタ「リムル様とキーア様だ!リムル様、キーア様!武命ー!」

リムル「おお、ゴブタ!」

 

俺達を見掛けたであろうゴブタが鍬を肩に掛けて駆け寄る。

 

ゴブタ「何処行くんスか?」

キーア「ああ。リリナさんに先に作ってもらっていた春野菜の畑に赴こうとしてな。お前も一緒に見に行くか?」

ゴブタ「行くっス!」

リムル「よし、じゃあ頼む」

 

リムルはゴブタの頭上に乗る。

ゴブタを連れた俺達は春野菜のエリアに向かってみると、其処には春キャベツが縦行列に並んでいた。

 

ゴブタ「凄えっスね!もう出来てるじゃないっスか!」

武命「こりゃいっぱい収穫出来そうだなぁ...!」

リリナ「今日は賑やかで、何だか嬉しいですね」

 

感嘆の言葉を上げた俺達の前に、リリナさんが話し掛ける。

 

リムル「だろ?今年は畑も大きく作るんだ。皆、初めての奴も多いけど、面倒見てやってくれ」

リリナ「はい!私はこの街の農業担当ですから、任せて下さい!」

 

ゴブタが端に配置されていたかかしを見掛ける。

服はリグルドが着ていたのと同じで、顔に當る部分は無表情な顔を描いた袋で代用させてもらった。

 

ゴブタ「あ?何で畑の真ん中に人形があるんスか?」

武命「かかしだよ。(からす)()けのアイテムとして優遇されてるけど、これあんま効果が薄いんだよなぁ...」

リリナ「ええ。折角(せっかく)の春野菜も、こんな有様です」

 

リリナさんは一つの春キャベツを取り出すと、春キャベツの左側が齧られた痕が残っている。

 

リムル「げぇっ!?俺の好きな春キャベツ!」

シズ「(かじ)られてるね...」

武命「...ん?あの烏達、俺が元居た世界には頭の羽なんてついてなかったぞ」

異世界カラス「ガァーッ!」

 

紫の羽毛に覆われ、頭に一枚の羽が付いているこの世界の烏が木の(みね)に止まっていた。

左側は片(よく)(にお)いを嗅ぎ、右側は両翼を広げて威嚇(いかく)しつつ両脚で幹を揺らす。

ゴブタは鍬の持ち手でかかしの頭を軽く叩き、作業を始めようとした。

 

ゴブタ「あいつら、頭良いんスよ!こんなチャチなんじゃダメっス!自分に任せて下さい!」

 

取り出したのは複数の(わらr)と布、小型のナイフ二本とチョークと見せかけた木炭(もくたん)四本。

出来上がったのは、腹筋と男らしさが(あふ)れる顔立ちが描かれたゴブタのかかしだった。

 

ゴブタ「うおりゃああああっ!!出来た...!どうっスか?この逞しい肉体、そして精悍(せいそう)な顔立ち...これでもう安心っスよ!ちょっと隠れて見てみましょう!」

武命「精悍って云える顔なのか...これ?」

シズ「どうかな...?」

キーア「まぁ、お手並拝見と行こうか」

 

早速ゴブタに改造してもらったかかしの効果を見るべく、俺達は匍匐(ほふく)前進の体勢で様子を(うかが)う。

 

ゴブタ「これならあいつらもビビって、絶対に大丈夫っス!」

 

ゴブタの期待が高まる中で烏や動物達の良い様に(もてあそ)ばれたかかしの首は取れ、右手首は今でも取れそうになる程に()げていた。

烏達が満足そうに帰って行く様子を俺達は見届け、ゴブタは(ひっざz)を崩して意気消沈していた。

 

リムル「これ、吊るしてみ?」

リリナ「何です?これ...」

 

リムルが黄色、赤、黒で構成された『目玉君』と呼ばれる防鳥アイテムを渡していた。

その後は俺、リムル、シズさん、紅丸、武命の五人で、稲を田んぼに植えていく。

 

リムル「ふぅっ...!」

 

リムルが一列の稲植えを終えて額の汗を拭く。

 

キーア「良い感じじゃねぇか?」

シズ「うん」

武命「農業かぁ...こんなに汗かいたのは生まれて初めてだよ。何か腰痛ぇな、リムルさんは腰痛くなさそうですけど...?」

キーア「リムルはスライムだからな。人間の姿に擬態してるだけで、筋肉痛とかはないな」

武命「もう(ほとん)どチート状態じゃないですか...」

 

武命はリムルの体の特性に苦笑気味に呟く。

 

キーア「それより、全員ポーション要るか?」

紅丸「お願いします!」

武命「俺も、一応...」

キーア「よく言えました。ほれ」

 

俺はリムルから手渡されたポーションで紅丸と武命の疲労を回復させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

MOMIKA SIDE

 

蒼影様は農業の様子を俯瞰して見ていたのか、別の場所で苦無(くない)を等間隔に地面に突き刺していた。

 

蒼華「凄い......!」

紅華「的確に地面に刺してる...!」

 

その投擲(とうてき)(さば)きに私達は感心する。

私達がその技量を称賛したのか、蒼影様は微笑を浮かべて後ろを向いて巡回警備の時間を告げる。

 

蒼影「ふっ...巡回警備の時間だ。行くぞ」

西華、東華「「はっ!」」

 

西華と東華が蒼影様の背中を追う中、私とお姉ちゃんは地面に突き刺さった苦無を一本ずつ取って呟く。

 

蒼華「種撒き、したかったのかな...?」

蒼海「そうだろうね...あっ...!」

 

蒼影様が私達が持っていた苦無を粘糸・鋼糸で回収しながら一時の遅れは許さないと釘を刺す。

 

蒼影「遅れるな」

蒼華「は、はい!」

紅華「()ぐ行きます!」

 

私達姉妹は蒼影様の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

木の家の端に一匹の蝶が春風に乗って通りすがる中、朱菜達は炊き出しの準備をしていた。

彩月は偶には『お姉ちゃん』と一緒にいたいとの事で、朱菜の許可を得て炊き出しの準備に入っている。

朱菜が木箱に絹を纏める中、春菜と彩月が出来上がった料理の鍋を持ってきた。

 

春菜「朱菜様!鍋の準備が出来ました!」

朱菜「有難う」

ガルム、ドルド「「ただいま」」

 

引き戸が開く音に視線が向き、ガルムとドルドの二人が木箱を持って帰って来た。

 

朱菜「ガルムさん!ドルドさん!お帰りなさい!」

ドルド「おや、朱菜ちゃん達も畑に行くのかい?」

春菜「ええ。仕事がひと段落したので、炊き出しに...」

彩月「頑張る皆さんの為に、お昼には温かな物を食べていただこうと思いまして」

 

それを聞いた二人は感心していた。

自分達の偶像的存在が箱入りから巫女(みこ)と云う、とても責任感のある役職を貰われた程に皆からは(した)われる。

そんな成長を、ガルムやドルドは穏やかな表情で見守ってきた甲斐(かい)があったと思えたのだ。

 

ガルム「おおっ、そりゃ良い」

ドルド「後は任せて行ってきな」

彩月「はい!」

春菜「有難う後座います!」

朱菜「では、行ってきます!」

 

三人は鍋と木箱を持って畑の方に向かう。

朱菜達を見送ったガルムとドルドは猛然と作業を始める。

 

ガルム「...良い()だなぁ。兄弟」

ドルド「そうだなぁ。兄弟...」

「「んっ!」」

 

目線を合わせて二人は身を引き締めた様な声を上げると、外側から轟音が鳴り響く。

 

ガルム「お尻と足首がキュッと...!!」

 

ガルムは集中力を最大限に高めて板に朱菜をベースに様々なもんぺの色柄を描き、それが何枚も積み重ねる。

ドルドはミシンを使って慎重に半目で生地を()う。

 

ドルド「いけてる!いけてるッ...!!」

 

激しい轟音が鳴り止み、白百合の柄模様が描かれた黄色と緑を基調としたもんぺ服が出来上がった。

作業を終えた二人は達成感を感じつつも満足げに呟く。

 

ガルム「もんぺ姿、いいなぁ。兄弟...」

ドルド「そうだな、兄弟。流行(はや)らそう」

カイジン「...お前ら、仕事熱心だな」

 

周囲は使用済みの布と糸で裁縫(さいほう)道具で散乱しており、一部始終を見ていたカイジンが呟くと上から(うちばり)が落ちて土煙が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KIA SIDE

 

ゴブリナ住民「ゲルドさ〜ん!」

ゲルド「おう」

ハイゴブリン住民「オルクスさ〜ん!」

オルクス「待ってろ。直ぐに行く」

 

オルクスとゲルドは懸命に運搬している。水いっぱい入れた二つの木樽(きだる)の持ち手を棒で(かつ)いでいる時も、如雨露(じょうろ)に木製の柄杓(ひしゃく)で水を移す時も呼ばれていた。

そんな中で俺とリムルが二人に話し掛ける。

 

リムル「お〜い、オルクス、ゲルド」

ゲルド「ああ...」

キーア「折角だし、お前らも植えてみろよ」

ゲルド「いや、俺達は運搬役で...」

 

控えめな態度でゲルドは水汲みに専念しようとしたが、オルクスが年に一度の体験に悔いのないよう優しく背中を押す。

 

オルクス「キーア様達がああ言ってるのだ。やろう」

ゲルド「父王(ふおう)...はい」

キーア「武命もやるか?」

武命「あ、はい。少しくらいなら...」

 

武命も過去の出来事を思い出したのか、(なえ)を植えるのを少し躊躇(ためら)っていた。

だが、少しでも自分がこれまでした事のない経験を得たいと思ったのか、迷わず苗を植えた。

オルクス達も手に取ったスコップで紫苑が手に持っていた苗を(すく)い、左右に広げる様に優しく苗を植えた。

 

リムル「そうそう。等間隔に」

キーア「苗を潰すなよ」

武命「...よし、出来た!」

オルクス「これで(よろ)しいですか?」

キーア「ああ。夏には実が一杯食えるぞ」

 

ゲルドとオルクスは自分で植えた苗に優しく触れた。

静寂に吹いた春風が苗を優しく(なび)かせ、武命は呟いた。

 

ゲルド「実が...」

武命「...夏、か。時々、見に行ってもいいですか?」

キーア「勿論。皆で見に行こうぜ」

シズ「ええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

それから時間帯は昼になり、休憩所で昼飯になった。

配られた木製の食器には握り飯と味噌汁、その上の中央には漬物が()えられていた。

 

白老「ずっと中腰は流石に(こら)えるのう...」

黒兵衛「何言ってるだ。誰よりも正確で速かっただ」

白老「ヌホホホホ。年の(こう)よ」

 

白老と黒兵衛はそう話す一方で、ゴブタは鍬を持ちながら言う。

 

ゴブタ「自分のご褒美って、本当にこれなんスかね...?」

 

ゴブタは自分のガビルとの決闘に勝利した褒美に若干不安になっていた。

朱菜は皆にお昼ご飯を配っていた。

 

朱菜「はい!」

ゴブリンの子供A「有難うご御座います!」

朱菜「お兄様と緑羽もお昼如何ですか?」

紅丸「うん」

緑羽「是非、頂きますねぇ...」

 

朱菜の受け取った昼食を持ちながら、子供が食堂に向かう背中を見届けていた朱菜は、同じくその場に居た紅丸と緑羽に(たず)ねる。

紅丸が(うなず)き、緑羽が(あご)に手を置いて言うと子供達が駆け寄って二人に尋ねてきた。

 

ゴブリンの子供B「紅丸様!緑羽様!」

紅丸「うん?」

緑羽「おや、どうかしたのかい?」

ゴブリンの子供「どうしたら、お二人みたいに強くなれるんですか?」

ゴブリンの子供C、D「「うんうん!」」

 

両端に居た二人の子供の頷きに、紅丸と緑羽はしゃがんで視線を合わせる。

 

緑羽「そうだねぇ...」

紅丸「好き嫌いなんかせず、何でもよく食べる事かな?そして、()ずは...」

ゴブリンの子供達B「わっ!?」

 

紅丸は近くにあった石を握り潰すのを見た子供達は驚愕で目を見開く。

 

紅丸「強い体を作るんだ」

緑羽「体力作りも大事だけど...(おのれ)が鍛えた強さに固執(こしつ)し、(おぼ)れない事だねぇ。いつまでも相手を見下したままじゃあ、自分の弱さに気付けないからねぇ」

子供達「「「うわぁ〜!分かりました!紅丸様、緑羽様。有難う!」」」

紅丸「おう!午後も頑張ろうな!」

子供達「は〜い!」

 

駆け出した子供達を見送った紅丸達は、声を掛ける。

 

紅丸「しっかり食って、強くなれよ。ちびっ子共!」

緑羽「頑張るといいねぇ...未来ある子供達」

朱菜「お兄様方もどうぞ」

紅丸「ああ」

緑羽「では、私達も頂くとしようかねぇ...」

 

笑顔でお(ぼん)を渡す朱菜。

その視線は味噌汁の中に人参が入っている事に気付いた紅丸は、右側の(まゆ)を引き()らせて愕然の表情を浮かべる。

 

紅丸「いや。だからちょっと、人参避けてくれって...!」

緑羽「さっき自分で言ったんじゃあないかい?しっかり食べて強くなるって...」

朱菜「そうですよ。好き嫌いしてると、強くなれませんよ?はい」

 

緑羽の後押しに朱菜は紅丸に有無を言わせずにお盆を渡す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KIA SIDE

 

俺とリムルは握り飯を頬張って周辺を見ていた。春の空気が風に揺れる。

土の匂いは意外と強く、空気を胸に、飯を腹に。

ただそれだけで満たされる。ただそれだけで実感できる。

 

武命「こういうの、生まれて初めてですよ」

キーア「武命?」

武命「俺、ガキの頃は家族に虐待とかはされてなかったんですけど、若し紀恵子さんの娘さんが生きていたら、あの夜に未来の咲夜さん達に抱き締められてなかったら...俺は今頃、本当の意味で両親を殺そうとしていたかもしれない。だから、この世界の咲夜さんが俺の事を知らなくても自然と感謝の気持ちが込み上がってくるんです」

キーア「そうか。未来の俺も、(さぞ)や苦労してんだろうな...」

 

武命は元いた世界での出来事を思い出していた。

嘗て兄から虐待を受け、父親からも虐待を受け、母親からはゴミや虫の死骸が入った飯を食わせられる。

そんな地獄の様な日々に抵抗しようとある日、友人との万引きがバレた際に自分が虐待された証拠として腹の(あざ)を見せた事もあった様だ。

その甲斐もあってか、武命の両親を逮捕する事は出来なかったが、自身の過去に終止符を打つ事が出来た。

 

キーア「...っしゃあ!俺達もやるぞ!」

「「「ああ(うん)(はい)!」」」

 

握り飯の最後の一欠片を口に運んだ俺達は、肩に鍬を担いで作業を再開した。

(しばら)く経ち、既に空は(だいだい)色に染まる。

 

リムル「じゃあ、無事、植え付けの終了を祝って、乾杯!」

キーア「皆お疲れさん!」

 

リムルの乾杯の音頭と俺の(ねぎら)いの言葉で全員が夕食を食い、テーブルには沢山の野菜料理が並んでいる。

 

紫苑「んぐ、んぐ...ぷはぁっ〜!美味しい〜!」

黄爛「お疲れ。紫苑姉ちゃん、すっごい飲みっぷりだね...」

橙矢「どれ食べよっかな〜?」

ハイゴブリン住民C「おっ!ロールキャベツ!」

ゴブリナ住民B「秋には無事に稲がなると良いなぁ...」

 

紫苑が酒を一気飲みし、ゴブリナの住民は稲が育つ事を祈っている。

 

紅丸「お疲れ。良い働きぶりだったな」

ゲルド「貴殿もな」

ガビル「我輩の水田の舞はいかがでしたかな?」

リグルド「いやっはは!失敬。見ておりませんで」

ハイゴブリン住民D「美味そうな匂い!たまんねぇ〜!!」

 

紅丸とゲルド、ガビルとリグルドが互いに労いながら会話をしている。

ゴブイチが焼いている焼き串の匂いが、ハイゴブリン住民の食欲を(そそ)った。

 

ゴブタ「鍬捌きなら、自分に任せて欲しいっスね!」

ゴブツ「いよっ!ゴブタ!」

 

手を腰に置いて天狗になっているゴブタをゴブツが褒め称える。

そんな風に皆が作業の疲れを労って夕食を堪能(たんのう)していく。

一方で俺、リムル、シズさんの三人と武命はスナック樹羅の看板が飾られた専用のテントでトレイニーさんの所に居た。

 

トレイニー「皆さん、お疲れ様でしたね」

リムル「まぁ、本当に大変なのは、これからだろうな」

トレイニー「そうですね。収穫までは色々...でも、今年はきっと良い作物が取れますよ?」

シズ「うん。きっと、良い作物が出来るよ」

リムル「おお。お(すみ)付き!トレイニーさんは植物の専門家だもんな...」

 

トレイニーさんが笑みを崩さずに左手でスコップを持ちながら、自身の体の一部とも云える蔓でリムルが被って居た麦わら帽子を取る。

 

トレイニー「ええ。ですから...待っていたんですよ、私。お、さ、そ、い」

キーア「...は?リムルお前、まさかトレイニーさんを誘わなかったとかないだろうな!?」

 

葡萄ジュースを飲んでいたリムルが真剣な表情で自分から言う事を思い出した。

トレイニーさんは勧誘されなかった腹いせに涙を浮かばせてその場でしゃがみ込み、逆手で持ったスコップで足元の土を掘る。

 

トレイニー「樹妖精なのに、管理者なのに、ずっとずーっと、そこの木の陰から...」

エース「いや!収穫時には声を掛けますから、此処は一つ...!」

ゴブタ「あー。泣かせた、泣かせた」

武命「いっけないんだー。いっけないんだ~」

 

リムルが(なだ)めている際に、偶然に目撃したゴブタと武命が嫌らしく口角を引き攣らせて揶揄(からか)う。

 

リムル「機嫌直して下さい。ほら、ポテチありますよ!?」

キーア「リムル。だから俺から誘うって言ったんだ...」

トレイニー「...ぐすん」

 

(あき)れ顔を手で覆った俺は呟き、トレイニーさんは鼻を(すす)るのだった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからトレイニーさんを宥めるのに苦労した。

あの打ち上げの後、トレイニーさんの事を知ってか知らずか異世界の梅雨(つゆ)が始まった。

その様子を俺、リムル、シズさん、ゴブタ、武命が(なが)めていた。

辺りには紫陽花(あじさい)が咲き、もう六月が過ぎようとしていた。

窓際の葉っぱには蝸牛(かたつむり)が乗っており、早く梅雨が冷めないかと窓の左側にてるてる坊主を吊るしている。

 

ゴブタ「今日も雨っスか。毎日これじゃあ、気が滅入(めい)るっスね」

武命「まぁ、梅雨だから仕方ないよ」

トレイニー「あらあら。そんな事を言わないで下さい。雨は必要なんです。天からの恵みを大地がたっぷりと受け止めて、緑は(しげ)り、虫達が増え、小動物が繁殖し、(また)それが土に...」

 

トレイニーさんがポテチを口に運ばせて、味が新しいものだと看破する。

 

トレイニー「あら、新味...そうして森は着々と大きくなっていくのですから」

シズ「そうなんですね」

ゴブタ「へぇ...だからちょっと太ったんスね」

リムル「あぁっ!?」

キーア「えっ...!?」

 

蛇足とも呼べる先走ったゴブタの失言と共に雷鳴が(とどろ)き、雨足が強くなる。

気にせずポテチを食っているトレイニーさんの黒笑(こくしょう)(おぼ)しき笑みは崩れないでいたが、あの土砂(どしゃ)降りの雨からして見れば内心キレている事が分かる。

これ以上自然環境に影響を与えかねない。ポテチを(かじ)る音と同時に俺はゴブタに(かつ)を入れる。

 

キーア「バカ何言うとんじゃ!?早く窓閉めろ!!」

ゴブタ「はいっス!!!!」

『チェイン!ナウ...!』

『パペティアー!マキシマムドライブ!』

 

こうして外も中も嵐となり、シズさんが黒笑を浮かべながら実体化させたメイジドライバーにウィザードリングを翳して赤い魔法陣から出現した鎖でゴブタの四肢(しし)を縛り上げた。

武命もパペティアーT2メモリを装填したエターナルエッジの刃先から無数の糸を射出させ、ゴブタを操り人形の様に操って正座させる。

 

武命「ゴブタ。女性に対してそういうのはNGだからな?」

シズ「私、それ前にも言ったよね...?」

ゴブタ「は、はいっス...」

リムル「やれやれ...」

 

武命が見張りながらシズさんに説教を喰らっている光景にリムルは呆れ顔で呟く。

そんな中で俺はアタッシュケースを開き、中に入っていたT2メモリの一つで左から日光、雨、雷、台風が繋がってWを描くクリアーなガンメタル『ウェザーT2メモリ』を取り出して一人呟いた。

 

キーア「森は着々と大きくなる...か」

 




-武命が使用したT2メモリ-
パペティアー
-未使用のT2メモリ-
バード、サイクロン、ダミー、ファング、ジーン、ヒート、アイスエイジ、ジョーカー、メタル、ナスカ、オーシャン、クイーン、ロケット、スカル、トリガー、ユニコーン、ウェザー、エクストリーム、イエスタデイ、ゾーン

今後の展開で変身しそうな人物は...?

  • 彩月×斬月
  • 頂槍×バロン
  • 紫盾×龍玄
  • 紅華×天鬼
  • ヴァラハ×ブラーボ
  • カプア×スカル(T2・帽子なし)
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