消滅したらネオだった件   作:ライノア

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第3日記後編:夏の出来事

KIA SIDE

 

リムル「おっ。居た、居た」

紅丸「ん?」

キーア「紅丸。少し、良いか?」

 

その後、蒼影の情報の元で洗濯物を()している紅丸達の方へと向かった。

両手でリムルを抱えた紫苑と俺は、干していた洗濯物を通り抜けて紅丸の方へ寄る。

 

紅丸「何ですか?また悪巧みじゃないでしょうね...?」

リムル「いやぁねぇ...すげー暑いし。もうこうなったら暑さを活かして、『我慢大会でもやろうかな?』と思って...」

 

俺達が紅丸に声を掛けた理由は、我慢大会に参加するかどうかを(たず)ねに来たのだ。

まぁそれも悪くはないかなと、俺は少しだけ興味本位で了承(りょうしょう)した。

 

紅丸「転んでもただでは起きない辺りは流石ですが、我慢大会って何ですか...?」

リムル「我慢大会ってのは...炎天下に暖房を()いて、厚着をして、その上で鍋を食うんだ。そして遂に、最後までギブアップしなかった者だけが勝利を手にする事が出来(でき)る」

リムル「つまりそういう事だ」

 

俺達が紅丸に我慢大会の内容を説明するも、熱変動耐性で我慢大会には参加しない。

それを聞いたウルフヘアーのゴブリンの少女 アキナは、ゴブタに(ささや)いて参加を試みる。

 

アキナ「武命と一緒に出れば良いじゃん。ふふっ...」

ゴブタ「うーん。此処で目立ちたいっすけど、これなんか嫌な予感がするっス...」

武命「悪いけど、俺も遠慮しとく。何だか嫌な予感しかしねぇし...」

 

アキナの推奨(すいしょう)に武命は過去の出来事で即座に断念し、ゴブタは警戒心高めで出場するのを(しぶ)っていた。

 

キーア「武命、ゴブタ。出場するかはお前らの判断に任せる...と言いたいところだが、流石に拒否反応起こしてるしな。無理はするな」

リムル「紅丸。お前のように強い男は、暑さなんかに負けないだろぉ〜?」

紅丸「ふむ。なら、ここは一つ、俺の我慢強さを知らしめてやりましょう」

キーア「ま、精々頑張れ」

 

紅丸は自然環境耐性と云う名の我慢強さで満更でもない余裕を見せるが、紫苑と黄爛の秘書組が毒突く。

 

黄爛「別に良いじゃん。最近、豚頭王(オークロード)との戦いから全然良いとこないし!」

紅丸「うるさいぞ其処!」

紫苑「だって事実ですし〜?」

紅丸「おのれ...!見てろ、残念秘書に甘々秘書!炎の戦士の生き様をなァッ!!」

 

紅丸が次期統領としてのプライドに賭けて、凝縮(ぎょう朱く)したヘルフレアを手に宣言する。

それから数時間経過しての我慢大会。其処には紅丸やガビルを始めとする多くの参加者が全員紫色の泡を噴いて撃沈していた。

 

蒼華「おぉ〜っと、鍋の前に出場者全員がダウンだ!」

紅華「これは大変な事になっちゃったけど...?」

頂槍「...ご愁傷(しゅうしょう)様です」

 

実況を担当していた幼馴染組の中では唯一状況を把握していた頂槍が両手を合わせて呟く。

余りの呑気っぷりなリムルは紅丸が負けたことに驚愕していたが、紫苑の手に持つおたまを見て既に全員が撃沈した原因を察していた。

 

リムル「まさか紅丸が負けた!?」

紫苑「どうしたんでしょうか...?」

黄爛「やっぱり...」

キーア、橙矢「「だと思った...」」

 

出場者が食っていた鍋の具材は、全て紫苑が作っていた。

我慢大会の一部始終を見届けたゴブタと武命は視線を逸らして低く呟く。

 

ゴブタ、武命「「出なくて良かった(っス)...!」」

 

ゴブタと武命は当然不参加で、命の危機は免れた。

それから紅丸達を始めとする参加者達は全員救護所に運ばれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

TAKERU SIDE

 

武命「あっち!?何だよこれ...!」

ゴブタ「黒兵衛さん、毎日こんなとこで鉄打ってたんスか...!?」

 

我慢大会が終わり、俺はゴブタと共に黒兵衛さんの工房へと(おもむ)いた。

俺もエターナルエッジの切れ味を見てもらいたい理由で此処に来ている。

ゴブタが片方の扉を開けると室内から熱気が迫り、今は外も中も熱気が漂っている状態だ。

 

武命「これじゃあ...まるでホントの我慢大会じゃねぇか!?」

 

俺達の存在に気付いても(なお)、黒兵衛さんは囲炉裏(いろり)の隣であぐらを掻きながら熱した鉄を(くい)で打っていた。

スコップで炭を入れて、熱して叩いた鉄を水に()けて熱を一気に冷やす。

 

黒兵衛「はっはっは!鍛治工房なんだから、当たり前だべ。それと、君が前にリムル様が言ってた武命君だべか?」

武命「あ、はい。そうですけど...?」

 

黒兵衛さんは俺が持っていたエターナルエッジを興味深そうに視線を向けていた。

 

黒兵衛「刃物の腕前がとてもいいとキーア様から好評だと聞いたべ。今度、武命君の武器を詳しく見てみたいんだが、いいだか?」

武命「あ、ああ。あんたが良ければ、是非...」

 

聡明さんに似た穏やかな雰囲気で黒兵衛さんが俺に優しく接している。

今でも、聡明さんが面会が終わった去り際に言った言葉を今でも鮮明に覚えている。

 

聡明『...ラーメン、食べに来い。若し食べたくなったらいつでも来い。店、ずっと開けて待ってるからな。武命』

 

いつかは俺の中に残っている憎しみがちゃんと此処で剥がれ落ちてから、今度はバイト仲間としてではなく一人の客として、鳳仙特製の豚骨ラーメンを食べに行きたい。

それまでは元の世界に帰る方法を探しながら、この世界で今までの人生で学べなかった事を少しでも学んでいきたい。

 

ゴブタ「それより黒兵衛さん、すごい汗っスよ!?大丈夫なんスか...!?」

黒兵衛「ん?ああ、おら(にぶ)いから平気なんだべ。あ、そうそう。ゴブタ君の武器、武器。散々待たせて、ごめんだべ」

 

作業を終えてひと段落している黒兵衛さんは布で汗を拭き、気(づか)うゴブタの言葉に笑顔で返してゴブタの専用武器を取り出す。

真夏に何日も(こも)りっぱなしだと()うのに、笑顔で作業に取り組まれる。

そんな人を俺は心から尊敬したい。

だが、そんな(なご)やかな雰囲気は黒兵衛さんが取り出した武器によって全部打ち壊された。

 

黒兵衛「いやぁ...何か気付いたら鍛え上がってたんだけんど...フフフフフ、フフフ……………フフ、フフフフフフ、フフフッ……………!」

剣「マギー!マギー!マギー!」

 

骨で構成された柄の頭と(つば)(あた)る部分に禍々(まがまが)しい目玉が(うごめ)き、目の柄には魚の(ひれ)や虫の四肢の様なものが付いている。

刺々(とげとげ)しい見た目で奇声を上げる剣はゴミ女の作った飯よりも、紫苑さんが作った適当で危険な料理よりも危険を感じさせる。扱いは見ただけでも不可能だと理解出来てしまった。

黒兵衛さんは異質な完成品に目を赤く光らせながら不気味に笑っていた。

 

武命「ゴブタ。やっぱこれは見なかった事にしよう...」

ゴブタ「...ああ、そうっスね。やっぱり、ちょっと涼んだ方が良くないっスか?」

剣「マギー!」

 

この状況を俺が見なかった事に賛成したゴブタは、冷や汗を掻きながら黒兵衛に気を配る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KIA SIDE

 

キーア「何だか何処かで奇声が上がった様な...?」

黄爛「うーん、気のせいじゃない?」

橙矢「いや、明らかに何か聞こえてた感じがした」

 

黄爛が呑気な声で返答したが、橙矢は大体聞こえていた。

窓では日差しが照射(しょうシャ)しているいつも通りの光景が広がるが、耳に伝った奇声が耳から離れるのは少しだけ容易かった。

 

紫苑「いいえ?私は何も」

リムル「...紫苑。君は一体何をしているのかな?」

紫苑「すりすりです」

リムル「あ、そう...?」

 

紫苑がリムルの頭に顔を当てて頬擦りという名のスキンシップをし始めた事にリムルが動揺する。

 

黄爛「紫苑姉ちゃんいいなー!あたしもキーア様にすりすりするー!」

キーア「ちょっ、おい!?むぐっ!?」

 

黄爛が俺の首をがっちりとホールドし、豊満な胸を顔に押し当ててきた。

 

橙矢「ちょっ、姉ちゃん!?」

黄爛「えへへー。キーア様大好き〜!こういうの絶対好きでしょ〜?」

橙矢「おい姉ちゃん!抱き付くのは別に構わないけどさ、このままだと確実に兄ちゃん窒息するぞ!?」

黄爛「いいの!これがあたしなりの愛情なんだから!」

橙矢「そういう問題じゃねぇって!!」

 

その光景を見ていたであろう朱菜が、着物の袖を手に添えながら紫苑に話し掛ける。

 

朱菜「紫苑...わたくしにもリムル様を抱かせて下さい」

紫苑「えぇ!?駄目ですよ?これは秘書の仕事です」

リムル「あー、そんな事はないんだが〜?」

 

おい、今しれっと修羅場のフラグ立てたな。

 

朱菜「ほほほほほほ。そんなことはありませんとリムル様が——」

紫苑「そんな事ありますわ...うふふふふふっ」

橙矢「姉ちゃん、いい加減離れろって!!兄ちゃんマジで死ぬぞ!?」

黄爛「いーやーだーっ!!!!」

 

俺の見えない視界で紫と桃色の炎が密かに燃え上がっていた。互いに目が笑っていないし、笑い方に嫉妬と羨望が混ざった声色となっている。

一方で黄爛は橙矢に引き剥がされそうになったが、それでも離さんと腕力を上げる。

 

橙矢「...じゃあ、俺が勝ったら、兄ちゃんを窒息しない程度に愛情表現するって約束する?」

黄爛「...いいね、面白そうじゃん」

 

何かと条件を突き出された黄爛が俺を解放したと同時に戦極ドライバーを腰に巻く。

フェイスプレートに描かれたのは橙矢と同じ鎧武。手には黄色いオレンジロックシードが握られている。

橙矢も既に戦極ドライバーを腰に巻き、警戒する様に興味を示した。

 

橙矢「へぇ、姉ちゃんも鎧武か。意外だな...」

黄爛「そりゃあ、あたし達は姉弟だから!同じライダーに変身出来ても違和感ないでしょ?」

 

同じく朱菜が口を据えていた腕を下ろして前方に出ると、紫苑が絶対に離すまいとリムルの体を揉む様に水滴音を低く唸らせる。

 

「「変身!」」

『『オレンジ!ロックオン!ソイヤ!オレンジアームズ!花道オンステージ!』』

 

橙矢は鎧武に変身。黄爛も同じく鎧武になるが、外見は女性寄りとなっていた。

アンダースーツ部分は鎧武と同じだが、アーマー部分は特徴的な三日月の鍬形ではなく真上に突き立った角、腰回りが細い紺色の草摺(くさずり)が垂れ下がらずに太腿に巻き付いている。

名付けて云うなら、『仮面ライダー鎧武 ナツミカンアームズ』。手には黄色い大橙丸と無双セイバーが握られていた。

橙矢が腰を落として無双セイバーを右肩に担ぎ、大橙丸の先端を爪先に着く程度に落とす。

同じく黄爛も臨戦態勢に入る。黄色い大橙丸を前方に突き出し、無双セイバーを掲げる。

紫苑と朱菜が駆け出したと同時に、黄爛と橙矢の持つ無双セイバーと大橙丸が金属音を鳴り響きかせる。

流石に銃弾や刀身で物を傷付けさせられなかったのを考慮したのか、二人共剣戟(けんげき)のみの戦闘を行っている。

同時に朱菜も紫苑に迫り、絹作りで(つちか)った器用な手(さば)きがリムルを奪い取る。

 

朱菜「リムル様〜!」

 

紫苑も負けじと秘書の称号に恥じない身体能力で奪い返す。

 

紫苑「んん〜!すりすり〜!!」

 

黄爛と橙矢の剣戟も何度も火花が散り合う程にヒートアップしていた。

橙矢のオレンジアームズが中量級なのに対し、黄爛のナツミカンアームズは軽量級。

二刀流のセンスは橙矢が上だが、その真逆として身軽さは黄爛の方が上だった。

装甲を傷つけずにただただいなし、胸部装甲を突くだけの戦い。些細な姉弟喧嘩にしてはシンプルな賭け事だ。

無双セイバーの刀身部『ハモンエッジ』と大橙丸の特殊刃『カヒノジン』が擦れ合う度に火花を散らし、交差した状態での鍔迫り合い。

 

橙矢「これじゃあ受けは取れないだろ!?」

黄爛「えっ、嘘——きゃあっ!?」

 

透かさず橙矢が無双セイバーの黄色いスライドスイッチ『バレットスイッチ』を引き、刀身のエネルギーゲージ『エナジーチャンバー』が発光。より強く発光すればする程出力が上昇する。

鍔と一体化した銃身『ムソウマズル』から弾丸が吐き出され、黄爛の軽装甲に一発火花が散る。

数歩後退したところで距離を詰め、残り三発を打ち出しつつ大橙丸を振り下ろす橙矢。

だが、黄爛も甘くはなかった。足を滑らせたフリをして右側に転倒し、バレットスイッチを素早く引いて一弾目を橙矢の仮面の複眼部分に火を吹く。

 

黄爛「...なーんてねっ!!」

橙矢「ぐっ!?」

 

黄爛の殺意を高めた戦闘スタイルに一瞬だけ焦燥した橙矢は頭部を皮一枚にズラし、再度バレットスイッチを引こうとするも二弾目でそれが的確に弾かれ、無双セイバーのグリップ部分『パワーセルグリップ』の先端を狙った黄爛の横()ぎが、橙矢の無双セイバーを大きく弾かせた。

 

黄爛「そいやぁあああっ!!」

橙矢「なっ!?しまっ——!」

 

成る程な、片手に持った無双セイバーと大橙丸を入れ替える事でパワーセルグリップに届くだけのリーチを(しょう)じさせたか。

同時に大橙丸を黄色い大橙丸を横に投擲させて弾かせた。アームズチェンジを(こころ)みるも、三発目の銃弾がそれを阻んだ。

橙矢はシズさんや白老に鍛えられただけの剣技は磨かれているが、こういった搦手には少々弱い。

相手の距離を潰してまでも一気に勝負を決めるゴリ押し特化の橙矢と、冷静な判断力で一手一手を温存しつつ攻め込む黄爛。

エナジーチャンバーには後一発分が表示されており、カッティングブレードによる必殺技を阻止するか、ロックシードホルダーに携えたロックシードの使用を阻止するか。黄爛の選んだ二択で勝敗が決まる。

 

黄爛「ふっふーん。勝負はあたしの勝ちの様だね橙矢〜?」

橙矢「いいや?そう詰まれる程俺は甘くねぇ......!」

 

そう言って橙矢はロックシードホルダーに手を掛けようとした。

黄爛が最後の一発をロックシードホルダーにマズルに向けると見せかけて戦極ドライバー本体に向けていた。

 

橙矢「そうら姉ちゃんプレゼントだ!!」

黄爛「え、えっ!?」

 

フェイントである事を承知の上で敢えて橙矢は体勢を屈めて背部の鎧で防ぎ転倒。同時にロックシードが宙に舞う。

少し慌てた黄爛が両手で受け取る。そのロックシードは『L.S.-00』と表記され、キャストパッドが縞模様の向日葵(ひまわり)の種を模した『ヒマワリロックシード』だった。

 

黄爛「橙矢——!きゃっ!?」

橙矢「隙ありだ、姉ちゃん!!」

 

既に無双セイバーのムソウマズルから吐き出された四発を、無双セイバーと黄色い大橙丸のグリップ。三発目を地面に落ちた無双セイバーを更に弾かせ、最後の一発を頭部の複眼を(とら)える。

 

『ソイヤ!オレンジスパーキング!!』

 

カッティングブレードを三回倒し、ナツミカンアームズをアームズ状態に戻して高速回転させる事で銃弾を弾く。

 

朱菜「いいから変わりなさいっ!!」

紫苑「いーやーでーすー!!」

リムル「こらこら仲良くしろ!仲良く——ぬわぁっ!?」

 

跳弾によって弾かれた弾丸がリムルを取り合っていた朱菜と紫苑の握力をほんの少しだけ緩ませた。

 

橙矢「だったらこっちも!」

『ソイヤ!オレンジスパーキング!!』

 

橙矢もアームズ状態にしたオレンジアームズを高速回転させ、アームズ同士が互いに散り合わせった火花が金属音を立てて大きくなる。

激しい擦り合いで互いに後方に大きく吹っ飛ばされて壁に激突し、舞った(ほこり)が落ち着いた頃には二人は既に立ち上がっていた。

 

橙矢「...次で決めるぞ、姉ちゃん!」

黄爛「望むところ!!」

キーア「それまでッ!!!!...喧嘩するなら他所(よそ)でやれ。さっきの銃弾が当たってたら、仮であっても誰かが一人死んでた」

 

俺の一喝で二人が我に返る。紫苑と朱菜も既にリムルの取り合いを止めていた。

暫くして、リムルが自らを膨張させて巨大な水枕となった。

巨大化したリムルの間に紫苑と朱菜が挟まり、背後は黄爛に抱かれたまま俺が背を乗せる。

 

紫苑「あっ、何だか温くなってきましたね」

朱菜「リムル様。もう少し冷たくなりませんか?」

リムル「きっ......!」

キーア「リムル、少し痛いぞ」

 

紫苑と朱菜の無理難題な要求に、リムルは青筋を浮かべる。

 

『アイスエイジ!マキシマムドライブ!』

キーア「チクっとするぞー?」

リムル「...よし、ストップ!これくらいで丁度だ」

紫苑「あぁ〜。冷たくなった...!」

朱菜「とてもひんやりしてて気持ちいいです...!」

 

俺はリムルから複製してもらったエターナルエッジの刃先をリムルの体に刺し込み、刃先から放たれた冷気が内部に広がる。

 

黄爛「ひんやり〜!キーア様、もっと冷やして!」

橙矢「駄目だ。リムル様が内部的に凍る」

黄爛「橙矢のケチー!」

 

もう少しだけリムルを冷やす提案を橙矢に否定された黄爛が口を(とが)らせて(ほお)を膨らませる。

俺は思念伝達でリムルを少しおちょくった。

 

リムル(これは極偶(ごくまれ)にで、今日だけ四人を(ねぎら)っているだけだ。決して甘やかしている訳ではない)

キーア(嘘つけ。そう言ってる割には甘やかしてんじゃあねぇか)

大賢者《思考パターンの急加速を確認。これは、嘘を吐いている時に出る基本的な反応と——(お黙り!)》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NO SIDE

 

時は夕暮れ。(せみ)の鳴き声が辺りに響き渡り、リムル達が(たがや)した畑にてゲルトとオルクスがリリナと農作物の様子について話し合っていた。

 

リリナ「猛暑が続く毎日でしたし、この日差しに加え、上手くこの土に馴染(なじ)めなかったようで。色々と、試行錯誤してみたのですが...」

ゲルド「そうですか...」

オルクス「ふむ...」

 

ゲルドとオルクスの前にココブと呼ばれているゴブリンの子供が二人の足元に駆け寄る。

ココブから見たゲルドの後ろから見た表情は、何処か(はかな)げな悲しみだった。

そんな彼を励ます様に、リリナは数株は残っている事を告げる。

 

リリナ「あっ!でも、数株は生き残ったので希望はあります。どうぞ。せっかくだから、食べてみてください」

 

生き残っていた一つのトマトをゲルドは見つめていた。馴染めなかった土とこの日差しの中で、耐え抜いた一つを手中に優しく収める。

(かつ)飢餓(きが)に耐え続けてきた二人にとっては、まさしく敬意に等しいのだろう。

密かに指を咥えていたココブの存在に気付いたのか、ゲルドはゆっくりと向き直る。

食べてみたいという欲求があったのを察していたのか、ゲルドはしゃがみ込んでもぎ取ったトマトをココブに差し出す。

 

ゲルド「ん」

ココブ「わぁ〜!はむっ。んぐんぐ...はぁ〜」

 

ココブがゲルドから受け取ったトマトを食べると、満面の笑みを浮かべていた。

ココブの頭を()でた二人は去ろうとすると、リリナが声を掛ける。

 

リリナ「(よろ)しいのですか?」

 

リリナの問いに二人はただ手を振って答えた。

今この(なご)やかな気持ちに言葉など要らない。その後ろ姿は何処か(たくま)しく見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

KIA SIDE

 

風の温度が清涼になった深夜。俺とリムルはスナック樹羅に(おもむ)いていた。

トレイニーさんが差し出したのは、ワイングラスに乗っている寒色系のジュース。中央にはリムルの様なゼリーが置かれ、添えにはミントが乗っている。

 

トレイニー「はい、『テンペストブルー』」

リムル「おお〜!涼しげ!」

トレイニー「うふふ。どうぞ、冷たい内に」

 

俺とリムルが木のストローでテンペストブルーを飲むと、口部から(さわ)やかな味が澄み渡る。

 

キーア「...これ、目草みたいだな」

トレイニー「アルコールの代わりに、涼しげなハーブを入れてみました」

 

トレイニーさんが材料らしきハーブを俺達に見せる。

この猛暑には持って来いしれないな。

 

リムル「俺は子供じゃないって〜」

キーア「涼しげで、猛暑の今年には相応しいのかもな」

シズ「確かに、今年の夏は結構暑いよね」

トレイニー「ですが、長い目で見れば、揺らぎのような物です。振り始めか、振り戻しか...」

 

まぁ、年によっては暑さが違うからな。

リムルは自らを自虐しつつ弱音を(こぼ)す。

 

リムル「生憎、俺はそんな長い目は持ってないんだ」

トレイニー「ウッフフフフ...リムル様とキーア様の力添えで、この森は大きく変わって来ています。そして、この街の皆さんは、その予期せぬ変化にもしっかり対応してます」

シズ「大丈夫だよ。きっと上手くいくよ」

キーア「お気遣い有難う。二人共」

トレイニー「お客様の心を(ほぐ)すのも、スナック樹羅の役割ですから」

 

色々と注目されてはいるが、これから精々頑張ってやるさ。

 

ハルナ、彩月「「いらっしゃいませ!」」

カイジン「おっ!今日はママさんがいるぞい」

トレイニー「あら、カイジンさん。お帰りなさい」

 

ドアが開くと同時にドアベルが鳴り、来客したカイジンさんとミルドさんをトレイニーさんが崩さぬ笑顔で接客する。

 

トレイニー「あらあら。ウフフ...」

リムル「店名も本来なら”ゴブリナ”の予定だった筈ですけど?」

トレイニー「うふふふ。皆さん、対応してますよ?」

 

店を獲得しているとはいえ、森の管理はしなくて大丈夫なのかな?

そんな事を心配に思っていると、ゴブタと武命が入ってくる。

 

ゴブタ「あっ、リムルさん、咲夜さん。こんな所に居たんスか?」

武命「(ほたる)の群れが出てますよ!見に行きましょうよ!」

リムル「こらこら。ゴブタ君、武命君。お静かに...あ、おい!?ちょっと...!」

ゴブタ「早く早く!こんな群れ、もう見れないかもしれないっス!」

トレイニー「リムル様、行ってらっしゃ〜い」

 

トレイニーさんが優しく手を振って見送った。

ゴブタがリムルの腕を引っ張る背中を見つつも、シズさんに横目で話し掛ける。

 

キーア「やれやれ、だな。シズさんも行ってみる?」

シズ「ええ」

 

俺、リムル、シズさんの三人は、ゴブタや武命達と共に蛍の群れを見に行く事にした。

紫苑、黄爛、橙矢達と合流し、提灯の明かりを消すと蛍の群れが無数の(あわ)い光となって夜を小さく照らす。

 

武命「こういう奇麗(きれい)な景色、今までの人生で見た事がなかったな...」

キーア「武命?」

武命「紀恵子さんの娘さんが死んでなかったら、俺はああいう風に見れてたんだろうか...いや、仮に生きてたとしても、(いず)れは同じ道を辿ってたと思う」

キーア「...」

 

俺は蛍を見るのは幼稚園以来だ。記憶は朧げだが、脳裏にしっかりと焼き付いていた。

 

武命「でも、これもリムルさんと咲夜さんのお陰ですよ。俺が元の世界で過ごしてきた地獄の日々よりも、毎日が凄く楽しい。きっと道を踏み違えようとしていた俺に言っても、信じられなかっただろうし...」

キーア「そうか。そう言ってくれて嬉しいぜ」

 

こうして、夏の一日が終わりを告げた。

翌日の早朝、ジュラの森の夏の恒例の出来事が起こった。野良スライムの大量発生だ。

その野良スライムの一団がテンペストの近くに来ていた。

俺が家の方で眺めていると、リムルは野良スライムと一緒に遊んでいた。

リムルが形成する形を野良スライムが真似る。Aの形と手の形はギリで真似れたが、考える人の形には真似れなかった。

野良スライムは同胞であるリムルに会えた事に満足したのか、仲間達の方へと去って行き、リムルが寂しげな雰囲気で見送る。(また)、何処かで会えるといいな。

 

紫苑「リムル様〜!」

リムル「ああ?」

リグルド達『リムル様〜!!』

紫苑、朱菜「「群れに帰っちゃやだ〜!!」」

 

いつの間にか苦労人キャラに染まり切っていた橙矢が愚痴を溢した。

 

橙矢「皆、大袈裟(おおげさ)過ぎんだよ。リムル様が群れに帰る訳ねぇだろ?」

緑羽「賑やかだねぇ」

黄爛「そうだね」

 

俺の配下である鬼人トリオはその光景をそれぞれの口振りをしていた。

これもまた、夏の出来事。

 

 

今後の展開で変身しそうな人物は...?

  • 彩月×斬月
  • 頂槍×バロン
  • 紫盾×龍玄
  • 紅華×天鬼
  • ヴァラハ×ブラーボ
  • カプア×スカル(T2・帽子なし)
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