遅くなったのは最近とても忙しかったからです。次も長くなる予定だし、今年度いっぱいは忙しいから次も遅くなるハズ。
兵団の制服も絵柄も世界観も初期が1番好きだ……と言っても一巻は読みづらい。そこから外の世界のことがわからない間がいい。
「ひとりになった」時は「一人」、人数を数えた時は「1人」と表記することにした。
次回どうしようか、どうやって3年間過ごそうか。
結末どうしようか。
2025年2月16日 15:22
結末、今はもう考えた。メモに勢いで書いたし。
遠くから鐘の音が聞こえる。何人かの話し声も聞こえる。目を開けて一瞬、自分の家の白く高い天井ではなく薄汚れた木製の板が目の前にあることに驚く。体を起こすと数人を除いてほぼ全員が毛布に包まってこの楽園から出たくないとうめいている。
「あれ、イサヤマ起きてたの」
彼は前の晩とは鷹野の体分ずれた場所で前の晩と同じ体勢でいた。昨日あの後鷹野が寝転がった後も彼は散々愚痴と文句と泣き言を吐き続けていた。名前は結局イサヤマとしか教えてくれなかった。名前が原作者と同じであることでとても違和感を感じる。その時から位置が変わっていない。
「寝てないの?ずっとまるまってたの!?」
「タカノが全部剥ぎ取ってった。だから寒くて寝れなかった。」
「うわ…ごめん。代わりにはなってないけど清掃時間寝てていいよ」
起きたら清掃だと昨日教官が言っていた。案の定おふざけ陽キャ組はほうきでチャンバラしたり雑巾をぶつけて汚ねぇと騒いだりしていて、それをアルミンとマルコが咎めている。教官が来なくてよかった。ベルトルトとライナーは身長を生かして高いところをふくなど案外まともに掃除をしている。
それにしてもこの寮、掃除道具がたくさんある。人数分かと思ったが箒は新品同様の使いやすいものが、雑巾は何百枚もぴっちりと積み上げられている。はたきもあるし、その他見たことがなく使い方のわからない掃除道具と思われる道具も丁寧に並べられていた。先人の誰かが用意したものだろう。
朝食の時間だ。外はずっしりとした寒さで、早朝なのもあり半分くらいの人がぼそぼそと歩いている。イサヤマは目をこすりながら着いてきて何も言わず鷹野の隣に座った。遠くでサシャがパンをふたつ取っただの取ってないだのと騒いでいた。朝食の時間は交流時間でもあるのか時間に余裕があり、大半が食べ終わっていてもまだ鐘が鳴らなかった。
食堂の外に出ようとすると、やけに渋滞している。進むことを諦めて呑気に会話をしている人をかき分けて進むと渋滞の元凶が立ち塞がっていた。
食堂の出入り口、昨日エレン達が走るサシャを見ていた場所に一人の男子が手を広げ、柵を掴んで人の流れをせき止めているのだ。腕の下を潜ろうとする者も足で止められている。しかし前列にいる人のほとんどが仲間らしく、ニヤニヤしながら「おい〜早く行けよぉ〜」なとど言いながらも確実に壁の役割を果たしている。と言っても完全に塞がっている訳ではないのでなんとかその男子の後ろまで来れた。体格のよいそいつはがっちりと手すりを掴み、不快な気分になる嫌な顔で絶対通さないという意志を示している。
「ねえ、通して欲しいんだけど」
「おぉぉぉぉ。なんだお前」
相手にされて嬉しいのかいちだんと馬鹿にした顔で鷹野を見る。
「俺はタカノだよ、鐘の音は聞こえたろ。早く行かないとあんたのせいでみんな教官にどやされる」
後ろの不良仲間が鷹野を馬鹿にしたように笑う。言葉が通じても意味が通じないやつら。無理矢理突っ込んだところで非力な鷹野は体格のいいあいつには通じないだろう。
「ッあっあいつ!」
別に低いテラスを降りるのに律儀に階段を通る必要はない。他の何人かも鷹野の真似をしてテラスの柵を乗り越えて各々自分の寮へ着替えるために戻っていく。階段を塞いでいた男子も「クッソあいつコケにしゃがって。うっぜぇぇぇ!」と叫びながらも自分のやっていたことの意味のなさを自覚して去っていった。鷹野も早く戻らなければいけないと思い、移動した。
「オイタカノ!遅れてるぞ!」
教官の声が響く。今は体力錬成の時間で、広場を延々と走っている。サシャのような山生まれ山育ちの人は教官にバレぬよう談笑する余裕もあるらしい、涼しい顔をしている。一転、鷹野のような普段あまり運動することのなかった者や体力のないイサヤマ、アルミン達は顔を歪め、必死に足を動かしている。
ユミルもいるが、彼女はただクリスタを助けながら一緒に走っているだけのようだ。ユミル。12巻あたりでやっと名前がわかって、巨人化できることも分かった。イルゼの手帳での「ユミルの民」というのも引っかかる。なんにせよ、ベルトルトとライナーのことを知っていたのだ。事情はわからないが、知っているからかこその行動、誰かを助けるとかができたハズだ。クリスタのことは雪山の訓練で助けていたけれど、彼女の行動があればトロスト区での死者が減っただろうに。
「ねぇユミル」
「何だ。私語は禁止だろ。私までとばっちりをくらうのは嫌なんだが」
「巨人化できる人を知ってるよね、あなたはともかくその人のことを言いふらしたりしないの?」
ユミルの額にしわが寄る。しかし一瞬後すぐに元の呆れたような表情になった。
「………何のことだ、何言ってるのかよくわからんぞタカノ」
「別に意味はないって、このしんどい訓練にちょっと彩りを加えたかっただけだよ。でもさ、もしこの104期の中に巨人がいることを知ったとしたらどうする?」
「確かに面白い冗談だ。ベルトルトからでもヒントを得たのか?」
「もし、そうだったらどうする?あいつが巨人だって騒ぐか?」
「そうだな。もしそんなことがあって、騒いだところで信用のない私たちが信じてもらえると思うか?厳しい訓練で狂ったと思われるのがオチさ。だからもし私が知ってても黙っているだろうな」
言われてみれば確かにユミルの言う通りだ。「アニとライナーとベルトルトが巨人なんだ!鎧と超大型だぞ!」だとか言ったところで多少取り調べ的なものはあるが何の証拠も見つからないだろう。もしハンジが俺の潔白を熱弁したところで「調査兵団の奇行種の戯言」とぐらいしか受け止められない。一段落したらアニにでも殺される。そして「タカノはおかしくなってって自殺したか逃げようとして事故死した」と落ち着くだろう。馬鹿なことを聞いたと冷静になった。
「そういうお前はどうなんだ?騒がないなら密告でもするか?」
「ん…いや、俺も黙っていようかな。変なことをきいたね、ありがとう」
「あぁ……」
意識が自分の上斜め前くらい、少しずれたところにあるようなぼんやりとした表情だった。喋りすぎたせいでかなり疲れた。冷えて乾いた空気が喉と肺を痛めつける。
「総員集合!」
教官の声で我に帰る。集合、教官のところへ行かなければ。先を走るグループも鷹野の周りの者もどちらでもない個人達もある者は千鳥足で、体力化け物達はしっかりとした足取りで教官の元へ向かう。
「早くしろー!今度は腕立て50回、腹筋50回だ。急げ、回数増やすぞ!」
まだ全員が集まらない中教官が言った。体に酸素が足りない。この心臓の鼓動音は自分の音なのか周囲のものなのか区別がつかない。呼吸すればするほど乾燥した空気が肺を締め付ける。
驚いたことにミカサとアニ達あちら側は既に腕立て伏せを始めている。エレンも息を切らせながら震える足で動こうとしている。俺も彼らについていくために、彼らの横に並ぶために彼らのレベルまで達しなければならない。なかなか出ない唾を飲み込んで喉を潤して、口を閉じて鼻だけで呼吸したりできるだけゆっくり深呼吸したりして呼吸だけでも整える。伏せて、腕を地に押し付けて腕を伸ばす。さっきまで使っていたのは足なのでまだ腕は動く。しかしそれも7回くらいから雲行きが怪しくなる。力を入れることに集中していて、呼吸ができないので10回ごとに地面に伏せてしまう。30回を超えると腕が震えてできない。1回ずつでも確実に回数を増やしていく。これが終わったら腹筋もやると言っていた。
この後は立体機動の訓練でもやると思っていたが、違うらしい。室内の講義室へ向かう。腕立てと腹筋だと最初は言っていたのにあちらの世界でなんちゃらビーバーだかバーピーなんやらと呼ばれていた立っている状態からしゃがんで伏せて、また立ち上がるやつまでやらされた。見たところ真面目にやっている人が大半のようで息も切れていないのにやけに休憩の多い者もいた。鷹野の後ろを肺炎にもかかったかと思うくらい細い息をするイサヤマがよろよろとついてくる。
講義室は学力検査を受けたところと同じところか、似た部屋だ。なにせ初日だったのでどこに何があるか覚えていない。大学の講堂のように階段状になっている机の上には薄い本が並んでいる。表紙はないが教科書的な物らしい。好きなところに座っていいと言われ、後方のすぐ出やすい通路側の席に座る。隣には既にしかめ面で老け顔の……ダズが座っている。後から来たイサヤマは仕方なく通路を挟んで隣に座った。教科書をめくってみると読みづらい進撃文字で漫画でも見たことのある絵と共に人類と巨人の歴史が綴られていた。逆さまにすると読みやすい。
席はほぼ埋まっているが主人公グループの姿はない。100席強しかないこの部屋には入りきらなかったのだろう。きっと別の部屋にいる。
「やあ訓練兵の皆!こんにちは!」
踊るように部屋に入ってきたのはハンジだ。ウッキウキだ。
「ここに来るのは久しぶりだなー!私は調査兵団所属のハンジ・ゾエ。今年の入団はえらく多くてね、お助け要員として呼ばれたんだよー」
じゃあ教材を開いてねー、と言って教壇付近に立つ。そこからは立てた板に水を流したようにスラスラと時間が流れた。ハンジは順番に本文を読ませ、それについて早口で説明する。
壁内の歴史は既に皆知っているため省かれ、あまり習わない巨人絡みの詳しい歴史を学んだ。巨人が壁内へ入った時、初めて偶然にも巨人を討伐して弱点が判明した時、立体機動装置の基となる「装置」が発明された時の話などだ。巨人本体が出てくる部分の話だけ黒板に広々と絵や図を書いて熱心に説明している。専門的な言葉も登場し理解が追いつかないが、途中で気づき修正してくれてかなりわかるようになった。隣のダズは肘をついて器用に寝ているし、コニーとサシャは興味をなくしてクスクスと小突き合いながら机に眼の大きな巨人の絵を描いている。
しかし全てが新鮮な鷹野にはとても心を惹きつけ興味深い講義だった。縦1メートル横10センチ。確かそこに人間の脊髄があるんだっけ。
終わりの鐘が鳴ったが、ハンジの舌は止まることを知らず巨人の消化器官の話をし続ける。講義の後は休み時間がありそのまま立体機動の訓練に移るそうで、話を続けても全く問題ないそうだ。そして昼食はない。それを聞いたサシャがいつの間にか増えた巨人の落書きをする手を止め衝撃を受けていた。
結局ハンジは昼の休み時間を丸々使って専門的な講義を続けた。見る限りほぼ全員が寝るか暇を潰すか瞑想に入るかしている。
今日は訓練兵団2日目、訓練初日だ。立体機動の訓練の初日であり、ベルトの付け方を教わる。ハンジと入れ替わりに別の教官が来たが、ハンジは出て行かずに補佐として残ると部屋の後ろに立っていた。
ベルトは立体機動中これに全体重を託すわけだから、コスプレで見るような貧弱なうっすい紐ではなく、特に体重が多くかかるであろう部分は工事現場のハーネスの用に太く頑丈な素材だった。耐Gベルトはつなぎのように上下が繋がっていて、地面に置いてそこに足を通し、肩にかかる部分を持ち上げて引っ掛ける。全員がズボンでベルトで固定しているのでそこにを金具を使ってずれないよう留めていく。ハンジは絡まったり逆だったり悪戦苦闘する鷹野達を訪ね手助けをしている。
どこがどの部分かがわからなくなるのもあり時間がかかるが、兵士は有事の際に素早く行動できるよう普段から身にまとうし、後日素早く着るための訓練も行うと言っていた。
全員が装着し終わると入団式も行った広場へ出る。移動しようとする鷹野をイサヤマが背中を突いて止める。
「その髪。その…引っかかったら、次立体機動の訓練だから…危ないし…講義のとき邪魔そうにしてたから…その、これで留めたらいいとおもう。」
話しながら何度も右下を見つつ右手で右目の下を掻くような仕草をする。癖なのだろうか。差し出されたのは茶色の太めの平紐だ。ヘアバンドをつけるように後頭部の下あたりから額に紐を回して結ぶと伸縮性のある革紐は解ける気配がなくしっかりと締まった。有難い。しかしそれでも落ちてくる髪の毛はある。また休暇の時にでも切りに行こう。
「巨人の弱点は先ほどの講義で分かったはずだ。そしてうなじを狙うにはこの立体機動装置が不可欠。ゆくゆくは装置の組み立て方も教わるだろう。まずは貴様らの適性を見る!初歩の初歩、両側の腰にロープを繋いでぶら下がるだけだ!全身のベルトで体のバランスを取れ!これができない奴は囮にも使えん、開拓地に移ってもらう!」
並んでいるのは、数メートルの高さで木の枠に金具やワイヤーのついた逆バンジーの遊具のようなものだ。並んで交代で試していく。ふらつきのなさには差があれど基本できない者はいないようで、片足ずつ体重をかけてみてこの遊具がいかに愉快かに気づき揺らして遊び始めたところで強制的に降ろされるサシャとコニーがいれば、己の才能に酔ってせいぜい数メートルの高さから下を見下ろし笑うジャンがいて、両手を宙に置いて身体中の筋肉が緊張しているアルミンもいる。イサヤマはアルミンのパターンで、ミカサは言うまでもない。
鷹野の番になった。骨盤辺りの左右にある穴に金具を引っ掛ける。名前を知らない誰かがハンドルを回すとキリキリという音と共にワイヤーが巻き取られ、足が地面から離れる。両手を離してブランコに座る感覚に近く、両足の裏のベルトに等しく体重をかけてバランスをとり、重心を少し後ろにやると安定した。ゆっくり重心をずらして体勢を変えることもできた。浮いている感覚は楽しかった。
「何をやってるエレン・イェーガー!上体を起こせ!」
シャーディス教官の声が左から聞こえた。一際人が集まっているところを見ると、人垣の中に逆さに宙吊りになったエレンとその横に屈んで怒鳴る教官がいた。高いところからだと良く見える。エレンは体を揺らし必死に起きあがろうとするが何度やっても上手くいかない。一度ワイヤー緩め地面に立ち直し、再びワイヤーを巻き取ってもだ。
エレンへの興味をなくした教官は指示を出す。練度に応じてグループになり、それぞれ自分にあった訓練をせよと。
もうバランスをとるのはわけなく木刀を持ち訓練をするグループ、これはミカサやアニ、ベルトルトとライナー辺り。
まだ体が震えるため姿勢を安定させるグループ、これは多数いてその中でもできるレベルによってで分かれている。
開拓地行きを免れるため努力するグループ、これはエレン含め数えるほどしかいない。
最頻値の姿勢安定組はどうしても仲の良い寮ごとに分かれがちで、和気あいあいとした雰囲気だった。初歩の初歩なだけ、多くが訓練を終える時には木刀を持つことができるようなり、そうでなくても姿勢を安定するようになっていた。
しかしエレンは最後まで逆さ吊りになったままだった。このままだと開拓地に逆戻りだとシャーディスに告げられていた。ミカサとアルミンを含めた3人で頼み込んで、夕食時まで練習用に器具を1つ残してもらえるようにしてもらったらしい。
多くが群れをなして戻っていく中、3人だけ残って話している。太陽はまだ東の地平線上にある。鷹野も教官に言って広場に残った。広場を走ることを理由にしたので昨日のサシャのように走りながら彼らを見物する。エレンは器具の下に立ち、アルミンがワイヤーを巻き取るハンドルの横に立ち、ミカサがうまくバランスを取る方法か何かを説明している。ワイヤーを巻き取るキリキリという音がかすかに聞こえてくる。宙に浮かんだエレンは一瞬真っ直ぐに立ったかと思ったがすぐに前に倒れる。近くにいれば額が地面にぶつかり皮膚が擦れる痛々しい音が聞こえただろう。ほとんど意識を失っているエレンを2人が抱えて金具を外す。そのままミカサが抱え上げる。アルミンは遠くから見ていた教官の元へ行き二言三言話してミカサの元へ行き反対側からエレンを支える。
丁度夕食の時間を知らせてる鐘がなったので鷹野も器具を片付け始めた教官に礼を言って3人の後を追う。あの状態では医務室に連れて行かなければならないだろう。確か講義を受けた建物にあったはずだ。
昼食がなかったからか、今までにない空腹感が押し寄せてきた。鷹野も人波に乗って食堂へ向かう。半日とはいえベルトが太もものうまいところから少しずれて肉を圧迫していたのでひりついている。朝食と対して内容は変わらないが温かい食事をとって寒くない奥の席に座って食べる。いつのまにかイサヤマも隣にいる。部屋のざわめきとスプーンとスープの器がぶつかり合う音が心地よい。
不意にひんやりとした空気が膝下に流れ込む。食堂の扉が開いたらしい。他の皆も冷気に気づき目をやる。ミカサとアルミンと共にからくり仕掛けの人形のように歩きながら入ってきたのはエレンだ。頭には血が滲んだ包帯が巻かれている。外の冷気並みに冷やかな視線に晒されて壁際の誰もいない机の椅子に座る。アルミンが小走りで2往復して3人分の食事を運ぶ。皆は興味をなくし再び雑談に戻った。
「オイ…あいつ確か昨日の晩に…巨人を皆殺しにしてやるなんて言ってた奴だよな?」
「それがあの初歩の姿勢制御訓練で既に死にかけたんだと」
「本当かよ…あんなこともできねぇ奴がいるのか…どうやって巨人を皆殺しにするつもりのなんだ?」
そう話しているのが聞こえてくる。ミカサが体を揺さぶりながら名前を呼んでいるのに魂の抜けたエレンは宙の埃か何かを見ている。肩を少しばかり強めに握られてやっと我に帰る。やっと食べ始めたが昨日までの威勢はすっかりなくなっている。何か話しているがここまでは聞こえてこない。原作の通りならミカサにまで開拓地に帰れと言われているハズだ。
早めに食事を終えたので椅子の上に足を乗せて膝を抱えて彼らを見ていた。今後あの3人を中心に物語は動いていく。中学3年生にもなるとその時は大人になったと思っていた小6や中1の生徒がとても小さく幼く見えた。鷹野より背が高くてもだ。あんなに小さな体の中にさらに小さな骨があってそのさらに中の脳で考えて悩んで、心臓が動いて体に血液を送って、生きているのだ。そんな必死な生き物が背負っていけるのだろうか。とても小さくて幼くてかわいいのに。大きなものを。兵士だなんて。命をかけて、心臓を捧げて。
鐘が鳴った。サシャがユミルに肩を組まれへらへら笑っている。それをクリスタが諌めている。そして例の奴らが懲りもせずまた階段を塞いでいる。再び人を掻き分け進むと、いつにまにこのくだらない作戦を遂行するための仲間を見つけたのか、今度は柵の方にもいる。
「なぜこんなことをしているのか全くわからないけれど、エレンも、みんなも困っている。どいてほしい」
厨房の奥から抜けられないだろうかと考えていたとき、落ち着いた声が聞こえた。エレンがと言っているあたりミカサだ。美しく伸びた黒髪は既に短く切られている。あの漫画のキャラクターと同じ空間を共有していて今目の前にいるという実感が今更湧いてきた。
「なんだてめえ、ここ通りたいのー?」
奴は案の定歪んだ顔で誰の利益にもならない低俗な雑音を排出している。絶対モテない。空気を震わす価値もない。今すぐ四肢爆散してこの世に生きていた痕跡まで原子ひとつ残さず消えていただきたい。
「あなたがしていることは今ここにいる人の誰にとっても利のない行動だ。今すぐそこをどいて」
後ろから見ていてもわかる。冷静で、それでいて威圧感がある洗練された声だ。食堂内でガヤガヤと音を立てていた他の人もさざなみが広がるように口を閉ざしていった。階段野郎は少し気圧されるようだがそれでも態度は変えなかった。
「どうしたんだよお?黙ってっちゃ何もわかんねえよ?んー?」
仲間ももう元の憎たらしい顔を取り戻している。どうするのだろう。怒鳴っても面白がるだけだろうし、戻るのは負けを認めるようなものだ。もう少しすると騒ぎを聞きつけた教官か誰かが来るはずだ。
しかしミカサは待たなかった。いきなり階段野郎の腕を手刀で叩き、そのままその腕を捻り上げた。かわいそうなことに階段野郎はとても情けない声をあげて腕を押さえて崩れ落ちた。その横をその存在を知らないかのように前を向いてミカサが抜けていく。同じように他の訓練兵も続く。未だ呆然としているエレンをアルミンが背中を押して誘導し歩いていく。唾液を滴らせて呻く階段野郎は、鷹野以外の誰にも見えていないかのようだった。いや、見えている者もいた。クリスタだ。心配そうに駆け寄り水を差し出す。
「さっさとあっちいけよ!」
階段野郎はせっかく自分を認識してくれた少なくとも心優しいふりをした人まで突っぱねる。払った手がコップにあたり、水がこぼれる。影のようにクリスタの背後に立っていたユミルが前に出てコップを拾う。
「言ったろ、こんな奴に構っても無駄だ。いくぞ」
仲間もいつの間にかいなくなり、階段野郎だけが残された。鷹野もまた彼に冷たい視線をおくり、そのまま寮に戻った。
もうすぐ消灯時間だ。ありがたいことにシャワーは毎日浴びるものではないらしく、今日は体を拭いただけだ。持ってきたカードゲームや大量の綺麗な雑巾で遊んだり既に熟睡していびきをかいたりと皆好きなように自由な時間を過ごしている。その中をエレンとアルミンは行ったり来たり上がったり降りたりして訪ね歩いていて、今はベルトルトとライナーのところにいる。話が終わったのか梯子を降り、こちらにくる。
「なあ…タカノ…!お前さっき遠くから見てたよな!見た上でのアドバイスとかっ…ないか?」
「いや、エレンにできることはないよ」
「………そ…うか」
「でも、心配することないよ。エレンが今日一日何度やっても上手くいかなかったのはベルトの部品が破損しているからだ。明日になったらわかる。開拓地に帰らなくていいから」
ただ適当な言葉を並べて励ましているだけのように見えるだろう。腑に落ちないようだが、アルミンに「明日も早いから、早く寝よう。明日になったらできるかもしれない」と言われ梯子を降りていった。鷹野も不思議な表情をしているベルトルトとライナーを置いて梯子を降りて、自分の寝場所に戻る。
隣のイサヤマは既に寝息をたてている。鷹野も疲労が溜まっている。今日はよく寝れそうだ。他の者も布団に包まりだした。
部屋の灯りが消された。エレンにした発言を悔いていると、まだ話し声とくすくすという笑い声が聞こえる。しかし、やがてそれも聞こえなくなった。
それでもまだ鷹野は寝られなかった。まだ慣れない世界と寝床だからだろうか。月明かりが眩しいのもあるのかもしれない。草が揺れる音が耳に障る。一度外で冷たい風でも浴びてジャンプでもして動けば寝られるかもしれない。物音を立てないように起き上がり、衣擦れの音がしないようズボンをまくる。古びた床板は歩くたびに軋んでいたのでそれにも注意する。床に足を置き、時間をかけて体重を移動させる。後ろ足を床から剥がすときにも注意する。
そうして長い時間をかけて扉の前まで来た。冷気で起こさないように少しだけ開けて素早く外に出る。丁度強い風が吹き、思わず体が震える。人工的な灯りは全て消えているのに白い光が地面を照らしていて歩くのには困らない。
この時間なら教官も寝ているだろう。少し歩いていると食堂の近くに人影が見えた。慌てて身を隠したが、あちらも物陰から周りをうかがい、急いでまた壁に張り付いている。よく見ればサシャだ。開けた場所を一気に走り抜けてサシャの元へ行く。振り返ったサシャは肉食獣の顔をしていた。逃げていこうとしたところを追いかけて捕まえる。暴れるサシャは鷹野の顔を見てようやく落ち着く。
「なんだ…貴方でしたか…」
安堵している。
「ここで何をしているの?」
「いやあ先日はどうもありがとうございました…へへ。今ですか?今は……ちょっとお腹が減ったので…何かないかと…」
「盗むの?手伝うよ!」
サシャは鷹野の意外な回答にたじろぐが、あたりを注意深く見渡した後、鷹野の腕を掴んで言う。
「では…そうですね、あなたは…見張りをしていてください!」
「わかった。」
教官やその他訓練兵団の関係者は全員離れた兵舎にいるということをサシャは教えてくれた。もうその場所は抜けたから問題ないと。鷹野は無言でサシャの後ろをついて行く。本当にいつ知ったのか食堂の裏口の鍵穴をどこかで拾った細い金属棒でいじり、ものの数秒で開けてしまう。
「じゃあここで見てて、誰か来たらいい感じに足止めしてください」
そう言って食堂内、月明かりの届かない暗闇に消えた。静寂が訪れ、途端に心細くなる。外に出た時は平気だったのに、一度人に会ってその後一人になったからだろうか。常に穏やかな風が吹いていて、たまに強い風が吹く。奥が見えない森の葉を見ていると普段は心地よい一枚一枚の葉がかすかに揺れる音が何万枚も重なっておこる拍手のような音も恐ろしい。闇空を見上げるとまた大量の星が散らばっている。その中に浮かぶ満月は長く見つめていると残像が残り、視線の先を逃げるように動く。
しばらくすると暗闇にも慣れて森の中が奥の方まで見えるようになった。しかし同時に室内で温まった身体がすっかり冷えてしまった。そろそろ戻ってこないものかと扉を開けて中を覗くと、丁度サシャが目の前にいた。思わず声を出してしまう。サシャは指を一本立てて口を「い」の形にする。両手には湯気がたちのぼるこぼれ落ちそうな程の芋が乗っていた。
「ありがとうございました!おかげで安心して盗れました。……小さいものだったのでふかすのにも時間がかかりませんでした。これはお礼です」
サシャが自ら食べ物を渡すだなんて珍しいと思いながら特に小さい芋を2つ受け取る。素手で触るにはまだ少し熱く、真似をして袖の上に乗せる。
「こちらこそありがとう。面白い体験ができたよ……帰り見つからないように気をつけてね」
「またよろしくお願いします!」
芋を頬張りながらそう言ってサシャは元来た扉から女子寮へ戻っていく。途中で芋を1つ落とし、それを拾い上げようとしてまた落とし、結局まだ落としていない芋をポケットに詰め込んでから拾って足早に去って行った。鷹野もまた、長くいると見つかるかもしれない。温度が下がってきた芋で手を温めたら、これからやる隠密行動中に落とさないようポケットにしまう。再び衣擦れの音がしないようズボンをまくり上げ、地面の砂が転がらないよう踏みしめて歩く。扉も素早く入って急いで閉めて閉じ切る時だけ物音がしないよう落ち着いてやる。寝ている仲間のうめき声と寝返りをする時の音が聞こえる度体をこわばらせる。なんとか寝床につき、腕をつくと急に疲れが襲ってきて倒れ込む。すぐ意識が遠くなった。