シキ本人でさえ知らない秘密が語られます!説明回だから、話が長いです...。許して!
なお、勘の良い読者様には多分バレてる。
「...取引?あのさぁ...。貴方みたいな怪しいヤツと取引すると思う?」
「クック...。これは手厳しい...。ですが、貴女はここに来た。ならば、少しは希望があると思いませんか?」
「...私、今日初めて貴方に会ったけど...貴方のこと、嫌いだな」
「おや、貴女のような神秘的な女性に嫌われるとは...。非常に残念です」
「じゃあ、交渉は決裂ってことで。さようなら」
「...小鳥遊ホシノ、そしてシャーレの先生...朝宮コウさんでしたか?ホシノさんには以前から接触していましたが、先生...彼も私にとってとても興味を引かれる存在です。貴女に振られてしまったので、今度はそちらにアプローチをかけてみますか」
「...ッ!お前...ッ!!」
目の前の異形...「黒服」から今朝、突然メールを受信した。
何気なく受信したそのメールを開き、私は固まった。
ーーー『貴女の身に起きていることについて、興味はありませんか?』
私がキヴォトスに来てから身体能力の向上や、神秘の出力が出来るようになった事を詳しく知るのは、一緒にキヴォトスへ来たコウだけだ。
厳密に言えば、ある程度私たちの事を話しているワカモや神秘を使えるという事だけでいうなら、シャーレ繋がりで交流のある生徒全般だ。しかし、それ以外で私の事を知っている者がいる?
そう思いやって来た場所で待ち受けていたのは、黒づくめの異形。少し会話をしてみれば、胡散臭い雰囲気を隠そうともせずに取引を持ちかけてきた。何とも言えない不快感から提案を断り、踵を返すと私にとって無視できないことを口にした。
私は勢いよく振り返り、黒服の胸ぐらを掴むと神秘を全開で放出し、威嚇する。
「二人に手を出してみろッ!!お前という存在を、この世から完全に消し去ってやるッ!!」
「...落ち着いてください。私はただ、貴女と話がしたいだけです。同じ大人として...」
「何が「同じ大人」だッ!!お前と一緒にするなッ!!」
そう叫び、乱暴に掴んでいた手を離して少し距離を取る。
「...ふむ。やはり貴女のその力の一端は、『感情』の昂りにあるようですね。ああ、先程は失礼しました。簡単には応じてもらえないと思いまして、少しばかり気に障る言葉をかけてしまいました...。お許しください」
「許さない。...けど、二人の名前を出されたら無視も出来ないからね。一応、話だけは聞くだけ聞いてやるから早く話しなよ?」
「クックック...!ええ、今はお話しが出来るだけで十分です。では改めて、そちらにお掛け下さい」
「はあ...。今日は厄日ね...」
話を聞くと言えば妙に喜ばれ、ソファへ座るように促される。私は、厄介なヤツに目をつけられたことに辟易しながら腰かける。
「では早速、取引...というよりもお願いですかね。その内容をお伝えします。...須賀原シキさん。貴女の身体を調べさせていただきたい」
「...は?え、普通に、気持ち悪いんですけど......」
私は黒服の提案に心底から寒気が走り、自分の腕で身体を抱く。私の冷めた視線に気づいた黒服は、飄々とした口調で続ける。
「ああ、言い方が悪かったですね。身体を調べるといっても何も私が、貴女の身体を好き勝手に弄るという意味ではありません」
「アンタの性別がどっちか知らないけど、どのみち気持ち悪いよ...」
「まあ話は最後まで聞いてください。...私は貴女の能力に興味があるのです。先生と同じ、外から来た存在だというのに貴女はなぜ、神秘を操れるのですか?最初は武器を生成する事しか出来なかったのに、今ではそれ以外の物を自在に生成できている...!更にいうなら、貴女のその身体能力です...!キヴォトスの人間でもなく、ヘイローも無い...。なのにそのスペックは、キヴォトス人の平均値を大きく上回る...!キヴォトス最高の神秘である、暁のホルスよりも遥かにっ!しかも、今もその力は成長し続けているっ!!研究者としてこれ程、探究心をくすぐられるものはありませんっ!!」
(確かに私の状態については私自身、知りたいことが沢山ある...。目の前のコイツは自分を「研究者」と言った。なら、コイツに協力すれば私の事がなにか分かるかもしれない。だけど...)
「...失礼、少々取り乱しました。それでどうでしょう?勿論、調べて解明できたことの全てを貴女自身に開示することは約束しますし、契約書を書いて正式に私と貴女との『契約』を結んでも構いません。...そうですね、貴女に見合うメリットとして現在直面しているアビドスの借金。その半分を私の方で返済しましょう。悪くない条件では?」
「...確かに、貴方の提案を受ければ私自身の疑問も晴れて、不安から解放されるかもしれない。それにアビドスの借金だって、あの子たちの負担を大きく減らせると思う...」
「では...」
「でもっ!...私には、こんな不安定な私でも必要としてくれている人たちがいる。それにアビドスの問題にしてもそう。私が貴方と契約し借金を減らしたとしても、それはあの子たちの今までの頑張りを否定するようなものだと私は思う。だから、悪いけど貴方の提案には乗れません」
...正直、不安はある。でも、
みんなの笑顔がその不安を吹き飛ばす。だから私は揺るがぬ決意を込め、目の前の黒服に否と伝える。
「...そうですか。正直、私には理解できません。自分でいうのも何ですが、神秘に関する事象には私の右に出るものはいないと自負しています。アビドスに関してもそうです。借金に苦しむ生徒を助けたいのでしょう?ならば、どのような手段でもそれを成す術があるのならそれを選ぶべきでは?」
「貴方の言うことはある意味で正しいし、見方を変えれば私の選択は愚かなものなのかもしれない...。それでも私は私を信じてくれている人たちのために、貴方の手は取れない」
「...その選択のせいで、貴女の言う大切な人たちに不幸が訪れても?」
「そうなればその時は、私たちみんなで抗って見せるよ」
「残念です、貴女とは良き関係を築けそうだと思ったのですが...。須賀原シキさん、本日はお忙しいなかお時間を割いて頂き、ありがとうございました。貴女方の健闘を、お祈りしていますよ」
「私はもう会わないことを祈ってるよ」
そう言ったのを最後に、私はその場を後にした。
「ふう...。今回の交渉は失敗ですか...。そうなれば、別のアプローチを考えなければ......」
『その必要はないぞ?』
「っ!?...須賀原シキさん?出ていかれたのでは......」
シキが去り、違う形での接触を考えていると今しがた去ったはずのシキが背後に立ち、黒服の呟きに答える。
『ん?...あぁ、私はシキでありシキではないからな』
「それはどういう...?」
『貴様ならこう言えば理解が早いか?厳密には多少異なるが
「!!まさか、貴女は...!...貴女のことはなんとお呼びすれば?」
『ワシか?ワシの名は「スカサハ」という』
「スカサハさんですね、私は...」
『よい。シキとの会話は聞いていたのでな。貴様の名前は知っている。それに貴様が何を望んでいるのかもな?』
(この方は一体どこまで、何を知っているのでしょうか...?)
『ワシはワシの知ることしか知らぬよ』
「貴女は...何者なのです?」
自らの研究欲を刺激され、黒服は先程まで高揚感を覚えていた。しかし、声に出していない思考に答えられたことにより、その頭は冷水を浴びせられたかのように冷えていく。
『何者か、か。ふむ、いいだろう。もともと貴様には私と「契約」してもらうために来たのでな。話してやろう』
「契約ですか...?」
『ああ。何、貴様がシキに話した内容と大差はない、案ずるな。...まあ、貴様に拒否権は無いということだけは違うがな?』
「...」
『くくっ!そう怯えるな。貴様が断らなければいいだけの話しだ。では改めて、シキすらも知らぬ話しをしようか......』
「スカサハ」と名乗る人物は黒服の反応に愉快そうにそう言うと、シキの秘密について語り始める。
『ワシはシキがこの世に生を受けた瞬間から、シキの内に存在していた。なぜワシが生まれたかは秘密だがな?なんにしても、ワシはシキが生まれた瞬間から意識があった。そこでシキが幼い時から、何かと干渉していてな?その最たるものが身体能力の高さよな』
そう言いながらスカサハは、ゆったりとした歩調でソファの前まで歩き、腰かける。
『まあ、その様に干渉していればシキの精神面にも多少の影響は出てしまったようでな?感情が昂ると、ワシの口調に似た話し方になってしまうようになった!』
あっはっはっ!と愉快そうに笑うスカサハに、流石の黒服も少しだけ引いた。
『とまあ、そんな風に幼い時から鍛えさせ、技を研かせ、どの様な事があろうと対処できるようにしてきた。...その分、幼いシキには辛い思いもさせたがな』
...思い出すのは、よく分からない使命感に突き動かされ、鍛練を重ねていた幼いシキ。
強くなればなる程、同学年の子らや大人はシキを怪物を見るような目で見た。...あの時までは。
(父上と母上はもちろんだが、特殊性癖持ちの小娘と、朝宮コウ...。あ奴らがシキの理解者になってくれねば、シキは本物の”怪物”になっておったかもしれん。無論、その様な事にはワシが絶対にさせなかったがな!)
怪物になるリスクを背負わせた張本人は心の中で、そう
『そして貴様が一番気になっているであろう、神秘についてだが...これもワシが関係しておる。ワシがシキの内に存在することにより、シキの身体には神秘の核の様なものが出来ておる。そしてそれはワシの想像を超え、キヴォトスに来てからは爆発的に成長している...』
そして神秘が成長し続け、その力に呑まれる未来があるとするなら、その先でシキは......。
『んんっ!...でだ、貴様との契約内容はここからだ』
「伺いましょう」
『先ず貴様の持ちかけてきた、シキの身体を調べる云々の話だが、それは先ほどの話で説明した通りワシの存在が大きいのでな。これはワシと貴様との間に、パスを作る事で計測してもらう』
「パスですか?しかし、どのように...?」
『そこは、ほれ。こんな話を持ち掛けてきたのだ、何かしら計測するための機材があるのだろう?』
「ええ、こちらです」
場所を移し、黒服の研究室へ到着するなりスカサハは早速、物色を始める。
『ほう、ほうほう。ふむ...。なるほどのぉ...大体分かった』
「あの、何をなさっているので...?」
『む?まあ、見ておれ』
スカサハはそう言うと、部屋全体に対して腕を振るう。すると一瞬、部屋全体を光が照らしたかと思ったら直ぐに収まる。
「今のは一体...?」
『今のは「ルーン」という。神秘を用いた魔術だな。この部屋の機材と、私との間にパスを繋げた。これで貴様の好きに観測が出来るぞ?』
「魔術...!実に興味深い!他にはどの様なことが出来るので!?」
『そう興奮するな、気持ちの悪い...。他にはそうさな...ほれ』
興奮気味に詰め寄る黒服に、先程と同じようにルーンを発動させる。
「今度は何をされたので?」
『貴様がワシと交わす契約を破った際に、貴様を殺すルーンを刻んだ』
「なっ!?」
『「契約」とは絶対だ。それを故意に破るのなら、それなりの罰は負ってもらわねばな?』
「貴女は恐ろしい女性ですね...。まるで、おとぎ話に出てくる魔女のようだ...」
『はっはっは!魔女か!シキは悪魔と呼ばれ、ワシは魔女!うむ!では今後、ワシのことは「魔女」と呼べ!親しい者以外に名を、軽々しく呼ばれたくないのでな!』
「はあ...。正しく私は、悪魔と契約してしまったのですね...。それで?貴女の求めるものは何なのです?」
黒服は正直に言えば、契約の穴をつき出し抜くつもりでいた。だが、目の前で行われる理解の及ばぬ行為に対抗する手段など無い。
であれば、大人しく相手に従う他無いだろう。契約を破らなければ、こちらにとってはデメリットは無いのだから。
『うむ、先ずはアビドスの借金に関してだな。貴様の言っていた借金の半分を肩代わりしろ』
「おや、貴女はシキさんの様に否定しないのですね?」
『シキはまだ若い。その分、割り切れない部分の方が多いからな。そういった部分は、別側面のワシが引き受けるのさ』
「そうですか。では、他の内容をお願いします」
『二つ目は、ワシ以外の者に手を出すな。...もちろん、貴様と縁があるらしい機械人形共にもこれ以上手を貸すなよ?どの様な形であれ、アビドスへの干渉はこれ以上許さん』
「...本当に、貴女はどこまで知っているのですか?」
『さてな?...さて、最後だ。これを...』
「これは?」
『シキの神秘を反転させ、暴走させるルーンを刻んだ宝珠だ。つまり、ワシが表に出てこの身体を乗っ取るための物だな』
「そ、れは...!」
『貴様にとっても喜ばしいものだろう?何せ、似たような手段でホシノだったか?あれを使って、外道な実験を行おうとしていただろう?その結果を観測することが出来るのだ。良い話だろう?』
「...そのことをどこで知ったのかなど、もう聞きませんが、本当に恐ろしい方だ」
『褒め言葉として受け取ろう』
「魔女」より渡された宝珠を見つめながら、黒服はそうこぼす。
「それで私は、これをどうすれば?」
『貴様に刻んだルーンは、ワシからの一方通行ではあるが、連絡を取れるものでもある。ワシが合図を出したタイミングで、それを割れ』
「わかりました。内容は以上でよろしいのですね?」
『ああ、構わん。これでワシは失礼するが...契約の内容を、ゆめゆめ忘れるなよ?』
「魔女」はそう言うと返事をする間もなく、その姿は掻き消えていた...。
黒服は手元に視線を落とすと、疲れたようにぼやく。
「悪魔に魔女ですか...。私は覗いてはいけないナニカを、覗いてしまったのかもしれませんね......」
~黒服のビル 入り口前~
「...あれ?私、いつの間にビルの外に出てたんだろう...?」
まるで夢を見ていたような、ふわふわとした感覚に包まれながら頭を振る。
「まあ頭にきてたし、気づかない内にここまで来てたんだね!時間も結構経っちゃってるし、早く戻ろっと!」
シキは走る。自分を待つ者達の元へ。その先に待つ未来を知らぬままに...。
”ワシのことは後で、いくら恨んでくれてもいい。それでもこれは必要な事なのだ...。すまぬ、
あらゆる思惑の絡むなか、アビドスの空は青く輝いていた。
今回、めっちゃ書いては消してを繰り返してたので、意図したことが伝わっているか不安がスゴくスゴい作者です...。
分かりにくかったら、すみません!