灰の神は、演じきった   作:ククルス

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終わる終わる詐欺して、本当に申し訳ない。


嗚呼、愛され過ぎて

 

──八代透、死す(比喩)──

 

場内の灯りが戻ったのは、エンドロールが流れ切った直後だった。

 

スクリーンに最後に映し出されたのは、「祈りの残響」と題された白い文字。

その下に、細く、確かに刻まれていた──

 

『主演:影橋 鈴 助演:八代 透』

 

沈黙。ほんの一瞬の。

それを破ったのは、まず一人の拍手。

それに続くように、まるで波のように、拍手が広がっていった。

 

やがて場内のすべてが、祝福と喝采の音で満ちていた。

スタンディングオベーション。

 

縦三列構成の中央列に並んだキャスト陣が、一斉に立ち上がる。

右列には制作委員会や配給会社の幹部、左列には地元自治体とスポンサー企業。

異なる立場の者たちが、今この瞬間だけは同じ熱を胸にしていた。

 

そして、その中心にいたのが──八代 透と影橋 鈴だった。

 

──二人は、ただ黙って、頭を下げた。

 

関係者向けの初号試写のあとの予定は、軽い懇談会だった。

少しの休憩時間のあと行われると言われシネマコンプレックス内にある簡便な控えスペースに案内される。

廊下に沿って続くガラス張りの壁は、外から丸見えだったがなんだかお洒落だ。動物園の動物のような気分とでも言えばいいのか?

──予定についてはそう聞いてはいたが、実のところ、俺はまだその意味がよく分かっていなかった。

 

その後、演者関係者に与えられた控え室にて問題は発生した。

 

「……すごかった……」と最初に呟いたのは、七瀬だった。

 

それは、まぁ本音だと思う。七瀬なりの純粋な、本当に純粋な感想ってやつだな。

長身を縮こませるようにしながら、ポニーテールを揺らし、もじもじと袖を握っている。

ただ彼女の視線は、俺と──その隣にいる鈴に、交互に突き刺さっていた。

 

「と、とにかく、その……すごかったよ、透くん……!」

「おう、ありがとな、七瀬」

「うぅ……」

 

七瀬は顔を真っ赤にしながら、隣のサーダの背後に回って消えた。

もちろん隠れ切れてなんてないが、きっと憧れの推しモデルであると言っていた鈴が居るからだろう。

そんな様子に鈴は黙って、小首をかしげている。

 

「って、なんで七瀬が照れてんだよー」

 

ショートカットのサーダが、控え室にあったお茶請けを断りなくつまみながら口を開く。

 

「演技良かったじゃん。泣きそうになった。つーか鈴さんマジ美人。あれズルい」

「ありがとう?」

「……まあな、美人っていうのは認める」

「いや照れるなー!透ってば鈴さんと仲良くなって調子乗ってるなー、このこのっ」

「ははっ、そんな腰の入ってないパンチは効かないなぁ」

「ちょ、ちょっと……サーちゃんだめだよ。鈴さんもいるんだから!」

 

俺の腹部を軽くぽすぽすと拳が飛んできた。

仲良くなれているのだろうか? 共演している時は、仕事だし作品は一人じゃ完成しないし。

互いに理解しようと思う土台があった、だから互いに名前で呼び合えている。

これが俺の一方的なイタイ勘違いではないことを祈りながらサーダの拳をいなす。

そこに今度はナミが駆け寄ってくる。

 

「ヤバいヤバい、透、マジで全国デビューじゃん!

 映画二つも出てどっちも名前ありかぁ……アタシもう事務所の後輩に自慢できちゃう」

「ナミ、まだ感想言ってないだろ」

「え? ああ、感想? ……うーん、そうだなぁ……マジでヤバかった!」

 

グループのリーダーで、女優に憧れているにしてはとても語彙力が死んでいる。

 

そんな喧噪の中、ピリカ先輩は少し離れたソファに座っていた。

あの綺麗な金の髪を指先で弄りながら、ただジトーっとこちらを見ている。

睨んでると言っても良い。そういう眼光だった、具合が悪いのか?

いやあれは多分きっと、話しかけるタイミングを見失っているのだろうと思い声を掛ける。

 

「ピリカ先輩? どうかしましたか」

「……透さん、つ、次に私と共演するときは、ちゃんと私の目を見てくださいね!」

「えっ、俺って先輩のことはちゃんと見てますよ?」

「そういうことではなくて、ですね!」

 

怖い。今日のピリカ先輩はご機嫌が麗しくない様子。

 

「……八代さん、こっちに来てくださいますか?」

 

対応に困っていたら明石マネージャーが、いつもの手帳を片手に、控え室にしれっと現れた。

 

「明日からのスケジュールを再調整しますので。

 ……あとパーティ後に囲み取材があります。覚悟しておいて下さい」

「はい……」

 

必要な要件は伝えたとばかりに、明石さんが部屋を退室したから

後ろを振り返ると、鈴はピリカ先輩や七瀬になにやら話しかけられており楽しそうにしている。

女性同士の会話に男の俺が挟まるのも野暮だよな……と思い控え室をそっと出た。

廊下に出て、近くの自販機で何か飲もう。

そう思いながら部屋を出た瞬間、誰かが缶コーヒーこちらに向けて差し出す。

 

「最近は調子が、良さそうですね」

「ありがとうございます。そうですか? そう見えるなら、良いんですけど」

「ええ。ここの所、型稽古も少し気が散っているようでしたから。

 ──それにしても弟弟子、女性の視線ばかり集め過ぎるのにも困ったものですが」

 

師姐が軽く微笑んでいた。どこかおかしそうに。

缶コーヒーを受取りながら正直に本音を漏らす。

惚れられているという意味ではなくて、師姐なりの忠告だろう。

彼女たちには彼女たちなりの芸能界での人生があり、

そこに俺みたいな芸能会社の孫なんて男が映り込んだ日には

俺はともかく、七瀬もサーダやナミ。鈴だって困るだろう。

 

先輩は年齢が年齢だから、衆目から誤解されることはないだろうが……。

 

「……困ってます、正直」

「そうでしょうね、顔に出ていますよ」

「顔ですか? あまり、実感はないですけど」

「それが弟弟子の魅力でしょうね。

 貴方なら、芸能界を去っても武の道でも十分に生きていけますから気負う必要はありません」

 

とそこまで言うと、俺の後ろに視線を向けて、軽く目線で会釈をする。

首だけ向けるとその先で、鈴が控えめに待っていた。

 

「──透」

「ん、どうした?」

「……さっきから、色んな人が透を見てるから。ちょっとだけ……肩、貸して?」

 

何のことかと最初は思ったが、鈴はそれ以上言葉を継がずに、そっと腕を組んできた。

 

その瞬間。

控え室のガラス越し、室内にいる全女性陣の視線が針のように刺さった。

殺意こそないが、女の敵というか「ついにやったか」とでもいうような、

まるで感情のスープで煮込まれたような熱量を肌で感じる。

 

「ああ、俺……また……なんかモテ期から遠のいた気がする」

「へえ。そうなんだ」

「えっ、あ、いや、そういう意味じゃ──」

 

鈴の肩が、ぴたりとくっついた。

そのくせ、彼女の表情はほんのり赤い。

 

「──うん、まあ。少しだけ、羨ましいとは思った」

 

誰に、とは言わなかった。

でも、透はちゃんと分かっていた。

 

その夜、SNSのトレンドには──「#祈りの残響」「#影橋鈴」「#八代透」が並び、

そして最下位に「#八代透死亡説(※恋愛的意味で)」が浮上していた。

 

──八代透、死す(比喩)──

 

でも、今だけは。少しだけ。

死んでもいい、と思った。

 

 

 

かくや色々、あって俺たちをパーティ会場の準備が終わりましたと女性スタッフ呼びに来た時には

俺はもう疲れ果てていた。誰が何かを言うでもない。何かされたわけでもないのだが。

心が、死んでいた。

空気が普通だったのは、師姐と鈴だけだった。

 

そして今──スタッフに誘導されるまま一行は隣接するロビーへと足を運んでいく。

 

小さなテーブルには控えめな軽食と飲み物、壁際にはポスターや台本、台本の余白に記された走り書き。

そして、その中央で交わされる──無数の笑顔と、名刺と、握手。

 

「懇談会」とは名ばかりの、いわば“作品を支えた者たち”の祝祭だった。

 

監督が、スポンサーが、俳優が、照明が、美術が。

すべての立場の者が、それぞれの視点から、今夜の一時間を語り合っている。

 

俺はその輪の端にいて、少し戸惑いながらその光景を見ていた。

 

自分がそこに並んでいていいのか。

一観客のように、拍手して終わりにしてしまってはいけないのか。

 

だが──誰もが、透に向かって微笑みかけてきた。

「おつかれさま」「よかったよ」「あのラスト、泣いた」と。

 

──ああ、これは本当に「映画」だったんだ。

たしかに“終わった”のだ。

けれど、これは同時に“始まり”でもあるのだ、と。

 

作品が生まれ、世に出て、誰かに見られる。

その瞬間、物語は「語られた物語」になる。

 

そしてその余韻の中で、誰かと杯を交わすこと──

それもまた、「物語の一部」なのだと、透はようやく理解した。

 

彼の胸に、ふと温かい何かが差し込んだ。

 

それは拍手の音でも、照明の光でもない。

彼の傍にいた、確かに存在していた少女の──声にならない“祈り”のような何かだった。

 

 

 

 

 

《劇場映画ニュース記事》

【話題沸騰】

“影橋鈴、ついに覚醒──『鈴が鳴るとき』が初登場1位スタート

2025年7月某日|文芸シネマ通信

 

第23回映文祭プレミア枠で上映された『鈴が鳴るとき』が、全国ミニシアターランキングで初登場1位を獲得。主演・影橋鈴と助演・八代透の演技が「まるで詩のようだった」とSNSを中心に大きな反響を呼んでいる。

 

“記憶と祈り”を題材にした本作は、静かな地方を舞台に、失われた存在と向き合う少女・白栞の成長を描く幻想譚。影橋鈴にとっては初の主演映画となるが、彼女の無垢さと狂気が同居した演技に「これが同一人物か」と驚きの声が続出。

 

演出を手掛けた三神浩史監督は「ここまで緻密で繊細な演技は、かつての舞台女優に近い感覚」と評価。助演の八代透も「声に出さない感情の化け物」と絶賛されており、SNSでは二人の共演を“現代の『ナウシカとアスベル』”と呼ぶファンも。

 

また、舞のラストで降る“初雪”の演出は、CGではなく偶然撮影時に舞い降りた本物の雪であったことが後に明かされ、「神が舞い降りた瞬間だった」と現地スタッフが語っている。

 

 

 

Tbitter(つぶやきサービス)

(ハッシュタグ: #鈴が鳴るとき #白栞 #八代透 #天才か #共鳴する演技)

 

@cinephile_Lotus

 鈴が鳴るとき、マジで舐めてた。モデル主演とか言うからアイドル映画かと思ったら、

 “舞”のシーンで息止まった。白栞って存在、消えたのに確かに残るんだよ……やばすぎる。

 #鈴が鳴るとき #あれは奇跡だった

 

@film_pilgrim

 八代 透ってあんなにナチュラルに芝居する子だった?

 あの少年が立っただけで、“死者に語りかけるような空気”が出るの、バケモノか?

 #八代透 #透くんに狂わされた女ここにもいます #鈴が鳴るとき

 

@idol_fanclub24

 ソードリリーの七瀬ちゃんが「白栞ちゃん役の鈴さん、ずっと見ていられる。ずるい……」ってコメしてたけど、

 わかる。あれ見て“ファン”から“ライバル心”芽生えるの、正しい成長。

 #七瀬推し #鈴が鳴るとき

 

@yamameme_326

 見終わったあと、電車乗れなくて駅のベンチで泣いた。

 “帰座の詞”の詩、スマホでずっと検索してた。

 ほんとにこんな言葉で、心が救われることあるんだ……

 #帰座の詞 #白栞ありがとう #鈴が鳴るとき

 

@sister_snowdrop

【悲報】妹が透くん沼に落ちた

「あんな声で“おはよう”言われたら私も舞台上がるわ」って草

 #鈴が鳴るとき #妹まで狂わされた #やっぱ透くんすげぇわ

 

@backstage_staffJ

 ※裏話※

 鈴さんの最後の“白栞の微笑み”、

 本当にNG出さず一発OKだった。

 見てたスタッフ全員、声出すの忘れてたの覚えてる。

 #現場から見ても震えた #八代透の受け芝居もヤバい #鈴が鳴るとき

 

@manabe_lenslife(関係者/眞鍋カメラマン)

 鈴が、映るようになった。

 あの子を何年も撮ってきたけど、

 映らなかったんだよ、ずっと。

 今回の舞台は、あの子自身が自分を“写し取った”瞬間だったと思う。

 #鈴が鳴るとき #影橋鈴 #カメラマンの告白

 

@ask_askka(飛鳥 明日香)

 ……見たよ。観た。

 『鈴が鳴るとき』。

 

 

 初号試写に声を掛けられた時、嬉しかった。

 でも正直、嫉妬で死ぬかと思った。悔しくて、羨ましくて、泣いて。

 だって、あの人……あの人って、鈴が、“映って”たんだ。

 

 モデルの時は、虚無のままで、それが良かったのに。

 何も抱えず、何も映さず、ただそこに“在る”だけで完璧だった。

 

 なのに……

 いまの鈴は、違う。

 感情があって、震えて、灯って、熱を持って……美しすぎて、壊れてた。

 

 それを隣で見つめてたのが、

 あの男だっていうのが──許せない。

 

 八代 透。

 お前、何した? 鈴を“持って行った”のか?

 わたしの、“憧れ”だったあの鈴を──

 

 ……いや。

 違う。

 あの人が、あそこまで“行った”のは、きっと、自分の足だ。

 でもそれでも、

 

 ……遠いよ。

 遠くに、行っちゃった。

 あの人は、もう、わたしの見てた鈴じゃない。

 

 アンタが成長して嬉しいのに、

 涙が止まらないの、ほんとにどうしてくれるの。

 わたし、アンタにどう接すればいいの。

 

 #鈴が鳴るとき

 #影橋鈴

 #八代透 許さない

 #でもあんたがいなかったらあの鈴はいなかったのかもと思うと

 #もうどうしたらいいかわかんない

 #鈴推し壊れる日記

 

  9,833件のいいね   6,271件のリポスト   12,198件の保存

  3,002件の返信:「気持ちわかりすぎて泣いた」「一番好きな感想かもしれない」「推しの変化が救いでもあり、地獄でもある」

 

 

 

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