キング・シーザーを当てるために…!(爆死した)
最近、インターノットではとあるホロウレイダーの話題で持ち越しだ。
そいつはホロウの闇の中、影に潜み敵を倒す。
太刀と小太刀を手に、隙あらば闇討ち。
煙幕で敵を錯乱し、爆発物も平気で使う。
彼の前では、並のエーテリアスもホロウレイダーも太刀打ち出来ない。
治安局特務捜査班に所属するベテラン治安官青衣は、彼をこう評価する。
「…あやつはまさに、『闇に乗じて忍び寄る冥府の武者』…」
「言うなれば……『
六分街に位置する喫茶店「COFF CAFE」にて、『境井 誠』は一人コーヒーを飲んでいた。
袴で身を包み、腰には刀が納まった二本の鞘。菅笠を被り黙々とコーヒーを飲む姿は、まるで時代劇の侍役がそのまま一息ついてるようでなんともシュールだ。
「………」
しばらくして誠は懐からスマホを取り出し、インターノットのとあるスレッドを見る。スレの内容はこうだ。
【情報】噂のホロウレイダー冥人 敵か味方か?
最近ルミナスクエアでも話題のホロウレイダー冥人。治安局は要注意人物って判断してるけどぶっちゃけどうなん?
噂じゃあ獣みたいにエーテリアス斬り刻んだり、ホロウに迷い込んだ人助けたりしてるっぽいけど真相が分かんないんだよなぁ…
誰か詳しい情報持ってる人いる?
スレ民の中には冥人を救世主と拝める者もいれば、実は讃頌会の味方なんじゃないかと根も葉もない噂を立てる者もいる。その様子はまるで職場の会議のよう。
誠は軽く溜息をつくと、スマホの画面を閉じる。
そして、六分街に来る前に起きた出来事を思い出した…
-クリティホロウ-
ヤヌス区の辺境に位置する原生ホロウであるそこに、訳あって行くこととなった誠は太刀を手に周囲を見渡す。
平和そのものである六分街やルミナスクエアに比べ、ホロウはまるで別世界だ。
巨大なブラックホールを彷彿とさせるドーム型の異空間は、未知のエネルギー"エーテル"が充満しており、ホロウに居続けた者は最期、ただただ人を襲うだけの怪物『エーテリアス』と異化してしまう。
普通、ホロウに入る者はホロウ調査協会の調査員になる必要があるのだが、ホロウレイダーは調査協会の許可無しでホロウに何度も出入りし、違法な取引などを行うため、中には犯罪者同然の者もいる。
「…おや?」
誠がホロウの中を歩み続けると、突如金属の音が鳴り響き、エーテリアスの悲鳴が上がる。
見るとそこには、武装した一人の女性がエーテリアスの群れと戦っていた。メイド服もそうだが、何よりもまずそのスカートの後ろから伸びる鮫のような尾ビレに目がいく。大きな鋏のような武器を手に、氷のような斬撃を飛ばすと、エーテリアスを一瞬で片付ける。
「…ん」
エーテリアスがいなくなると、女性はようやく誠に気づく。背丈や顔立ちからして恐らく女子高生ぐらいだろう。
「何?」
「別に…随分物騒なメイドもいたもんだなって」
「あっそ」
女性は誠の発言にそっけない返しをする。
「うちのボスが言ってた協力者……冥人ってあんたの事でしょ?」
「…僕も好きで冥人名乗ってる訳じゃないんだけどねぇ…まぁそうなる」
誠は菅笠を脱いで女性に軽く会釈する。
「…境井誠。ライカンさんの紹介で来た」
「別にそんな堅っ苦しい感じじゃなくていいから。今日はあんたとあたしだけだし」
「え?あーうん…」
女性、エレン・ジョーはポケットから棒付きキャンディーを取り出すと口に入れる。
「最近じゃうちの学校でもちょくちょく話題に出るぐらいだし、名乗んなくても名前ぐらい知ってる」
「…そんだけ有名なんだ、今の僕」
「は?あんた知らなかったの?」
「スマホ自体は持ってるけど、あんましインターノットは見ないっつうか…今回の件だって、ライカンさんがレイン通してまでお願いして来たことだし。なんか知ってる?」
「うちの主人があんたの事詳しく知りたいってぐらい。ま、詳しいことは本人に聞いて。あたしはただのバイトだから」
「んー…」
誠は顎に手を当てて考える素振りをすると、菅笠を被り直す。
「いや、別にいい。僕もそこまで面倒なのに巻き込まれたくないし」
「ふーん。じゃ、とっとと終わらせたいし行くよ。ボサっとしてっと置いてくから」
「はいはい…」
"ヴィクトリア家政"
新エリー都でサービス業を営んでいる家事代行派遣会社。掃除に洗濯、炊事といった雑用をすることもあれば、従者としての身の回りの世話を行う。加えてホロウ含む私有地内での個人的なトラブルをクライアントに代わって対応することもあり、どんな依頼も承るプロ集団。主にターゲットは政治家や金持ちといった富裕層で、あまり知名度はない。
ヴィクトリア家政の主人は、新エリー都の市長。メイフラワー家の一族である彼は、現在治安局からも調査対象となっているホロウレイダー『冥人』に興味を示していた。
冥人はホロウを何度も出入りし、中にいるエーテリアスやレイダーを見つけ次第斬り伏せている。しかし不思議な事に、彼にはバックにいるプロキシもいなければ、キャロットデータを所持している様子もない。さらにホロウに迷い込んだ一般人は誰一人残さず救出し、まるで何もかも見えているかのように脱出ルートを辿っている。
そこで市長はヴィクトリア家政の執行責任者フォン・ライカンに冥人を調べるよう命じ、ライカンは天才ハッカーのレインが冥人にちょくちょく仕事を流している事を知り、彼女を通じて誠に依頼を流して接触。
その依頼とは、『山獅子組構成員の排除』。クリティホロウを拠点としている山獅子組の一部隊を倒すことだ。誠は少し疑問に思う所もあったが、「探ったら探ったでめんどくさい事になりそうだな」と思い、二つ返事で依頼を受容した。そして現在に至る。
〜〜〜
誠はエレンの後ろにつき、二人はホロウ内をただただ歩む。時折誠が「何かしら会話欲しいんですけど…」と思い、エレンに何気ない会話を振るが、返ってくるのは「ふ〜ん」「へぇ」とそっけない返事ばかり。
(この人すっごいドライじゃん…)
誠がエレンの背中を見ながらそんな事を思っていると、突然エレンの足が止まる。
「…?どうかs」
「隠れて」
「ぐぇっ…!」
エレンは誠の胸元を引っ張ると近くの物陰に隠れる。
「あの…隠れるならもうちょっと優しく…」
「いいから黙ってアレ見て」
「理不尽の極み過ぎない?どれどれ…」
誠は文句を垂らしながらエレンの指差した方向を見る。見るとそこには、武装した数人のホロウレイダーがたむろしている。各々がヘルメットのようなものを被っており、手にはボウガンや火炎瓶が握られている。リーダー格と思われし巨漢の男は両手に機械じみたグローブをはめている。
「やっと本丸登場。ちゃっちゃと終わらせよ」
「あいよ…ん?」
誠は太刀を手に立ちあがろうとするが、ふと視界に入ったものに気づき、エレンを止める。
「待った…」
「…は?」
「アレだよ」
今度はエレンが誠の指差した方向を見る。縄で縛られている二人の男女。口元には猿轡を巻かれ、喋れないようになっている。いわゆる"捕虜"だ。誠は無関係の人間が捕まっているという状況を把握すると、先ほど眠そうにしていた青年の表情は消え、代わりに真剣な眼差しが浮き出てくる。
「正面から行けば真っ先にあいつらは人質を殺すだろうな」
「めんどくさ…そんなんすぐに片付ければ」
「悪ぃね、人質いると分かった以上、やり方変わってくんだわ」
「はぁ…?」
「僕はあいつらの後ろに回り込むから、合図が来たらやっちゃって」
「…まぁ、すぐに終わるなら何だっていいよ…」
姿勢を低くし、誠は回り込む。時折聞き耳を立て、最善のルートを決める。その様子はさながら野盗。散乱した木箱を足場に、誠は転倒した車両の上に登る。
(棒持ちが四人、内二人が人質の監視か…さらにボウガン持ちが二人、火炎瓶が一人、デカいのがリーダーだな…弓で一気にやりたいが、ヘルメットで防がれるな…)
場の状況を一瞬で理解すると、太刀を抜き取る。二つの三角形が重なる家紋が記された鞘から抜き取られたそれは、例えるなら月光を映す静かな湖。
「さて、やるか」
そう告げると、誠は車両から飛び降り、左手に握った煙玉を地面に叩きつける。場は一瞬で混乱。レイダー達は突然の事に何が何だか分からない様子。その隙を"冥人"は見逃さない。
人質のすぐそばにいたレイダーの足をよろけさせ、太刀を深々と突き刺す。その間に小太刀も抜き取り、近くのレイダーの胴に穴を開ける。太刀を抜き取り、さらに別の敵の背中に回り込み斬り捨てた。
「そろそろ行っていい?」
煙玉を合図にエレンも動き出す。大鋏を手に素早い動きで敵を翻弄。部隊はリーダー格を残してあっという間に壊滅。リーダーは腰を抜かして後退りする。
「お前…!噂の冥人か!?」
「ご明察。で、こっちはただのおしゃめ」
「…ねぇ、なんであたしのあだ名知ってるわけ?」
「まじ?適当に言ったつもりなんだけど…」
「お前ら…!こんな事してただで済むと思うなよ!俺たちは『山獅子組』だ!仮に俺が死んでも、組は絶対に潰れ」
ズバッ!
「うっわ、容赦なっ…」
男は言い切る前に、誠にとどめを刺される。誠は刀身についた血を払い、鞘に納める。
「悪人に情けなんかいらないし、僕もめんどくさい事は嫌いなんだよね」
「ふーん…なんかあたしと似てるかも」
「何か言った?」
「…別に」
エレンは新しい飴を取り出してそっぽを向く。少し気になるが、気を取り直して誠は人質を縛ってある縄を小太刀で斬ると、猿轡も同時に解く。
「よし、それじゃあ行こっか」
「ん」
〜〜〜
二人は市民を連れてキャロットデータを元にホロウを出る。
「はぁ〜、やっと終わった…」
「外の空気が美味いねぇ…こっからは大丈夫だから、あとは自分でね」
「はい…!ありがとうございます!」
一人は誠に深々とお辞儀をする。しかし他の二人は、誠をまるで鬼を見るかのような怯えた目つきで見つめる。
「…いや、まぁ…うん…ほら、早く」
この事については以前から慣れていた。死ぬ気でエーテリアスやレイダーから人を助けるも、助けた人たちが誠に見せるのは、感謝か恐怖のどちらかなのだ。
誠がそういうと、三人の市民は急いでどこかへ向かう。お辞儀をした市民は去り際、もう一度誠に深々とお辞儀をし、走り去った。
「…じゃ、あたしもそろそろ行くから。さっさと帰って寝たいし」
「おう。ライカンさんによろしく」
「はーい」
誠は菅笠を下げ、エレンに背を向けるとそのまま去ろうとするが…
「ねぇ」
「ん?」
突然エレンに呼び止められた誠は、眉を上げて振り返る。
「どうかした?」
「…あんた、スマホ持ってるって言ってたよね?」
「うん」
「一旦貸して」
「え、なんで?」
「いいから早く」
さっぱり意味が分からないが、とりあえず言われた通りにしよう。そう判断した誠は袴のポケットからスマホを取り出す。紅葉模様のスマホケースに入ったそれを、顔認証でロック解除する。
エレンに渡すと、彼女はまるで手慣れた様子で何かを打ち込み、すぐに誠に返す。
「はい。もしかしたらその内会うかもね。それじゃ」
「え?あぁ、うん。さよなら…」
誠に背を向け、エレンはどこかに行ってしまう。結局何が何だか分からないまま彼女の背中を見送ると、すぐにスマホに目を向ける。
(なんか変なことされてないよな…?)
念入りに全てのアプリや設定を事細かに確認し、最後に電話アプリを開く。
「…え?」
誠は一瞬目を疑った。自分の連絡先。一人分しか登録されてなかったそのスペースに一つ項目が追加されており、こう書かれている。
『エレン』
「マジか…レイン以外に項目増えるとは思わんかった…」
"その内会うかも"。彼女の別れ際の一言を思い出し、誠は小さく笑う。
「さぁて……疲れたしコーヒーでも飲んでこよっかなぁ…」
本編時空だと3章「危うし、高楼」と特別劇場「ネズミ色のブルース」の間です