ーーーアビドス砂漠。
この広大な砂の海で今、激しい銃撃戦の音と怒声が響き渡っている。
「ああーっ、もうっ!!一体何なのよ!?次から次に、キリがないわね!?って、危なっ!?」
「セリカ、頭下げて!!......文句を言いたい気持ちは同じだけど、今は戦闘中。ちゃんと回りを見て!!」
「うっ......。すみません、シロコ先輩......」
「セリカちゃん、反省は後っ!新手が来たよ!......ノノミちゃん!弾幕、まだ張れる!?」
「残弾が心許ないですが......イケますっ!!」
『ノノミ先輩!補給用の弾薬、現在ドローンにて輸送中です!到着まであと......3分!!』
「了解ですっ!!......いきますよぉーーーっ!!」
激しい銃撃戦の中心には、アビドスの対策委員会の面々と「カイザー」の部隊がいた。
次から次へと投入され続ける「カイザー」の部隊に、アビドスは押されていた。
この状況に陥ったのは、今から数十分前に遡るーーー。
**********************
『皆さん、間も無く目標地点の付近へ到着します。そこから目標地点までは徒歩になりますので、準備をお願いします』
「あれ?アヤネちゃん。直接、車で目的地までは行かないの?」
「今回の目的は偵察のようなものですし、下手に相手を刺激できませんからね~☆」
「うへ、そういうことー。まあ一応、それなりに準備はしてきたけどさー?カイザー相手にドンパチやるのは得策じゃないしねー」
「えー?バレたらバレたで、いっそのことぶっ潰せばよくない?」
「ん!カイザーを襲う!」
『すぐにそうやって、短絡的に考えるのはお二人の悪いところですよ......?』
「アヤネ、それは心外。私は熟考した上で発言している。セリカと一緒にしないで」
『熟考してる分セリカちゃんより、なお質が悪いですよ!?』
「......あれ?今ナチュラルに、アヤネちゃんにも馬鹿にされた......?」
軽い遠足気分で進む彼女達は降車後、目的地へ向けて歩きだす。そして彼女達が見たものはーーー。
「え、何これ?」
「砂漠の真ん中に、大規模な基地......?」
「これは......」
途中、何度か故障したり暴走したりしたオートマタとの戦闘を挟み、それらを軽く退けながらやってきた場所。
そこには大規模の、正に”基地”と呼ぶに足る建造物が異様な雰囲気を纏い、佇んでいた。よく見ると、その周辺にはカイザーのロゴを付けたオートマタや傭兵らしき者らが徘徊している。
「先生......どうやら、一筋縄ではいかない案件になってきたかもよ......?」
「そうだね......。シキさん、ここは一度皆を連れて学校へーーー」
「皆、来るぞッ!!伏せろッ!!」
ーーー轟音。
コウがシキへ一時撤退を提案しようと声を上げた途端、シキが声を張り上げてその場の全員へ伏せるように叫ぶ。
全員が戸惑いつつも、その叫びに呼応して伏せた瞬間に辺りを轟音が包み込んだ。
「ケホッ、コホッ!......い、一体、何が?皆っ!無事かいっ!?」
「うえぇ......。耳がキーンってするぅ......。何なのよぉ......」
「ごほっ......うへ、私は無事だよ先生。ついでにセリカちゃんも。先生こそ大丈夫?」
「ぺっ!ぺっ!......口に砂が入って気持ち悪いけど、私も無事」
「私も問題ないですよー!」
「良かった......。私も、シキさんが守ってくれたんで無事だよ!」
「......全員の無事が確認できたところで早速だが、皆構えろ。どうやら、ワシらは罠にかかったらしい」
『罠に?それってどういう......?』
『さて、どういう事だろうな?』
「っ!?......貴方は誰かな?」
全員の無事を確認し一安心したのも束の間、通信が入る。相手に誰かと先生が問えば、すぐに返答がある。
『おや、これはこれはシャーレの先生。お初にお目にかかる。......私はカイザーPMCの理事を務めているものだ』
「カイザーPMC......?では、ここは......」
『そう、我々カイザーPMCの本拠地だよ。先生?』
「その理事とやらが態々、ワシらの前に顔を見せたということは......。こちらの動きは、筒抜けだったということか?」
『ふむ、君は噂に聞く「深紅の悪魔」か。君の問いには「イエス」と答えよう。そもそもの話だがね?ここら一帯は我々の私有地だ。監視の目くらい、張り巡らせているに決まっているだろう?』
「そうか。......それで?貴様は先に手を出してきたわけだが、そろそろ反撃に出てもよいか?」
『クハハハハッ!!反撃?出来るものなら、やってみたまえ!そこのガキ共に興味はないが、噂の「シャーレ」に「悪魔」には興味がある。威勢がいいのは口だけではないと、私に見せてくれたまへ!!』
カイザー理事はそう言うと、通信を切った。それを合図にカイザーPMCの部隊が大挙して、押し寄せてくる。
「うへ~、歩兵だけじゃなくて戦車に軍用ヘリ......わおっ!カイザー製のパワードスーツまで着た傭兵までいるじゃーん!」
「ん、大盤振る舞い。大歓迎だね」
「では、こちらも相応のお相手をしなければいけませんねー☆」
「え?先輩達、何でそんなに冷静なわけ!?」
『そうですよっ!こちらに対して、明らかに過剰な戦力を投入されています!これでは......!!』
「セリカ、アヤネ?こんな言葉を知っているかな」
『「先生?」』
「ピンチはチャンスってね!」
『「結局、ピンチなんじゃない!?/ないですかー!?」』
「皆、気を引き締めろ!往くぞ......!!」
迫り来る軍団を前に、良い感じに緊張もほぐれたところで迎え撃つ一同。
戦いの火蓋が切って落とされた瞬間である。
**********************
「てな感じで迎え撃って、早数十分......!先生、流石に消耗が激しいよ!なんか良いアイディアとかないっ!?」
「ごめんねホシノっ!状況は依然としてピンチのままみたいだっ!」
「......では、ワシがチャンスを作ろう」
「へ?お母さん?」
「シキさん?何を......」
「ワシが奴らの中心に攻め込み、退路を開く。皆はその内に離脱しろ」
「......シキ、死ぬ気?」
「その気はないよ、シロコ。なぁに、ワシの強さは皆がよく知っておるだろう?適当に暴れて、すぐに追い付くさ」
「やだ......。駄目、駄目だよっ!?お母さんっ!お願い!無茶しようとしないでっ!また、大切な人を失ったら......私っ!!」
「......ホシノちゃん、心配してくれてありがとう」
「あ......。お母さん......?」
シキの無謀とも取れる提案に、アビドス砂漠という場所も相まって取り乱すホシノ。
そんなホシノをシキは力強く抱き締め、落ち着かせる。落ち着きを取り戻したホシノは、弱々しくシキを抱き締め返して呟く。
「お母さん、ちゃんと帰ってきてくれる......?」
「もちろん!可愛い娘を残して、何処かに行くもんですかっ!」
「シキさん、僕とも約束してくれ。必ず......必ずだ。絶対に、戻ってきてくれ......!」
「コウ......。うん、約束」
強く握りすぎて血の滲むコウの手を見て、力強く約束を交わすシキ。
シキはホシノとの抱擁を解き立ち上がると、敵を見据えて神秘により創り出したメイスを肩に担ぎ、背を向けたまま顔だけ振り返り笑顔で告げる。
「......じゃあ、行ってきます!!」
ーーー結果だけを述べれば、そう言って飛び出していったシキの活躍により、シキ以外のメンバーは無事に学校へ帰還することが出来た。
ーーーしかしその日、どれだけ待ち続けてもシキは戻っては来なかった。
**********************
「はぁ......!はぁ......!ぐっ......!」
『おやおや「悪魔」殿、息が上がっているようだが大丈夫かね?』
「はっ!舐めてもらっては困るな。......それより良かったのか?随分とあっさり、あの子達を逃がしたようだが?」
『それこそ、こちらを舐めてもらっては困る。奴らを見逃したのは、後で幾らでもこちらの都合の良いように処理出来るからだ』
「......その様な言葉を聞かされては、貴様をそのままには出来んな」
『ほう、ではどうするね?私の首でも取ってみるか?』
「お望みであればな......!!」
理事との会話の間にも、次から次に攻めてくる兵隊達。それをボロボロになったメイスで、薙ぎ払う。
しかし強がってはいても、シキの身体に限界が近いのは誰の目にも明らかだった。
『しかしよく粘る......。ふむ。余裕があるとはいえ、こちらにもそれなりの損害は出ている。で、あればーーー』
「......?なんだ、この地響きは?」
『ーーー私が直々にお相手しようではないか』
地響きと共に、地中からせり上がってきた巨大な鋼鉄の箱。それが軽い炸裂音を響かせ、四方に展開される。
その中からは5mは越えているであろう、鋼鉄の巨人が納められていた。
「......なんだ、さっきまでの通信で見せていた姿とは随分と違うじゃないか?そちらの方が見映えが良いぞ?」
『ほう。この姿を見てもなお、減らず口を叩けるか。それでこそ、この「対デカグラマトン用決戦兵装」を持ち出した甲斐があるというものだ!』
「しかしデカいな......。お前さん、元の身体はどうしたんだ?」
『身体は機械なのでね。お陰さまで、身体の乗り換えは容易なのだよ』
「便利なことだな......。で?そんなデカ物で、ワシをどうこうできると?」
『言ったろう?これは「決戦兵装」だとな......!』
「なっ!?速いっ!?ぐうッ......!?」
『そら、どうした!動きが鈍いぞ!「深紅の悪魔」ァッ!?』
見た目に似つかわしくない高起動で、両腕に装備された大剣を振るいシキを攻める理事。砂地を考慮し、ホバークラフトと各所に設けられたスラスターで軽快な動きをみせる。
一方シキは、溜まりに溜まった疲労と砂に足を取られ防御に徹するのがやっとだ。手に持つメイスも、次第に削られていく。
『フハハハハッ!!そら、これで最後だ「悪魔」ァッ!!』
「(っ!!??マズいっ!?何とかメイスで防御をーーー)チィッ......!!」
”......すまない、シキ。許せ......”
「え......。誰ーーー」
ーーーズブリッ!!
「......は?......うっ、ごぽっ!?がふっ!?がっ!?ぁ............」
『......存外、呆気なかったな。「悪魔」よ?』
ーーーシキの腹部を深々と貫く、大剣。その大剣を、真っ赤な液体が流れ伝っていく。
(なん、で?急に......メイスの、神秘が......薄れ、て......)
薄れゆく意識の中で、シキは混乱していた。確かに防御するために、メイスへ神秘を集中的に纏わせていた筈なのだ。それなのに、何故......?
(ああ......。ホシノちゃんやコウ達との約束、破っちゃったなぁ......。みんな......ごめ、ん............)
ーーーシキの意識は暗闇へと堕ちていった......。
『ふ、ふふふ......!フハハハハッ!!見よッ!!このカイザーPMC理事である私がッ!!「深紅の悪魔」を討ち取ったぞォッ!!!!』
シキを貫いたままの大剣を天高く掲げ、理事は己の偉業を部下達に知らしめるのであった。
その場には割れんばかりの喝采と、砂漠を染める深紅の雫が流れ続けていたーーー。
理事の使った機体は明言はしませんが、見た目は鉄血のレギンレイズ・ジュリアっぽいものを想像してください。